※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
瞬交
「わけがわからんな」
 リィェン・ユーは視線を前に据えたまま、“観の目”で辺りを窺った。
 下に溶岩流でも通っているのだろうか、黒い大地は彼の足裏を熱の牙でかじり続けている。
 ならば足を止めずに駆け抜ければいいのだろうが、まずもって果てが見えない。なだらかな起伏こそあれ、地の果てまでも続く荒涼である。
 これだけ熱いのに涼とは笑うに笑えないが、問題はそれではなかった。
 テェェ!
見知らぬ型の大鎌を振るう、見知らぬ貌をした化物ども。
 それが熱気の内より沸き出でては彼の命を刈り取ろうと迫り来るのだ。
「従魔ではなし、もちろん愚神でもありえず。なんなんだ、こいつらは?」
 自らの粋とAGW作製技術の粋とを尽くして研ぎ上げ、澄ませた屠剣「神斬」――“極”をの鎬を盾に先陣を切る化物の鎌刃を受け止めておいて、足場をずらしていなして崩し、足首で敵の足を引っかけて払いながら柄頭を叩き込む。
 この套路は蟷螂拳の応用であるが、あえて左右のステップワークを捨てて前進に特化した伝統技を選んだ理由は、一対多においては動きを止めぬことこそ重要であり、腰を据えたまま攻防一体を為す技のほうが取り回しやすいからだ。加えて。
 充分に練り込んだ発勁を打ち込むにも、都合がいい。
「ふっ」
 左拳に握り込んだ勁を打ちつけられた化物は容易く爆ぜ、血肉を撒き散らすこともなく黒土の何処かに溶け消えていった。
「とにかく進んでみるしかないか……」
 リィェンは化物を蹴り倒した足をそのまま土へと突き立て、駆け出した。
 化物が染み出してくる方向は一定だ。奴らの背後に向かえば、なにか別のものに行き当たるかもしれない。


「テェェ? 形(なり)は化物だってのに、かけ声は武道家気取りかよ」
 ティーア・ズィルバーンはげんなりと吐き捨て、相棒たるアックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」を思いきりスイングした。
「おおっ!」
 跳びかかってきた得体の知れぬ化物どもの一匹を斧刃で叩き潰し、その隙に潜り込んできたもう一匹を即座に変型させた剣で叩き斬る。
 アックスブレードは文字どおりに斧と剣の二形態を取る武具で、真骨頂もまたそこにある。
 一撃での必殺を成すには、武具それぞれが持つごく狭い“間合”を掴む必要がある。重心を先端に持つ斧は白兵戦における中距離を間合とし、重心を中央部に置く剣は近距離をこそ間合とする。当然ここには殴撃と斬撃の効果も関わってくるわけだが、次々襲い来る化物相手ではそれを測っている暇はなかったし、なによりどちらも友好である以上、気にすることもない。
 ティーアはすべるように足を運んで間合を切り替えながら打ち、斬り、討つ。疲労を抑えるには動きを抑える必要があり、だからこそ彼の兵法は正しくある。しかし。
 こう熱くちゃ、な。
 足元から迫り上がり、絡みつく地熱は確実に彼の体力と気力とを削り落としていた。このままでは足が止まり、次々沸き出す化物の鎌に引き倒され、首を刈られるだろう。
「ボスはどこだよ――ったく、それよりどこなんだよ、ここ」
 ぼやきながらも脚部に流し込んだマテリアルへ点火、瞬脚を発動した彼は、一気化物の包囲を突き抜けた。
 おそらくはこの雑魚どもを操るなにかがいる。そうであるなら、化物の奥を目ざすのがもっとも行き当たる可能性は高いはずだ。


 進むほどに化物の包囲陣は濃密さを増していく。
 それにしても、鎌を持っているくせに拘る様子がないのは厄介だ。一匹ずつ色味はちがうが、緑、紫、赤黒……なんとも毒々しい体をこちらへぶつけてこようとあがく。試すつもりなど毛頭ないが、捕まったらそれこそ毒でも喰わされそうで怖い。
 これ以上近づけさせたくないが、そうも言っていられなくなってきたな。
 体の重心を高くし、ジークンドースタイルへと切り替えたリィェンはサイドステップからの横蹴りで一匹を吹っ飛ばしておいて、次の一匹の口中に大剣の切っ先を押し込み、体重を預けて貫いた。
 膂力ならぬ重さを利した兵法は体力の温存を可能とするが、その分精神力をすり減らす。どのみち長く続けられるやりかたではなかった。
「さて、どうするか」
 迫る化物どもを見渡して彼が息をついた、そのとき。
「人間か!?」
 横合から突き込まれた剣が化物どもを串刺し、リィェンの視界を拓いた。
「ここでまともな言葉を聞けるとはな」
 行き過ぎていく剣の主の背に自らの肩を弾ませ、斜め前へ跳びだしたリィェンは“極”を振るって化物どもの追撃を斬り払う。
「なんだ、その力……マテリアルじゃないのか」
「きみの体を包む力は、ライヴスとはちがうか」
 互いに得体の知れぬ力を備えているようだったが、ともあれ。
「踏み込むぜ!」
 剣から斧に姿を変えた得物で一匹の頭部を叩き割った黒き甲冑の男――ティーアがリィェンに短い声音を飛ばし。
「おう!」
 リィェンもまた短く応えた。
 互いに名乗ることも多くを語ることもない。なんというか、通じたのだ。互いの目ざす先がひとつであり、為すべきも成すべきもまたひとつであると。

 かくて両者は進む。
 連携すらも超えた……熟達した武人が左右の手で振るう刃さながらの戦いぶりで、化物に埋められた熱き黒土をまっすぐと。
 そして行き当たった。
 身の丈は20メートルにも達しようか、女の形をした化物に。
「化物の親玉か」
 リィェンの言葉にティーアが「ああ」。
「見ろよ」
“女”のだらりと下げられた手からぼろぼろとこぼれ落ちるものは、まさにあの化物どもである。
 なるほど。これまで彼らに組み付こうとしてきた化物は、この“女”の欠片だったわけだ。
 テェェェェ。
“女”の口から、咆吼と共になにかが迸った。液体に見えるそれが形を成さぬ化物であることは、ぶちまけられたそれが足元に落ちた同胞もろとも黒土を溶かし、かき消えていくことで知れた。
「圧倒的だな」
 リィェンは“極”の影に我が身を隠して飛沫を避け、うそぶいた。
 女がその内に溜め込んだものは、触れただけで魂を侵し、掻き壊すほどの猛毒。
 しかし、この感じはどこかで――
「首を刈れば、殺せなくても揺らがせるくらいはできるだろうぜ」
 ティーアの言葉に我を取り戻し、リィェンは“女”へと踏み出した。
「踏めるか?」
 応える代わり、口の端を吊り上げたティーアは“女”の毒液を避けて前へと跳んだ。
 同じく前へ駆けたリィェンはティーアの下へ潜り込み、腹を上にして掲げた“極”に肩を突き当てて発勁。
 凄まじい勢いで跳ね上がった“極”を踏んだティーアが、縮めていた身を伸ばし、思いきり上へと跳ぶ。
「首まで届かなくても!」
“女”の盛り上がった胸の先にサブマリンシューズのつま先をかけ、さらに上へ。さすがは水中での活動を想定して造られた一品だ。滑ることなくしっかりと表皮に食いつき、ティーアの体重と勢いを支え抜く。
「首、出せやあああああああああ!!」
 その瞳から流れ出す蒼光で軌跡を引き、体内を駆け巡るマテリアルの銀を映した体ごとぶつかるように斧刃を、“女”の長く太い首へ叩きつけた。
 ティーアのオリジナルスキル、【AS1】蒼き雷光の軌跡により、熟達の木こりの斧を受けたがごとくに首の半ばを断たれた“女”が口を開く。その奥から湧き上がるものは、化物の塊。
「ち!」
 吹きかけられることを覚悟したティーアだったが、“女”が唐突に口を閉ざし、傾いた。
「人型である以上、支えてるのは足だろう?」
 ティーアの一撃を見た瞬間、リィェンはドレッドノートドライブを発動し、踏み込んでいた。確かに“女”は巨大で得体は知れないが、この刃が及ぶならば、刈れる。
 振りかざした“極”へ膂力と自重のすべてを乗せて斜めに斬り下ろしながら、上体を倒し込んで落下力を加算。ライヴスと遠心力とを吸い込んだ刃をさらに加速させた。
 かくてただのオーガドライブは、ここに必殺の一閃を成す。
 テェェェェ――
 足首を断たれた“女”は均衡を崩し、地響きをたてて膝をついた。その勢いで肘をつき、頭を地表に叩きつける。
「これなら跳ばなくても」
 ティーアが“女”の首へ左から駆け込み。
「届くな」
 リィェンが右から駆け込んで。
 アックスブレードと“極”とを同時に、“女”のちぎれかけた首へと打ち込んだ。


 確かに“女”の首は刈った。
 そのはずなのに、“女”は五体満足な様で彼方に立ち尽くし、テェェェェ――呪詛を振りまいている。
「考えられるのはこれが悪夢ってことだな。なにせ俺はこんな場所に来たことがないし、斬ったはずのあいつが元気なのもそれならわかりやすい」
 頭を掻きながら言うティーア。
「どちらかが相手の夢の登場人物というわけか……見も知らんはずのきみにどことなく親近感を感じるのはそのせいかもな」
 うなずくリィェンに、ティーアはアックスブレードを掲げて見せ。
「試してみようぜ? どっちが夢の主かわからんが、主が消えれば夢も終わるだろうよ」
「いいだろう。背を合わせる中で気になっていた。武人としてのきみの技が」
 ふたりは一度刃を合わせ、間合を取った。
「リィェン・ユーだ。大剣と武術を使う」
「ティーア・ズィルバーン。見てのとおりのアックスブレード使いだ」
 果たして両者は息を合わせ。
 同時に踏み込んだ。
「しぃっ!」
 先にしかけたのは刃渡りで勝るリィェンだ。
 切っ先を突き込むと見せかけて土を突き、数瞬タイミングをずらして斬り上げる。
「えぐいな!」
 リィェンがなにかをしかけてくることは読んでいた。ただし、それがなにかまでは読ませてもらえなかったから、ティーアは縦に動いた“極”を避け、横に回り込んだのだ。もちろん、それだけで済ませてやるほど優しくはない。
 彼がつま先で蹴り上げた熱い土は狙いどおりリィェンの目を叩き、その動きを止める。
 そうだ、一瞬でいい。その間に変わるからよ。
 視線の届かぬ下方から、お返しのアッパースイング。剣であったアックスブレードが速やかに斧となり、重心の移動によってその先端を“芯”とする。
 剣状態よりも拳三つ分伸びた“芯”は、過たずにリィェンの頤を割り砕く――はずだった。
「それはもう何度も見た」
 豪快に涙を流しながら、リィェンはスウェーバックで斧を避けていた。
 そうか。リィェン、おまえ、わざとよけなかったんだな。俺に振り込ませるためにあえて受けて、涙で押し流しやがったわけだ。とんだ名役者だが、泣き虫は女に嫌われるぜ?
 重心が先に寄っているせいで、ティーアは振り上げた斧を止められない。体が流れ、崩れゆく。
 綺麗も汚いも併せ持つ兵法、悪くない。が、汚いほうは俺も得意でな。だからこそこうして綺麗な技を生かせもするのさ。
 すでに刺突の構えを整えていたリィェンはそのまま切っ先をティーアへと繰り出した。余計な力を込めれば刃がぶれる。優しく、まっすぐ、押してやるだけでいい。
 迫る刃を見やり、ティーアは噛み締めていた奥歯を解いた。
 いやな軌道だな。ぴったり正中線に合わせてこられたらよけられないだろうが。でもな、その綺麗すぎる剣、汚すくらいは難しくないぜ?
 脱力したまま体を上に流し、ティーアは甲で鎧われた膝を突き上げた。それこそ力などほとんど込めていない膝蹴りではあったが、大剣の刃よりは重い。ましてやリィェンの剣には、膂力も自重も乗せられていないのだから。
「っ」
 大剣を弾いた反動で踏み下ろした足を軸に、ティーアが剣へと戻したアックスブレードへ渾身のマテリアルを込めて突き込んだ。
「はっ」
 弾かれた反動を利して刃を返し、リィェンがライヴスの限りを注いだ“極”を叩きつけた。
 ティーアの刃がリィェンの喉を貫き。
 リィェンの刃がティーアの首を断つ。
 その痛みと手応えとが、脳に届いた――


「心臓、動きました!」
「電気ショックはもういい! 強心剤の用意を!」
 リィェンは次第に像を結ぶ世界に視線を這わせ、思い出す。
 そうか。俺はテ料理で……
 いつものごとくにジーニアスヒロインの手料理で斃れ伏したリィェン。
 彼はどうやら危ういところで死を免れ、しぶとく復活を遂げたところであるらしかった。
 あれが夢だったとすれば、あそこは煉獄で、あの化物はテの毒の具現化。そして“女”は、テ料理そのものだったのだろう。喪われる端から生産される彼女の料理――まさに不滅である。
 さすがだな、きみのテは。
 リィェンは微笑み、ちぎれた胃から鮮血の塊を吐き出して意識を失った。
 彼の悪夢を共有した剣士のことを思い出す間もないままに。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【リィェン・ユー(aa0208) / 男性 / 22歳 / 義の拳客】
【ティーア・ズィルバーン(ka0122) / 男性 / 22歳 / アックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」マイスター】
 
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
ゲスト(ka0000)
副発注者(最大10名)
ティーア・ズィルバーン(ka0122)
クリエイター:電気石八生
商品:イベント交流ノベル

納品日:2018/06/29 21:34