※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
小春日和に輝く

 窓からの、柔らかな光に誘われて──
(……うむ、小春日和、というやつじゃの)
 外を歩くその心地よさに、蜜鈴=カメーリア・ルージュは内心で呟いて顔を綻ばせる。
 気温は決して高くないのだろうが、風も無い中、燦々と輝く陽の光を浴びながらの澄んだ空気は程よく気持ちいい。
 町並みはもうすっかり聖輝節の空気に染まっていて。
(……善いことよ。こうであらねばならぬ)
 時節を迎えることで賑やかになる人の営み。変わらぬその空気を蜜鈴は愛しく思う。
 何があっても前を向き、歩き出す人類のしたたかさ。それを生み出すハレの空気。
 例年、人通りが増える季節ではあるが、今年は更に増えた気がする。……混み合う道で、戸惑い気味の人たち、も。リアルブルーからの移民がまた一気に増えた、その影響だろうか。
 ……と。
 ふと、町のあちこちにある案内板を、不安そうに見つめる少女が目に入る。様子から察するに……。
「何処ぞへの道を探しておるのかえ?」
 そっと、柔らかな声で蜜鈴は少女へと話しかけた。少女は、それでもやはり少しビックリしたように蜜鈴を見返して……それから、こくりと頷いた。
「あの、このお店に行きたくて……」
 少女が差し出したのはハンターオフィスに置いてあった情報誌のようだった。指先が示すのは一つの喫茶店。
「ははあ成程。この店なら分かりよるが……」
 二つの事に納得して、蜜鈴は語尾を細めていく。
「……先程通りかかったとき、あれ程の行列が出来ていたのは、そういうことであったか」
 彼女の言葉に、少女はええ……と戸惑いの顔を浮かべた。
 どうしよう、並んでもいいけど、でも売り切れてたら……と落ち込む少女に、蜜鈴はつい、お節介を焼きたくなる。
「……この店も確かに悪くはないが、妾の薦めは別の店じゃの。行ってみるかえ?」
 蜜鈴の言葉に、え、いいんですか! と少女は目を輝かせた。

 そうして今、蜜鈴が案内した喫茶店で、少女は絶品のショコラケーキに歓喜の瞳を浮かべていた。
「蜜鈴さんに会えて本当にラッキーでした! こんなに美味しいショコラが食べれて良かった……」
 そう言えばお茶の時間に丁度よいと、ついでのつもりで案内した蜜鈴にとって、若干気圧される程の感激ぶりである。それほどのことか? と思いかけて──思い直す。少女にとってはまさに、それほどのこと、なのかもしれない、と。
「酷なことを聞くようだったらすまぬ……おんしは、その……元、強化人間、であろうか」
 蜜鈴の言葉に、少女ははっと顔を強張らせる。だが、蜜鈴の目を見つめ返すと、ふっと表情を緩める。
「はい」
 少し無理をしていたのだろう快活な表情に寂しげな物も浮かべるようにして。
「……あと、三年。もっても四年だろうって、言われちゃいました」
 ……。
 忸怩たる想いを、しかし蜜鈴は今は顔に出さない。
「あはは、でも落ち込むだけ落ち込んだら、もう悩んでる時間が勿体無いって! やりたいことが沢山あって、閉じ籠ってる場合じゃない! って」
「そうか……」
 何も言えない。出来ることはただ、その強い意志を祝福するように優しく頷いてやるだけ。
「それに……ここに来れなかった友達も、居ますから。私、その子の代わりに出来ることは頑張らなきゃ、って!」
 そしてその言葉は。その笑顔は。蜜鈴の心の暗い部分をぐさりと刺した。
「代わりに……など、成らぬよ」
 そうして、蜜鈴は思わず告げていた。
「誰も、誰かの代わりになどは成れぬ。この後どれ程武勲を立てようとも。おんしはおんしとして歩み、幸せにならねばならぬ……」
 その言葉に、少女は僅かに、悲しげで、批難するような視線を蜜鈴に返した。
「故人を想うのは良い。その者の『為に』、心を尽くすのも善かろう。だが、代わりになってやれるなどとは思わぬことじゃ。そうして、己を磨り減らすことも、ならぬ」
「は……あ……」
 少女はまだ、若干納得のいっていない様子ではあった。それでもいい。これは結局、彼女にかこつけて己に言い聞かせているに過ぎないのだから。
(代わりになどならぬ……そうじゃ。努々思い違えるな……)
 この先どれ程強化人間に手を差し伸べようと。幾多の命を救おうと。この手で命を奪ったことの責務ではあれど……その、奪った命を取り返すことでも、代わりに出来るものでもない。事実は、罪は消せない。それでも……歩むことは、止めない。
「すまぬの、折角の茶会に、無粋な話であった」
「あ、いえ……」
 気にするな、と改めてケーキと茶を薦めると、少女は暫く考えて。
「やっぱり、今日、蜜鈴さんに会えてラッキーでした」
 ポツリと、言った。
「……何。幸運は、妾の方だったのやも知れぬよ」
 それに、蜜鈴も、ポツリと返す。
 すると少女は、今日一番、不思議な顔をしていた。

 厳しい日々の、その最中。それでも人の強さと暖かさを感じる、晴れ晴れとした町の、そんな空気の中の出来事。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4009/蜜鈴=カメーリア・ルージュ/女性/22/魔術師(マギステル)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はおまかせノベルを発注いただきありがとうございます。
というわけで凪池式おまかせノベルルールに従い今回ランダムで選ばれた作業用BGMは──?

【街 春】

でした!
ほのぼのと明るく、そして祭囃子のようなにぎやかさが混じる気持ちのいい曲です。
そのまま春の話にすべきだったのでしょうが、祭りの賑やかさがちょうどクリスマスイベントも始まったこの時期の雰囲気と馴染んでしまい、
小春日和という解釈の上で聖輝節の街を歩く蜜鈴さんの1シーンを書かせていただくことにしました。
すると【RH】からの色々なお付き合いが駆け巡っていき……このような逢瀬に。いかがでしたでしょうか。
改めまして、この度はご発注有難うございました。
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)
副発注者(最大10名)
クリエイター:凪池 シリル
商品:おまかせノベル

納品日:2018/12/05 09:41