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「巨竜迎撃戦」グランドワーム撃退A(北西) リプレイ

 
 

作戦1:グランドワーム撃退A(北西) リプレイ



黒の夢
黒の夢
ka0187
エリシャ・カンナヴィ
エリシャ・カンナヴィ
ka0140
エヴァンス・カルヴィ
エヴァンス・カルヴィ
ka0639
白金 綾瀬
白金 綾瀬
ka0774
フォークス
フォークス
ka0570
マッシュ・アクラシス
マッシュ・アクラシス
ka0771
メル・アイザックス
メル・アイザックス
ka0520
シガレット=ウナギパイ
シガレット=ウナギパイ
ka2884
レイオス・アクアウォーカー
レイオス・アクアウォーカー
ka1990
リンカ・エルネージュ
リンカ・エルネージュ
ka1840
ゾファル・G・初火
ゾファル・G・初火
ka4407
ステラ・レッドキャップ
ステラ・レッドキャップ
ka5434
葛音 水月
葛音 水月
ka1895
グリムバルド・グリーンウッド
グリムバルド・グリーンウッド
ka4409
ブラウ
ブラウ
ka4809
岩井崎 旭
岩井崎 旭
ka0234
シルヴィア=ライゼンシュタイン
シルヴィア=ライゼンシュタイン
ka0338
榊 兵庫
榊 兵庫
ka0010
リューリ・ハルマ
リューリ・ハルマ
ka0502
カナタ・ハテナ
カナタ・ハテナ
ka2130
レホス・エテルノ・リベルター
レホス・エテルノ・リベルター
ka0498
クリスティン・ガフ
クリスティン・ガフ
ka1090
ジャック・エルギン
ジャック・エルギン
ka1522
柊 真司
柊 真司
ka0705
白神 霧華
白神 霧華
ka0915
●巨竜蚯蚓と丸竜種
 白い平面に蚯蚓が這っている。
 その周囲には、覚醒者の視力でも細部が分からぬ小さな生き物が散らばっている。
 ある馬が戸惑う。
 主と共に戦うため転移門を潜ったのに歪虚の姿がない。
『わーっはっはっは。よくぞここまで来たのです!』
 空を飛ぶ小蝿未満から、悪意と思慮が足りない声が響く。
 馬が逞しい体を震わせる。
 小蝿が竜であり、蚯蚓が全長60メートル超の巨大歪虚であることにようやく気付いたのだ。
『まとめて美味しくいただいてやるでファイヤー!』
 丸っこい竜が口を大きく開け青白く光る火球をハンターめがけて打ち出した。
 ハンター達は予想進路上から前に出て回避する。
 光球が銃弾並の速度で飛翔し結晶化した地面に衝突。薄く積もった雪を消し飛ばし十数メートルに達するひび割れを生じさせた。
『美味しくやけたかなー?』
 よだれを垂らしながら目をこらしたとき、歪虚竜種メチタの頭上で無数の蝶が舞った。
 1つ1つが攻性のマテリアルからなるそれが丸々としたメチタの上半分に触れ、メチタのブレスをわずかに上回る威力で爆発する。
『はぶっ』
 頭が下がりそのまま落下し地面にぶつかる。
 器用に受け身をとって起き上がったときには、黒の夢(ka0187)達ハンターが刀剣の間合いにまで迫っていた。
「汝が噂のメチタちゃん? 汝もとっても美味しそうであるー」
 缶ビールの封を切って投擲。
 匂いに誘われ縦横それぞれ6メートルの竜が口でキャッチする。
『うまー……、はっ!?』
 濃いマテリアルが黒の夢の首で脈動する。
 蝶が舞い、メチタの前面で爆発がうまれた。
『危なっ、あなたが人間の主力ですね』
 メチタは改心の動きで後転し直撃だけは避け、焦げた鱗を翼で撫でながら警戒しはじめた。
 尻尾が奇妙な形を描いている。地上に展開するリザードマンや少数飛んでいるワイバーンに対する指示か何かだろう。
 黒の夢が微速前進し距離を詰める。
 メチタは器用にホバリングしつつ距離を保とうとした。
「"自称"最強の強欲さん、幾ら最強であっても、当たらない攻撃なんてゴミカスのは知ってる?」
 エリシャ・カンナヴィ(ka0140)が演技抜きで呆れた声をかける。
 乗っているのはただの乗用馬。しかし彼女が乗れば死地にも飛び込む運び手になる。
「あなたのそのショボい攻撃、最速の私に当てれるかしら?」
 冷たく言い放つ。
 その瞬間のメチタの動きをエリシャは見逃さない。体格の割に大きな竜眼に、食欲と損得を計算する色が浮かび即軽薄な笑顔に隠される。
『ふふーん、安い挑発です、ねっ』
 竜の口が微かに開く。
 細く鋭い息に炎がのせられ、輝く光の槍となり小柄なエリシャを襲う。
 乗用馬は、主の指示通りに辛うじて躱した風に回避した。
『嘘ん』
 結晶状地面に開いた穴を見てメチタが瞬き。
『ななななんで種族の主力級がいっぱいわたしのところに来てっ』
 翼を逆に振って自由落下以上の速度で降下。
 が、その程度の移動では逃れられない距離にまでエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が近づいていた。
 意識が加速する。
 エヴァンスがおっきな剣を軽々と突き上げてくる。
 彼のずっと後ろに見える弱そうなクルセイダーが猛烈な勢いで応援……してるのはどうでもいい。
『あ』
 エリシャの鞭がくるりとメチタの足に巻き付き一瞬だけ動きを妨害。
 青い刃がメチタの喉にぶち当たって軽く凹ませた。
『へぐっ』
「サイズより強いタイプか」
 エヴァンスは危なげ無く着地し後衛の仲間を守る位置へ移動。
 自身と仲間を守りに入れる構えで竜の前に立ちはだかる。
『猛者って水準じゃねーです。え、なにこれ? あなたたちほんとに人間……とエルフ?』
 赤毛の人間を見て、白く小さなエルフを見て、黒く小さくないエルフを見て目を丸くする。
 いつの間にか新種に取って代わられたのだろうかと、本気で考えていた。
「だったらどうする?」
「どうするの"自称"最強さん?」
 空気が張り詰めたのは極短時間。
 メチタは迷い無く後ろに向かって飛んだ。
『わたしの最強は知恵と根性とコネの総合ですよへへーん』
 エヴァンスの守りを突破出来るとは思えない。なら自分以外の力も使って戦うだけだ。
 太い尻尾が器用に動く。
 メチタと入れ替わりに、地上と空から一斉に歪虚が襲いかかった。
「こちら対メチタ班。多数の通常サイズ歪虚が南へ移動中」
 白金 綾瀬(ka0774)が上に向かって大型魔導銃をぶっ放す。
 メチタ虎の子のワイバーンに下から4つの弾が当たる。ぶち抜かれ、悲鳴も上げられず絶命し消滅する。
『こちらイコ……』
 後方の聖堂教会派遣部隊が戦っている。
 メチタやランドワーム相手には心細い戦力だが、少し後ろに抜けた歪虚相手なら足止めくらいはできそうだ。
「おーおー、歪虚らしく好き勝手に動いてるじゃ無いか」
 フォークス(ka0570)がバイクを止め銃を手にする。
 綾瀬のものと比べると小型だが射程も精度も問題ない。
 器用に回避の動きをしながら飛ぶメチタに狙いをつけ、発砲。
『あぶなっ』
 銃弾が尻尾を掠めて空へ消える。
 60メートル近い距離を稼いでメチタが逃亡成功を確信したそのとき、フォークスは引き金を引いた時点で当たった感触を得ていた。
 丸い竜の動きが止まる。
 直線の動きが自由落下の動きに急速に変更され、口から涎をたらしつつ地面に向かって突っ込んだ。
「腹減ってるみたいだネ。そんなに欲しけりゃ直接その胃袋にご馳走してやるヨ」
 バイク斜め前方に微速で動かす。
 交戦中のハンターとリザードマンの隙間を見つけ、クイックリロードによる再装填の後猛烈な牽制射を叩き込む。
『根性ー!』
 メチタの言葉は軽いが声には必死さがある。
 ここで動きを止められたらエヴァンス達に囲まれて短時間で両断されてしまう。
『はうっ』
 が、別方向から飛来した弾が眼球を掠め、根性による抵抗にも失敗して足と翼が止まった。
「頭だけは回りそうだからね。イニシャライザーも他のものも壊させないわ」
 綾瀬は容赦なく弾を浴びせる。
 牽制優先のためダメージを与えることもできずスキルの残弾も急速に0へ近づく。
『う、動けなっ』
 綾瀬に焦りはない。
 牽制射撃を使い切る。メチタが吠えて回復してフォークスの妨害射撃を浴びまた停止。
「頼むわよ」
 弾丸に冷たいマテリアルを込めメチタの頭に当てる。
 動きが鈍った食欲竜種に向かい、リザードマンの防壁を突破したハンター達が襲いかかった。

●巨体
 足止めした敵を置き去りにし、小物歪虚を突き放して目的地に到達したハンター15名。
 彼らを出迎えたのはただひたすら巨大な歪虚1体だった。
「おやおや…また出鱈目なモノを持ち出してきましたねえ……」
 マッシュ・アクラシス(ka0771)が淡々とつぶやく。
 歪虚は大きければ強い。
 問題はその強さの方向性だ。
「速くはなく……」
 速度は軽装の徒歩覚醒者かその少し上だ。全長60メートルで幅も10メートル近くあるので一見遅く見えるが徒歩で戦うのは極めて困難。
「火を吐き……」
 口しかない顔の奥から鈍く強い光と瘴気が漏れている。
 後1分も経たず炎の準備が整うはずだ。
「鱗が厚い」
 這うと揺れる鱗が非常に分厚い。
 試しに矢を撃ち込んでみる。
 守りを半分ほど打ち砕いた感触はあるが、これは貫徹の矢という技によるもの。なにより、手応えから判断すると防御に穴がない。
「ふむ」
 訓練を積んだ覚醒者兵士でも絶望しかねない状況だった。
「皆さん聞いてください!」
 レーシングタイプの魔導バイクから、メル・アイザックス(ka0520)の小さく細い手があがった。
「予想以上に頑丈そうです。最初は出来るだけ一点に集中して攻撃するのを提案します」
 戦いに縁がないようにも見える、少なくとも外見は完璧に少女の提案に、反対する者はいなかった。
「悪くネェ」
 シガレット=ウナギパイ(ka2884)は魔導バイクを加速させながらにやりと笑い、大きく活きを吸ってから低く腹に響く声で咆えた。
 ランドワームの速度は変わらない。
 見た目以上の精密に操られていた四肢の動きが乱れ、明らかに当てやすくなる。
「せーので協力しよう? 私達らしく、さ!」
 言い出しっぺを先頭に突撃する。
 雪と砕けた結晶が襲い来るが気にもしない。
 目をしっかり見開き、表面の皺が視認できる距離から刀を突き出した。
 杭状に加工されたマテリアルが刀身から出現。
 数十センチ先の巨大かつ分厚い鱗へめり込み歪虚中心に向け爆散。鱗と肉を吹き飛ばす。
 反撃は苛烈だった。激しく震えた巨体がメルを掠めバイクごと吹き飛ばされる。
 悲鳴はあがらない。
 同胞の士気が最高潮に達し突撃が継続される。
 メルは2度地面にぶつかり、辛うじて受け身ととって着地した。
 マッシュが白兵を仕掛け5メートル以上の亀裂をつくる。
 引き替えに押し潰されそうになるが戦果は大きい。巨大歪虚相手には範囲攻撃が有効そうだった。
「龍園の連中とは剣を交えることで語り合うつもりだったんだ。テメぇで予行演習といかせてもらうぜ!」
 レイオス・アクアウォーカー(ka1990)がメルの二の舞を恐れずワームへ急接近。点ではなく面を切るつもりでダークMASAMUNEを振った。
 鱗も肉も熱で溶けかけのバターの如く切断される。
 接触前に撃ち込んだ貫徹の矢の効果だ。
「ッ……風穴を開けるより内臓かき回す方が良かったか!」
 薙ぎ払いの効果が予想以上に大きい。命中率低下を計算に入れても威力は3倍から4倍だ。
 MASAMUNEがうなる。
 一閃する度に歪虚の生命力が盛大に削れる。だが元の生命力が巨大なため決着はまだまだ遠い。
「口だけ頭が動いているぞ!」
 シガレットが警告兼レクイエムを発しグランドワームの動きを鈍らせ続ける。
 悪意を以て蚯蚓が戯画されたような頭がこちらを向いて、奥から炎が押し出されようとしていた。
「邪魔!」
 リンカ・エルネージュ(ka1840)が魔法剣を突き出し切っ先を起点にブリザードを発動。
 炎ブレスと冷気の嵐の正面衝突が起きる直前に、ランドワームが慌てて口を閉じて顔の表面が薄く凍り付く。
「あっ」
 ひょっとして口の中が急所だったのではと思ったが、ランドワームの頭は向きを変えてしまいこちらに口を向けない。
「後どれくらいだ」
 シガレットは直接攻撃に参加できていない。
 深刻なダメージを負ったハンターをヒールで癒し、レクイエムによる状態異常を継続させるため声を出し続けなければ戦線が決壊する。
「あと少しっ」
 リンカは両手で剣を握った。
 バイクを加速させランドワームの右足に開いた大穴に乗り上げ、巨大な脚の付け根目指して切っ先を突き出した。
 白き薔薇に似た清らかな光がうまれ、汚れた肉と骨を貫き上部の鱗から天へ抜ける。
 手応えは通常の5倍以上。遠くから聞こえる悲鳴はグランドワームのものだ。
「これで」
 迫る肉の壁を無視して光を放つ。
 神経が焼かれ、関節部分が砕かれ、巨体全体が激しく揺れた。
「下がれ、崩れるぞ!」
 シガレットが残り少なくなったヒールを使う。
 そのおかげで打撲が致命傷にならず済んだリンカが飛び出し、数秒遅れでワームの左側が下がって地面に接触した。
 大地が揺れる。
 歪虚の巨体が捻れて鱗と骨の一部が断裂する音が響く。
 シガレットは深刻なダメージを負ったハンターを回収してはワームと離れた場所へ移動させていく。
 巨大歪虚からの反撃はない。痛みで混乱しているのに加えて速度も落ちている。
「まだ距離はあるか。攻めきれるか?」
 シガレットが視線を移動させ、ワームと遺跡の距離を確かめる。
 片足損失による速度低下を考慮に入れても、溶岩砲の射程に遺跡が入るまで余裕はなさそうだった。

●蚯蚓疾走
 ランドワームの片足破壊に参加しなかった者も遊んでいた訳ではない。
 遊ぶどころか最も過酷な足止めという戦いに飛び込んでいた。
 ゾファル・G・初火(ka4407)が真正面から近づく。
 両手で構えるのは左右に刃がついた特大斧だ。
 大きさも重量も形状も全て扱いにくいはずなのに、バランスを崩さず震える大地を進む。
 アクセルを踏み込む。
 ランドワームは巨大で有り壁にしか見えない。
「一発逝っとけ!」
 魔導バイクの速度、巨大斧で刃筋を立てる技術、バイクと巨大白兵武器を単独で乗りこなす体力。
 その3つが完璧にかみ合って、巨大な刃が鱗の密集地帯……おそらく首か胸に当たる部分にめり込んだ。
 最初に大地と空気が震え、1秒遅れて遅れてゾファルの耳が猛烈に痛む。
 ステラ・レッドキャップ(ka5434)が何かを叫んでいるのに何も聞こえない。
 お淑やかな美少女なステラが一瞬凶悪に刃をむき出して、踏み出す直前の巨大脚に銃弾を浴びせた。
「馬鹿野郎巻き込まれるぞ!」
「おぅ、ありがとよ」
 ゾファルがタイヤを逆回転させ距離をとり、助走をしてから初撃を上回る速度でワームへ向かう。
「知らねぇぞおい」
 ステラはゾファルを追わずに巨大腕部の先に撃ち込み初動を妨害する。
 今はこれが最重要だ。今ワームの移動を封じればゾファル達だけでなく別方向から攻める者にも攻撃するチャンスがうまれる。
「おいおい俺様を羽虫扱いか??」
 初撃で出来た凹みに斧を叩き込む。
 オーガでも倒せる一撃だが相手が巨大すぎ生命力もありすぎる。
 塔に匹敵する大きさの頭が振り上げられて、当たればCAMすら危ない速度でゾファル目がけて振り落とした。
「逝ったか……骨が」
 器用に目だけで黙祷するステラ。
 十数メール吹き飛び宙を舞うゾファル。
 そして、斧でカウンターを決められた喉に切れ目が入った。
 器用に2輪で着地はしたがそこが限界だった。ゾファルはランドワームの速度に追いつけず脱落した。
「しっかしそろそろ残弾半分切るぞ」
 かなりの確率で抵抗されるため威嚇射撃を連続使用するし、かく当然のようにスキルの使用回数が減る。
「よっしゃ」
 細く長い指で拳をつくる。
 どこからか響くレクイエムを伴奏に、ランドワームの左足が脱落をはじめて速度が明らかに落ちた。
「げ」
 可憐な美少女を演じる余裕どころか、凜々しい美少女を演じる余裕もなくなる。
 ランドワームが顔をこちらに向け溶岩弾の予備動作を開始したのだ。
「溶岩が来るぞー!」
 警告と逃亡とワームの前足への牽制射を同時にこなすのは、いっそ見事と言いたくなる動きだった。
「分かった。任せて!」
 細身の葛音 水月(ka1895)が、ステラが一瞬足止めしたワームの前脚目がけて突進した。
 重装馬が分厚い鱗にふれるまで寄って、水月が特大の機械を押し当て全力で絞り出したマテリアルを注ぎ込む。
 本来CAMや魔導アーマーが扱う武器だが水月のマテリアルは十分な密度と量を兼ね備えている。
 精密かつ強固な機構が問題なく作動し、鉄杭がワームの鱗と骨を貫き骨まで達した。
「まだまだっ」
 保持用のグリップを握って無理矢理引っこ抜く。
 0.5秒後、直前まで水月の上半身があった場所を超重量の前脚が通り過ぎた。
 煮沸する岩が弾ける。
 発射途中に無理に脚を動かしたため溶岩弾が零れ、超高温の液体が何ない土地を一直線に焼く。
「当たればよくて重傷か。参ったな」
 グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)は気弱なセリフを平然と口にする。
 ただしバイクを操る腕もMURAMASAを操る腕も豪快かつ緻密に動き、随時刃を巨大化させてワームの前脚をちくちく突く。
 ワームの塔のごとき首が動く。
 グリムバルドに口だけの顔が向き、鈍く強い光が灯った。
「とぅっ!」
 怪獣狩りゲームの主人公のように軽やかに、水月が前脚の凹みにパイルバンカーをくらわせる。
 敵が大きすぎ距離が近かったため接触によるダメージが水月に生じ、それよりはるかに巨大なダメージが前脚を襲ってグランドワーム全体を痙攣させる。
「先に行きますね」
 徒歩のブラウ(ka4809)がグリムバルドの脇をすり抜けランドワームの真正面から近づいた。
 馬もバイクも無しでは危なくなっても逃げることはできない。なのに危険を理解し実感した上で軽やかに跳んだ。
 垂直に近い鱗を駆け上がる足も術もないが、グリムバルド達の攻撃により開いた穴にとりつくには十分だ。
 体液でどす黒く濡れた傷口へ降り立ち、虎徹を大上段から振り下ろして脂で覆われた筋を断ち割った。
 分割された筋肉がそれぞれ別の方向に跳ぶ。
 血が大量に飛び散りブラウの白い頬をわずかに穢す。
 深刻なダメージはあっても死には遠い。そんな臭いを感じた。
「無茶をするっ」
 グリムバルドはバイクの速度を極短時間巨大化したMURAMASAに載せ、ワームの前脚先端近くを大きく刻んだ。
 ブラウが最も大きな傷口から飛び降り、グリムバルドが刻んだ傷を足場に使い、自らの無事な両足で地面に降り立つ。
「助かりました」
 優雅に一礼する。
「そこの2人、上上! 来るぞ!」
 両者が左右に跳ぶ。
 肉の塔が怒りにまかせて振り下ろされ硬い大地に歪虚の形をした凹みが刻まれる。
「そろそろでかいイニシャライザーの効果範囲か。攻めきれるか?」
 ステラは猛烈な射撃を1本残った前脚に浴びせ、傷ついた味方が後退する時間を稼いでいた。

●丸竜種崩壊
 何事もなかったかのように、縦横6メートルの竜が立ち上がる。
 こめかみ周辺に汗っぽい何かが浮かんでたらりと垂れた。
『それじゃわたしはしつれーさせていただきます。ちくしょー大物食いあきらめて後ろの雑魚っぽいのをいただきまっ!?』
 減らず口の返事は言葉では無く刃。
 高速なハルバードを横に転がり回避。しかし続いて振るわれた一撃で喉を打たれてけふっと息を吐く。
『あわわわ。わたしを逃がさないと窮鼠猫を噛む凄いで抵抗しちゃいますよ? ぶわーっと炎吐いちゃいますよ?』
 情けなく両手と両手をふりふり、いきなり口から小さな炎を連続噴射。
 馬ごと岩井崎 旭(ka0234)を焼いたように見えたが、実際には旭が読み切って事前に届かぬ位置まで動いていた。
「どこにも行かせねェ。後でデカブツ相手にメルちゃんが頑張ってんだ! テメェ、先に進めると思うなよッ!!」
『この人間短期間でパワーアップしてやがるですやだーっ!』
 高速で連続側転する。
 どうやら飛行も織り交ぜているらしく非常に速い。移動に専念している分ゴースロン種でも追い切れない。
「シルヴィア、泣くほど喰わせてやれ!」
 旭と同じくメチタとの対戦2回目のシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)が、メチタがどの方向へ飛んでも射程内になる場所で引き金を引いた。
「どうぞ、鉛玉です。多分美味しいですよ」
 銃声が連続する。
『ぺっぺっ、ちょ、口に小さな物が入ってって、ぺふっ』
 シルヴィアは威力を後回しにして、マテリアルを使って銃弾を広範囲にばらまいている。
 その一部がメチタの口内に当たって舌やその周辺を傷つけ、滲んだ体液がブレスのもとに熱せられて妙な臭いをまき散らす。
 時折冷たいマテリアル付き銃弾が混じり、メチタは状態異常を嫌がりブレスを諦めて守りを固めた。
「まさか……いや、狙っての行動か」
 榊 兵庫(ka0010)が呻く。
 彼は万一に備えて聖堂教会部隊の近くにいた。
 だから、メチタが回避または逃亡の動きに見せかけ、この戦場での最弱集団に近づいたことに気づけた。
「司祭殿。俺達が来たからにはおぬし達だけに苦労はさせんよ。この場の守りは任せた!」
 そう言い残して加速する。
 メチタの進路が小刻みに変わる。
 手足と翼の動きで進路を欺瞞しているようだ。
「策士なのかもしれんな」
 兵庫の動きは変わらない。
 聖堂教会、その中でも特に弱く割にマテリアルだけは濃いイコニア・カーナボン(kz0040)をかばう位置から、着実に距離を縮めて槍を一閃する。
『いづっ』
 盾ほどある鱗が割れて地面に転がる。
 兵庫を跳び越え逃亡にも捕食狙いにも動ける位置を取ろうとしたとき、猫耳金髪娘が跳びメチタの脇に拳を埋め込んだ。
 両足でメチタの腹を蹴り宙返り。薄く雪が積もった結晶に紫の衣を揺らして着地する。
「やっ♪ この前逃げちゃった竜だよね、手振ったの覚えてるかな?」
 にこやかに軽く手を振って龍鉱石を弾く。
 無意識に口で受け止め飲み込んだ竜種に対し、一切の手加減無く拳の二連撃で追撃。
 歪虚もげふうと情けない声をあげながら高速かつ大重量の爪で反撃。
 どちらも腹に打撃を受け額に汗を浮かべた。
『自動回復……便利な術を使うのです。覚えてるですよ。えーっと』
 残った生命力の割合は同じでも回復力が違う。メチタが流血は止まる程度に対しリューリ・ハルマ(ka0502)はリジェネレーションが効いている。
「リューリだよ、よろしくね!」
 猫化の老練な猛獣を思わせる動きで攻める。
 メチタの視線が一瞬それる。
 旭が数歩後ろまで迫っていることに気付いて、後先考えずに強めたブレスを地面に叩き付けた。
 白い雪が一瞬で蒸発し結晶の表面が不気味にぬめる。
 高位の竜種並のブレスを使った反動は強烈で、メチタの口内と喉奥が無残に焼けていた。
 高位のハンターでも直撃を受けると危険だ。
 皆防御または回避を行い、その中の一人が炎に負けて盾を離し転倒した。
 血の臭いがする。はらりと零れたのはブレスで蒸発した新鮮な血かもしれない。
 竜の腹が高らかに鳴る。あの方向に逃げれば上司に……高確率でハンターに追い詰められたザッハークにたどりつける。倒れたハンターを前菜に上司を主菜に一気にパワーアップだ!
『いただきまーす!』
 大きく口を開けて飛ぶ。
 狙うのはカナタ・ハテナ(ka2130)の腹だ。
 仮に罠でも食い破れると確信し、実際に食い破れてもおかしくないだけの速度があった。
「エクラ万歳なのじゃっ」
 子猫の幻影がメチタと口から腹の中に消えて、にゃ?んと鳴いた。
 喉の奥、メチタと最も弱い場所に攻撃的な正マテリアルが照射され、瞳がくるんと回って白目を剥いた。
 カナタは細い足で蹴っ飛ばして竜の下から抜け出る。
「最強策士はメチタどんではなくカナタのようじゃな」
 あの時点なら逃亡できたメチタを判断を狂わせるためダメージを受けたふりをした。メチタの思考を読み切り反撃の刃も要していた。その結果ダメージは受けたが与えたダメージは桁1つ違う。
『おっ、おめーら人間じゃなくて別の戦闘種族じゃねーですか?』
 メチタが極短時間で回復。また側転して回転速度を上げていく。
 前後左右に自分を殺せる人類がいる。
 逃亡成功確率が5割以下まで下がっていても諦めるつもりは全くない。
 そのとき、シルヴィアの銃弾がメチタの喉に当たった。メチタはとても頑丈なので大威力でも致命傷にはならない。
 が、たまたまメチタが弱ったときに着弾し、高めのメチタの抵抗を抜いて、その丸く強靱な体に宿る力を乱した。
 ワームに比べれば小さな巨体があっけなく転がる。
 兵庫が人馬とも全力をひねり出して槍を一突き。無骨の銘ふさわしい切れ味で片翼を切断する。
 火球がメチタの全身を襲い、旭達強豪前衛の刃が丸い体を切り刻む。
『っ……回復っ』
 死を前にしてもメチタはへこたれない。
 急速に崩れていく竜体と回復の力が拮抗する。
「育てばザッハークどんより脅威になったかもしれぬな」
 マテリアルがにゃーと鳴き回復の力を打ち消し、歪虚竜種メチタは辞世の句も残せずこの世から退場した。

●蚯蚓の逃亡
 壁が波打っている。
 実際は片足を失い両手を砕かれたランドワームが暴れているのだが、現場にいるハンターには壁にしか見えなかった。 「来るよ!」
 レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)は澄んだ琥珀色の瞳でワームの口を凝視する。
 体から溢れるマテリアルが手の内の得物を温かな白に染める。
 引き金を引く度に淡い軌跡が残り、半開きのワームの口に何本も吸い込まれる。
 リロードの時間を惜しみ左手の魔導拳銃へスイッチ。恐れそうになる心を積み重ねた経験で押さえ、少しでも時間を稼ぐため射撃を継続する。
「っ」
 黒が混じった光が見える。
 炎ではなく溶岩弾だ。
 銃撃により本来のチャージタイムを数割伸ばしたがもう限界だ。
 レホスが回避のための移動を始めようとしたとき、グランドワームの体がいきなり傾いた。
 左側の分厚い鱗が揺れ汚水に似た体液が派手に散り始める。
「いったい何が……」
 混乱はしてもレホスの動きに迷いはない。
 喉の奥へ引っ込んだ溶岩弾のことを仲間に伝えて弾を撃ち続ける。
 ワームに特大の異常をもたらしたのはクリスティン・ガフ(ka1090)だ。
 それ以上破壊しようがないほど破壊した側面から数メートル離れ間合いと速度を調整する。
「高位歪虚の気配は無し。余力を残す必要はないか」
 全長約3.5メートルの刀を血振るいする。
 体液と脂肪が弾かれ地面に汚い弧が生じ、巨大さに比例した鋭さの刃が妖艶に光る。
 刃が横へ弧を描く。
 込められたマテリアルが紅の半円を形作り、1秒遅れで長さ6メートル強の傷口が開いて鱗に沿って血が流れる。
 クリスティンは無言のまま狙いを数十センチ下へ変更。
 再度美しい弧がうまれ、しかし今度は傷口から体液だけでなく支えを失った肉と脂肪がこぼれ出す。
 濃い黄色の脂肪が横へ飛んだときにはクリスティンは移動を終えてその場にいない。
 まだ切っていない鱗を目がけ、恐るべき力と脅威の技で、射程内全ての肉に致命的な打撃を与えた。
「過小評価していたか」
 総ダメージの2割は叩きだしているのにクリスティンの表情は明るくない。
 このランドワーム、この場のハンターが予測していた上限を超えるほど生命力に溢れている。
「ハッ、荒っぽいロデオになりそうだな!」
 ジャック・エルギン(ka1522)は覚悟を決めた。
 戦馬の鞍に立ってワームへ飛びつく。戦馬は主を信じて戦場から距離をとり、主であるジャックはクリスティンがつくった切れ目を足がかりに手を伸ばして手斧を上の鱗へめり込ませ、そこをさらに足がかりにしてランドワームの背中に当たる部分まで登り切った。
 足下が揺れている。歪虚が痛みに悶えているのだ。
 足下が熱い。腹に蓄えた溶岩が漏れかけるほど傷が深いのだ。
「私も付き合います。……馬なしはちょっと厳しかったですね」
 鼻が触れるそうになるくらい顔を近づけて、白神 霧華(ka0915)はワームの背中部鱗の極一部に出来た亀裂を見つける。
 巨体が痛みに悶え続け、鱗に無理な力がかかった結果だ。
「うん……しょ」
 パイルバンカーで複数の穴を繋げて開ける。
 ワイヤーを潜らせて鱗と鱗の隙間に通し、締め上げるように全身の力を込め引っ張っる。
 これまでのしぶとさを考えると呆気ない音を立てて鱗が半分に割れた。
「惜しい。武器強化に使うに少し足りませんね」
 本気半分の上段を飛ばしその場をジャックに譲る。
「龍鉱石の剣だ」
 半分に割れた鱗がはぎ取られた箇所に切っ先をめり込ませて押し込み。
「たらふく喰らいやがれ!」
 巨大な頭目がけて一直線に切り上げる。
 鱗と筋肉だけでなく、神経あるいはそれ以上に重要な何かを切った手応えを感じた直後、ワームの背中の各所から熱風と蒸気が吹き上がり視界が白く染まった。
 広大な背中に無理な力がかかって多数の鱗が割れる。
 散弾の如く飛んでジャック達の体を打ち、霧華はまるで最初から予測していたかのようにカウンターで杭を肉に打ち込む。
「人間は我慢もしますが、強欲なんですよ」
 溶岩由来の熱がハンターごと歪虚の背中を痛めつける。
「止まった……反転している?」
グランドワームの口の前方5メートルの地上で、レホスが銃に再装填しながらつぶやいていた。
 当初の3分の1以下の速度で巨体が方向転換中だ。
 そろそろ遺跡が溶岩砲の射程内に入る。
 だが半死半生の今撃てば自滅するしかない。だから逃げる。
「レホス、防御障壁はまだ使えるか!」
 最初から最前列で戦い続けても無傷同然の柊 真司(ka0705)が、バイクを限界までふかしていた。
「正っ……ううん、死んだら承知しないよ!」
 自身のマテリアルを真司に向ける。
 元々高い命中精度、攻撃力、回避力が引き上げられて、真司の体とバイクの車体を光の障壁が覆う。
「応っ」
 アクセルを限界まで踏み込む。
 小さく突き出した岩をジャンプ台に跳躍し、奥に溶岩残ったままの大口へ飛び込む。
 MURASAMEブレイドを一瞬巨大化させ最も脆そうな喉奥に突き刺す。
 確かな手応えを感じた瞬間、上下左右に生えた牙が猛烈な勢いで近づいた。
 レホスに高められた力で巨大な力に耐える。
 攻性防壁が桁外れの巨体を押しのけ、その場の残った真司は何もない場所に取り残された。
 グランドワームの頭部は予想通りに数メートル後退していた。
 真司の体は予想以上に傷つき一部は白い骨まで見えている。
 バイクのタイヤを地上に向け直す。着地の衝撃は骨を伝って脳まで達し、悲鳴をあげることもできない痛みで目の前が暗くなる。
『……ますか、こちらカム・ラディです。聞こえますか! 増援らしい歪虚と撤退途中の歪虚がそちらへ向かっています。撤退の判断はお任せしますがとにかく急いでくだ……また増えたっ、今度はドラゴンですっ』
 誰かが持っていたトランシーバーから緊急事態を告げられた。
「参ったな」
 対グランドワーム班は負傷者多数でスキルの残弾がほぼ0。対メチタ班はダメージは控えめでも粘られたためこちらも残弾少数。これでは短時間でワームに止めを刺すことは出来ない。
「残念ですが」
 沈痛な空気の中レホスが退却を提案する。
 反対する者は誰もおらず、低速で北へ逃げる蜥蜴をその場に残しハンター達は助け合いながらカム・ラディに戻っていった。

担当:馬車猪
監修:高石英務
文責:フロンティアワークス

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