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【RH】ハーメルンの笛吹き男・如意輪観音対応 リプレイ

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▼【RH】グランドシナリオシナリオ「ハーメルンの笛吹き男」(5/17~6/07)▼
 
 

作戦1:如意輪観音対応 リプレイ

ジーナ
ジーナ(ka1643
八重樫 敦
八重樫 敦(kz0056
魔導型ドミニオン)
魔導型ドミニオン
榊 兵庫
榊 兵庫(ka0010
ノノトト
ノノトト(ka0553
ラビット(魔導アーマー「プラヴァー」)
ラビット(魔導アーマー「プラヴァー」)(ka0553unit004
カティス・フィルム
カティス・フィルム(ka2486
南護 炎
南護 炎(ka6651
GRAND SWORD(コンフェッサー)
GRAND SWORD(コンフェッサー)(ka6651unit002
慈恵院明法
慈恵院明法
ミリア・ラスティソード
ミリア・ラスティソード(ka1287
ごりらたん(コンフェッサー)
ごりらたん(コンフェッサー)(ka1287unit004
キヅカ・リク
キヅカ・リク(ka0038
インスレーター・SF(魔導型デュミナス)
インスレーター・SF(魔導型デュミナス)(ka0038unit001
ミグ・ロマイヤー
ミグ・ロマイヤー(ka0665
ヤクト・バウ・PB(ダインスレイブ)
ヤクト・バウ・PB(ダインスレイブ)(ka0665unit008
鹿東 悠
鹿東 悠(ka0725
フィーナ・マギ・フィルム
フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
Schwarze(ワイバーン)
Schwarze(ワイバーン)(ka6617unit002
アニス・テスタロッサ
アニス・テスタロッサ(ka0141
オリアス(R7エクスシア)
オリアス(R7エクスシア)(ka0141unit004
北谷王子 朝騎
北谷王子 朝騎(ka5818
夜桜 奏音
夜桜 奏音(ka5754
ジェイミー・ドリスキル
ジェイミー・ドリスキル(kz0231
マリィア・バルデス
マリィア・バルデス(ka5848
mercenario(R7エクスシア)
mercenario(R7エクスシア)(ka5848unit002
キャリコ・ビューイ
キャリコ・ビューイ(ka5044
アルマ・A・エインズワース
アルマ・A・エインズワース(ka4901
仙堂 紫苑
仙堂 紫苑(ka5953
HUDO(R7エクスシア)
HUDO(R7エクスシア)(ka5953unit002
ASU-R-0028
ASU-R-0028(ka6956
狭霧 雷
狭霧 雷(ka5296
アリア・セリウス
アリア・セリウス(ka6424
リューリ・ハルマ
リューリ・ハルマ(ka0502
レイノ(イェジド)
レイノ(イェジド)(ka0502unit001
アルト・ヴァレンティーニ
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
ヴァイス
ヴァイス(ka0364
ホムラ(グリフォン)
ホムラ(グリフォン)(ka0364unit004
アーサー・ホーガン
アーサー・ホーガン(ka0471
シガレット=ウナギパイ
シガレット=ウナギパイ(ka2884
ジュード・エアハート
ジュード・エアハート(ka0410
高瀬 未悠
高瀬 未悠(ka3199
羊谷 めい
羊谷 めい(ka0669
オウカ・レンヴォルト
オウカ・レンヴォルト(ka0301
夜天弐式「王牙」(オファニム)
夜天弐式「王牙」(オファニム)(ka0301unit005
ラスティ
ラスティ(ka1400
スカラー(R7エクスシア)
スカラー(R7エクスシア)(ka1400unit003
リコ・ブジャルド
リコ・ブジャルド(ka6450
トラバントII(R7エクスシア)
トラバントII(R7エクスシア)(ka6450unit001
玄武坂 光
玄武坂 光(ka4537
鳳凰院ひりょ
鳳凰院ひりょ(ka3744
星空の幻
星空の幻(ka6980
 弱者は強者の餌となる他無い。
 強き者は富み、弱き者はますます貧しくなる。

 何故、ここまで苦しまなければならないのか。

 ――この世は地獄だ。

 だからこそ、誰かがこの世界を変えなければならない。
 だからこそ、誰かが手を差し伸べなければならない。

 救済は、間もなく始まる。
 この世界が消えるのか。

 それとも――。

「久しぶりの蒼だな。このような場面で訪れたくはなかったが……」
 ジーナ(ka1643)は、ロンドンの街を見下ろしていた。
 ラズモネ・シャングリラから離れ、街を北上。
 狙うべき相手は、今も東から西へと移動しているはずだ。
 西――それは、ロンドンの中心部。
 本作戦の攻撃目標である如意輪観音は、ロンドンの街を破壊すべく動いているという。
「敵はリアルブルーの僧侶だったか。生憎と信仰は物心ついた時から一つだけだ」
 ジーナは魔導型デュミナス『バレル』のアクティブスラスターで一気に距離を稼ぐ。
 実はロンドン市内は未だに避難が完了していない。少しでも早く如意輪観音を食い止めなければ、人的被害も増加していく。
 既に多くのハンターが如意輪観音を食い止めるべく動いているのだが――。
「さて。作戦通りに事が進めばいいが……行こう、バレル。蒼でもその力を見せてやれ」
 ジーナはバレルに乗って急ぎ北上する。ロンドンを悪夢から救う為に。



「来るぞ。応戦しろ」
 山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)が乗る魔導型ドミニオン。
 手にしたアサルトライフルが乾いた発射音を奏でている。
 ロンドン市内へ向かう敵は、如意輪観音だけではない。失踪していた強化人間が操るコンフェッサーも食い止めなければならない。。
「さて。本命の観音に向かう仲間の為に、少しでも長く取り巻きの戦力を抑えておく必要があるな。これは責任重大だ。俺も最善を尽くす事としよう」
 榊 兵庫(ka0010)のR7エクスシア『烈風』は、ヴィクトリアパークへと続く道に陣取っていた。
 兵庫の視界に入るモニターには数体のコンフェッサーが映し出されている。
 例によって訓練中の強化人間だ。行動は比較的読みやすい。
 できれば相手にしたくない敵ではあるのだが。
「……すまんな。これも戦場へ出た者の定め故。相対したとなれば、力で持って返事とせねばならんのだ」
 兵庫は既にコンフェッサーに200mm4連カノン砲の照準を合わせていた。
 烈風の存在に気付いて、移動速度を上げる強化人間達。
 だが、コンフェッサーは接近戦を重視した機体だ。兵庫も近づくのを黙って見守る程お人好しではない。
 唸る轟音。
 空気が震えると同時に大きく揺れる烈風。同時に放たれた弾丸は、コンフェッサーの一体に直撃。機体を大きく後方へ吹き飛ばす。
 しかし距離が遠い為にすべての砲弾が命中した訳ではない。
 回避に成功していたコンフェッサー。
 それに向けて兵庫は烈風を走らせる。
 魔銃「ナシャート」を握らせて。
「まだ終わらんよ。すべては、これからだ」

「物を壊すやり方で人に注意するなんて、絶対間違ってる!」
 ノノトト(ka0553)は、この戦いに強い決意を持って臨んでいた。
 コンフェッサーの運用テストで試合した強化人間の子供達。それが今、敵となって目の前に現れたのかもしれない。
 そう思うだけで、胸が苦しくなる。
 それでも、ノノトトはこの戦いに身を投じた。
 強化人間の子供達を傷つけるかもしれないが、これ以上子供達に破壊活動をさせる訳にはいかない。
 必ず、あとで助ける。
 戦って、戦って……戦った後で、子供達をきっと救ってみせる。
「行くよ、ラビット」
 魔導アーマー「プラヴァー」『ラビット』がゆっくりと起動する。
 マシンガン「デルガード」が向かって来るコンフェッサーに弾丸の雨を浴びせかける。
 単発の威力が低い事はノノトトも理解している。
 だが、これで十分だ。
(ボクの役目は取り巻きをアイツから引き剥がす事。敵を倒す事だけじゃない)
 今回の作戦で重要な事は攻撃目標の一つ、如意輪観音と護衛機のコンフェッサーを引き剥がす事にある。
 ノノトトがここでコンフェッサーを食い止めれば、それだけ如意輪観音を対応する仲間の負担は軽減される。高火力でコンフェッサーを無力化すれば、操縦者である強化人間にも被害が及ぶかもしれない。
 そして――。
「フィルス君、もっと敵に近づいて下さい」
 ラビットの傍らをすり抜けながら、カティス・フィルム(ka2486)のイェジド『フィルス』が飛び込んできた。
 カティスの前には光の矢。
 フォースリングで本数が増幅され、複数の矢がカティスの前に現れる。
 ラビットのデルガードを防御していたコンフェッサーは、カティスの登場に反応が遅れる。
「このまま倒せないのは分かっています。ですので、せめて無力化させられれば」
 放たれたカティスの矢。
 狙うはコンフェッサーのメインカメラ。カメラを破壊する事ができれば、コンフェッサーの行動を制限させる事ができる。そうなれば、強化人間を無傷で保護する事ができると考えたのだろう。
 突き刺さる矢。残念ながらカメラの破壊には至らなかったが、コンフェッサーを怯ませる事ができた。
「このまま押し通します。協力をお願いします」
 ノノトトに向き直るカティス。
 そう、ノノトトにとって重要な事は一人で戦っている訳ではないという事だ。
 ラビットの火力が低くても、同じ志を持った仲間が傍にいる。
 それは、どんな高威力の武器を装備していても得られない心強さだ。
「分かった。ボクと一緒に、子供達を助けよう」
 ラビットは、動き出す。
 心強い仲間と共に。

「慈恵院明法……やる事が気に食わねぇ。俺が叩き斬ってやる!!」
 コンフェッサー『GRAND SWORD』の操縦席で南護 炎(ka6651)はいきり立っていた。
 強化人間失踪事件。
 強化人間研究施設『アスガルド』より多数の強化人間が失踪した裏には、この世界を地獄と定めて救済を掲げる慈恵院明法の存在があった。
 子供達の笑顔を奪い、操り人形のように駒として使う。
 使えなくなった駒は打ち棄てられる。如何なる理想を掲げようと、明法のやっている事はエゴと傲慢が織りなした悪夢でしかない。
「勢い良い。だが、その口だけではこの地獄は守れぬぞ。小鬼よ」
 小鬼。
 炎をそう言い放った明法。その理由は、16メートルというサイズを誇る歪虚CAM『如意輪観音』に騎乗しているからに他ならない。
 GRAND SWORDの全長は3.6メートル。
 4倍以上のサイズ差がある相手を前にした炎であったが、一度火の付いた炎の心が揺らぐ事はなかった。
「GRAND SWORD、出撃する!!」
 炎はGRAND SWORDを前進させる。
 熱くなっている?
 そうかもしれない。だが、ここで臆すれば強化人間の施設で昏睡状態となっている子供達に顔向けはできない。
「ああもう、アイツは面倒見てやらねぇと……おい炎、作戦を忘れてないよな?」
 GRAND SWORDの後をミリア・ラスティソード(ka1287)のコンフェッサー『ごりらたん』が追走する。
 ハンター達は一度、ランカスターにて如意輪観音と交戦していた。
 その際、ハンター達は如意輪観音の持つ六本の腕と仏具の存在を知った。
 六本の手に握られたそれぞれの仏具には、特殊なスキルを発動させる事ができる。すべての仏具の効果を知る事はできなかったが、このスキルを対策しなければハンター側に勝利はない。
 つまり、如意輪観音を撃破するのであれば各ハンターの連携が必須なのだ。
「作戦は理解してる」
「だったら!」
「だが、俺は前に進む! 総攻撃の事前準備を行う隙が必要だ」
 GRAND SWORDは試作波動銃「アマテラス」を携えて前へと踏み出した。
 時折、立ち止まりながらアマテラスの照準を如意輪観音に合わせる。
 事前準備――それは、ハンター側が対如意輪観音を想定して立てていた作戦の準備である。
「こちらキヅカ。これから敵の解析に移る」
 ミリアのごりらたんに響くのは、キヅカ・リク(ka0038)の声。
 ミリアが事前にマテリアルラインをキヅカと結んでいたのだ。
「キヅカさん、炎が!」
「分かってる。こちらからも様子は見えていた。なるべく早く終わらせる」
 キヅカの魔導型デュミナス『インスレーター・SF』のモニターに映し出されているのは、金色の肌が眩しい如意輪観音。
 既に炎を含めた複数のハンターが如意輪観音へ攻撃を開始している。
 その最中、キヅカが狙うのは――機導解析。
 機導の徒による如意輪観音の解析で、弱点や武器の性能、操縦席の位置を見抜こうと考えていたのだ。
 成功するかは、分からない。
 博打ではあるが、賭けてみる価値はある。
「各機、牽制しながら時間を稼いでくれ」
 キヅカの合図と共に、各機は如意輪観音攻略へを開始する。
 ロンドンを舞台にした強化人間失踪事件は、いよいよ大詰めに向けて動き出した。


「先の戦闘では追い詰め損ねたが、今度はきちんと引導を渡してやるでな」
 ミグ・ロマイヤー(ka0665)のダインスレイブ『ヤクト・バウ・PB』は遠距離から如意輪観音への砲撃を開始する。
 ダインスレイブの問題点である弱点を装弾数と見据えたミグは、弾薬を満載しての出撃と相成った。これも先日如意輪観音と遭遇したランカスターでの一戦が大きな原因なのだろう。
 ラズモネ・シャングリラへの攻撃を仕掛けてきた如意輪観音をミグらハンター達が迎撃。辛うじて撤退させる事に成功はしたが、ミグ自身も明法が本気を出していない事は理解していた。
「我がヤクトバウの錆となるがいいわ」
 ヤクト・バウ・PBによる徹甲弾の痛撃。それも連続砲撃によるつるべ撃ちで逃走範囲を限定させる事が狙いだ。
 先の戦いのようには行かせない。今回は、友軍機も多く参加しているのだ。
 必ず、ここで明法の叩き潰してみせる。
「始めおったか。この地獄を守らんとする鬼達の抵抗、見るに耐えん」
 ミグを始め、如意輪観音へ攻撃を試みているのだが、如意輪観音は構わず前進。アパートだったであろう建物を体当たりで粉砕しながら、ロンドン市内に向けて動き続けている。
「やはり、仏像CAMの硬さは折り紙付きか」
 プラズマキャノン「アークスレイ」の一撃を放ちながら、ミグの脳裏には先日の戦いが再演していた。
 ハンター達が攻撃を試みても如意輪観音に明確なダメージが与えられているようには思えなかったのだ。それは異常なまでの防御力。あの金色の肌は見かけ倒しではないのだろう。火力を分散しての攻撃では大きなダメージを与えられないのかもしれない。
 それでも、ミグは徹甲弾を放ち続ける。
 今は、作戦成功を信じて明法の目から作戦の事前準備を隠し続ける必要がある。
「罪溢れるこの世界を守って何を成そうとする? こうしている間にも弱き者は食われるだけ。地獄が続いておるわ」
 周囲に響く明法の声。
 まるでハンターの挑発するかの言葉。
 その言葉に鹿東 悠(ka0725)はガルガリン『王虎』の中で静かに怒る。
「……五月蠅い」
「ほう」
 怒気の孕んだ鹿東の声。
 明法はそんな鹿東を鼻で笑う。
 鹿東の怒りを気にも留めるつもりはないようだ。
「五月蠅いと申すか」
「罪? 救い? それはお前が決める事では、ない……!」
 王虎の握る斬艦刀「雲山」で如意輪観音の足に斬撃を加える鹿東。
 ここへ到着する前の間、コンフェッサーに乗る強化人間も容赦なく倒してきた。
 迅速にこの場へ到着したのも、事件の首謀者である明法に一撃を加える為であった。
「誰も、お前に救ってくれと頼んでいない! 余計なお世話だ!」
 雲山を大きく振り下ろした渾身撃。
 だが、如意輪観音が足を止める気配はない。
「声なき声を聞こうともせぬとは。自らの行いを見直せ。我の問いに答えず『五月蠅い』の一言で片付ける。そのような態度が……この世界を地獄に変えたと何故分からん!」
 如意輪観音が握り独鈷杵が振り上げられ、王虎近くへと突き刺さる。
 次の瞬間、地面から巨大な爆発が生まれる。
「くっ!」
 爆発の直後、王虎が弾き飛ばされる。
 直撃ではないが、一緒に飛ばされた瓦礫を避けきれなかったようだ。
「無事か!」
 鹿東のトランシーバーにミグの声が聞こえてきた。
 だが、鹿東はミグに向かって叫ぶ。
「撃ち続けろ。あいつは、必ずここで止める」

 如意輪観音への攻撃が開始された頃、コンフェッサーを止めようとするハンター達は強化人間の『保護』に尽力していた。
「Schwarze。もっと、前に行きましょう」
 フィーナ・マギ・フィルム(ka6617)は、ワイバーン『Schwarze』を陸で走らせる。
 如意輪観音との合流を試みる強化人間のコンフェッサーへ攻撃を仕掛ける為だ。
「発見しました。攻撃を仕掛けます」
 叡智の奔流でマテリアルを練り上げるフィーナ。
 目標は射程距離に入ったコンフェッサー。
 息を整えて意識を集中させる。
「お願いします、強化人間の皆さん。直撃は避けて下さい」
 彼らにフィーナの言葉が届かない事は分かっている。
 それでも気遣いをせずにはいられない。
 フィーナが顔を上げると多数の魔方陣が出現。同時にコンフェッサーの上空に生まれる多数の火球。
 火球は地面に衝突すると同時に、広範囲を炎で焼き払う。
 気圧されるコンフェッサー。
 突然の襲撃で攻撃目標を捜索している様子がフィーナからも見て取れる。
「Schwarze、空へ上がりましょう」
 フィーナはSchwarzeを上空へと舞い上がらせる。
 大きな翼をはためかせ、浮力を得るSchwarze。
 滑空しながら、周囲を警戒するコンフェッサーを上空から視認する。
「数は3機のようです。……あ、あれは」
 フィーナの視界に入ったのは、赤いR7エクスシア。
 手にはビームライフル「ベウストロース」が装備されている。
「来な、ガキ共。教育してやる。ただし……」
 アニス・テスタロッサ(ka0141)は、R7エクスシア『オリアス』を前進させる。
 ベウストロースによる射撃を行いながら。
 収束した光がコンフェッサーの機体を貫いていく。
 フィーナの目から見てもアニスの射撃には容赦が一切感じられない。
「授業料はテメェの命の可能性があることを考慮しな」
「だ、ダメです」
 フィーナは気付いた。
 アニスには手加減する気配が一切する気配がない事を。
 そもそも戦場という特殊な空間において相手に手加減する事が、如何に危険か。それはハンターなら誰もが熟知しているはずだ。
 どんなに格下な相手でも打ち所が悪ければ、命を奪われる恐れもある。
 だからこそ、ハンターの中には強化人間に対して手加減をしない者もいるのだ。
「向かって来るかね? 勇気と無謀をはき違えているんじゃねぇぞ」
 リロードキャストでベウストロースにエネルギーを充填。次の攻撃に備える。
 その間にも前方から走り寄ってくるコンフェッサー。
 何発かの銃撃を受け、機体の一部がショートを起こしている。満身創痍の体でも攻撃を諦めない強化人間。一体何が彼らを突き動かすのか。
「やっぱ、仕留めないとダメか……?」
 アニスは再び照準をコンフェッサーへ合わせる。
 だが、次の瞬間――瓦礫から別のコンフェッサーが飛び出してくる。
「ちっ!」
 瞬時に反応するアニス。
 だが、コンフェッサーが飛び出してきたのはオリアスの真横。
 マテリアルフィストによって吹き飛ばされた瓦礫が、オリアスに何発か直撃する。
「Schwarze、サイドワインダーです」
 フィーナはSchwarzeを上空から急加速。飛び込んできたコンフェッサーに奇襲を仕掛ける。
 オリアスへ拳を振り上げていたコンフェッサーは、攻撃を止めてSchwarzeの爪から身を守る。
「邪魔するんじゃねぇよっ!」
 隙をついたアニスは、コンフェッサーの胸部に試作錬機剣「NOWBLADE」を突き立てる。 マテリアルソードは操縦席があったと思われる場所を貫いた。
 それは、操縦者であった強化人間の死を感じさせる光景であった。
 だが、それでは終わらない。
 倒したコンフェッサーを近寄るコンフェッサーへ投げつけて牽制する。
「殺して……しまいましたか」
 肩で息を切らせるフィーナ。
 それに対してアニスは、モニターに映るフィーナから目を背けた。
「倒さなきゃこっちがやられる。そういう場所だろ、ここは」


 対如意輪観音において、ハンター側が立てていた作戦。
 それは敵の攻撃パターンを明確に潰していくものであった。
 機導の徒にてコックピットや敵の性能、弱点を調査。
 その後、黒曜封印符などで敵のスキルを封じつつ、火力を集めて確実に敵の攻撃手段を封じていくというものだ。
 つまり、機導の徒においてある程度の情報が得られるというのが前提の作戦である。

 ――だが。
 今回、ハンター達には幾つかの誤算があった。
 その一つが『機導の徒』である。
「機導の徒では分からない、だと?」
 キヅカは一瞬、状況を理解できなかった。
 今回の作戦では機導の徒によって如意輪観音の攻撃箇所を明確にする予定であった。
 ここに大きな落とし穴があった。機導の徒は『実現可能なものをより実現しやすくする』スキルに他ならない。仮にデータを蓄積したサーバから情報を取り出すのであれば、操作端末であるコンピュータを操作して情報を取り出す。機導の徒は、この取り出す作業を実現しやすくするスキルだ。
 ここで如意輪観音のデータが詰まったコンピュータがあれば解析できたかもしれないが、機導の徒を使うだけでは如意輪観音の情報を知る事はできない。
「まだだ。まだ、終わった訳じゃない」
「こちら北谷王子でちゅ。黒曜封印符を本体に貼っても効果なかったでちゅ」
 ワイバーン『龍騎』の背に乗る北谷王子 朝騎(ka5818)は、トランシーバーでキヅカへ通信を入れてきた。
 予定では機導の徒で黒曜封印符を貼るべき場所を割り出す事になっていた。
 既に六本の腕に握られた仏具は、特殊な能力を保持している。それらのスキルを一時的にでも封じる事ができれば攻撃のチャンスも生まれてくる。
 だが、その情報を得る事はできなかった。
 こうなれば、と朝騎はリスクを負って現地で答えを模索する他無かった。
「本体に貼っても効果はなし、か」
「という事は腕を試すしかありませんね」
 夜桜 奏音(ka5754)はイェジド『ゼフィール』を走らせる。
 奏音は、本体に効果がなかった場合は仏具を持つ腕に黒曜封印符を貼る案を考えていた。
 だが、16メートルの如意輪観音だ。腕の根元は9メートル付近。一番したの腕の先を考えれば6メートル以上はあるだろうか。それに奏音はイェジドに乗って黒曜封印符を貼るつもりなのだ。
「一人では危険だ。誰かと一緒に……」
「分かっています。大きな建物の上に乗ればきっと貼れるはずです」
 奏音はゼフィールを反転させ、壊れた瓦礫の上を走らせる。
 作戦成功の重責を背に、如意輪観音へと向かって行く。


 如意輪観音から離れた位置に陣取ったのは、ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉の戦車型CAM『ヨルズMk.II』。
 ムーンリーフ財団で改修された155mm大口径滑空砲は、命中度が向上。
 さらに40mm4連装ミサイルランチャーを二門装備。全体的な火力がアップ。
 だが、それ以上に特徴的な機能は――。
「……乗り換えたの?」
 R7エクスシア『mercenario』に乗るマリィア・バルデス(ka5848)は、今まで目にしていたヨルズとは変わった姿にそう問いかけていた。
 操縦席がいつもの位置よりも上がり、滑空砲も砲身が高い場所に変わっている。
 まるで下半身が戦車の人型CAMといった風貌だ。
 東方にいた歪虚の眷属である憤怒でも、こんな奇妙な姿を持った存在はいないだろう。
「馬鹿言うな。ヨルズを改修したんだよ。謂わばお色直しだ」
「じゃあ、見物客を歓迎しなきゃいけないわね。
 ……ちょうど側面からきたみたいよ」
 見物客――それが、強化人間のコンフェッサーである事は、ドリスキルにもすぐに分かった。
 人型形態となっている間はマテリアルレーダーと旋回力が向上している。
「今までと同じヨルズと思ったら、大間違いだ」
 ヨルズは大きく旋回。
 その場で上半身を大きく稼働させ、コンフェッサーに正面から向き直る。
「パーティの主役を横から邪魔するなんて、無粋な真似は止めて」
 マリィアは素早くヨルズにマテリアルカーテンを展開させながらコンフェッサーの進路を妨害する。
 足を止めるコンフェッサー。
 そこへキャリコ・ビューイ(ka5044)のダインスレイブ『アラドヴァル』が砲撃する。
「コンフェッサーがこんな所にも。市内に多く入り込んだか」
 アラドヴァルのプラズマキャノン「アークスレイ」がコンフェッサーに向けられる。
 反射的にコンフェッサーは、側面へ飛ぶ。
 だが、そこには照準を定めたヨルズMk.IIが待ち構えていた。
「あんまり待たせるんじゃねぇよ……そうか、まだ相手はガキだったか。なら、酒の味を覚えた頃に相手してやるからよ」
 ドリスキルは40mm4連装ミサイルランチャーを発射。
 銃弾はコンフェッサーの脚部を破壊。倒れるコンフェッサーに近寄ったマリィアが、腕を破壊して行動不能へと追い込む。
「どうやら迷い込んだ一体だ。他に敵の増援はないな」
「まあ、肩慣らしにはちょうどいい相手……でもなかったな」
「まさか、やっぱり今日も飲むつもりかしら?」
 キャリコの言葉へ繋げるようにドリスキルは余裕を見せる。
 その余裕がマリィアの勘を働かせる。
 この僅かな時間があれば、ドリスキルは必ず愛用のウイスキーを口にするはずだ。
「あ? もう飲んでるよ」
「もう。験担ぎかもしれないけど……飲まなくなって貴方の腕なら当たると思うもの」
 マリィアからすれば、飲みっぱなしのドリスキルが心配なのだろう。
 しかし、ドリスキルからすれば既に『儀式』のようなものなのだ。飲まなければ始まらない。
「人間、そんなに簡単には変わらねぇだろ」
「え?」
「おい、あんちゃん。最初に何処を狙うって?」
 マリィアが聞き返した言葉を聞かなかった事にしたドリスキルは、キャリコに話し掛けて話題を変えた。
 予定では味方の観測情報を元に直感視で敵を観察して攻撃目標を最終的に決定する事になっていた。だが、味方からの観測情報が予想よりも混乱している為、情報に精査が必要となっている。残念だが、情報の精査をしている暇は無い。
「こちらで予想していた攻撃目標へ攻撃を仕掛けよう」
 キャリコは、戦いの前から攻撃目標を立てていた。
 友人に無理矢理駆り出されて連れて来られたイギリスであったが、巻き込まれた以上は全力を尽くす。その全力が作戦前の情報収集から弾き出した攻撃目標である。
 そして、この攻撃目標の決定が更なる誤算へと進めて行く。
「俺達は……『如意宝珠』を破壊する」


「殺ス」
 それが、アルマ・A・エインズワース(ka4901)が抱いた言葉である。
 ランカスター戦で如意輪観音に重傷を負わされた事。
 強化人間失踪事件の首謀者とされている慈恵院明法が如意輪観音に騎乗している事。
 様々な感情が交じった後に、アルマの口から吐き出された言葉――。
 この戦いに強い決意を持って、アルマは臨んでいた。
「一人で行くんじゃねぇよ。そんなんだから、また怪我するんだ」
 仙堂 紫苑(ka5953)はそんなアルマを引き留めた。
 一人でいれば、どんどん先へと進んでしまう。それは純粋故なのかもしれないが、周囲にいる者からすれば心配の種が尽きない。
 幸い、紫苑の言う事であればアルマは言う事を聞いてくれる。
「わふっ! みんなと一緒にいくです。シオン、任せるですよ!」
 まるで飼い犬と子犬のようなコンビではあるが、戦闘においてはハンターとして十二分な働きを期待できるだろう。
「いつぞやの犬か。まだ踏み潰され足りないか」
「何が使命ですか、この変態! 誘拐犯! おにーさんなんか、おにーさんなんか……光ってるのは頭のてっぺんだけですー!」
 アルマはリーリー『ミーティア』を走らせる。
 自分で考えた精一杯の悪態をついて一気に前進する。
 先の戦いではたった一人での前進であったが、今度は違う。
 後方には紫苑のR7エクスシア『HUDO』とASU-R-0028(ka6956)の魔導アーマー「プラヴァー」『羅刹ノ甲』がいる。
「思い出してェ約束じゃねェが、貴様と相対し、貴様をみてワシは思い出したぞ……在り方を」
 先手必勝で一歩先んじたASU-R-0028は、斬魔刀「祢々切丸」の一撃。
 スペルステークによる炎のようなオーラ叩き込んだ。金属同士が衝突した音が響き渡る。
 だが、ASU-R-0028の攻撃だけでは金色の肌に傷を付ける事はできない。
「関係ねぇ! あとは気合いでころす!!!!!」
 構わず羅刹ノ甲は斬撃を続けている。
 一方、アルマといえば――。
「シオン、シオンー。のせてくださいですー」
「は?」
 突然振り返ったアルマは、ミリティアに乗ったまま反転。
 足を止めたHUDOの頭へと飛び乗った。
 HUDOの全長は5.4メートル。このHUDOを踏み台にしてジャンプすれば、より高い位置へ攻撃を仕掛けられるとアルマは考えたようだ。
「お、おいっ! 危ねぇだろ!」
「このまま一気につるぴかハゲ坊主を焼き尽くすですー」
 飛び上がるミリティア。
 同時に腕を大きく振り上げるアルマ。
 ファイアスローワーで如意輪観音の腕を焼き尽くすつもりだ。
 だが、攻撃するのを黙って見守る明法ではない。
「喝っ!」
 明法の一喝。
 次の瞬間、周囲のハンターを黒いオーラが襲う。
「数珠の効果か! みんな無事か?」
 紫苑は仲間達を必死で呼び掛ける。
 だが、アルマは空中で数珠を受けた為に地面へ落下。ASU-R-0028も如意輪観音の足下で動きを止められている。そして、当の紫苑もアルマの後方で動けない状態だ。
「くそっ」
「悔やむか。この地獄を守る為に命を散らすならば、本望であろう」
 如意輪観音は動けないASU-R-0028を容赦なく踏み潰す。
 上からの攻撃に受け身すら取れないASU-R-0028は、そのまま意識を消失する。
 そして、ゆっくりとアルマへと近づいていく。
「だ、大丈夫ですか?」
 倒れたアルマに駆け寄るルカ(ka0962)。
 数珠の効果で動けないと知るや、ピュリフィケーションで数珠の効果を打ち消しにかかる。
 だが、こうしている間にもルカとアルマの元へ如意輪観音が近づいていく。
「動け! 今、動かないでいつ動くってぇんだよ!」
 HUDOを操作しようと試みる紫苑。
 だが、さすがに紫苑であってもすぐには動けそうにない。
「哀れなり。我の前に立ちはだかれば、骸となるのみ」
 再び足を上げる如意輪観音。
 ルカとアルマを踏み潰すつもりだ。
「もう少し、もう少しなのに……」
 ルカは必死に祈る。
 しかし、願いも虚しく無情にも足は振り下ろされる。
「そうはいきません。ここで動きべきでしょうね」
 隠の徒で隠れていた狭霧 雷(ka5296)が、瓦礫の影から姿を見せる。
 そして、振り下ろされる足に向けてファントムハンドを放った。
 一瞬だけ足の動きを止める如意輪観音。
 だがそれは、ファントムハンドによって移動を封じた訳ではなかった。
 その証拠にファントムハンドで掴んだにも関わらず、数秒で幻影の腕が消えてしまったからだ。
「貴様を先に相手して欲しいか。なら、望み通りにしてやろう」
 如意輪観音は、そのまま足を地面に滑らした。
 地面を抉りながら、足は狭霧を巻き込んだ。
「ぐっ!」
 激痛で漏れる声。
 それでも如意輪観音の足は止まらない。
 足が完全に停止する頃、狭霧の体は近くの建物に激突。狭霧は大きな怪我を負うことになる。
 しかし、狭霧が身を挺して作った時間は無駄ではなかった。
「……動いたっ!」
 紫苑の数珠の効果が切れたのだ。
 そして、ルカのピュリフィケーションが効果を発揮。アルマも立ち上がる事ができた。
「一度退くぞ。形成を立て直す!」
 ルカとアルマへ呼び掛ける紫苑。
 このまま闇雲に挑んでも被害は拡大する。
 隙をついて敵のスキルを封じなければ――。
 紫苑は、振り返る。そこには如意輪観音がゆっくりと西へ歩み始めていた。

「風姿花伝。この言葉、知っているでしょう。たとえ、今の美しさが失われても、大事なのは継承する事。理想の明日へ、心と魂、導き繋ぐ為に」
 アリア・セリウス(ka6424)は、囮役を買って出ていた。
 如意輪観音の注意を自分に惹きつけさせる事で、黒曜封印符の貼り付ける時間を稼ぐ為だ。
 言葉では簡単だが、それを実現しようとするならば容易ではない。
「悪しき鬼の魂を繋ぐ。そこまでして地獄を守らんとするか」
 明法の言葉の後で、如意輪観音は独鈷杵の地面に突き刺した。
 発生する爆発。
 だが、イェジド『コーディ』はスティールステップで巧みに爆発を躱す。
「明日を斬り拓く。その願いの刃で貴方という無明を」
 龍翼鎌「クータスタ」 で足首横をすれ違い様に一撃。
 刃が金属と衝突する音が周囲に響き渡る。
 弾かれた感覚がアリアの手に伝わってくる。
 ――浅い。
 その事は幾度もの戦火を潜り抜けてきたアリアにも分かる。
 如意輪金剛の装甲は、想像よりも固いのだ。考えてみれば、大きさを考慮しても敵と対峙した際に足を狙われる可能性が高い。ましてやあの巨体を支えなければならないのだ。明法もその事を熟知しているからこそ、足の装甲に気を遣ったのだろう。
「無情よ。何故に徒労と分かっても繰り返して攻撃するか」
 あざ笑う明法。
 だが、それでもアリアは諦めずに何度も叩き続けていた。
 通用しないと考えるのは、まだ早い。
 きっと叩き続けていれば変化があるはずだ。
 それに自分には役目がある。明法がアリアを見て笑っているのであれば、それでいい。その間に仲間が総攻撃に向けて準備を進めているはずだ。
「無情はどちらか。すぐに分かる」
 アリアは、コーディを走らせる。
 借りは、後でまとめて返せばいい。あの笑顔を叩き壊してやる。
 しかし、今は役目を全うしなければ。
 次なる一撃を与える為に――。


「わっ!」
 リューリ・ハルマ(ka0502)は、イェジド『レイノ』の背で思わず声を上げた。
 既に周辺には建物を形成していた残骸が派手に道へ転がっている。
 レイノはその瓦礫の合間を縫って移動しているが、時折ジャンプする為にリューリはどうしてもバランスを崩しそうになる。
「リューリちゃん、遊んでいる暇はない。分かるか?」
 リューリから見て、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はいつも以上と少し違っていた。
 時折、リューリに視線を送ってはくれるが、その瞳に笑顔は無い。
 心の中の怒りを必死で押さえ込んでいる。そんな雰囲気さえ伝わってくるのだ。
「分かってるよ。今から急いで行けば、間に合うかな?」
 リューリは、レイノに捕まり直す。
 先程まで、進路を塞いだ歪虚CAMを二人で倒した所だ。
 この為、如意輪観音を背後から追いかける形となっている。
 今から全力でいけば追いつくだろうが、周辺の瓦礫に怪我人がいないかを確認している為、少々時間はかかっている。
「間に合わせる。アイツは、絶対ここで潰す」
 『潰す』。
 その一言に込められた感情をリューリは察した。
 血の雨が降る。
 リューリがそう直感したのも無理はなかった。
「そ、そうだね。背後からなら『ちょうどいい』よね」
「ああ。だから急ぐぞ」
 アルトは、イェジド『イレーネ』を走らせる。
 ランカスターからの因縁をここで絶つ為に。


「待て、今行けば狙われる!」
 ヴァイス(ka0364)は、感じ取っていた。
 奏音が背負っていた重責を。
 そして、その重責が奏音を呪いの如く絡め取られていくのを。
「大丈夫です。ここからなら、きっと……」
 奏音は、ゼフィールの背に乗って三階建てアパートの上に立っていた。
 この位置からジャンプすれば、如意輪観音に届くはずだ。
 一つでも多く如意輪観音の腕を止める事ができれば、仲間の負担は軽減される。
 それ以上に、ロンドンの街をこれ以上破壊されずに済む。
 自分が、成し遂げなければいけない――。
「行きましょう、ゼフィール」
「待て。もう少し様子を見るべきだ」
 ヴァイスはグリフォン『ホムラ』と共に黒曜封印符を扱う奏音を護衛していた。奏音が長く戦場に立っていられれば、それだけ如意輪観音の扱うスキルを長く止める事ができる。
 ガウスジェイルとアンチボディを発動しながら、奏音を守り続けていた。
「そうかもしれません。ですが、もう時間があまり残されていません」
 奏音は近づく如意輪観音を見上げた。
 時間が無い――それはロンドン市内との距離にあった。
 ハンターが攻撃を加えて時間を稼いではいるが、如意輪観音は確実にロンドン市内へと近づいていた。もし、タワーブリッジや宮殿が破壊されるような事があれば、イギリス国内だけではない。世界的な事件として扱われる事になる。それは強化人間の境遇を悪化させるだけではなく、歪虚の脅威を宣伝する事にも繋がる。
 それは、絶対に避け無ければならない。
「行きます」
 ゼフィールの跳躍。
 機導の徒による調査が不発となっている以上、黒曜封印符が作戦成功の鍵となる。
 ワイルドカードで符の効果を高めながら、空中で如意輪観音の腕へ肉薄する。
(タイミングも問題ありません。あれだけ大きな目標なら……!)
 腕を伸ばす奏音。
 手の平に伝わる如意輪観音の金色の肌。
 それは黒曜封印符が貼れた事を意味している。
「やりました!」
 成し遂げた奏音。
 だが――。
「何かを仕掛けたか、娘鬼。されど、それも徒労。無駄な足掻きだ」
 如意輪観音は独鈷杵の腕を振り上げると、奏音が着地した傍の建物へ突き刺した。
 次の瞬間、建物が大きな爆発に包まれる。
「そんな、腕に貼ったのに……」
 奏音はここで気付いた。
 貼るべき場所は『腕』ではない事に。
 しかし、その奏音がショックを受けている間に視界に飛び込む瓦礫。
 破壊された建物が、雨のように降り注ぐ――。

 ……――。

「ぶ、無事か……」
「!」
 奏音が目を覚ますと、目の前にはヴァイスの顔があった。
 額から血を流し、苦痛に歪む顔。
 周囲には瓦礫が散乱している。
「……え?」
 奏音は自分は多少怪我を負っているものの、無事である事に気付く。
 そして、それはヴァイスが身を挺して庇った結果である事も。
 無理をしたのだろう。ホムラも傷付き、その場で倒れ込んでいる。
「そ、そんな。目を覚まして下さい!」
「無事で、良かった……」
 意識を消失するヴァイス。
 慟哭する奏音を背に、如意輪観音は歩み続ける。


 ハンター側の作戦に見え始める綻び。
 予定から外れ始めているが、多くのハンターはその綻びに気付かない。
 事態に気付くのは、ハンター側が一斉攻撃へ切り替えた時点であった。
「勝手なエゴを押しつけて。この世界の大人と変わらない……お前も」
 キヅカは明法を痛烈に批判する。
 明法はこの世界を地獄と称し、世界を構築した大人を批難する。しかし、その明法もまた強化人間の子供達を手駒にしてエゴを押しつけている。そのエゴが、弱者であるはずの子供達を食い潰していく。
 大人も、明法も何も変わらない。
「抜かせ。大人達は力でこの世界を創造した。弱者の肉を喰らう餓鬼道を。
 ここでこの地獄を破壊せねば、未来の弱者も喰らわれるのだぞ。それが分からんのか!」
「分からない。分かってたまるか。
 そんなんだから、救済を掲げて自分自身すら救えない。差し伸べられた手をすべて払って、破滅の道を進むなら自分一人で行けばいい!」
「地獄を守る獄卒に説いた所で無意味。力で創造した世界は力で破壊せねば、真の救済とならん」
 予定では明法を煽って自分に注意を向けさせる事が目的であった。
 だが、いつしか自分の中にあった思いを明法へとぶつけていた。
 その感情は他のハンターにも伝わり、攻撃へと昇華されていく。
「機は熟した。感情の奔流を、ぶつけてあげて」
 総攻撃のタイミングを察したアリア。
 コーディに乗ったまま、キヅカとすれ違う。
 キヅカは目を見開き、上空へ信号弾を打ち上げる。
「みんな、頼む!」
「ああ。たとえ、奴の思想がどれだけ正しかろうと、自発的に従っている奴がいない時点でただの独り善がりだ。力に訴えた時点でテロリストの戯れ言でしかねぇんだよな」
 アーサー・ホーガン(ka0471)は、イェジド『ゴルラゴン』と共に如意輪観音に向かって走る。
 如意輪観音へ適宜攻撃を続けていたのだが、キヅカと合図と受けて最優先目標へターゲットを切り替える。
 それは、先の戦いで如意輪観音の機体を癒やした仏具であり、多くのハンターも危険視していたものだ。10メートルを超える位置に存在しているが、まだ存在している建物を足場にすれば一撃ぐらいは叩き込む事ができるだろう。
 一撃。
 アーサーは、魔剣「バルムンク」の柄を握り締める。
「おい、あんまり無茶し過ぎるなよ。例の衝撃破、結構範囲は広ぇぞ」
 ワイバーン『グラウ』の背に乗って上空からアーサーへ警告を発するシガレット=ウナギパイ(ka2884)。
 如意輪観音が時折使用する錫杖は、先の戦いでも効果を発揮していた。
 360度に衝撃破を発するのだが、その範囲は想像よりも広い。
 錫杖を使われる度に周辺の建物は次々と破壊されていく。街の被害を抑えるのであれば錫杖の攻撃も封じたい所だが――。
「ご忠告ありがとうよ。だが、まずは『蓮の花』だ。あれを封じておかねぇとな」
 アーサーが口にした『蓮の花』。
 如意輪観音のダメージを回復してしまう仏具。
 ハンター達は、この仏具破壊を狙う。火力を一気に集中して破壊するつもりなのだ。
「お前を地獄から、解放してやるぜ」
 ゴルラゴンは一気に建物を駆け上がる。
 そして、大きくジャンプ。アーサーはゴルゴランを足場にしてさらに跳躍。蓮の花に向けてバルムンクを振り下ろした。
「グラウ、周囲を警戒だ。一斉攻撃の後で奴が何かを仕掛けてくるかもしれねぇ。それに備える」
 シガレットは敢えて上空へと逃れる。
 上空からの支援を中心に動いていたシガレットは、蓮の花一斉攻撃の後に明法は何かを仕掛けてくる。
 その直感を信じて、先に行動を起こした。
 皆が、作戦に従って大きく動く。
「子供達を集めて、管理したつもりになって。そんな大人がいるから、この世界は変わらないんだ!」
 キヅカの言葉と同時に、周囲のハンター達は一斉に蓮の花を狙って攻撃を開始した。
 火力を集中して蓮の花を一斉に破壊する。
 それがハンターの作戦――だった。
「小賢しい!」
 如意輪観音は法輪をかざす。
 次の瞬間、如意輪観音の前に光の曼陀羅が宙に出現。
 ハンター達の攻撃を防ぐ。
「なっ!」
 気圧されるハンター達。
 未だ効果が不明だった法輪は、光の盾を形成する能力だったようだ。
 攻撃が防がれた事で、ハンターは戦いが劣勢である事に気付き始めた。
「そこまで力を有していたか。危なかったぞ、獄卒よ。だが、残念だったな」
 そう呟いた明法は錫杖を大きく掲げた。


「ん!? おいっ、砲撃が防がれたぞ!」
 ドリスキルのモニターには、撃ち出した砲弾が光の盾に衝突したシーンが映し出されていた。
 その傍らではキャリコが冷静に事態を分析している。
「まずいな。回復に盾まで持っていたのか。これで作戦が大きく変わる」
「火力をもっと集中すれば良かったのかも。でも、『たられば』を言っても仕方ないわね」
 マリィアは如意輪観音の動向を見つめていた。
 ハンターの作戦では三箇所の法具を同時攻撃していた。
 仮に法具を絞り切れていれば、あの盾を貫通する事ができたかもしれない。
「悔やんでもしょうがねぇ。どうする?」
「決まっている。如意宝珠を継続して攻撃だ」
「分かったよ。叩き続けてやるよ」
 キャリコの指示でドリスキルは、再び如意輪観音の如意宝珠を照準に収める。
 だが、それをマリィアが言葉で止める。
「待って。あれは?」
 マリィアが指摘したのは、如意輪観音の錫杖だ。
 高々と持ち上げられ、地面に柄を叩き付ける。
 それはランカスターでも確認された衝撃破である。幸いここまでは届かないが、一斉砲撃で如意輪観音に近づいていたハンターは危険が及ぶ。
「くそっ、瓦礫が邪魔でここからじゃ狙えねぇ。次の砲撃場所を探すぞ」
 ドリスキルは戦車形態に変形させながら、ヨルズMk.IIを後退させ始めた。


 如意輪観音が放った衝撃破は、周辺の建物を次々と破壊。
 一斉砲撃の為に近づいていたハンター達を次々と巻き込んでいった。
「くっ! 『捻くれ思考の糞坊主』めっ!」
 GRAND SWORDへ次々と瓦礫が衝突する。
 法輪を狙ってアマテラスを攻撃し続けていたが、完全に破壊するまでには至っていなかった。他のハンターも法輪を狙っていた為、もう少しで破壊できたという感触を持っていたが――。
「炎、一旦距離を置くんだ。ここは危ねぇ」
 ミリアはGRAND SWORDへ後退を呼び掛ける。
 衝撃破で周辺の建物はほとんどが瓦礫と化した。
 キヅカからの通信によれば、蓮の花破壊は失敗。
 再度の一斉攻撃を狙う為に一度後退するよう打診されていたのだ。
「ここで撤退だと? ダメだ! もう少し、もう少しで法輪を……」
「撤退じゃねぇ。後退だ」
 未だ最前線で戦い続けようとする炎を、シガレットが諫めた。
 重体になる可能性が高い炎とミリアを案じたシガレットが、作戦中も気に掛けていたのだ。
「後退してもう一度敵に攻撃を叩き込む。諦めるにはまだ早ぇだろ」
 シガレットはミリアと炎をフルリカバリーで回復させる。
 ここへ来るまでに多くのハンターが衝撃破に巻き込まれたようだ。重体の者は早々に撤退させなければ厄介な事になる。
 シガレットは苦虫を潰したような表情を浮かべる。
「ちっ、クソ坊主め。何が『救済』だ」



「想像よりも被害は大きいみたい。あっちにも人が倒れている」
 ジュード・エアハート(ka0410)は、ワイバーン『アナナス』と共に上空を飛行していた。
 如意輪観音の攻撃に巻き込まれたハンターや統一地球連合宙軍、避難が遅れた民間人の捜索をする為だ。
 ジュードも如意輪観音の攻撃に参加はしたものの、光の盾の存在を知って警戒。一時的に距離を置いたのだ。そのお陰で衝撃破からは免れたのだが、街の被害が広範囲に渡っている事に気付く事になった。
「分かった。すぐにそちらへ向かうわ」
 高瀬 未悠(ka3199)は、イェジド『ルキ』と共に怪我人の対応に追われていた。
 気付いたハンターにはヒールを使い、重傷の者は軍に引き渡して戦場を離脱させる。
 如意輪観音は暴れながら西へ向かって行くのだが、西へ向かう程に被害は増加していく。
「早く、アイツを止めないとロンドンの街が……」
 未悠は西の空を見上げた。
 西では、未だ多くの人が避難を続けている。
 それだけではない。歴史的な建造物が多く建ち並んでいる。
 人類が語り継いできた貴重な街並みが、如意輪観音によって破壊されてしまうのだろうか。
「まだ諦めちゃダメ。チャンスは必ずあるから!」
 呆然とする未悠の背後からジュードが声をかける。
 ――そうだ。
 まだ自分は生き残っている。ルキも傍らに居てくれる。
 立つ事ができれば、きっとチャンスはある。
「そう……そうよね」
 未悠は自らの足で立った。
 傷付く者を連合宙軍へ託しながら、未悠はルキの背に乗った。
「リク、越えちゃいけない一線を意識して。約束よ」


「お、おのれ。仏像CAMめ……」
 衝撃破に巻き込まれ、派手に瓦礫と衝突したヤクト・バウ・PB。
 砲撃に特化した機体であるが故、回避力は作戦参加機体でも下位に位置。さらい一斉砲撃の為に近づいた事から瓦礫に巻き込まれたようだ。
「大丈夫ですか?」
 ユグディラ『ショコラ』と共に羊谷 めい(ka0669)は仲間の回復に追われていた。
 衝撃破に巻き込まれた仲間達は、相応に多い。その被害を少しでも食い止める事がめい自身の役目だと考えていた。
「すまぬ」
「すぐに助けを呼びます」
 ショコラのげんきににゃ?れ! でミグを癒す。
 フルリカバリーで都度仲間を回復していたが、手分けをしても仲間の数は多い。
 そこへ範囲攻撃で一斉に行われたのだ。追いつかないのも無理はない。
「この世界は、生きる事は、地獄なんかじゃありません。少なくとも、私はそう信じてます」
 癒しながら、めいは呟いた。
 この世界、いやクリムゾンウェストにだって辛い事はある。理不尽な事だってある。でも、様々な人と出会い、縁を結んだ。それはめいにとって嬉しい事だ。
 強化人間は戦う為に強化された存在だ。彼らを使って世界を変えたとしても、強化人間は苦しみ続ける事になる。めいは、だからこそ明法が許せなかった。
「傷付かないなんて事は理想です。でも、それなら何度でも立ち上がれるように、私は癒します」
「それで良い。だから、安心して背後を託せる」
 オウカ・レンヴォルト(ka0301)は、オファニム『夜天弐式「王牙」』を如意輪観音に向かって走らせた。
 範囲攻撃を使って周囲を破壊。その光景をみて明法は、力に溺れているはず。
 つまり、この機会こそ攻撃のチャンスでもある。
「仏の姿で暴れ回る外道の相手は、俺に任せておけ」
 独鈷杵が近接武器。
 錫杖が衝撃破。
 そこから法輪は強化人間の洗脳や思考誘導装置であるとオウカは考えていた。
 残念ながらその予想は外れていたのだが、法輪を攻撃し続けた事は間違いではなかった。
「転法輪、か。巫山戯た絡繰りだ」
 単なる法具であれば蓮の花へ攻撃目標を切り替えるつもりであった。
 だが、法輪が盾であるならば破壊しておいて損はない。
 炎も法輪を狙い続けた為、もう少しで破壊できる事は分かっている。
 オウカは瓦礫を支えにするため、王牙を中腰にさせて作電磁加速砲「ドンナー」を構える。
「お前に守れる物は、何もない……そこだ、な」
 ドンナーの発射。
 撃ち出された弾丸は電撃を帯びて法輪へ突き刺さる。
 ――破壊。
 如意輪観音の手から崩れ落ちる法輪。
「なっ!?」
 突然の出来事に明法は、驚嘆する。
 そして、ここからハンター達の反撃が開始する。

 この期に及んでも、強化人間を助けたいと思っている。
 危険な戦場で逼迫した状況。そんな余裕がある訳は無い。
 それでも。
 ラスティ(ka1400)は、目の前の強化人間に手を差し伸べる。
 クリムゾンウェストへ転移していなければ、きっとラスティ自身も強化人間になっていたはずだから。

「ラスティ、そっちへ追い込んだ。連中は瓦礫を強行突破して西へ向かうつもりだ」
 リコ・ブジャルド(ka6450)はフライトシールド「プリドゥエン」でR7エクスシア『トラバントII』を上空へ飛行させた。
 強化人間のコンフェッサーを上空から押さえる為だ。
 単に破壊する為なら、このまま強襲すれば済む。
 だが、リコは強化人間の無力化と安全確保も視野に入れている。
「分かった。そのまま行けば、十字路へ差し掛かる。そこでランデブーだ」
「了解!」
 ラスティはリコへ通信を入れた後、フライトフレーム「アディード」でR7エクスシア『スカラー』を先回りさせる。
 強化人間目的は如意輪観音の護衛だ。今も如意輪観音と交戦する仲間達へ横槍を入れるつもりなのだろうが、そんな事はさせない。
 何より、これ以上この町で破壊行動を取らせる訳にはいかない。
 ――強化人間自身の為に。

「ラスティ、今だっ!」
「よし、行くぜアン。愛の十字砲火ってなっ!」
 十字路に差し掛かったと同時にラスティとリコはコンフェサーに挟撃を仕掛けた。
 スカラーとトラバントIIが手にしたガトリングガン「エヴェクサブトスT7」。
 微妙に射線をずらされて前後から挟まれるコンフェッサー。
 誘い込まれた事に気付いた時はもう遅い。
 ラスティとリコはコンフェッサーの手足を蜂の巣へと変えていく。
 バランサーを破壊できれば、強化人間達は機体を立たせる事もできないだろう。
「ふぅ。楽勝だな」
「経験不足って奴だ」
「ん? 何か気になる事があるのか?」
 ラスティはリコの顔が冴えない事に気付いた。
 確かにまだ周辺には歪虚CAMも徘徊している。気を許すには早すぎる。
 だが、リコの表情はそれだけではないと物語っていた。
「あのハゲ、何か隠してねぇか?」
「は?」
「おかしいだろ。ロンドンをぶっ壊す? それで世界を変える? あまりにも安直過ぎるだろ。それをやりゃあ、強化人間の立場はますます悪くなる。でも、それを理解できねぇ馬鹿に、あのハゲは見えねぇんだよなぁ」
 リコの心に渦巻くもやもや。
 心が晴れない理由は、明法の思考が読み切れない事だ。
 それがリコを不安にさせる。
「単なる強化人間のテロではない、という事か」
「ああ。あの坊主を吐かせれば全部分かるだろうけどな」
 ラスティはリコの言葉で事件の状況を改めて感じ取った。
 だとするなら、何が何でも強化人間を救い出さなければならない。
 これ以上、強化人間達を歪虚の駒とする訳にはいかないのだから。


「へっ。おっさん、気張ってるじゃねぇか! 俺達も負けてられねぇな!」
 玄武坂 光(ka4537)は、魔導トラックを西へ走らせていた。
 法輪の破壊は、ハンター側の士気を明らかに向上させた。
 法輪を破壊したのならば、あの盾は使えない。ならば、再び蓮の花へ攻撃を仕掛ければ、回復は封じられる。確実に如意輪観音を追い込んでいる。それがハンターに実感として伝わり始めているのだ。
「ひりょ、もう一発ぶちかませねぇのかよ」
「今キヅカが残ったハンターを集めて攻撃態勢を整えている。もう少し時間が必要だ」
 光の通信相手――鳳凰院ひりょ(ka3744)は、トランシーバー越しに状況を伝えた。
 如意輪観音の攻撃で、負傷した者を救出していた光だった。その惨状から作戦そのものの崩壊を危惧していたのだが、ひりょの通信で諦めるのは早いと分かった。
「だったら、やるべき事をやらねぇとな」
 光はハンドルを切った。
 瓦礫だらけの道路で魔導トラックを走らせるのは容易ではない。
 それでも負傷者の搬送を担う光はやり遂げなければならない。アスガルドで出会った強化人間達の為にも。
「子供達の未来を繋ぐ為……『てめぇ』を消す……」
 星空の幻(ka6980)は、魔導トラックの荷台からアサルトライフル「レイヨンQ10」で妨害射撃を続けていた。
 何度か錫杖の攻撃を止めていたものの、如意輪観音の錫杖を一人で抑え続ける事は困難だった。錫杖を止められていれば――それを星空の幻は悔やんでいた。
「星空の幻、気にするなよ」
「!」
 荷台にいた星空の幻の耳に入る光の声。
 反射的に星空の幻は運転席へと視線を向ける。
「自分のできる範囲なんて、たかがしれてる。おっさんだって今も長距離から仏像に向けてぶっぱなしてる。俺だって、魔導トラックで物資や人を運んでる。
 それしかできないからじゃねぇ。誰かが、それをやらねぇといけねぇからだ。俺達は自分のできる事を懸命にやりゃいいんだ」
 振り返る事無く、光はハンドルを握り締める。
 星空の幻も仲間の為に必死で頑張っている。それはこの場にいるハンター全員も同じだ。自分ができる事を仲間の為に尽力する。悔やんだりするのは後だ。今は、前を向くしかない。
「…………うん」
 揺れる荷台の中で、星空の幻は静かに頷いた。


「弱者救済? 彼らが、あの子達が、そんな事を望んだか?」
「……やはり来たか。獄卒の鬼。世界を守る為、立ちはだかるか」
 アルトは、再び如意輪観音の前に立った。
 ランカスターで一度刃を交えている。だからこそ、お互いの力量の片鱗を感じ取っているのだ。
「手にした道具がなければ何もできぬ卑怯者が。
 あの子達は今の世界で精一杯生きていた。お前の下らん妄想に付き合わせるな。お前の正しさは、あの子達の正しさではない」
「だが、あのままでは大人に食われて終わる人生よ。その定めを守らんとするのが、賽の河原の獄卒だと、まだ理解できぬか」
 既にハンター達の反撃で蓮の花は破壊された。
 もう如意輪観音は回復できない。
 それでも、明法に撤退の気配はない。
 ハンター達をここで倒さなければ、明法の言う地獄が終わらないと悟っているのだろう。
「喝っ!」
 再び数珠を掲げる明法。
 アルトの動きを止めるつもりか。
 ――だが。
「……シャングリラを傷つける者は許さん。紫電を纏え、バレル!」
 ジーナはバレルのプラズマキャノン「ヴァレリフラッペ」で狙いを定めていた。
 プラズマシューターで強化していた砲撃。
 マテリアルにより強化された弾丸が、見事に数珠を撃ち抜いた。
 砕け散る数珠。それでもジーナは砲撃を止める気配はない。
「バレル、次を狙い撃つ! このまま一気に押すぞ」
 ジーナの声に呼応して、各方向から仏具を狙い撃つハンター達。
 確実に如意輪観音を追い詰め始めている。
「アルトちゃん、行って!」
 リューリは、アルトへ攻撃を開始するように促した。
 同時に足首に向けて聖拳「プロミネント・グリム」によるワイルドラッシュを叩き込む。
 この攻撃が、アルトを助ける一撃になると信じて。
「私の祈歌で、貴方の終焉の経唱を祓うわ」
 機会を感じ取ったアリアは、コーディで一気に詰め寄る。
 氷輪詩の凛と鋭くも透き通る声が周囲に響き渡る。
 ステップに込められた、感情。
 アリアも分かっているのだ。
 あの坊主の笑顔に一撃を叩き込むのは――今しかない、と。
「だったら、俺も手伝ってやるよ。この坊主にゃ、何を言っても理解できねぇ見てぇだからな」
 リューリが攻撃がした箇所を追撃する形で、アーサーがバルムンクと魔導剣「カオスウィース」を振るう。
 二刀流にアスラトゥーリを加えた三連撃。
 今までアーサーが何度も加えてきた連撃だが、同じ箇所を何度も叩かれれば如何に防御力が高い如意輪観音であっても――。
「むっ!」
 左足首に大きな亀裂。
 そして、巨体を支えきれなくなった足が膝から崩れ落ちる。
 信じて攻撃を続けていた結果だろう。
「無様な姿だな」
 片膝を付いた事でアルトは各段に攻撃しやすくなった、。
 散華で一気に近づき、立体攻撃で如意輪観音の体を駆け上る。
 飛花・焔がアルトの体を更に加速させる。
「小癪な!」
 如意輪観音による独鈷杵の一撃。
 しかし、独鈷杵による爆発は発生しない。
 既に朝騎が仏具へ黒曜封印符を貼り付けていたのだ。
「ぬぅ! 何かを仕掛けられたか!」
「アスガルドの子供達は弱者じゃないでちゅ。朝騎達の大切な仲間でちゅ。卑怯な方法で洗脳して戦わせて……朝騎、似非坊主さんを絶対に許しまちぇん!」
 独鈷杵の脇をすり抜けて飛ぶ龍騎。
 その傍らをアルトは駆け抜けていく。
 そして腕を駆け上って大きくジャンプ。
 アルトは降下しながら剛刀「大輪一文字」を構えた。
「これで終わらせてやる」
「まだだ! まだ終わっておらん」
 如意輪観音は如意宝珠を掲げた。
 宝珠から放たれる光は、空中に向けて多数に飛散する。
 宝珠から放たれた光がアルトに命中。一瞬でアルトの体を炎に包む。
 如意宝珠の光は対空ビームであると同時に延焼能力もあるようだ。
 だが、アルトは燃える体に気を止める事無く落下し続ける。
「怒りで熱さを? 否、それよりもあの獄卒の狙いは!」
 明法はアルトの狙いが腕ではない事に気付いた。
 それは如意輪観音の背中に装備された装置であり、大きな推進力を持って如意輪観音を移動させるブースターであった。
「砕け散れっ!」
 深く突き刺さる大輪一文字。
 アルトは最初からブースターを破壊して如意輪観音を逃がさないつもりだったのだ。
 そして、アルトの一撃に呼応してブースターへ追撃する者達がいた。
「明法。ヒトだったお前は、力無き人達を幸せにしたかったんでしょう? 救いたいなら、守りなさいよ! どこで間違えたのよ!」
 未悠はルキで駆け寄り、ブースターの噴出口にマテリアル式手投げ弾「Iron mango」を投げ込んだ。
 少し距離はあったが、足を破壊された事で先程の一斉攻撃時よりも容易に投げ込む事ができる。
 ――ブースターから大きな爆発。
 そこへアナナスに乗ったジュードが上空から急降下で飛来する。
「ここで狙いは外さないよ! これは、アスガルドで眠る子供達の分!」
 ジュードは蒼流星で威力を高めた大火弓「オゴダイ」の矢を放った。
 蒼い流星にも似た矢がブースターに突き刺さる。
 竜の咆哮が、ブースターを捉えた瞬間だった。
 ハンターの猛攻でブースターは炎上。
 この機を逃すハンター達ではなかった。
「リク、今よ。この機を逃しちゃダメ! みんなの希望を繋いで!」
 未悠の言葉を受けたキヅカ。
 再び、生き残ったハンターに号令を掛ける。
「みんな、もう一度だ! もう一度、奴に一斉射撃だ! 何処でも良い。奴にありったけの弾丸を叩き込め!」
 キヅカの号令。
 この言葉を待っていたかのように、ハンター達は一気に如意輪観音へ同時攻撃を開始する。
「俺は鳳凰院ひりょ、トモネの笑顔を守る者だ!」
 R7エクスシアの手にしたビームライフル「ベウストロース」で如意輪観音に何発も攻撃を浴びせ続ける。
 操縦席を狙い撃つつもりであったが、今となっては操縦席を狙うまでもない。
 片膝を付いて逃げる術を失った敵に一斉攻撃を仕掛ける。
 今は、何も考えずに攻撃を叩き込み続ければいい。
「貴様にはもう……誰の笑顔も奪わせない。トモネも、アスガルドの子供達も!」
 ひりょはマテリアルライフルへ切り替え、如意輪観音へと放つ。
 それは、ひりょが抱えてきた思いがエネルギーとなって明法へとぶつけられたかのようだ。
 紫色の光がぶつかると同時に、如意輪観音の体に大きな爆発が起こる。
「来たか……網膜投影開始……オリアス、テメェの力を寄越しやがれええっ!」
 アニスもまたマテリアルライフルを如意輪観音へと向ける。
 赤と緑の光に包まれた機体から、ターゲットを捕捉したアラートが鳴り響く。
「救済だか何だか知らねぇが、偉そうに語るな。生臭坊主。ガキを使っている時点で罪深さなら、俺等もテメェも変わんねぇよ」
 笑わせんじゃねぇ、そう吐き捨てたアニスはマテリアルライフルを容赦なく撃ち込んだ。
 大きな爆発と共に如意輪観音の体は大きく崩れ始める。


「救済は失敗だったな」
 崩れゆく如意輪観音を前に、アルトは吐き捨てた。
 徹底的に攻撃された如意輪観音は、もう動く事もままならない。ロンドンへ到達する事は不可能だ。
「この腐りきった地獄を変える事は、叶わなかったか」
「自分を救えない奴が、他人は救えない。あんたは、ただ自分の苦しみを子供達に分け与えただけだ。それで自分の苦悩が和らぐ」
 作戦を指揮していたキヅカは、明法に辛辣な言葉をかける。
 明法に救済は無い。
 あったのは――絶望の伝播。
 子供達は、明法に苦しめられたに過ぎない。
「貴様等の活躍でこの地獄は守られた。未来永劫、弱者は弱者のままだ」
「まだそんな事を!」
「貴様等が守った世界に殉ずるが良い。歪み、ねじ曲がっても尚……この地獄と共にするが良い。ふははははっ!」
 明法の高笑い。
 負け惜しみ? いや、何かを仕掛けた可能性がある。
 アルトとキヅカは、直感する。
「総員退避! 如意輪観音から離れろ!」
 キヅカの通信で如意輪観音から距離を置いたハンター達。

 その数分後、如意輪観音は一際大きな爆発に包まれた。
 暴走した強化人間と共にイギリス各地で大きな被害を出した慈恵院明法は、ロンドンの地で命を絶った。
 自爆によってロンドンに大きな被害を出しながら――。

執筆:近藤豊
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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