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プレゲーム第2回リプレイ「二日目/東部調査と雑魔迎撃」

プレゲーム第2回リプレイ「二日目/東部調査と雑魔迎撃」

●沼沢地調査
 島の東部は、何故か空は薄暗く、黒っぽい陽炎のような物が立ち上り、物が腐り落ちたような異臭の漂う濁った沼沢地が広がっていた。
 生き物の気配はほぼなく、植物もおかしな形をしている物や、枯れ木となっている物ばかりである。

アニタ・カーマイント

「なんなのかね、ここは?」
 鼻をつく異臭に顔をしかめながら、調査隊の外周で警戒に当たっていたアニタ・カーマイン(kz0005) は浅く足の沈む水場へと歩を進めていった。
 アニタと同様に外周で警護に当たる軍人達も異様な空気に緊張を強いられながらも先へ進む。
 そこへ――突如、巨大な骨の首が沼の奥で空へと持ち上がったと思うと、同時に大量の化け物が現れた。
「ヴォイド!? ……いや、何だこれは!?」
 東條の眼前に迫りくるのは、奇怪な変異を起こした両生類やスライム状の液体生物達。
「な、何だこいつら!? 恐竜の死体?」
 驚く近衛 惣助の視線の先、化け物共の奥に一際大きなブラキオサウルス――雷竜の動く死体が垣間見えた。
 首から上を白骨化させた雷竜が空に向かって、嘶くかのように頭を持ち上げると同時に沼地から現れた化け物共が獲物――調査隊に向かって動き出す。
「……来るぞ!」
「クソったれ!! ヴォイドの次は一体なんだっていうんだ!」
 惣助の叫びに合わせ、クラーク・バレンスタインが木の陰に隠れながら、怒声と共にアサルトライフルを化け物共に向けて乱射する。
 銃弾を受けたスライムは身体の一部が吹き飛ぶが、痛みを感じていないように平然と進んでくる。
「なんなんだ、こいつらは!」

 異常な化け物の群れにリアム・オルコットは銃弾を撒き散らしながら、本隊に異常を知らせるため、無線機を手に取った。
「この銃声、バレンスタインさんとオルコットさんの持ってた銃の音ッスね」
 調査隊の本隊にも届いた銃声にテリー・ヴェランダルが気づく。同時に、引率のアニタに、そのリアムから異常を知らせる連絡が入る。
 近くで話を聞いていたアルス・カナフィーが素早く猿の様に、手近な木の上へと駆け登った。
 周囲を見渡して、アルスは息を飲む。
「ぬ、沼地が化け物に埋め尽くされてるッス!」
 声に驚きを混ぜながら、アルスが叫んだ。
 その言葉を皆が理解するより先に調査隊本体の周囲を取り囲むように一斉に化け物達が姿を現す。
「民間人は下がり身を守れ。無闇に発砲するでないぞ」
 ノルディン・ガラが後ろに控えた民間人へと警告し、手斧を構えて民間人の前に出る。
「……一時撤退だ。民間人の逃げる時間を稼ぐぞ。軍人が殿を務めて弾幕を張り、その間に民間人を後退させる」
 君島 防人の声を受け、即座に反応したウイリアム・ジョンソン、ビリー・スミス、ケイン・ハルトマンの三人が前に出て弾幕を張る。
 荒れ狂う鉄の嵐は枯れた木々を薙ぎ倒しながら化け物達を撃ち抜き、僅かにその足を止める。
 軍人が盾となりながら、調査隊の本隊は撤退を始めた。

テンシ・アガート

シェリル・マイヤーズ

「ほーらほら、こっちに寄ってくるなよ!」
 持っていた日用品を利用して、テンシ・アガート(ka0589)は、松明を作成して緊急事態を告げる狼煙としていた。
 同時に、手持ちの銃で空中から接近する鳥のような雑魔を牽制する。
「あぁ……なんで俺はこんなめに……」
 軍人のラッセル・バーバンクは腰を抜かしていた。震える手は襲い来る大型の鳥へと銃の引き金を引くことすら出来ない。
 その横合いから、民間人の少女の手が伸びた。
「私だって戦える! ……生き残る為に! だから、コレがいるの!」
 ラッセルの手から銃を奪い取り、シェリル・マイヤーズ(ka0509)も鳥へと向けて撃つ。
「す、すまない。……あぁ、なんで俺はこんな女の子に助けられて何もできずに……」
 目に涙すら浮かべる軍人の情けない声に、シェリルが一瞬気を取られたところへ、銃から逃げるように旋回していた鳥が急降下して襲い掛かる。
「だめっ」
 南条 日向がシェリルを庇うように飛び出した。急降下した鳥の嘴がシェリルを庇った日向の腹部に突き立つ。
「このっ!」
 シェリルが怒りの声を上げながら、鳥に銃を連射した。
「大丈夫ですか!?」
 椿姫・T・ノーチェが目前の人の子供ほどはありそうなカエルをナイフで斬り払いながら、向かってくる別のカエルへと蹴り飛ばす。
 開く間合いに生まれる余裕、椿姫は怪我をした日向に駆け寄った。
「……今度は……失わずにすんだのね……」
 無傷だったシェリルの姿に微笑み、腹部から血を流して意識を失う日向。慌てて椿姫は止血を行う。
「くっ、こんな所で死なせはしません」
 意識を失った日向を抱き上げ、急いで後退していく。
「おじさんも立って!」
「あ、ああ……」
 腰を抜かしたラッセルをシェリルが強制的に立たせる。シェリルは弾の切れた銃器をまた襲い来ていた鳥へと投げつけると、ラッセルと共に後退していく。
「くっ――!」
 水と草に隠れながらいつの間にか忍び寄ったスライムがアニタの足に纏わりつく。振り払おうとした一瞬の隙に、前からカエルが跳び掛かってくる。
「アニタさん大丈夫っすか!」
 無限 馨が弾丸をばら撒き、アニタに飛び掛かろうとしたカエルを蜂の巣にする。眼前の脅威がなくなった隙に、アニタはスライムを振り解き、遠くへと蹴り飛ばす。
「大丈夫、それより――」
 アニタが馨に銃を向けて撃つ。弾は馨の頬を掠めて、後ろから飛び掛かって来ていたカエルを撃ち抜いた。
「あんたも気をつけなよ」
「は、はいっす」
 弾が頬を掠めたことにちょっとだけ冷や汗を流しながら、馨はアニタに助けられたことで彼女をますます崇拝しようと心に決めた。
 カエルにスライム、いくら倒してもいくら倒しても、敵は隙間なく襲って来る。
 調査隊の本隊に合流したアニタ達は、倒しても減らない敵を相手に、僅かずつ森へ向けて後退していた。
「どこまでも湧いてきやがる、クソッタレ!」
 いつまでも終わらない戦闘で、頭に血の昇ったシュウヤ・ツキオリは苛立ちをぶつけるように目の前に迫ったカエルを斬る。
「出過ぎだ、少し下がれ」
 ハルヒサ・ヤクノがシュウヤの頭を冷やすように言葉をかける。
「けどよ、このままじゃ――」
「分かっている……予備弾倉は残り一つか。節約せねばな」
 シュウヤの背後から飛び掛かろうとしていたカエルに弾を撃ち込み、ラックの弾倉を確認する。
 遭遇からここまでの距離とここから森までの距離。このままでは、森に逃げ込むまでも持つかどうか。
「チュートリアルにしてはちょっと戦闘ハードじゃない?!」
 八剣 伝がカエルに湿原の岩と挟むようにして拳を叩き込み、その腹部を潰す。
「ハァッ!!」
 林海 モニカが正拳突きでスライムを殴る。が、にゅるんとその衝撃を逃がして、スライムはモニカの腕から纏わりつこうとする。
「まともに戦える相手じゃなさそうですねぇー!?」
 腕をぶんぶんと思い切り振り回してスライムを振り払うと、一時撤退する。
 撤退の中、尽きつつある弾薬。アニタ達の防衛網を抜けて、調査隊本体に接敵を許し始めている。
「SFの次はファンタジーが相手とはな」
 無防備な人々を逃がすためには、軍人だけでは手が足りていない。剣術の心得のある月村 恭也が剣でスライムを斬るが、斬れた先から小さく分裂しただけのように活動を再開する。
「厄介な」
「これで最後……と」
 レイフェン=ランパードが最後の予備弾倉に詰め替えるため、前線から一歩退く。その時味方の一人が叫んだ。
「!? 後ろからまた何か来るッス!」
 戦場全体を見渡すために未だ樹上にいたアルスだ。
 退路が塞がれた可能性が頭を過り、調査隊に一瞬緊張が走る。
 レイフェンが前線の敵に向けていた視線を後方へと向けると調査隊が撤退する先、森の中からアルスの言う何かが幾つも沼沢地へと出てくるのが見えた。
「……なんか人間っぽいのが来たね。まだ中身はわからないけど」
 観察するように細めた視線の先、レイフェンの目に映ったその何か達は、エルフやドワーフを交え、ファンタジーの中の冒険者のような姿をしていた。

●援軍
 時刻は僅かに遡る。
 調査隊が沼沢地に突入した頃、サルヴァトーレ・ロッソが漂着した孤島へと先行してハンター達を乗せた高速船が到着した。
 孤島へと降り立ったハンター達は、幾人かの転移者たちの証言の下、漂着した鉄の船がサルヴァトーレ・ロッソと呼ばれるリアルブルーの船であることを確認する。
 この島の危険性を伝える為、ハンター達が船へと向かおうとした時、グランツ・アイアンハートが異変に気付いた。
「ラキの嬢ちゃん、あれはちぃと拙いぜ!」
 グランツに肩を叩かれ、ラキがグランツの指し示す方向へと振り向く。

ラキ

「うわ、歪虚のいる方から煙が上がってる!?」
 ラキ(kz0002)の上げた素っ頓狂な声に反応して、ハンター達は一斉に島東部の空を仰ぎ見た。
「偵察だけの楽な仕事って聞いてたんだけど、それじゃ済まないみたいねえ?」
 面倒なことに巻き込まれる予想にエリス・エアエッジは、肩をすくめる。
 ハンターたちは、昇る煙から東部に人が踏み込んでしまったと考え、船へ向かう組と煙の下へ向かう組とに分かれ行動することとした。
 時は先程に戻り、森へと撤退していく調査隊の面々の正面にハンター達は出くわす。
「よかった。間に合ったね」
 戦闘の状況を見取り、エルフのイズ=クロンシュタットがふわりと微笑む。 「――ようこそ、クリムゾンウェストへ! 歓迎するぜ? お客人……!!」
 とナハティガル・ハーレイ。
「まずはご挨拶代わりだ」
 とウイ。
 ナハティガルウイが放った矢が雨の様に正面敵の後方へと、敵を前と後ろに分断するように降り注ぐ。
「早く終わらせて帰ろう」
 とジーク・ストレイド
「ですねっ」
 ジークが更なる攻撃のため弓を引き絞り、放つ。本能的に降りかかる矢を嫌がり群れから雑魔に容赦なくジークの矢が突き刺さる。
 続いて、ブランが短刀を抜き前線へ。
「見たことない服の人達が沢山いるね」
 好奇心も露わに目を丸くするのは、鉤爪を装備したアイラ=カルセドニー。
「ねぇ、きみたちは何者? リアルブルーの人?」
 アイラの姉で短剣を装備したカリラ=カルセドニーも不思議そうな様子。
「んふふー、あたし達も混ぜてー」
 三女で斧を装備したシアラ=カルセドニーが笑う。三姉妹は調査隊の脇をすり抜けながら、おどけた言葉を交わす
 彼女らも弓矢にて攻撃する調査隊の味方であることは明白であった。
 だが、先程の少女ではないが、逆に何者なのかと問い返したくなる状況に、軍人は目を白黒させていた。
 そんな軍人の肩に手を置かれる。
「俺達か? 俺達はハンターだ。あいつらの敵さ」
 芝居がかった調子で軍人の疑問にロバート・ウィンダムが答えた。
「おたくらとは、できれば味方同士である事を願いたいね。ま、詳しい話はあいつらを片付けてからだ」
 ロバートが話をしている間にも、他のハンター達は、一直線に歪虚達へと向かっていく。
「ウェーイ!」
 勢いをつけてドミノ・ウィルが跳び蹴りをカエルの歪虚にかます。
「跳び蹴りしたら掛け声が変になっちまった……どこの誰だか知らんけど、大丈夫か?」
 ふっ飛んでいくカエルを見ながら、対峙していた軍人に声をかけるドミノ。軍人たちはアフロ頭の小さな女性の登場に、何が起こったのか分からないまま、ああ、と頷く。
「ようこそ新たな舞台へ、同郷の者たち。と、言っておこうかぁ」

ヒース

 とリアルブルー出身のハンターであるヒース(ka0145)が挨拶。
「おーおー、勇敢なヒトらやねぇ……護ったるさかいに、はよ後ろに下がりぃ?」
 こう軍人たちに挨拶したベノンも、ヒースと共に前線を構築する軍人達の前に出る。
 ベノンが軍人を後ろに下がらせるようにする間、ヒースが押し寄せるカエルの一匹に接近していく。
 舌を鞭のように使ってくるカエルに対し、ヒースがその複雑な動きを避けながら、その舌を斬り落としてしまう。
 カエルが短くなってしまった自分の舌に僅かな動揺を示す。ヒースはすかさずカエルの脳天へ一撃を加え真っ二つに斬り裂いた。
「ここは私達に任せて下がってくださいねっ」
 軍人達から引き離されたカエル達にブランがナイフを投げて動きを止める。その眉間を後方から飛んできた矢が貫く。ジークの狙撃だ。
「まかせてください、です!」
 ルーキフェル・ハーツが跳びかかってくるカエルの足を斬り払いながら、軍人達の前に出る。
「ここはまかせろなのー」
 ルーキフェルに足を斬られ、転げ回るカエルにウェスペル・ハーツが止めの魔術を撃ち込む。
「このっ!」
 セラ・グレンフェルがルーキフェルの背を守るように槍を振り回して前に出る。
「セラ!」
 セラの槍の振り回しを偶然伏せて回避してセラの内側に入り込んだ一匹をディッシュが短剣で薙ぎ払った。
 セラは払われて飛んだカエルに飛びかかり、息の根を止める。
「ディッシュ、ありがとう。けど、深追いはダメよ、怪我しちゃうから!」
「ああ、解ってる!」
 ルーキフェル、ウェスペル、ディッシュとセラは連携しながら、その場所を雑魔たちが突破するのを阻止するのだった。
「ぬおおお! 怪我をした者はそこか!」
 ギルティが魔導機械を乱射しながら敵の中に飛び込んでいく。ギルティに続いて相棒のハヤテもまた敵の中に飛び込む。
「ギルティ、少しの間頼む!」
 注意をギルティが引いている間に、ハヤテが盾を構えつつ怪我で倒れている者の回復を行っていく。
 本隊の撤退に対して護衛に当たり、引き換えになるように倒れた者を回収する様に、ギルティとハヤテは動いていた。
「こっち、こっち。良い子は、こっちにおいで?」
 リョースアールヴァルが安全な方向を手で指し示す。
「早くこっちに。大丈夫、助けるから」
 アメリア・デイランダールもリョースアールヴァルと一緒に、森へと調査隊の本隊が退避していくのを誘導する。彼女は声をかけて安心させながら周囲の様子を伺う。前線は維持されているが、雑魔は左右に分かれて取り囲むように後方へと回ってきている。
「クレド兄さん、左手前方に仕留めそこなったカエルモドキが入り込んで来ています。ウィンス兄さん、右手上方からトリモドキがこちらを伺ってます。迎撃願います」
 努めて冷静に、兄のクレド・デイランダールとウィンス・ディランダールに指示を出す。
「ああ、認識してるよアメリア。来たまえ、カエルモドキ」
 クレドが応じる。
「上等だ。護りきって謝礼金がっぽりいただくぜ」
 クレドがカエルモドキを迎え撃つと同時に、急降下してきたトリモドキをウィンスが槍の一撃にて叩き落とす。
「数と種類が思ったよりも多いな」
 ハーヴェルトランスが周囲にて護衛を務める人の回復を行いながら、リョースアールヴァルの傍により声をかける。
「ヴァル。お前も、無理はするなよ」
「はいはい。ハーヴィもね……あんまり長引くと流石にきつい、かな?」
 軽口で返しながらヴァルの前に出て、トカゲモドキを一匹屠った。
 森と沼の境界線でも、撤退してきた民間人をより安全な場所へと逃がすため、ハンターたちが活躍していた。
「危ない、下がって」
 草に隠れて民間人へ襲い掛かろうとしていたトカゲモドキに、アンセルがスリングでの一撃を加える。
「後ろに、早く」
 注意を惹きつけた一瞬を無駄にせず、アンセルは民間人とトカゲモドキの間に割り込む。
「はやく退避しなさい!」
 驚きに立ち竦んでしまったその民間人にエルムが檄を飛ばす。
 アンセルに加勢しながら、こんなところまで歪虚が前進してきているの、と内心に焦りを見せた。
「怪我が深いですね……ですが、安全な場所まではこれで持たせることができるでしょう……」
 ここまで逃げてきた怪我人にアティエイルが手持ちの薬草を使う。
 重傷ではあったが、薬草による治療で怪我人の呼吸がやや落ち着いた。
 ここでの治療はこれが限度。森の中までも歪虚たちは追いかけて来ている。治療に専念できるほどの時間も場所もない。
「わたた、木にも雑魔が」
 木に登り情報を得ようとしたランカは、その木に潜んでいた花に似た歪虚に慌てて手にした短刀を突き刺す。
「よし。これで大丈夫っ」
 ランカはするすると木の上まで登ると、そこから周りの状況を確認し始める。
 退路には、歪虚が集まりつつあった。調査隊に怪我人などが出たため、撤退に時間がかかっているのが原因である。
 その情報はすぐにハンター達にも伝えられる。
「しゃあない。陽動に出るかねぇ? ハクレインちゃんいける??」
 ヴェポラブがスライムを上手に蹴り飛ばしながら、相方のハクレインに声をかける。
「私だってやれます! 援護は任せてくださいよぉ!」
 ハクレインはそう言いながら、上空を旋回していたトリモドキに一射。即座に矢を番えて、トリモドキに二射目を加えて撃ち落す。
「よーし、それじゃ頼むわ」
 ウェポラブがにこにこしながら、集まりつつある歪虚の群れの端へ向かう。
「おいおい、無茶しすぎだろうに」
 東 宮司がウェポラブとハクレインを見ながら肩を竦める。だが、それをしなければ、まだ退避中の女性達を守ることが難しくなる。
 そうと決めたら、事は簡単だ。相方の小坂井 暁に声をかける。
「とりあえず、手伝うぞ、暁」
「おう、分かったぜ、宮司!」
 ウェポラブとは別方向に陽動として飛び出す暁。それに続く宮司。
「おらおらぁ!俺を無視するたぁ、100万年早ぇんだよ!!」
 暁が囮となり、宮司が歪虚たちを倒していく。
 まだしばらくの間、歪虚の攻勢を堪える事はできそうだった。

●大型雑魔迎撃
 雑魔達の攻勢に、ハンター達が援軍として立ちはだかった為、状況は一転していた。
 民間人の多くはヴォイドの勢力圏外まで逃げ切っている。
 だが、数を減らした雑魔の中でも一際大きな雑魔――雷竜は、未だ戦意高くに、執拗に調査隊を追いかけようとしてきていた。
 小型の雑魔を相手取るハンターや軍人の中から、いち早くその動きに気付いた者達がまとまり、これに抗するため集まる。
「これは大物だにゃ?」
 ヴァネッサ・フィム・フェリーナが少し見上げるようにして、雷竜を見る。
 リアルブルー、クリムゾンウェスト関係なく集まった集団が、攻勢に移るタイミングを計る中こんな会話が聞こえた。
「もしかして、グリ子ですか?」
 【B小隊】の軍人である島村七季が大型雑魔への対応に集まったハンター達の中に懐かしい友人の顔を見つけた。
「うわ、久しぶり!」
 七季らより先にこの世界に転移しハンターとなっていた森長緑子――通称グリ子は、懐かしいリアルブルーでの同期との再会に喜びの笑みを浮かべる。
「ってそんなことも言ってられないんだよね、来るよ」
 交わした視線を前方にやれば、雷竜が地響きを鳴らしながら泥を跳ね上げて、突撃してくるところだった。
「僕らハンターが斬り込むから、銃器で援護して、背中は任せた!」
「了解。再会を祝うのは後にしましょう。B小隊各員へ、私達は彼らへの支援射撃に徹します」
 島村からの指示にB小隊の面々は、緑子の背を見送りながら、支援射撃のために陣形を整える。
「銀ちゃんに任せとけ! 支援射撃で倒しても良いんだロ!?」
 高良沢 銀次が大型機関銃を腰だめに構えて、緑子の行く手を遮らないよう、雷竜の注意を引くように早速弾幕を張り始めた。
 雷竜が怯んだのを見るや、すかさず大々 大が軍刀を鞘から抜き放つ。その意図は明白であり、彼女に続くように軍人やハンターたちの内、刃物を得意とする者たちが一斉に突撃した。
 次々と向かって来るハンターに脅威を感じたのか、雷竜は一度大きく首を仰け反らせ、接近戦を挑むハンター達に毒のブレスを吐いた。
 直撃を浴びる直前でハンター達は、足を止める。
「チッ! もう一度来るよ!!」
 雷竜が再度首を仰け反らせたのを見て、神室・現が警告の声を上げる。
 現の言葉通り、雷竜はハンター達が足を止めたのを見て有効な手段と考えたのか、連続してブレスを吐き続ける。
「毒のブレスなどと――私の炎で燃やし尽くす!」
 エリザベート・二ベルが再度前衛に迫る雷竜のブレスに対抗するように火の精霊魔法を放つ。
 エリザベートの放った炎はブレスと拮抗し、僅かな――ほんの僅かな時間を作り出す。
 それは前衛のハンター達が雷竜の懐へと飛び込むのに十分な時間。
 手に持つ武器が剣や槍、斧などのハンター達は、巨大な雷竜に対し肉薄するように身を躍らせていく。
 軍人達による遠距離攻撃と、ハンター達の近距離攻撃で徐々に雷竜に傷を負わせる。
「そーれい!」
 棚畑 千束が即席で作ったボーラを雷竜に投げつける。何個かは失敗するも、前足に上手く絡みつかせることに成功する。
「掛かった! 皆、首と前足を――って、うぇぇぇ!?」
 千束が驚きに声を上げる。
 雷竜は足を引っ掛けるように絡められたロープを力で強引に突破すると投げた千束を追うようにして迫って来たのだ。
「おっとと、危ないのにゃ?」
 足止めにヴァネッサが雷竜の足を何度も切り裂いていく。
 他のハンター達も協力して止めようとするが、雷竜の腐った肉は痛みを感じないらしくいくら傷をつけても押し止めることができない。
「チッ、なんだあの骨っころは? 無駄にでかくて鈍すぎじゃん」
 エリーナ・フルレインが舌打ち交じりに援護射撃を継続する。
 巻き込まれかけた千束は慌てて退避する。雷竜が咢を開き、千束に向けて毒のブレスを吐きかけようとした時、銃弾が雷竜の背に着弾。雷竜はそちらに気を取られブレスを中断。
「久々に使うが、感覚は忘れちゃいないな」
 転移者のハンター、ジョナサン・マクドネルが銃の感触を懐かしみながら、もう一度撃つ。彼は近くにいた軍人から予備の小銃を借りて使用していたのである。
 慣れた銃火器に精霊の加護を付加して連続で狙撃を加える間に、千束が退避する。
「全く何度斬っても効いている感じがしませんねぇ。ですが、それでこそ斬りがいがあるってもんです」
 ディアン・ジョーカーが歪んだ笑みを浮かべて、大鎌でさらに斬撃を加えていく。
「ならば、ただ斬るのではなく、肉を削ぎ落せばいい」
 雷竜の足の関節部の骨を露わにするようにして、レイン・ヴェルトールが剣を振るう。
 一撃一撃は微々たる量を削ぎ落すだけだったが、掌に汗の滲むほど斬撃を続けてようやくそこに白い骨が見えた。
「よっしゃ! これならいけるか!?」
 その結果を見て、クルト・ハイネスが無線を繋ぐ。
『ミーシェ、こいつの右前脚に穴掘ってやったぜ! どうだ!?』
「ボクの方でも確認できたよ!」
 クルトからの無線による連絡。後方に控えたミシェル・プランタジネットもそれを確認する。そして、その情報は隣に控えた【B小隊】のビショップ・ワイズマンにも伝達された。
「ガスマスクが効かないのには閉口しましたが……」
 ため息をつくワイズマン。彼のB小隊の面々は万が一に備えガスマスクを用意して来ていた。
 しかし、歪虚の使用するそれは、地球における通常の毒ガスとは作用の原理が異なるらしく、ほとんど効果が無かったのだ。それでもビショップは気を取り直して叫ぶ。
「しかし、ここがチャンスです。小隊各員! 脚部の損傷を確認、集中射撃を具申します。出来ますね?」
 マスクが役に立たなかった痛手から立ち直り、即座に判断を下したビショップから、無線を通してリアルブルーの軍人達へ提案がもたらされる。
 損傷個所へと集中する射撃に雷竜が体勢を崩していく。
 体勢を崩し、倒れ込む雷竜に猛攻を加えるべく一部の軍人たちが重火器を構えた。
「一発しかないので、外せませんねえ」
 とパンツァーファウストを取り出すパメラ・マクファーソン。
「拙者のとっておきでござるよ」
 もんじゃ焼乃丞はそう言いながらグレネードランチャーを構える。
「へへっ、俺の一発をぶちかましてやるぜ」
 ルイス・バーネットもロケットランチャーを担いだ。
 そして、起き上がろうとする雷竜に対し、縫いとめるように矢弾が降り注ぎ、ハンター達が一時退避する。
 爆発の有効範囲からハンター達が退避を終えたところを見計らい、斉射の指示が下る。
「ファイアッ!」
 パメラの声と共に、幾つもの弾が雷竜に向かって飛んでいく。
「喰らいやがれ化物!」
 ルイスのその言葉と同時に弾は連続で着弾し、爆発を連鎖させていく。連鎖する爆発は、雷竜の腐った肉を吹き飛ばし、骨を関節部分から弾け飛ばし解体していき、轟音による耳鳴りが止んだ頃、雷竜は動けないほどにバラバラになっていた。
 雷竜は、最後に千切れ飛んだ頭の部分だけで断末魔の声を上げるかのように掠れた悲鳴を一帯に響き渡らせる。
 その声を聞いたのか、先程まで人々を襲っていた雑魔達は一転、逃げるようにして自らの住処である東へと逃げ帰っていった。
「終わったみたいですね」
 危機を乗り切ったことに聖導士のメル・ミストラル(ka1512)が安堵の息を一つ漏らすと叫んだ。
「戦闘で毒のブレスを浴びた人は居ませんか! こちらで治療いたします!」
 戦闘はひとまず終息を迎えたが、怪我人は多い。
「……全く、皆さん無茶ばかり。治す方の身にもなって欲しいものですね」
 軍医の一ノ宮 瑞紀が嘆息を吐く。
 治療を自分の役割とする者達にとって本当の戦場は、これからだった。

担当:神宮寺飛鳥
監修:稲田和夫
文責:フロンティアワークス

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