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【幻痛】幕開?ベアーレヤクト決戦?「ビックマー撃破」リプレイ

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▼【幻痛】グランドシナリオ「幕開?ベアーレヤクト決戦?」(9/20?10/10)▼

▲OPと参加者一覧▲
 
 

作戦1:「ビックマー撃破」リプレイ

ボルディア・コンフラムス
ボルディア・コンフラムス(ka0796
ビックマー・ザ・ヘカトンケイル
ビックマー・ザ・ヘカトンケイル
アニス・エリダヌス
アニス・エリダヌス(ka2491
ヴァイス
ヴァイス(ka0364
グレン(イェジド)
グレン(イェジド)(ka0364unit001
仙堂 紫苑
仙堂 紫苑(ka5953
キャリコ・ビューイ
キャリコ・ビューイ(ka5044
アルマ・A・エインズワース
アルマ・A・エインズワース(ka4901
メンカル
メンカル(ka5338
雨を告げる鳥
雨を告げる鳥(ka6258
鞍馬 真
鞍馬 真(ka5819
レグルス(イェジド)
レグルス(イェジド)(ka5819unit001
神代 誠一
神代 誠一(ka2086
Uisca Amhran
Uisca Amhran(ka0754
ヴェルナー・ブロスフェルト
ヴェルナー・ブロスフェルト (kz0032)
夜桜 奏音
夜桜 奏音(ka5754
チューダ
チューダ (kz0173)
フィーナ・マギ・フィルム
フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
Schwarze(ワイバーン)
Schwarze(ワイバーン)(ka6617unit002
オウカ・レンヴォルト
オウカ・レンヴォルト(ka0301
夜天弐式「王牙」(オファニム)
夜天弐式「王牙」(オファニム)(ka0301unit005
レイオス・アクアウォーカー
レイオス・アクアウォーカー(ka1990
ジュード・エアハート
ジュード・エアハート(ka0410
エアルドフリス
エアルドフリス(ka1856
スキヤン(グリフォン)
スキヤン(グリフォン)(ka1856unit002
札抜 シロ
札抜 シロ(ka6328
シンジ(ユキウサギ)
シンジ(ユキウサギ)(ka6328unit001
夢路 まよい
夢路 まよい(ka1328
トラオム(ユグディラ)
トラオム(ユグディラ)(ka1328unit001
ブラッドリー
ブラッドリー (kz0252)
桜憐りるか
桜憐りるか(ka3748
テルル
テルル (kz0218)
南護 炎
南護 炎(ka6651
ミリア・ラスティソード
ミリア・ラスティソード(ka1287
ごりらたん(コンフェッサー)
ごりらたん(コンフェッサー)(ka1287unit004
アーサー・ホーガン
アーサー・ホーガン(ka0471
ミオレスカ
ミオレスカ(ka3496
ノドゥス(ワイバーン)
ノドゥス(ワイバーン)(ka3496unit003
ディーナ・フェルミ
ディーナ・フェルミ(ka5843
ユーリ・ヴァレンティヌス
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
アリア・セリウス
アリア・セリウス(ka6424
七夜・真夕
七夜・真夕(ka3977
東條 奏多
東條 奏多(ka6425
羊谷 めい
羊谷 めい(ka0669
ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ
ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804
紅薔薇
紅薔薇(ka4766
レイア・アローネ
レイア・アローネ(ka4082
フィロ
フィロ(ka6966
青木 燕太郎
青木 燕太郎 (kz0166)
 ハンター達が戦いに身を投じるのは、初めてではない。
 むしろ、何度も戦い、その経験は体に染みついている。
 だからこそ――分かる。

 今目の前に迫る歪虚が、最後の賭けに出ている事も。
「なんだよ、今日はちょっとカッコイイじゃねぇか……」
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)がワイバーン『シャルラッハ』の背で、そっと呟いた。
 ボルディアの前にいるのは怠惰王ビックマー・ザ・ヘカトンケイル。
 以前は100メートルを超える体躯であったが、巨大化した幻獣王チューダ(kz0173)との戦いで力を使い切っていた。
 この為、今のビックマーの体長は25メートル。
 作戦序盤から見れば四分の一。
 ビックマー自身も強大な力が失われつつある実感があるのだろう。
 だが――。
「悪いが、今日はちょっと遊んでやる余裕はねぇぞ。やらなきゃ、ならねぇんだ。やらなきゃ……」
 ビックマーは自分に言い聞かせるよう言葉を繰り返した。
 それはボルディアの目から見ても、ビックマーには焦りと危機感が感じられる。
 部族会議とハンターに追い詰められた?
 それもあるだろう。しかし、その焦りの裏には後には退けない王としてのプライドが感じられる。
「いい目ェしてンじゃねぇか、怠惰王……。いいぜ? テメェに俺の炎が消せるか、勝負といこうじゃねぇかあ!」
 小さくなってもCAMから見れば未だに巨大なビックマー。
 それに対してボルディアはシャルラッハを旋回させる。
 風に乗るシャルラッハ。ボルディアの頬を冷たい辺境の風が打ち付ける。
「ボルディアさん、お待ち下さい!」
 ワイバーン『トゥバン』で後方から追いかけてきたアニス・エリダヌス(ka2491)。
 ボルディアにアンチボディでダメージ軽減を狙う。
 小さくなったと言えども怠惰王。直撃を受ければシャルラッハから落下する可能性もある。
 それ以上に、ハンター達の作戦では僅かな攻撃力であっても維持し続けなければならない。
「地上でも始めるぞ。クマのぬいぐるみも、そろそろ見飽きた所だ」
 ボルディアの動きに合わせ、地上に居るヴァイス(ka0364)も攻撃を開始する。
 イェジド『グレン』と共に武装巨人の間を縫う形でビックマーへと接近していく。地上での攻撃は、巨体のビックマーに対して脚部への攻撃がメインとなる。大ダメージを与える事は難しいかもしれないが、作戦の序盤である事を考えれば順当な攻撃方法であった。
「空と地上で同時攻撃か。考えやがったな。
 だが、こっちも退けねぇんだよ!」
 ビックマーは腕を強引に振り回す。
 ビックマーの腕から生まれる強風。
 ボルディアとアニスへ襲いかかる。
「きゃ!」
 激しく揺れるトゥバン。落下までには至らなかったが、一旦姿勢を立て直す必要が発生してしまう。
 一方、ボルディアの方はバレルロール。風の乗ってビックマーへ肉薄する。
「なんだよ、今日はちょっとカッコイイじゃねぇか……。なら、俺も全力でテメェの全力を受け止めてやるよ! 来やがれェ!」
 ビックマーの腕をすり抜け、ボルディアは至近距離から烽火連天。
 強烈な爆発がビックマーの体を焼いた。
 この動きに合わせるようにヴァイスも足に強烈な一撃を叩き込む。
「そらよ!」
 グレンのスティールステップで武装巨人を回避したヴァイス。
 すれ違い様に魔鎌「ヘクセクリンゲ」の一撃を叩き込む。
 ――硬い。
 外見からは想像できない硬さだ。それも巨体を支える足だからこそだ。
 だが、ヴァイスは何度も斬りつける。
 これから行う総攻撃を前に、可能な限りダメージを与えなければならない。
「やってくれるじゃねぇか」
 ボルディアとヴァイスの攻撃。
 だが、端から見る限りビックマーに大きなダメージを受けたようには見えない。
「え。……そんな。全く効いてないのでしょうか?」
 アニスは思わず気圧される。
 ボルディアとヴァイスが繰り出した一撃だ。
 せめて傷の一つでも付いて欲しい所。しかし、現実は傷らしい傷は残されていない。
 その状況にボルディアは体を小さく震わせる。
「そうだよ。それでなくちゃな。全力をぶつけるんだ。簡単にぶっ倒れるんじゃねぇぞ!」
 背筋に感じる震え。
 それは武者震いだったのか。
 ボルディアにとってはどうでも良い。
 強敵と相まみえる事――その至福の時間を味わえられるなら。


 最終防衛ライン付近で行動を開始したハンター。
 周辺の武装巨人とビックマーへ各機攻撃を開始する。
 しかし、ハンター達の中には『不測の事態』を意識する者達もいた。
「各機、予定通り攻撃を展開だ。あいつが来るまではな」
 仙堂 紫苑(ka5953)はトランシーバーで仲間へ呼び掛ける。
 リーリー『マイル』からの振動で体を揺らしつつ、ビックマーに向けて大型魔導銃「オイリアンテMk3」を連射。上に向かって打ち上げる形で小型特殊錬金弾をビックマーを狙い撃つ。
 しかし、紫苑の意識の一部はビックマー以外のモノに払われている。
「目標、未だ確認できず。ビックマーへの攻撃を継続する」
 キャリコ・ビューイ(ka5044)は、そう報告しながら刻令ゴーレム「Volcanius」の砲身をビックマーに向けていた。
 今の所、最終防衛ラインに怪しい動きはない。
 もし、あいつが現れたならば必ず戦線は混乱する。その混乱が生み出す隙を道とするはずだ。
「仰角修正+2度、右に?3度……修正射撃、撃てっ!」
 Volcaniusの砲身から響く轟音。
 ビックマーの体表付近で爆発する。
 これだけでビックマーが止まるとは思っていない。だからこそ、次弾の準備を開始する。
 このままビックマーを要塞『ノアーラ・クンタウ』へ接近させる訳にはいかない。
 要塞ではあの帝国の重鎮が見ているのだから。
「メンカル、アルマは?」
「先行しているようだ……アル!」
 紫苑はアルマ・A・エインズワース(ka4901)の同行を気にしていた。
 アルマにはあいつが現れるまでビックマーと『遊ぶよう』指示していたのだが、夢中になっている恐れもある。
 そこでメンカル(ka5338)にアルマの同行を確認するよう打診したのだ。
「アル、聞こえるか! 答えろ」
「わふー! クマさん、とっても強いですー」
 リーリー『ミーティア』に乗って、アルマはビックマーの足へファイアスローワーを放っていた。
 アルマの魔法攻撃で何度も攻撃を仕掛けているが、ダメージらしきものは感じられない。見た目だけなのかは分からないが、今はアルマもビックマーを攻撃し続ける他無い。
「アル、あまりビックマーに全力を出しすぎるな。本命を忘れるな」
「……はっ! そうだったです」
 メンカルの言葉にアルマは我に返る。
 今日の本命はビックマーではない。戦場に乱入するであろう、あいつだ。
 あいつにはしっかりとお仕置きしてやらなければ。
「あいつが現れ次第、迎撃態勢に移る。頼んだぞ」
 紫苑は、再びマイルでビックマーへと接近する。
 あいつを止めるのが、今回の役目。
 うまく役目を果たせれば良いのだが――。


「無窮の叡智。原初にして終焉の焔。四つの鍵はここに。審判は下った。星辰の門は開かれ、汝ら咎人を根源へと導かん」
 雨を告げる鳥(ka6258)の星辰の門によって召喚された赤き閃光。
 七芒星付近に存在した武装巨人達に向けて炎を纏った剣が降り注ぐ。
 多くのハンターが怠惰王ビックマーの侵攻を食い止めようと動き出す中、一部のハンター達はビックマー周辺の武装巨人駆逐を開始していた。
「私達は露払いだね。派手に行こう!」
 雨を告げる鳥の星辰の門を合図に鞍馬 真(ka5819)は、イェジド『レグルス』と共に武装巨人の一団へ突撃を開始する。
 星辰の門の範囲攻撃から逃れた武装巨人を鞍馬が正面から迎え撃つ。
「レグルス!」
 鞍馬の声でレグルスは強烈な咆哮。
 狼牙「イフティヤージュ」の威圧が重なり、武装巨人は一瞬気圧される。
 そこへ鞍馬が魔導剣「カオスウィース」と響劇剣「オペレッタ」を握り締め、連撃を叩き込む。
 その傍らからは、神代 誠一(ka2086)が飛び出して武装巨人へと襲いかかる。
「残りの奴はこっちで引き受けた。グラっ!」
 イェジド『グラ』と共に走り出た神代は、アクセルオーバーで加速。
 武装巨人との間合いを詰めた後、法術棒手裏剣「射光」を連続で放った。
 赤身を帯びた斜光が武装巨人の顔面へと突き刺さり、アサルトライフルで迎撃しようとしていた巨人の思惑を外した。
 鞍馬と神代は、お互いのイェジドによるウォークライで隙を作りながら確実に武装巨人を排除していく作戦であった。
「私は知らせる。次の一団が後方から近づいていると」
 雨を告げる鳥は、ポロウ『ルジェ』を上空に待機させた上で伝えるホーによる近くを共有。
 敵軍の侵攻位置を事前に把握に務めていた。既にファリル・スコール率いる別班の活躍や以前の戦いで武装巨人の多くが倒れてきた。
 しかし、それであっても今は可能な限り武装巨人を倒しておきたい。
 何故なら――。
「ビックマーと戦う連中を支援してやらないとね。了解」
「こっちもオーケイ。こっちからは俺とグラももう一踏ん張り、ってな!」
 雨を告げる鳥の言葉に応えるように、鞍馬と神代は気合いを入れて武装巨人と対峙する。
 今から可能な限り武装巨人を始末し続ければ、相当な数の武装巨人を撃破できるはず。
 それは今もビックマーを相手に攻撃を繰り返すハンター達の支援に必ず繋がる。
「私は宣言する。この戦い、必ず勝利すると」
 雨を告げる鳥が黄金の領域を使用すると同時に、神代のグラが次なる集団に向かって動き始めた。


「怠惰王への攻撃、武装巨人への駆逐は予定通りです」
 ポロウ『銀雫』に乗って最終防衛ラインの戦域把握に努めていたUisca Amhran(ka0754)。
 各地で順調に進む作戦を確認しながら、魔導スマートフォンに向かって声をかけていた。
 通信相手は――ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)。
「そうですか。この後の展開ではビックマーへ一斉射でしたね」
「はい。火力を集中させて一気にビックマーを追い込みます」
 Uiscaらハンター達の狙いは、ビックマーへ火力を集中させての一斉攻撃であった。
 傍目からはビックマー攻撃をしても大きな傷を付けられていない。もしかしたらやせ我慢しているだけかもしれないが、現時点ではビックマーの足を止めるに至っていない。
 そこでハンター達は火力を集中させてビックマーを転倒させる。
 転倒後は、極力頭部へ火力を集中させて撃破を目指すというものだ。
「ブラッドリーについてはどうですか?」
「現時点では現れていません……不安ですか?」
 Uiscaは何となくヴェルナーの言葉に隠された感情を感じ取った。
 その感情はハンター達の作戦へ向けられたものではないか。
 直感的に、Uiscaはそう感じていた。
「いえ、そうではありません。おそらく私もそれが最適解だと思います。ですが……」
「ですが?」
「戦いにおいてボタンの掛け違いは、予想外の展開を招きます。順調に見えたとしても想定外の事態が起こる事で形成が変わる事もあります。
 Uiscaさん、最後まで気を抜かないようにお願いします」
 どうやらヴェルナーも具体的に何が問題なのかを把握している様子はなかった。
 端的に言えば、何かがこの戦場で起こりそうな予感があるのだろう。
「ヴェルナーさん、あの神父は絶対にビックマーへ近付けさせません。その前にビックマーを倒して見せます」
 Uiscaの力強い言葉。
 不安を吹き飛ばすには、それ以上の前向きな言葉が必要になる。
 その様子に、ヴェルナーはいつもの調子を取り戻してくれたようだ。
「ふふ、期待していますよ。あなた方ハンターが負けるなら、この辺境に未来はありませんから」


「この間のチューダさんもあれだけ頑張ってくれましたし、私も頑張らないといけませんね」
 夜桜 奏音(ka5754)はワイバーン『ボレアス』と共にビックマーの周囲を飛び続けていた。
 頭が残念な幻獣王の頑張ってサンドバックになったからこそ、ビックマーをここまで小型する事ができた。おかげでハンター達が直接攻撃できるチャンスが訪れた。
 先の戦いでチューダを応援し続けた奏音である。この場にいないチューダの分まで奏音は気合いを入れて戦いに臨む。
「この間のチューダさんがやられていた借りは、返させてもらいます」
 ボレアスを低空で飛行させながら、地縛符を設置。
 さらに白龍の息吹でビックマーの意識を混濁させる。こうする事で地縛符へ誘導してビックマーの動きを一時的にでも封じる。
 しかし、白龍の息吹に効果があるかは奏音にとっても博打であった。
「……どうです?」
 ボレアスの翼は風を切りつつ、ビックマーの間近を通過する。
 しかし、ビックマーの歩みに変化は見られない。
 さすがは怠惰王。そう簡単に歩みは止めてくれないようだ。
「だったら!」
 奏音はビックマーの足をすり抜けるように敢えて低空を飛行する。
 白龍の息吹に効果が無くても、奏音には地縛符があるからだ。
 うまく意識を混濁させられなくても動きを縛る事で他のハンターが攻撃を開始する起点にもなる。
 ――だが。
「ヒュー! やるねぇ。策士だねぇ。
 だけど、今日はちょっーと遊んでやる暇はねぇんだ」
 ビックマーはそう言いながら屈んで腰を深く落とす。
 この体勢。一部のハンターからすれば見覚えのある姿勢であった。
「……ボレアスっ!」
 反射的に危険を察知した奏音は上空へボレアスを上昇させる。
 次の瞬間、ビックマーの巨体が大きく上空へと舞い上がる。
 立ち幅跳び。それは以前、北伐の際に見せたビックマーの跳躍であった。体躯が小さくなったとはいえ、そのジャンプは未だに脅威であった。
「危なかった……」
 気付けば奏音の傍らにはフィーナ・マギ・フィルム(ka6617)とワイバーン『Schwarze』の姿があった。
 フィーナはSchwarzeのサイドワインダーを使って接近しながら、アブソリュートゼロで狙い撃っていた。水と地の力を借りてビックマーの足を止めようとしていたが、完全に歩みを止める事は叶わなかった。
「動きを見て足元を怪しんだみたいです。もっと仲間と連携しないと……」
「そう……自力のみで足を止めるのは、難しい。きっと、止められても……すぐに行動を再開してるの、かも」
 フィーナは武装巨人を攻撃しながらビックマーの様子を窺っていた。
 数名のハンターや部族の戦士達がビックマーの足を止めようと行動阻害を試みていたが、どれも行動を止めるには至らなかった。フィーナの目から見れば、効果があったものもあったが、瞬時に解除されているようにも見える。
 つまり、抵抗力がそれだけ高いのかもしれない。
「さすが怠惰王、という訳ですか」
「私は……武装巨人の掃討を、手伝う。あの神父がきたら、厄介だから」
「そうですか。私は一斉攻撃のタイミングを見計らって攻撃を試みたいと思います」
 ビックマーの足止めが難しいと分かった二人であったが、まだやるべき事をすべてやった訳ではない。
 そうハンター達にはまだ一斉攻撃という作戦が残されている。
 この作戦が功を奏せば、必ず怠惰王を追い込む事ができる。
 二人は、作戦を信じて新たなる動きを開始する。


 ハンター達は、待っていた。  武装巨人と対峙しながらでも、常に通信には耳を傾けていた。
 それはビックマーに対する一斉攻撃の合図があるからだ。

 そして、その合図はUiscaによってもたらされる。
「皆さん、一斉射撃です。狙いは右足、転倒した段階で頭部へ火力を集中させて下さい」
 予定通りの連絡。
 そしてそれは、ハンター達が待ち望んだ連絡でもある。
「ビックマー、男の戦いといこうじゃないか」
 オファニム『夜天弐式「王牙」』で斬艦刀「雲山」による近接攻撃を行っていたオウカ・レンヴォルト(ka0301)。
 一旦距離を置いた後、マテリアルライフルの照準をビックマーの右足へ合わせる。
「本来なら一対一の男の勝負といきたいが、最強の王のアンタに勝つには手段を選べなくてな」
 ポロウ『テュア』から地上へ降りたレイオス・アクアウォーカー(ka1990)は、闘旋剣「デイブレイカー」と試作振動刀「オートMURAMASA」を握り締める。
 レイオスには分かる。
 自慢の体が小さくなっても、後退せずに前へと進むビックマー。
 覚悟を決めた男の目をしている。そんな相手に拍手も喝采もいらない。
 お互いの意地を衝突させるだけでいい。男の覚悟に応えるのもまた、男の覚悟しかないのだから。
「皆さん、お願いします!」
 Uiscaの号令。
 それと同時にハンターからの一斉射撃が開始される。
 中遠距離から放たれる射撃が、ビックマーの右足に向かって集中する。
「俺は俺にできる事をするだけ、だ」
 オウカのマテリアルライフルが発射される。
 紫色の光線がビックマーの右足に命中。だが、それでもビックマーは止まる気配はない。
 それでもオウカは諦めない。
「まだある!」
 オウカの準備していた機導砲。マテリアルから変換されたエネルギーが一条の光となってビックマーの足へ突き刺さる。
 そして、一斉射撃に参加しているのはオウカだけではない。
「道を外れし者に天(そら)から罰を与えん。我が矢が貫くのは罪、疾く裁きを受けよ!」
 ワイバーン『アナナス』の背からジュード・エアハート(ka0410)が天裁矢。
 義憤をこめた矢を雨のように降らせてビックマー周辺に降らせる。後方から近接を仕掛けるボルディアの支援しながら、時折ビックマーの意識を自分に向けさせる等の囮役も行っていた。
 だが、一斉射撃になれば話は別。遠距離にいるジュードも重要な攻撃要因へと変わる。
「どんなに体が大きくても、リーチ外からの攻撃はどうだい?」
 星弓「フェイルノート・スラッシュ」から放たれた矢。
 サジタリウスにより強化された一撃が、ビックマーに向かって突き進んでいく。
「正念場だ。決めさせて頂くぞ。此処で決めにゃあ長きに渡る作戦が成就しない」
 ジュードよりも前に位置取っていたエアルドフリス(ka1856)は、グリフォン『スキヤン』の背で意識を集中させる。
 長きに渡る辺境の地を巡る戦い。
 クリムゾンウェスト全体からみれば一地方の騒乱に過ぎないのかもしれない。
 だが、この戦いの先には未来がある。
 辺境の地に誕生する国家。
 未だ名も無き国が生まれる。
 その未来の為、エアルドフリスはこの戦いに覚悟をもって挑んでいた。
「あのチューダ……様でさえ体を張ったんだ。ここでやらなけりゃ……」
 天地均衡と集束魔によって強化された黒縄縛。
 エアドルフリスは、意識を集中させながら言葉を紡いでいく。
 その間もジュードはエアルドフリスの後方から矢を放ち続けていた。
「エアさん、そろそろ終わらせてくれるかい? 接近して斬撃を叩き込みたいって連中が待ってるみたいだから」
「……我均衡を以て均衡を破らんと欲す。理に叛く代償の甘受を誓約せん――縛れ!」
 ビックマーの右足を中心に黒い縄状のオーラ。無数とも呼べる数が召喚され、周辺の物に絡みついていく。
 強化していた為だろう。一瞬だが、ビックマーの右足に絡みついて動きが止まる。
 その一瞬をレイオスは逃さなかった。
「一斉攻撃はこんなもんじゃねぇ。たっぷり味わってくれよ!」
 ソウルエッジで強化したデイブレイカーとオートMURAMASAの連撃。
 ――硬い。
 しかし、ビックマーの表情は一瞬だが苦悶を浮かべる。
 ハンター達の攻撃は間違いなく効いているのだ。
「やってくれるじゃねぇか。お前等もやっぱり覚悟してこの地に来たか」
「当たり前だ。どっちかが倒されるまでこの戦いは終わらねぇ」
「だろうな。この戦いに後退はねぇ……男だねぇ、お前ら」
 レイオスは再び距離を置く。
 ハンターの一斉射撃は終わらない。第二波に備えてレイオスも次なる準備を開始する為だ。


「まよい、まだかかりそうなの?」
 札抜 シロ(ka6328)はユキウサギ『シンジ』と共に夢路 まよい(ka1328)の護衛をしていた。
 一斉射撃に合わせてまよいも攻撃を仕掛ける手筈となっている。
 一斉射撃もすべて同時では他の射撃の邪魔になる恐れがある為、波状攻撃で何度も叩き込む手筈になっているが、その波状攻撃に間に合わなければ効果は薄らいでしまう。
「ちょっと巨人に狙われた時に焦ったけど……大丈夫!」
 まよいは、力強く答えた。
 第一波で攻撃を仕掛けようとした際、まよいの周辺に武装巨人の一団が襲来。
 シンジが紅水晶を使う事でまよいへの攻撃を回避。さらにシロが地縛符の罠を周囲に張り巡らせた事で、巨人達の足止めに成功。
 その隙をついて、シロの風雷陣で武装巨人を撃破していた。他のハンターから逃れてきた武装巨人だったからこそ、シロとシンジだけで容易に倒す事ができた。
「頼むよ。もう一度巨人達が現れたら、ちょっと厄介かも」
 ファリフ・スコールが先発の武装巨人達の駆逐に成功。武装巨人の数は大きく減っている。さらに一部のハンターが率先して武装巨人掃討に勤しんでくれたおかげで、かなり数は減っている。
 だが、それでもすべてを倒し切れた訳ではない。油断は命取りとなる。
「安心して。射線さえ、遮られなければ……」
 そう言い掛けたまよいであったが、一瞬顔に影がかかる。
 顔を上げれば、まよいの前に一体の武装巨人。どうやら、他の武装巨人が倒された道を辿る形で辿り着いたようだ。その為、地縛符の影響を受けずにここまで来られたのだろう。
「まよいが……シンジっ!」
 シロはシンジにまよいを守るように命じた。
 シンジには雪水晶を自身に使わせ、シロ自身も加護符で防御を上げている。
 少しぐらいのダメージならば大丈夫だ。
 だが、シンジがまよいを守る為には巨人との間に素早く入る必要がある。飛び込むには、少々間合いが遠すぎるか。
 手にしていたアサルトライフルの銃架を持ち上げてまよいに向かって振り下ろそうとする巨人。
 シンジは間に合わない。
 まよいは思わず目を瞑る――。
「……何をしているのです?」
 男の声。
 まよいが目を開ければ、そこには黒い服に身を包んだ男が立っていた。
 銃架は男の手から展開された光の盾に阻まれて届かない。
 この男――まよいは、知っている。
「ブラッドリー!」
 シロは、男の名を呼んだ。
 ブラッドリーはシロの呼び掛けに答える様子もなく、巨人に視線を向けている。
「終末を呼ぶラッパの天使。彼の者達の邪魔はさせません。それが神の意志ですから」
 盾を出しながら、残る手で巨人に触れるブラッドリー。
 次の瞬間、激しいスパーク。気付けば巨人の体は塵となり、光球へと変貌する。
 そして、それはまよいの射線を遮るものが消えた事を意味している。
「トラオムっ!」
 少し離れた場所にいたユグディラ『トラオム』を呼ぶまよい。
 森の宴の狂詩曲でトラオムの力をまよいに上乗せ。さらにフォースリングで増やしたマジックアローをダブルキャストで10本までに増加させる。
「怠惰王!」
 放たれるマジックアロー。
 右足へ集中的に叩き込まれるマジックアローに、ビックマーはバランスを崩した。
 だが、痛めた右足を踏ん張って強引に体を支える。
「ブラッドリー、見てたぞ! 裏切ったな!」
 ビッグマーは怒りの矛先をブラッドリーへ向けた。
 無理もない。明確にハンターを手助けしているのだから。
 しかし、ブラッドリーには怯える様子もない。
「裏切る? 私は神の御遣い。あなたの眷属でもなければ、部下でもありません」
「そんな言い訳が通じるとでも……」
「偽りの頂に立つ殉教者。あなたの役目は死す事で成就されるのです。すべては終末の到来の為に」
 戦場に突如現れた闖入者。
 ブラッドリーの存在が、戦場を更に混迷へと導いていく。


「ヴェルナーさん、ブラッドリー……ですの」
 桜憐りるか(ka3748)の一方が、ヴェルナーへともたらされる。
 りるかはペガサス『輝夜』と共に味方を後方支援。武装巨人の動きや味方の位置に気を配ると共にブラッドリーの襲来を警戒し続けていた。
 Uisca同様、戦場の把握に努めていたからこそ、ブラッドリーの襲来にいち早く察知する事ができた。
「りるかさん、ブラッドリーの存在をハンターの方々に知らせて下さい。ブラッドリーを探していた方々がいたはずです。
 それからUiscaさん……」
「分かっています。一斉射撃の継続ですね」
 Uiscaはブラッドリーの襲来を聞かされていたからこそ、自らの役目に意識を集中させる。
 あくまでも自分の役割は怠惰王ビックマーの撃破。
 一部ハンターがブラッドリー対応に回る為、一斉射撃の火力はどうしても低下せざるを得ない。
 その為、さらに一斉射撃のタイミングを合わせてビックマーを転倒させる必要がある。「お願いします。ブラッドリーの襲来は予想の範囲内です。
 りるかさんもUiscaも、まだ慌てる必要はありません」
「分かりました、です。ヴェルナーさんも……気を付けて」
 りるかは輝夜で戦場を走り出す。
 仲間を――ブラッドリーを止める仲間を呼び集める為に。


「来たぞっ! おめぇら、みんな気合い入れろよ!」
 後方では要塞ノアーラ・クンタウへ迫る武装巨人を古代魔導ア?マー『ピリカ』に乗った幻獣の部隊が迎撃していた。
 隊長テルル(kz0218)が率いる幻獣達。既に戦いを経験して反省点を生かした彼らは、ノアーラクンタウ前に布陣していたのだ。
「いくぞっ!」
 テルルのカマキリが正面から敵に激突する。
 既に多くの武装巨人が倒されていた為、ピリカ部隊には大きな負担はかかっていなかった。しかし、ピリカ部隊が現状ではノアーラ・クンタウ前の『最後の砦』と言っても過言ではなかった。
 その上でさらに万全な対応を打つ者もいた。
「行くぞテルル! ピリカ部隊! 巨人を殲滅するぞ! 俺達は制御不能だ!
 『STAR DUST』出撃!」
 南護 炎(ka6651)のガルガリン『STAR DUST』は、人機一体でマテリアルを纏わせながら武装巨人へと肉薄する。
 放たれるアサルトライフルの銃弾を躱す事なく、斬艦刀「雲山」を下段から斬り上げた。吹き飛ばされる巨人の体。胴体には雲山の刃が切り裂いた跡が残されていた。
 既にケリド川での攻防で南護はピリカ部隊と共同戦線を構築していた。
 今回の戦いも、ピリカ部隊と共にノアーラ・クンタウの壁として巨人達に立ちはだかっていた。
「逃げようったって……行かせないってぇの!」
 コンフェッサー『ごりらたん』が豪快に大身槍「蜻蛉切」を振り回す。
 遠心力を乗せて叩き付けられた蜻蛉切の一撃は、武装巨人を怯ませながら後退させる。
 ミリア・ラスティソード(ka1287)もまた、ピリカ部隊と共に武装巨人の前に立ちはだかった。
 ハンターも加わり、ピリカ部隊は武装巨人の前で勢いに乗る。
「よしっ! ハンター達が敵をビビらせたぞ!
 俺っち達の援護射撃を叩き込め!」
 テルルの号令でミリアが抑えた巨人達を別方向から攻撃。ミサイルポッドやマシンガンの雨が巨人達へと降りかかる。
「へへ、良い感じ!」
 ミリアは銃弾で瀕死の巨人へ容赦なく蜻蛉切の斬撃を見舞った。
 派手に吹き飛ばされる巨人の体は、地面へ転がって活動を停止させる。
 一方、南護の方はピリカへの攻撃を忘れてはいない。
「ピリカはやらせないっ!」
 アサルトライフルで反撃する巨人達の前でマテリアルカーテンを展開。
 銃弾からピリカを守り続けている。まさにピリカを守る存在として、ピリカ部隊の幻獣達にも知られ始めていた。
「ミリア、南護! そのまま次の巨人達をぶっ飛ばせ! 要塞には近付けさせるなよ!」
 テンションの上がったテルルが二人へ号令をかける。
 この調子であればビックマー周辺にいた武装巨人達がノアーラ・クンタウに手を出す事はなさそうだ。


 ビックマーへの一斉射撃は、未だ継続中であった。
「らしくもないマジなツラだな」
 それが、アーサー・ホーガン(ka0471)の率直なコメントであった。
 怠惰王ビックマーが、追い詰められている。
 その上で今までに見たことがない『男のツラ』だ。
 だったら――。
「お前の意地と矜持をぶつけてきやがれ。俺たちが打ち砕いてやるからよ!」
 イェジド『ゴルゴラン』と共にビックマーの右足に向かって距離を詰める。
 だが、ビックマーもバカではない。
 何度も右足を狙われていれば、敵の狙いは火力を右足に集中させてダメージを与える事は丸わかりだ。
「お前も分かってるじゃねぇか。だったら……歯を食いしばれよっ!」
 ビックマーは跳躍。
 上へジャンプした同時に、足を前に出して尻から着地する。
 その瞬間、巨大な振動と共に土埃が舞い上がる。
 ゴルゴランは思わずその場で足を止めてしまう。
「……くっ、そうでなくちゃな。いつかのお返しに直接良いのをぶち込んでやりたいのを我慢したんだ。それぐらい熱くさせてくれなくちゃな」
「振動は凄いけど……空からなら!」
 ワイバーン『ノドゥス』の背でミオレスカ(ka3496)はリトリビューションで矢の雨を降らせる。
 ビックマーの振動は地面にいた者のバランスを崩せるかもしれないが、上空にいたミオレスカにはまったく関係がない。ジュードから少し離れる形になったが、アーサーを支援する為にはビックマーへ攻撃を仕掛ける必要があった。
「今度は空か。お前らも必死って訳か」
 ビックマーは立ち上がると雨の中、ミオレスカに向かって歩き出す。
 ビックマーの抵抗力は高く、封印の力では身体の自由を完全に抑えるまでには至らなかった。
 傍目からみれば愛らしいクマのぬいぐるみが歩み寄ってくるだけだが、そのサイズは決して侮れない。
「ノドゥス!」
 ミオレスカは再び距離を取る。
 追いかけるビックマー。
 しかし、この行動はミオレスカ以外のハンターがビックマーの視界から消えた事を意味していた。
「R7が一発でおシャカにされる怠惰王と殴り合ったチューダさま……素敵なの。チューダさまに負けないよう頑張るの」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)はR7エクスシアをビックマーの右足へ接近させる。
 そして、Mソード「イディナローク」による一撃。強烈な一撃であったが、ビックマーの足を破壊はできなかった。
「次はお前か。悪いが、小さくなっても俺の拳はハンパじゃねぇぞ」
 足元のディーナに向けて拳を振り下ろすビックマー。
 ブラストハイロゥを展開していたディーナは、マテリアルカーテンで防御姿勢を取る。
 ――直撃する。
 機体の振動を覚悟していたディーナだが、ここで後方からアーサーが滑り込んでくる。
「何処見てるんだよ。お前の相手はこっちだ」
「……てめぇ!」
 アーサーの登場でビックマーの拳は狙いから逸れる。
 ディーナの傍らに落下した拳は、周囲の地面を抉って土埃を再び舞上げる。
 ゴルゴランはスティールステップで拳を回避。土埃の中から、アーサーが飛び出す。
 奏弓「鳴神」の弦が大きく引かれている。
「言っただろ。『直接良いのをぶち込んでやるのを我慢した』って。
 こっから一斉射撃の第二幕だ」
 アーサーが放った貫徹の矢は、ビックマーの右足を捉える。
 それを受けてハンター達が一斉射撃を再開する。
 次々と叩き込まれる攻撃。ついにビックマーの口から怨嗟と怒り交じりの声が漏れ出した。
「ぬぅおおおおお!」
「結束が生み出す力をさらに高める。と言えなくもねぇかな」
 アーサーは距離を取りながら、再び貫通の矢を番えた。


 ビックマーへの一斉攻撃が行われている裏で、一部のハンター達はブラッドリー対応へと動き出していた。
「向こうに譲れぬ矜持があるように、私達に譲れるものがある」
 ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は、ブラッドリーに対峙する。
 ビックマーはビックマーにとって矜持と覚悟がある。それは部族会議やハンターも一緒だ。双方の激突は、起こるべくして起こるものだ。その戦いに邪魔は許されない。
 しかし、ユーリの前にいるブラッドリーはこの戦いを『穢す』存在に他ならない。
「千年の黙示も此処まで。月の刃が偽予言者を裁く刻よ」
 アリア・セリウス(ka6424)はワイバーン『リタ』の背からブラッドリーを見据えた。
 この歪虚は明らかに『異物』だ。
 自らの願望を戦いへ持ち込み、狂わせる。
 戦いへ繋がる展開をブラッドリーは影から操作していた事は想像に難くない。
 だからこそ、ブラッドリーにこの戦いを介入させる訳にはいかない。
「運命を前に、人は抗えない。終末は必ず起こります。私の前に立っても何の意味もありません」
「その調子で他者を唆し、利用して食い物にする。あんたの拝める愚昧な神含めて、相変わらずやる事が碌でもないわね聖職者」
 ユーリは蒼姫刀「魂奏竜胆」を抜いてゆっくりと側面へと回り込む。
 刺突一閃――大きく踏み込みながら、切っ先をブラッドリーへと向ける。
 ブラッドリーも光の盾を展開。正面から受け止めず、盾をずらしてユーリの一撃を受け流す。
 この隙をついてアリアがブラッドリーを強襲する。
「偽の予言者に未来は語らせないわ」
 魔導剣「カオスウィース」と双龍剣「ナラク・アグニ」の二本を握り締め、二刀による連続攻撃。
 想思花・祓月――で、頭上からブラッドリーを狙う。
 ユーリの攻撃で展開していた盾は未だユーリの方へ向けられている。
 これなら――そう思われたユーリであったが。
「もう一枚の盾……」
 ブラッドリーとアリアの間に新たなる光の盾が現れる。
「その刃は私ではなく、あの殉教者に向けるものです。天使よ」
「仕留めきれない……けれど」
 アリアはリタの背に乗り、大きく上空を旋回する。
 二つ目の盾は一つ目よりも小さいが、アリアの攻撃を阻むには充分な大きさであった。
 その為だろう。耐久性が低く、アリアの斬撃で光球が消滅した。
 攻撃のチャンス。
 その機会を逃さず、二人以外にもブラッドリーの元へ向かった者は他にもいた。
「えいっ!」
 七夜・真夕(ka3977)はワイバーン『ルビス』で飛来するとブラッドリーの周囲にアースウォールで壁を立て始める。
 さらに東條 奏多(ka6425)がポロウ『てばさき』と共に駆け込んでくる。
「ブラッドリー来訪の一報、他のハンターにも入れてきた」
 東條はりるか同様、ブラッドリーが襲来した情報を展開していた。
 この為、ブラッドリー対応に動く者も間もなくこの場所へと訪れる。だが、同時に武装巨人掃討へのスピードは向上していた。
「周辺の武装巨人は始末した。これで光球は作れまい」
「そういう事ですか」
 東條やユーリ達は、ブラッドリーの登場を予期して武装巨人対応を進めていた。
 以前の戦いでブラッドリーは武装巨人を光球に変えて光の盾を作り出していた。言い換えれば、ブラッドリー自身で光球を生み出す事はできない。その事からハンター達は武装巨人一掃を対ブラッドリー戦の布石として行っていたのだ。
 この作戦は功を奏した。実際、ブラッドリーの周辺には武装巨人の姿はない。
「どうする? このままここで討たれるか?」
「情報では他のハンター達もこちらへ向かっているわ」
 絶火刀「シャイターン」の切っ先をブラッドリーに向ける東條。
 それに付け加えるようにユーリはブラッドリーへ言葉を投げかけた。
 この場で諦めてくれるならそれで十分。対ビックマーの一斉攻撃に加わってもいい。
 しかし、ブラッドリーには臆する様子もない。
「困りましたね」
 困った、と言ってはいるが、本当に困っているようには見えない。
 大きくため息をついた後、手にしていた本を開いた。
「もう一度言います。その刃は私ではなく、あの殉教者に向けるものです。
 天使達……惑わされてはいけません。運命に従うのです」


「皆さん、もう一度! もう一度お願いします!」
 Uiscaの号令が再び発せられる。
 感触はある。ビックマーの右足は、間もなく決壊寸前。
 もう一度一斉射撃を行えば、ビックマーは派手に転倒するはずだ。
「み、皆さん。傷を癒しますね」
 羊谷 めい(ka0669)は一斉射撃を前にイェジド『ネーヴェ』で傷付いたハンターをフルリカバリーで回復して回っていた。
 相手はビックマー。一瞬のふいを突かれて攻撃を受けてしまう者もいた。
 めいは、そうしたハンターを回って回復に努めていたのだ。
 実はビックマーの事を『可愛い』と今でも考えており、歪虚でなければ抱き付きたいという想いを持っていた。あの愛らしい顔で寄られるとどうしても手が止まってしまう。
 歪虚とハンターという立場の相違から助ける事はできないが……。
 そうした複雑な感情を抱きながら、めいは仲間達を回復させていく。
「ありがとう! これでまだ戦えるよ」
 ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804)のコンフェッサーが再起動。
 既に通信でブラッドリーが現れている事は承知している。推測では転移でビックマーの元へ現れるという話もある。ならば、早々にビックマーを撃破しなければならない。
「行くぞっ!」
 ピアレーチェはビックマーの右足へ接近するとアーマーペンチ「オリゾン」による一撃。
 既に多数のハンターが攻撃を仕掛けた為、細かく震えているのが見ていても分かる。
 だからこそ、ビックマーは右足の攻撃に怒りを覚えている。
「何度も何度もやってくれるじゃねぇかよ!」
 ビックマーはピアレーチェに向けて拳を振り下ろす。
 そこへボルディアがシャルラッハと共に滑り込んでくる。
「喚くなよ。そう何度も同じような攻撃は当たらねぇよ」
 ボルディアのラストテリトリー。
 光輝く障壁がビックマーの攻撃を阻む。
 そして、この瞬間こそが一斉攻撃のチャンスでもあった。
「射撃開始!」
 Uiscaの呼び声と共に周辺のハンター達が一斉に射撃を開始する。
「そろそろ終わりにしようぜ」
 アーサーが貫通の矢で右足の容赦なく狙い撃つ。
 さらにグレンに乗ったヴァイスが、ビックマーの足へ接近。地面へ飛び降りると徹刺を発動。真紅のマテリアルを伸ばし、魔鎌「ヘクセクリンゲ」の一撃を叩き込む。
「覚悟ってぇのは態度で示すもんだ。こうやってな」
 その間にも離れた位置にいたハンター達が攻撃を仕掛けていた。
 ビックマーにも痛覚はある。明らかに苦しさが表情に浮かんでいる。
 そこへ紅薔薇(ka4766)がビックマーの右足へと近づいていく。
 既に祈りの剣を連続攻撃で叩き込んでいる上、刻令ゴーレム「Gnome」『白』には左足への体当たりを含めて砲撃を繰り返させている。
 紅薔薇は、この戦いの終幕が近い事は理解していた。
 この一撃ですべてを終わらせる――自分の持つ力を一撃に込めるように超覚醒を発動する。
「怠惰の王よ。もう終いじゃ。青木にその力を奪われる前に、ここで葬ってやろう」
 紅薔薇は神剣解放。
 同時に星の救恤による連続斬撃を右足へと叩き込む。
 更に左足には白が体当たりを敢行。右足のダメージに加えて左足の衝突でバランスを崩すビックマー。
 その巨体は地面へと大きく転がった。
「今じゃ。頭部を叩くのじゃ」
 紅薔薇の声を受け、ハンター達は一気にビックマーへの頭部を叩き始める。
 今こそ、ビックマー撃破の最大チャンスである。
「や、やや緊張感に欠ける敵ではあるが……とんでもない……強敵なのは間違いないのだから……」
 ワイバーンに騎乗していたレイア・アローネ(ka4082)は、自分にそう言い聞かせていた。
 レイアを苦悩させるのは、上空からみたビックマーの姿。
 まさに可愛いぬいぐるみが地面に転がって手足をバタつかせているようにしか見えないのだ。
 だが、相手は怠惰の王。情けは無用である。
「……そうだ。あのネズミもどきの仇を討ってやらねばな……」
 レイアはぽつりと呟くとワイバーンから飛び降りた。
 ちなみにレイアの言ったネズミもどきはチューダの事だろうが、残念ながら死んではいない。
「誰よりも大きいアンタを越えるっ!」
 地上ではレイオスがリバースエッジの一撃を叩き込んでいた。
 デイブレイカーの刃がビックマーの頭へと突き刺さる。
 その動きに合わせるようにレイアはレイオスの傍らに立つと星神器「天羽羽斬」を抜いた。
「さぁ、力を貸してくれ、天羽羽斬……!
 私がお前を振るうに相応しい器か……試す刻は今だ……!!」
 『神殺』の理を秘めた剣は、怠惰の王へと向けられる。
 無数の斬撃がビックマーの頭部に叩き込まれ、一撃毎に鋭さを増していく。
 その攻撃は、確実にビックマーの命を削っていく――。
「ビックマー、本来の怠惰王であるオーロラから力を譲り受けたのじゃろう。その力はここで消え去るのじゃ」
 紅薔薇は地面で藻掻き苦しむビックマーにそう声をかけた。
 紅薔薇の推測では元々オーロラこそが怠惰王であり、ビックマーはオーロラから力を貰って王になったと考えていた。その力の源である何かを青木燕太郎が奪いに来るのが紅薔薇の見立てだ。
 だが、この推測にビックマーは笑い出す。
「ヒュー! 大した名推理だ。その調子で事件の真相にまで近づけばいい。
 だが、残念ながら外れだ」
「なんじゃと?」
「話は逆だ。俺様が……」
 そう言い掛けた瞬間、紅薔薇の後方から何かが飛来した。
 黒い影――それはビックマーの瞳に深々と突き刺さる。
「ぐおっ!」
「これは……槍か?」
 紅薔薇には何が起こったのか分からない。
 ただ、間違いない事はハンター達の作戦外で何かが起こったという事だけだ。


 話は、ほんの少し前に戻る。
 ブラッドリーを取り囲むハンター達は、着実にブラッドリーを追い詰めていた。
「ドリーさん。このあいだ我慢しましたけど、ちょっと」
 アルマはブラッドリーを前に怒りを見せていた。
「シオンは『僕の』参謀だって言いましたよね? それを何処のとも知らない神様? の物みたいに言われるのは……ごく控えめに言って、すごくムカついた」
 個人的な感情をブラッドリーへ向けている。
 怒りの理由はともなく、アルマの力がブラッドリーに向けられればブラッドリーがビックマーへの接近を止められるかもしれない。
「今日はよく吼えますね」
「むっ!」
「彼だけではありません。誰も彼も皆、神の子。神に逆らう事は許されません」
「悪いな。弟は我が侭な駄犬なんだ。知ってるだろう?」
 アルマの兄であるメンカルは、ご機嫌ナナメな弟を庇ってしまう。
 相手が歪虚であるならフォローの必要はないのだが、フォローしてしまうのは日頃の行いだろうか。
「……シオン。このまま狙い撃つか?」
「いや、できればもう少し情報が欲しい。
 ビックマーの方は順調に追い詰めている。これだけハンターがいれば奴もそう簡単に近付けないしな」
 ブラッドリーを射程距離に収めたキャリコは、紫苑と通信していた。
 何かあればブラッドリーへ攻撃できるように。
 しかし、紫苑は敢えてブラッドリーの様子を窺っていた。
 ブラッドリーはまだ何かを隠している。いざとなればアルマを前面に立てながら牽制射撃で光球を削っていけばいい。既に武装巨人も周囲にはいない。ブラッドリーもビックマーには近付けないだろう。
「怠惰王が倒されても一瞬で消滅する事はないと思います。その数瞬で接触してくるとなれば、直接転移か上空で高みの見物。もしくは怠惰王が倒される予測地点で待ち構えている事が予想されます」
 ユグディラをおんぶ紐で背負ってやってきたフィロ(ka6966)は、バイクで戦場を走り回っていた。
 戦いの前からヴェルナーへブラッドリーが現れた段階で一般兵の撤退を提案。
 更に武装巨人の位置を把握しながらブラッドリーの捜索に当たっていたのだ。
 フィロは、捜索ポイントを絞って捜索していた所、りるかからブラッドリー発見の一報がもたらされたという訳だ。
 既にユグディラから森の宴の狂詩曲で攻撃力を向上。星神器「蚩尤」 を手にブラッドリーを叩き潰すつもりだ。
「アースウォールでビックマーの視界は塞いだわ。これで転移なんかさせないんだから」
 真夕はブラッドリーがビックマー近くに転移すると推測していた。
 近づいてビックマーに何らかの術を行使するならば、それを全力で阻止する。
 既にユーリを含めて多くのハンターが集まっている。この包囲網を突破するのはブラッドリーでも容易ではないはずだ。
「諦めたら? ここで終わりなんだから」
 ユーリは敢えて挑発的な言葉を口にした。
 撤退を促す事でビックマー撃破に集中する為だ。
 ――しかし。
「これだけの力を私に集めて……天使達は、過ちを犯しています。
 ですが、その行いも神はすべてご覧になっています」
「私は問う。ビックマーは殉教者か?」
 雨を告げる鳥はブラッドリーへ問いかけた。
 雨を告げる鳥はブラッドリーと異なり、人の未来を信じていた。
 定められたものではなく、切り拓くものだと。
 それはブラッドリーの考えと真逆であった。だからこそ、雨を告げる鳥はブラッドリーの狙いを正しく知って、阻止しなければならない。
 古代文明の二の舞にさせない為に。
「そうです。王は殉教者となるのです。蒼の1789……革命は騎士によって引き起こされるのです」
「私はさらに問う。殉教者は『偽りの頂に立つ』と表現されていた。偽りの頂とは何だ?」
「真なる王は、真なる頂に。偽りの王は偽りの頂に」
「……! 私は気付いた。怠惰の王は……」
 雨を告げる鳥が言い掛けた瞬間、後方の森から人影が現れる。
 それは、ハンター達にとって『その場に居てはいけない』存在であった。
「青木……ちっ!」
 ――青木燕太郎の襲来。
 それは紫苑にとって想定外であった。何故なら、作戦が開始して10分も経過していないからだ。
 青木の到着はあまりにも早すぎる。森にいたハンター達を案じながら、紫苑は反射的に解放錬成。制圧射撃で青木の動きを止めようとする。
「――遅い!」
 着弾よりも早く踏み出した青木。
 そのスピードはバイクのような早さ。
「これか。包囲網を破れた原因は……」
 紫苑が振り返ると青木はブラッドリーの傍らへと降り立っていた。
 背を守るように立った青木はブラッドリーへ怒鳴りつける。
「貴様。力を貸すと言ったな? 応じよう。……さっさと寄越せ」
「神の御名において騎士へ力を貸しましょう。すべては終末の……フロンティアへ誘われる為に」
 ブラッドリーの本が風で靡くように勝手にページがめくられていく。
 そして本から放たれた光が、青木に力を与える。
「……成程。これはなかなか良いな。感謝する。……これで、俺は――!!」
 青木の咆哮。
 それは衝撃破となって周囲のハンターへ襲いかかる。
「アルマ、行け! 奴らを止めろ!」
「風が強くて近付けないですぅ」
 紫苑はアルマに指示をするが、衝撃破の影響は強い。
 上空にいたハンターも突風で煽られたかのように身動きが取れない。
「誰か、あれを止めて……」
 ユーリの声。
 しかし、無情にも青木の手で精製された一本の黒い槍。
 それは――青木の手から放たれる。
 光線のように一直線に放たれた槍。それが、棘となってビックマーの顔面に刺さる。
 負のマテリアルが槍を通じて青木に流れ込んでいく。
 ユーリは、その様子を見守る事しかできなかった。


 結果的にビックマーは消滅した。
 辺境を襲った怠惰の軍勢はビックマー消滅を受けて撤退していった。
 だが、部族会議の面々には本当の勝利ではないと分かっていた。
「そうですか。青木燕太郎が……」
 ヴェルナーは報告を受けてそう呟いた。
 目の前にいたりるかは申し訳なさそうな顔を浮かべる。
「ご、ごめんなさい。一生懸命やったのだけど……」
「りるかさんの、いえハンターのせいではありません。ノアーラ・クンタウへの被害も最小限に抑えられたのですから、充分な成果です」
 りるかを励ますヴェルナー。
 いつもの同じ笑顔を浮かべているはずだが、何故か悲しそうにも見える。
 どさくさに紛れてブラッドリーと青木を逃がした事もあるが、黒い槍を通して青木がビックマーの力を吸収したのは未来に禍根の種となる恐れがある。
「一つ付け加えておきた事があるのじゃ」
 報告に同席していた紅薔薇。
 ヴェルナーは紅薔薇へと向き直る。
「なんでしょう?」
「ビックマーは最期に言い残した事があるのじゃ」
 ビックマーの最期の言葉をヴェルナーに伝える事。
 それが紅薔薇にとって戦いの幕を閉じる大切な役目だと考えていた。
 ヴェルナーは、小さく頷く。
「話して下さい」
「ビックマーは……」
 紅薔薇は、一呼吸置いた。
 そして、この戦いに関わる大きな事実を口にした。
「『俺様は怠惰王じゃない。元怠惰王だ』と……」

執筆:近藤豊
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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