• 天誓

【天誓】End of Calamity3

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/11/15 12:00
完成日
2017/11/27 02:43

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ――ヒトの世界に、正義などあるのだろうか?
 正しいことをしたつもりだった。間違わないように、真っすぐに歩いたつもりだった。
 なのに、気づけば自分を信じられなくなっている。その罪の重さに耐えられない。
 この世界のどんな場所にいても。どんな時代を生きても。どんなに崇高な目的を掲げても、正義はいつも何かを傷つける。
 何かを護るということは、何かを護らないということ。
 有限の世界はいつも小さな幸せを奪い合い、殺しあう。
 誰かに望まれて、誰かを望んで立った舞台の上で、英雄は膝を着き、自分の物語の終わりを知った。

 同じ道を歩いて、そこに辿り着いた者は何人もいた。
 数え切れないほどの英雄たちが、喝采と称賛の中で自分を見失っていく。
 なぜ? どうして? なんのために? ――正義はどこにある?
 同じように倒れた者たちの無念は、悔恨は、世界に焼き付いて染みを作る。
 それは一番大きな染みに吸い寄せられて、いつしか英雄の名を冠した怪物は生まれた。

「私達って、結局のところ“誰”なのかしら」
 女は不意にそんなことを言う。騎士は整然と立ったまま、夜空に浮かぶ月を見ていた。
「私もハルトも、突然降って沸いたわけじゃない。何代にも、何人にも渡って継承されてしまった“問題”でしょ。じゃあ、今の私たちを突き動かすものは何なのかしら?」
『……知らん。どうでも良い事だ』
「あんたは自分が最初に抱いた願望を憶えてる?」
 そっぽを向きながらも、騎士は考える。でも、もう何も思い出せなかった。
 怪物の存在に動機などない。あったとしても曖昧で、もう思い出すことはない。
「なのにね。たまぁに、自分でも矛盾したような行動をとる瞬間があるの。それって私が覚えていないだけで、本当は持っていた目的なんじゃないかなって」
『下らん』
「私達歪虚がいなくなった時、この世界はどうなると思う?」
 それだけは騎士にはわかっていた。単純な事だ。
『知れた事よ。戦う相手が同族に変わる。それだけだ』
 結局、ヒトは……血の宿業からは逃れられないのだから。



「よう。久しぶりだな、ナイトハルト」
 暴食王ハヴァマールと共に帝国領を駆け回り、ナイトハルトは手当たり次第に精霊に襲い掛かっていた。
 その日も英霊の気配を追って、とうに滅んだ人間の村に足を踏み入れたナイトハルトだったが、そこには意外な客人が先回りしていた。
『貴様は……ヒルデブラント・ウランゲル!?』
 ヒルデブラント・ウランゲル。
 彼は先代の帝国皇帝にして、北伐作戦で失踪し、その後記憶喪失となっていた男。
 何度もナイトハルトと激突した、まさに命を賭けたライバルと言える人物だ。それがハンターを率いて待ち受けているとは。
『フッ、やはり生きていたか……!』
「あんまり驚かねぇのな?」
『刀鬼が何かコソコソしていたのでな。それに貴様の事だ、生きていても不思議ではない。……いつぞやの決着をつけに来たか』
「いや。時間稼ぎに来た」
 剣を抜いて身構えるナイトハルトに対し、ヒルデブラントは両腕を高々と掲げる。
『何のつもりだ』
「今のお前と戦っても勝ち目はないんでな。しかし、お前を倒すために時間稼ぎをせにゃならん」
『ほう? まるで時を稼げば勝算があるかのような口ぶりだな?』
「まあ、娘と息子がそう言ってるんでな。それに俺は前から話がしてみたかったのよ」
 ヒルデブラントは地べたにどっかりと座り込む。そうして酒瓶を取り出した。
「心配せずともお前さんとの決着はつける。だがその前に、一度腹を割って話をしてみねぇか?」
『ほう……面白い事を言うではないか、ニンゲン』
 その言葉に反応したのは暴食王ハヴァマールの方だった。
 3m近い巨躯をのしのしと揺らし、そしてヒルデブラントを真似てか、地べたに胡坐をかいてみせる。
『我が王……!?』
『わしも疑問を抱いておったのよ。一度、ヒトの強者と話をしてみたかった』
「意外だねぇ~。暴食って連中は、みんな見境なしに襲い掛かってくると相場が決まってんだが、親玉のアンタがそんな感じなのか?」
『わしは最終的に死という救いを与える事を目的としている。争いはその手段に過ぎぬわ。言葉で説いて貴様らが死を選ぶのであれば、いくらでもそうしよう』
「いや選ばんけどな」
『ふむ。では、我らと対話し何を望む?』
「だから時間稼ぎだって。娘と息子がなんか準備するまでの間、な」
 あっけらかんと言い放つヒルデブラントを、ハヴァマールは顎を撫でながら見つめる。
『剣王様、このような者の戯言に付き合う必要はございません』
『そうは言うが、お前も感じているのではないか? この国での戦いが、終わりに近づいている事を……』
 帝国がナイトハルトへの対抗手段を見つけ出すにしろ、そうでないにしろ、この国での戦いはそう遠くなく終わりを迎えるだろう。
 この戦いの先に何があるのか。それはナイトハルトにもハヴァマールにもわからない。
『これは最期の機会。もう二度と、我らが言葉を交わす事はあるまい』
 ナイトハルトは王の言葉にしばし思案し、それから刃を納める。
『さて、時間稼ぎというからには、当然わしを楽しませてくれるのであろうな? その言葉、退屈で無意味なものであれば……その時は、わかっているな?』
 ハヴァマールの何気ない言葉と共に発される強烈な負のマテリアルに晒されながら、ハンターはその場に座り込む。
 こうして建設的な時間稼ぎのための対話が火蓋を切ったのだ。

リプレイ本文

「騎士皇、獅子王。各々其処に直りなさい。四の五の言わずに直れ」
 アウレール・V・ブラオラント(ka2531)は左右の手に掴んだ剣を大地に突き立てる。
 片や、獅子王が愛刀シャイターン。片や、始祖帝が愛剣カル・マ・ヘトン。同席する二人を象徴する武器だ。
「不敬など百も承知。だがまずは座して語られよ」
「せっかく歪虚の大将と言葉を交わせる機会なんだ。思う存分語り合おうぜ!」
「そうだな。俺にも一杯くれ」
 エヴァンス・カルヴィ(ka0639)がどっかりと胡坐をかくと、リュー・グランフェスト(ka2419)も座して円を作る。
「色々と酒を持参してきた、ぞ……。好きな物を選ぶといい……」
 オウカ・レンヴォルト(ka0301)が酒瓶を差し出すと、暴食王はそれを掴んで首を傾げる。
『この棒がなんだと言うのだ?』
「いやいや。中に液体が入っているのじゃッ」
「……身体中穴だらけですけど、そもそも飲めるんでしょうか?」
 ツッコミを入れるカナタ・ハテナ(ka2130)。ソフィア =リリィホルム(ka2383)は素朴な疑問を口にする。
 実際、ガワがあるだけで中身がない暴食なので、酒を飲むという行為に意味があるとは思えない。
 だが、暴食王は一応口に該当する部分から流し込んだ酒を胸の辺りから放出して喜んでいた。
「まあ当人がご満悦ならいいとして……場所変えないか?」
 苦笑しながらリューが提案する。ハンターらもそれに乗じて様々な提案を行った。
 そういった案は結論としては時間稼ぎにつながったのだが。
『何を考えているのだ。王と貴様らニンゲンが長時間行動を共に出来るはずなかろう?』
 ナイトハルトの言葉に顔を見合わせるハンターたち。
『貴様らが精霊の加護を得られるのは日に如何程か。覚醒の力を失って王の波動に耐えられるとでも?』
「「「あ」」」
 説明しよう! 覚醒者が一日に覚醒していられる時間には限界があるのだ!
 そして暴食王は存在するだけで周囲のマテリアルに圧をかけ続ける始祖たる七。練達のハンターでも非覚醒状態で傍にいれば不調を来たしてしまう。
「じゃあ三日間も時間稼ぐのって無理なんじゃねーか……!?」
「剣豪どんも温泉は好きだと思うのじゃがのう……」
 エヴァンスとカナタがヒソヒソと仲間に声かけするが、その結論は後に語るとして。

「まあ、ここは予定通り話したい事を語っていくとしましょう」
 ソフィアの提案に全員が頷く。その頃にはナイトハルトもその場に座っていた。なお、正座である。
「俺は、ハヴァマールが何故、死を救いと言うのか……その結論に達したのか知りたい」
 オウカが話を切り出す。その質問は、皆も気にかけていたものだ。
「無を良しとするにしても、この世界には英霊という存在もある。……それは無とは言い切れないのではないか?」
『で、あるな。しかし、生物の死と英霊には本質的な接点は存在しない。英霊を作るのは後世のニンゲンじゃからな』
「それは歪虚にも言える事ですよね? 貴方達歪虚は死んでいる。でも、そこに存在する以上“無”ではないですよね?」
 ソフィアが続けて問うと、暴食王は顎を片手で撫でる。
『然り。歪虚は無の尖兵にして無そのものに非ず』
「ならば歪虚や雑魔を“救わない”のですか?」
『大事の前の小事である。歪虚は行き詰った存在である故に』
「行き詰った……?」
「成程……そういう事か」
 リューは少し驚いた様子で呟く。
 今の問答は、丁度自分が問う筈だった疑問への答えになってしまっている。
「前にアンタが言った通り、人はいつか死ぬ。それを早める事に何の意味があるのか……俺はそこが疑問だった。だが、アンタは人間が積み重ねる生き物だから脅威と捉えているんだな?」
「人というソンザイは意志と記憶で出来ている。同じ意志と記憶を忘れぬ限り、肉体が死んでも生き続ける。人類は膨大な過去を積み上げた上に立っている。だから――私達は“死んでも死なない”」
『然り。歪虚はそれ以上も以下もない。だが、ヒトは一人でも残せば“増殖する”のだ。際限なくな。歪虚との違いと言えば、そこであろう』
 当然のように答えたが、リューとアウレールの胸中には言い知れぬ違和感があった。
 この人知を超越した怪物は――しかし人類の価値を正しく認識しているのだ。
「死が救いというのは一理あると思います。わたしは絶対ゴメンですが」
『ほう。何故じゃ?』
「まだまだやりたい事、やるべき事が山積みなので!」
『残念じゃ。貴様のような者こそ、優先して殺すべきなのじゃが』
 冗談のように笑いながら語る王だが、放たれる殺気は本物である。
 故に身体で感じた。殺したいと思うから殺すのではなく、この怪物は殺すべきだから殺すという、ある種の義務的な殺意で行動しているのだ。

「ハヴァマールはいつから己を自覚したのだ……?」
 オウカが再び問いかけると、カナタが仮説を述べる。
「過去のリグ・サンマガでの邪神の侵攻で死した無数の人の骨が負の波動を受けてスケルトン化し、寄り集まったモノが剣王どんではないのかの?」
 血盟作戦でハンターは暴食王の初出現を北方王国で確認した。だがあの時はまだ今のような自我はなかった筈だ。
「生命体として未来永劫逃れる事のできない邪神の脅威から唯一逃れる方法として、死を救いと選択したのではないかの? 死ねば邪神の恐怖から逃れるし、極希に死んで歪虚化する事で第二の人生を得られるモノも居る」
『ほう』
「そもそも剣王どんがヒトを救いたいと考える事自体、普通の歪虚にはない考え方なのじゃ。元人間だから、そういう無意識を持っておるのではないかの?」
『確かに、余の自我の興りはヒトと戦い始めてからであろう。そして余の目的が“邪神からの救済”というのも、概ね一致しておる。……尤も、余は“邪神こそが救い”と思うがな』
「邪神の存在が……救いじゃと……?」
『フフ……そう遠くない時に、余の言わんとする事も理解するであろう』
 頭上にクエスチョンマークを浮かべるカナタだが、隠しているというよりは本当に語れない様子。これ以上の答えは得られないだろう。

「話してばかりってのも疲れるし、頭を休めるついでにチェスなんてどうだ?」
 エヴァンスは携帯用の折りたたみチェス盤を広げる。
「娯楽品の一つだが、ある意味人間の戦いの歴史に一役買ってきた代物でもあるんだぜ」
 だが、当然のように二体の歪虚はルールを知らなかったので、説明するところから開始された。
『ふんッ!』
「キングはそんな動き方しねぇからな!? ていうか初手キングで相手のキングを粉砕しようとするんじゃねぇよ!」
『むむ。確かに兵らの楽しみを奪うというのも……』
「そういう問題じゃねぇよ……ルール理解する気ゼロじゃねーか」
『我が王と戦略は水と油……私が代わりましょう』
「お? ナイトハルトはルール覚えたのか?」
『我を誰だと思っている。一度聞けば分かる』
 その言葉に偽りはなく、初めての遊戯だと言うのに黙々と駒を動かしていく。
「武神サマってのはなんでもやるんだな~。そういや、あんたらのお仲間にもチェスをイメージした戦いを仕掛けるようなやつがいたぜ。不死の剣王が死という名にふさわしい姿を持つように、アルカナや今まで戦ってきた歪虚達もその力や概念を表すような何かを持っていた」
『歪虚には元々精霊だった者も多い。そうでなくとも、ヒトは想いを抱いて闇に堕ちる。身なりや力が即した形となってもおかしくはあるまい』
「だな。だったらナイトハルト、騎士を名乗るお前には正義という概念が存在したんじゃないか?」
『フン……正義など、この世で最も下らぬ概念の一つよ』
「そうか? 人間は正義が大好きなんだぜ。まあ、必ずしもそれが同じ正義とは限らないけどな」
『そうだ。故に、正義などこの世界の何処を探してもありはしない』
 駒を摘まむ手を止め、エヴァンスが顔を上げる。
「いいや。正義はあるぜ? 意志ある者の数だけ存在する。形が一つじゃないってのは、“ない”のとは違う」
 エヴァンスは細かい事を考えるタイプではないが、これまで隊を率いて大きな戦いを生き延びてきた男だ。
 故にナイトハルトとの勝負は拮抗したが、初見でも“武技”であれば何でも看破してしまう剣豪には及ばなかった。
『無限の正義など愚民の遠吠えと変わらぬ。絶対の一に至らぬのであれば、無と同義よ』
「勝てば官軍ってか? それも事実だ。でも、面白くはないと思うぜ。色々なヤツがいるから、この世界は面白いんだ」

「無理は承知で……その剣を見せて貰えませんか?」
 ソフィアが指さすのはナイトハルトの腰に下げられた二対の剣。
「能力を探りたいとか、弱点探したいとかではなく、一人の鍛冶師として武神の剣を見たいんです」
 すると、剣豪はあっさり剣を抜くと投げて寄越した。
『そこらで拾った剣だ。銘もない凡作よ』
 確かに言葉の通り、何の変哲もないただの剣だ。
 装飾も殆どなく、形も無骨。しかし、恐るべき負のマテリアルで磨かれている。
「確かにただの剣ですが……人斬り包丁として使い込まれるとこうなるんですね。後天性“魔剣”というべきか……。時間があれば手入れをしてあげたかったのですが」
『フッ……。道具に善悪はないと、相争う双方の武器を拵える。それが鍛冶師というものよな』
「実際、道具に善悪はありませんよね?」
『その通りだ。ソレも元は歪虚を討たんと生まれたモノだろうよ。担い手が代わっても、剣は何も語らぬがな』
 どこか懐かしげに呟く剣豪へ、ソフィアは剣を差し出す。
「今更ですが……わたしはエルフハイムの事件で、オルクスの最期を見届けた者です。彼女の事を伝えておきます」
『奴は答えを得たのか?』
「わたしはオルクスではないので分かりませんが……でも、納得した上での最期だったと思いますよ」
 受け取った剣を鞘に戻し、剣豪は「そうか」と短く返した。

「私はせめて剣豪には自分が何者かの自覚を取り戻して欲しいと思っている。いや……貴方にはそれを思い出す義務がある」
 アウレールの言葉はナイトハルトだけではなく、獅子王ヒルデブラントにも向けられている。
「指導者が、自らが率いた者たちを忘れるなんて許される事ではない」
 二人の元王は顔を合わせ、暫し思案する。
「結局、あんたは何者なんだ? どうして暴食王についている?」
 リューの問いに答えたのはヒルデブラントだ。
「オレ達はよ、結局王って奴には向いてなかったのよ。坊主の言う通り、率いるモンはついてくるモンへの責を負う。だがオレとこいつには、“別に誰かについてきてくれと頼んだ覚えはない”という共通点がある」
「……何?」
「逆に訊くが、お前さん達は何故戦ってるんだ? 忠義か? 正義か?」
「俺は……守りたい。目につく誰かを、この世界を。難しい事はわからない。けど、誰かを護りたくて力を欲したんだ」
 リューは直ぐに答えた。その答えはずっと昔から変わらない。
「目の前で泣いてる奴がいるのに、何もしないなんて出来ない」
「じゃあ、お前さんは“それ”でいい。オレもそうだ。ただ目の前の事をやってた。お前さん、明日から王になれって言われてなりたいか? それで守れた筈の“目の前の誰か”を救えなくなっても?」
「え? いや、俺は……」
「剣豪(コイツ)も別に王になりたくなかった。なのに後世の孫か何かがハクつけようって勝手に王だった事にしちまった。ナイトハルトは騎士であって王じゃない。仕えるに値する器を持つ王がいれば、それが一番だろ?」
「それでは余りにも無責任だ! 貴方達が見せた夢を信じ、同じ夢を見て従った彼らを……建国に、北伐に散った彼らを、貴方達の他に誰が語れるというのだ!?」
 アウレールが言葉を荒らげたのは、脳裏に過る父の姿故である。
 だが、ヒルデブラントは当たり前のように返した。
「“お前”がいるじゃねえか」
「な……に?」
「兵(つわもの)が夢を見て走るのはそいつの権利。それを忘れたくないのは残された奴の権利。忘れなきゃ残り、生き続ける。さっきお前らが言った通りだぜ。それとも、なんだ?」
 大男はへらりと笑ったまま、しかし息をつかせぬ凄みを込め。
「――夢に生きて走り抜けた兵の人生が、取るに足らない失敗だとでも?」
「違う。失敗であっても……途中で倒れたとしても……祈って戦って、血も汗も涙も全部積み上げて、人は一歩ずつ前へと進んでいく……」
「そうだ。オレ達の命なんざ所詮塵芥、夢みてぇなモンよ。だが間違いじゃねぇ。ただ納得して死にてぇ、それだけだ」
『……我らに出来るのは、ただ走りて散る事のみ。その火花を見て何かを想う者がいるのであれば、それが弔いとなろう』
 黙っていた剣豪がポツリと呟く。
「……成程。ならば私は進み続けよう。既にヒトと亜人の共存という、貴方が成し得なかった事を為した。貴方達の物語を引き継ごう――この剣と共に」
「俺が無理でも、同じ思いを持つ誰かに繋げたい。親父や師匠がそうしてくれたように、赤の龍王がそうしてくれたように。“一人じゃない”って、そういう事だから」
 暴論ではあったが、不思議と得る物はあった。
「以前にも言ったが、もう一度言うぜ。“俺は、アンタを超える”」
「私達が倒れてもまた誰かが、いつか諸人の正義に届く、その日まで」

 あっという間に時が過ぎた。覚醒限界がなければただ語るだけで三日など直ぐに過ぎただろう。
 だが、そろそろ二体の歪虚から離れなければならない。
「せっかくじゃし、決戦の前に温泉で綺麗サッパリしてきてはどうじゃ? 剣豪どんも温泉、嫌いではないのじゃろう?」
『前に刀鬼が言っていたな。余も味わってみたいものだ』
『そういう事であれば、ご案内しましょう』
「結局お前らだけでツアーに行くつもりか? まあ、時間稼ぎは出来そうだからいいけどよ……ほら、人間流の別れ際の贈り物だ」
『次に会う時は戦場だな』
「だな。短い時間だが、楽しかったぜ」
 酒瓶を手渡し笑みを浮かべるエヴァンス。カナタは上着のポケットに手を突っ込み。
「剣王どんの言葉、再び見える時までに考えておくのじゃ」
 再び馬に変形したハヴァマールに剣豪が跨り、二体の歪虚は猛スピードで去っていった。
 それから遅れ、全員に強い疲労感が圧し掛かった。
「何故殺す……ではなく、何故生きる……という問題なのかもしれぬな」
「人間が死に抗うのは生きたいから……理由は人によりけりだが……」
 オウカが呟くと、カナタは首を横に振る。
「それは人間の都合じゃからな。暴食王はもっと違う規模の理……星の成り立ちのようなものを見つめているのかもしれんの」

 その後、予定通りというべきかどうか、実際二体の歪虚の動きは停止していた。
 どこぞの温泉地で膨大な負のマテリアルが観測されパニックが発生したという噂がこの件に由来するものかどうかは、誰にもわからない……。

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参加者一覧

  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 猫の守り神
    カナタ・ハテナ(ka2130
    人間(蒼)|12才|女性|聖導士
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/10 21:44:08
アイコン 作戦相談所
カナタ・ハテナ(ka2130
人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/11/14 20:33:25