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プレゲーム第2回リプレイ「一日目/未知の世界へ」

プレゲーム第2回リプレイ「一日目/未知の世界へ」

●せっかくだからバカンスするぜ

デスドクロ・ザ・ブラックホール

「ヒャッハー! 海だぜ、バカンスだぜーッ!」
 赤いかどうかはわからないが、解き放たれたエアロックから差し込む太陽の光。宇宙の戦場から一転し、彼らの前には南の楽園が広がっていた。
 速攻でエアロックから飛び出し砂浜に前転しつつ着地すると、デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が奇声を上げて駆け回る。
「わぁいぱらだいす?♪ 上陸マイ王国?ぱっぱらぱ?♪」
 更に両手をぐるんぐるん振り回しながら足を高速回転させた原田椅子がそれに続く。二人は一心不乱に砂浜を走っていた。
 宇宙から突如見知らぬ海に不時着というこの状況下、サルヴァトーレ・ロッソ内部は混乱の極みにあった。そうでなければ未調査の砂浜に民間人が飛び出す余地などなかっただろう。
 真の意味で怖い物知らずな面々が外に飛び出すのを確認し、おずおずとそれに乗じて民間人が砂浜へと降り立っていく。
「うーん、気持ちいい風!」
 潮風を受けて身体を伸ばす雫石 唯央。慣れない軍艦、LH044脱出後の陰惨な空気から抜け出た解放感は一際だ。
「俺達、宇宙に居た筈だよな? LH044から命からがら脱出して……なんで南の島にいるんだ?」
 首を傾げるリック・ヴァレリー。徒桜 姫子も訳が解らないと言った様子だ。
「あんな事があったばかりなのに……急に南の島だなんて」
「わっけわかんないよな。でもま、冒険のにおいがするぜ。ロマンのにおいだ!」
 楽しげに笑うリック。その背後、青ざめた表情で桜井疾風が砂に膝をついている。
「地球……じゃないの、ここ? どこなの……?」
「あの?、何処に落ちたのかもわかりませんし、出ていくのは止めませんか?」
 エアロックから遠巻きに声をかける黒塚れいあ。その声にデスドクロが振り返る。
「ったくこれだからパンピーは……いいか? 聡明なデスドクロ様だから分かるが、ここはアレだ。グンマケンって所だ」
「グンマケン? えっと、でもでも……猛獣とかいるかもしれないですし」
「猛獣くらいいるだろ、グンマケンなんだからよ」
 冷や汗を流すれいあ。
 いやいやデスドクロよ、群馬県に猛獣はいない。あと海もないぞ。山はあるがな。
「俺はバスケ部でインターハイを目指していただけなのに、どうしてこんな事に……」
「……き、気持ちはわかるよ。色々な事があったもんなぁ」
 疾風を慰める那月 蛍人。ガックリ肩を落として船に戻っていく疾風を見送り、改めて島を眺める。
 LH044では逃げ惑うだけだった。そんな自分を悔しく思うからこそ、勇んで外に出たのだが……。
「未知の世界! なんて良い響き! なんて素敵な景色なのかしら!」

アルビルダ=ティーチ

ロウ

「これは調査せざるを得ないですー! いざ、未知なる物を探しに出発ー!」
 両手を広げて砂浜でくるくる回っているアルビルダ=ティーチ(ka0026)。頬に片手をあて目をキラキラさせているエリアス・トートセシャの二人に囲まれ、蛍人は苦笑を浮かべる。
「……俺、もしかして重く考え過ぎ?」
「あんな事の後ですから……自分に出来る事を探したいって気持ち……当然だと思います」
 姫子にフォローされる蛍人の周囲をデスドクロと椅子が走り回る。とても楽しそうだ。
「はわっ、勝手に出ちゃ駄目ですよ?!? だ、誰か?! 民間人の人が勝手に外に出ちゃってます?!」
 勝手に解放されたエアロックに気づいたシンシア・ロームの呼びかけで近くにいた軍人たちが集まってくる。
「なんだなんだ!? 騒がしいと思ったら外に出てる人がいるのか!?」
「そうなんです、止めてください?!」
「俺も外に出たい……じゃなくて、このままバラバラに動かれると危険だ! 俺が責任を持って同行するぜ!」
 やってきたロウ(ka1990)は状況を確認すると砂浜に走り去った。
「えぇ?!? ど、どういう事なんですか!? ……あっ、すいません、実は外に出ている人が……」
「うわっ、海だ?! やっほ?!」
 シンシアの目の前を楽しげに通過するシュテル・クーヘン。シンシアは泣き出しそうな顔でわなわな震え出す。
「ふえぇ……なんで誰も止めてくれないんですか……」
 先の戦闘が初陣だった新兵にはどうしたらいいのかわからないカオス。そこへ筒島 晋吾が駆けつける。
「ちょ、ちょっとちょっと!? ダメだよ外に出ちゃ!」
「や、やっと普通の軍人さんが来てくれた……えっと、つつしまさん?」
「つつじまです! シンシアさん、もうここ軍人以外誰も通さないでくださいね!?」
 コクコク首を振るシンシア。そこへ悠々とズボンのポケットに手を突っ込んだ牧 渉が歩いてくる。
「出遅れてしまいましたか。これは失態ですね」
「い、一般の方は外に出てはいけません!」
「そうなんですか?」
「そうです!」
「でもホラ、俺は情報屋……いや、ジャーナリストとかそんなのなんで。ある意味一般人じゃないですよ」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんです。では俺はこれで」
 あまりにも当然のように通行する渉を呆然と見送り、ふと我に返ったシンシアがその後を追う。
「……いや、軍人さんじゃないとみんな駄目なんですってー! 戻ってくださーい!」
「あ。砂浜なんでそんなに走ると転びますよ?」
「もう騙されませ……へぶっ!?」
 そんなこんなで、結局相当数の一般人が外に出てしまった。最早少数の軍人では行動を制御できないほどに。
「まー制御する気ない奴もいるけどね! あたしとか!」

セレン

「いや、してくださいお願いしますから……」
 肩を落とすセレン(ka0153)。シュテルは全く悪びれず舌を出して笑っている。
「この状況下で楽しんでいるのだから、呆れを通り越して感心したものだ……」
 子供たちを見守る瀬崎 龍七郎。これだけ見ていると、とても和やかな様子なのだが……。
「何を書いてるの?」
 シャツの胸元を仰ぐ青柳 翼の視線の先、砂浜に座り込んだフラヴィ・ボーが僅かに顔を上げる。
「地図を書いてるの。こうしてると気が紛れるから」
「ここ、地球じゃないっぽいしなぁ」
 艦内に流れる噂は、こうして実際に目にすると怪しい気もするが。
「それもあるけど……何もしてないと、余計な事考えそうだから」
 LH044脱出の際には様々な悲劇があった。翼は頬を掻いた後、持っていた飲み物を黙って差し出す。
「折角だし、その辺見て歩かない? 可愛い野生動物とかいるかもしれないよ」
 差し出された手を迷いながら取るフラヴィ。そんな二人の前を通過するのは子供たちを追いかけるシエルだ。
「ああ、いけませんわ……そんなに走ったら! ああっ、そっちは森ですよ!」
「わぁい綺麗な花?! なにこれ旨そう!」
「ああっ!? いけません、拾い食いなんて……何が落ちているのかわからないのですよ!?」
 その辺の木の実を拾って食う椅子に大慌てのシエル。このくらいまでは軍人達も特に慌てていなかったのだが……。
「折角未知の世界にきたのだから、森を探検するわよ! さあ、私についてきなさい!」
 大声で仲間を集めるアルビルダ。真っ先にエリアスが挙手する。
「はいはーい! この試験管がサンプルで一杯になるまで帰らないですー!」
「いいですね、探検。俺もお供しますよ。仕入れのチャンスですからね」
 渉がひょっこり仲間入り。更に姫子もおずおずと挙手する。
「わ、私も行きます」
「姫子さん、いいの!?」
「ここで何か出来る事……あるかもしれないから」
 止めるべきか悩む蛍人をアルビルダがびしりと指差す。
「臆したのなら無理に来る必要はないわ! そこで大人しく待っていなさい!」
「いや、臆したわけではないんだけど……」
「ま、いいじゃん。危なそうだったら引き返せばいいんだしさ。とりあえず行ってみようぜ!」
 リックに背中を叩かれる蛍人。元々彼も何かをここで成す為に出てきたのだ。立ち止まる道理もない。
「いや、どんな危険が待ってるかわからないんだって! ちょっとー!」
「しょうがないなあー。一緒についてって守ってやるか!」
「だな。んじゃ、ちょっくら護衛に同行してくるぜ!」
 晋吾の肩を叩き走り出すシュテルとロウ。一応軍人が同行すれば少しは安心、だろうか?
「仕方ありませんね……適当なところで引き上げさせますから、ここはお願いします」
 セレンを見送るアレックス。そこへ唯央が歩み寄る。
「あの人たち大丈夫なの?」
「あまり大丈夫じゃないですね。これ以上森に入らないでくれるとボクは助かります」
「それなら安心して! あたしは森に入る気ないから。その代わり……」
 唯央が取り出したのは大きな弁当箱だった。掲げた弁当箱からひょっこり顔を出し笑顔を作る。
「えへへ……お弁当持ってきちゃった! 一緒に食べよ?」

メル・アイザックス

「何を担いで外に出たかと思ったら、弁当箱でしたか」
 そこへ歩み寄るメル・アイザックス(ka0520)。砂浜にビニールシートを敷いて弁当を広げる唯央に二人は顔を見合わせる。
「ここでお弁当食べてる分には危険はないでしょ? よかったらどうぞ!」
「……では、お言葉に甘えて……」
 和やかに弁当を食べる三人。メルは青空を見上げながら小さく息を吐いた。
「空はどこでも青いんだね……」
「森に入った人たちに何もなければ良いのですが」
 アレックスの心配を余所に探検隊はとても楽しげな雰囲気であった。
「確かに凄い森だけど、もっと神秘的な物はいないのかしら?」
「今の所、地球と大差ないように見えるな。やっぱり地球だったのかな?」
 不満げなアルビルダに続き呟く翼。そんな一行の前、ガサゴソ動いた草むらから何かが飛び出してきた。
「……キノコだ」  蛍人の呟き通りそれはキノコだった。が、動いている。唖然とする一行の目の前から逃れるようにどこかへ走り去っていく。
「か、かわいい!?」
「サンプル! サンプル採取ですー!」
「未確認生命体が逃げたわ! 追えーッ!」
 瞳を輝かせ翼、エリアス、アルビルダが真っ先に追跡する。
「食え……ないよな。とりあえず、地球じゃないって事はわかったな……」
 冷や汗を流す蛍人。ふと、龍七郎は足元を確認する。
「この足跡は先ほどのキノコのものか。だが……こっちはなんだ?」
 キノコの足跡とは明らかに違う、何か大型の爬虫類のような足跡が残されている。
「嫌な予感がするな。後を追おう」
 キノコが逃げた先、そこには美しい湖が広がっていた。キノコは見失ってしまったのかアルビルダが悔しげな様子で周囲を眺めていた。
「こいつはいい湖じゃねえか! そういえば暫くまともに風呂入ってないな。よし、ちょっくら水浴びでもしてくるか!」
 突然服を脱ぎ始める宿木 日々輝。上半身裸になると担いでいたセミアコースティックギターを蛍人に差し出す。
「こいつは俺の大事な相棒だ。俺にもしもの事があった時は、こいつと一緒に逃げてくれよな」
「な、何故俺に……」
「ていうかなんでそんなフラグ建ててるんだ?」
「心配するな。ちゃんと人がいないところで浴びてくるからよ。あんた達を信じてるぜ」
 そんな心配はしていない。だが、呆然とする蛍人とリックに背を向けたままサムズアップし、少年は森へ消え去った。
「この湖……おかしいですわ」
 声に視線を向ける二人。そこには湖を覗き込むエルウィング・ヴァリエの姿が。
「この湖、透明度が高すぎますわ。それに魚も虫も見当たらない。気づきませんか? この湖に近づいた途端、鳥の鳴き声もしなくなった事に」
 言われるまで何とも思わなかったが、確かにここは静かすぎる。不気味と言っていいほどに。
「折角なので、ここの水もサンプルとして採取するのですー」
 水面に手を伸ばすエリアス。そこに水中から黒い影が迫っている事に気づき、エルウィングは叫び声をあげるのであった。

●未知との遭遇

クリストファー・マーティン

榊 兵庫

「……で、俺達が来た時には既に民間人が森に入った後でした、と」
 苦笑を浮かべるクリストファー・マーティン(kz0019)。きちんと準備を整えた先行調査隊が上陸したのは、民間人の流出から随分と時を置いた後であった。
「とりあえず心配だから……シャーリーン、アーシュラ。それと翔と啓介は先に民間人を確保してくれ。俺達は砂浜のデータを採取してから後を追う」
「了解。もう、しょうがないなぁ……行こう、シャーリーン」
「うん、了解さね!」
 シャーリーン・クリオール、アーシュラ・クリオール、天駆 翔、赤城啓介の四人が森に入る。
「僕も行こう」
 榊 兵庫(ka0010)がクリスに声を掛けた。その手にはコンパスや方位磁針などが詰まった雑嚢があった。
「先行して、地図の作成を行いつつ民間人の保護を行う。慎重に調査を行うためには必要だろう」
「頼むよ」
 とクリスは言い、気付く。
「でも、一人で大丈夫か?」
 クリスがそう言った途端、先に出発した翔と同じ小隊に属する蘇芳 陽向と和泉 鏡花が進み出る。
 まず、陽向が上陸第一陣への怒りからこう叫ぶ。
「……俺だってずっと飛び出して行きたかったのにー! こうなったら、とっ捕まえてジジイの説教5時間コース! ……と、ついでに地図作りだよな?」
「わあっ、楽しみだな。見たことがないものがあるんだよね!?」
 一応、ナイフやロープといったサバイバル道具を用意してはいるが目を輝かせている鏡花。
 この二人の様子にクリスと兵庫は顔を見合わせるが、他に適当な人員もいない。
「くれぐれも慎重にな」
 兵庫はクギをさしつつ、二人を伴って森へと分け入るのだった。

 一方、調査班はランチボックスを広げている民間人の傍らで調査を開始する。
「地球によく似ているが、相違点も多いな」
 と川上・史郎。
「砂の成分はどうだろうか? ……しかし、トレンチコートは脱いでくるんだったな。まさかこんなに暑いとは」
 とキリル・シューキン。
 二人は砂浜を観察する。彼らは軍人ではないが、調査班に必要な研究者だ。
「ふぅむ……見た事ない植物じゃのぉ。地球で言う所の亜熱帯地域の植物に似ている事は似ているが」
 と林 豊次。
「間違いなく新種ですね。ここが地球ならノーベル賞が幾つ取れるかわかりませんよ」
 豊次に小さく笑いかけるキリル。一方、アーヴァスト・アガルトは砂浜に落ちていた果実を拾って食べている。
「あー。隊長、この食べ物結構いけますよ?」
「き、貴様あ! 未開の島に落ちている物を拾って食うなど自殺行為だぞ!? 吐け、吐き出すんだ!」
「も、もう飲み込んじまったよ……うぉおう!?」
 ロバート・ガレオンに揺さぶられまくるアーヴァスト。ロバートは拳を震わせながら叫ぶ。
「未調査の島に勝手に出入りするなど死ぬ気か!? 風土病に野生生物! 危険は山ほどある! 何故森に入るのを止めなかったのだ!?」
「入っちゃったもんはしょうがないだろ? 今更騒いだところでどうしようもないって」
 ロバートに睨み付けられクリスの後ろに逃げ込むアーヴァスト。
「なんていうか、そのー、みんな仲良くな?」
 とクリスが諌める。
「でも……確かにロバートさんの言う通り、拾い食いは控えた方がいいと思いますよ。後でお腹壊したら大変ですから」
 苦笑を浮かべるヘザー・S・シトリン。
 クラリッサ・V・アイゼンバーグはそんな会話を聞きながらアーヴァストが食べた果実を拾い上げている。
「おい……話を聞いていなかったのか? ヘザーが食うなと言っていただろう」
 それをルーファス・J・クラヴィスが咎める
「ただ手に取っただけだ、言われずとも食べんよ。全く、そんな様で保護者気取りとはな」
 クラリッサは溜息交じりにルーファスへ返事をしつつ、果実をヘザーに投げ渡す。ルーファスは先の戦闘で左半身を負傷。今も包帯で顔を覆い、腕を固定した痛々しい状態だ。
「お前を放っておいて好き勝手されたら後で私が厄介な事になる。無様と思うなら余計な心配をさせないでくれ」
「ルーファスが心配するような事は起こらんよ。さて、ここがどういった場所なのか少しでも分かれば良いがな」
 砂浜を歩くクラリッサを見つめるルーファス。その隣に立ったヘザーは背後で手を組みながら微笑んだ。
「ルーは怪我をしているんですから無理しないで下さいね。何かあればすぐ言ってください」
「あ、ああ。すまない」
 一方、周辺の写真を撮っていた足立 真。その視界にひょっこりと何かが飛び込んでくる。それを見て声を上げる真。
「んっ? 何……?」

???

「お? キノコじゃーん。キノコ……だよなこれ?」
 双眼鏡から目を離しキノコに歩み寄るケンジ・ヴィルター。キノコは一定の距離を保ったまま人間たちを見つめている。
「菌糸類のようだが……人型小動物?」
 と史郎が考え込む。
「……食えるのか?」
 とキリルもそれを見つめる。
 二人が近づいてくると怯えた様子でキノコは走り去った。クラリッサと豊次は遠ざかるキノコを見送りながら首を傾げる。
「なんじゃあ、あのちんちくりんは? 茸の妖怪か?」
 と豊次。
「未知の生物だな。これは興味深い……捕獲すべきだろうか?」
 と。クラリッサ
「おい、この島本当に大丈夫なのか? あんなのがいるんじゃ大気に毒がないとも限らないぜ」
「それはとりあえず大丈夫だ。今観測してみたが、地球の物とほぼ同等らしいから」
 クリフ・アークライトの声に情報端末をいじりながら応える真。クリフは肩を竦める。
「一難去って又一難。あんたも大変だな、クリス」
「まったくだよ。労わりついでに手伝ってくれないか? 砂浜にいる民間人はそろそろ戻ってもらった方がいい」
「言われなくてもそう思ってた所だ」
 砂浜の民間人を船に戻すのはだいぶ骨が折れた。その作業中、双眼鏡で鳥を見ていたケンジが異変を察知した。森の中から一斉に鳥たちが飛び立ったのだ。
「ん? なんだ?」
「……クリス、救援要請です! 森の中に向かった偵察隊が、未知の生命体と遭遇! 交戦状態に入った模様!」
 エスター・ファーガスから無線機を受け取ると同時、ハンドサインで兵達を持ち場につかせるクリス。それから無線に声をかけた。
『こちらマーティン、状況を報告してくれ』
「こちら赤城啓介。トカゲが巨大化したような怪物と交戦中」
「ったく、こんな非常事態に自由を履き違えて……! 民間人は早く森から脱出してください!」
 アサルトライフルを構える翔の前、トカゲ……というよりはワニだろうか。ワニを巨大化させたような怪物が二体、のしのしと近づいてくる。
「それ以上近づくな! 近づくようなら撃つ!」
「シャーリーン、それ絶対言葉通じないって! 明らかにモンスター的なものだよ!」
「でも、万が一にも知的生命体だったら……」
 狼狽えるシャーリーンへ突進する怪物。アーシュラはシャーリーンを抱えて飛び退くと、二人が先ほどまでいた場所にワニの顎が盛大に空ぶった。
「ほらやっぱり!?」
 眉を潜め、倒れた姿勢から上体だけ起こし拳銃を発砲するシャーリーン。効いていないわけではなさそうだが、銃弾数発ではびくともしない。
「ふむ。これはもしかして危険ではないかね?」
 と啓介。
「もしかしなくてもそうです! 僕達も逃げますよ! 二人とも立って!」
 翔に助け起こされた二人は揃って閃光手榴弾を投げつけた。光に背を押される形で飛び出した四人は大慌てで森を駆け抜ける。
「意外と素早くないですか、あれ!?」
「地球のワニも最大時速60kmほどで走る物がいると言われているね」
「その情報今知りたくなかったです!」
「そして私は疲れたよ」
「それも知りたくなかったですッ!」
 啓介に何とも言えない表情を浮かべ、翔は振り返りアサルトライフルを乱射する。一応足止めにはなるが、気休め程度だ。
「翔、こっちだ!」
 見ればライフルを携えた陽向が手招きしている。陽向と肩を並べ、二人はライフルでワニを銃撃。一体を停止させる事に成功した。
「おい、なんだありゃ!?」
「もう一体いるから気を付けて!」
 と言っている傍から更にワニが出現。四体が接近してくると二人は同時に踵を返した。
「翔っ、おいきみっ、一体って言ったろ!?」
「さっきまで一体だったんだ!」
「しょーくん、ひなくん、助けにきたよ!」
 少し遅れて、拳銃を片手に駆け寄る鏡花。彼女は、迷わないよう木の幹に印をつけていたので、陽向より後ろを歩いていたのだ。
 だが、二人の少年はそんな鏡花を見ると同時に首を横に振りまくる。
「くるなくるなくるな!」
「えっ? えっ?」
 二人は訳も分からず困惑する鏡花の腕を左右で掴み上げ、担いでそのまま走り出す。
「何!? 何が起きてるの!?」
 と鏡花
「説明してる暇がねぇっ!」
 叫び返す陽向。
「全く……本隊が来るまでは危険は避けたかったのに……!」
 兵庫もそう吐き捨てながら退却しつつ、銃で応戦する。
 一方、森の外では次々に民間人が飛び出して来ていた。皆何かから逃れるように必死だ。
「あれが森に入った民間人か……ってなんでパンツ一丁の奴がいるんだー?」
 双眼鏡を覗き込み冷や汗を流すケンジ。エスターはちょっと照れながら目を逸らした。
「キリル達は下がってろ! 戦える者は協力してくれ! 怪物が出てきたら一斉攻撃で黙らせる!」
 クリスの指示に従い布陣を整える兵士たち。そこへシャーリーン、アーシュラ、そして啓介が順番に飛び出してくる。
「怪我はないか!?」
「なんとか! でもまだ逃げてる人がいるよ!」
 砂浜を滑るように停止しロバートの声に応じるアーシュラ。その指差す方向から鏡花を担いだ二人の少年と兵庫が飛び出してくる。
「……森の中で何が起きてるんだー?」
「何か楽しそうだな」
 もうわけがわからないケンジ。笑うクリスの元へ少年たちと兵庫がなだれ込むとほぼ同時に森からワニがぞろぞろと走ってくる。
「あれか……! 合図と共に一斉射撃! よく引き付けろ!」
「ルーファス、そんな状態で無理をするな!」
 左腕を負傷しているというのに銃を手に攻撃に参加しようとするルーファス。心配そうに声をかけるクラリッサだが、駆けつけたヘザーがルーファスの隣に立ち、彼を支えるように銃に手を添えた。
「今は、あたしが左腕で我慢してください。これで大丈夫でしょう、クラリッサ?」
「ヘザー……すまない」
「やれやれ……幼馴染に感謝しろよ、相棒? 来るぞ、構えろ!」
 一斉に銃を構え、照準を合わせる兵士たち。そしてクリスが合図すると同時、無数の銃口が火を噴いた。
 生半可な銃撃では止まらなかった怪物だが、包囲状態からの一斉放火には堪らず悲鳴を上げた。血まみれになり次々に転倒するワニ達。その動きが完全に停止した事を確認するとクリスの合図で全員が銃口を上げた。
「……ふうっ。穏やかじゃねぇな、こいつは」
 ライフルを降ろして溜息を零すクリフ。その隣でエスターは砂浜にへたりこんでいる。
「なんだ? どうした?」
「……すみません。その……私は現在、客観的に腰が抜けた状態にあると推察されます。申し訳ありませんが、手を貸していただけますか?」
「オペレーターだもんなぁ、仕方ないさ。クリフ、警戒を続けてくれ。俺はちょっとエスターを船の近くに運んでくるよ」
「ほんと、あんたも大変だな……」
 肩を竦めるクリフ。エスターは顔を真っ赤にしながらクリスにおぶられて行った。
「いやこれは……凄い特ダネを……入手してしまいました」
 肩で息をする渉
「死ぬかと思った……マジで死ぬかと思った……」
 とリック。
「結局、また何もできませんでした……」
 姫子は汗だくでしょんぼりしている。
「いや、あれを何とかするのは俺達には無理だから……頑張ろうって気持ちが大事だと思うよ」
 汗を拭きながら慰める蛍人。と、エリアスは懲りずにワニの死体に飛びついている。死骸がありえないほど速やかに崩れていくのは、ここが異世界故だろうか。
「これは凄いサンプルですよー!」
「ふふふ……懲りませんわね」
 乱れた髪を直しながら笑うエルウィング。蛍人は苦笑を浮かべ、ギターを返す相手を探すのであった。
「ふぅむ……? ワニ……かのう? いや、トカゲか……?」
 怪物の姿を思い出しながら呟く豊次。既に死体は原型をとどめていなかった。
「どちらにせよ、真っ当な地球上生物とは一線を画す存在のようですね」
 キリルも観察しながら呟く。
 史郎は深々と溜息を一つ。
「……なんにせよ、ここはただの南の島ではないという事だ。忙しくなるぞ……これからな」
 こうして怒涛の一日目が幕を下ろした。奇しくも外に出てしまった民間人がいたからこそ、危険生物の存在に気づく事が出来たのだ。
 危険生物の存在、そしてここが地球ではないらしいという事実。それは少なからずサルヴァトーレ・ロッソに衝撃を齎す事になった。そして……。

担当:神宮寺飛鳥
監修:稲田和夫
文責:フロンティアワークス

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神宮寺飛鳥 1
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