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【羽冠】

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システィーナ、いや女王陛下も苦労しているようだね。
じゃあ僕は……まぁ、安楽椅子探偵でも気取って応援してあげようか。
え? ちゃんとやれって? はは、この身体で切った張ったなんてとても、ね。
苦労するのはエリー、いや騎士団やハンターの皆に任せるよ。

ガンナ・エントラータ領主:ヘクス・シャルシェレット(kz0015)

更新情報(10月16日更新)

皆様大変お待たせいたしました!
本日10月16日、【羽冠】連動シナリオのエピローグとなるノベルを公開しました!
また同時にグランドシナリオや事後連動シナリオに参加されたユーザー全員に記念アイテム「システィーナ女王戴冠記念カップ&ソーサー」の配布を行いました。
これにて【羽冠】連動シナリオは完結。
新たな戦いを予感させるエピローグノベルをご確認の上、次の物語をお待ちください!
 
 

【羽冠】エピローグノベル「始まり」(10月16日公開)

●女王の日常

システィーナ・グラハム

セドリック・マクファーソン

「本日処理せねばならない案件は以上となります、陛下」
「分かりました。ではこの後は予定通りに避難訓練の視察に行きます」
 システィーナ・グラハム(kz0020)は執務机を挟んだ向こう側に立つセドリック・マクファーソン(kz0026)に予定を告げ、椅子にもたれて伸びをした。
 う、んと声が漏れ、背中が快い悲鳴を上げる。天に突き出した両手の力を一瞬で抜いてぐでぇっと机の上に脱力すると、頭上から大司教の呆れるようなため息が聞こえた。いや、
「ここに私と侍従しかおらぬとはいえ、気を抜きすぎませぬよう」
 ため息どころかお小言まで降ってきた。はい、と端的に返し――余計なことを言えばさらに小言が増えるのだ――システィーナは身体を起こす。机の上には今日決裁した書類の山があり、サイドテーブルには“継続中の案件”が乗っている。
“あの日”から約四ヶ月、思い返せば書類の処理と会議と視察と陳情聴取しかしていない。王女の時から執務を手伝ってはいたため「王様とはかくも煌びやかなり」といった幻想は抱いていなかったし、私生活が終わる覚悟もしていたけれど、まさかこれほど灰色の生活になるとは。
 いや宮廷政治を行う必要上、舞踏会や晩餐会も主催してはいる。しかしそんなものは華やかで楽しいものであるわけがない。
 何しろ、“あの日”――。
「陛下」
「はい、どうしました?」
「そろそろ第三城壁に行かねば訓練をご覧になれませんが」
「……もうそんな時間ですか」
 システィーナが席を立つと、侍従隊の面々がサッと配置について扉を開けた。

 第三城壁上から眺める避難訓練は、悪くない動きのように見えた。
 各街区に点在する教会ごとに周辺住民をその教会責任者がまとめる。街にはその集団同士が合流する地点を幾つも定めておき、王国騎士はそこに待機する。合流地点に人が集まったら予め決められた順路で第一・第二街区に向かい、王城・大聖堂・貴族邸とその地下に退避する。また順路の途中にも緊急地下待避所を用意しておき、間に合わない時はそちらに向かわせることになっていた。
 システィーナは粛々と城壁を越えて貴族街に入っていく人々を見ながら、安堵の息を吐いた。
「皆さんきちんと動けているようですね」
「第一と第二街区での訓練により、騎士団と教会が慣れたこと。手順を記した布告が行き渡ったこと。先の騒乱による街の損害が片付いたこと。それらが理由でしょうな」

ゲオルギウス・グラニフ・
グランフェルト

ジャック・J・グリーヴ

エリオット・ヴァレンタイン

ダンテ・バルカザール

ヘクス・シャルシェレット

 同じく城壁上から監督しつつ、王国騎士団長ゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトが言う。その言葉には自信というより、ようやく一つ仕事が終わったという疲労感が漂っている。
「よくやってくれました」
「もったいなきお言葉にございます。……あの金ぴかの悪ガキのせいで散々な目に遭いました」
「あはは……彼にも貸しを作ってしまいました、ね……」
 顔をしかめるゲオルギウスに、システィーナは苦笑を返す。
 この避難・防衛計画を一から作り上げたのは青の老騎士だが、立案には金ぴか――グリーヴ家のジャック・J(ka1305)をはじめとしたハンターも関わっている。むしろ彼に焚き付けられた。
 間違いなく必要なことであるし、いずれやらねばならないことだったけれど、何十万もの人がひしめくこの王都で実際に計画し実行しようと思えば気の遠くなる事務処理と交渉と調整が発生する。その労苦を思えば、愚痴の一つも言いたくなるだろう。
 けれど、その甲斐あって整然とした行動ができている。
 これなら“あれ”の被害を少しでも減らせるかもしれない――と考えた時、下から聞き慣れた青年の声が聞こえた。

「……ち着いて進め! 隣の者……自分は独りではないと確認……! ……国騎士が必ず守……!」

 見やれば、“黒の騎士長”たるエリオット・ヴァレンタイン(kz0025)が先導する集団が城門を越えるところだった。ゲオルギウスが口角を歪めて鼻を鳴らす。
「生き生きとしおって」
「けれど彼らしいと思います」
「この老いぼれに面倒事を押し付けて現場に出るのはさぞや楽しいでしょうな」
「あら。ずっと先達やダンテ・バルカザール(kz0153)、エリオットの後塵を拝しながらも、薪に伏せ肝を嘗める思いで騎士団長を目指していた貴方らしくないお言葉ですね?」
 うふふと言えば、現騎士団長が眉根を寄せて呻いた。
「……女王陛下が随分ご成長あそばされたようで、頼もしい限りですな」
「ありがとう。それとマーロウ大公と連携して教会に口添えしてくださった件も、感謝します」
「…………ああ、異端審問の件ですか。避難計画の激務があまりに耐えがたく、気分転換にやったまでです」
 結婚騒動より前から有耶無耶の状態で留め置かれていた、エリオット・ヴァレンタイン及びヘクス・シャルシェレット(kz0015)への異端審問。歪虚に与したという嫌疑はどうにか晴らすことに成功していた。いやヘクスの方は功罪相半ばという雰囲気を教会からは感じられたけれど、それが逆にエリオットの潔白を強く印象付けたのだ。
 もちろん、大公と老騎士の口添えも大きかったけれど。
 おかげで王国は、“来たるべき日”に向けた戦力を一つ取り戻すことができた。
「陛下、そろそろ戻られますか? お時間があるならば騎士の訓練までご覧になっては如何か?」
 ゲオルギウスの質問に、システィーナが思案する。
 そしてふと青空に視線が向かいかけ、背筋に冷たいものが走った。
「……で、は、訓練まで見ていきます」
「かしこまりました」
 震えをひた隠し、システィーナは歩き出す。
 空は、事前に気合を入れて頑張らなければ、直視できなくなった。
 何故なら、“あの日”――思い出すのも恐ろしい、宣告が降ってきたからだ。

●とある古ぼけた紙片より
 それが天より下されたのはシスティーナ・グラハムの戴冠より二日後、記念祭における最終日の逢魔時であった。
 興奮冷めやらぬ人々が後夜祭でも始めんとするが如く宴を続けていた夕刻、突如として王都イルダーナの空は黒雲に包まれた。のちに調査したところによれば黒雲は王都と古都アークエルスの間――研究のため古都へと輸送されていた“ラスヴェートの石”を基点として広がっていたようであるが、ともあれ当初は王都を覆わんばかりの黒雲に誰もが息を呑んだ。
 そうして静まった王都に響き渡るは、低く伸びやかな青年の声。上に立つことが当然であるが如き傲慢な色を滲ませた挨拶であった。

“このイヴが王国なる地に住まう者どもに告ぐ。突然であるが、お前達にこの俺へと拝謁する栄誉を与えよう。
 喜べ、人間達よ、この俺に跪いて首を垂れることを許す”

 天空から降ってきた言葉に人々が空を仰ぐと、雷鳴轟かす黒雲は二人の姿を映し出していた。
 一人はいとけなき娘。邪気のない笑顔を浮かべ、隣の者の腕にそっと手をかけている。
 もう一人は青年、あるいは少年とも呼べるほど美しき男。白磁の如き肌と禍々しき角に目を引き付けられる。
 如何なる魔法か、彼らは黒雲を鏡のようにしてそこに映り込んでいた。

“首を垂れたか? 人間よ。ならば俺の名を胸に刻むがよい。イヴ、それが次にお前達が崇め立てる者の名だ”

 イヴと名乗りし者は言葉を続ける。その言葉は筆者たるこの私すら忘我し、書を綴ることを放棄したほどに蠱惑的であった。よもやこの身が役目を果たせぬ時が僅かでも訪れるとは、七生経ってなお恥じねばならぬ不覚である。

“そして未来の臣民どもに告ぐ。
 この俺を迎える準備をせよ。期限はひととせ……いや六月。年が暮れた頃に先触れを出す。
 それまでに王国なる地を整え、万全の状態でこの俺の行幸を待て”

 イヴなる者――もといもはや正体は明白であろう、イヴなる傲慢の歪虚王――は王国暦1018年の終わりを指定し、令を下す。
 人々は誰一人の例外なく押し黙り、理解の早かった者から順に身体を震わせてゆく。僅か十分前には陽気であった彼らは、今や死の際に立つが如き顔色をしていた。

“その時を楽しみにしているぞ、未来の臣民達よ……”

 それを最後にイヴなる歪虚王の虚像は哄笑を上げながら消えていく。そのうちに黒雲も霧散し、後には血の如き紅の空だけが残された。
 女王システィーナ・グラハム治世下、最初にして最大であろう試練。
 それは、グラズヘイム王国の存亡を懸けた生存戦争であった。

(執筆:京乃ゆらさ
(文責:フロンティアワークス)

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