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【幻視】ホーリー&ブライト 「コーリアス撃破」リプレイ

▼【幻視】グランドシナリオ「ホーリー&ブライト」(9/13?10/3)▼
 
 

作戦1:コーリアス撃破 リプレイ

コーリアス
コーリアス(kz0245
J・D
J・D(ka3351
アーサー・ホーガン
アーサー・ホーガン(ka0471
米本 剛
米本 剛(ka0320
アイゼン(オファニム)
アイゼン(オファニム)(ka0320unit003
仙堂 紫苑
仙堂 紫苑(ka5953
HUDO(R7エクスシア)
HUDO(R7エクスシア)(ka5953unit002
ロニ・カルディス
ロニ・カルディス(ka0551
八島 陽
八島 陽(ka1442
エヴァンス・カルヴィ
エヴァンス・カルヴィ(ka0639
ジェイミー・ドリスキル
ジェイミー・ドリスキル(kz0231
フィルメリア・クリスティア
フィルメリア・クリスティア(ka3380
ジャック・J・グリーヴ
ジャック・J・グリーヴ(ka1305
ヘクトル(R7エクスシア)
ヘクトル(R7エクスシア)(ka1305unit002
クローディオ・シャール
クローディオ・シャール(ka0030
ミグ・ロマイヤー
ミグ・ロマイヤー(ka0665
ハリケーン・バウ・C(魔導型ドミニオン)
ハリケーン・バウ・C(魔導型ドミニオン)(ka0665unit002
オウカ・レンヴォルト
オウカ・レンヴォルト(ka0301
夢路 まよい
夢路 まよい(ka1328
イケロス(グリフォン)
イケロス(グリフォン)(ka1328unit002
フォークス
フォークス(ka0570
R7エクスシア
R7エクスシア(ka0570unit003
紅薔薇
紅薔薇(ka4766
鞍馬 真
鞍馬 真(ka5819
七夜・真夕
七夜・真夕(ka3977
鵤
鵤(ka3319
デスドクロ・ザ・ブラックホール
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
八劒 颯
八劒 颯(ka1804
Gustav(魔導アーマー量産型)
Gustav(魔導アーマー量産型)(ka1804unit002
エステル・ソル
エステル・ソル(ka3983
ミオレスカ
ミオレスカ(ka3496
シルバーレードル(魔導型デュミナス)
シルバーレードル(魔導型デュミナス)(ka3496unit001
西空 晴香
西空 晴香(ka4087
ルンルン・リリカル・秋桜
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
フィーナ・マギ・フィルム
フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
南護 炎
南護 炎(ka6651
FLAME OF MIND(R7エクスシア)
FLAME OF MIND(R7エクスシア)(ka6651unit001
ジルボ
ジルボ(ka1732
 ――いつの頃からだろう。
 世界のすべてに『飽きた』のは。

 何をするのも退屈で、それを紛らわせる事に必死な毎日。
 何の為に生きているのかも分からない。

 だから、ゲームに興じて少しでも飽きない時間を大切にしてきた。
 ゲームに興じている間だけ、すべてを忘れられる。

 ゲームが終われば、また再び退屈な時間がやってくる。

 だが。
 それも間もなく、終わる。
 聖なる光を身に纏って、暗い道を照らす――彼らの活躍で。


「奴ッこサン、随分と気合いが入っているねぇ」
 J・D(ka3351)は軍用双眼鏡を片手に、山の方へ視線を向ける。
 海からの風を背中で浴びながら、双眼鏡に映し出される巨大な影。
 鎌倉市内に放置されていた残骸を取り込み、50メートルを超える巨大な恐竜。
 まるで特撮映画から抜け出したかのようなそれは、怪物と呼称しても差し支えない存在感だった。
「ロッソへの接触は……やっぱり失敗だったか」
 J・Dの心には、小さな棘があった。
 仲間の命を救うためとはいえ、今や連合軍でも重要なポジションであるサルヴァトーレ・ロッソ。リアルブルーの技術の結晶とも呼べるそれを、奴に見せてしまった。
 もしかしたら、その結果がこの鎌倉での事態に繋がったのかもしれない。
 そうだとすれば、自分にも責任の一端はある。
 J・Dは、そう考えていた。
「だったら、汚名返上と行きますか」
 J・Dは恐竜に意識を集中させる。
 過去は過去。
 後悔に、意味はない。
 今は、奴を倒す事に集中するべきだ。
 すべては、終わってからすればいい。
「待ってろよ、コーリアス」
 J・Dは、恐竜に向けて動き出す。

 鶴岡八幡宮にあった鎌倉クラスタ。
 かのクラスタが殲滅された地で――再び、戦乱が巻き起こる。


「何のつもりか知らねぇが、とんだサプライズイベントだぜ!」
 二ノ鳥居前でアーサー・ホーガン(ka0471)は、イェジド『ゴルゴラン』と共に奮戦していた。
 目の前にいるのは、巨大な壁。
 50メートルを超える恐竜が、ゆっくりとした足取りで若宮大路を南下している。
 このまま南下していけば、鎌倉海浜公園でエンジン調整中のメタ・シャングリラを破壊される恐れがある。
「舞台を楽しんでくれているかね?
 だが、貴公らが頑張らなければ、貴公らの大事なリアルブルーが滅茶苦茶になってしまうぞ?」
 風に乗って流れてくるのはコーリアスの声。
 古代兵器『ニュークロウス』を手にしたコーリアスは、リアルブルーで周囲の瓦礫を使ってこの恐竜の姿となっている。
 ニュークロウスは風の力を使って周囲の瓦礫を集めて鎧とするらしいが、コーリアスの莫大なマテリアルを使って恐竜の姿を実現したという訳だ。
「うるせぇ! どっかに本体がいるはずなんだ。……おい、八重樫のおっさん!」
「分かった。各機、弾丸を集中させろ。コーリアスを前に出すな」
 アーサーの背後から、山岳猟団のディミナスによる援護射撃。
 ゴルゴランの背に乗ったアーサーは、弾丸の支援を受けてコーリアスへと迫る。
「一人では行かせませんよ」
 オファニム『アイゼン』に乗る米本 剛(ka0320)がアーサーへ近づいた。
 相手は巨大な恐竜。足の部分だけでも相当の大きさだ。
 そんな相手に今から攻撃を仕掛けるというのだ。
 ある意味、ハンター冥利に尽きる名誉ある仕事だ。
「へっ。一人で食い切れるかよ、こんな奴」
「それもそうですね。
 では、行きますよ……アイゼン、貴方の力を貸して下さい!」
 アイゼンの魔導型内燃機関が、出力を上げた。
 同時にゴルゴランが一足飛びで恐竜の脚へと間合いを詰める。
「おらよっ!」
 アーサーのボルケーノハンマーが、脚に痛撃を浴びせかける。
 強烈な一撃が加えられるが、同時にアーサーの腕に響く振動。
 考えてみれば所詮は瓦礫。
 ハンマーで叩いても、それは近くで転がる瓦礫を叩いているに過ぎない。
 それでも、恐竜からいくつかの瓦礫が剥がれた事は確認できた。
 ――が、それも瞬く間に修繕されていく。
「ちっ、この程度じゃダメか」
「一斉攻撃に期待しましょう。今、後方で調整しているはずです」
 アイゼンの機動力を生かしながら、ガトリングガン「エヴェクサブトスT7」の弾丸を叩き込み続ける。
 ハンター達の中でもある程度作戦は決まっている。
 その準備が整うまでは、高火力による広範囲攻撃は難しい。
 そんな事は、アーサーや米本も分かっている。
 一つ一つの効果は薄くても、今は叩き続ける他無いのだ。
「さぁ、何かをやってくれるのだろう? 期待しながら、ゆっくりと進ませてもらうか」
 不敵の笑みから漏れたであろう笑い声。
 鎌倉の風に乗って、二人の耳へともたらされる。


 時間は、少しばかり前に遡る。
 アーサー達が二ノ鳥居前の山岳猟団と合流している頃、下馬交差点付近には後方に控えていたハンター達が行動を開始していたのだ。
「よし、これでいける!」
 仙堂 紫苑(ka5953)はトランシーバーを握りしめる。
 今回の作戦は如何にコーリアスへ適確にダメージを与える事ができるか。
 そう考えた仙堂は、通信を可能な限り連携する事で各ハンターと情報共有。コーリアス本体への攻撃を適確に行うよう準備を進めていた。
「上空からの捜索は任せてもらおう。ラヴェンドラと共に奴を見つけてみせる」
 ロニ・カルディス(ka0551)はワイバーン『ラヴェンドラ』で上空からコーリアスを探し出す。
 共に上空を行くハンター達と連携。不審な動きや攻撃の予備動作をトランシーバーで味方へ連絡する手筈となっている。
「これがコーリアスの言ってた試練か」
 魔導アーマー「プラヴァー」の準備を進める八島 陽(ka1442)。
 突如鎌倉へ現れたコーリアスが古代兵器を使って暴れようとしている。
 以前、あるハンターがコーリアスへ言った『大切な物を護る為のがハンターだ』という言葉から着想を得ているのかもしれない。
「だが、この舞台を手伝った者がいるな」
「ああ、間違いなくな。錬金術師の坊っちゃんに入れ知恵した奴がいる」
 エヴァンス・カルヴィ(ka0639)も八島と同様、この舞台を提供した協力者がいると考えていたようだ。
 あのコーリアスが単体で世界を渡ったと考えるのは難しい。
 もし、可能であるならもっと早くからコーリアスがリアルブルーを舞台に選んでいたはずだ。
 そうしなかったのは、コーリアス一人で世界を渡る事ができないからに他ならない。
「コーリアスに力を貸した奴が誰なのか。それは、コーリアスを追い詰めれば分かるかもしれない。
 瓦礫の鎧を引き剥がし、再生する前に魔法か火属性攻撃を通す。あのハリボテに攻撃を叩き込んでも意味はないだろうからな」
 仙堂の予想では、風の力を使って瓦礫を形成しているのなら、瓦礫が崩れた後に火属性の攻撃で追撃が有効と考えていた。
 しかし、それを実現するのも簡単ではない。
 相手は50メートルを超える巨大な壁だ。足一つでもかなりの大きさになる。下手をすれば命の危険すらある。
「そうだな。あの坊っちゃんに『調子こいてんな』って教えてやらねぇとな。
 一斉攻撃は6分後。他のハンターにも伝えておく。初の共闘、期待してるぜ……仙堂!」
 エヴァンスは踵を返してワイバーンのエボルグに向かって動き出す。

 対コーリアスの作戦は、こうして動き始めた。


 同時刻、下馬の交差点より少し先にある高架付近。
「ん?」
 新型試作CAM「ヨルズ」の最終点検を行っているのは、ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉。
 そんな彼の視界に割り込んできたのは、茶色の瓶。
 ドリスキルには見覚えのある瓶である。
「おお? ウイスキー……って、お前か」
「随分な挨拶ですね。欲しくはないのですか?」
 ウイスキーを手にしていたのは、フィルメリア・クリスティア(ka3380)。
 ドリスキルは戦闘中でも違反を承知で酒を飲んでいる事を知っていたのだ。
 フィルメリアも本来であれば戦闘中の飲酒も規律違反だと分かってはいるが、今回は手段を選んでいる暇はない。
「差し入れだろ? 大歓迎だと言いたいが、いいのか? バアさん辺りがうるせえぞ」
「お酒で調子が上がるなら多少の規律違反くらいは許容しますよ、私は」
「……訳ありか」
 そう言いながらフィルメリアからウイスキーを受け取るドリスキル。
 蓋を開けて一口分だけ口に含む。
 芳醇なウイスキーの香りが口いっぱいに広がっていく。
「今回の相手は、どんな事をしてでも勝たなければなりません。その為なら、多少の『汚れ』は目を瞑ります」
「なるほど、今回の作戦に協力しろって訳か。CAMと連携ってぇのは気に入らねぇが、そんな事を言っている場合でもねぇ。
 何よりウイスキーを飲んじまった。飲んだ分は働かねぇとな」
 ドリスキルは敢えてフィルメリアの事情に踏み込もうとは、しなかった。
 ドリスキルもコーリアスが異世界からやってきた存在であり、フィルメリアの態度から少なからず因縁があると気付いている。
 だが、その因縁について聞かなかった。
「聞かれないのですね、事情」
「あ? そんなもん聞いたって俺にできるこたぁ、ヨルズと一緒に戦う事とクリスマスにローストチキンを焼く事だけだ。
 ……で、どこだ? 俺とヨルズは、どこへ砲弾を叩き込めばいい?」


 鎌倉小町通りの路地に陣取っていたのは、2つの機体。
 一機は、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)のR7エクスシア『ヘクトル』。
 もう一機が、クローディオ・シャール(ka0030)の刻令ゴーレム「Volcanius」『タスラム』であった。
 二人は山岳猟団より少し離れた場所で、コーリアスの侵攻を見定めていた。
「ジャック。敵はゆっくりだが、確実に南下している」
「やはり山岳猟団だけじゃ押さえられないか……なら、俺様が出るしかないな。
 貴族たる俺様の肉体美で奴を酔わせてやろう」
 いつものように自信に満ちあふれるジャック。
 コーリアスがジャックの筋肉に何処まで目を奪われるかは不明だが、二人はハンター達の一斉攻撃が始まる前に調べておきたい事があった。
「……やるなら今だ。砲撃するなら、頭か。それとも胴体か」
 二人は砲撃を集中させる事でコーリアスの居場所を調べようとしていた。
 コーリアスの居場所に関する情報は現時点でも入っていない。
 つまり、二人は推測だけでコーリアスを狙い撃つつもりなのだ。
 これで命中すれば儲けもの。外れてもその場所にいない事が分かるだけでも情報となる。
「コーリアスの立場で考えれば、一番見渡しやすい頭なんじゃねぇかって事で……頭にベットだ」
 ジャックは強気に主張する。
 コーリアスという歪虚は、戦いを遊戯として捉えている。そう考えれば、舞台を一番良く見える頭にいると考えたのだ。
 ジャックの主張に頷くクローディオ。
「いいだろう。頭へのベットに乗ろう」
 タスラムに弾着修正指示を出して着弾地点を調整。
 一方、ジャックもヘクトルに片膝を付かせて座射の姿勢を取る。
 既にコーリアスの頭部はクイックライフル「ウッドペッカー」の照準に収めている。
「コールの時間だ……いくぞ」
「いつでも来い。俺様が合わせてやる」
 呼吸を整える二人。
 大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
 ――そして。
「ってぇ!」
 二機から放たれる攻撃。
 マテリアルの光と火炎弾が50メートルの高さへ向けてグングンと登っていく。
 コーリアスの巨体もあってあまり左右には揺れていない。このままなら確実にコーリアスの顔面を直撃する。
「よしっ! このままいけっ!」
「……待て、ジャック。あれは」
 クローディオの声に促されてモニターを確認するジャック。
 二つの攻撃とは別方向から飛来する物体。
 敵? 否、敵ではない。誰かの砲撃だ。
「なんだありゃ?」
「おそらく味方の砲撃。それもかなり後方からの砲撃だ。砲撃手の腕もいい。撃つなら撃つと言ってくれれば良いものを……」
 二人は後で知る事になるのだが、その砲撃は新型試作CAM「ヨルズ」から放たれた徹甲弾だった。
 フィルメリアの頼みを聞いたドリスキルは、指示通りコーリアスの頭部を狙い撃ちにしたのだ。
 結果的には二人の砲撃に合わせる形となり、三機の攻撃が恐竜の顔面へ突き刺さる。
 顔面付近に発生する爆発。
 恐竜の顔部分を覆っていた瓦礫が吹き飛ばされる形となった。
「ちっ、ベットはハズレ。奴の総取りだ。頭にいると思ったんだがなぁ」
「火炎弾は有効だが、想定よりも瓦礫が戻るまでの時間がかかると言ったところか」
 ジャックが舌打ちする横で、クローディオは冷静に分析する。
 考えてみれば、頭部にいるのなら相手は50メートル上空にいることになる。
 もし、ハンターの動きをもっと良く見たいのであれば、もう少し低いところから見るはずだ。
 外れたとしても新たな情報を入手する事ができたようだ。
「仲間には私から連絡を入れておこう……ジャックはどうする?」
「俺様か? そりゃ決まってるだろ」
 小町通りの通りから若宮大路へ向かって動き出すヘクトル。
 ジャックにとってやるべき行動は、既に決まっている。
「あのデカブツを止める。今度のベットは外さねぇ。これでも、貴族なんでな」


「各機、攻撃目標をコーリアスの右足に設定。号令と共に一斉攻撃を」
 仙堂は手にしたトランシーバーで仲間に通信を送る。
 高火力で瓦礫を引き剥がし、瓦礫が戻る前に火属性攻撃を叩き込む。
 その為には、他のハンターと連携して同じ場所を同時に叩く必要がある。
 仙堂のR7エクスシア『HUDO』も、ミサイルランチャー「ガダブタフリール」で右脚に狙いを定める。
「永遠もなければ無限の力なども、また無い物じゃよ。
 相手は50メートルにも及びくず鉄恐竜。
 確かに恐ろしい相手ではあるが、無敵ではない。
 人々に希望を与える為にも、ここで負ける訳にはいかぬのじゃ」
 ミグ・ロマイヤー(ka0665)も試作型対VOIDミサイル「ブリスクラ」で恐竜の右脚を捉えていた。
 いつもならクリムゾンウェストでの戦いかもしれないが、ここはリアルブルーの鎌倉。今こうしている間も、50メートルを超える恐竜を目にして人々は怯えている。
 だからこそ、ミグは示さなければならない。
 倒せない敵はいない。歪虚はハンターが必ず打ち払って見せる。
 異世界でもハンターの存在を誇示するのだ。
「まさか、こっちの世界で恐竜と戦う羽目になるとは、な……」
 オウカ・レンヴォルト(ka0301)もオファニム『夜天二式「王牙」』で恐竜を待ち受けていた。
 オウカの前にいるのは実際の恐竜ではない。瓦礫を寄せ集めた紛い物だ。
 だが、リアルブルーしか知らなかった頃であれば、思いも付かなかっただろう。
 異世界のロボットに乗って、恐竜もどきとドンパチを始めようとしているのだから。
 マシンガン「コンステラ」の発射準備も完了。
 あとはトランシーバーからの号令を待ち受けるだけだ。
「こっちの準備もOKだ。いつでも行ける。
 頼んだぜ、仙堂!」
 トランシーバーから聞こえるエヴァンスの声。
 既にエボルグで上空にいるエヴァンスは、一斉射撃後に吹き飛んだ足に向けて火属性の攻撃を仲間と共に叩き込む事になっている。
 後は、地球統一連合軍と調整を終えて仙堂が号令をかけるだけだ。
「……みんな、待たせたな。ここで一気に憂さを晴らしてやれ。
 攻撃開始! 派手に行こうぜっ!」
 仙堂の号令と共にハンターと地球統一連合軍の面々が放つ攻撃。
 一気に同じ箇所の攻撃が行われ、瓦礫を次々と吹き飛ばしていく。  特にミグや仙堂のブリスクラやガダブタフリールといったミサイル系の攻撃は、派手に瓦礫を吹き飛ばしていた。
 気付けば、右脚部分の瓦礫は完全に霧散。
 しかし、これでハンターの攻撃が終わった訳ではない。
「……周囲のCAMを取り込む気配はねぇな。なら、纏うのは街の瓦礫だけか。
 だったら、近づいても問題ねぇな!」
 エボルグで右脚があった付近に飛来したエヴァンス。
 近づけば分かるが、渦巻く風が肌にそっと触れる。
 これが瓦礫を集める風の正体なのだろう。
 エヴァンスはエボルグの首をそっと撫でる。
「やってやれ、エボルグ」
 次の瞬間、エボルグの口から火炎弾が放たれる。
 風に煽られる炎。
 しかし、炎はまるで風を焼くかのように空間を歪ませる。
 そこへ飛来するのはグリフォン『イケロス』の背中に乗った夢路 まよい(ka1328)だ。
「光にも逃れえぬ漆黒の奈落よ、事象の地平の彼方へと我が敵を葬り去らん……」
 ウィンドガストで回避能力を向上させたイケロスは右足のあった場所でホバリングしていた。
 ゆらゆらと揺れながら詠唱するまよい。
 禍々しい紫色の球体が、空間に生じる。
 球体は詠唱と共に徐々に肥大化していく。
「すべてを無に帰せ……ブラックホールカノン!」
 放たれた球体は右脚付近に重力波を発生させる。
 周囲の瓦礫も巻き込んだ後に収束――圧縮。
 恐竜の右脚付近にあった瓦礫は一掃された。
「どう? これで少しは……」
 そう言い掛けたまよいだったが、すぐに異変に気付いた。
 恐竜の右脚は一斉攻撃で完全に吹き飛んでいた。
 つまり、その巨体を支える物が無くなった事を意味している。
 当然、バランスを崩した恐竜は地面へ倒れるのだが――。 「しまった! 恐竜の周囲にいる者は待避しろっ!」
 仙堂が、事態に気付く。
 恐竜は重力に従って倒れる。
 それは、50メートルクラスの高さを持つ瓦礫が一気に地面へ倒れ込む。
 その下にいた者達は瓦礫の倒壊に巻き込まれる事になる。
「総員退避っ!」
 八重樫の指示が飛ぶ。
 だが、重力による自由落下は止める事ができない。
 瓦礫が激しく地面に叩き付けられる。
 巨大な音と地響きを立てて崩落。
 ハンターらは素早く撤退する事である程度被害は抑えられたが、支援していた山岳猟団員や地球統一連合軍面々は崩落に巻き込まれてしまった。
「負傷者は後退させろ。山岳猟団のデュミナスはこちらで対応するよ」
 フォークス(ka0570)のR7エクスシアが、瓦礫に巻き込まれたデュミナスを引き起こす。
 フォークスが周囲を見回せば、前線にいた地球統一連合軍の兵士が悲鳴にも似た声を上げている。
 装甲車やハーフトラックだけではない。
 外にいた一般兵士もかなりの数が巻き込まれていた。
 倒れてくるのを気付いて走ったとしても、相手はあの巨体である。
 結果的に近くにいた味方を多数巻き込む結果となった。
「攻撃はハンターに任せとけ。まずは負傷者の運搬だ」
 フォークスが周囲の兵士へ指示を飛ばす。
 そう、これはただの自然災害ではない。
 歪虚との戦いなのだ。
 そして、恐竜は未だトドメを刺された訳ではない。
「……そう、これだ。こういう攻撃を待っていたんだ。
 貴公らが力を合わせ、連携。全力の攻撃を僕に叩き込む。
 だが、まだ足りない。もっと君達の力を見せて欲しい」
 倒れたままで、攻撃を求めるコーリアス。
 風に乗せて周囲のハンターへ声を届けられる。
 その声を聞く限り、まるでハンターの一斉攻撃を楽しんでいるようにも聞こえる。
「脚を攻撃して倒すというアイディアは良かった。これは攻撃をするチャンスだが……良いのかな? 手を止めていても」
 攻撃をしていたハンター達は恐竜への追撃よりも負傷者の救出を優先していた。
 ここで攻撃をする事も可能だが、攻撃すれば瓦礫に巻き込まれた兵士にも攻撃が及ぶ可能性もあるからだ。
「錬金術師の坊っちゃん、そろそろ隠れんぼは止めようぜ。出てきたら俺が相手してやるからよ」
 エボルグで移動しながら挑発するエヴァンス。
 声の出所を探し出す為に、敢えて挑発を試みたのだ。
 しかし、コーリアスの声は反響してうまく場所を探れない。
「だったら、貴公らの力で僕を引き摺りだすがいい。
 貴公らの力をもっと示さなければ……貴公らの大事な物は、永遠に失われてしまうぞ?」
 突如、右脚付近に吹き荒れる突風。
 瓦礫を巻き込んだ風が止む頃、恐竜の右足は完全に修復されていた。
「こちら反撃せねば、貴公らに失礼だ。そろそろ、こちらも攻撃に転じさせてもらうとしよう」
 恐竜は、ゆっくりと立ち上がる。
 まるで何事もなかったかのように――。


「まことかっ!? あの攻撃でも無事じゃと?」
 恐竜を観察していた紅薔薇(ka4766)は、驚嘆した。
 刻令ゴーレム「Gnome」の『白』と共に二ノ鳥居近くの教会から、コーリアスの正確な位置を割り出そうとしていたのハンターの一斉攻撃を行えば、たとえ巨体であってもかなりの瓦礫を吹き飛ばす事が可能なはずだ。
 もし、攻撃箇所にコーリアスがいるのであれば、コーリアスは意識的に防御態勢を取る。その動作を見逃さなければコーリアスの場所を特定する事ができる。
 だが、紅薔薇の前で起こった事件は想像を遙かに超えていた。
 右脚に本体がいない事は分かったが、あの量の瓦礫を瞬時に回復させたのだ。
 しかし、それ以上に特筆すべきはコーリアスのマテリアル量だ。
「古代兵器の力に加えてコーリアスの膨大な負のマテリアル……大精霊のイクタサが注意を促す訳じゃ」
 紅薔薇は情報として聞いていた。
 辺境地域に姿を見せた大精霊イクタサは、敵に古代兵器『ニュークロウス』を渡してはならないと言っていたらしい。
 マテリアルであれば正も負も関係なく発動する風の鎧。
 膨大なマテリアルを源に生み出された恐竜。あの巨体が歩くだけでこれだけの被害を及ぼすとは思わなかった。それもコーリアスのマテリアルが為し得た状況といえるだろう。「じゃが、そうだとしても逃げる訳にはいかぬ。弱き者の盾とならねば」
 紅薔薇は意を決して動き出す。
 紅薔薇の推理では、コーリアスは上半身から上に隠れているとみていた。
 体の中心、もしくは背中に近い部分にいる可能性がある。
 その情報を携えて、紅薔薇は白と共に負傷者の元へと向かう。
「これで守り切れるかは分からんが……やるしかあるまい」
 紅薔薇は大壁盾「庇護者の光翼」で恐竜の攻撃を防ぐつもりだ。
 完全に防ぎ切れるかも分からない。
 紅薔薇自身も負傷するかもしれない。
 そうだとしても、傷付いた者を放置する事はできない。
「すまぬの、白。苦労をかける」
 紅薔薇は、傍らにいる白の体にそっと触れる。
 紅薔薇の心に覚悟の火が灯った。


 再び歩き始めた恐竜。
 足下では負傷者の運搬に勤しむ者達が多数存在していたが、その支援を行える隙を作ったのが――上空から恐竜を攻めるハンター達であった。
「友が取り戻した鎌倉を、これ以上壊させるものか!」
 ワイバーンの『カートゥル』に乗った鞍馬 真(ka5819)は、ファイアブレスを放ちながら恐竜の周囲を水平に滑空する。
 同じ箇所にファイアブレスを放てば、瓦礫は案外簡単に崩れ落ちる事に気付いた鞍馬。 しかし、飛行し続けなければならない為、同じ場所にファイアブレスを当て続ける事が難しい。
「ごめんなさい、まだ目標を見つけられないわ」
 同じくワイバーン『ルビス』の上で七夜・真夕(ka3977)がトランシーバーで連絡を入れる。
 鞍馬と同じようにファイアブレスで恐竜を攻撃しながら、コーリアスの位置を特定を狙う。しかし、外壁から判断するのは難しい上、七夜はルビスで飛行し続けている。一箇所を注視するのは難しい為、捜索は困難を極めていた。
「気にするな。今は上空からコーリアスを攻撃して気を逸らせればいい。だが、無茶はするなよ」
 八重樫からの声がトランシーバーから流れ出す。
 事実、鞍馬や七夜らハンターが上空から攻撃する事で恐竜の注意は足下から頭上へと移っていた。
 だが、それは恐竜の注意を上空のハンターが惹きつけている事に繋がっていた。
「もう一度……っ!」
 まよいは再びイケロスと共に恐竜へ接近する。
 今度は体の中心である胸部付近でイケロスをホバリングさせる。
 位置を固定しながらまよいは詠唱を開始した。
「光にも逃れえぬ漆黒の……」
「貴公は、忘れているのかな?」
 まよいの耳に流れ込むコーリアスの言葉。
 思わず、まよいの詠唱が途中で止まる。
「貴公が前にしているのは瓦礫の山ではない。意志のある僕だ。
 その僕が宙に止まっているだけの存在を放置すると思うかね?」
「イケロス、上へ……!」
 そう言い掛けた瞬間、まよいに巨大な何かが激突した。
 回避しようとしてもあまりの巨大さに回避が間に合わない。
 地面に叩きおとされたまよい。
 苦痛に歪む顔を浮かべながら、まよいは恐竜の腕で叩き落とされた事に気付く。
 しかし、それに気付いた時にはダメージで体を思うように動かせない。
「やってくれるねぇ。十八番まで封じてイカす姿になった理由は、その力だけで十分って事か?」
 鵤(ka3319)は、恐竜の周囲をワイバーン『イット』の背に乗って回っていた。
 鵤も恐竜を観察する事で事前動作をチェック。可能であればコーリアスを外壁から発見すべく注力していた。他のハンターの攻撃に合わせて氷弾を撃ち込みながら様子を窺っていたが、まよいが攻撃を受けて墜落した事を目にして黙っていられなくなったようだ。
「そうではない。これだけの舞台ならば、それに伴う『敵』が必要と判断したからだ。事実、これならば多くのハンターが戦いに関与する事ができた。違うかね?」
「ご高説どうも。ご苦労なこった」
 そう言いながら、鵤は頭の中で推理を巡らせる。
 以前、王国に出現したラウムと酷似している。ニュークロウスを使って風の鎧を纏っているならば、本体は確実にこの恐竜の何処かにいるのは間違いない。
 外周から見る限り、その痕跡が見えない事から内部。だが、瓦礫を透視する術が無い限り、外を見るための穴があるはずなのだが――。
「コーリアス。あの時は蛮蔵もいて外したけど……今度は外さない」
 フィルメリアもまたワイバーン『Sheralis』でコーリアスの居場所を捜し続けていた。ファイアブレスやファイアスローワーで攻撃。瓦礫の一部を引き剥がしたりもしているのだが、未だコーリアス発見には至っていない。やはりワイバーンの火力だけでは瓦礫を大きく削り取るのは難しい。
(CAMの支援が欲しいところだけど、今は難しいわね)
 フィルメリアはちらりと地面に視線を送る。
 そこでは今も地球統一連合軍の兵士達が瓦礫に埋もれた仲間を捜索している。この状況ではCAMでの支援は二次被害を及ぼす可能性もある。今は救助の時間を少しでも稼ぎたいところだ。
「ふむ、僕を倒す宣言か。それはいい。是非、そうしてくれ給え。そうすれば貴公は更に強くなる」
「貴方の望みに関係なく、私は私の意志で強さを求め続ける。貴方に言われるまでもない」
「異な事を言う。貴公も僕もハンターが成長して強くなる事を望む。その事実は一致しているはずだが?」
「誰かに促されて強くなる事と、自身の力で強くなる事は同義と思っているの? だとしたら勘違いも甚だしいわ」
 フィルメリアはコーリアスと会話する事で、兵士の救出の時間を稼ごうとしていた。
 恐竜の歩みを止める事はできないが、これで少しでも兵士が救出できるならば致し方ない。
 そんな想いとは裏腹に、コーリアスはフィルメリアとの会話で何かを確信したようだ。
「……そうか。ならば、僕の計画は順調だ」
「なに?」
「さて、そろそろ本格的に反撃させてもらおうか」
 恐竜は、突如足を大きく開く。
 踏ん張るような姿勢は、間違いなく何かの予備動作だ。
「おい、奴が動きを変えた。何かくるぞ」
 鵤が周囲のハンターへ呼び掛ける。
 警戒を強めるハンター達。それをあざ笑うかのように恐竜は、大きく体を後ろへ反らす。
「ニュークロウスの力を堪能してくれ。これはハンターとの戦いを讃える祝砲だ」
 恐竜の口から放たれたのは、強烈なウインドブレス。
 局地的な暴風が海へ向かって放射。さらに、恐竜は体を捻ってウインドブレスを横へ薙いだ。
「きゃ! ば、バレルロールを……」
 ウインドブレスを回避する為にバレルロールを試みる七夜。
 しかし、恐竜の顔だけでかなりの大きさだ必然的にウインドブレスの大きさはかなりの範囲になる。しかも、それを横に薙いできたのだから回避は困難だ。
 もし、あの暴風に巻き込まれようものならルビスと一緒に七夜は――。
「危ない!」
 鞍馬は咄嗟の判断で七夜のルビスを、カートゥルに乗ったまま突き押した。
 ルビスは強引に動かされる形となってウインドブレスの範囲外へと逃れる。
 一方、鞍馬の方は七夜を庇う形でウインドブレスを直撃。
 さすがのワイバーンであっても暴風の中を飛行制御する事ができない。
「くっ、ダメか」
「鞍馬っ!」
 七夜は、鞍馬の名を呼び掛ける。
 だが、その想いを裏切るかのように鞍馬は暴風によって地面に叩き付けられる。
 相当な高さだ。鞍馬でなければこの程度では済まなかったかもしれない。
「させるかっ!」
 ロニはコーリアスの居場所に当たりをつけ、ラヴェンドラから飛び降りた。
 肩に着地したセイクリッドフラッシュで周囲の瓦礫を吹き飛ばして、恐竜の体へ潜行を試みる。
 ロニ自身、コーリアスの居場所が分かったあった訳ではない。
 顔面でない以上は胴体。それも体の中心に近い心臓と考えていた。
 それでも着地可能だった肩からの移動となれば、かなりの距離の瓦礫を吹き飛ばしながら進まなければならない。
 それでも、ロニは黙っていられない。
 これ以上、仲間が傷付くのは見たくない。
「何処だ、コーリアス。出て来いっ!」
 セイクリッドフラッシュを連発して瓦礫を抉っていく。
 しかし、一向に姿が見える気配がない。
 やや疲労が見え始めたロニ。
 そこへコーリアスの声が風に乗って聞こえてくる。
「おや、採掘作業か。これは涙ぐましい」
「待っていろ。今、そこへ行ってやる」
「それは無理だ」
「なんだと?」
「貴公は勘違いしている。これは生物じゃない。所詮は瓦礫の集まりだ。生物であれば穿ってできた穴を塞ぐのは困難だが、瓦礫なら穴を塞ぐのは簡単だ」
 突如、ロニの背後が塞がった。
 どうやらコーリアスは退路を瓦礫で塞いだようだ。
「くっ、ならば前に進むのみだ」
「まだ理解できていないようだ。瓦礫の集まりと言っただろう。ならば、ニュークロウスの力を弱めれば特定の瓦礫を切り離す事もできると思わないのかね?」
 コーリアスの言葉の後、大きく揺れるロニの周囲。
 中から何が起こっているのか理解できない。
 だが、外にいる鵤からは状況が一目瞭然だった。
「防御態勢を取れ。尻尾の攻撃が来るぞ」
 鵤がイヤリング「エピキノニア」に向かって声をかける。
 恐竜はロニを瓦礫で包んで体外へ排出。さらに尻尾を大きく振りかぶってロニの瓦礫へと振り下ろそうとしていたのだ。

 鵤の声は――ロニには届かない。
 ロニを襲う強い衝撃。
 強烈な一撃と共に、瓦礫は地面へと叩き付けられる。
 それは瓦礫の内部にいたロニの体にも伝わっていく。
「うっ、しまった……」
 強烈過ぎる一撃は、ロニの体に大きすぎるダメージを加えた。

 ハンター側にも大きな被害を出したものの、上空から攻撃を仕掛ける面々のおかげで地球統一連合軍の救出作業は大きく進んだ。
 だが、恐竜の歩みは止まらない。
 確実に一歩一歩、海の方へ向かっていた。


「くそっ、一斉射撃は成功したのに……」
 仙堂はHUDOの中で悔しさを抱えていた。
 あの一斉射撃でコーリアスはマテリアルを大きく消費したはずだ。攻撃そのものは順調だったが、50メートルを超える怪物が地面に転がったとなれば地面にいた地球統一連合軍が巻き添えになる。
 ハンター達はマテリアルの消費を引き換えに大きすぎる代償を支払う結果となった。
「紫苑。後悔に意味はない」
「J・D」
 トランシーバーから聞こえるJ・Dの声。
 J・Dはゴースロン『ゼファー』でコーリアスの状況を注視してきた。味方への着弾予測や攻撃ポイント、瓦礫の修復状況を具に仲間へ展開。確実な攻撃を可能にしていたのはJ・Dの支援があってこそだ。
「今すべき事は、眼前の敵を倒す事。違うか?
 少なくとも俺はこのケチな命を賭けるに値すると考えている」
「そう。そうだったな。今は、コーリアスを止める事を考える」
「状況は芳しくない」
「分かってる。被害が……」
「違う、そうじゃない。
 俺達は奴を甘く見ていた。
 初手の一斉射撃は良かったが、それ以降奴のマテリアルを大きく消費させられていない」
 J・Dは、状況を見守る中で気付いた。
 恐竜の何処に隠れているかも分からないコーリアス捜索に力を削いだ為、一斉射撃以降の攻撃に手が緩んだ。この為、思うようにコーリアスのマテリアルを消費させられず、恐竜の侵攻を許してしまっていたのだ。
 このままではメタ・シャングリラへ接近されてしまう。
「単純に高火力でコーリアスのマテリアル消費に力を費やすべきか」
「そうなるな。まだ負けた訳じゃない。ここから幾らでも挽回は可能だ」
 J・Dに励まされる仙堂。
 敗北は決定していない。投げ出すにはあまりにも早すぎる。
 ならば、もう一度挑まない理由は無かった。
「各機、コーリアスに火力を集中してくれ。必ず、チャンスが見えてくるはずだ」


(不本意ではあるが、俺様の出番か)
 デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は、鎌倉駅入り口を過ぎた辺りで旗色が悪いことに気付いた。
 R7エクスシア『閻王の盃』の機関砲「ゴルペアール」で瓦礫を剥がしているが、崩れた直後から再生される。
 さらにハンターの攻撃を受けても恐竜は足を止める気配がない。
 確実に一歩一歩、メタ・シャングリラのいる鎌倉海浜公園へ近付いている。
(万全を期す為、早めに準備に入るべきか。本当なら、出番がない方が良かったのかもしれんな)
 デスドクロは、一旦恐竜から大きく距離を置いた。
 背後からのウインドブレスを警戒しながら、後退。安全を確認した後、一気に戦線を離脱。
 策の準備へと――入る。
(俺様の予想通りなら、あの場所は……)
 デスドクロの考えが正しければ、あの場所は役に立つ。
 今一度状況を整理して、確実に成功させる。
 失敗は、そのままメタ・シャングリラの破壊に繋がるのだから。
「俺様が見事恐竜を料理してみせよう。ふはははは」
 デスドクロは、準備の為に急ぐ。

 恐竜は――確実に一歩ずつ進んでいく。


 鎌倉駅入り口を過ぎた辺りから、地球統一連合軍にも焦りが見え始める。
 理由は明確だ。
 相手が生物であれば、攻撃に対する相応のリアクションがある。
 怯み。
 出血。
 苦痛。
 しかし、目の前にいる恐竜にはそれがない。
 瓦礫の山であるが故に、無生物への攻撃に疑問を抱き始めているのだ。
「はやてにおまかせですの!」
 八劒 颯(ka1804)の魔導アーマー量産型『Gustav』は、四脚で地面を強く踏みしめる。
 クイックライフル「ウッドペッカー」による射撃で瓦礫を引き剥がしにかかる。
 仙堂との情報共有により、敵に火力を浴びせかけて瓦礫を除去し続ける事が勝利への道と分かっている。
 ならば、八劒がやるべき事は一つだ。
「あの中が空洞ならコーリアスを探しようもありましたけど……どうやら空洞ではありません。なら、こちらの攻撃で瓦礫をどんどん削りだけですの!」
 Gustavの腕が大きく振り上げられる。
 アーマードリル「轟旋」が回転を始める。
「びりびり電撃どりる!」
 巨大な壁のような足に向けて振り下ろされるドリル。
 瓦礫を高速回転で削り取り、周囲の瓦礫を引き剥がしていく。
 ――だが。
「これ、本当に止められる……の?」
 恐竜は止まる事無く歩み続けている。
 無機質の物体を延々と叩き続けるだけの『作業』。
 敵と対峙している希薄さが、ハンターの間に不安として広がっていく。
「諦めるな。ここで止まればすべてが無駄になる」
 オウカの夜天二式「王牙」は、八劒の横でマシンガン「コンステラ」を放つ。
 ここで手を止めれば、鎌倉クラスタを殲滅した苦労が水泡に帰する。
 それは、この地で犠牲になった多くの仲間に顔向けができなくなる行為だ。
「負けられない。絶対に」
「ニュークロウスは辺境の大切な宝です! 泥棒はいけません、取り返します!」
 オウカの後方から、エステル・ソル(ka3983)がイェジド『アレク』に乗って恐竜の足へと迫る。
 蒼機杖「E=Dグラジオラス」を構え、走るアレクの背から恐竜の足を狙い撃つ。
 かざした杖から生じる光の杭。
 恐竜の足へ次々と突き刺さる。
 エステルが足止めの為に放ったジャッジメントだ。
「ふむ、足止めか。なら、そこを切り離せば良いだけだ」
 風に乗ったコーリアスの声。
 ジャッジメントが刺さった瓦礫を切り離し、別の瓦礫を吸収。恐竜はほとんど歩みを止める事は無い。
「ダメですか……何処かからこちらをご覧になっているのでしょう?」
「だろうな。実に悪趣味だ」
 エステルの言葉の後に、オウカはさらに言葉を続ける。
 ハンターが苦戦する姿を見て悦に入るコーリアスの顔が目に浮かんだ。
 しかし、当のコーリアスはそれを否定する。
「それは違う。僕は貴公らがこの戦いに勝利する事を求めている。だが、その為にはまだまだ足りない」
 二人の声に答えるコーリアス。
「力を見たいのなら、ご覧なさい!」
 エステルはファイアーボールで左腕を狙った。
 実はすぐ近くにいるのではないかと推測したのだ。
 しかし、ファイアーボールの火力では瓦礫を大きく削り取る事ができない。
「どうやら僕を探しているようだが……残念ながらそこにはいない。むしろ、僕の捜索に力を割く暇は無いと思うのだが?」
「!」
「さて、こちらからも攻撃させてもらおうかな」
 恐竜の右脚がエステルの方に向かって来る。
 踏みつけ?
 いや、少し違う。勢いをつけて足の踏み場を変えたのだ。
「踏み付け? いや、違う。だが、この位置は……!」
「アレク、回避を!」
 オウカが移動を試みる横で、エステルはアレクへ回避を求める。
 だが、何処へ逃げる?
 足だけでも10メートルを超えるサイズだ。
 どう回避しても、恐竜の脚に直撃してしまう。

 そして――。
 二人の体に伝わる衝撃。

 強烈な一撃はエステルとアレクの体を道脇にあった瓦礫へ叩き付ける。
 オウカの王牙も別の瓦礫へ強く叩き付けられた。
 生身で直撃したエステル。
 オウカも、王牙の操縦席内部で体を激しく打ち付けた。まるで巨大な岩に向かって全速力で激突したかのような状況。
 その光景は、まさに恐竜の力を物語っていた。
「まずいですの! すぐに救護を!」
 二人の受けた攻撃を見た瞬間、八劒は救護へと向かう。
 その様子をあざ笑うかのように、恐竜は南に向かって進んでいく。


「来るっ!」
 八島は恐竜の踏みつけが来る事を予期して跳躍。
 激しい地面の揺れを空中に逃れて回避する。
 ハンター達の間でも重傷を負うケースが見え始めた。
 分かってはいた事だった。
 恐竜の強さは、その巨体。
 あの巨体が存在するだけでも脅威だ。
 それでもハンター達は立ち向かう他、選択肢がなかった。
「ここで叩き込む……やってみせる」
 アルケミックパワーとスペルステークを乗せ、炎のオーラを纏うソーブレード「ディサイダー」。
 恐竜の側面から肉薄し、大振りで瓦礫の破壊を試みる。
 振り下ろされたチェーン状の鋸が、瓦礫を削り取っていく。瓦礫自体は周辺の家屋だったものが大半だ。それならば、八島の手で破壊できる代物だ。
「貴公らの必死な抵抗。だが、それだけでは僕は倒せない。分かっているのだろう?
 虚しくならないかね? 何の為に戦っているのか、疑問に思わないかね?」
「分かってる。言われなくても!」
 風に乗って流れてくるコーリアスの言葉。
 その言葉と脚の移動を察知して、大きく下がる八島。
 必要以上に大きく下がるのは、恐竜の巨体故に巻き込まれる恐れがあるからだ。
 一度叩き、回避行動。
 これを八島は繰り返し続けていた。
 これだけではコーリアスの指摘通り、倒す事はできないだろう。
 ――しかし。
「戦っているのは、一人ではないのじゃ」
 ミグは後方からミサイルランチャー「レプリカント」を放つ。
 八島の後退を支援しながら、適確に脚部の関節を狙っている。
 炸裂する爆風が、瓦礫を吹き飛ばして確実に稼働部分にダメージを与えていく。
「そなたがやろうとしている事は分からぬ。じゃが、このまま見過ごす訳にもいくまい。戦う理由が必要なら、それで十分じゃ」
 ミグの返答の後、再び鳴り響く地響き。
 地面だけではなく、空気さえも震えている。
 その最中、地面から足を離して飛び上がった影が一つ。
「そうだよ。止めるべき相手だから、止める。理由はそれで充分」
 フォークスのR7エクスシアが至近距離から量産型対VOIDミサイルを発射。
 ミグと八島が穿った瓦礫の穴に、プラズマボムによる爆発が更に穴を押し広げる。  ハンター達の連携により、瓦礫に大きな穴が開く。少しすれば瞬く間に瓦礫は元に戻ってしまうのだが、それでも着実にダメージを与えていく。
「あんたは、多くの人を傷つけ過ぎた。そろそろ退場しておいた方がいいんじゃないか?」
 後退したフォークスはR7エクスシアが手にするスナイパーライフル「オブジェクティフMC-051」を構える。
 八島かミグが続けた攻撃に援護射撃を行う為だ。
「ふふ、大口を叩くな。だが、それでいい。その力を見せてくれ。強敵に立ち向かっていく勇気と強さを」
 コーリアスの興奮が声だけでも理解できる。
 だが、未だ恐竜を止める事はできない。
 それでもハンターは果敢に恐竜へ戦いを挑む――。


 ハンター達は地球統一連合軍よりも前に立って、恐竜の行く手を阻んでいた。
 コーリアスのマテリアルは膨大だ。
 だが、歪虚であってもマテリアルには限りがある。
 必ず、何処かに勝機があると信じて、ハンターは自らの手で前に進み続ける。
「ハンターの力、ご覧に入れましょう。
 数を頼むのではなく、お互いの力を与え合う事で、困難にも、打ち克てるのが、ハンターです」
 ミオレスカ(ka3496)は、魔導型デュミナス『シルバーレードル』が手にした105mmスナイパーライフルの弾丸を叩き込む。
 狙う場所は、他のハンターが狙っている下腹部付近。
 火力を集中させる事で瓦礫を引き剥がしてはいるが、すぐにまた瓦礫が復活。
 それでも諦めずに弾丸を撃ち続けている。
「威嚇射撃も無駄、足を破壊して倒せば周囲に損害。ならば、持てる弾丸すべてをぶつけるだけです」
「よし。あのヌケサクの上司の面、見せてもらおうじゃねぇか」
 西空 晴香(ka4087)は、魔導アーマー「プラヴァー」『リコリス』で軽やかに移動。
 マテリアルレーダーでコーリアスの場所を捜し続けていた。
 マテリアルを感知してコーリアスの居場所を検知しようというのだ。
 だが、レーダーの表示でそれが困難な事はすぐに分かってしまう。
「おい、これ……」
 レーダーに表示されたのは、恐竜全体を包むマテリアル。
 本来であれば瓦礫は検知されないはずなのだが――。
「もしかして、瓦礫をニュークロウスの風で、集めている為、ニュークロウスの消費するマテリアルも、検知しているのでは、ないでしょうか?」
 ミオレスカがレーダーについて推測を口にする。
 これがマテリアルの流れが分かるレーダーならば、コーリアスの位置を特定できたかもしれない。しかし、レーダーはニュークロウスが使っている風にマテリアルが含まれていた事から、その特殊な風も検知してしまっているようだ。
 この為、コーリアスの位置を特定する事ができない。
「くっそー。古代兵器とかいう奴は厄介だな」
「喜んでいただけて光栄だ。それより蛮蔵が世話になったようだな」
 コーリアスの声が二人に響く。
 蛮蔵の最期に戦ったのは晴香の方だった。
「ああ。あのヌケサクか。野郎はお前に感化されていたみたいだが、そんな事は知ったこっちゃない。とりあえず言えるのは、お前の考えは余計なお世話って事だ。お前が思う程、私達は弱くねぇぞ」
「そうか。なら、これも受け取ってくれ。蛮蔵からのプレゼントだ」
 何か来る。
 そう感じ取った晴香は、近くの瓦礫へ張り付いた。
 壁歩きと隠の徒で恐竜から逃れる考えだ。
 リコリスらしい回避方法だ。
 ――しかし。
「無駄だよ」
 恐竜は尻尾を鞭のようにしならせて地面を軽く叩く。
 次の瞬間、体を大きく捻った。
 遠心力が乗った強烈な尻尾の一撃は、リコリスが走る瓦礫を含めて一帯の瓦礫を吹き飛ばした。
「……やべぇ」
 一撃を受けた晴香は若宮大路から弾き飛ばされる。
 地面へ叩き付けられた後、救護されるまで動く事はできなかった。


 ハンターの間にも犠牲者が増える中、恐竜は確実に歩みを進めている。
 諦めの感情が芽生えようとしても、傍らにいる仲間が支えて感情を打ち消してくれる。「怪獣対策に足止めは基本だもの……N(なんとか)2地爆符足止め作戦です!」
 ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は、鎌倉に怪獣という謎のデジャヴに襲われながらも恐竜へ戦いを挑んだ。
 対歪虚兵器スーパーニンタンク『大輪牡丹X』でカノン砲「スフィーダ99」による砲撃。さらに仕掛けていた地縛符で恐竜の足止めを敢行する。
 残念ながら地縛符によって恐竜の足下が泥状になるが、巨大過ぎる足であった事から足止めには至らない。
 しかし、スフィーダ99による砲撃で着実に瓦礫は引き剥がされていく。
「ふふん。ここはまだ想定内……そこでトラップカード発動!」
 ルンルンは瓦礫が攻撃してもニュークロウスの力で戻る事を知っている。
 ならば、その瓦礫に地縛符を張ればどうなるか。
 ニュークロウスの力で引き寄せられた瓦礫の中に地縛符を潜り込ませる事ができる。
「考えてきたな。だが、その部分だけは排除すれば済む話だ」
 コーリアスの声と共に、泥状となった瓦礫は恐竜から切り離される。
 行動阻害をさせる事ができなかったが、もし大きく瓦礫を削り取った際に地縛符を紛れ込ませられれば、大きくマテリアルを消費させられるかもしれない。
「危ないのじゃっ!」
 攻撃によって飛来したルンルンへの瓦礫。
 それに反応した紅薔薇が白の大壁盾「庇護者の光翼」で護る。
 盾によって弾かれる瓦礫。
 白がいなければ、ルンルンはダメージを負っていただろう。
「ありがとう!」
「感謝はいらぬ。それより、何としてもアレを止めねばならぬのう」
 見上げる紅薔薇。
 近づけば、その恐竜の大きさが改めて分かる。
 離れた場所では感じられないオーラに圧倒される。
 だが、恐竜を見続けた紅薔薇だからこそ、異変に気付く事ができた。
「……なんか、少し縮んでおらぬか?」


「本当か! J・D」
「ああ、ハンターの攻撃は確実に効いているな」
 仙堂はJ・Dからの情報に歓喜にも似た声を上げる。
 紅薔薇が気付いたように、J・Dも恐竜のサイズ変更に気付いたのだ。
 これはコーリアスのマテリアルが当初より減少した事が原因と考えるのが自然だ。
「何処でもいい。とにかく瓦礫を削れ。奴は無敵じゃない」
「分かった。みんなにも伝える」
 J・Dの報告は仙堂を奮い立たせた。
 みんなの行動は決して無駄じゃない。
 コーリアスを確実に追い込んでいる。
 ならば、やる事は一つだ。
「みんな、諦めるな! 奴は確実に弱ってる!」
 仙堂の声は、トランシーバを通じて多くの者へ伝わっていく。


 サイズが少し変わったとはいえ、恐竜の巨体は体感では変わらない。
 目の前にくれば巨大な壁という印象しかないからだ。
 ハンターと地球統一連合軍の猛攻により、恐竜は何度も攻撃を受けている。
 だが、完全に歩みを止める事はできていない。
 気付けば下馬交差点の先にある高架は、恐竜によって踏み潰されていた。
「……瓦礫に本体の匂いがない……ここじゃない」
 フィーナ・マギ・フィルム(ka6617)は、イェジド『волхв』と共に恐竜の側面へと回り込んでいた。
 ファイアーボールを側面から当てて瓦礫の破壊。左脚より少し上を削り取った後、エクステンドキャストでマテリアルを練り上げたグラビティフォールを叩き込んだ。ファイアーボールの時よりも大きく削り取る事はできたのだが、コーリアスが存在する気配は感じられなかった。
 脚じゃない? なら、もっと上の位置なのだろうか。
「……でも、瓦礫を大きく削れた……これでマテリアルをいっぱい、使った」
 フィーナの呟くの横で、瓦礫は瞬く間に元に戻っていく。
 だが、これでいい。コーリアスは修復の度にマテリアルを使っている。
 これを繰り返せば、必ずコーリアスが姿を現すはずだ。
「俺の名は南護炎、歪虚を断つ剣なり!!」
 フィーナが側面から恐竜へ挑んだに対し、南護 炎(ka6651)はR7エクスシア『FLAME OF MIND』で正面から立ちはだかる。
 左肩に掲げられた覚悟完了の文字は、南護が胸に抱いた言葉でもある。
「正面から挑むのか。分かっているのかね? 勇気と無謀は違いのだよ?」
 挑発するように疑問を呈するコーリアス。
 それに対して南護は臆する事なく、はっきりと断言する。
「覚悟は完了している……死にフラグってぇのはな、へし折る為にあるんだよ!!」
 覚悟は完了しているが、死を受け入れた訳ではない。
 全力をぶつけ、相手を乗り越える。
 そうやって南護は死地を何度も掻い潜ってきた。
「うぉぉぉぉ!」
 大剣「獄門刀」を大きく振りかぶり、右足の臑部分へ振り下ろすFLAME OF MIND。
 無機物独特の衝突音が、周囲に響き渡る。
 だが、南護はその手を止める気配はない。
「まだまだっ!」
 筋力充填、剣心一如といったスキルを使い、獄門刀による一撃の威力を高めていく。
 瓦礫は徐々に削り取られていくのが、傍目からも分かる。
 それでも南護は攻撃の手を緩めない。
「これが、俺の覚悟だ!」
「実に良い。僕は君に好感を抱くよ。貴公のようなハンターこそ必要だ。
 だが、苦難の味をもう少し知った方がいい。それがもっと貴公を……強くする」
 南護が削り取った瓦礫が、瞬く間に元に戻る。
 そして、大きく振りかぶられる左脚。
 サイズが変わったとしても、その重量が驚異的なのは変わらない。
「南護と言ったかな? ……死なんでくれよ」
 左脚による強烈な一撃。
 踏みつけは自信を起こし、周囲のハンター達の動きを止める。
「くそっ、動け!」
 南護はFLAME OF MINDの中で叫んだ。
 だが、強烈な地響きでうまく操作できない。
 大壁盾「庇護者の光翼」で防御する暇すらない。
 そして、次の瞬間FLAME OF MINDの上に振り下ろされる尻尾の一撃。
「!」
 南護は回避する暇無く、尻尾で大きく吹き飛ばされる。
 さらに尻尾は鞭のようにしなりながら、横へ薙ぎ払われる。
「そういえば、先程から攻撃を仕掛けていたハンターがいたな。南護と一緒に蹴散らされてみるかね?」
「……え」
 コーリアスはフィーナの存在にも気付いていた。
 尻尾はフィーナに向かってやってくる。
 だが、волхвでどっちに逃げる。
 巨大過ぎる尻尾だ。
 前も左も右も後ろも、すべて尻尾の射程。
 どちらへ逃げても直撃は免れない。
「…………!」
 反射的に目を瞑るフィーナ。
 だが、フィーナの体に衝撃を受けた感覚はない。
 不思議に思い、そっと目を開いてみる。
「……ご無事、でしたか」
 そこには米本のアイゼンが横たわっていた。
 フィーナの身を護る為に、米本がアイゼンで盾となったのだ。
 既に初戦から何度もダメージを回復させながら恐竜を挑んでいた米本。
 相応にコーリアスへマテリアルを使わせた自負もある。

 しかし、ここに来て盾となる事を選んだ。
 試作錬機剣「NOWBLADE」で受け止めようとしたが、その程度で止まる尻尾でない事も分かっていた。
 おそらくすぐに回復できないダメージを負うだろう。
 それでも、米本は仲間を救う為に動いたのだ。
「あ、あの……」
「自分は、構いません……それより、仲間に伝えて下さい」
 フィーナの言葉を遮って、米本はフィーナに懇願する。
 声に苦痛が混じる米本。
 想いと言葉をフィーナに託す。
「絶対に……諦めてはいけません、と」


 下馬の交差点へ到達した恐竜は、メタ・シャングリラまで目前と迫っていた。
 だが、ここからハンター達の命を賭けた猛攻が始まる。
「これ以上、仲間をやらせるかよっ!」
 序盤から戦い続けるアーサー。
 渾身撃『光耀』で瓦礫を砕く事で再生を促す作戦は、的を射ていた。
 事実、この作戦のおかげで状況が明らかに変わっている。
「ルンルン忍法メーサー光符陣!」
 ルンルンの五色光符陣が恐竜の瓦礫を引き剥がしにかかる。
 ハンター達の決死な猛攻は、確実にマテリアルを消費させていく。
「よし、アーサーとルンルンの崩した瓦礫に叩き込めっ!」
 ジルボ(ka1732)の刻令ゴーレム「Volcanius」『ターズ』が火炎弾でアーサーが穿った瓦礫を砲撃する。
 アーサーが下がるタイミングを見計らっての連携攻撃。
 ジルボが砲撃する事で、アーサーは回復するタイミングを見計らう事ができた。
 そのおかげで瓦礫を大きく削り取る事ができた。火炎弾のおかげで再生が遅くなっているが、確実にマテリアルを消費させ続けている。
「ここで貴族が出なきゃ、嘘だよな? これ以上はやらせねぇ!」
 ジャックのヘクトルが前に出る。
 Mハルバード「ウンヴェッター」が右脚に突き刺さり、瓦礫を大きく突き崩す。
 ジャックの胸中には、倒れた仲間の姿。
 貴族として、彼らの想いを胸に恐竜へ挑みかかる。
「ジャック、無茶するな!」
 クローディオのタスラムが後方から火炎弾で援護する。
 一人で進み続けるジャックを前に、クローディオもやや心配になったようだ。
 危なくなった瞬間に、火炎弾で敵の牽制を試みている。
 瓦礫の恐竜相手に何処まで牽制になっているのかは分からないが――。
「目に見えない絆で貴公らはさらに強くなる。だが、その絆は常に確認し続けなければならぬのではないか?」
 コーリアスの声。
 その挑発的な声に対してジャックは吐き捨てるように答えた。
「そんなもんは必要ねぇ。こっちが勝手に背負うだけだ。絆があろうが無かろうが、俺様は貴族としててめぇの前に立つだけだ」
「……良い答えだ」
 どういう訳か、コーリアスはジャックの答えを評価した。
 その言葉にどういう意図があるかは分からない。
 だが、それはジャックには一切関係がない。恐竜を、コーリアスを止めるという行動は変わらないからだ。
「そろそろ潰れろよ!」
「まだだ。まだ終わる訳にはいかんよ」
 ジャックはマッスルトーチを使った。
 筋肉博覧会で敵の無力化を図ろうともしたが、恐竜の中にいるコーリアスには届かない。ならば、せめてマッスルトーチで注意を自分に集めようとしていたのだ。
「自分一人で攻撃を受けるつもりか。止せっ!」
 クローディオはジャックを止めようとする。
 既に何人ものハンターが恐竜の前で倒れている。
 クローディオはジャックが倒されないように必死で立ち回る。
「ターズ、敵の上半身を砲撃。俺はジャックを後方から支援だ」
 ターズに砲撃をさせながら、ジルボはワン・オブ・サウザンドでジャックを後方から支援する。
 それに次いでルンルンも更に五色光符陣で畳み掛ける。
「いい加減、倒れちゃえ!」
「各機、前衛を支援。ジルボが狙った場所を共に狙い撃て。傷付いた者がいればすぐに回復させろ」
 ジルボとルンルンの後方から山岳猟団の面々が姿を見せる。
 数は減ってしまったが、デュミナスによるアサルトライフルの斉射。
 確実に瓦礫を剥がしていく。
「ここで何とか時間を稼ぐ。
 後は……デスドクロの策が当たる事を祈るだけだ」

 恐竜を前にハンター達は奮戦。
 そして、この戦いの終焉が近づいていた。


 ハンターと地球統一連合軍の尽力により、恐竜はそのサイズを大きく変わっていた。
 当初よりも大分小型になっている。
 だが、それでも無防備なメタ・シャングリラを破壊する事は十分可能だった。
「貴公らの力はこの程度なのか? 僕の見込み違いなのか」
 コーリアスの声が滑川の交差点へ到達する。
 つまり、海岸線へ到達していた。このまま進路を西へ進めればメタ・シャングリラの待つ鎌倉海浜公園に出る。
 既に恐竜の中にいるコーリアスからはメタ・シャングリラが見えているのかもしれない。
「間もなくゴールか。実に残念……」
「ふははははっ! 今が絶好の機会なりっ!!」
 恐竜が交差点を西へ曲がろうとした瞬間、潜んでいたデスドクロの閻王の盃が姿を見せる。
 その後方には仙堂のHUDOや他のハンター達の機体もある。
「各機、一斉射撃。ターゲットは、恐竜の脚部。もう一度吹っ飛ばすんだ」
 仙堂の声がトランシーバーを通して各機へもたらされる。
 もう一度行われる一斉射撃。
 序盤と同じ手なのだが――。
「またかね? 何度やっても同じだと思うが?」
「それはやってみれば分かる。俺様必勝の策を馳走してやる」
 閻王の盃の機関砲「ゴルペアール」が恐竜の脚を照準に捉える。
 マテリアルライフの発射準備完了。
 後は、引き金を引くだけだ。
「撃てっ!」
 仙堂の号令と共に放たれる攻撃。
 弾丸。
 マテリアルの光。
 ミサイル。
 それらが一斉に恐竜の脚へ殺到する。
「……!」
 再び脚の瓦礫を吹き飛ばされ、バランスを崩す恐竜。
 倒れ込む先は――道路では無い。
 その後方にあった滑川であった。
 巨大な水柱と共に水へ沈む恐竜。
 立てないサイズではないが、多くの水が瓦礫の中へと入り込んでいく。
「やりました。作戦、通りです」
 ミオレスカが歓喜の声を上げる。
 コーリアスは周囲の状況を確認する。
「これは?」
「どうだ。海の近くで川幅が広いだろ。瓦礫の少ない川の中だ。おまけに軍の連中と一緒にドブ掠いまで俺様がやっておいた。クリーンな川で何処まで瓦礫を戻せるかな? ふははははっ!」
 デスドクロの狙いは、恐竜を滑川へ追い込む事だった。
 瓦礫が少ない水の中。しかも、大きな岩やゴミを軍と一緒にデスドクロが片付けた為、恐竜の鎧となる瓦礫は、自身が纏っていた分のみ。
 おまけに川の中にいるコーリアスに対してハンター達は土手の上。
 一斉射撃には申し分ない位置関係だ。
「各機、攻撃チャンスだ。今度は全力を叩き込めっ!」
 再びもたらされるハンター達の一斉射撃。
 まさに集中砲火という名にふさわしい猛攻は、次々と恐竜の体へ突き刺さっていく。

 そして――数分後。
 恐竜は動かなくなった。
 恐竜の体はただの瓦礫へ戻り、起き出す気配はない。
 それはニュークロウスが消費するべきマテリアルが尽きた事を意味している。
「見事だ」
 瓦礫の中からコーリアスが起き上がる。
 大きな外傷はないが、既に負のマテリアルが尽きかけている事は一目瞭然だ。
「世界を飛び越える能力……。前にも言った通り、あんたに力を貸した奴に俺は用がある。俺の今後を継続観察できるかは、あんたの態度次第だ。コーリアス」
 仙堂は、川の中で立つコーリアスへ言い放った。
 コーリアスがリアルブルーへ来訪できた理由。
 それは第三者が協力したから、というのが多くの者の推測だ。
 そして、仙堂の脳裏には『ある存在』が浮かんでいる。
 その存在に関する情報をコーリアスから引き出そうとしていたのだ。
「残念だが、僕が貴公らを直接観察するのはここまでのようだ。継続観察は諦める他無い。だが、この戦いの褒美にヒントを教えてやろう。
 貴公がその者と出会いたいのなら、エンドレスを追うがいい」
「エンドレスを?」
「そう。その者は僕よりもエンドレスにご執心だ。エンドレスの先にその者はいる」
「また試練を与えるつもりか」
「分かるかね? 良い勘をしている。名前は?」
「仙堂。仙堂紫苑」
 仙堂は名前を告げた。
 コーリアスの名前を覚えていられる時間が僅かなのは分かっている。
 だが、ハンターという存在に執着し続けた歪虚の最期だ。
 名前ぐらい教えても罰は当たらないだろう。
「直接会うのは、一年前のゲーム以来ね。コーリアス」
 フィルメリアがコーリアスに声をかける。
 敵同士ではあったが、二人は既に見知った関係と言えるだろう。
「貴公か」
「ニュークロウスを返して貰える? それ、大切なものらしいから。断るならそれでもいいわ。腕ごといただくから」
 フィルメリアはSheralisに触れる。
 そのまま背に飛び乗って、上空からサイドワインダーで腕を引き継ぎるつもりでいた。
 だが、コーリアスは意外な行動に出る。
「ああ、これか。欲しければくれてやろう」
 コーリアスは手首からニュークロウスを外す。
 だが、手から離れる瞬間にニュークロウスが今までにない輝きを放つ。
「貴公との記念にニュークロウスは金の腕輪に変えさせてもらった。貴公らにこれが渡れば厄介になる。それ以上にこんなものがあれば貴公らは成長を止めてしまう。それは僕が望む結果ではないからね」
 川に沈む金の腕輪。
 おそらく最期の負のマテリアルを使って姿を変えたのだろう。
 ニュークロウスは最早、その能力を失ってしまった。
「さぁ、終わりにしよう。貴公らの手で僕にトドメを刺し給え。僕は逃げも隠れもしない」
 手を広げ、再度の一斉射撃を要求するコーリアス。
 それを受け、ハンター達は手持ちの武器をコーリアスに向ける。
 コーリアスの顔に浮かぶ――微笑。
「待って。コーリアスは何かを狙ってる。それを……」
「それでいい。貴公らの門出を祝おう。貴公らには未来がある。
 そして、よく見るがいい。これが……」
 コーリアスの声を耳にしたフィルメリア。
 反射的に振り返る。
 声は無い。だが、開く口の動きが目に飛び込んでくる。

 ――刹那。
 目に飛び込んできたのは、コーリアスの周辺で炸裂する爆風。
 弾丸の雨が降り注ぎ、コーリアスの体を貫いていく。
 攻撃を終える頃には、コーリアスの肉体は完全に消失していた。
 未だ周囲に漂う火薬の匂い。
 戦いは、大きな犠牲を払いながらもハンター達の勝利に終わった。

「どうした? 何かあったのか?」
 傍らにいたアーサーがフィルメリアに声をかけた。
 だが、アーサーの声はフィルメリアの耳には届かない。
 声にならなかったコーリアスの言葉が、フィルメリアの頭の中で再生されていた。

『そして、よく見るがいい。これが……貴公らの未来の姿だ』

担当:近藤豊
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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