そのブドウ、食べると酔っぱらう?

マスター:星群彩佳

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/11/10 22:00
完成日
2015/11/19 20:10

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ルサリィ・ウィクトーリア(kz1333)は屋敷の食堂のイスに座り、何とも言えない顔付きでテーブルの上をじっと見つめている。その視線の先には、白い皿にのっているブドウがあった。
 上品な紫色をしており、粒が大きく、味は甘くも瑞々しさがあるブドウは、ウィクトーリア家が所有している山で採れたもの。特に今年収穫したブドウは『出来が良い』と、食べた者全員が声をそろえて言うほどだったが……。
「コレは……ある意味、成功作と言えるのかしら?」
「そう……ですね。体に害は無いですから」
 ルサリィの斜め後ろに立っているフェイト・アルテミス(kz1334)も、複雑な表情を浮かべるしかない。
 何せこのブドウに、魔術師養成学校の生徒達が魔法をかけてしまったのだ。
 しかし以前起こったシナリオ名・『触ると危険なキノコ、性別が逆転する!』や『真実の実・リンゴを食べた人は……!』の時のような困った魔法ではない。
 魔法がかかったこのブドウを食べると、まるでワインを飲んだ時のようになるのだ。
「でも実際は、このブドウにアルコールの成分は無いのよね?」
「ええ。しかしこのブドウを食べると、ワインを飲んだような状態になるのは確かです」
 秋の味覚が収穫できる山で、魔術師養成学校の生徒達は様々な魔法の練習を勝手にしていた。
 その為、このブドウにも何かあるのではないかと考えたルサリィは、フェイトと一緒にブドウを持って魔術師養成学校へ行き、教師達と共にブドウのことを調べたのだ。
 ブドウはキノコの時のように性別を逆転させたり、リンゴの時のように正直者にさせるわけではない。
 ただワインを飲んだ時と同じ状態になる――それだけである。
「果物であるブドウを食べているだけだから、二日酔いにもならないようね。子供が食べても無害というのはいいわね」
「そうですね。それに本物のアルコールに強い方には、このブドウの効果はあまり出ないようです。ブドウにかけられた魔法の持続時間はこれも個人差がありますが、約一時間から一晩という程度らしいです」
 ルサリィは報告書に目を通しながら、眉間にシワを寄せた。
「前の二つの食材に比べたら害は無いとも言えるから、誰かに振る舞いたいところね。ん~、でもブドウを食べて、酔っ払い状態になった人を街に出すのはいささか不安があるわ。……ああ、確かイベント会場屋敷、今月の使用予定は少なかったわよね?」
「はい。十二月の予定はほぼ埋まりましたが、十一月はあまり……」
「ならお客様をそこへ招いて、ブドウを振る舞いましょう。希望者は会場にお泊りできるようにして、家に帰ることを望む人にはウチで用意した馬車に乗って帰ってもらいましょうよ。それなら街に被害は出ないわよね?」
「それは大変よろしいお考えだと思いますが……誰をお呼びになります?」
 フェイトの問いかけで、ルサリィの表情が険しくなる。ここで選んだ人を間違えると、大変なことになるのは目に見えているからだ。
 ルサリィは腕を組むと、自分の交友関係を思い起こす。
「そうねぇ……。貴族達だとうっかりはしゃぎ過ぎる可能性が高いし、だからと言って子供達にはまだちょっと早いわよね。一般市民は『こういうブドウが毎年、ウィクトーリア家で採れる』なんて思われても困るし……。やっぱりハンター達じゃないかしら? 一番事情を分かってくれるし」
「確かに魔術師養成学校の生徒達が起こした一連の事件に、全て関わっていらっしゃいますものね。では早速、依頼をしてきます」

リプレイ本文

 イベント屋敷会場の大広間では、ハンター達のブドウによる酒宴が繰り広げられていた。

 レーヴェ・W・マルバス(ka0276)はイスに座り、テーブルの上の皿に置かれたブドウを両手でちぎっては口へ運んでいる。
「うん、美味い。じゃが酒に強い私にとっては、ただの果物じゃな。腹の中からワインを飲んだ感じがするのは面白いがのう。……しかし流石にブドウだけでは飽きるのじゃ。このブドウを材料として、ブドウジャムや干しレーズンにしたいの」
「ふふふっ。そう言うと思って、調理場を借りて作ってきた! 果汁で作ったブドウジュースに、ブドウタルトやブドウとアーモンド入りのパウンドケーキ、オーブンで作った干しレーズンもあるぞ」
 ザレム・アズール(ka0878)はテーブルの上に、次々とブドウの手作りスイーツを並べた。
「おおっ! これは美味そうじゃが……ザレム、おぬし酔っ払っておるな?」
「えっ? ……どうだろう?」
 首を傾げながらもザレムは大きなタルトを切り分けて、レーヴェの前に置く。
「いつものおぬしなら、もっと落ち着いておるはずじゃ。さてはスイーツを作る前に、ブドウを食べたのじゃな?」
「ああ。こんなに美味いブドウは、生で食べるだけでは勿体無いと思ったんだ。干しレーズンはラム酒に漬けると、早くて一・二週間で食べ頃のラムレーズンになる。その頃にまた、菓子を作りたいな。それじゃあ俺はみんなに、菓子を配ってくる」
 ザレムは上機嫌で、手作りスイーツを配りに行った。
「ううっ……! このスイーツ、美味しいよぉ。あたしもこんなにお菓子作りが上手だったのなら、あの人に振り向いてもらえるのかなぁ?」
「うん?」
 レーヴェは声が聞こえてきた方向へ視線を向けると、岩波レイナ(ka3178)がいつの間にか隣のイスに座り、泣きながらザレムが作ったスイーツを食べている。
「あたしはあの人のことが大好きだけど、嫌われてたらどうしよ~! はっ!? あの人があたしに優しくしてくれたり話しかけたりしてくれたことは、本当は幻想なのかしら? 片想いをこじらせちゃった!?」
「……悩むか泣くか食べるか、どれかにせい。忙しいヤツよ。こういうタイプは酔いがさめたら、自分の醜態を覚えていないのじゃろうな。厄介な絡み酒よ」
「え~? みんなだって、酔っ払っているじゃない。それにこういう時にしか、好きな人のことを話すことができないというのもあるしぃ」
「まあおぬしの年頃では、よくある悩みじゃしのぉ。とりあえず美味いブドウスイーツを食べて飲んで、腹をいっぱいにするのじゃ」
「うんっ! 食べなきゃ損だよね!」
 レイナはレーヴェに勧められるまま、口を動かしていく。
「でもさぁ、レーヴェだって恋をした経験あるよね? どうだったの?」
「……さて、な?」
 ――やがてテーブルの上が寂しくなってきた頃に、フラフラ状態のザレムが戻ってきた。
「はあ……。二十人以上に菓子を配るのは、流石に疲れたな」
「お疲れ様なのじゃ。レイナは寝落ちしたのじゃ」
 レイナは顔を真っ赤にしながらテーブルに頭をのせて、すぅすぅと安らかな寝息を立てて眠っている。
「随分と良い寝顔だな」
「食べて飲んでしゃべって、満足したのじゃろう。こんな酔い方は、若いうちにしかできぬことよ」
「……レーヴェは見た目の年齢と、精神年齢が合わないな」
「くくくっ。まあ酔っ払っていると思うが良い」


 ブドウに強い思い入れがある飴餅真朱也(ka3863)はじっくり実を見つめた後、一粒つまみ取って口の中へ入れた。
「コレは本当に美味いっ……! こんなに素晴らしいブドウを食べると、ウチの畑を再開したくなるな」
「……あの荒れ果てた元・葡萄畑を耕すのですか? パピー一人で頑張ってくださいなのです」
 二人掛けのソファーに真朱也と並んで座るLeo=Evergreen(ka3902)は、うんざりした表情でブドウを食べている。
「『ワインを飲んだ状態になる』と聞かされていましたが、あんまり体に変化はないようなのです。でもパピーはあまりお酒に強くないんですから、食べ過ぎちゃあ……」
「何を言っているんだ、レオ。この依頼では『ブドウを食べること』が仕事内容なんだ。参加した以上、真面目に取り組まないとハンターとは名乗れないぞ?」
「パピー……。いつもならゲンコツを頭に落とすか注意をしてくるのに、酔っ払って真剣に説教するなんて……複雑な気分です」
 泣き笑いをするLeoだが、真朱也は構わずブドウをパクパクと食べていく。
「パピー、大丈夫ですか? お水、持ってきましょうか?」
「あ~、うん。頼む」
 ぼんやりしている真朱也を置いて、Leoは急いで水入りのコップを取りに行く。
 しかし戻ってきた頃には既に時遅く、真朱也はテーブルに額をつけて眠っていた。
「パピー、起きるのです! ここで眠ってはダメなのです!」
 Leoに体をグラグラッと揺さぶられて、真朱也はだるそうに上半身を起こす。
「何だかフワフワする……」
「はい、お水を飲んでくださいなのです。ブドウはお腹いっぱい食べたんですから、もう館に帰りましょうなのです」
 真朱也はLeoからコップを受け取ると、水を飲んで何とか正気に戻る。
 そして自分達が住む館に、歩いて帰ることにした。
 帰り道で何となく、真朱也はLeoに向けて手を伸ばす。
「ホラ、手」
「……珍しいこともあるのです。パピーが親らしいことをするなんて、お酒の力は凄いのですね」
「まっ、今夜は良い気分だからな」
「ふふっ。まあお互いに酔っ払っているんですから、仕方ないのです」
 言葉ではそう言いつつも、お互いに笑顔で手を握った。
 

 冬樹文太(ka0124)とシャトン(ka3198)はテーブルの上いっぱいに置かれたブドウを見て、眼を輝かせる。
「美味そうなブドウやなぁ」
「ああ、早速食べてみようぜ」
 二人はブドウを食べると、幸せそうな笑みを浮かべた。
「美味いっ……けど、本当に一粒で酔っ払うわ。はっ!? シャトン、大丈夫か?」
「何がだ? しかし本物のワインみてぇに美味いな」
 ニコニコしながらブドウを頬張っているシャトンを見て、文太はほっと胸を撫で下ろす。
「まあ二日酔いはせんようやし、この程度のアルコールなら大丈夫やな」
 ……と、この時点では文太は油断をしていた。
 後悔するのは、一時間後――。
「おいっ、シャトン! しっかりせぇ!」
 腹いっぱいになるまでブドウを食べた二人は屋敷に泊まる予定だったので、部屋へ移動しようと立ち上がったが、シャトンがふらついて体勢を崩したのだ。
「……酔っ払ったかも。オレはソファーに座って休んでいくから、文太は先に行っててくれ。悪ぃな」
「いや、このままじゃ寝るやろ? ……しょうがない。少しの間、我慢しぃや」
 シャトンを支えていた文太は、お姫様抱っこをしながら立ち上がる。
 そして自分に割り当てられた部屋へ行き、シャトンをベッドに入れた。
「大丈夫か?」
 文太がシャトンの前髪を指で分けると、心地良さそうに手に顔をすり寄せる。
「文太の手、気持ちイイな……」
 猫のように体を丸めて眠るシャトンは、そのまま文太の腕を掴んでグイっと引っ張った。
「うおっ!? っとと……。酔っ払いの行動は、何をするのか分からんのが怖いわ」
 シャトンに覆いかぶさる格好になった文太は、眼帯を見て僅かに顔をしかめる。しかしそれは一瞬のことで、すぐに表情を緩めると眼帯に軽く口付けた。
「……ほんま、印でも付けて、離れさせへんようにしたなるわ。……なーんて、な。シャトンに怖がられたら、きっついわぁ」
 苦く微笑んだ文太は、優しくシャトンを抱きしめたまま眼を閉じる。
 ――そして深夜、ふと眼が覚めたシャトンは、間近で文太の寝顔を見た。
「……何もかけなかったら、風邪引くぞ」
 ぼんやりしながらもシャトンは上掛け布団を文太にもかけて、寄り添いながら再び眠りに落ちる。


 柊真司(ka0705)は一緒に来たリーラ・ウルズアイ(ka4343)を、ジト目で見つめていた。
「この依頼、リーラに誘われるままに受けて、よく分からないまま連れてこられたが……。『食べると酔っ払うブドウ』、とはな。リーラ、今度は何を企んでいるんだ?」
「人聞きが悪いわねぇ。面白いブドウを食べられるから、誘ったのよ。ウィクトーリア家の使用人に頼んだらワインを用意してくれたし、ブドウをつまみに飲もうと思っただけ」
 そう言ってリーラはグイッとワインを飲み、ブドウを一粒食べる。
「……あんまり酔っ払わない体質のせいか、ブドウを食べても変わらないわ。体内からワインを飲んでいる感じがするのは、確かに面白いけどね」
「酔えるブドウを食べながら、ワインを飲む――ってちょっと変じゃないか? ……ううっ、俺にはよく効くブドウだ。一粒食べただけなのに、酔いが回ってくる……。何だか楽しい気分になってきたが、それでも食べ過ぎはよくないな」
「もう手遅れじゃない? それに食べる量と酔っ払い方は関係ないみたいだし、いざとなればこのお屋敷に泊まらせてもらいましょう。依頼人のご好意を受けるのは、悪いことではないわ」
「まあ、そう……だな」
 赤い顔でぼんやりしながら、真司はブドウを食べ続ける。
「ワインもブドウも美味しいし、良い依頼ね」
 そんな彼の姿を見ながら、リーラもブドウとワインを楽しんだ。
 ――そして一時間後。すっかり酔っ払った真司を使用人達と支えながら、リーラは部屋に入る。
 真司をベッドに入れると、使用人達は頭を下げて部屋から出て行った。
「まったく……。真司の背中に抱き着く形で胸を押し付けても無反応だし、ここまで酔い潰れるとは思わなかったわ。でもまあ正気のままだったら、同じ部屋に寝泊りなんてできないでしょうけど」
 リーラは欠伸をしながら、真司の隣のベッドに入り込む。
「いつもの真司なら別々の部屋に泊まることを言い出すんでしょうけど、今夜は無理ね。……うふふ、明日の朝が楽しみだわ」
 真司の穏やかな寝顔を見つめながら、リーラは眼を閉じた。
 そしてリーラが寝息を立て始めた頃、真司はうっすらと眼を開ける。
「……リーラが同じ部屋で寝ているが……まあ、いいか。すぅ……」


 長篠宗嗣(ka4942)と鬼揃紫辰(ka4627)は、ブドウを一つ親指と人差し指でつまみ上げた。
「紫辰、食べると酔っ払うブドウだそうだ。どれだけ食べても酔い方は変わらないとは、ある意味効率が良いな」
「まあ趣向としては、面白い果実だ。ワインを飲んだことはないが、こういう風に味わう方法は悪くない」
 宗嗣と紫辰は同時に、ブドウを口の中に入れる。
「……うん、美味しいブドウだね。酒は普段どんなに飲んでもほろ酔い程度にしかならないから、果物として味わうのは珍しくて面白いな」
「ふむ。ワインの味が体内からしてくるというのは、希少な体験だ。癖がある酒だが、悪くはないな。なあ、宗嗣……は食べ過ぎじゃないか?」
「そお?」
 パクパクと食べ続けている宗嗣を見て、紫辰はため息を吐く。
「……しかし喉が渇きそうだ。宗嗣、俺は水をもらってくる」
「ああ」
 そして水を入れたコップを持って戻ってきた紫辰の眼に、宗嗣に実を全て取られたブドウの枝がテーブルいっぱいに積まれているのが映った。
「おかえり、紫辰。このブドウ、なかなか良い気分に酔わせてくれる。世界が輝いて見えるんだ」
 ぽわっとした眼付きになっている宗嗣を見て、紫辰はギョッとする。
「すっかり酔っ払っているじゃないかっ!」
「ほろ酔いだから、大丈夫♪ 紫辰はどう? 良い気分になっている?」
 宗嗣は紫辰に近付き、かぶっている鬼面頬の下から頬を撫でた。
「うわっ! 顔を触るな!」
「そんなに照れなくても、俺と紫辰の仲じゃないか。お互いの裸を見たことがあるし、全て知っているだろう?」
「それは一緒に温泉に入ったからだろうがっ!」
 紫辰は慌てて宗嗣の口を、片手で塞ぐ。
 それでも宗嗣はククッと笑った。
「……本当に、紫辰は可愛いな」
「んなっ!? 男に向かって、可愛いとか言うな! 俺を口説くなんて……、やっぱり悪酔いしているんだろう」
 紫辰はフードを深くかぶって、顔を隠す。
「水を飲めっ! そして体内のアルコールを薄めるんだ!」
 紫辰がコップを胸に押し付けてきたので、宗嗣はヤレヤレと肩を竦めながら受け取る。
「まっ、夜は長い。時間をかけて、口説くことにするよ」
「だから止めろと言っているのに!」


 アッシュ・V・レイジフォード(ka4254)は皿の上に置かれたブドウを、じぃっと見つめた。
「いくら魔法がかかっているとはいえ、食べると酔っ払うブドウなんて……って、シズちゃん、食べるの待って!」
 共に来た靜綺(ka4260)がすぐにブドウを食べたのを見て、アッシュは慌てる。
「んっ、美味いな。ホラ、アッシュも食べてみろ。いくら食べると酔っ払うと言っても、味は普通に美味いブドウだ」
「でもシズちゃんって確か、お酒に弱かったような……」
「俺は酒に強い! 見てろ!」
 意地になった靜綺はブドウを口いっぱいに頬張り、飲み込んだ。
「ホラ、大丈夫だろう? アッシュも食べろよ」
「はあ……。分かったよ」
 ――そして三十分後、靜綺は真っ赤な顔でニコニコしながら、壁に向かって頭を下げる。
「どうもお久しぶりです」
「シズちゃんっ! それ、壁! やっぱり酔っ払っているよね?」
 アッシュに羽交い締めされて、靜綺はバタバタと力なく抵抗した。
「離せっ! 俺は酔っ払っちゃいねぇ! あっちに行くんだ! 向こうでデッカイ金魚が呼んでいるからな!」
「一人で勝手に行こうとしないで! って言うか、どこにも金魚いないから!」
 アッシュは頬が赤く染まっている程度だが、靜綺はものの見事に酔っ払っている。
 しばらく二人はギャアギャアと騒いでいたが、やがて疲れたのか靜綺の眼がトロンとなった。
「……あれ? 何か、すんげぇ眠い……」
 アッシュに羽交い締めされたまま、靜綺は眠ってしまう。
「はあ……。ようやく落ち着いてくれた」
 アッシュは安堵のため息を吐きながら、眠った靜綺を背負って部屋へ向かった。
「泊まる部屋を用意してもらって、助かった。流石に寝ちゃったシズちゃんを背負いながら、家まで送るのは大変だからな」
 靜綺をベッドに寝かせたアッシュは、窓から差し込む月明かりを浴びている靜綺の寝顔をじっと見つめる。
「シズちゃんの寝顔を見ていると、ほっとするな。少しでも眼を離すと、シズちゃんはすぐにいなくなるんだから……。俺の傍から、離れないでよ」
 切ない願いを口にしながら、アッシュは靜綺の頭を優しく撫でた。
 靜綺は眠りながらも、気持ち良さそうに微笑んだ。


 アンディオ・モラン・ブルーベル(ka5617)は笑顔でブドウを手に持ちながら、尾形剛道(ka4612)へ駆け寄る。
「ボク、おがっちの酔っ払った姿を見てみたいな。面白い話を聞かせてあげるから、このブドウを食べてよ」
「俺は酔っても変わらねーよ。てめぇの方が、もう酔っ払ってんじゃねーか?」
「ふえ? そんなことないよー。ホラ、一緒に美味しいブドウを食べよう?」
 アンディオが抱き着いてくるも、突き放すと床に倒れそうなので剛道は我慢した。
「ったく……。ほどほどにしろよ」
 剛道は渋々ながらも、アンディオが口元へ運んできたブドウを食べる。
 ――しかし帰り道を歩いている頃には、アンディオの酔っ払い状態は酷くなっていた。
「アレ? ここにもブドウが落ちているよ。おがっち、はい、あーん」
「それは石だっ! 誰が食うか、てめぇが食え! てめぇは酔っ払うと、うっとおしくなるな」
「『うっとおしい』とか、どの口が言うの? ひっどーい!」
「……いつにも増して、面倒臭いヤツになったな。……って、家はそっちじゃねえ!」
 あらぬ方向へ行こうとするアンディオの腕を掴み、剛道は深いため息を吐く。
「はあ……。帰りの馬車、やっぱり断らない方がよかったかもな。酔い覚ましとして、歩いて帰ろうと思ったんだが……」
 すっかり絡み上戸になってしまったアンディオに、うんざりしてしまう。
「だからと言ってコイツを放っておいたら、とんでもないことをやらかしそうだしな。それに後で正気に戻ったアンに、文句を言われるのも遠慮したい」
「なぁにブツブツ言っているんだよぉ。おがっち、肩車して」
 アンディオは剛道の後ろへ行くと背中をよじ登って、肩車をしてもらう。
「……俺の上で吐いたら、問答無用で投げ捨てるからな」
「りょーかい! あー、風が涼しくて気持ち良いし、おがっちに肩車してもらって嬉しいな♪ ……こういう風に一緒に過ごせる仲間って、やっぱり大事だよねぇ」
「ふんっ。……どちらかと言えば『仲間』じゃなくて、『悪友』の方が俺達らしくていいんじゃねーか?」
「おがっち……、実は酔ってる?」
「……走るぞ」
「えっ!? それはちょっ……うっうわあああ!」


 曄(ka5593)はブドウを片手で持ち上げながら、真っ赤な顔に笑みを浮かべて叫ぶ。
「あたしは酔っ払っても変わらない! でも何だか楽しい気分~♪」
 鼻歌を歌いながら、ソファーの上にアグラをかいでいるセンダン(ka5722)の膝の上に乗る。
「でもいつもなら絡み酒になるおっさんはどーかな?」
「うるせっ。おまえは黙ってブドウを食ってろ!」
 ブドウの実を鷲掴みにしたセンダンは、曄の口の中に突っ込んだ。
「ふぎゅぅ!」
 モグモグとブドウを食べながら、曄は視線を大広間へ向ける。
「ハンターの仲間達ってさ、いつもは戦っている姿しか見ないんだよね。こういう機会は滅多にないし、今のうちによく見ておこうっと♪」
「おまえは酔っ払ってんのか素面なのか、分からねーヤツだな」
「んふふっ。でもおっさんみたいに強くなりたいと思っているのは、本音だよ」
「曄さーん、俺とおにぎり作りませんか~?」
 そこへ既に酔っ払って上機嫌になっている閏(ka5673)が、おにぎりを握る動作をしながら声をかけてきた。
「おっ、エアおにぎりか? 良いぞ! あたしは閏に負けないぐらい、おっきなのを作る!」
 だが閏はセンダンの膝の上に座っている曄の姿を見て、顔に笑みを貼り付けたまま後ろへ下がる。
「セン、いくら酔っ払いでも、女の子を膝の上に乗せるのは……」
「コイツから乗ってきたんだ!」
「本当ですかぁ? ……曄さん、センにアルコールハラスメントをされそうになったら、俺に言ってくださいね」
「ふふっ、ありがと。……っと、ばんざい発見!」
 曄の視界に、こちらへ向かって歩いてくる万歳丸(ka5665)の姿が映った。
「呵呵呵っ! 食べると酔っ払うブドウとはな! 俺様を酔わせたら、大したモンだぜ!」
「ばんざいっ、このブドウ美味いぞ!」
 曄はセンダンに食べさせてもらっていたブドウを手に持ち、万歳丸へ向かって勢い良く走って行った。
 しかし万歳丸は近付いてくる気配を危険なものと判断して、咄嗟に曄の両肩を掴むと豪快に投げる。
「うおりゃっ!」
「何のっ!」
 曄は空中で一回転すると、床にストッと着地した。
「うっ……! いきなり視界が回ったから、気持ち悪っ……!」
「すまん! 身の危険を察してな……」
「おいおい、何やってんだ」
 騒ぎを聞きつけて、イッカク(ka5625)がやって来る。
 そして青い顔色になって口元を手で覆っている曄を見て、眼を見開いた。
「げっ! 曄、ここで吐くな! すぐに便所へ連れて行くからな!」
 そう言ってイッカクは、曄をお姫様抱っこしながら大広間を出て行く。
 すると何故か突然、閏が泣き出す。
「うわーんっ! 何でイッカクさんも丸さんも、俺が作ったおにぎりを食べてくれないんですかぁ!」
 名前を呼ばれた万歳丸は閏をよく見るも、どこにもおにぎりの姿はない。
「……さっき作ってたエアおにぎりのことかもな」
 センダンの言葉を聞いて、万歳丸は事情を理解する。
「泣くなよ、おっさん。ホラ、食べてるだろう? 美味いぜ」
 おにぎりを食べてるフリをする万歳丸を見て満足したのか、閏は次にセンダンに抱き着く。
「センっ、曄さんを返してくださいよぉ! 一緒におにぎり食べるんですから!」
「アイツは今頃便所でエライことに……って、ああ、もう! てめぇ、いつまでも泣いてんじゃねー。うるせーんだよ」
 険しい顔付きになったセンダンは、拳で軽く閏の額をグリグリする。
「バカぁ! センのバーカッ!」
 閏は懐から護符・クリミナルローズを取り出すと、センダンの顔をペチペチと叩いた。
 そこにセンダンへブドウを持ってきた帳金哉(ka5666)は、閏と揉めているのを見てギョッとする。
「二人共、何をしておるのじゃ!」
 ブドウをのせた皿をテーブルの上に置くと、金哉は二人の間に割って入った。
「俺が悪いんじゃねーよ! そもそも飯も酒も足りねーんだ! ブドウだけじゃあなぁ……」
 センダンは言いつつウトウトしはじめて、ソファーに寄りかかりながら寝てしまう。
 そこへイッカクが戻って来た。
「曄はメイドに任せてきたぜ。……ったく、女が悪酔いした姿を見ると、こっちの酔いがさめちまう」
「イッカク、ちょうど良かったのじゃ。悪いが今度はセンダンを頼む。俺は閏の相手をせねばならんのじゃ」
「寝落ちしたのかっ!」
 ブツブツ言いながらもイッカクはセンダンを背負って、再び大広間を出る。
 金哉はほっ……とため息を吐くと、泣き続けている閏の涙をテーブルナプキンでふく。
「ホラ、センダンは行ってしもうた。もう泣くのはやめい。閏に紹介したい相手がおっての。俺の弟分じゃ」
「えっ! 金哉くん、弟分ができたんですか? 立派になって……ううっ!」
「だから泣くなと言っておろうに!」
 金哉が弟分の凰牙(ka5701)を紹介して挨拶が済むと、閏は気が緩んだのか、ソファーの上で寝てしまった。
「あー、疲れた。全然ゆっくりできねーじゃねぇか」
「再び良いタイミングじゃ。イッカク、次は閏を頼む」
「いい加減にしろっ! 俺は保父でも介護士でもないんだぞ!」
 怒りながらも、それでもイッカクは閏を背負って部屋へ向かう。
「何げに面倒見の良い男じゃのぉ、イッカクは」
「ふんっ! 俺はアイツのこと、気に入らない。確かに俺よりデカイけど、初対面でチビ呼ばわりしやがって……! 男は体がデカけりゃいいってもんじゃない! なあ、金兄ぃ!」
「まっまあそうじゃの」
 凰牙は怒りながらソファーに座ると、ブドウをバクバクと食べ始めた。
「ふふふっ。凰牙のその食べっぷり、里にいた野良犬によう似ておる」
 突然現れたカガチ(ka5649)はブドウをのせた皿を両手で持ちながら、凰牙の隣のソファーに腰掛ける。
「酒のようで酒でなし、げに面白き果実よのぉ」
 カガチはじぃっとブドウを見た後、一粒口の中へ運ぶ。
「……んだよ、バカガチ。まぁたオラのにいさを、たぶらかしにきたのか? ひぃっく」
 酔い始めた凰牙は、口調が訛っている。
「そういうよく吠えるところも、似ておる。ほんに可愛いのぉ。そこで相談なんじゃが金哉、そなたの弟分を妾にくれぬかのぉ?」
「あのなぁ、カガチよ。弟分の凰は犬ではなし、やるやらぬの問題ではないのじゃ。しかし犬とは……ふっ、はははっ! そっそんな失礼なことを……くくくっ、言ってくれるな」
「怒るか笑うか、どちらかにしたらどうじゃ?」
 カガチは腹を抱えて笑い震えている金哉を呆れた眼で見ているが、凰牙の眼には二人が楽しく会話をしているように見えた。
「にいさっ! バカガチにたぶらかされるなんて、オラ、なさけなかっ!」
「凰牙も先程から、何を言っておるのじゃ?」
「……よくもまあ、噛み合っていない会話が続くもんだな」
 閏を部屋へ運んだイッカクは戻ってきた途端、仲間達のおかしな様子を見てげんなりする。
「はははっ! 何だか楽しいのぉ。どれ、俺の雅な舞を見せてやろう!」
「金哉っ、ホントは酔っ払っているな!」
 金哉に駆け寄ろうとしたイッカクは、しかしフラフラしている凰牙の両肩を掴んで支えた。
「おい、凰牙。おまえがこのブドウを食べるには、ちっとばかり早かったんじゃねーか?」
「うるさいっ! デカイッガクはあっぢさいっでろ……お?」
 酔いが回ったのか、凰牙はイッカクに寄りかかるようにして眠ってしまう。
「四人目だぜ、おい……」
 うんざりしながらも凰牙をこのままにしておくことはできず、イッカクは背負って行った。
 するとコッソリ、万歳丸がカガチに話しかける。
「なぁ、カガチ。前に貰った手紙、立派なモンだったぜ。アレを書けるなんて、スゲエって思う。今度、書き方を教えてくれよ。俺様のような大英雄には、学も必要だからな!」
「ふふっ、妾に手習いを請うとは、豪快な容姿をしておるのに殊勝な心がけじゃ。その心意気、気に入った。妾が教えてつかわす」
「おっ、おまえ達は仲良くやっているようだな」
 流石に疲れた顔を隠せないイッカクは、ドカッと二人の向かいのソファーに座った。
「バカ騒ぎをしたり、ケンカをしないだけマシだな。……しかしタダ飯はありがたいが、ブドウだと腹の足しにならねーな。飯でも作ってもらって……って、おい。カガチ、何をじぃーっと見ているんだ?」
 イッカクはカガチが自分へ熱視線を向けていることに気付き、声をかける。
「イッカク、絵を描くから墨と紙を用意するのじゃ。そなたの姿が二重に見えるとは、面妖な……。どんなカラクリなのかは分からぬが、面白き技、気に入った。褒美にブドウをやろう」
「おまえは素面のようで、実は酔っているな!」
「ハッ! イッカクを描くぐらいなら、俺を描けば良い。身長は同じだが、俺の方が男としての器はデケェ。万年語り告げるほどになぁ……って、おいっ! 何でおっさんの作ったおにぎりが、宙に浮いているんだ!」
「万歳丸もかっ! おまえら、いい加減にしろぉー!」


 鞍馬真(ka5819)は赤く染まった顔で、ぼんやりした眼付きをしながら大広間をうろついている。
「私はお酒に強いから、酔っ払わない。大丈夫、平気。だから片付けをしよう」
 酒宴も後半になるとブドウよりも、実が付いていない枝の方が目立ってきた。
「今回の依頼は美味しいブドウをお腹いっぱい食べられたし、他の参加者達ともいろいろと話ができて楽しかった。久々にのんびりできて、良い気分転換になったよ」
 真は散らかった枝を一つの皿の上に集めてのせて、ゴミ袋に入れようとする。
 しかし手元がフラフラしているせいで皿から枝がドサーッと床に落ちてしまい、ゴミ袋に入るのは僅かな量だ。
 見兼ねた使用人達が真に部屋で眠るように勧めてきたので、素直に意見を受け入れることにした。
「……そういえば友人達は酔っ払った私が片付けていると、『片付けているのか、散らかしているのか分からない』と言ってくる。……まあ確かに何だかフラフラするし、このままでは家に帰る途中で事故に合いそうだから、大人しく屋敷に泊まることにしよう。ひぃっく……」


「ふわぁ……。酒宴が終わる頃になると、みなさん気が緩んできますねぇ。ふわぁ~あ」
 黒耀(ka5677)は欠伸をしながら、壁際に置かれた二人掛けのソファーに腰掛ける。
「ブドウのお味がよろしくて、ついつい食べ過ぎちゃいました。……あふぅ」
 涙で潤んだ黒燿の眼に、仲間達の笑顔が映った。だが仲間達の笑顔は、遠い昔に見た『彼ら』の笑顔と重なる。
「……ああ、これは夢ですかね。彼らが楽しそうに過ごしている姿を見るなんて、何年ぶりでしょう? もうずっと、見ていなかった気が……。でもこんな光景を再び見ることができるなんて、私は何て幸せ者なんでしょう。……いえ、『幸せ』を望むなんて、強欲なこと……!」
 自虐的にクククッと笑うと、黒燿は遠い目をした。
「目の前にいる仲間達が、『彼ら』であったのなら……いえ、過ぎたもの・失ったものは二度と戻らぬというのに……。ふわぁ~あ。……ああ、眠くなってきました。この光景を見られなくなるのは惜しいですが、今夜は良い夢が見られそうです……」
 呟きつつ黒燿はソファーに横になり、目を閉じる。


<終わり>

依頼結果

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参加者一覧

  • 弾雨のイェーガー
    冬樹 文太(ka0124
    人間(蒼)|29才|男性|猟撃士
  • 豪傑!ちみドワーフ姐さん
    レーヴェ・W・マルバス(ka0276
    ドワーフ|13才|女性|猟撃士
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 歌姫の大ファン
    岩波レイナ(ka3178
    人間(蒼)|16才|女性|機導師
  • 小さな望み
    シャトン(ka3198
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士

  • 飴餅 真朱也(ka3863
    人間(蒼)|23才|男性|聖導士
  • Philia/愛髪
    Leo=Evergreen (ka3902
    人間(紅)|10才|女性|疾影士

  • アッシュ・V・レイジフォード(ka4254
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人

  • 靜綺(ka4260
    人間(紅)|24才|男性|疾影士

  • リーラ・ウルズアイ(ka4343
    エルフ|15才|女性|魔術師
  • DESIRE
    尾形 剛道(ka4612
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 鬼面の侍
    鬼揃 紫辰(ka4627
    人間(紅)|22才|男性|闘狩人

  • 長篠 宗嗣(ka4942
    人間(紅)|25才|男性|舞刀士

  • 曄(ka5593
    鬼|19才|女性|闘狩人

  • アンディオ・モラン・ブルーベル(ka5617
    人間(紅)|25才|男性|霊闘士
  • 義惡の剣
    イッカク(ka5625
    鬼|26才|男性|舞刀士

  • カガチ(ka5649
    鬼|16才|女性|舞刀士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 意地の喧嘩師
    帳 金哉(ka5666
    鬼|21才|男性|格闘士
  • 招雷鬼
    閏(ka5673
    鬼|34才|男性|符術師
  • 千の符を散らして
    黒耀 (ka5677
    鬼|25才|女性|符術師
  • 全身全霊の熱血漢
    凰牙(ka5701
    鬼|16才|男性|格闘士

  • センダン(ka5722
    鬼|34才|男性|舞刀士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/11/09 20:59:21