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プレゲーム第3回リプレイ「清め祓いのお祭り」

プレゲーム第3回リプレイ「清め祓いのお祭り」

●掃除の時間だ
「ふふ、私から逃れられるとでも?」
 わにゃわにゃと動く指先が少女に迫る。
「い、い、いや……」
 怯えた子猫ちゃんは、恐怖のあまり、へなへなと腰を落とし、壁によりかかりながら、近づいてくる女を見上げた。
「初めてなのね。大丈夫、痛くしないわ」
 舌をなめずり、双眸がきらり。
「掃除するならコレでしょう?」
 ふふふふ――
 紅鬼桜花 の手にあるのは、ハンガーにかかった巫女服とメイド服。
「さあ、どっちを着るのかな」

 きゃー!?

 宇宙戦艦サルヴァトーレ・ロッソ内の――マテリアル粒子砲の余剰パーツすら放り込んでおける特大サイズの倉庫のひとつを解放した――特設会場に大きな悲鳴が響き渡った。

 憲兵さん、あの人です!?

 やれやれ。
 同僚が おびえた被害者を保護し、加害者を追求している姿を横目で見ながら、赤樹 悠花は痛みの残る傷を気にしながら、壁によりかかってぼんやりと眺めていた。
 こんな明るい騒動は、いつ以来だろうか――
 常に戦場にあった女にとって、こんな休息もひさしぶりで あった。今回は怪我ゆえに、他の人間の迷惑をかけないようにと会場の警護にまわったのだが、こんな時間もたまにはいいのかもしれないと思った。
 短いスカートの裾からのぞく、まぶしい太もも。
 赤樹が支給されたタバコ状のもの を口にしかけたとたん、突然、スピーカーから大音響で音楽が鳴り始めた。
「な、なんだ!?」
 口元からぽろりとシガーレット型のチョコが落ちた。
「きゃは☆」
 棚畑 千束は満面の笑み。
「これで、退屈な作業も条件反射でノリノリになるのです☆」
 彼女が選曲したのは、学校でおなじみ、掃除のテーマがBGMである。
 が、一点、残念なことがあった。
「あ、これうちの学校の昼休みの放送のテーマだったわ」
「私ところだと帰宅時のテーマだったな」
 棚畑にとっては掃除の時の音楽だったとしても、学校ごとに違うわけであり、さらに言えば、
「なにを言っているんだ君たちは! 生徒が学校の掃除をするなんて!? それによって清掃の仕事を奪われた人たちのことを考えたことがあるのかい!」
「そうある! なんて非資本主義的な行いをしているある!?」
 生徒による教室の掃除などない国も多いのである。
 まあなんにしろ祭りである。
「部屋の穢れは心の穢れ! 心の穢れはマテリアルの穢れ! 元気マシマシ皆で絡め、パルム入れますか?」
 準備や掃除の段階だというのに、こんな幟まで天井から落ちてくる始末。
 一見、全く意味がわからないが、もとより意味など大多数の人間にとっては不要なのかもしれない。なぜなら、意味とはある一定のルールを理解しなくては理解できないものだからである。
 たとえば、ここに奇妙な形をした飾りをかけているものがある。
「貴方は確か……ハロル……ハロルド様でしたか? 何をなさっておられるので?」
 脚立に腰掛けていたハロルディン=ホープが遠慮がちな呼びかけ声に反応した。
「おや、あなたは?」
「セレ! セレ・ファフナです」
「ほう、セレ嬢というのか、この魔法陣を見たまえ。これは、負の力を正の力に転換するといわれていてな――」
 リアルブルーで言えば、まさに理系の男の子の態度である。
 目を輝かせながら、その仕組みについて事細かに、部外者には意味不明な言葉の羅列で説明してくれた。
「――本番で呪文を唱えるとよい」
 ここまで言い終えるのに数十分というところだろうか。
 それでも魔法という異世界の技術に興味津々のセレは目を輝かせていた。
「なるほど、此方での電子回路のようなものですね。実に興味深い」
 そう、実に興味深いのだ。
 ルスティロ・イストワールのように好奇心いっぱいなエルフ にとっては、ふたつの文化のまざりあうこの催しは、異世界の風習を聞いて回る絶好の機会であった。
「そう! この地ではこういう時お祭りをやるんだ!」
 ある場所ではこんな事を言い、別の人間を見つけては、
「君たちの世界ではどうなの?どういうことするんだい? 踊りは? 食べ物は!? 飾りつけはっ!?」
 などと質問をしてまわっては、さきほどの言葉を繰り返しては、歓喜をあげることとなるのだ。むろん、この文化的な、すれ違いがやがて大きな不幸の引き金にならねば――などと心配する者もいないわけではないが、祭りを前にした高揚した気分の前では霧散してしまう。
 それに、そんな気持ちを払う為の祭りのだ。
 ちゃくちゃくと準備はつづいている。
 そんな中に三日月 壱の姿を見つけたとき、イシス・ストレアの顔になんとも微笑ましい輝きが生まれ、しかし、それがみるみるうちに隠れる様子は、まるで秋の夕べの日の光のようなものであった。
 そして、どこかトゲのある物言いで、
「置く場所が間違っているのです!」
 などと指示をだしていたが、その言葉のはしばしに浮かぶ好意と、それに気づかない相方の様子は、まわりから見ればなんともいえぬ微笑ましさ があった。
 笑いといえば、こちらも笑みを振りまいているということには偽りはなかった。
「あらあら?」
 神森 静が、掃除をさぼっていた連中を前に、にこにこと笑いながら、忠告を与えている。
「何を遊んでいるのですか? 終わりませんから、早く片づけますよ。隅々まで」
 それを破ったのならばどうなるのか想像するだけで背中の毛が逆立ち、泣き出す者が出てくような、いい微笑だ。
 むろん、そのせいで寒河江 真言が涙目になっているわけではない。
 掃除をしているうちに、守備隊の駐屯所を掃除したことを思い出し切なくなってきたのだ。
 思わず声をかけてきた同僚に吹っ切れたような明るい声で応じた 。
「部屋の乱れは心の乱れっていうのが隊長の口癖で、随分怒られたんですよー! それに、隊長とははぐれただけですし」
 男の子は負けないということか。
 そして、ここに負けた女の子がいた。
 掃除を手伝っては、失敗ばかりしていたミィナ・アレグトーリアがついにギブアップをすると、くすん、くすんと泣きながら岸を変えた。
「……うち、お料理にまわるん。母仕込みの香草焼きや薬草サラダ、自己開発特製ドリンクを作成するねん。皆の疲れ、取れるとええなぁ」  なお、彼女の故郷では、一時的に人間の言葉がしゃべれなくなる特徴を持つミィナの料理を一級の毒薬とて認定していて、もはや恐怖を通り越して、崇拝の対象にすらなっているという。
 料理といえば、ほら、どこからかいい匂いがただよってきた。
 見上げれば 、出店が立ち並んだ一角が見えてきた。

●ただいま料理中
 ノーマン・コモンズがマリアに従い、祭りの食事の準備を手伝っていた。
 下手に手の込んだ料理は、世界の違いから合わないかもしれないので、単純な焼肉串を作ることにした。
「それっ!」
 マリアの投げ上げた肉片へ向かい、普段は戦いに使う双剣技を、包丁で肉に振るう。
「よっ!?」
 あたりで拍手喝采。
「ふっ、つまらぬものを切ってしまった」
 双剣を腰に戻すと、肉片はぽとぽとと、タレの詰まった壺に落ちていった。
 そして、それをマリアが火にくべれば
「なんという薫り!?」
 あたりに漂う匂いは鼻とお腹を刺激する。いくら通は肉に塩といったところで、そこまでこった料理をする必要もないのだ。
 皿に盛り、テーブルに運ぼうとすると、誰かの手が伸びてきた。
「こら!」
「ひゃっと!?」
 神子 仁が肉を奪うと、のびた手をひっこめて、さっさと口に放り込んだ。
 調理補助を名目にして、つまみ食いを敢行したのだ。
バレたから、にっこりとごまかして、
「ダメ、でしたか?ゴメンナサイっ」
 と叫んで、一目散。
 が、しかし天 が見逃さない。
 ちょうどそこへ響 怜華が皿を持って歩いてきた。
「まあ、たまにはこういうのもいいじゃない」
 と怪我をして見回りになった同僚を励ましているところに、神子は衝突。
 食器を空に舞い上がって、怪我をしているくせに素早く反応した悠花が見事に何枚かをキャッチしたが、すべてを救うことができるわけもなく、あわれ磁器が雨霰となって神子に降り落ちるのだった。

●舞
 静かな幕開けとなった。
 まっくらな会場の中に、開始のアナウンスが入ると、中央に作られた特設ステージへ一条の光が降りてくる。
 天井からつるされたスポットライトのひとつがつき、笛の音がしてきた。
 神代 咲耶の篠笛が奏でる音は、クリムゾンウェストの人間たちにとって未知の楽器であったろうか 。
 かぼそい音は、なんともいえぬ寂しさと、しかし背中をしゃんとさせるような緊張感を持ってかき鳴らされ、やがてライトのなかに三姫の姿が浮かび上がってきた。
 その内の一人、羽馬 実桜の姿を神代が、ちらりと見た。
(清め祓い……両親から教わった舞が役に立ちそうです。でも音楽がないと味気ないですよね……誰か手伝ってくれる方はいないでしょうか?負の気を清めるため、心をこめて舞います!)
 そう言って神代を誘った娘が踊っている。
 強烈な太陽に照りつけられた中、雨を望み祈った巫女のように羽馬は舞い、ニーナ・バムブラットも舞う。
 吹く風に戯れる渓流の水の流れのように時に激しく、ときにゆるやかに、笛だけの伴奏に合わせ、指先に、腕に、足に、さまざまな動きを与えて舞い踊る。
 我らが舞踏をご照覧あれ――と、シトリア=クラローテが言祝ぎ、祭祀らしく神楽を踊りきり、清めを終えるのであった。

●医療テント
「はじまったわね」
 ミーチェ=セフェルトが医療テントから、ステージをのぞきこんでいた。
 医療班の応急手当担当と して、こうして待機して、待っている。
 じきに酔った者、騒ぎで怪我をした者、先の戦いの怪我をおして参加した結果、悪化させてしまった馬鹿者と、千客万来という具合になるだろう。
 準備中に、盗みを働いて返り討ちに遭った、いわゆる自業自得の怪我を負った罪人を適当に転がしておいて、まだ余裕がある と 知人と言葉をかわしていた。
 その横では、キリエ・マーカーが準備した各種医薬品を確認し、足早に動き回っては毛布を整えたりもしている。
「ええっと、これとこれはいいわね。あら、声?」

●レッツパーティー!?
「祭りと聞いたのだが?」
 シルヴァーノ・アシュリーとユーナミア・アシュリーの夫妻は、自分たちが場違いなところへ来てしまったものだと、互いに顔を見合わせた。
 ダークグレーの燕尾服めいた衣装の夫と、黒基調に紅アクセントのミニスカドレスの妻。
 先ほどまで、
「パーティを楽しむね」
「そうね、踊りなどいかがかしら?」
 などとロマンティックな舞踏も夢見ていたのだが、そこにあったのは舞踏会というよりも、それは――

●ライブナイト
 ライブであった。
 野外フェスのライブ会場そのものである。
 祀りとしてはじまったものが、当初の意義を失い、あるいは変質させながら祭りとなるのは別に珍しい話ではない。
 今回の場合など、最初からそうなることをクリムゾンウェスト側が期待しているきらいがあるが、それでもここまでのものになるとは思っていなかったろう。
 もはや、そこには「祀り」というものは消散し、音楽の「祭り」だけが残ったかのようであった。
 それもクリムゾンウェストが想像だにしなかった形のものがである。
 鼓膜を破るような大音響が倉庫中に響き渡り、壁に反響して、こもった音がする。体にぶつかってくるような音である。
 その血に流れる遺伝子を、リアルブルーご自慢の音響機材が呼び起こす。
 その能力を全力で発揮すると最初は耳をふさいでいたクリムゾンウェストの人間たちも、
 やがてリアルブルーの人間たちと同じように気持ちのいい音の暴力に身をゆだね、心と身体を解放していく。
 音楽はパワーである。
 太古の人間が骨をならし、喉をふるわせた頃に起源を持つ、人間にとってもっとも根源的なコミュニケーションのひとつであるのだ。
 桐生 嵐の叩くドラムは扉を叩く嵐のようで、タディーナ=F=アースの率いるバンドの一団と共に演奏している。
 安全区域内を探し回って、楽器を借り集めてきて、この場に立っているのだ。
 桐生がぽんと放るとスティックがくるくると回って、やがてその手に戻ってくる。ちょっとしたアクロバティックな技を見せつけて演奏をしていると、我慢できなくなったのかタディーナ・アースが乱入してきて、さらにエスト・ベルフォルマが愛用のベースを片手にステージに飛び入り参加。
 まるで、そのハプニングがわかっていたかのようにステージはつづき、ギターを奏でていたシエル=アマトが、ボーカルからマイクを奪って、がなりたてるような歌声をあげていた。
 紅と蒼、二つの世界を同じ想いで繋いで歌う。
「さあ、皆さんも一緒に!」

 ロックだぜ!?

 音の暴風雨が、会場からの万雷の拍手に腕をふりあげながら去っていくと、特設ステージの上では、マイクを両手で持ったプリメーラ・ランティスが恥ずかしそうな顔をしながら、しずしずとステージの中央までやってきた。
「プ、プリメーラ、お唄、歌います……」
 ぽつり、ぽつりとしゃべりだす。
「少し、恥ずかしいですけど、皆さんが盛り上がるよう、頑張ります……。歌うのは、母
様がよく歌ってくれた、故郷のお歌です……。優しくて、大好きなお歌……――」
「プリメーラちゃん、かわいいよぉ!?」
 野太い声が響き、蛍光ライトが揺れて、プリメーラの喉が、あの懐かしい旋律を響かせ始めた。
 桜憐がステージの脇で順番を待ちながら、それを見ている。
 ドキドキと胸が高鳴るのを感じながら、桜憐は何度も深呼吸をする。
 眼前では波のように、光のライトが踊っている。
 これが、みんな観客なんだ。
(みんなが明るくなるように、少しでも癒しになるように……どうか、兄さまにも届いていますように……。ユーリアスさん達 にも届いているかな……)
 祈りにも似た思いが、心をよぎる。
 ステージでは司会が次の演奏者を呼ぶ。
「さあ、つぎの方!」
 天司 音が腕をあげながら登場だ。
「俺、復活!! そして俺の歌を……」
「バカ野郎!?」
 天司は言い終わることができなかった。
 後ろ頭をハリセンで張り倒し、槇 和也が病室から脱走した天司を捕獲したのだ。
「内臓に負担掛けるような事してんじゃねェよ」
 そして、司会と観客に向かって手ですまんすまんと合図をすると、槇はずるずると友人を引っ張っていって、そのまま退場。
「ええっと……い、いまのはいったいなんだったんでしょうか? 次の方は問題ない? ないね、了解、もうちゃちゃっとつづけちゃいましょう! えーと、ユーリアス・ラ・ムーナさんです」
(清めなら……これがいるよね)
 リュートを手にした男が出てきた。
 そして、一息をつき、
「ぼくの歌を聞け――!? なんてね♪ ……――って」
 ステージ上の視線が冷たい。観客の視線など凍えるほどだ。
 真冬の氷のはった湖に蹴り落とされた程度には酷寒の空気を感じずにはいられなかった。

「――ああ、ごめんなさい」

 ひゅーん……――

「えっと、ブルーの人たちからそう聞いたんだよ?!?」

 まだまだ、にぎやかな時間はつづくようであった。

●ステージから離れて
(先の脱出で家族や親しい人を亡くした方も居ます……ちゃんと悲しむ事も大事だと思います)
 ルカ(ka0962)が死者と残った人達の為に会場の隅で葬送曲をフルートで演奏している。
 そばをパルムを引き連れた佐藤 絢音が歩いていく。
 正体不明の艦に対するクリムゾンウェスト諸国の恐怖や不信感といった「負の感情」を払拭する為、祭りの間、艦内のあちこちにパルムと共に顔を出して神霊樹に情報を蓄積、ライブラリでの情報閲覧を可能にしようとしていたのだ。
 むろん、リアルブルーの頭の固い軍人たちにとっては、その行動はスパイ以外の何者でもない。だから、いちゃもんのような圧力をかけてきても驚くにはあたらない。
「上に立つ者がそんな顔をしていては皆が不安で楽しめませんよ。お気持ちは分かりますが、張り詰めていては切れてしまいます」
 イレア・ディープブルー がグラス片手に渋い顔をした士官たちをたしなめているが、さらに軍人に困らせられたのが中華料理を大量に作って配り歩いていた李 風雨だ。
「なにが問題アル? ウチの国じゃバカみたいに食べて酒飲んで爆竹鳴らして大暴れスルのがお祭りの醍醐味だたアルヨ、そこの人もお一ついかがネ?」
 話を聞けば、セレファイスの宝箱という者が、摩訶不思議な実験で会場を色取り取りの煙で満たし、艦内で三尺玉を打ち上げようとして捕まったそうである。
 理由として、大人数が集まる室内での爆竹や火薬の使用を危惧されてのことであった。
 なお没収した花火はスタッフが、後に 子供たちを引き連れて外に向かい、そこで打ち上げたとのことである。

●昼の大三角形
 ステージではさらに何人かの歌い手が出てきては曲を奏で、歌い、さすがに熱狂もしだいに落ち着き、ぱらぱらと座ったりする者たちもでてきている。
 しばらく閑散としていた屋台村にも、人が集まってきていて、メイドやらウェイターやらがテーブルについた客に食事を運んだりしている。
 ステージで女性のバラード調の音楽が人を酔わせは じめた頃、意味ありげな、誘うような視線をカルロに送ってくる女がいた。
 折角の祭りなのだ。
 女性のひとり、ふたりと交流を持つのも悪くないだろう。
(これがリアルブルーとクリムゾンウェストの交流となるのならば最高だ。もちろん、一夜の夢ならばなおさら言うことはない――)
「あ、ごめん! 綺麗だからつい見惚れちゃったんだ」
 カルロスが女に粉をかけた。
 さて声をかけられた女はエヴァ・A・カルブンクルスという。
 いい女だが、すこし困ったことがある。
 片目には女の業を映し、もう片方の瞳には姉の咎を宿しているのだ。
 すこし、かわいいを演じながら男を誘い、その態度で弟を挑発している。
 ほら――
 エヴァを積極的にカルロスがくどき始めると、カップと皿に甲高い悲鳴をあげさせながらウェイターが注文の品をテーブルに運んできた。
「お客様、こちらのお客様が迷惑されているようですので……」
「ああ、そう……」
 去ってくれとカルロスが手で指示をだすと、ティー・W・カルブンクルスという名前のウェイターが叫んだ。
「姉貴に手出しさせるかよ!」
「あらあら、かわいい」
 弟の怒った顔を見上げながら姉は、くすくすと笑うのだった。

●かるちゃー!?
 修羅場の横には、地獄がある。
(このサルヴァトーレ・ロッソには様々な人種、出身の人々が居る、ならば、それに端を発するトラブルも起こるはず)
 マートーシャ・ハースニルがぎゅっと拳を握って決意をしている横では、すでにトラブルの縁者たちが仲良く手をとりあって大舞踏会を開いていた。
 まず目に入るのはメイド。
 しかも、青き星の欧州や、赤き世界の王国や帝国の系譜に連なるような正統なものではなく、いかにもサブカル文化の洗礼を受け、先鋭化されたものだ。
「いってらっしゃい、見てらっしゃい!」
 妙な呼びかけを発しながら、 メル・ミストラル(ka1512)がコスプレ撮影イベントを実行している。
 しかも、リアルブルーの人間にはハンター達の予備衣装を、ハンター達にはロッソの制服や作業服を貸し出して撮影している間に、避難者達の汚れた服を洗濯して、乾燥するほどの念のいれよう。
 しかも、写真はプレゼントするアイデアとなれば、逃げ出したっきり、着た切り雀になった人々にとっては願ってもない機会で、人だかりができるのも不思議ではない。
 そして、人が集まれば他人に とっては奇妙と思えることを始める者がいてもおかしくはない。
 秋谷 嵐が持ち込んだ音楽プレイヤーをオンにして人気アイドル声優による萌えソングを再生しはじめた。
 妙に甲高く、余ったるい声はクリムゾンウェストの人々に軽い違和感を覚えさえるには十分であった。さらに、人々の耳に聞き慣れぬ――ステージとは異なった――音楽が入ってくる。
 目を向ければ、ありあわせの機械で――滝川雅華が作った――ロボットによる楽団がどこか宗教的でありながらも荘厳な音楽を奏でていて、その視線の先、つまり天空にはホログラフが浮かんでいる。
 それは天使の羽をもった電子の歌姫たちが異世界の音楽を、機械仕掛けの歌声で奏でている姿であった。
「これが異世界の文化……」
 そう、これがリアルブルー の――偏った――文化。
 心の奥底に、歪虚に対するモノとは別の恐怖を感じた者もいたことであろう。
 そういえば、掃除をしながら瑠璃川 万理花がこんなことを言っていた。
「健全な精神は健全な肉体に宿ると言いまして。綺麗にすればお祭りはいい物になるはずなのです。他で頑張ってる皆様の為にも綺麗にしましょー!」
 なお、この言葉には有名な反語がつづくのを覚えていただろうか。
 健全な肉体には健全な精神が宿って欲しいものなのだが――と。
 なんにしろ本人たちの意識しないところで侵略が始まっていたのかもしれない。そう、青い星の文化が赤い世界へと侵略を始めたのである。
 ツルネン・ピカードが曰く、這い寄るラーメン神の祭壇たる「屋台」を持ち込んで、聖別された手打ち麺にて、醤油ラーメンを次々作っては振舞っている。
「皆様に笑顔をもたらす事こそ、ラーメン神の御意志なのです」
 腕を組んでツルネンは頷く。
「あ、俺は味噌の方が好きだから」
 ――黙れ!?
 そして、世界の歪みは、こんなところにも浮かんでいた。
「いかがですか?」
 メイド姿の麗人、アレックス・マクラウドが、頬を染めた客に声をかけていると、その背中を、ばんと叩く者がいた。
「なんですか?」
 振り返ってみれば、そこには目をきらきらと輝かせた、小柄な少女の姿があった。
 雫石 唯央だ。
 知り合いのアレックスがウエイトレスをしていると知り、客として馳せ参じてきたのだ!?

霧江 一石

十色 エニア

アルビルダ=ティーチ

 可愛いは正義!
 シルヴィア・カラーズの店で、ちょっと軽食をとって、飲めないアルコールを横目で見ながらも、ちゃっかりバニー姿のシルヴィア と戯れてきたので、思考 は、すっかりおっさんになっている。
「うー。……いじわる」
 これもすべて霧江 一石(ka0584)という男のせいだ。
 ぐっと拳 を握って、あたりを見渡したが、その姿はすでにない。
 屋台では私服姿の十色 エニア(ka0370)が皿を拭いていた。
 見た目は女の子だが、実は男。
 雫石が残念そうに、舌打ち――女の子が、そんなことをしていはいけません――メイド服を指さしながら、
「男の子が着てもいいのよ!?」
 ぐへっへへ という声が聞こえてきそうな、煩悩まみれの表情で誘いをかけている。
 なお霧江から渡されたメイド服は、そのまま十色を素通りして、アレックスに渡されたという過去があるのは内緒。
「軍人がお酒飲んでキノコが食事頬張ってる……」
 とりあえずアレックスは 雫石の言葉を無視し、現実からは、目をつぶり、耳をふさぎ、逃避することにしていた。

●迷い道
 現実から逃げ出している――
 あるいは、その時の郷田 ガイの態度は、まさにそれであったのかもしれない。
 くじ引きの結果、出口そばの壁際になったアルビルダ=ティーチ(ka0026)が、それでも大きな声で客を引いている。
「さぁさぁとくとご覧あれ!空賊の心躍る冒険譚にござ?い!」
 一人で器用に人形を操り、話術で盛り上げながら幾つもの話を演じる。
 そんな横をすり抜けて郷田は、会場を後にした。
 去り際会場から盗みだした食料を、飲み食いしながら歩いている。
 自暴な姿であった。
 文月 こー達が、その姿を発見した。
「あやつ、ちぃと負のマテリアルが過分じゃな。折角の祭りだというのにの」
 ふと、気がついた。
「おぬしは良い素質を持っているの。わしに付いてくるがよい」
「なんだてめえら……俺の事は放っておいてくれ……」
「わかったわ」
 ハルハル・スプリングスが文月の代わりに応えた。
「過去には戻れない。立ち止まるのも君の自由さ。けどもし良かったら……私と一緒に、この世界を進もうよ!」
「進む? 素質? くだらねえな。俺の何を知ってるっていうんだ!」
「知るわけないじゃない。でも、知り合うことはできると思うんだ」
 ハルハルたちは、そう告げて会場の方へと歩き始めた。
「おい、無視すんな。ちっ……」
 重い腰をあげて、彼もまた会場に戻っていくのであった。

●終わりと始まり
 最後にふたたび会場のステージに戻ってみよう。
 本物の木製のピアノではないが、ここは我慢するしかない。
 電子ピアノの鍵盤に指を落しながら葵 涼介が都筑新とともに、その才能を世間に証明してみせた。
「俺の音は如何ですかお姫様方。お気に召したならダンスをご一緒したいな?」
 甲高い歓声に投げキッスをしながら応え、ふたりがステージを去ると、つぎつぎと演奏者たちがつづいた。
 ティオ・バルバディージョが
「どーせなら皆で楽しむのですよ!!」
 と誘った結果、アマービレ・ミステリオーソがのってきた。
「病は気から、とも言いますし、ここは明るく楽しみましょう! 私が出来るのは歌うことくらいですが、希望に満ちた歌は明るい気持ちになりますよ」

黒の夢

 壇上で歌い踊り、合いの手求めて会場を盛り上げると、
「ラストです」
 という司会の声とともに顔を隠した、黒の夢(ka0187)が最後に出てきた。
「うなーなー、いっぱい見られてるのだ……」
 みんなの心にぽかぽかしたものを与えたいという願いを込めて舞いはじめた。
 妖艶で神秘的で懐かしい不思議な温かさを感じる舞い――それは、愛であり祈りでもあった 。

 祈り、祷り――そして、呪い……

 言葉は違い、それが相反のように見えよとも、その本質は同じ。
 リアルブルーもクリムゾンウェストも心が同じならば、伸びゆく心も、堕落する心もまた同じであったのだ――

担当:近藤豊
監修:藤城とーま
文責:フロンティアワークス

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