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グランドシナリオ【東征】襲来、歪虚城塞ヨモツヘグリ

作戦1:突破口確保(危険) リプレイ

バタルトゥ・オイマト
バタルトゥ・オイマト
kz0023
ガルドブルム
ガルドブルム
黒の夢
黒の夢
ka0187
クリスティン・ガフ
クリスティン・ガフ
ka1090
紫月・海斗
紫月・海斗
ka0788
ヴァルナ=エリゴス
ヴァルナ=エリゴス
ka2651
アルビルダ=ティーチ
アルビルダ=ティーチ
ka0026
Uisca Amhran
Uisca Amhran
ka0754
星輝 Amhran
星輝 Amhran
ka0724
静架
静架
ka0387
Charlotte・V・K
Charlotte・V・K
ka0468
鹿東 悠
鹿東 悠
ka0725
エルバッハ・リオン
エルバッハ・リオン
ka2434
ボルディア・コンフラムス
ボルディア・コンフラムス
ka0796
イーディス・ノースハイド
イーディス・ノースハイド
ka2106
時雨
時雨
ka4272
白藤
白藤
ka3768
スピノサ ユフ
スピノサ ユフ
ka4283
藤切
藤切
ka4813
柊 真司
柊 真司
ka0705
チョココ
チョココ
ka2449
ルキハ・ラスティネイル
ルキハ・ラスティネイル
ka2633
蜜鈴=カメーリア・ルージュ
蜜鈴=カメーリア・ルージュ
ka4009
イェルバート
イェルバート
ka1772
エヴァンス・カルヴィ
エヴァンス・カルヴィ
ka0639
リカルド=イージス=バルデラマ
リカルド=イージス=バルデラマ
ka0356
アルト・ヴァレンティーニ
アルト・ヴァレンティーニbr />(ka3109
リリティア・オルベール
リリティア・オルベール
ka3054
鹿島 雲雀
鹿島 雲雀
ka3706
●百鬼夜行
 鬼、狐、狸に地を這う蔓草。
 あまりにも多種多様な異形の背後には、生体要塞生体要塞“ヨモツヘグリ”が屹立している。
「大首長に続けぇええーッ!!」
 バタルトゥ・オイマト(kz0023)を先頭にオイマト族騎兵が突進を開始した。
 狙うは十三魔ガルドブルム。
 強力なドラゴン型歪虚とはいえここは地表だ。飛びだつ前に翼を断ち割り、この地を十三魔終焉の地とすることも可能なはずだった。
『イイ狙いだ』
 乾いた地面から数十センチ浮遊し斜め横へ動き出す。
 飛行時には到底及ばず駿馬に劣る速度しか出ていない。
 オイマト族戦士達が即座に進路を変更して追いすがろうとする。
 が、ガルドブルムの背後にいた百鬼夜行……東方歪虚の集団に距離を詰められ騎兵の足が鈍る。
『バタルトゥだったか? お前だけなら指の2、3本は獲れたかもなァ』
 騎兵隊の後方へ着地して、ドラゴンがつまらなそうに鼻をならす。
 バタルトゥは大型多尾狐を一撃で仕留め、妖怪を混乱させ部下達を勇気づけてはいる。しかし部族の兵を指揮も並行せざるを得ずガルドブルムを追う余裕が無い。
「逃げるのかっ!」
 若い騎兵が最後尾で叫ぶが答えはない。
 このまま背後から蹂躙するか、東方軍をつついて足止めするか、どちらにせよつまらない戦いになると判断してドラゴンがため息をついた。
 息を吐いたその瞬間、微かに開いたドラゴンの口へ、膨大な熱量を秘める矢が飛び込んだ。
 炎が口腔を焼く。漏れそうにある悲鳴を気合いで押し殺し、瞳を怒りではなく喜びに輝かせ己を傷つけたハンターを見る。
「やっとやっと逢えたのなっドラゴンちゃん!」
 黒の夢(ka0187)が真正面からドラゴンの瞳を凝視する。
 漂うドラゴン肉の香りに目を細め、戦場には似合わない笑みを浮かべた。
「―何処が美味しいかな?」
『ハ。俺も嫌いじゃねェぜ、ドラゴンステーキ。ま、硬ェ肉が多いけどな』
 殺意と殺意がぶつかり合う。まき散らされた危機に技量未熟な兵や妖怪の雑兵が怯えてすくむ。
「我輩の愛でお腹いっぱいにしてあげるのな……♪」
 黒の夢の歌声がマテリアルを禍々しく加工し。
『お前らの肉はもっと好きだがな、やわっこい肉の中に生きザマが詰まっててよォ!』
 黒いドラゴンがこの戦場で初めて本気を出す。
 巨体を、駿馬を上回る高速で、熟練の前衛ハンター並の精度でたった1人のエルフ魔術師を狙う。
「我輩の姿を脳裏に焼き付けた後に、汝のその瞳が欲しいのな」
 ドラゴンの顔面で炎が弾けるのと黒の夢がふらつき片膝をつくのはほぼ同時。
『イィ狙いだったぞ』
 その声には敬意が籠もっていた。
 周囲が焦げた目でただ1人黒の夢を見据え、徒歩の魔術師には防ぎようのない体当たりを贈ろうとした。
 クリスティン・ガフ(ka1090)がエルフとドラゴンの間に割り込む。
 否、正面衝突する進路で、衝突時に最高の威力となる軌道と速度で斬魔刀「祢々切丸」を上段から振り下ろした。
 紅い刀身とドラゴンの顎が拮抗する。
 ガフの蠢く蟲を思わせるマテリアルが刃を後押しし、ガルドブルムの壮絶な気当たりが周囲の全てを圧迫する。
「4度目か? ガルド殿」
 ガフは一歩も退かかなかった。
 衝突時のダメージを無視して構えをとり、1歩約10メートル下がったガルドブルムを一見静かな視線で見つめる。
『へェ……? いいぜ、お前。あの食えねェ野郎と同じくれェ面白ェ。なんてェんだ、名は?』
「光栄だ。剣士クリス、推して参る!」
 二の太刀はドラゴンの爪で防がれた。しかしガルドブルムの一撃もガフの前髪を揺らすことしかできない。
 剣士対ドラゴンという英雄譚そのものの光景の一部に、酷く現実的に動く影が1つある。
 『あの食えねェ野郎』こと紫月・海斗(ka0788)だ。
 ガフとバタルトゥ達騎兵に気をとられた十三魔の体にとりつき登攀してから剣を振り上げ、気づかれる直前のタイミングで声をかけた。
「なー、旦那ァ。角とか爪ってすぐ再生するもんなの?」
 人よりはるかに大きな目が動く。
「いや何、これからちと頂戴するんで確認さね」
 海斗の剣では己の鱗を抜けないと判断し、己の肩の上のハンターから一瞬意識を外した。
 舐められたことを気にせず、海斗はこの日のために鍛えた剣をドラゴンの角に振り下ろす。
 衝突する。角は欠けず剣の切っ先が補修可能な程度に欠けた。生じた衝撃は主に角を通じてドラゴンの頭を揺さぶり、もう片方からの角も打たれて二重に揺らされ意識も揺れる。
 ガフ達を狙った動きの続きでガルドブルムの首が迫る。
 海斗は相手の力を利用して角切断を狙ったものの、角は予想以上に滑らかで刃が滑って根元の鱗を砕いて終わる。
「硬ぇ! 前の戦いのダメージももう回復してるのかよ」
『お前らのしぶとさに比べりゃ可愛いモンだぜ、なァ?』
 男共の視線が交差する。海斗が吹き飛ばされ動きの止まったガルドブルムに大量の矢弾が浴びせられた。
 辺境部族兵が弓を使って騎兵の一時後退を援護。
 翼を横薙ぎに振って騎兵隊を半壊させようとするドラゴンの前に、ヴァルナ=エリゴス(ka2651)が立ちふさがる。
「あのブレスで焼き払えば済みそうなものですが、それをしない辺り、戦いを求めると公言するだけありますね」
 ヴァルナがドラゴンの角を狙う。警戒したガルドブルムが防御を重視し騎兵隊への攻撃を諦める。
「いいでしょう。お望み通り全力でお相手いたします!」
 巨体に巻き込まれない位置とり、鋭く大胆な踏み込み、冷たく輝く蒼い刃もが全てがかみ合いドラゴンの手首に切れ目を入れる。
 白い戦装束がドラゴンの血で赤黒く染まる。
 死角から迫る大きな尻尾を跳んで回避し、ヴァルナは十三魔に触れられる距離まで迫った。
「ここで私達を生かせば、次は東方の戦士も交じって、もっと楽しませて差し上げられるかもしれませんね」
 巨体を駆け上がるのも手首を再度狙うのも困難と判断。これまでのハンターの攻撃で刻まれた腹の傷口に刃を突き込む。
 交渉と攻撃を同時にするのは一般的には愚行に近い。だがこの歪虚が相手ならほとんど唯一の正解だ。
『持ち場を離れると思ってるのかァ?』
 ガルドブルムの返答がヴァルナを戸惑わせる。
 棒読みに近い。本心ではないのは確実でも何のための嘘か分からない。
「ガルドブルム!」
 アルビルダ=ティーチ(ka0026)が拳銃を連射しつつ距離を詰める。
 巨体が指1本分移動。その巨大な重量と速度は触れただけで人間を挽肉にする威力を持つ。
「貴方の策なんか知らないし、興味も無い」
 ヴァルナがドラゴンの爪と撃ち合った時点で跳躍。既に多くの傷が付いた鱗を蹴りつけながらガルドブルムの頭部に近づく。
『まだだ、まだ足りねェ! 堕ちちまえよ、狂おしい程に!』
 頭突きが彼女を襲う。
 戦闘力を奪うのではなく命を確実に奪うための一撃だ。
「私が知っているのはっ」
 受けには成功したアルビルダの口から明るい赤がこぼれる。
「貴方が私が知る最強の歪虚であること。空を往く貴方へ興味がある」
 回転式拳銃を両手で構え外しようのない距離から連射。
 ドラゴンの目元で火花が散り、最後の1発は眼球に当たったようにも見えた。
 アルビルダの上体が揺れる。目から光が失われて前に倒れ、ガルドブルムの頬に口づけする形で意識を失った。
 両手と尻尾を使い対ハンター戦を継続しながら、ドラゴンが困惑に近い感情を瞳に浮かべる。
「ガルドブルムさんの色男ー。ひゅーひゅー」
 騎乗したUisca Amhran(ka0754)がわざとらしく囃し立てる。実際には助け船だ。
『まァたお前か』
 迎撃をかいくぐって接吻して気絶した女を捻って潰すのは、いくらなんでも小物に過ぎる。
 十三魔は鉄をかみ切れる口でアルビルダを咥え、それ以上の傷をつけずにUiscaの鞍の上に置いた。
「ガルドブルムさん、今日は私たちと戦いに? 戦うのなら、前にお渡ししたランタン、返していただけません? 返せないならかわりに貴方ご自慢のCAMをお貸しいただけません?」
『釣りあわねぇ取引だなオイ』
 殺気なく尻尾を振るう。鞍にアルビルダがいるが気にしない。矜持に似たものを持っているとはいえガルドブルムは歪虚でしかない。
 直撃すらば騎馬とアルビルダごと地面になったはずの一撃を、Uiscaは無理なく受けて耐えた。 『貸してやりたいのは山々だがな。調整中だ。お前らがもっと動きを教え込んでくれねェからよ、クソ。それに俺が言うのも何だがな、ありゃ重い』 「憤怒を攻撃しても構いませんよ?」
 ガルドブルムの反応が不自然に遅れた。
 これまでと比べると雑な爪撃を軽く躱してマテリアル大盛りメイスを見舞い、ドラゴンの手首から先をふらふらさせた。
『フン。考えておいてやる』
「ガルドよ。いつまで下手な芝居を続けるつもりじゃ」
 星輝 Amhran(ka0724)の声がガルドブルムの頭の上から聞こえた。
「シガラミ? 今できる最高の闘争? 本気で言っていたなら負け犬の遠吠えじゃよ」
 天上の楽の音を思わせる声に高純度の悪意と揶揄をのせて囁く。
 ドラゴンの四肢と翼は動き止めず、目と顔から不自然に表情が消える。
「激発する程度の小物に墜ちた訳でもない。その割りに反論もしないということは」
 空気が帯電した。
 十三魔がブレスや特殊能力を使った訳ではない。
 ドラゴンの四肢に籠もった力が、振るわれる前から周囲の全てに影響を与えていた。
「憤怒と強欲、対義語は慈悲と救恤……いや違うの。お主は」
 1呼吸で最低でも2連撃。
 星輝の細い体から血が飛び散る。
「かかっ、備えは万全という奴よ」
 無茶をするほど若くはなく、捨て鉢になるほど老いてはいない。
 危険な超近距離戦に備え、星輝は少々の攻撃では死なない程度に守りを固めてきていた。
「お主に免じて時間まで踊ってやろうではないか」
 騎馬の足音が急速に近づく。
 ハンターに足止めされた十三魔に対し、体勢を立て直したバタルトゥ以下数十名が刃と矢を繰り出した。

●突破口
 風と砂と断末魔が入り混じり、ドラゴンの咆哮がかき混ぜ不気味な音楽として完成する。
「忌々しい風です」
 静架(ka0387)のまわりで動物型歪虚が消えている。
 歪虚、この地では妖怪ともいわれる憤怒の歪虚が異常に気づいて騒ぎ出す。
 どうやら聴覚も知性も足りないらしい。
 近距離では拳銃で、遠距離では蒼い弓身を持つ和弓で射貫かれ砂嵐の中で歪虚が滅ぶ。
 そんな圧倒的な戦い振りをしていても静架の心は晴れない。
 一旦距離をとって拳銃に再装填、予備の弓束を取り出し次の攻撃の準備をし、遠くに見える影を見る。
「あのデカ物を何とかしないことには、先に進めそうにありませんね」
 オイマト族の精鋭部隊がドラゴン1匹に拘束されている。
 静架も術者に見える鬼を射て妖怪の指揮能力低下を強いてはいるが、高位歪虚の馬鹿馬鹿しいほど大きな影響を抑え切るにはほど遠い。
「ここに来て、また奴さんかい」
 Charlotte・V・K(ka0468)のライフルが吼え、要塞近くの狼が倒れて消えた。
 城塞外の敵戦力は既に薄い。
「面倒な相手だ」
 凛々しい顔に苦さが加わる。
 砂嵐前、ドラゴンは1体しかいなかった。
 今もドラゴンの眷属は発見できず、CAMの駆動音やブースターの噴射光も見えない。
「歪虚型CAMがいないだけなら分かる。ワイバーンなどの眷属までいないのは何故だ?」
 援軍だから主力を出していない? 手伝いだから気が乗らない?
 普通なら有りそうな理由だがあの十三魔がするには違和感が強すぎる。
「む」
 オイマト族の動きが変わった。
 最低限の治療を終えたハンターと合流。半数近い騎兵を裂いて要塞近く、つまりはこちらへ高速で向かわせている。
「この作戦は速さが命、目標地点に我々が一番乗りしますよ!」
 魔導二輪に乗った鹿東 悠(ka0725)を先頭に、オイマト族の騎兵が妖怪小集団を蹴散らした。
「部族の誇り、我らの意地! この地で化け物どもに見せつけてやりましょう!」
 悠が士気を鼓舞する。
 ヨモツヘグリ周辺の守りを突破しなければ勝ちようがないとはいえ、対十三魔相手戦から抽出して借り受けた貴重な戦力だ。
 大事に、最大効率で使わなければバタルトゥに顔向け出来ない。
「でかいのが出てきたぞ!」
 騎兵のまとめ役が進路上の妖怪集団を指さす。
「右に30度進路変更! 突破して後続を要塞内に入れるのが最優先です」
 悠は冷静に徹して攻撃の機会を待った。
「厳しい戦いですが、勝つのは私たちです」
 エルバッハ・リオン(ka2434)は戦馬にまたがり訓辞を終えた。
 東方兵の弓使いが矢をつがえ、バイク乗りいつでも全速を出せるエンジンを暖める。
 エルは小さくうなずき杖を振り上げ、一気に振り下ろす。
 豊かな胸がほよんと揺れてもこの鉄火場で気にする者はいない。
 杖から飛び出した火球が要塞への進路上で炸裂。小型の妖怪は消滅し中型異常の妖怪だけが残る。
 一拍遅れて矢が到着。エルのファイアーボールに比べれは数分の1以下の威力しかないが、数多い攻撃が妖怪の混乱を拡大し、馬蹄の音に気づくのを遅らせた。
 気づいた複数尾狐にCharlotteの銃弾が届く。
 矢とは比較にならない威力に悲鳴を上げてその場から逃げ出す妖怪が何体もいた。
 再びエルが大輪の華を咲かせる。
 爆撃と称するしかない効果範囲と威力に、生き残りの大型歪虚の存在する力が弱まっていく。
「今です!」
 悠と共にオイマト族別働隊が走り出す。
 先頭をいくのは戦斧「アムタトイ」を手に戦馬を駆る女戦士、ボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。
 左手だけで手綱を操り、逸りも怯えもせず、戦意に満ちた眼で敵を見せている。
『撃テ!』
 少数いた鬼が手斧を投擲、3尾の狐が威力だけはある大きな炎を広げ、狸や植物型妖怪も命を否定する呪を放つ。
「ざってぇってンだよテメェ等ァァ!!」
 巨大斧が一閃する。最前列の狐が倒れて消える。
 熟練の騎兵も数人がかりで狸を倒し、しかし他の騎兵はそこまでうまくいかない。
 速度が落ちて大型妖怪に包囲されてしまった。
「ハハハ、全く絶望的過ぎて笑えてくるぜ! いいぜ、こっから劣勢、全部ひっくり返してやらぁ!」
 降り注ぐ呪を7割方回避。残る3割もアムタトイの巨大な刃で受け万一通っても凄まじい生命力で耐え、騎兵にまとわりつく獣を縦に両断する。
 内心このままでは拙いかと思ったとき、斜め後方からバイクの音が聞こえてきた。
「エクレール!」
 先頭を征くのは守護騎士イーディス・ノースハイド(ka2106)。
 地面と水平に降る呪いと術の豪雨の半ば躱す。愛馬エクレールに当たりかけたものは大型盾で防ぎ、先頭で目立ち続けることで東方バイク兵にいく分の攻撃をほとんど引きつけた上で、百鬼夜行の主力の中に突入した。
 ランスが巨体に直撃する。生命力豊富な巨大狐は耐えて反撃しようとし、イーディスに続いて突入した東方兵に滅多差しにされ薄れて消える。
「足を止めずに前進!」
 イーディスは東方兵の力を過大評価しない。オイマト族が注意を引きつけていなければ数割転げ落ちて戦死していたとしてもおかしくなかった。
 エクレーンが元気にいななく。バイク乗りが目の前の手柄首を放置しグラムヘイズの騎士に続く。
 残された妖怪が怒りに震えて東方兵を負おうとしたそのとき、眼を血走らせたオイマト族騎兵によって背後から蹴り倒された。
「野郎共、一匹も逃がすんじゃねぇぞ!」
 アムタトイが旋回し獣の頭が飛ぶ、
 名誉挽回に燃える若者が血塗れになって異形の狸を潰す。
 騎兵が切り開いた穴は2度と閉じず、ヨモツヘグリ攻略部隊が突入を開始した。

●突破口死守
 再起した百鬼夜行が火球の爆発に揺さぶられる。
「右、狐!」
 時雨(ka4272)が最低限にして必要十分な情報を伝え、自身の感覚を信じて駆け出す。
 爆発が体の表面を撫でていくが気にしていられない。
 退却可能なぎりぎりの場所まで突き進んで煙管で一撃。
 2尾の狐が呻いて数歩後退し、3尾の一際体格の良い狐がハンター達の視界に現れた。
「ふふ、鴉にツレられにゃーぁん……なんてな♪」
 白藤 (ka3768)の銃弾が時雨の左右に着弾。時雨にしがみつき群れに引きずり込もうとした蔓草妖怪の足を止めて時雨の離脱を助ける。
 時雨を追って獣妖怪群が突出。手ぐすね引いて待ち構えていた東方兵に囲まれ一方的に叩かれる。
 その脇をすり抜けスピノサ ユフ(ka4283)が3尾狐に迫る。身に纏うのは灰白色ローブであり、視認性が低下し感覚鋭い妖怪でも気付けない。
「ふっ」
 スピノサは鋭く息を吐いて滑り込む形で3尾と接触。力がかかった獣足に機導砲を当て地面から離れさせた。
『馬鹿ナッ』
 スキルではないので劇的な効果は無い。だが本命の攻撃を当て易くするには十分過ぎる効果がある。
 純白の杖の杖を狐の口に突き入れ放電。弾けた光が妖怪の神経沿いに流れ、体格だけなら大型級妖怪を一時的に麻痺させる。
 そこへ白藤の銃撃が集中する。絶好の的に気づいて東方兵と一部オイマト族の弓射も行われ3尾に無数の穴が開く。
 狐は薄れ、嵐に負けて形が崩れて消えていった。
 百鬼夜行が再び壊乱する。
 スピノサは機械的マスカレードの位置を直して軽く息を吐く。
「嵐はいつか止む。そう待ってはくれないだろうがね」
 妖怪がちりぢりになり砂塵の奥へ消える。数秒もかからず全く別の、しかもこれまでより多く余力を残した群れが現れる。
「もとより時間は作るものだ」
 スピノザ達の背後にはヨモツヘグリ要塞への突入口、目の前には突入口を潰そうと企む妖怪が多数。開戦直後とは攻守は代わった激戦はまだ続く。
 白藤が連射する。  援護を受けた時雨が相変わらずぎりぎりまで前に出て百鬼夜行内側に入り暴れて即撤退。自身が血だらけになるのと引き替えに指揮官の鬼の目に亀裂を入れた。
『殺せ! 奴だけは逃がす』
 藤切(ka4813)の刀が目を覆った指ごと鬼の顎を飛ばした。
 壊れた笛に似た音で何者かと問う鬼に対し、藤切は狐の白面越しに冷たく言い捨てた。
「知らんな。斬れる相手だ、斬る以外にあるか」
 既に指揮能力を奪ったと判断、止めを刺すこともせず後退開始。自陣に戻る途中で動きの鈍くなった時雨を回収する。
 予想通り、もう少しで後遺症が残るレベルの大怪我だ。
「帰るぞ。説教の覚悟はしておけ、お嬢」
 こそっと進路を変えようとする時雨を追い立て白藤の前へ。
「こっの……あほ!!」
 その声には怒りではなく悲嘆と賞賛が混在している。
 時雨は冒した危険に倍する戦果を上げている。上げてはいるが心配をかけられた側としては一言と拳骨ひとつつくらいくれてやらねば気が済まない。
 彼女達の背後で火球が爆発する。
 藤切を追おうとした鬼が消し飛ばされ、指揮官を失った妖怪群が烏合の衆にかわる。
「東方兵、一旦集合。次が来るぞ」
 藤切は仲間を背に庇い、途切れることなく現れる妖怪を待ち受けるのだった。

●結界の攻防
 対ドラゴン戦。突破口を巡る攻防。
 その2つに比べると非常に地味であると同時に極めて危険な戦いが行われていた。
 毛皮を紫の炎で燃やしながら、太い尻尾を持つ狐が何も無い場所を通過しかけて強制的に押し戻された。
 東方の人類を守ってきた結界が薄く浮き上がり、わずかに力を失い見えなくなっていく。
「ここもか」
 柊 真司(ka0705)がバイクを止めて試作型魔導銃を構え発砲。
 銃ではなくほとんど弓の間合いにも関わらず、大威力の銃弾が狐の頭蓋を砕いて中身と存在を消滅させた。
 銃声が続く。
 30メートル左、そこから70メートル右の狐、再び戻って60メートル右の燃え尽きかけ狐に1度は躱され2射目で消し飛ばす。
「次の敵は」
 リロードしながら魔導短電話に問いかける。
『すまぬ。我等がどこにいるか分からっ』
 ドラゴンの羽ばたきと苦痛と歓喜に満ちた哄笑に、東方兵からの連絡がかき消された。
『柊様、よければ援護をお願いしますわ』
 チョココ(ka2449)の声を受信する。
 柊があたりを見回すと、片手で双眼鏡を構えて覗き込み、もう一方の手でワンドを構えたエルフ少女が一瞬見えて濃い砂嵐に隠される。
「困りましたわ」
 上品に息を吐いてワンドを一振り。
 前方約20メートルで火球が弾け、紫に燃えている蔓草妖怪十数が捩れて消える。
「敵は多勢。味方は少数。守る結界は広大」
 右斜め前30メートルで爆発、紫に焼かれる狐一行が半分ほど消し飛ぶ。
 強化されていないワンドを使ってもこれほどの威力が出るのは、チョココが見た目からは想像できないほど熟練の魔術師だからだ。
 なお、本人はお供のパルムを連れてこなくてよかったと胸をなで下ろす普通の少女でもある。
 孤軍奮闘を強いられているのは彼女や柊など極少数。しかし他の面々も危うい戦いを強いられている。
 至近距離で発動したファイアーボール2つが百鬼夜行の1つを完全に覆った。
 爆風が砂嵐に押し流され、形が崩れたまま近づく牛型の何かが見えてくる。
「まずいわね」
 ルキハ・ラスティネイル(ka2633)は残弾0の火球を諦め別の術を発動させる。
 乾いた地面から石壁が突き出す。頑丈で対結界能力まである分知性に欠ける牛もどきが、見た目以上に硬い壁を正面から当たって止まる。
「そっちは連絡できたかしら? って邪魔しちゃ悪いわね」
 魔導短伝話にかかり切りの蜜鈴=カメーリア・ルージュ (ka4009)の前に立ち、ゆっくりと崩れていく石壁の代わりを出現させた。
「バタルトゥ、おんしの民ちと借り征くぞ」
『接触した……兵は、自由に……使え』
 結界を壊されたらヨモツヘグリを壊しても東方の民が全滅という結果になりかねない。バタルトゥの声には苦渋が滲んでいた。
「案ずるな、結界の守りは任せよ」
 蜜鈴は10近く記憶した連絡先から最も近くにある小部隊の隊長へ繋ぐ。
「結界防衛に手が足りぬ。至急」
『蜜鈴殿か! 突入口の援護に向かうつもりが、このっ、豚の雑魔共に遮られて位置が』
 部族兵の練度が低い訳ではない。
 土地勘のない土地で、使い慣れぬ、地球の機器に比べれば機能が限定された通信機を使いながら戦うのは難しいのだ。
「気にするでない。その方が敵を引きつけた分こちらの負担が軽くなっている」
 半分以上希望的観測であることは蜜鈴も隊長も分かっていた。
『雑魔を倒した後連絡する』
「うむ。……どうしたものかの」
 素早く火球を繰り出し結界間近の牛を殺すがこれで弾切れだ。
 牛の生き残りがまだいるのに、砂嵐の向こうから紫に燃える妖怪多数が接近してくる。
 その妖怪の真後ろにイェルバート(ka1772)がいた。
 敵勢を一方的に叩いてたった1人で大戦果をあげられる状況だが、彼は欲に流されることなく拳銃を空に向け引き金を引いた。
 空砲を使っているので弾が味方に当たることはない。
 敵が気づいて一部が向かって来ても攻撃せず撃ち続ける。感覚的には10倍に匹敵する十数秒が過ぎ、オイマト族の騎馬と東方のバイクが砂の幕を超えて彼の元へ到達した。
「少年、見事!」
 騎兵が自身を槌として牛型を転がし。
「遅参を謝罪する。貴君は結界の援護を」
 バイクに大太刀装備の東方兵が狐や蔓草の妖怪を抑える。
「そういうわけにもね」
 イェルバートは馬上で最低限の止血を行い偵察行を再開。
「頼りにしてるわヨ」
 ルキハがウィンクで見送ると同時に術を発動。イェルバートを追う妖怪の進路に石壁を建てて追撃を阻止する。
「待たせたわね。熱烈に歓迎して上げるわ」
 友軍に追い立てられて来た妖怪を、ルキハは容赦なく魔法の矢で射抜くのだった。

●嵐の終焉
 砂嵐という目にも体にも悪い長時間の戦闘は、人と馬に多大な負担をかけ注意力を低下させた。
 騎馬の反応が遅い。ガルドブルムは悠悠と羽を広げて包囲網を突破した。
『獣どもに命ずる! この俺の為に死ね』
 潰走中の妖怪に活を入れて騎兵を足止めさせる。
『酷ェ練度だ。おい、そこの狐』
 砂嵐の音に紛れて騎馬の足音と鞘から刃の抜かれる音が確かに響いた。
 鉄塊を切れる鋭さで翼が振るわれる。
 エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が軽く頭を下げる。
 高速の重量物が赤い髪の先を消し飛ばす。
 戦馬が残る力を絞り出し、エヴァンスが歯を剥き出して上に向かって突きを放ち、ドラゴンの腹に青みを帯びた切っ先が衝突した。
 これまでの戦いでついていた傷が広がる。圧力と衝撃に負け細かく砕ける。
 強靱な鱗には劣るとはいえ筋肉も強靱で、魔剣が纏う風だけでは削るに至らない。
「覚えてるか、竜野郎! マギア砦の時は本気で戦えなくて悪かったなぁ!」
 戦馬が強引に真横に跳ぶ。
 全重量を込めた踏みつけが何もない場所を通り過ぎ地面に直径数メートルの陥没をつくる。
『ッはは! いいね、悪くねェ。だが足りねェな若造!』  ドラゴンの全身の筋肉が厚みを増す。
 抉れた腹だけでなく全身に刻まれた弾痕と刀傷から血が流れて地面を汚す。
 戦闘開始時と比べると生命力に当たるものは減っているのに、撒き散らす威圧感は倍以上。
 血塗れの爪が視認困難な速度でエヴァンスの首を狙う。
「エヴァンス・カルヴィだ」
 2本の刃がそれぞれ2回の爪撃を弾いた。
「ああ、こりゃあトラウマになりそうだ俺は強くねえんだったく」
 リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)がダークMASAMUNEから忍刀使用のMASAMUNEに持ち替える。
 腕がしびれて感覚がおかしいが気にしていられない。
『エヴァンス、名前は獲物の骨にでも刻むもんだぜェ!」
 今度は右が2回に左が1回。
 回避を困難にし受けや直撃を強いる、単純かつ強力な連続攻撃だ。
 今度はエヴァンスが初撃を弾いて次の爪を分厚い刃で受け、狙いの甘い3回目の爪の先にリカルドのMASAMUNEがカウンターでぶつかった。
 爪の先端が欠け近くの関節が本来曲がらない方向に曲がる。
『グゥゥ……! ハ、……もっとだ、もっと俺を滾らせろ!!』
 ガルドブルムの吐き出す声に血が混じっていた。
 リカルドは愛馬と共に攻めると見せて十三魔の注意を引きつけ、直撃寸前で回避する。
 同時にアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が動く。
 ガルドブルムの眼が届かない斜め後方からアルトが足音もかき消す砂嵐を突破し、真上から振り下ろされる翼に出迎えられた。
 アルトの口角が上がる。拳1つ分横にずれることで致命的な一撃をすり抜ける。
 眼も耳も使えぬ状態で繰り出したにしては見事。が、ただ速いて重い一撃程度、アルトは不運に見舞われない限り食らわない。
 至近距離からドラゴンの背中を狙う。どう考えても避けようがない。なのに、ドラゴンが微かに体をひねることで健在な鱗数個を犠牲に防いで止める。
「これが飛天真如!」
 歓喜というには獰猛過ぎる感情がアルトを満たす。敵は攻守の技まで兼ね備えた文字通りの怪物だ。
「強欲のガルドブルム。ボクはキミを喰らって次の階梯へ進む!」
 死角からの攻撃を継続する。
 これを卑怯という者はこの場にいない。弱点をつかないなら激怒するドラゴンなら確実にいるが。
「ちっ」
「堅いな」
 エヴァンスとリカルドはガルドブルムの守りを崩せない。
 アルトによる再度の背中狙いも防御される。否、それはフェイントであり回り込んでからの一撃がドラゴンの鱗無しの腹を割いた。
 アルトは考えるより早く後ろに跳んで肩ごと腕を潰すはずの爪撃を盾で防ぐ。
 その爪から見て根本側、既に切れ目が入った手首を細く小さなただのナイフが裂いた。
 手首が自重に負けて砕ける前に、ドラゴンの口から伸びた火の線が傷口を焼き無理矢理固定する。
「つくづくご縁がありますねー」
 リリティア・オルベール(ka3054)が水平近くまで体を倒す。背中すれすれをドラゴンの尻尾が通過する。
「手傷の一つも与えて、名前ぐらいは覚えてもらいましょうか。」
『名前ねェ? ハ、だったら刻んでくれよ、この俺に。強欲の身に、その名をな』
 流れ続ける血と動かぬ右手。
 これで怒り狂えば罠にも嵌められるだろうに、このドラゴンは嫌になるほど冷静だ。
 ハンターの攻めは続く。徒歩主体の対ガルドブルム部隊はこちらに向かい急行中。バタルトゥ旗下は死に物狂いの豚と狐を突破できない。
 突破口周辺ではハンター以外が息切れし、ハンターが東方兵の護衛と突破口防衛を同時進行している状態だ。
『ハ……ッはは! 良い……つくづく最高だぜ、お前ら!』
 左の爪、両の翼がハンターの刃と接触し、尻尾が隙を窺い静かに力を貯める。
『お仲間がアレを潰すまで生き抜けば、このガルドブルムに届くだろうよ。あァいや、まだ俺の足元だな。おっと、そう熱い視線を向けてくれるなよ』
「馬鹿ドラゴンに関係無く生き抜くしかないんだけど……」
 リリティアの斬撃が、何故か防御もされずにガルドブルムの鱗を砕いた。
『……ところが、よ。チッ、いんだよなァ…………愚物が。お前らのしぶとさを分けてやりてェぜ……』
 ガルドブルムは要塞に呆れと失望の視線を向けていた。
 翼の動きが攻撃から移動のためのものに変わる。
 下向きの風に逆らいハンターの刃がドラゴンを刻むが、未だ豊富に残った生命力を削り切るには至らない。
「逃げるのか」
 エヴァンスが問う。
『悪ィな。先にやる事ができちまった』
 暴虐、悪辣、貪欲と負の要素を塗り固めた存在ではあるが、己に食らいつける敵を無碍に扱う趣味はない。目は憤怒で光り奥歯が歯ぎしりの異音を立てても、結果から逃げることだけはない。
『時間切れだ。アァ、俺の負けだ』
 強烈な風だけを残し、急加速で砂嵐の中に消えた。
 銃声が聞こえる。
「バーゲンセールへようこそってか? ちゃんと並べやお客様ァ!」
 あれほど濃かく激しかった砂嵐が急速に薄れ、バイクで駆け回る鹿島 雲雀(ka3706)が見えてくる。
 突破口確保時は前衛の後ろから援護することもできた。しかし東方兵が息切れしたためバイクの移動力と己の射撃の腕に頼るしか無くなったのだ。
 アサルトライフルの単射を3尾狐の後頭部に当てる。
 バイクで後退しながら上体を捻り、遠くに微かに見える結界破壊狙いの2尾に狙いをつける。
「えっ?」
 いきなり2尾が鮮明に見えた。
 指先は戸惑わずにひかれ、結界に向け飛び込む寸前の紫狐に止めを刺した。
 覚醒の影響で膝まで届く髪が雲雀の背中に戻る。
 雲雀はさらに移動して射撃を続行しようとして、まだ戦闘中のはずの戦友と遭遇する。
「リリティア、ガルドブルムは、ってそれどころじゃねぇ」
 砂嵐が消え視界が元に戻っている。
 東方兵はこれまで有効に使えなかった弓射に集中。援護を受けたオイマト族が巧みに進退して妖怪群を分断、そこにハンターが突入して逃走も許さず打ち倒していく。
「分かってるわよ。混乱しているうちに片付けないとねっ」
 ナイフを狸の喉に刺す。
 妖怪達は混乱している。砂嵐が消えることなど考えもしなかったように、乱戦から手段戦闘への切り替えが出来ずなすすべ無く数を減らしていった。
担当:馬車猪
監修:京乃ゆらさ、高石英務
文責:フロンティアワークス

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