• 東征

【東征】陰の乾/兵どもが夢の跡

マスター:cr

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/09/10 12:00
完成日
2015/09/18 18:47

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 九蛇頭尾大黒狐・獄炎と人々との戦いは東方の広い範囲で行われていた。
 あちこちで人類と歪虚が激突し、同時多発的に戦場が発生する。その中で繰り広げられる死闘と呼ぶべき両者入り乱れての戦い。
 そんな戦場の一つ、そこに女は立っていた。
 周りを見れば妖怪変化達の亡骸が文字通り死屍累々と積み上げられていた。この戦場では、人類側の優勢で進んでいるようだ。
 その、人間達が集まり文字通り黒山の人だかりが出来ているそこへ、女は飛び込んでいった。
 右腕にはその身の丈と同じぐらいはあろうかという大太刀。それを振り回し、一帯に殺戮の風を吹かせる。
 そして左腕には何も無し。否、彼女には左腕そのものが無かった。隻腕の女武者、彼女の名は九尾御庭番衆が一人、乾御前。人だった頃の名は乾直虎、その人であった。
 形勢を一気にひっくり返しかねないその獅子奮迅の戦いに、人間達もここで彼女を討伐すべく立ち向かう。
 そんな人間達の姿を一瞥すると、御前はやおらその手にした太刀を投げつけた。その太刀は戦場を突き抜け、一気に人々の中へと飛び込んでいった。
 刃が舞い、血煙が上がる。その様子を彼女は見ようともしなかった。なぜなら後ろから別の一団が彼女へと向かってきたからである。
 すかさず御前は背中に担いだもう一振りの太刀を抜き、攻撃を受け止める。その次の刹那、彼女が投げ付けた太刀が手元へとひとりでに戻って来ていた。これぞ乾御前の秘剣、戻り刃である。
 だが、彼女の右腕にはすでに太刀が握られている。そして左腕はそもそも無い。戻ってきた太刀の納まる場所が無い。その時だった。
「冥土の土産に見せてあげるよ。我がもう一つの秘剣――踊り刃を!」
 その言葉とともに、御前は舞い踊るように身体を動かす。それに合わせ戻ってきた太刀も空中を舞い踊る。かくして起こる剣風に人々は為す術がなかった。


 御前が一人刀を振るい続ける。人々は何とか押し返そうとするが、踊り刃を破る事は叶わなかった。そして、突然堰を切ったように人々は散り散りに逃げ出す。
 臆病風に吹かれたか、御前はそう思い、興味を無くし太刀を納めようとする。その時だった。遠く離れたこの位置からでもはっきり見える、弾けるように霧散する炎の数々、そして吹き抜ける一陣の風。
「ああ、終わったのかい……」
 それは彼女の主である歪虚王がその最期を迎えた事を意味していた。


 一方ここは龍尾城大広間。そこではスメラギと立花院 紫草が向かい合っていた。
 人々は歪虚王を討ち滅ぼすという悲願を果たし、勝利を収めていた。嫌でも心は浮かれるが、それをぐっと押しとどめる。被害状況の確認、傷ついた者の手当、それに歪虚の残党の討伐。彼らにはやらねばならぬ事がまだまだ残っていた。
 紫草は一つづつやるべきことを説明し、確認していく。その時やおらスメラギが口を開いた。
「どうした、紫草。何か心残りがあるみてぇじゃねえか」
「……お見通しですか」
 変わらず温和な笑みを浮かべながら答える紫草。
「何が心残りなのか当ててやろうか? ……乾直虎のことか?」
 そのスメラギの言葉を、紫草は沈黙によって肯定した。乾御前討伐の報告はまだ彼らの元へとは上がっていなかった。彼女が人知れず討たれるとは考えにくい。ならば……彼女は放置しておくにはあまりに危険だ。
「紫草、間違ってもお前自ら打って出るなんてことは考えるんじゃねぇぞ」
「……ええ、わかっています。彼ら、ハンター達の力を借りましょう」
 少しの間を開けて紫草はそう答える。そして彼は自らの腰に下げた刀を外した。
「……彼らのはこれを預けましょう」


 その頃、乾御前は未だ一人戦い続けていた。立ち向かってくる者があればそれを斬り捨て、逃げ出す者があればそれをただ見逃す。彼女の主は既に居ない。彼女が戦う意味など既に無い。それでも彼女は悪鬼羅刹と化し戦い続けていた。
 やがて、向かってくる者が誰も居なくなり、荒野に一人立つ。手にしていた太刀を納め、周りを舞っていたもう一振りの太刀を手元に戻す。
 戦う意義を無くした彼女が未だ戦い続ける理由、それは誰にもわからなかった。彼女は太刀に付いた血を拭うと、龍尾城の方角を遠い目を見つめこう一言呟いた。
「待っているわ、紫草」

リプレイ本文


 ハンターたちが乾御前の元に辿り着いた時、すでに陽は沈み辺りは真っ暗になっていた。
 そこに一人佇む御前の元に、四方からハンターたちが間合いを詰める。
「戦う意義を無くした貴女がが未だ戦い続ける、私にその胸中は推し量る事は出来ません」
 御前の正面から現れたのは真田 天斗(ka0014)。戦士と認めた相手だからこそ、礼を尽くし立ち向かう。
「同じ戦いに身を置く者として、その折れぬ意志には敬意を表します」
 そして真田は二つの拳を握り、顔の前に構えた。それは彼が磨き上げたボクシングの構え。
 それをその紅蓮に燃える眼で見た御前は、下ろしていた太刀を正面に構えた。
「ありがとう。待っていたよ、お前達を」
 そして、御前は太刀を高く高く、頭上にまで振り上げた。そのまま天を一瞥する。そこには一つも欠けること無く輝く月があった。
「良い月だ……今宵は死ぬには良い時だ」
 そして戦いは音もなく静かに始まった。
 真田が円を描くように間合いを保ち、それを御前は動かず体の向きを変えて合せる。その時だった。
「そこか!」
 一瞬のうちに真後ろに向き直った御前の元に、緑の風が飛ぶ。それは御前の胴をしたたかに蹴りつけそして宙を舞う。
「久しぶりね、乾御前……いえ、乾直虎。この前の戦いの続き、ここで決着つけましょう」
 緑の風は地に降り立つ。そこに居たのはアイビス・グラス(ka2477)。そして一瞬のうちに再び宙を舞った。
「この国の熟練格闘師までとはいかないけれど、これが私なりの戦い方よ!」
 左右のみならず、上下にまで動き翻弄するアイビス。さらに御前の敵は彼女だけではない。背後に居た真田も間合いも詰め攻撃を開始していた。
「ミス侍、これがボクシングの技です!」
 軽いものの鋭いジャブで空間を支配し、御前に攻め手を与えない。さらに、合間に強烈なストレートを打ち込み隙あらばなぎ倒そうとする。最も基本的な技術であるワンツーパンチも、その積み重ねた研鑽が時に戦いを決める技となる。
 だが、御前は二人の攻撃を時に受け、時に攻めながら周囲を伺っていた。二人の攻めは決して踏み込みすぎず、それでいて注意を引くように動いている。ならばこの二人は囮で本命が別にある――御前のその読み通り、次の一撃が襲ってきた。
「あれが噂の……ふふっ、どれくらい強いんでしょーか♪」
 小さな体を更に低く屈め、地を這うような斬撃で飛び込んできたのは葛音 水月(ka1895)。そのまま足元を斬り払うと見せかけ、視線を上げる。
 空中からの一撃――御前はとっさに上半身をひねりかわそうとするが、葛音はさらにその上を行っていた。空に浮かぼうとした体を押さえつけると、足元目掛け一呼吸のうちに二つの斬撃を食らわせる。その連撃は確実に御前の体を傷つけていった。
 だが、ハンター達の攻めはまだ続いていた。
 御前の左側から砲弾の様に突っ込んでくる影一つ。攻防一体に使える恐ろしく幅広の剣を抱えたアーサー・ホーガン(ka0471)であった。
 彼はそのまま御前の傷口目掛け、渾身の力で上段から振り下ろす。その一撃は御前の額を割り赤い花を咲かせた。
 だが御前は止まらない。行きがけの駄賃とばかりに正面に居るアイビス目掛け太刀を振り下ろす。前回戦った時とは比べ物にならない速さで振り下ろされる斬撃に、アイビスはとっさに受け流そうと構えるが、その無慈悲な一撃には何の役にも経たなかった。
 腕ごと押し切り、そのまま脇腹へと食い込む刃。血が抜け、一気に視界が霞むのがわかる。一つ目の太刀に全てを掛ける舞刀士の一撃――一之太刀と呼ばれるそれを受けて、なおも立っていられたのはアイビスならではであろう。
 しかし、御前は止まらない。そのまま強引に体を捻ると、隙をわざと残したアーサーを中心に辺り一体へ刃の嵐を巻き起こす。縦横無尽に降り注ぐ斬撃がアーサーの、葛音の、そして真田の体を傷つけていく。だが、最も傷ついていたアイビスには襲いかからなかった。真田が攻撃を受けながらも拳を打ち込み、斬撃を逸らしてアイビスのサポートを行ったからだ。彼女はそれを受け震える脚で間合いを離す。崩れそうな体を、必死に押しとどめていた。


 だが、いずれが本命の攻撃かとの御前の考えは誤りだった。なぜなら、この四人は全て囮だったのだから。
「ではでは、参ろうか~でござ~」
 のんびり、陽気な口調で向かっていったのは烏丸 薫(ka1964)。顔は明るい笑顔のまま御前の元へと向かっていく。そしてそのまま右手の刀で一撃。これをフェイントにして、本命の左手小太刀が襲う。特別な構えもなく、さしたる秘技も含まれていない。ただ、その一撃に満たされていたのは殺気。純然たる殺気である。この期に及んでも烏丸の顔は笑顔であった。ただ、笑顔に恐ろしいほどの殺気が含まれていた。そこに立つ烏丸の姿は、正しく剣鬼のそれであった。
 そしてその殺気を受け、受けた小太刀を脇腹に突き刺しながら御前もまた笑う。羅刹と化した両者がそこで対峙していた。
 そしてそこに重ねるように全く予想だにしなかった一撃が加えられる。
「俺は枢。アンタを祓いに来た」
 一瞬のうちに間合いを詰め、一撃を叩き込んだのは央崎 枢(ka5153)。そのまま顔が触れ合いそうな位置に立つと御前の返しを捌けるようトンファーを構える。
「あなたを越えると決めた以上、負ける訳にはいかないのですっ!」
 そしてもう一つの風がそこに飛び込んできた。脚にマテリアルを込め、極限まで速度を上げたその風の名は和泉 澪(ka4070)。彼女もまた、以前御前と戦ったものである。
「ああ、お前かい……嬉しいねぇ!」
 殺気を漲らせ澪へと向く御前。

「か、回復は僕に任せてください」
 一方その頃、傷つき後ろに下がったアイビスを癒しの光が包んでいた。その光を産みだしたのはレイ・アレス(ka4097)だ。聖導士でありまだ子供である彼の戦闘能力は他の者と比べるまでもない。だが、レイには自らにできることがあった。最前線とは言わないが、十分に前の位置で御前と対峙し、傷ついたものに癒やしの術をかける。他のもののサポートをする彼は、気づかれれば真っ先に狙われるだろう。だが、濃密な死の空気に満たされた場所に近づきながら、勇気を振り絞って彼は彼なりにできることを行っていた。

 一方澪が持ち前のスピードを活かし御前に的を絞らせず攻めている最中、央崎はトンファーを打ち込む……とフェイントを入れ、隠し持った手裏剣を投げつける。それが的確に御前の体に突き刺さった所で、彼はただ不敵に微笑んでいた。
 対して烏丸は一瞬の運足で側面に回りこむ。濃密な殺気は己の居場所を敵に知らせているようなものだ。だがそれで構わない。
「楽しい殺し合いは大歓迎でござる!」
 単純ながら確実に殺める剣が御前を襲う。
 烏丸が殺気を当て、澪が速度で翻弄し、そして央崎が挑発する。三位一体の攻撃が寄せては返す波の様に攻め立てる。
 それらの刃に囲まれて、御前はみるみるうちに傷つきながらも動こうとしていた。太刀を横に薙ぎ、そのまま再び動き始めようとしたその刹那、鈴の音のような声が辺りに響く。
「来ます!」
 それは澪の声だった。一度御前と斬り結んだ彼女にとっては見覚えのある動き、つい先程も披露した舞刀士の技、縦横無尽。それを繰り出す予兆であった。
 ハンター達は素早く身を引く。間合いを外したそこに、一瞬後に剣風が吹き荒れる。だがそこにもはやハンター達は居ない。

(かかった……)
 これこそ央崎が狙ったものだった。連なる斬撃が終わるその瞬間目掛け動く。
「終わりにしようぜ! 姫さん!!」
 ノーモーションから繰り出される一撃。それが御前の大柄な身体を揺らす。だが、まだ御前は倒れない。
 ならば。一度引く。今度は自分たちが囮になる番だ。暗黙のうちに意思を通わせ。前後を入れ替える。その時だった。
「逃げるんじゃないよ!」

 その叫びと共に、御前は手にした太刀を指から滑らせる。その刃は文字通り風を斬り裂く唸り声と共に、烏丸の元へと向かっていた。これぞ乾御前の秘剣、戻り刃である。
 迫り来る刃を前に、烏丸は動かず殺気を漲らせていた。彼が躱そうともせずただ立つのには理由があった。己が身体を鞘として刃を止める。殺気と狂気に満ちた笑顔のまま微動だにせず刃が来るのを待つ。
 そして、そこで烏丸の視界は闇へと落ちた。


「舐められたものだね……この乾直虎の前で二の太刀が継げると思うんじゃないよ……!」
 怒気を含んだ声が戦場に響く。わずか一太刀でハンター一人を戦闘不能に追い込んだ恐るべき一撃。遅れて吹き抜けた風を身に受けて、澪は決意を固めていた。
 そして彼女は持っていたもう一つの刀を抜く。
「直虎さん、この刀に見覚えはありますか?」
「……皆まで言うな。忘れるわけ無いだろう?」
 そのとき、辺りを覆う澱んでいた空気が晴れたような気がした。ただ、純粋なる死の香りを漂わせていた御前の身体から、僅かながら澄んだ光が差したような感覚を覚えた。
「ならば……また一本、勝負ですっ!」
 そして両者は正対した。一瞬にも永遠にも思える時の後、先に動いたのは澪だった。
「鳴隼一刀流・抜刀術、蒼隼疾風!」
 一瞬で間合いを詰め、そのスピードを乗せた最速の一撃が御前の腹部に突き刺さる。
「ありがとう……ならば、我が太刀でお相手しよう」
 すかさず背負った太刀を引き抜き澪に斬り返す。澪はその速度のまま一気に位置を変えかわす。その時御前が叫んだ。
「刮目して見よ、我がもう一つの秘剣、踊り刃!」
 そこに烏丸に突き刺さっていた太刀が戻ってきていた。それが御前の周囲を舞い、澪に襲い来る。
 とっさに気づき、刀で受け、弾く澪。だが、受けごと押し切るような強烈な衝撃が澪の体に伝わる。バランスを崩したところに、もう一度太刀が襲いかかった。

 その時緑の風が再び吹き抜けた。何かと何かがぶつかる衝撃音が鳴り、太刀は地面へと叩きつけられていた。
「例え無理だと分かっていてもね、退けない時があるの」
 アイビスは御前に語りかける
「格闘家として、自分としての意地の為にもね……ッ!」
「ああ、退くんじゃないよ。そして逃げるんじゃないよッ!」
 そして再び、血なまぐさい戦場の香りが辺りを包み込む。
 再び攻め手に代わった真田が鋭く踏み込み、パンチを畳み込む。御前もそれを体で受け、そのまま太刀を袈裟懸けに振るう。
「中々キツイですね。流石は九尾御庭番衆です」
 大きく身を屈めてかわし、そのままサークリングして体を流す真田。御前も真田を捉える為そちらへと向き直る。
 その時、死角から刃が駆け抜けた。下からすり上がるように葛音が飛び込み左右に斬りつける。その勢いのまま向こうへ抜けそこで一言。
「今ですっ、いっちゃってくださいー」
 その葛音の声とともに、その声が向けられたのと全く別の方向からアーサーが飛び込んできた。その手にした巨大な剣が歪虚の体を削り取っていく。
 だが、御前は次の一撃を狙っていた。地面に叩きつけられた太刀を手元へと引き戻す。
 しかし戻るべき彼女の右手には既に太刀が握られていた。その時、御前は周囲を取り囲むハンター達ではなく、その奥に視線を向けていた。
「危ねぇ!」
 アーサーの声かけよりも早く、太刀は再び宙を舞っていた。それは一直線に飛ぶ。後方で傷ついたハンター達を癒やしていたレイの元へと。
 すかさず尻餅を突くように倒れこみ、姿勢を低くしてかわそうと試みるレイ。だが、刃はそのまま真っすぐ、レイの左胸、心臓を貫くよう突っ込んでいった。
「クソッ!」
 その時レイと太刀の間に央崎が割り込む。味方達のために時間を稼ぐため、そしてレイを守るため。その凶刃の前に身をさらし、トンファーで受け止めようとガードを固める。
 だが、覚悟を決めた歪虚の一刀はその防御をあっさりと乗り越えてきた。受けごと押しつぶし、刃は央崎の体に深々と食い込む。
「ちく……しょう……」
 薄れゆく意識の中、央崎は仲間達に後を託した。


 戻り刃が央崎を沈め、御前の手にもう一つの太刀が戻った頃、澪は再び踏み込んでいた。
「今度こそ決着をつけましょうっ。勝負です!」
 自身の速さに全てを掛け、一撃ずつ加えていく澪。
 御前はそれを捌き斬り返す。何度も刃が交わり、互いの体を傷つけていく。
「余り動きすぎては、捕らえられぬぞ!」
 御前はその言葉通り、必要最小限の動きで澪についていく。それでいて斬撃の後は決してその場に留まらない。そこで行われていることは命の取り合いであるのだが、御前のその動きはまるで己の技を澪に託そうとしているかの様であった。
 そして澪が動いた。再びの蒼隼疾風が打ち込まれ、澪の手にした刀が深々と御前の体を貫く。手応えはあった。
 だが、御前はまだ倒れなかった。
「いい剣だったよ」
 その一言とともに、振るわれた一刀。何千回という研鑽の上に形作られた基本の一撃が確かに澪の体を捕らえ、彼女の体を吹き飛ばしていた。

 そして御前は再び太刀を引き戻す。そのまま手に納めず、周りを舞わせようとする御前。さらに
「そこだ!」
 もう一度渾身の一撃を食らわせようとしていたアーサー目掛け、御前は戻り刃を放った。同時に踊り刃が彼女の体の周りを舞い始める。
 だが舞ったのは太刀だけではなかった。彼女の元に戻っていく太刀の柄を葛音が握り、その小さな体を宙に舞わせ、そして御前の額へと刃を叩きつける。
 さらに真田とアイビス、二人の拳と脚が同時に御前を襲う。真田のワンツーが御前の体勢を崩す。そこに自らを顧みず放たれたアイビスの乾坤一擲の一撃が打ち込まれる。達人の太刀筋にも勝るとも劣らないハイキックが御前の側頭部を捕らえ、そして御前の体は傾いていく。

「どんな経緯で歪虚になったか知らねぇが、なっちまった時点で、終わっちまってるし、止まっちまってるんだ」
 その時、もう一本の太刀が御前の元へ戻ろうとしていた。それを握り勢いを付け向かっていくのはアーサー。
「精々、先へ行く俺の糧になれ」
 そしてアーサー全身全霊の一撃が御前の体を貫いた。


 夜の龍尾城。煌々と輝く満月の灯りが室内を照らす。広い畳敷きの間の真ん中で将軍、立花院 紫草が佇んでいた。
 そこに窓を破り何かが飛び込んできた。それは紫草の前に突き刺さり止まる。
「……終わりましたか」
 将軍の前にあったもの。それは主人の手を離れた乾直虎の太刀であった。月明かりに照らされて、その刃がきらめく。
 そして空いた窓から風が一つ吹き抜ける。

「死なせてくれて、ありがとう」

 その風とともに、一つ声が聞こえたような気がした。

依頼結果

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MVP一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗ka0014
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月ka1895

重体一覧

  • 月日星の剣
    烏丸 薫ka1964
  • Centuria
    和泉 澪ka4070
  • 祓魔執行
    央崎 枢ka5153

参加者一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 月日星の剣
    烏丸 薫(ka1964
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • Centuria
    和泉 澪(ka4070
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 内に潜めし覚醒毒
    レイ・アレス(ka4097
    人間(紅)|10才|男性|聖導士
  • 祓魔執行
    央崎 枢(ka5153
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/30 16:52:24
アイコン 仕事の時間です
真田 天斗(ka0014
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/09/09 23:12:53