※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
凍えない想いを


 辺境の奥、冬には雪で閉ざされる、ある山にUisca Amhran(ka0754)と瀬織 怜皇(ka0684)の姿があった。
 ハンターオフィスからの依頼だった。山に入った者が遭難して戻って来ないという。それも、一人や二人という数ではない。猟師もハンターも帰って来ないのだ。
「……無事だと良いのですが」
 心配そうに真っ白な景色を見渡すUisca。
 仲間と共に訪れたのだが、突然の吹雪で分かれてしまったのだ。
 通信機を頼りに合流を目指したが、似たような景色が続いた山だったのが災いして完全にはぐれてしまっている。
「きっと、大丈夫でしょう」
 怜皇が安心させるように告げた。
 永遠に続くように感じられていた吹雪は収まってきていた。
 猟師達が使っていたと思われる粗末な小屋の戸から二人は顔を出す。一面、そこは銀世界だ。息づかい以外、何も聞こえない静寂が包み込んでいる。
「レオ、この足跡、見て」
「……鹿や狐じゃないみたいだね」
 Uiscaが小屋の脇に続く足跡を見つけた。
 蛇行しながら、足跡はある方角に向かっているようだ。
「もしかして、雑魔か歪虚かな?」
 慎重に足跡の形を見ながらUiscaは疑問の声を上げる。
 山に入った者が遭難していた――ではなく、実は雑魔や歪虚に襲われていた……という可能性もある。
「ハンターのパーティーを全滅させる程の強敵なら、相当な負のマテリアルを持っていると思うけど……」
 考えながら怜皇は疑問に答えた。
 激しい戦いになったら、痕跡もあるはずだし、場合によっては逃げ出す事も出来たはずだ。
「行ってみましょう!」
「そう言うと、思いました。でも、イスカ。無理は禁物ですからね」
 二人は足跡を辿りながら雪山を進んだ。
 途中までは深い雪に足を取られていたが、木々を抜けた広い場所に出ると、雪も浅く、歩きやすい状態になる。
「荷物を持つよ」
「ありがとう、レオ」
 雪山を荷物を背負いながら、いつ出現するかもしれない未確認生物に気を張りながら進むのは、流石に覚醒者であっても堪える。
 怜皇は、疲労感が薄っすらと出て来ていたUiscaから荷物を受け取った。少なくともエルフで華奢なUiscaよりかは筋力に自信はある。
「絶景だね」
 二人分の荷物を器用に背負って怜皇は遠くを見渡す。
 遮るものはなにもない。真っ白な雪の平原と真っ青な青空が見事な風景を形作っている。
「凄く綺麗……折角だから、姉さま達に撮ろうかな」
「魔導カメラは俺のリュックだったかな?」
 トトトと怜皇にUiscaが近づいた瞬間だった――。
 ふわっと足元を襲う違和感。怜皇は咄嗟に踵からマテリアルを噴出させるが自身は跳躍せずに勢いそのまま、Uiscaを身体ごと吹き飛ばした。
 次の瞬間、怜皇の身体は水の中に落下する。
(平原かと思ったら、湖だったのか!)
 再度、マテリアルを踵に集中させるが……割れた氷から差し込む光の中、湖の中に魚とも狐とも思えぬ奇怪な雑魔が姿を表す。
 恐らく、これが相次ぐ遭難の原因だったのだろう。
 湖に誘き出され、沈められれば死体も痕跡も残らない。如何に屈強なハンターといえども、窒息や凍死からは逃れられない。
(まずは出ないと)
 引きずり込もうと迫ってくる雑魔を紙一重で避けると、怜皇はジェットブーツの勢いで水面に飛び出した。
 そのまま、氷雪の上に転がる。すぐさま、Uiscaが傍に寄った。
「レオ!」
「ここは湖の上だ。雑魔に誘き出されたんだ」
 ガシっとUiscaの身体を掴むと怜皇は三度目となるジェットブーツを使い、宙に飛び上がる。
 刹那、二人が居た氷が消え去り、水面が現れた。恐らくは雑魔の持つ特殊な能力なのだろう。
 水面に顔を出した雑魔に対し、Uiscaは法術縛鎖が絡みついた腕を突き出した。
「……この身に宿る龍の力よ、私の声に応え、不遜なる存在を滅せよ! 龍獄――ドラッヘゲフェングニス――!」
 Uiscaが唱えた法術により、無数の龍の牙と爪が、雑魔の周囲に生み出される。
 それらが次々と雑魔の身体を貫き、ダメージを与えるだけではなく、移動する力すらも奪う、強力無比な魔法だ。
 水面で浮かぶだけのそれに対し、怜皇はUiscaの持つ盾を足場にして力の限り、蹴った。
 その反動でUiscaを穴から遠ざけつつ、突き出した左手の掌からマテリアルの剣を作り、怜皇は雑魔に被さるように落下する。
 雑魔が消滅していく事を確認しつつ、水面の縁からしがみ付いて登ろうとする怜皇だが、思うように力が入らない。
「レオッ!」
 急に視界が真っ黒に消える中、Uiscaが怜皇を呼ぶ声だけが、幾度も頭の中で響き――意識が朦朧とし出した。


 回復魔法は傷を癒すものだ。故に、老化や欠損した四肢を元通りに治す事はできない。
 怜皇の意識が朦朧としているのは雑魔との戦闘ではなく、冷たい氷の中に落ち、身体が冷え切った事によるものだと、Uiscaはすぐに理解した。
「レオ、しっかり! レオ!」
 最愛の人の名を何度も呼び掛けながら、Uiscaは周囲は見渡す。
 荷物は湖の中。燃やせるようなものも周囲にない。なにより、再び風が吹雪いてきて、雲行きも怪しい。
「レオは絶対に死なせない!」
 コートで怜皇を包むと気合の声と共に引きずるように背負う。
 とてもではないが重たい。それでも歯を食いしばり、両膝と腰に力を入れる。
 猟師小屋まで行けば、何かあるかもしれない。それに粗末とはいえ小屋だ。風や雪を直接受ける事はない。
 来た道を必死になって戻るUisca。凍った湖から出て雪山に入ると、進む速度が急に落ちた。
 邪魔な盾を投げ捨て、杖を突きながら一歩一歩進む。
「どいてぇぇ!」
 行く手を阻む雪に、マテリアルを込めた杖を振り下ろした。
 生半可な敵を一撃粉砕する威力を誇るが……雪が僅かに払われた程度だった。
 それでも、ほんの僅かでも足を進ませるのに意味があるのであれば――何度も何度もマテリアルを杖に込めて雪を打ち払いながら進むUisca。
 汗だくになりながら、小屋に到着した頃にはマテリアルも尽きかけていた。
「レオ! レオ!」
「イス……カ……行くんだ……ここは……俺が……」
 意識と記憶が混濁しているのだろう。
 力なく呻く怜皇から濡れた衣服を脱がす。一般人なら既に凍死していても不思議ではない状態だ。精霊の加護がある覚醒者だからこそだろう。
 それとて、いつまで持つか分からない。
 Uiscaは淡々と自身の服を脱いだ。肌着で素早く怜皇の身体を拭くと、衣服を掛ける。
「確か、小さいかまどが……」
 申し訳なさそうにある程度だが、何も無いよりかはマシだろう。
 火を付けると、壁に掛かっていた敷布を手に取った。
「…………」
 汗が冷えてきてUiscaは寒さを感じてきた。
 手にした敷布を広げながら、振るえる怜皇と重なるように一つになる。
 まるで氷かと思う程、彼の身体は冷たかった。それでも、心臓の鼓動は確かに身体に響いてくる。
「レオ……レオ……」
 優しく声を掛けながら、怜皇を抱き締めた。
 無意識なのか、それとも分かっての事なのか、怜皇も腕を回す。
 疲労とマテリアルを使い過ぎた事もあり、Uiscaに睡魔が襲ってきた。
 どんな雑魔や歪虚よりも恐ろしいと思った。ここで寝てしまったら、間違いなく自分は死んでしまうだろう。そして、それは最愛の人の死も意味する。
「……ねぇ、レオ」
 だから、心落ち着かせるように穏やかにUiscaは呼び掛けた。
 怜皇は変わらず意識が混濁しているようで、呻き声しか出ない。
 顔を優しく撫でながら、もう一度、呼び掛ける。
「レオ……私、もう一度、聞きたい。鳥は竜が進化したという話を」
「……イスカは……その話が、好きだね……」
 少しの沈黙の後、苦悶の表情を浮かべ呻いていた怜皇が、そう答えた。
 ぼんやりとした視線でUiscaを見つめる怜皇。
 最愛の人に回していた腕にギュッと力を込める。
「思い出したんだ……出会った時の事を……あの時の事を」
 あれから色々な出来事があった。
 楽しい事も、辛い事も。二人は一緒だった。だから、ここは終わらせる訳にはいかない。
「レオ……」
「イスカ……」
 二人はジッと見つめ合ってから、唇を重ねた。
 最愛の人の温もりを確かに感じながら、二人だけの時間が過ぎていくのであった。


 かまどの火が燃え尽きた。薪も、燃えそうな物も既に無い。
 風は吹いているようで、時折、戸がドンドンと揺れている。
「……今、声が聞こえなかった?」
 エルフ特有の細長い耳がピクンっとさせながら、Uiscaは顔をあげた。
 怜皇も耳を澄ます――と確かに、二人の名を呼ぶ声が聞こえた気がする。
 吹雪で離れた仲間達かもしれない。かなりの時間が経っているはずなので、心配して探しているのだろう。
「ここでーす!」
 怜皇が出した声は、大きくは無かったが、それでも、僅かに届いたであろう声に、仲間達から歓声があがった。
 騒がしい程の呼び掛けと装備や荷物が揺れる音が響く。
 想像以上に近くにいたようで、二人は顔を再び見合わせた。
 無事に下山できるだろうし、遭難の原因も討伐済みなので、もう二度と、この雪山で悲劇は起こらないはずだ。
 遠慮もなしに勢いよく小屋の戸が開かれる。それほど、仲間達は心配していたという事なのだろう。
「イスカさん! 怜皇様!」
 飛び込んで来たのは緑色の髪が特徴的な少女だった。
 心配させないようにと怜皇は身体を起こそうとした。
「あ、待って、レオ! 私たちっ!」
「え? あっ!」
 パラり――と掛けていた敷布がはだける。
 少女は二人が一糸纏わぬ姿に見えたようで、驚きの表情を浮かべて、手で顔を覆う……指は大きく開いているが……。
「お、お邪魔しましたぁぁぁ!」
「「待って!」」
 少女の叫び声と、Uiscaと怜皇の声が雪山にこだましたのであった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0754/Uisca Amhran/女性/16/聖導士】
【ka0684/瀬織 怜皇/男性/18/機導師】
【kz0174/紡伎 希/女性/14/受付嬢】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。赤山です。

お任せノベルに、二人で来た!これは、もう好き勝手に描いていいんだ!的に大興奮でした!
折角の貴重なご依頼でもあるので、どんなストーリーにすべきかと大いに悩み、二転三転した結果、やはり、二人のラブラブが書きたい!
……となりまして、そうなると、抱き合うシーンとかロマンチックとか、でも、オサレでカッコイイ二人も、微笑ましい二人も見たいし……。
そんな色々な欲望……じゃなくて、創作意欲により、作品を描かせていただきました。お気になる点があれば、お気軽にリテイクをお申し付けください。

軽度以上の低体温症では、裸で抱き合ってもあまり意味はないらしいですが……覚醒者だし、なにか凄い精霊の加護とお二人の愛の力だと思っていただければと!(

この度は、ご依頼戴き、ありがとうございました。
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
Uisca=S=Amhran(ka0754)
副発注者(最大10名)
瀬織 怜皇(ka0684)
クリエイター:赤山優牙
商品:おまかせノベル

納品日:2018/11/27 09:31