真実の実・リンゴを食べた人は……!

マスター:星群彩佳

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
8日
締切
2015/10/04 22:00
完成日
2015/10/17 14:12

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

○真実の実を食べたハンター達は……

「お嬢様、本日のオヤツはアップルパイでございます。お茶もリンゴジャム入りのアップルティーにしてみました」
「美味しそうね! 我がウィクトーリア家が所有する山で採れるリンゴは、大きくて美味しいし♪ 毎年この時が楽しみなのよね」
 僅か十歳にしてウィクトーリア家の仕事をこなしているルサリィ・ウィクトーリア(kz0133)は、ティータイムにメイドのフェイト・アルテミス(kz0134)が銀のトレーにのせて持ってきたオヤツに眼を輝かせる。
 ウィクトーリア家では自然の食材を得る為に、人の手を加えていない自然の山をいくつか所有していた。そのおかげでこの季節になると、秋の味覚をふんだんに収穫することができるのだ。
 特にルサリィはリンゴが大好物で、今日は先日収穫したばかりのリンゴを使ったオヤツになっている。
 ルサリィは仕事机の上を片付けて、早速フォークを手に取った。
「それじゃあいっただき……」
「お待ちください! ルサリィお嬢様っ!」
 そこへ突然、平メイドで十五歳のエルサが部屋に飛び込んで来る。
 上司のフェイトは、息を激しく切らしているエルサをキッと睨み付けた。
「何事ですか、エルサ。ルサリィお嬢様に失礼ですよ」
「突然のご無礼、申し訳ございません! ですが、リンゴは口になさらないでください!」
 口を開けてアップルパイを頬張ろうとしていたルサリィを、エルサは必至の形相で見つめる。
 あまりの迫力に気圧されたルサリィは、アップルパイを刺しているフォークを恐る恐る皿に置いた。
「まっまだ一口も食べていないわ。リンゴがどうかしたの?」
「そっそれがですね……。先日、ウィクトーリア家が所有している山から、リンゴを大量に収穫させてこの屋敷へ運ばせましたよね?」
「そうですよ。リンゴはルサリィお嬢様の大好物ですからね」
 フェイトが頷きながら答えると、エルサは視線を泳がせながら続ける。
「そしてあの山の近くには、魔術師を育てる為に資産家達が設立した寮付きの学校があります。在籍しているのは主に、お嬢様と同じ歳ぐらいの子供達でして……」
「そんなこと説明されなくても、お嬢様も私も知っています。ちゃんと本題に入りなさい」
「はっはい! かっ簡単に申し上げますと、魔術師の卵である子供達がウィクトーリア家の所有する山にこっそり入り込み、魔法の練習をしていたそうです。そして魔法をかけた対象が、リンゴなのです!」
「うっそ!」
 ルサリィは慌ててソファ椅子から飛び降りて、壁に背を付けた。
「学生達はリンゴにどんな魔法をかけたの?」
「それが『リンゴを食べた人は嘘をつけなくなる』……と言いますか、思っている本音が全て口に出てしまうらしいです。リンゴの実には【真実を言わせる】魔法がかけられたようなので……。学校に問い合わせてみたところ、学生がかけた魔法なのでどんなにリンゴを食べても半日ほどしか効果は続かないそうです」
 思いのほか簡単で身体に害のない魔法だったので、ルサリィはほっとして肩を下ろす。
「毒リンゴかと思ったけど、そうじゃなかったのね。だったら勿体無いけど、リンゴは全部処分して……」
「それがもう遅いんですよ!」
 エルサは泣きそうな顔で声を荒げる。
「……あっ! もしかして振る舞ったリンゴもそうなのですか?」
 フェイトは思い当たることがあるらしく、青ざめた顔になった。
「そうなんですぅ。どうしましょう~?」
「えっ? リンゴ、もう市場で売っちゃったとか、飲食店に納品しちゃったの?」
 オイオイと泣き出してしまったエルサに代わり、フェイトが首を横に振って答える。
「いえ、今回はあくまでも味見用として収穫してきたので……。しかしお嬢様、お忘れですか? 今年はリンゴが豊富に収穫できたので、日頃の感謝を込めて先程までハンターの方達に振る舞っていたことを……」
「んっ? ……ああっ!」
 言われてルサリィは思い出す。
 確かにここ最近、ハンター達には世話になっていたので、お礼としてこの屋敷に招待したのだ。リンゴを材料とした飲み物や食べ物を大量にシェフに作らせて、ホールで立食パーティをしていた。
「その上、お土産にリンゴを渡してしまいましたし……」
 止めのフェイトの一言で、ルサリィは全身の血の気が引く。
「でっでもエルサ、何で今頃になって分かったの?」
「それがシェフ達が味見の為にリンゴを口にしていたようですが、徐々にその効果が出てきたみたいでして……。厨房では先程までケンカ騒ぎが起きていました」
 ところがルサリィ用にリンゴのオヤツを作って、フェイトに渡していたことを思い出したシェフは我に返り、エルサに食べるのを止めるように頼んできたのだ。
「今現在、使用人総出でお帰りになったハンターの方達に注意をしに行きまして、お土産に渡したリンゴも回収しています。しかし大分時間が経過してしまっているので、お土産のリンゴも他の方が食べている可能性が……」
「ひぃーっ! とっとにかく早くハンター達にリンゴのことを伝えて! 嘘をつけなくなるってことは、本音しか語れないってことでしょ? 聞いた感じでは良いように聞こえるけど、人付き合いの中では嘘を言うことも大事なのよ! 彼らの個人的な評判が落ちる前に、教えるのよ!」

リプレイ本文

●暴かれるハンター達の本音!

 ウィクトーリア家でリンゴの立食パーティに参加し終えた後、一人で街を歩いていたケイ(ka4032)は大きく伸びをする。
「んーっ! ウィクトーリア家で食べたリンゴ、ホントに美味しかったわ。パーティに参加したお仲間達とも、いろいろな話をすることができて楽しかったしね」
 ケイは満足そうに、笑みを浮かべた。
「こんなに良い経験ができるこの世界は、今日も醜く愚かで存在する価値の無いものね。……えっ?」
 急に自分の口から出た言葉に、ケイは驚いて歩みを止める。
(ヤダ、私ったら違うでしょ? こういう時は『今日も素晴らしい世界だわ』と言うべきなのに……)
「ケイ様っ!」
「こちらにいらっしゃいましたか!」
 そこへウィクトーリア家のメイドのフェイトとエルサが駆け寄って来た。
「アラ、十歳のおチビちゃんに心酔しているヤンデレメイドさん達、どうしたの……って、私がどうしちゃったの!?」
「ああ、すっかりリンゴの効果が出ていらっしゃるようで。まずはコレをどうぞ」
 有無を言わさずフェイトは、ケイの口の中にアメを入れる。そしてケイは二人から、自分が『真実の実』になったリンゴを食べてしまったことを知らされた。
「対応策としまして、アメを配っております。こちらをどうぞ」
 エルサは大量のアメが入っている袋を差し出す。
 二人は申し訳なさそうに深々と頭を下げると、次の犠牲者達の所へ向かう。
 再び一人で歩き出したケイは、深いため息を吐いた。
「ダメね、私は……。数十年かけても、あの人と交わした約束を何一つ守れていない……。早く……早く『あの人』にならなきゃ……! もう時間がないのに……」
 切実な本音が、ケイの口から洩れる。


 エルバッハ・リオン(ka2434)は一人で家への帰り道を歩いていたところ、フェイトとエルサが正面からこちらに向かって走って来るのが見えたので、足を止めた。
「お二人とも、どうかしましたか?」
 エルバッハは二人から、自分が食べたリンゴに魔法がかけられていた事実を教えられる。
「あら、まあ。確かに街にこれだけ多くの人達が集まっている中で、この胸を使って何かイタズラをしてみたいと思っていましたが……って、アラ?」
 思わず本音が出てしまい、エルバッハは眼を丸くした。驚いているフェイトとエルサを見て、慌てて誤魔化そうと口を開くも……。
「何せホラ、私の胸は年齢にしては大きい方でしょう? 本当は服越しではなく直接胸を相手の体に押し付ければ、面白い反応が見れそうなんですけどね。流石に男性は気の毒なことになりそうですし、やはりここは女性か子供に……」
「はい、対応策のアメです」
 エルバッハはフェイトに突然アメを口の中に入れられたが、ほっと安堵のため息を吐く。
「はあ……。これでもいくつもの戦いを経験してきたんですけどね。それでもイタズラ心を制御できないとは、私はまだまだのようです」
「今はその……あけすけに言ってしまう魔法にかかっているだけですよ」
 そう言ってエルサは、エルバッハにアメ入りの袋を渡した。
「そう、ですね。今の私は魔法にかかっているんです。なので人様に迷惑をかける前に、そしてアメが無くなる前に、急いで家に帰ることにします」
 エルバッハは苦く笑うと、二人に軽く頭を下げて帰り道を歩き出す。
「……ああ、ですが先程のリンゴパーティの時ならば、魔法のせいにしてイタズラが実現できたかもしれません。タイミングが悪かったですね」
 

 そして帰り道を共に歩いていた葛音水月(ka1895)と和泉澪(ka4070)にも異変が起きつつある。
 水月は澪と一緒にいるうちに、胸の中に熱い感情が膨らんでいくのを感じた。そしてとうとうその感情は、口から飛び出てしまう。
「……僕、澪さんのことが好きです! 歳も身長も澪さんより低い僕ですけど、一人の男として見てくれませんか? 僕、澪さんの隣に並びたいんです!」
 幸運と言うべきか、ちょうど人気のない場所での突然の告白だった為に、澪は驚きつつも冷静に対応できる。
「水月、ありがとね。告白は嬉しいけれど、水月のことは恋愛対象というよりは、弟みたいに思っているの。だからそういう関係では一緒にはなれない……かな?」
「あうっ!? そっそうですか……」
 ガックリと項垂れた水月を見て、澪は胸が少しだけズキッと痛むのを感じた。
「……でも、ね。水月が私のことをリードしてくれたり、敬語じゃなくて普段の水月の口調で話してくれたりすると良いなぁって思っているの。だって今のままじゃあ、何だか二人の間に壁があるように感じるんだもの。もっとお互いに近付いて、水月に私のことを知ってほしいし、私も水月のことを知りたいと思っているんだよ」
 水月が抱いているコンプレックスは、澪にも通じるところがある。
 しかし水月は澪に思いがけないことを言われて、キョトンとした。
「澪さんに……もっと近付いてもいいんですか? 僕はそんなにすぐには変われませんけど、澪さんがそう言うのなら変われるように努力します! そっそしたら僕……、澪さんのことをまだ諦めなくてもいいですか?」
 水月に切ない眼差しで見上げられて、澪は優しく微笑んで見せる。
「そうだね。もっと頼りがいのあるカッコイイ男性になったら、可能性はあるかもね?」
 すると水月はパァッと輝くような笑顔を浮かべた。
「ぼっ僕、頑張ります! 頼りがいのあるカッコイイ男になって、澪さんに弟じゃなくて一人の男として好きになってもらいます! 覚悟してくださいね!」
「ふふっ、頑張ってね。応援しているよ」
 そして澪は水月を励ますように、バシッと力強く背中を叩く。
「はっはい!」
 よろめいた水月の眼には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「良い雰囲気の時に、大変申し訳ないのですが……」
 そこへ突然、後ろからフェイトに声をかけられて、二人はギョッとして振り返る。
 そしてフェイトとエルサからウィクトーリア家でご馳走してもらったリンゴの魔法の効果を教えられて、二人はリンゴよりも真っ赤な顔になった。
「お二人には必要ないかもしれませんが、とりあえずどうぞ」
 エルサからアメ入りの袋をそれぞれ手渡されて、二人のメイドが去った後も、水月と澪はなかなか動き出せずにいる。
「……とりあえず、アメを食べましょうか」
「そう……ね」
 二人は気まずげにアメを口の中に入れると、再び並んで歩き出す。
 しかし水月は落ち着かなげに視線を泳がせていたが、やがて覚悟を決めて、手を伸ばして澪の手をギュッと握り締めた。
「えっ?」
「いっ今の僕には、これが精一杯です……」
 頭から湯気が出るほど必死になっている水月を見て、澪は何も言わずにただ手を握り返す。
 会話が無くても、二人は今この時をとても心地良く感じていた。


 ギルドの一つである『葡萄の館』は、グラズヘイム王国の南部に存在している。人里から離れ、かつては葡萄畑があった場所に、古い館があった。ハンターでなければ足を踏み入れないその館には今、異様な空気が満ちている。中の談話室では『葡萄の館』のメンバー達が、顔をそろえていた。
 それというのもつい先程までウィクトーリア家で立食パーティに参加して、リンゴを充分に堪能して家に帰ろうと歩いていたところ、ウィクトーリア家の使用人達にそれぞれ呼び止められたのだ。魔法をかけられたリンゴの効果を知り、このまま一般市民の中にいるのはイロイロな意味で危険だと判断したハンター達は、所属しているギルドに集まった。
 メンバー達はそれぞれ別の場所にいたものの、緊急事態でここへ集まったのは、無意識の内に心の拠り所にしているからだろう。
 その中でアクアレギア(ka0459)とノイシュ・シュノ-ディン(ka4419)は、うっとりした表情で仲間達の色とりどりの眼を見つめている。
「ノイシュ、眼って良いよな。キレイだけど脆くて、見ていたいけれどぶっ壊したくもなる。あっ、もちろんおまえのアメジストのような眼も好きだぜ? 抉り取って見ていたいが、そうしちまったら眼が見えなくなるもんな。視力を失うと不便だし、大変なことだって分かっているから、あくまでも見るだけだ」
「アラアラ、素直なレギアちゃんも可愛いわね♪ いつものツンデレも良いけれど、たまにはそんな風に本音だけで語ってほしいわ」
 土産に貰ったリンゴをウサギの形に切りながら、ノイシュは優しくアクアレギアに語りかけた。
「んなっ!? ちっ違う! 今の俺は、いつもの俺じゃなくてっ……!」
 頭を抱えながらパニックになりかけるアクアレギアとは反対に、ノイシュは冷静にリンゴに噛り付く。
「でもまあ素直に本音を語る仲間達の情熱と混乱に満ちた眼は、真剣さも相まっていつもより素敵ね」
「妬けるな、ノイシュ。レギアとばかり話してないで、オレにも構えよ」
 ノイシュを後ろから抱き締めたのは、リンゴ酒の香りを身にまとったイプシロン(ka4058)だ。
「だってレギアちゃんとは、『眼が好き』という共通点があるんだもの。イプ君はお目々に興味はないんでしょう?」
 顔だけ振り返ったノイシュを見て、イプシロンは意味ありげに眼を細める。
「まあオレが興味があるのは、『閉じ込めること』と『暗い所』だからな。ノイシュは中身はともかく、見た目は良い女だ。今まで言わなかったが、これでもオレのクローゼットに入れておきたいぐらい、気に入っているんだぜ? 観賞用、保存用、実戦用、どのクローゼットに入りたい?」
 問われたノイシュはそれでもビビることなく、体ごと振り返ってイプシロンの顔を両手で包み込む。
「ソコに私が入ったら、もう二度と出してくれないのよね? 『人喰い宝箱』ちゃん」
「ん~。でもおまえが望むなら、オレも一緒に入っても良いぜ?」
「アラ、そしたらイプ君のキレイな赤いお目々が見えなくなるわ。リンゴや夕日、どんな赤い宝石よりもずっと美しいこの眼を見られなくなるなんて、私には耐えられないことよ。私はね、ずっとこの眼を見ていたの。できたら一つでも手に入れたいと思っているんだけど……ダメかしら?」
「そんな甘い顔と声を出したって、ダメだ」
 咎めるような言葉とは裏腹に、イプシロンの表情と声には隠し切れない艶が滲み出ていた。
「それは残念ね。じゃあせめてリンゴの効果が切れるまで、イプ君の眼を見続けて良いかしら?」
「それじゃあオレは、おまえを腕の中に閉じ込めることで我慢しとくか」
 イプシロンはノイシュをお姫様抱っこすると、ソファーに座る。イプシロンの膝の上に座っているノイシュは、熱い眼差しを赤い両目にそそぐ。
 そんな二人の様子を黙って見ていたアクアレギアは、重くボソッと呟いた。
「……おまえら、いろんな意味でアウトだな」
「何だ、レギア。オレに選ばれなかったからって、拗ねるなよ」
「イプシロン、変なことを言うなっ! 俺はクローゼットの中に閉じ込められたくなんてねーんだよ! ……ったく、これだから俺よりも身長が高い男は嫌いなんだ。羨ましいし、ムカつくんだよ。俺だって、あんくらい身長が伸びればなぁ……」
 ノイシュとイプシロンから顔を背けてブツブツと言っていたアクアレギアは、不意に足元の『何か』につまずく。
「あっぶね! 何だ?」
 床に視線を向けると、シーツに包まっているルース(ka3999)がそこにいた。
「ああ、さっきウィクトーリア家から土産にと貰ったリンゴを、ルースに食べさせたんだった。でも大して変わってなさそうだな」
 思い出したように、イプシロンは手をポンッと叩く。
「ルースがどうなるのか、興味があったんだ。何せルースもオレのお気に入りだからな」
 悪びれもなく平然と言ってのけたイプシロンを見て、アクアレギアは思わずゾッとしてしまう。
「おい、ルース。大丈夫か?」
 イプシロンが声をかけると、ルースはノロノロとシーツから顔を出す。
「大丈夫……じゃない。最近、仕事が忙しくて寝ていなかったから、食欲もなかったんだ。なのにイプシロンが無理やり、ウサギリンゴを俺の口の中に入れてきて……」
「アラ、珍しく饒舌じゃない。リンゴの効果は出ているようね」
 ノイシュは驚きながらも、しゃべり続けるルースを物珍しげに見つめた。
 何せいつもなら仲間達に「眠いのなら寝ろ」と言われても、ルースは「寝ない。眠たくない」と眠そうな顔で言ってくるのだ。要はどことなく意固地な部分がルースにはあるのだが、今は様子が違う。問われたことには、素直に答えている。
「食べたら余計に……眠くなった。もう……死にそうなくらい、眠い。けれど寝顔は……見ないで……く、れ。……いや、本当は寝たくないんだ……。眠りが、怖い……」
 ルースは語りながらも眠りの世界へ招かれているようで、再びシーツを頭まで引き上げた。
「おい、せめて壁際に移動しろよ。じゃないと、イプシロンのクローゼットに入れられるぞ?」
 アクアレギアの言葉でルースの体がビクッと動いたかと思うと、突然ゴロゴロッ!と転がりながら壁際へ移動する。
「きゃっ!」
「うをっ!? あっぶねぇな、ルースさん。いくら身の危険を感じたからといって、いきなり転がるなよ」
 転がったルースを踏みそうになったのは、銀のトレーの上にティーカップを載せて持ってきたルネッタ・アイリス(ka4609)と、小坂井暁(ka4069)の二人だ。
 ルースが壁にピタッとくっつくと、二人は「ほっ……」と安堵のため息を吐く。
「今のは少々危なかったですが、何とかお茶は無事です。暁様、いかがですか?」
「ああ、もらおうか。しかし俺みたいな正直者はともかく、他の奴らは大変そうだな」
「アラ、私も普段から嘘は言っておりませんので、さほど困っておりませんよ? ですが『嘘を言えなくなる』とは、不思議なリンゴですね。皆様の反応がとても面白いので、私は良いと思いますが」
 ニッコリと美しく微笑むルネッタは、含むところが黒そうだ。
「そうか。しかし普段言っていることが真実であっても、隠している部分を言ってしまうのは問題だよなぁ」
 困り顔で暁は頭をボリボリとかきながら、周囲にいる仲間達を見回す。
「ウィクトーリア家の使用人達に、早めにリンゴの効果を教えてもらって良かったぜ。この館に泊まれば、とりあえず悪評が流れることはない。ちょうど自室の彼女達に、会いたくなっていたしな」
 暁の頭の中には、部屋に飾っているポスターや置いてあるマネキンが浮かぶ。しかし次の瞬間、怪しげな光が眼に宿る。
「……けどなぁ、どうしても時々相棒や妹分の手足を斬り下ろして、四肢が欠けた姿を見たいと思っちまう。でもアイツらが肉体の全てを使って戦っている姿を見ると、そうも言えなくなるから困るんだよなぁ」
「人間は欠けても満ちても力強く美しく生きる存在ですが、四肢が欠けた存在は生モノでなければダメなんですか? 腕の良い人形職人に依頼をすれば、本物の人間そっくりの物を作ってくださると思いますよ?」
「いや、作られたモノは生きていたモノに比べて、魅力的じゃない。本来命あるモノが形欠けるあのアンバランスさが、たまらなく良いんだ……!」
 法悦にひたりながら熱心に語る暁の横顔を見ながら、ルネッタは薄く笑う。
「この館に住む皆様は、変わった嗜好をお持ちの方が多いのですね」
「まっ、自覚はしている。それにハンターという職業は良いもんだな。敵なら手足を斬り下ろしても、文句は言われないし、異常者扱いもされない。できれば肉体を欠損させるだけじゃなくて、防腐処理をして部屋に飾りてーな」
「ですが命あるモノは、いつか朽ち果てるものです。それでも暁様は愛情を注がれますか?」
「……流石にミイラは勘弁だな」
 想像した暁は、思わず渋い表情と声を出す。
 しかしルネッタは、どこか夢見心地のように語り出した。
「やはり人間は血が通っている時こそが、一番命が輝いているんです。仲間の方々には血の気が多い人がいますので、私はいつも心配しておりますのよ? 私の目が届かない所でお亡くなりになられたら、楽しみがなくなりますもの」
「へぇ。あんたの『楽しみ』は何だ?」
 興味津々といった様子で暁が尋ねると、ルネッタは満面の笑みを浮かべる。
「もちろん私自ら愛を込めて、皆様を埋葬することです。私以外の人の手によって埋葬されるなど、想像するだけでも悔しくて勿体無いです。人間は死の瞬間こそ、一番命を美しく強く輝かせます。その状態で棺に入れて、存在を永遠のものとする――うふふ、何と甘美で素晴らしいことでしょう……! できるなら今すぐにでもこの場にいる方達を、死の楽園へと誘いたいのですが、禁断の果実は甘く熟すまで時間がかかるものですものね。それまでの我慢もまた、辛くも楽しい日々なのです」
 陶酔しているルネッタを見ていた暁は、一つ大きな決断をした。
「……よしっ。俺の最期はルネッタさんの眼が届かない所で、相棒か妹分に看取ってもらおう」
「ひぃっ!? 何故ですかっ!」


 仲間達が変わっていく様子を見ていた時雨凪枯(ka3786)は、思わず遠い目になる。
「……普段からアレな連中だと思っていたけれど、コレはまた騒がしくなったねぇ」
 深いため息を吐きながら、土産にと貰ったリンゴを一つ持ち上げた。
「それにしても、魔術師の先生方はもうちっとマシな魔法を教えれば良かったのに……いや、今回の場合、リンゴを食ったヤツらが特殊だっただけかねぇ。純粋な子供の生徒達ならば、こんなカオスな光景にはならなかっただろうし」
 目の前で繰り広げられる混沌とした光景に、少々うんざりしてしまう。
「あたしは元々本音しか言わないから、リンゴを食っても大した変化は起きちゃいないが……。まあ連中の場合、とりあえず外に出さなきゃいいか。本当は家に帰って本を読みたいんだけど、こんな光景を見ちゃあほっとくわけにもいかないしねぇ。暴走しはじめた連中がいたら、止めないと。はあ……。正直者は今回、損だねぇ」
 気苦労が絶えない凪枯とは反対に、Leo=Evergreen(ka3902)はつまらなさそうに手に持ったアップルパイを齧る。
「ふう……。せっかく面白い効果があるリンゴを食べたのに、お仲間達はいつもとほどんど変わねぇのですよ」
 Leoは館に持ち帰ったリンゴをルネッタにアップルパイにしてもらい、両手で持ちながら頬張っていた。視線の先には本音を熱く語っている仲間達の姿があるものの、館に定住しているLeoにとっては見慣れた光景である。
「Leoにも特に変化はないようですし、正直な人には大した効果は無いようなのですよ」
 残念そうに肩を竦めると、佐久間恋路(ka4607)がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「ここにいたんですね、レオちゃん。今のみんなはちょっとおかしくなっているから、俺から離れないようにしてください」
 心配そうに恋路は声をかけるも、Leoはスゥッと眼を細める。
「恋路は変化は起きてねーのですか?」
「んー、そうですね。今のところは特におかしなことは口走っていないと思います。レオちゃんはどうですか?」
「ヘーキなのですよ。子供は正直に生きているもんで」
「まあそれもそうかもしれませんね」
 二人はアハハと笑い飛ばす。そして恋路はLeoに勧められて、アップルパイを頬張った。
「ルネッタさんの作るお菓子は、いつも美味しいですね」
「それじゃあ彼にも分けてあげたらどうだい?」
 そこへ凪枯がニヤニヤしながら近付いてきて、声をかけてくる。
 しかし恋路は誰のことを言っているのか分からず、不思議そうに首を傾げた。
「『彼』……と言いますと?」
「あー、あの人のことですか」
 先に気付いたLeoは、ベランダの方向に視線を向けた。そこには尾形剛道(ka4612)が一人でいる。
 剛道の姿を眼に映した途端、恋路は盛大にむせて動揺した。
「げほっごほっ!」
「せっかくお互いに素直になれる機会なんだよ。あの男の本音、知りたくないかい?」
「いつまでも二人して子供なんですから、ちったぁ成長してくださいです」
 咳き込む恋路に凪枯はリンゴジュース入りのコップを手渡し、Leoは背中をさすってやる。
 恋路はそれで何とか呼吸を整えることができたが、しかし口達者な女性二人の攻撃を受けて、その場に膝をついた。
「あっあのですねぇ……」
「おっと。本音は尾形ちゃんの前で、な?」
「Leo達に聞かせても、意味ねーですよ」
 恋路の両手を凪枯は掴んで引っ張り、Leoはその背中を押して行く。そして二人は恋路を、剛道がいるベランダの扉の前まで運んだ。
「この機会に本音で語り合ってきな」
「さっさとくっつくと良いですよ。Leoも女の子の髪を愛でに行くです♪」
 言い終えるとLeoはとっとと女性の髪を求めて走り出し、凪枯はヒラヒラと手を振りながら仲間達の所へ行く。
「……しょうがない、ですね」
 覚悟を決めて、恋路はベランダのドアノブに触れる――。


「ったく……。『嘘が言えなくなる』なんて、くだらねぇ効果があるリンゴだな。まあ話をする相手がいなければ、本音を語ることはねぇだろう。……特に恋路に会うのだけは避けてぇな。あいつの前だと俺は……」
 剛道が切なげに呟いていた時、不意にベランダの扉が開いた。やって来たのは、剛道の心を捉えている恋路本人だ。
「恋路、どうしてここへ……」
「剛道さんこそ、どうしてこんな所に一人でいるんですか? また誰かとケンカでもしたんですか?」
「いや、別に……。ただ、誰とも会いたくなかっただけだ」
 お互いに視線をそらしながらも、ベランダに並んで立つ。
「あっあのですね、俺は今まで首を絞められることに強く惹かれていたんですけど、でもここ最近、剛道さんが大太刀・物干竿を振るっている姿を見ていたら、刀で斬られるのも良いかも……と思うようになってきまして。ホラ、血の色ってとても美しくて鮮やかじゃないですか。……って、おかしなこと口走っていますよね、俺」
 言っている内容とは裏腹に、恋路は本音を語っていることでモジモジと照れている。
「……ああ、くそっ! てめぇが言っていることが本音なら、俺だって本音を言うしかねぇだろうがっ!」
 ざわつく首筋を爪でかいた後、剛道は観念したように肩を下ろす。そして真っ直ぐに恋路を見つめながら、口を開いた。
「恋路……、俺の本音はてめぇを『殺したい』――その一つしかない。俺は愛だの恋だの、そんな生温い感情は持ち合わせちゃいねぇんだ」
 剛道は語りながらも大太刀・物干竿を引き抜き、刃を恋路へ向ける。
「今まで隠したことはなかったし、言葉で説明するよりもこうした方がてめぇには分かりやすいだろう? てめぇに向ける、俺のこの気持ちの先を!」
「剛道さんっ……!」
 恋路は嬉しそうに頬を赤く染めながら、剛道を見つめ返した。
「てめぇとイくなら地獄までだ。覚悟しとけや!」
「はい!」


 ――と熱くなる二人を、窓越しに見つめているのはブラウ(ka4809)だ。両手を窓につけながら、熱心に食い入るように視線を向けている。
「ああ、こちらにいたんですか。ブラウさん」
 そこへ声をかけてきたのは、アルマ・アニムス(ka4901)。『葡萄の館』に所属はしていないものの、メンバーであり友達のブラウに誘われて、この館に足を踏み入れていた。
「おや? アクアレギアさんも、いらっしゃったんですか。離れてないで、こちらへ来て一緒にお話しをしましょうよ」
「断る。……ドワーフの種族にとっちゃあ俺のような細身の体なんて、恥でしかないんだ。同じ種族の恥が近くにいちゃあ、ブラウだって嫌だろう」
 少し寂しそうに言いながら、アクアレギアは背を向けて行ってしまう。
「……ドワーフさんが減ってしまうのは悲しいですが、無理強いは流石にいけませんね。と言うことでブラウさん、もふもふさせてください! ドワーフさん達はもふもふで可愛くて、至高の存在です! ブラウさんは優しいから、もふらせてくれますよね?」
 怪しく眼を光らせながら、興奮気味にアルマはブラウへ近付いて行く。
 しかし恋路と剛道を黙って見ていたブラウの口から、ふと言葉が洩れ出る。
「……ステキ。二人はこれから傷付け合うのね。ああ……、早くわたしに最高の匂いを嗅がせてちょうだい!」
 次第に興奮してきたブラウを見て、アルマは歩みを止めた。
「ぶっブラウ……さん?」
「血と死の匂いこそが、わたしを最高の気分にさせてくれる……! いつもはその匂いを嗅ぐ為に、試作振動刀・オートMURAMASAと日本刀・虎徹を振るって敵を斬り裂いているのよ。戦場こそが、わたしの楽園なの!」
 うっとりとした表情で、ブラウは戦場の記憶を思い出している。
「これから二人は傷付けあって、わたしに大好きな匂いを嗅がせてくれるのね? 死んでも大丈夫よ、何にも心配はいらないわ。わたしが二人をコレクションにして、大切に部屋に飾ってあげるわ。死した肉体が腐っても、その匂いはますますわたしを興奮させてくれるの! 素晴らしい匂いに包まれることを考えるだけで……ああっ、何て良い気分なのかしら!」
 カッと眼を見開き、頬を紅潮させながらイキイキしているブラウを見て、アルマは顔を引きつらせながらズサササッーと後ろに下がった。
「ひぃいいっ! ブラウさん、怖いです! お邪魔しましたぁ!」
 そして泣きながら、アルマはブラウから走って逃げる。


 外の騒ぎに気付き始めた者達は、窓越しに恋路と剛道の様子を見ていた。
「おうっ、やれやれ! どうせなら、どっちか手足をなくせ! そうすりゃあ俺が可愛がってやっても良いぞ!」
「暁様、野暮なことは言わないでください。彼らの思いを感じ取ったのならば、お二人を同時に埋葬することが仲間としての使命ではありませんか?」
 暁とルネッタは楽しそうに見ており、凪枯は呆れた眼差しを向けている。
「血気盛んな戦闘狂どものじゃれあいは、シャレにならないところがヤだねぇ。面倒だがここで止めないと、とんでもないことになりそうだよ。アクティブスキルのヒールである程度の傷は回復させてやれるけど、手遅れになる前に中断させようかねぇ。そらっ、あんた達、見ていないで手伝っておくれ」
「チェッ。戦っている時の眼はギラギラと輝いていて、ずっと見ていたいんだがな」
 渋々向かって行ったアクアレギアの後姿を見ながら、ノイシュは自分を捕らえているイプシロンに声をかけた。
「イプ君は行かないの? 戦うこと、好きでしょう?」
「魅力的なお誘いだがオレの腕の中には今、ノイシュがいるからな。おまえこそ、大好きな眼を見に行かなくてもいいのか?」
「今のわたしはイプ君の眼に夢中なのよ。それにそう言うことは、この拘束を緩めてから言うものよ? こんなにキツイんじゃあ動けないもの」
 そしてリンゴジュースを飲んでいたLeoは、ポカンとする。
「……あの二人は一体、何をしやがっているのですか?」
 また、恋路と剛道を止めに外へ出た仲間達を見て、ブラウは眼をつり上げた。
「わたしの幸せを奪うものは、誰であろうとも許さないわよ!」
 険しい顔付きになったブラウまで、外へ出てしまう。
「この館は魔窟です! きゃいんっきゃいんっ!」
 悲鳴を上げながら、アルマは館から出て行った。
 大騒ぎの中で、流石のルースもシーツから顔を出す。そして仲間達の様子を見て、呆れてしまう。
「……この変態どもめが」
 嫌そうに言うと壁の方を向いて、再びシーツをかぶって無視することにした。


【終わり】

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 7
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参加者一覧

  • オキュロフィリア
    アクアレギア(ka0459
    ドワーフ|18才|男性|機導師
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 白狐の癒し手
    時雨 凪枯(ka3786
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士

  • 飴餅 真朱也(ka3863
    人間(蒼)|23才|男性|聖導士
  • Philia/愛髪
    Leo=Evergreen (ka3902
    人間(紅)|10才|女性|疾影士

  • ルース(ka3999
    人間(紅)|38才|男性|聖導士
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士

  • キース・A・スペンサー(ka4058
    人間(紅)|28才|男性|疾影士
  • アクロトモフィリア
    小坂井 暁(ka4069
    人間(紅)|22才|男性|機導師
  • Centuria
    和泉 澪(ka4070
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • オキュロフィリア
    ノイシュ・シャノーディン(ka4419
    人間(蒼)|17才|男性|猟撃士
  • 血色に請う永遠
    佐久間 恋路(ka4607
    人間(蒼)|24才|男性|猟撃士
  • 死の天使メイド
    ルネッタ・アイリス(ka4609
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • DESIRE
    尾形 剛道(ka4612
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 背徳の馨香
    ブラウ(ka4809
    ドワーフ|11才|女性|舞刀士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/04 14:47:10