【初夢】現代の地球、二ホン国へようこそ

マスター:星群彩佳

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~6人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2016/01/09 22:00
完成日
2016/01/23 13:52

このシナリオは5日間納期が延長されています。

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オープニング

 『あなた』の日常とは、クリムゾンウェストでハンターとして働く日々のことを言うのでしょう。
 いつもは多忙な『あなた』も初夢ぐらいはゆっくり見ようと、布団の中に潜り込みました。
 ところがこの初夢は、いつも見るような夢とはちょっと違った内容です。


 まるでリアルブルーのような世界なのに、そこには【歪虚】という存在がありません。
 なので『あなた』は、ごく普通の平凡ながらも平和な日々を過ごしています。
 ある方は学生として、ある方は社会人として、【戦い】など無い世界でお正月を迎えているのです。
 最初は驚いていた『あなた』ですが、時が経つにつれて自分がこの世界の住人であるように思えてきました。
 住んでいる場所は二ホン国という所でして、様々な種族が暮らしています。
 お正月の過ごし方は人それぞれでして、着物を着て初詣に出掛けたり、神社でアルバイトをしたり、雪山でスキーやスノーボードで遊んだり、温泉旅館に泊まりに行ったり、または家で集まってお正月遊びをしたりと、いろいろな過ごし方があります。
 さて、『あなた』はこの世界でお正月をどのように過ごしているのでしょう?

リプレイ本文

2016年1月某日――


○お正月は初詣へ

「うっ……ん? アレ、ここは……」
 外待雨 時雨(ka0227)は夢から覚めて、眼に映った天井に違和感を覚える。それでもベッドから出て、カーテンを開けて外の景色を見ていくうちに、意識はハッキリしてきた。
「……ああ、そうでした。ここはわたしが住んでいる所で、新年を迎えたばかり……。初夢を見ていた気がしますけど……、何だか妙に現実感がありましたね」
 額を手で押さえながら、軽く頭を振る。
「……まあ特に悪い夢ではなかったので、あまり気にする必要はありませんね。さて、せっかくのお正月ですし、初詣にでも行きましょうか。知っている方と、お会いできるかもしれませんし」
 時雨は気を取り直すようにニコッと微笑むと、早速外出の準備をはじめた。
  

「やっぱりお正月の神社は、人が多いですね。お店は閉まっているところが多いですし、こういう所に来た方が賑わいを感じられて明るい気分になれますからね」
 参拝者達を上手く避けながら、時雨は参道を歩く。
 そこでふと前を歩いている人物に見覚えがあり、時雨は足早に近付いて肩をポンッと叩く。
「明けましておめでとうございます、ソルシエールさん」
「ひゃあっ!?」
 時雨に声をかけられて、悲鳴を上げたのはクラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)。
 クラリッサは振り返って時雨の手首を掴むと、人目を避けるように参道から出て、人気のいない所へ移動した。
「はあはあっ……! あっあなた、確か年末のイベントで私のコスプレ姿を写真に撮っていたコね!」
「はい、あの時はありがとうございました。ソルシエールさんも、一人で初詣ですか?」
 無邪気な時雨の微笑みを見て、クラリッサはガクッと項垂れる。
「……コスプレイヤー名の『クラリッサ=W・ソルシエール』の方で呼ぶの、止めて。本名は鈴木恵美って言うのよ」
「でも『ソルシエールさん』と呼ぶのが慣れているので、人前では鈴木さん、二人の時はレイヤー名で呼んでもいいですか?」
「まあ普段の姿の私を見抜いたから、良しとするわ。あなたの名前は確か、時雨って言ったわね。呼び捨てで構わないかしら?」
「ぜひ。あの、もしお一人でしたら、わたしと一緒に過ごしませんか? これも何かの縁ですし」
「それは構わないけど……。でも今日の私はコスプレの研究をする以外にも、通っている大学の研究も兼ねて来ているから、遊びとはちょっと違うわよ?」
「それでも良いです。では今日一日、よろしくお願いしますね」
 二人は参道に戻ると、参拝客として並ぶ。
「今日はいろんな神社を巡ってみようと思っているの。この二ホン国にはたくさんの神様が祀られているから、研究のし甲斐があるのよね」
「そうですね。目的によって、行く神社を決める人もいるみたいですよ。わたしも受験生の時は、学問の神様がいる神社に行きました」
「あっ、私もよ。受験以外だと、近所にある神社で済ませちゃうんだけどね。目的があると、遠くの神社まで足をのばしちゃうのよね」
 クスクスと笑いながら、クラリッサは近くにいる女性達の服装を見る。
「やっぱり初詣となると、和服が多いわ。二ホン国ならではね」
「そういえば、ソルシエールさんは今日はコスプレを……うぐっ!?」
「人前でその事を言うのは止めて、ね?」
 時雨の口を手で塞いだクラリッサは、迫力のある笑みを浮かべて見せる。
 顔色が白くなった時雨が何度も首を縦に振ったのを見て、ようやく手を離した。
「ぷはぁっ! えっと、その……私服で来ていらっしゃるのが、珍しいと思いまして……」
「今日はいろいろな場所を歩き回るから、和服だと動きづらいと思ってね。――それに流石にお正月に神様に仕える女性の衣装を着て、ウロウロするわけにもいかないでしょう? それこそ神罰が下されるわよ」
 クラリッサの視線の先には、若い巫女達の姿がある。
 クラリッサは残念そうに軽くため息を吐くと、時雨に顔を寄せてコッソリ問い掛けた。
「……でも時雨はよく『今の私』が分かったわね。私服姿で会ったことはなかったのに」
「ああ、それは今の姿と良く似たコスプレの姿を見たことがあったからです。ホラ、魔女養成学校を舞台にした、あのアニメですよ」
 時雨も声を潜めて、答える。
 クラリッサは時雨の返答を聞いて、昔やったコスプレを思い出した。
 確かに長い黒髪を三つ編みにして、メガネをかけて、ブレザーの制服を着た、とあるアニメの登場人物の一人になった記憶がある。モデルになったキャラクターは十七歳という設定だったので派手なメイクはせずに、今の姿とさほど変わらなかった。
「まああのコスプレはファンタジーっぽさがあんまりなかったから、今の姿とかぶって見えてもしょうがないわね」
「でもそれだけソルシエールさんに、似合っていたってことですよ」
「そう言われると、素直に嬉しいわ」
 話をしているうちに、二人の順番になる。
 この時ばかりは静かに参拝を終えると、二人は巫女が無料で配っている甘酒を貰って飲んだ。
「ふぅ……。この神社の甘酒は生姜が入っているので、体の芯からあたたまるんですよ」
「だからとっても美味しいのね。……ちなみに時雨はさっき、神様に何をお願いしたの?」
「昨年と同じで、『今年も皆さんと楽しい日々を過ごせますように』です。まだ将来のことは、思い浮かべられないので」
「私も似たようなものだけど、学業のこともお願いしといたわ。プライベートばかりを優先させ過ぎちゃあ何だしね」
「ではせっかくですし、お守りを買っていきましょうか?」
「そうね。神社に来ることなんて滅多にないし、おみくじも引きましょうか」
 二人は売店へ向かうと、お守りとおみくじを購入する。
「わたし、大吉が出ました!」
「私もよ。良い年になりそうね」
 その後は様々な神社を巡り、屋台の方もクラリッサは調査した。二人で実際に屋台へ行き、食べ物や飲み物を買って味わう。
「お正月の屋台と言っても、お花見や夏祭りでよく見かける店が多いわね。もぐもぐ……」
「ごっくん……。でもこういう時にしか味わえない物って必ずありますから、良い機会ですよ」
 クラリッサと時雨は最後に訪れた神社で、子供達の餅つき大会を見学する。出来上がった餅は人々に配られて、二人はあんこ餅を美味しそうに食べた。
「ん~♪ お正月って美味しい食べ物や飲み物が多いから、太っちゃうのよねー」
「うぐっ!? のっ残りの冬休みの間に、運動すればいいだけですよ!」
 遠い目をしながら言ったクラリッサの言葉を、喉に餅を詰まらせながらも時雨は慌てて言葉を返す。
 そして夕暮れ時になり、駅前で二人は別れることになった。
「時雨、今日は付き合ってくれてありがとう。次のイベントでは、気合の入ったコスプレをしていくわ」
「ふふっ、楽しみにしていますね。ソルシエールさん」
 クラリッサは駅へ向かう時雨の後姿を見ながら、軽いめまいを感じる。
「う……ん? アレ? そういえばあのコ、いつもは傘を持っていた……はず、よね? ……いえ、ちゃんと会ったのは今日がはじめてのはずなのに……、何故そんなことを思うのかしら?」
 不思議に思いながらも、クラリッサは時雨の背中をずっと見つめていた。


○お正月は屋台巡りを

「ふわぁ……。あ~、つい正月の深夜番組を見過ぎちまった。すっかり昼になっているじゃねーか」
 フェリル・L・サルバ(ka4516)は寝癖だらけの頭をボリボリとかきながら、双子の弟の部屋にノック無しで勝手に扉を開けて中へ入る。
「明けましておめっとさん、我が双子の弟よ! いくら大学が冬休みの真っ最中とはいえ、正月まで昼夜逆転生活はどうかと思うぞ!」
 ヨルムガンド・D・アルバ(ka5168)は布団を頭までかけていたが、兄の声でモゾモゾと顔だけ出す。
「……うるせぇ、バカ兄貴。正月早々騒ぐな。頭痛がひどくなる……」
「そんな不機嫌な顔で言われてもなぁ。もう冬休みは一週間もないし、そろそろ朝起きる生活に戻れよ」
 フェリルは遠慮なく部屋に入り込むと、ヨルムガンドがかぶっていた布団を掴んで引き上げた。
「何しやがるっ!」
 ぬくぬくの布団を取られたヨルムガンドは、すかさず兄の腹に強烈な蹴りを入れる。
「ぐほっ!? こっ今年も健康そうで……何、より……」
「テメェのバカさ加減も、相変わらずだな。……チッ、今ので眼が覚めちまった」
 ヨルムガンドはフェリルと同じく寝癖だらけの頭を軽く振ると、渋々ベッドから下りた。
「朝飯、用意してあんのか?」
「おっおせち料理と、あんこ入りきなこ餅を……」
「っ!? それを先に言え!」
 カッと眼を開いたヨルムガンドは、慌てて洗面所へ向かう。
 そして身支度を終えたヨルムガンドがリビングに入ると、すでにフェリルはコタツに入って待っていた。
「待ってたぞ。早く食おうぜ」
「ああ」
 コタツの上には重箱に入ったおせちの他に、フェリルはお雑煮を、ヨルムガンドにはあんこ入りのきな粉餅が並べられている。
 正月特番をやっているテレビを見ながらお雑煮を食べていたフェリルはふと、重箱の中で栗きんとんと伊達巻、そして黒豆がなくなっていることに気付く。
「ヨルガぁ、甘いもん以外も食えよ。せっかくのおせち料理だぞ?」
「もう腹いっぱい。甘酒ねーの?」
「糖尿病になるぞ? ったく……」
 口ではブツブツ言いながらも、フェリルは立ち上がって甘酒をあたために行く。
 その間に、ヨルムガンドは棚に置かれた複数の写真立てを見て、眼を細める。写真には赤ん坊の頃からの兄弟が映っており、今は仕事で出張中の両親も笑顔で映っていた。
「ホイ、お待たせ。……何見てんだ?」
「家族写真。最近、あんまり撮らなくなったと思って。最後に撮ったのって、俺達の成人式の時だろう?」
「あー、まあそうだな。次に撮るとしたら、大学の卒業式になるな」
 フェリルは将来のことを考えると、重いため息が出る。それでもヨルムガンドに甘酒入りの湯呑を手渡して、再びコタツに入った。
「なあ、ヨルガ。大学を卒業したら、やっぱ家を出なきゃダメか?」
「両親は何も言わないだろうが、それでもいつまでも実家暮らしは格好がつかないだろう?」
「そうだよな~。……だったらさ、ヨルガ、俺と一緒に暮らさねーか? おまえ、一人暮らしをはじめたら、甘い物しか食べなくなるだろう? 栄養が偏ってぶっ倒れる可能性があるし、俺が家事をやってやるからさ」
「絶対NO」
 キッパリと断ったヨルムガンドは、冷静に甘酒を冷ましながら飲む。
 フェリルはガックリと肩を落とすも、テレビで初詣特集をしているのを見て眼を輝かせる。
「これから初詣に行かないか? 屋台で綿あめ買ってやるからよ」
 ヨルムガンドの上がりかけた眼は、最後の言葉でスッと下がった。
「良いぜ。行くか」
 そして二人は、近所の小さな神社に訪れる。
 町内の人々が集まっているものの、それほど待つことなく参拝を終えることができた。
「流石に正月だと、屋台がいくつか出ているな。綿あめ屋もあって、良かった」
 フェリルは買ったばかりの綿あめの袋を、ヨルムガンドに渡す。
「サンキュ。でも他にもチョコバナナやクレープ、リンゴ飴やたい焼きの屋台もあるじゃん。フェリル兄貴」
 珍しく眼をキラキラと輝かせながら見つめてくるヨルムガンドの心中を察したフェリルは、顔をしかめる。
「……おまえってヤツは、こういう時ばっか俺を兄扱いするよな」
「いや、表に出さないだけで、ちゃんと俺の兄として尊敬しているぜ」
「それは甘いモノを買ってやる時だけだろう! まったく……。絶対に育て方、間違えたな」
 文句を言いつつも、フェリルは財布の中身を確認した。
 そしてヨルムガンドにねだられるままに、フェリルは屋台で甘い物を買い与える。すると仏頂面だったヨルムガンドの表情は、まるで子供のような無邪気な笑みを浮かべていく。
 ヨルムガンドが一通り屋台の甘い物を食べ終えると、げんなりした表情でフェリルは問いかけた。
「……もう、良いか?」
「ああ、満足した。だがフェリルは、あんまり食べていないんじゃねーの?」
「俺はおまえの食べっぷりを見ているだけで、胸も腹もいっぱいだぜ」
 甘い物を片っ端から食べていくヨルムガンドの姿はある意味凄いが、それでも見ている者に僅かながらダメージを与えている。
「……おっ、子供達が獅子舞に頭を噛まれているぜ」
 悲鳴が聞こえる方向へ視線を向けると、子供達が獅子舞に頭を噛まれて泣いている姿があった。
「俺とヨルガもガキの時に、ああやって獅子舞に頭を噛まれたな」
「その効果があったのかどうか、バカ兄貴を見ていると分からないけどな」
「腹いっぱいになったら、また毒舌かっ!」
 獅子舞に頭を噛まれることは、魔除けになったり、頭が良くなったりする効果があると言われている。
 その為、幼い頃に両親にこの神社に連れられてきた二人は、獅子舞に頭を噛まれたのだ。するとフェリルは恐怖のあまり泣き出してしまい、ヨルムガンドは不機嫌オーラを放出しながら不貞腐れてしまった記憶が残っている。
「さて、そろそろ寒くなってきたし、家に帰るか」
 元気に騒ぐ兄とは反対に、冷静な弟はとっとと家への帰り道を歩き出した。
「あっ、待てよ!」
 慌てて追い付いたフェリルはふてくされた顔でブツブツと文句を呟いていたが、ふとヨルムガンドは表情を緩める。
「あの……さ、兄貴。今日はありがとな。何だかんだで、結構楽しかった」
「ヨルガ……。この可愛い弟め!」
 肩を抱こうと伸ばしてきたフェリルの手を、すかさずヨルムガンドは叩き落す。
「調子に乗るな」
「……はい。ごめんなさい」
 そして家に帰ってコタツに入ると、次第にフェリルのまぶたが重くなっていく。
「おい、ここで寝ると風邪ひくぞ」
「あー……、うん」
 ヨルムガンドの声を聞きながら、フェリルは眼を閉じる。――しかし『この時』を失うことを拒んだのか、フェリルの眼からうっすらと涙がこぼれ落ちた。


○お正月はサービスエリアで

「はあ……。お正月の高速道路が酷い渋滞になる光景はテレビでよく見ていましたが、まさかここまでとは思いませんでしたね」
 車の中で、Gacrux(ka2726)は深く重いため息を吐く。車の中はラジオの音が響いており、渋滞状況を伝えてくるのがまた、気分を重くさせる。
「久し振りに故郷に帰って親孝行しようと思ったんですけど、仕事おさめがギリギリになってしまったのがマズかったですかねぇ」
 予定ではもっと早めに実家へ帰るつもりであったが、仕事のトラブルが起きてしまい、出発が遅くなってしまったのだ。そのせいで帰省ラッシュにものの見事に巻き込まれてしまい、数時間、車の中に閉じこもっている状態である。
「ラジオもいい加減、聞き飽きました。こういう時、一人だと……うん? おや、隣に来たのは……」
 Gacruxは車の隣に並んだバイクに乗る女性の姿を見て、カーウィンドウを開けて声をかけた。
「明けまして、おめでとうございます」
「ん? あっ、ガクじゃないか! 新年、明けましておめでとう!」
 ヘルメット越しに返答したのは、クリスティン・ガフ(ka1090)だ。
「クリスティンも里帰りですか?」
「私は学生時代に、ホームステイした家へ行く予定だ。お世話になったファザーとマムが、この前、私の勤めている病院に健康診断をしに来て久し振りに会ったんだが、その時に正月に泊りに来いと誘われてな」
 看護婦をしているクリスティンは学生時代にこの国へ来て、すっかり気に入ってしまった。なので就職先も故郷の国ではなく、この二ホン国を選んだほどだ。
「ホームステイ先はまあいわゆる田舎でな、就職先が見つけにくい所でもあったんだ。私は看護婦になるのが夢だったんだけど、近くに専門学校がなくて、都会に行くしかなかった。都会に出てからは勉強や仕事が忙しくて、なかなかホームステイ先に行く機会がなくてな。あまり顔を見せなかったから、心配してここまで来てくれたらしい」
「そうでしたか。俺は実家に帰るつもりなんですが……、まあこの状態です。よければサービスエリアで、一緒に休んでいきませんか?」
 Gacruxが指さした方向にはサービスエリアの案内看板があり、ここからでも建物が見える。
「そうだな。流石に夕暮れ時になると体が冷えてきたし、休むことにしよう」
 サービスエリアへ向けて、Gacruxは車を、クリスティンはバイクの進行方法を変えた。
 それぞれの駐車場で車とバイクをとめた後、二人は食堂の入り口で交流する。
「高速道路のサービスエリアが進化していることはテレビで見て知っていたが、本当にスゴイな。売店や食事処があるのはもちろんのこと、メディカルサービスや宿泊施設と入浴施設もあるとは……。それに大好きなアジの刺身定食を食べることができるなんて、素晴らしい所だ♪」
 クリスティンは納豆付きのアジの刺身定食を頼み、Gacruxはマグロの刺身定食を頼んだ。
「クリスティンは本当に和食が好きですね。ここのお土産売り場には海産物がありましたから、お世話になった方達へ買っていかれては?」
「それは素晴らしい! 二ホン食は健康的なものが多いし、どれだけ食べても飽きないのがまた良い。ファザーとマムへ、ぜひ買っていきたいな」
 上機嫌で定食を食べていくクリスティンを見て、疲れているGacruxは少しだけ苦く笑う。
「クリスティンはアクティブですね。俺なんて、渋滞ですっかり疲れてしまったんですけど……」
「いや、私だって疲れてはいるさ。けれどこれから懐かしい人達に会えると思うと、元気がわいてくるんだ。いっぱい話したいことがあるし、やりたいこともあるからな!」
「……ですね。俺もしけた面を正月早々両親に見せるのは何ですし、ここで気分転換することにします」
 クリスティンの元気いっぱいな姿を見て、Gacruxは弱々しくも笑みを浮かべた。
 定食を食べ終えた後は、二人並んで土産物売り場へ移動する。
「おおっ~! 美味しそうな干物が多い上に、塩辛や佃煮まである!」
「俺も少し、買っていきましょうかね。酒のつまみになれば、父も喜ぶでしょうし」
「うんうん! でも海の香りは、ホームステイ先を思い出すな。海が近くにあったから、ます寿司やかぶら寿司、他の土地では珍しいげんげという魚をよく食べていた。干物も美味しくてな。マムに魚料理をよく教えてもらっていたものだ」
 イカの塩辛を手に持ちながら、クリスティンは懐かしそうに眼を細めた。
「一人暮らしをはじめてから、二ホン料理を本格的に作るようになった。だからファザーとマムに、私の手料理を食べてもらおうと思っている」
「それは良い考えですね。今度はぜひ、俺にもクリスティンの手料理を食べさせてください」
「ああ。……しかし買い過ぎるとバイクに乗れなくなるから、土産は慎重に選ばないとな」
 こうして二人は実家への土産を買った後、サービスエリア内にある公園を少し歩くことにする。
「おや、ここは高台になっているので、高速道路が見下ろせますね。……ああ、バイクと車のライトが美しいです。地上の天の川みたいですよ」
「ホントだな。……できればホームステイ先でお世話になったグランマにも、見せてあげたかった」
 少し寂しそうに呟くクリスティンの言葉から、グランマが既にこの世にいないことを察することができた。
 それでもGacruxは自分から問うことなく、彼女の次の言葉を黙って待つ。
「……グランマは私が将来のことで悩んでいる時に、とても良い言葉を教えてくれたんだ。その魔法の言葉のおかげで、私は今、ここにいられる。……どれだけ感謝しても、足りないぐらいだ」
「そうでしたか……。俺も両親に……は?」
 ふと夜景を見ていたGacruxの眼に、別世界が映った。その世界は『今の世界』とは全く違うものの、それでもとてもよく見慣れているもので……。
「ガク、どうした? 急に黙って……。疲れが出たのか?」
 しかしクリスティンに声をかけられて、Gacruxは再び『今の世界』に戻る。
「……いえ、大丈夫です。そろそろ出発しましょうか。『今』の俺達には、待っている家族がいることですしね」
「あっああ……、そうだな」
 だがクリスティンは、妙な含みを持つGacruxの言葉が引っかかった。
 しかしGacruxはクリスティンの視線を避けるように、背を向けて歩き出す。
 そして二人はサービスエリアを出ると、分かれてしまう。そのことに、Gacruxは内心でホッとした。
「……『夢』というものは、見たいと思う願望があるからこそ見られるものなんですよね。そして目覚めた時、現実との差に悩むんでしょうけど……それでも『今』はこの状態を楽しみましょう」
 自虐的にGacruxは言ったつもりだったが、その表情は泣きそうになっている――。


○お正月はオフ会を

「……っぷはぁ! げほごほっ! ……あー、別世界に行きかけたよ」
 フォークス(ka0570)は寝ていた上半身を起こすと、真っ青な顔で咳を繰り返す。咳がおさまっていくとだんだんと落ち着いていき、見慣れた部屋に見知っている二人の青年がいることに気付く。
「こっちの世界にお帰りなさいです。お餅を喉に詰まらせるなんて、正月らしいですね」
 葛音水月(ka1895)は疲れたため息を吐きながら遠い目で、フォークスを見つめる。
「全くだな。あっちの世界に行って、もう帰ってこないかと思った」
 同じく薄氷薫(ka2692)もまた疲れており、手に持っていたハンディクリーナーを床に置いた。
 フォークスは改めて座り直すと、不安げにキョロキョロと部屋の中を見回す。
「えぇっと……、ああ、ここはあたいが住んでいるアパートの部屋だねぇ」
「もしかして、記憶が飛んでいます?」
 水月からミネラルウォーターのペットボトルを手渡されながら問われて、図星のフォークスは引きつった笑みを浮かべる。
 気を失っている間に妙に現実感がある夢を見たせいか、いまいち自分の状況が理解できずにいるのだ。
「実はちょっと……混乱しているんだよ」
 フォークスの言葉を聞き、薫は眼を丸くする。
「本当にあっちの世界へ行きかけたんだな……。では今日のことを、最初っから話そうか」
 三人はコタツに入りながら、今日のことを語り出す。
 フォークスは水を一口飲んだ後、顔をしかめながら自分のことを思い出そうとした。
「う~ん……と。まずあたいは『華火』と言う名のホステスでぇ、とあるオンラインゲームでもこの名を使っていたんだよ。ツイッターでも使っていて、お正月にゲーム仲間とオフ会をしようって話になって……」
「ええ、そこまでは合っています。そして今日、数人のゲーム仲間と会って、一緒に初詣に行ったんですよ」
「その後、ゲーム仲間が経営しているバーで新年会をしたんだ。しかし終わりの頃にフォークスが『飲み足りないから、あたいのアパートにおいで』と言って、俺と水月をここまで連れて来たんだ」
 水月と薫の説明を聞いて、ようやく記憶がハッキリしてきたフォークスはしかし、何故別世界に旅立とうとしていたのかまでは思い出せない。
 腕を組んで不思議そうに首を傾げるフォークスを見ながら、二人は顔を険しくさせて説明を続けた。
「そしたらフォークスさん、コンビニで買ったインスタントのお汁粉を食べ始めたんですけど、酔っ払っていたせいかあまり噛まずに飲み込んだんです」
「そして案の定、喉に餅を詰まらせた。悪いがこの新品のハンディクリーナー、使わせてもらったからな」
 どうやら二人は新品のハンディクリーナーをフォークスの口の中に入れて、餅を吸い出したようだ。 
「適切な対処、ありがとう。まあハンディクリーナーはお店のビンゴゲームで当たったヤツだから、別にどうってことないんだけど……。う~ん、はしゃぎ過ぎたかねぇ。うっかりあのゲームの世界へ行くところだったよ」
 本気で語っているフォークスを見て、水月と薫は互いに顔を見合わせる。
「……フォークスさん。夢として見るのは良いと思いますけど、実際に行ったら怖いですよ」
「ああ。ゲームはゲームとして、楽しむべきだ」
「分かっているよ! ……しかしオフ会というのも、いろいろ考えものだねぇ。あたいはゲームの中では、『グイド』という名前の銃使いの男でぇ」
「僕は『葛音瑞葵』という名前の女の子ですし」
「俺の名前は本名と同じだが、少女という設定にしていた。……だが俺は都会の正月が、ここまで賑わしいとは思わなかった。田舎に住んでいるから、人酔いしそうだった」
 今回のオフ会の参加者の多くが都会に住んでおり、地方から出て来たのは薫ぐらいだった。
 最初ははじめて訪れた都会に少しはしゃいだ様子を見せていたものの、徐々に静かになってしまったのだ。
「だからあたいの後ろに、ずっといたんだね」
「……俺は元々、人見知りする性質でな。フォークスや水月とはよくインターネットを通じて話をしていたから、そうでもないんだが……」
「薫さんはゲームのキャラクターの外見は全く違いますけど、中身はほぼ一緒ですね」
 年下の水月の方が社交的で、他の参加者達とも楽しく会話をしていた。
「あ~、でもさっきの夢が、あたいにとって初夢ってことになるのかねぇ」
「ゲームの初夢って……、どれだけフォークスさんはのめり込んでいるんですか?」
「掲示板やツイッターでも、ゲームのことをよく語っていたな」
「……まあ、そうだね」
 フォークスは少しだけ遠い目をしながら、コンビニで買ったきた焼き鳥を食べる。

 ――確かにあのオンラインゲームに、フォークスは夢中になっていた。
 時々は夢にまで見て、起きた時には『今』が本当に自分の生きている場所なのか、迷うぐらいに。
 そのことをゲーム内の掲示板やツイッターで語ったところ、返って来た反応は非常に微妙なものだった。
 だがそれが当たり前の反応であることは、フォークス自身、よく分かっている。
 自分が『今』まで生きてきた記憶は、しっかりとあるのだ。なのにそれを否定して、夢見たゲームの世界こそ本当の現実のようだと言う方がおかしい――。

「……でも今日会ったゲーム仲間達、何だかはじめて会った気にならなかったよ。二人はどう思った?」
「まあ現実世界で会うのははじめてでしたけど、ゲームの中ではほぼ毎日会っていますからね」
「ゲームの中では演じているとはいえ、結局根っこの部分は隠せないからな。違和感なく仲良くなれたのは、良い事じゃないか?」
「……まっ、それが正しいね」
 妙にゲームの夢にこだわる自分の方こそ、おかしいことは分かっていた。
 気分が沈んでしまったフォークスを見て、水月と薫は慌てて意見を追加する。
「あっ、でもよくSF作品にあるんですけど、IFの世界ってあるみたいですよ」
「ああ、俺も聞いたことがある。登場人物は同じだが、住んでいる世界が違っているんだろう? まあ世界の歴史ってのはちょっとしたことで変わるようだから、『もしも』の世界はあるって話だな」
「ええ。合わせ鏡の中に入ると、映る姿は全て同じにはなりません。映っている人は同一人物でも、見え方が角度で変わりますから。だからフォークスさんは、その合わせ鏡に映った自分の姿の一面を見ているんじゃないでしょうか?」
「うんうん。ある意味、夢があって良いな」
 二人は力を込めて、頷き合う。
「『もしも』の世界、ねぇ……」
 水月と薫の意見を聞いて、フォークスは考える。
 『今』の自分に不満があるわけじゃないが、『もしも』こういう世界でなければ、自分はどう生きていただろうと思う時はあった。
 例えばファンタジーゲームのような世界だった場合、オンラインゲームでも選んだ銃を武器にして戦っていると思う。そして便利な文明の利器には頼らず、案外サバイバルな生活を送っているんじゃないかと考えるのだ。
「……別に今の生活に満足していないワケじゃないけど、心のどこかじゃあもっと刺激のある生活を求めているのかねぇ。あたいは」
「僕も考えなくはないですよ? 平和な世界で男子学生として生きるんじゃなくて、もっとこう……ファンタジーな世界で生きてみたいという思いは少しはありますし」
「そういうのは俺も好きだな。今とは違う、別の世界で生きてみるのも楽しそうだ」
 二人の言葉を聞くと、人間は平和過ぎると刺激のある世界で生きてみたいと思う願望を持ってしまうらしいことが分かった。
「まっ、【戦い】のない世界で生きるのは、安全だけど暇でもあるってことだねぇ」
「けれどどんな世界で生きていても、僕らは僕らですよ」
「そう簡単に、人間性ってのは変わらないからな」
「――だね。そしてできれば、別の世界でもあんたらと『仲間』でいたいもんだね」
 フォークスは缶ビールを開けると、二人へ向けて軽く振ってから飲む。
 体がアルコールによって火照る中、フォークスの眼に映る二人の衣装が違って見えたものの、それでも彼女は黙って微笑んだ。

依頼結果

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重体一覧

参加者一覧

  • 雨降り婦人の夢物語
    外待雨 時雨(ka0227
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 風の紡ぎ手
    クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659
    人間(蒼)|20才|女性|魔術師
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • M属性
    フェリル・L・サルバ(ka4516
    人間(紅)|22才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 夢の中での貴方は
クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659
人間(リアルブルー)|20才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/01/09 08:41:24
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/01/07 00:12:20