※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
太陽と月の巡りを共に

「みあはうすにようこそニャスー♪」
 森の中へと分け入り、花畑と泉を横目に進んだ場所にホビットハウスは姿を現す。扉を開けるなり満面の笑みを浮かべたミアが、連れ立ってやってきたロベリア、蜜鈴、灯の三人を出迎えた。それぞれ簡単に挨拶を交わし、
「中々静かで良い処じゃな」
「そうね。これなら騒いでも誰にも怒られる心配がなくていいわ」
 と改めて周囲を見回し言う蜜鈴に、ロベリアが手にした鞄を軽く持ち上げて頷く。たまには戦いから離れて思い切り遊ぶ為にと、それぞれに様々な道具を持ち寄ってきていた。二人と、そして何処か得意げなミアを順に見やる灯の厚めの唇がかすかに綻ぶ。
「灯ちゃん、どうしたニャスか?」
「いえ、こうしてまたミアさんのお家にお邪魔出来るのが嬉しくて。今日は蜜鈴さんとロベリアさんもご一緒ですし、楽しみにしてました」
 言って目を伏せ、自らの胸に手を当てる灯にミアの瞳が輝いてロベリアと蜜鈴が慈しむような微笑を浮かべる。と。
「玄関先で話とらんと、早よ上がっといでー」
 ミア越しに白藤の声がかかって、揃って室内に入る。ダイニングから顔を覗かせた彼女はミアの物だろうエプロンを身につけ、奥からは仄かに甘い匂いが漂う。
「これで全員集合ニャスネ。早速、パジャマに着替えるニャス♪」
「え、こんな真っ昼間から?」
「会場は地下室兼秘密基地だから、昼も夜も関係ないニャスよ?」
「ああ、うん……そうね」
 さも当然、といった風に小首を傾げるミアに何だか自分の方が間違っている気さえしてきて、ロベリアはそれ以上言葉を重ねるのを諦めた。既に正午は過ぎているものの、春には日向ぼっこが捗りそうな大きな窓からはまだ陽の光が振り注ぐ時間帯だ。しかし。
(……私、冬の寝巻はジャージーなんだけど、別にいいわよね?)
 改めて全員でパジャマになる状況を想像すると、深く考えずいつもの物を持ってきたことが気にならないでもない。新調するのも違うのだが。ふとそう考えるロベリアの隣にすすすっと白藤が寄ってくる。
「皆もいつも通りやろうし、気にせんでええんちゃうの?」
 全員大切な友人には変わりないが、年季の分だけ口にせずとも伝わるものが増える。内緒話のような声に返事をする代わり、そっと肩を触れ合わせた。

「寝間着でパーティーとは……」
「パジャパは楽な格好でパーティーを楽しむからパジャパなんニャス」
「ふむ成程」
 件の地下室に場所を移し、着替え終わった所で改めて友人たちを見やる蜜鈴にミアが断言する。その言葉通り、ミアはキャミソールにタップパンツ、上にニットローブを羽織った姿で、感心する蜜鈴は白の長襦袢に緋色の羽織を合わせてある。袖は通さず肩に掛けた状態でソファーの一つに腰を下ろし、周りにある様々な形のクッションを手に取っては眺めるその手つきは長い爪で傷付けてしまわないよう丁寧なものだった。
「やっぱり、楽でいいですよね」
 とロベリアを見る灯は黒のもこもこパーカーとショーパンを合わせ、靴下もパーカーと同素材で合わせてある。レトロなストーブが点いているが部屋自体が広く、地下にある為寒いといけないと小さなブランケットを持ち込みそれぞれに渡す。カラフルなそれは本人か、あるいは想い人を連想させるカラーリングだ。
「うわっ、めっちゃ懐かしいやん……! これちゃんと動くん?」
「勿論よ。改造するのに骨が折れたけど動作確認も終わってるわ。これが五人で遊べる奴だったかしら?」
 部屋の中央にある大きな座卓にはロベリアが持ち込んだジュースや酒が配られていて、それと一緒に魔導機械式にしたゲーム機も乗せられていた。軍属時代の数少ない娯楽としてはアナログゲームもアリだったが、機械オタクと言われて否定出来ない程無類の機械好きのロベリア的にはこちらが馴染み深い。
「確か、これもですね」
「灯もやったことがあるのね?」
「一応は。あまり得意ではないんですが……」
 並んだ数本の中から対戦系のソフトを手に取り、パッケージ裏を眺めて灯が苦笑する。
「どんな感じのゲームなんニャスか?」
「口で説明するより、やりながら教えた方が早そうやわ」
「ならば早速、試すとしようぞ。動力は何処に繋げば良いかのう?」
「じゃあセッティングするわね」
 ホームシアターがあるのでそこに投影すればいいだろうと、ロベリアは家主のミアに確認を取りながら準備を始めた。

「読みは合ってるんやけどなぁ」
「ロベリアちゃん、運が悪いニャぁ」
「本当、何でこうなるのかしらね……?」
 遊び始めて数時間が経過し、最後のソフトも充分に楽しんだ頃、ふと零れた姉妹猫の呟きに当の本人も苦笑する。
 自分を狙う攻撃への対処は完璧なのだが、流れ弾で落下死したり、ランダムの筈の妨害が確率論を無視して集中しまくるのを繰り返す。そんなロベリアの戦績は最後まで残るか早々に消えるかの両極端で、おやつ時に休憩を挟み、その際に蜜鈴が用意したミニホットプレートやチョコフォンデュ用の小鍋でホットケーキを焼き果物をフォンデュしていたのが、途中で食べ過ぎているかもと気にしだす程に早期退場率が高かった。串で刺した苺にチョコを絡めて食べるミアが心底不思議そうに首を傾げる。そして食べ終わると時計を見て、
「そろそろお風呂の時間ニャスな! 誰か一緒に入らニャいニャスか?」
「ふむ? 誰ぞと風呂に入るは温泉以外では初耳じゃが」
「二、三人なら一緒に入れるニャスよ。アロマバスだからリラックス効果もばっちりニャス。蜜鈴ちゃんどうニャスか?」
 押せば乗ってくれそうだと、ミアが蜜鈴に熱いアピールを始める。彼女の視線は一旦他の友人たちの方に向いた。
「其方等は先に入らずとも良いのか?」
「うちは後でえぇわ。夕食……いやもう夜食か、そっちの準備もしときたいし」
「それならお手伝いしますね」
「……じゃあ私は片付けでもしましょうか。皿洗いくらいならうん、出来る筈」
 何処か遠い目をしたロベリアが皆から集めた皿を手に立ち上がる。白藤も自分が持ってきた物だからと遠慮する蜜鈴に手振りで応えて、後を追っていった。
「二人ともお疲れでしょうから、ゆっくり浸かってきて下さい」
 と、最後にコップをトレーに乗せた灯が言って階段を上がる。残された蜜鈴はふ、と少し困ったように笑った。口許を扇子でそっと隠す。
(ほんに、周囲を気遣う友ばかりじゃ)
 口に出せば自身も同じと言われそうだが。確かに己より誰かの幸せを希う気持ちに偽りはない。だがその願いに行き着くまでの道程は、そして想いそのものは。果たして真に同一だろうかと笑顔の下に疑念を抱く。普段着なら尻尾を揺らしていたに違いない、期待に無垢な瞳を輝かせるミアに蜜鈴は鷹揚とした微笑を浮かべた。
「では、有難く相伴させて貰うとしようかのう」

「ミア、随分と浮かない顔じゃな。如何した?」
 円形のバスタブに向き合う形で座り、香りや水面に浮かんだ色とりどりの薔薇を見て楽しむのも束の間。苦ではない沈黙、しかし天真爛漫を絵に描いたようなミアが気を落としていては声をかけずにはいられず、蜜鈴は穏やかな声音で問い掛けた。
「しーちゃんはチョコ渡せたのかニャ……って気になってるニャス」
 ミア曰く恋バナは寝る前にするもの、らしいのでこのお泊まりパジャマパーティーの本題ながら最後に取ってあるのだが、やはりどうしても気になるようだ。それは白藤が姉のような存在であるのと同時に、彼女が恋愛事では引いたりはぐらかしたりと消極的な素振りが透けるからだろう。
「しーちゃんはいざという時、いつも何かを怖がっているように見えるから。……きっと“彼”が受け止めてくれるはずニャのになぁ」
 ミアにとっては父のように慕う人で、白藤にとっては手を伸ばそうとして、全力でそうすれば届く筈なのにどうしても躊躇してしまう相手。呟いてぶくぶくと湯船に身を沈めるミアの向こう、窓から射し込む月明りを見上げる。
「此ればかりは当人の問題じゃからのう。前へ進めば必ずしも正鵠を射るとは限らんて」
 蜜鈴もあの三兄妹とは関わりを持つが、同じ団に所属する彼女ほど近しくはない。それに蜜鈴自身の気質も合わさって一歩引いた所から彼らと友人たちの行方を見守っている。そうすると赤椿にも危うさと惑いが見え隠れして、ぴたりと嵌まるか諸共に滅びの道をひた走るか。その二択が脳裏をかすめるのだ。高望みし、そして必ず実現しようと努力するミアには焦れったい歩みだろうが。
「皆、家族になればいいのにニャぁ……」
 小さく零すミアの表情は濡れて張り付いた髪に隠れ、蜜鈴からは窺い知れなかった。

 そして全員が風呂から上がった後。煽り文句を見て、ロベリアがへぇと声を漏らす。
「ミアはホラー映画好きなの? また結構意外な……」
「んニャ? 面白いニャスよ?」
「うちは平気やけど、皆大丈夫なん?」
 面白いの意味がずれている気がするがそこに触れず、記録媒体を手に白藤が確認を取る。既に照明を二段階暗くしてあるので皆の姿は薄ぼんやりとしか見えない。
「得意では無いのう。術で倒せぬからと怯えはせぬが」
「だ、大丈夫ですよ」
 蜜鈴と灯の反応に白藤は一瞬不安そうな顔をしたが、やめると言わないのも解っている。やばそうやったら止めるで、と前置きしディスクを挿入した。少しすれば多人数プレイでも見易かったホームシアターに映像が流れ始める。こんな似なくてもいいのにと如何にもな題名が映し出されるのを見ながら、灯は世界の相似が少し恨めしくなった。
 展開と悲鳴のボルテージが上がるにつれて、灯の顔からは感情が消えていく。大声をあげたり顔を背けたりと露骨な反応が出ないだけで、案外怖がりなのだ。自身の差し入れである一口サイズのガトーショコラにも一向に手がつかない。ナパージュがかかったベリーも乗っていて美味しそうなのだが。
 と、ふと手に触れる温もりに灯は視線をそちらへと向けた。敢えて見難いようソファーではなく床に座る灯の隣、蜜鈴がそっと手を握る。直に触れた肌に温もった名残が感じられて、光を反射する空色の瞳は安心させるように柔らかく細められた。大丈夫、と答える代わりに手を握り返して寄り添えば蜜鈴も横座りの向きを変え、二人支え合うような格好になる。秘密を共有するように微笑み合って視線を戻せば、不思議と怖さは消え去っていた。

 ホラー映画を無事鑑賞し終わって、感想もそこそこに一段階だけ明るくした照明の下。白藤が握った小さめサイズのおにぎりと一足先に来て焼いた薔薇型のアップルパイ。それに灯の甘い卵焼きや唐揚げ、ガトーショコラが並んだ座卓がリアルブルー出身の三人に修学旅行を思い起こさせる、女の子の夜を彩る。
(皆さんはどんなバレンタインだったかしら)
 “望むこと”ができていたらいいと心から願い、視線を巡らせた灯と、白狼のぬいぐるみを抱きしめる白藤の視線が重なる。白藤はいつか白い狼と寄り添う姿が見たい、そう綴ってくれたことを思い出して軽くウインクをした。それを見て灯も小さく頷きを返す。
(今はこれが精一杯や、臆病もんで堪忍な)
 想い人をイメージした手製のぬいぐるみ。今は一つだが結構な頻度で入り浸っているミアの部屋に増やしていく予定で、同時に溢れる前には、と少しずつ進む気持ちの表れでもあった。黒蝶のクッションに腰掛け、瑠璃色の瞳の縁を軽くなぞる。
「で、皆チョコは渡せたん?」
 順繰りに四人を見やって、相手と反応を予想しながら訊く白藤は、
「そういうしーちゃんはダディに渡せたニャス?」
 と、隣のミアに顔を覗き込まれ、
「な……っ!? うちの事は、えぇんや!」
 先に振って後で訊かれたらさっと流そう、と軽く考えていたので、咄嗟に誤魔化すことも出来ず声を上擦らせた。自分の相手がばれると思っていなかったのもある。何処か不安そうなミアに、こころなしか胃でも痛めたような顔つきのロベリア。そして若干期待の色が見える灯。蜜鈴だけは悠然とこちらの意に委ねる姿勢だが文字通りぐいぐい迫ってくるミアと先程交わした灯とのアイコンタクトの手前、沈黙という選択肢は早々に消えた。それでも羞恥心は抜けず顔を真っ赤にして口を腕で押さえそっぽを向くが、妹猫の名前を呼ぶ声に最後のひと押しを食らい、そろそろと腕を下ろした。
「ちゃ……ちゃんと送った、届いとると……思うわ、たぶん」
 鏡があっても顔を確認したくない。きっと耳まで赤くなっている。小声でぽそっと呟けば、ミアは肩の力を抜いて静かに座り直した。彼女がジュースを飲むのを見て喉の渇きを自覚し、白藤も眠る前だからと選んだミルクに口をつけた。
 直接渡したわけではないのでどう返してくるか分からない。ただ、ミアと灯と作った物ともう一つ、加工済みの菫の花を添えた物も送った。二月十四日は彼の誕生日でもあるから。二種類の花が意味する言葉は伝わってほしいような、ほしくないような。
「それよりミアはどうやったん?」
「ミアも渡したニャスよ。三人分のカップとチョコレートも一緒に」
 それぞれを象徴する色の花が描かれたカップに、チョコレートの種類は色々。黒猫には練習で作ったのと同じ苺とワインの物に加え、バナナとラム酒を混ぜた物も入れて箱に詰めた。オルゴール型にしたのは彼が歌い手で、その声は口を突いて出る言葉とは裏腹に、透き通った美しさを持っているから。その声で名前――ではないが自分を呼ぶのが好きだから。言葉に表さないからこそ、声の揺らぎや眼差しの行く先にその真意を求めて手繰る。いつかもっと、近付けるようにと。
「天の邪鬼ちゃんが苺大好きだから、最近ミアも好きになったんニャスよなぁ。……なんで?」
 苺で思い出し、ふと湧いた疑問に首を傾げる。そう言いながらミアが飲んでいるのは苺牛乳だった。何ならチョコフォンデュを楽しんでいる時にも一人でほとんどの苺を食べていたのだが、当人は全く自覚がなかったらしい。純粋に不思議がるミア以外の四人が顔を見合わせて何ともいえない笑みを浮かべる。単純な微笑ましさと同時に、我が事のように思えば焦れったい気持ちも混ざる。しかし例え直截に指摘したところで理解出来るかどうかはまた別の話だ。
「ロベリアちゃんはどうだったニャスか? ロベリアちゃんが作ったチョコ……興味あるニャぁ」
「私? まあ、処方箋には上げたわよ。一応手作りで……って、白藤。何よその顔」
 と、ミアの言い方と妙にキラキラ輝く瞳にも既に思う所はあったが、思わずといった様子で口を押さえて、憐れみの眼――明らかにこちらに対してではない――を向けてくる妹分に、ロベリアはほんの少しの恥ずかしさを誤魔化すように声を張りあげた。
「ちゃんと味見もしたから! 食べられるわよ!」
 料理の腕前が壊滅的なのはロベリア自身、しっかりと自覚している。勿論どうにか改善したいと思っているので料理本を読んだり、アドバイスを求めたりとそれなりに努力もしてきた。大雑把な性格故にきっちり計量しないのが原因だと、一から十までマニュアル通りに試したこともあった。それでも何か見落としているのか歪虚にもダメージが入るんじゃないかと思えるほどの兵器が完成してしまうのだ。ここまで来るといっそ諦めようと思わないでもない。それでも奇跡的に上手くいったクッキークランチチョコレートを“特別美味しい訳ではない”の但し書きを付けて処方箋――現状、知り合い以上友人以下の、それでも気兼ねなく愚痴を零しに行ける相手という意味では特別な彼に贈った。軽い調子で掴み所がないとはいえ、一度食べるといったものを撤回するような性格ではないと知っている。それに報いるなら来年こそは、美味しいチョコを渡したいと思う。
「灯は? あいつにちゃんと受け取ってもらえたの?」
「私は……渡すことはできましたけど、食べてもらえたかしら」
 相手が相手だからだろうか、心配した素振りのロベリアに灯は少し目を伏せて答えた。夜の帳が降りた頃、贈り物にも渡すという行為にも、逡巡に逡巡を重ねた末の出来事だった。ちゃんと全てを拾い上げて受け取ってくれた。それだけで胸の奥に温かい光が宿るのは確か。けれどやはり何処か負担になっていやしないかと心配し、優しい嘘だったんじゃないかと信じられない自分がいることに灯は気付いていた。それは彼に対してのものではなく、彼を想う自分に向けての疑いだ。優しくされると逃げたくなる。望んで踏み込んだ筈なのに。
「蜜鈴さんはどうでしたか?」
「妾は辺境の長に贈ったのう。数多届く乙女達の想いに埋もれるであろうが……愛や恋という物でも無い故のう。ただ、願いを込めただけの物じゃ」
 言って蜜鈴は口数の少ない、しかし軋轢の中で足掻き続ける強さを持った若き族長を想う。そしてそんな状況に置かれているが為に生き急ぐ若さ――いや青臭さは、蜜鈴からすると決して看過出来ないものだった。無理をする。未来に己がいないことを是とする。無論彼を慕う者は同族以外にも多くいて隣に並び立ち、助けようとする。だから、想いに想いを返してもらおうとは思わない。埋もれ伝わらなくてもいい。自身が贈る行為に意味を見いだしているだけで充分だった。
「おんし等に貰うた分は……来月に礼をさせておくれ?」
 思わず苦笑いが浮かぶ。友人同士でも贈り合うのは知っていたが、どうにも準備が追いつかなかったのが気になっていた。
「はっ、そうなるとお返しのお返しも必要ニャスか!?」
「いや、来年に取っておきなさいよ」
 新たな贈り物――思い出のチャンスに目を輝かせるミアに、呆れ顔でロベリアが言う。来月も来年も楽しみですね、と微笑む灯につられて、皆で笑い頷き合った。

 背凭れを倒せばソファーはベッド代わりになり、三つ繋ぎ合わせて巨大な寝床を作り出すと毛布を被って横たわる。白藤とミアは二人向き合って暗闇の中、小さく言葉を交わす。
「しーちゃん、眠れないニャスか? だいじょうぶ、悪夢見たらミアが食べに行くニャス!」
 囁き声なのに勢いがあり、赤い瞳に宿る意志はこれ以上なく頼もしい。
 大好きな友、家族のような皆と過ごす時間は幸せであっという間だと、白藤は思う。家族も軍時代に家族のように慕った人たちも今やロベリア以外は居なくなってしまった。彼女にだけは未だ甘えてしまうけれど、そんな自分にも出来た、新しい形が今目の前にある。
(絶対、誰もなくさへん……)
 もう二度と大切な人が消えてしまわないようにと願いながら、額を合わせ、目を閉じて。ミアにだけ聞こえるような小声で想いを言葉にする。
「うちも、ほんまの姉になれたらえぇなって……思っとるよ」
 いつかの答え、その意味は今はミアだけが知っていればいい。壊れ物を扱うように触れてくる手をぎゅっと握り返して、白藤の意識は柔らかい眠りへ誘われていく。

「……白藤がこんな顔して眠れるなんて」
 二人分の寝息が静寂の中、時計の音に紛れるように響く。そっと上体を起こしたロベリアは隣で眠る妹分の、悪夢には縁遠い寝顔を見てくすりと笑みを零した。
「この子たちの笑顔を曇らせないように、守らないとね」
 頬にかかる髪を払ってやって、再び横たわった。瞼を下ろし思う。今日はよく眠れそうだ。

「蜜鈴さんも眠れませんか?」
「灯もか」
「ええ。月でも眺めようと思ったんですけど、ここから離れるのは惜しくて」
 地下室の天井に空はなく、それでも月明りのように寄り添い、迷ったら道標になって手を差し伸べてくれる、そんな空気がここにはある。
「斯様に友と語らうも良いのう」
「その分、別れは寂しくなりますが」
「何。互いに望み合っておれば、いつ何処ででも再び巡り合えよう」
 今、ここに五人いることがその証明だった。二人で示し合わせたように見上げた天井には、絆という名の月が浮かび上がる。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka7035/ミア/女性/20/格闘士(マスターアームズ)】
【ka3768/白藤/女性/28/猟撃士(イェーガー)】
【ka4009/蜜鈴=カメーリア・ルージュ/女性/22/魔術師(マギステル)】
【ka4206/ロベリア・李/女性/38/機導師(アルケミスト)】
【ka7179/灯/女性/23/聖導士(クルセイダー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
あれもこれもと詰め込みまくった結果、視点がぐるぐると移動して
物凄く解りづらい感じに……。そして蜜鈴さんの言葉遣いが難しく、
皆さんの心情と合わせて、間違っていたら大変申し訳ない限りです。
過去に何かしらの傷がありつつも、舐め合う関係ではないというか、
今を生きて繋がり合っているところが素敵だなあ、と思います。
個人的には、白藤さんが一番危うげに感じてしまいますが、
接し方が固まってしまっている蜜鈴さんに寂しさを覚えたりも……。
今回は本当にありがとうございました!
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
ミア(ka7035)
副発注者(最大10名)
白藤(ka3768)
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)
ロベリア・李(ka4206)
(ka7179)
クリエイター:りや
商品:イベントノベル(パーティ)

納品日:2019/02/19 09:37