ゲスト
(ka0000)
【未来】
さてさて。それじゃあ少し気が早いけど、未来の話をするとしよう。
ここから先に広がっている可能性は無限大。絶対の未来はない。
旅路の果て、君たちがどんな未来に辿り着いたのか……。
その真実は君たちの胸の中にこそあるべきだろうからね。
大精霊:リアルブルー(kz0279)
更新情報(11月8日)
本頁はメインストーリー完結後の、未来の世界の様子を描いていくエピローグページとなっています。
11月8日、最後のストーリーノベルを公開いたしました。
●未来シナリオについて
シナリオタイトルに【未来】と記載されたシナリオでは、エピローグページに記載された未来の情報をベースに、変化した世界を楽しむことができます。
未来の状況は大きく変化していることも少なくないため、特設ページをご確認の上、シナリオをお楽しみください。
11月8日、最後のストーリーノベルを公開いたしました。
●未来シナリオについて
シナリオタイトルに【未来】と記載されたシナリオでは、エピローグページに記載された未来の情報をベースに、変化した世界を楽しむことができます。
未来の状況は大きく変化していることも少なくないため、特設ページをご確認の上、シナリオをお楽しみください。
▼それぞれの【未来】▼
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エピローグノベル「プロローグ」(11月8日公開)
そしてあっという間に100年が経過した。
その間ふたつの世界がどうあったかは……まあ、何となく書にしたためたりもしたので割愛する。
簡単にまとめると、クリムゾンウェストもリアルブルーも健在で、ふたつの世界は双方向の転移も可能となり、宇宙の開拓も進んだ。
人類はその版図を更に広げていく。この間、もちろん小規模な小競り合いは耐えなかったが、世界大戦と呼べる規模感の戦争もなかった。
まあ、その裏ではマスティマを使って不穏分子を退治する僕の存在もあったりしたわけだが……。
この間、僕は様々な連中の旅立ちを見届けた。
例えば、汚染領域で戦い続けた徒花の騎士とか。火星に行っちゃった元強化人間とか。
僕は人類の権力や規律とはまったく無関係な存在なので、いつ誰に会いに行っても自由だ。
だから会いに行った。ハンターや、守護者や、彼らの関係者、家族、子孫……。
この目で見て、観測した。この胸に記憶を刻みつけた。
100年の約束を守り抜いた時、もしかしたらもう一度彼女と再会できるかもしれない――そんな微かな願いのために。
しかし。
「こんにちは、リアルブルーさん」
100年後。僕はその時をリアルブルーの月面都市崑崙の一室で待っていた。
いざって時にはここの施設も使えるようにしておくことで、異世界から発せられるメッセージを取りこぼさないためだ。
ユグドラシル計画により拡張された異世界転移門とその巨大な制御装置となった崑崙に僕という演算装置が加われば、異世界からの干渉を察知することは造作もなかった。
なので、世界樹の直ぐ側で待ち構えていたのだが。現れたのは、小さな少年の姿をした何かだった。
「……実体がハッキリしてるな。もしかして世界の壁を超えたのか?」
「はい。そちらがわでもんをひらいてくれたおかげです。ときのながれをあわせたのですが、ちょうど100ねんごであってますか?」
「ああ。こちらでは100年後だ」
つながりがない異世界同士はそれぞれ別々の法則で動いている。
故に時間のつながりもない。こちらでは100年だったが、向こうでは何千年と経過していてもおかしくはないのだ。
「ぼくのなまえはジュデッカ。こちらのせかいでいうところの、だいせいれいです」
「大精霊……あー、邪神に取り込まれていた最初の世界、か?」
「いえす。おはなしするとながくなるので、じょうほうきょうゆうおねがいします」
そう言って差し出された手を取ると、ジュデッカからは大量の情報が送り込まれてきた。
彼は大精霊と名乗ったが、そんな規模ではない。
ひとつの星の大精霊である僕が圧倒されるほどなのだから、彼は間違いなく複数の星を管理する存在だ。
崑崙のバックアップがなければ危険だったな……。
目を閉じ、僕はジュデッカの情報に意識を巡らせた。
●
こちらで言うところの100年前。
邪神討伐作戦により邪神が撃破され、その中核でありながら反動存在により封印されていた大精霊ジュデッカが覚醒した。
そして崩壊するファナティックブラッドという依代を用いて新たな世界を再誕させるという事業は成功を収めた。
ジュデッカに蓄積された様々な世界の記憶。それはいずれも劣化していたりそもそも「終焉」のみを記録したものであったりと歯抜けが多かった。
その欠落を埋め合うように複数の世界を一つにつなげ、新たな世界としてジュデッカは再誕したらしい。
「でも、それだけではおもいでのかずがたりなかったもので……」
「クリムゾンウェスト大精霊の力を使ったのか」
「はい。かのじょと、かのじょのよりしろたるナディアはだんぺんかしたワールドストレージをデフラグしつつ、おもいでをていきょうしてくれました」
それは神霊樹に刻まれた記憶。
即ち、ハンターらの冒険の足跡でもあった。
彼らが進み、倒し、救い、目で見て耳で聞いて心で感じたこと。
それらがジュデッカの再構成に用いられた。
「しかし、けっきょくひとつのわくせいでファナティックブラッドにきざまれたせかいのかんきょうをさいげんすることはできませんでした」 そこで一種の奇跡が起きた。
反動存在が世界の再誕を許し、自ら協力を初めたのだ。
世界の再誕を阻止しようとした人々。終わることも終わらないことも許さず、ただその場に留まることを望んだ人々。
彼らこそが再誕を邪魔する元凶。世界救済装置たるファナティックブラッドに生じた不具合だった。
それが取り除かれたどころか同じ方向に力を加えてくれるのであれば、ファナティックブラッドは本来の役割を果たせるようになる。
「つまり、ひとつの惑星だけではない再誕……? いや、その規模の場合はちょっと違うな。新しい宇宙の発生……異世界というよりは平行宇宙とでも呼ぶべきか」
「いまのぼくはうちゅうのこころです。もちろん、はんどうそんざいのみなさんもいつもいっしょです」
「そうか……。じゃあ、大団円だったわけだ」
それはわかった。
あいつらならやるだろうと信じていたので、驚きも感動も特になかった。
「あまりうれしくなさそうですね?」
「まあね。だって、その報せを受け取るべき人たちはもうどこにもいないんだ」
100年以上長生きできるようなハンターはそうそういない。
邪神戦争を直接体験したものはほとんどいなくなって、今やあの戦いは伝説に成り下がった。
世界は救われたのかと、心配しながら息を引き取った連中もたくさんいた。
あいつらにもっと早くこの報せを届けられたなら、どんなによかっただろう。
「もっとはやくおしらせしたいのなら、こちらから100ねんまえにもどることもできます。いちばんもんだいだったせかいざひょうのこていが、いまかんりょうしたので……」
「ユグドラシルシステムのおかげだな。なるほど……時の流れはそちらにとっては関係のないこと、か」
確かにこいつなら100年前の世界にも干渉できるだろう。
邪神戦争の結末を書き換えたりするとジュデッカの発生もなくなって因果逆転してしまう。大幅な過去改変は不可能。
だが、少なくとも100年前に生きた人たちにメッセージを届け直すくらいはできるはずだ。
「やりましょうか?」
「………………。いや……どうかな……」
躊躇われた。
未来がわからなくても、世界に救いがあるのか知らなくても、彼らは懸命に自分の生涯を果たした。
そこに何かを加えることで、彼らの歩むはずだった未来に変容が生じる可能性もある。
何気なく世界の命運を背負っていくつもの死地を飛び回ってきたが、本来は神と共に世界存亡の戦いに挑むというのはいかにも理不尽だ。
現代では創作と言われるような奇跡を起こした者が何人もいたが、あんなものは本来一個人が背負うようなものではない。
終戦後、彼らは少なくともヒト並の生涯を終えたはず。
今更超常の出来事に巻き込み、世界の運命を変える権利が僕にあるのだろうか……。
「ぼくにはわかります。このせかいにはたくさんのIFがある。かこにかんしょうすれば、えいきょうはまぬがれないでしょう」
「そうだろうな。だから、やめておこう」
この判断を彼らは肯定するだろうか。あるいは否定するだろうか……。
「じつは、もうひとつごそうだんがあります」
「ん?」
「われわれへいこううちゅうのひとびとは、こちらのせかいとのこうりゅうをのぞんでいます」
再誕はさまざまな世界をつなぎ合わせて行われたが、既に取り返しがつかないほど思い出がバラバラになってしまったものでない限り、彼らにとっては「明日」として再誕が迎えられた。
それぞれの世界が滅ぶ終焉。その記憶が最も多かったのだから、そこから地続きになる「翌日」から再誕が始まるのも不自然ではないことだ。
そして彼らはあの邪神戦争で見たハンターの姿を記憶していた。
中には共に戦った者もいる。彼らは当然のように、異世界の友人たちとの繋がりを欲した。
「かんしゃをつたえたかったのです。かれらもときのながれのなかでいなくなりましたが、そのおもいはしそんにうけつがれています」
「時の流れ、あるんだね」
「はい。ぼくたちがゆいいつあきらめたことが、えいえんです。そのおろかしさを、みをもってまなびましたから」
「そっちの世界にしてみれば、こっちは創世神話の一部ってわけだ」
「どうでしょう。それぞれのうちゅーのちからをもちよれば、よりおおきなはってんがみこめるとおもうのですが」
腕を組み、考える。
だが、今度の回答は早かった。
「まだやめとくよ」
「なぜです?」
「こっちの世界は君らの宇宙とは違ってまだ自分たちのことで手一杯だ。もちろんヒトが生きる上で変化は避けられないから、いずれはそっちの宇宙と交わることにもなるだろう。だが、それがあまりにも性急ではいけない」
やはり、過去を変えてはいけない。
背伸びをして力を求めたり、何かを変えようとした結果がファナティックブラッドの暴走だ。
ヒトは、世界は、自分たちが思っている以上に無力で……異なる存在を許容できない。
「君たちと交わるためには、もう少し成長が必要だろう」
「そうですか……。いえ、そうかもしれませんね」
残念そうなのも無理はない。
こいつは僕よりも遥かに長い時をその願いのために生きてきたのだろう。
思い出を忘れずに、痛みを忘れずに。何もかもを受け継いで……。
「わかりました。きょうのところはかえります。じかいはいつごろおたずねしましょう?」
「もう100年はいらないかな。それぞれの世界が異世界……異なる存在を許容し、自然に受け入れられるようになるまで……」
鷹揚と頷き、少年は手を伸ばした。
「すべてのせかいにかわり、あなたがたにかんしゃを」
「ああ。すべての世界に代わり、確かに受け止めた」
がっちりと両手で握手を交わし、彼は一歩退いた。
「またおあいしましょう! あなたもどうか、おげんきで!」
その姿はすっと、景色に溶けるようにして消えていった。
●
そして僕は、世界に「神」という立場で接触することをやめた。
実際問題、もう殆ど僕を必要とする状況はなくなっていたし、元から100年を契機に活動を停止しようと決めていたからだ。
最期の活動は世界中の子供たちにクリスマスプレゼントを配りまくること。これも100年前から決めていた。
「未来も世界も、あとはそこに生きる命が決めるべきだよな」
漆黒の宇宙を飛びながら、長らく共にあったマスティマという相棒に語りかけてみる。
「人類はもしかしたら失敗するのかもしれない。何かに躓くのかもしれない。愚かにも戦争を繰り返したりするのかもしれない。でも、そんな傷さえも人を正しい方向に導くんだ」
彼らはもう十分成長した。
ジュデッカと対峙するにはまだ未熟かもしれないが、過保護な神は必要ない。
命は続く。世界は続く。その旅路がどんなものであれ、すべてが祝福の中にある。
今から何十年か経って、ジュデッカがもう一度この世界に現れた時、人類がどんな決断を見せるのか……。
それはその時の人類が決めることであって、僕が決めることじゃない。
「これが終わり――そして、ヒトの時代の始まりだ」
すべての物語に終りがあることを、彼らは矛盾と称した。
でも、今の僕は知っている。終わりとは、何かが途切れてしまうことではない。
その時何かが終わりを迎えても、紡がれた想いや過去、夢が消えてなくなってしまうわけじゃない。
すべての終わりは、必ず何かの始まりに続いている。
今日も世界のどこかで誰かの物語が終わり、誰かの物語が幕を開ける。
すべての事柄が美しく、すべての事柄が祝福される。
ただそこにあるという奇跡を、僕は「世界」と呼んだ。
その間ふたつの世界がどうあったかは……まあ、何となく書にしたためたりもしたので割愛する。
簡単にまとめると、クリムゾンウェストもリアルブルーも健在で、ふたつの世界は双方向の転移も可能となり、宇宙の開拓も進んだ。
人類はその版図を更に広げていく。この間、もちろん小規模な小競り合いは耐えなかったが、世界大戦と呼べる規模感の戦争もなかった。
まあ、その裏ではマスティマを使って不穏分子を退治する僕の存在もあったりしたわけだが……。
この間、僕は様々な連中の旅立ちを見届けた。
例えば、汚染領域で戦い続けた徒花の騎士とか。火星に行っちゃった元強化人間とか。
僕は人類の権力や規律とはまったく無関係な存在なので、いつ誰に会いに行っても自由だ。
だから会いに行った。ハンターや、守護者や、彼らの関係者、家族、子孫……。
この目で見て、観測した。この胸に記憶を刻みつけた。
100年の約束を守り抜いた時、もしかしたらもう一度彼女と再会できるかもしれない――そんな微かな願いのために。
しかし。
「こんにちは、リアルブルーさん」
100年後。僕はその時をリアルブルーの月面都市崑崙の一室で待っていた。
いざって時にはここの施設も使えるようにしておくことで、異世界から発せられるメッセージを取りこぼさないためだ。
ユグドラシル計画により拡張された異世界転移門とその巨大な制御装置となった崑崙に僕という演算装置が加われば、異世界からの干渉を察知することは造作もなかった。
なので、世界樹の直ぐ側で待ち構えていたのだが。現れたのは、小さな少年の姿をした何かだった。
「……実体がハッキリしてるな。もしかして世界の壁を超えたのか?」
「はい。そちらがわでもんをひらいてくれたおかげです。ときのながれをあわせたのですが、ちょうど100ねんごであってますか?」
「ああ。こちらでは100年後だ」
つながりがない異世界同士はそれぞれ別々の法則で動いている。
故に時間のつながりもない。こちらでは100年だったが、向こうでは何千年と経過していてもおかしくはないのだ。
「ぼくのなまえはジュデッカ。こちらのせかいでいうところの、だいせいれいです」
「大精霊……あー、邪神に取り込まれていた最初の世界、か?」
「いえす。おはなしするとながくなるので、じょうほうきょうゆうおねがいします」
そう言って差し出された手を取ると、ジュデッカからは大量の情報が送り込まれてきた。
彼は大精霊と名乗ったが、そんな規模ではない。
ひとつの星の大精霊である僕が圧倒されるほどなのだから、彼は間違いなく複数の星を管理する存在だ。
崑崙のバックアップがなければ危険だったな……。
目を閉じ、僕はジュデッカの情報に意識を巡らせた。
●
こちらで言うところの100年前。
邪神討伐作戦により邪神が撃破され、その中核でありながら反動存在により封印されていた大精霊ジュデッカが覚醒した。
そして崩壊するファナティックブラッドという依代を用いて新たな世界を再誕させるという事業は成功を収めた。
ジュデッカに蓄積された様々な世界の記憶。それはいずれも劣化していたりそもそも「終焉」のみを記録したものであったりと歯抜けが多かった。
その欠落を埋め合うように複数の世界を一つにつなげ、新たな世界としてジュデッカは再誕したらしい。
「でも、それだけではおもいでのかずがたりなかったもので……」
「クリムゾンウェスト大精霊の力を使ったのか」
「はい。かのじょと、かのじょのよりしろたるナディアはだんぺんかしたワールドストレージをデフラグしつつ、おもいでをていきょうしてくれました」
それは神霊樹に刻まれた記憶。
即ち、ハンターらの冒険の足跡でもあった。
彼らが進み、倒し、救い、目で見て耳で聞いて心で感じたこと。
それらがジュデッカの再構成に用いられた。
「しかし、けっきょくひとつのわくせいでファナティックブラッドにきざまれたせかいのかんきょうをさいげんすることはできませんでした」 そこで一種の奇跡が起きた。
反動存在が世界の再誕を許し、自ら協力を初めたのだ。
世界の再誕を阻止しようとした人々。終わることも終わらないことも許さず、ただその場に留まることを望んだ人々。
彼らこそが再誕を邪魔する元凶。世界救済装置たるファナティックブラッドに生じた不具合だった。
それが取り除かれたどころか同じ方向に力を加えてくれるのであれば、ファナティックブラッドは本来の役割を果たせるようになる。
「つまり、ひとつの惑星だけではない再誕……? いや、その規模の場合はちょっと違うな。新しい宇宙の発生……異世界というよりは平行宇宙とでも呼ぶべきか」
「いまのぼくはうちゅうのこころです。もちろん、はんどうそんざいのみなさんもいつもいっしょです」
「そうか……。じゃあ、大団円だったわけだ」
それはわかった。
あいつらならやるだろうと信じていたので、驚きも感動も特になかった。
「あまりうれしくなさそうですね?」
「まあね。だって、その報せを受け取るべき人たちはもうどこにもいないんだ」
100年以上長生きできるようなハンターはそうそういない。
邪神戦争を直接体験したものはほとんどいなくなって、今やあの戦いは伝説に成り下がった。
世界は救われたのかと、心配しながら息を引き取った連中もたくさんいた。
あいつらにもっと早くこの報せを届けられたなら、どんなによかっただろう。
「もっとはやくおしらせしたいのなら、こちらから100ねんまえにもどることもできます。いちばんもんだいだったせかいざひょうのこていが、いまかんりょうしたので……」
「ユグドラシルシステムのおかげだな。なるほど……時の流れはそちらにとっては関係のないこと、か」
確かにこいつなら100年前の世界にも干渉できるだろう。
邪神戦争の結末を書き換えたりするとジュデッカの発生もなくなって因果逆転してしまう。大幅な過去改変は不可能。
だが、少なくとも100年前に生きた人たちにメッセージを届け直すくらいはできるはずだ。
「やりましょうか?」
「………………。いや……どうかな……」
躊躇われた。
未来がわからなくても、世界に救いがあるのか知らなくても、彼らは懸命に自分の生涯を果たした。
そこに何かを加えることで、彼らの歩むはずだった未来に変容が生じる可能性もある。
何気なく世界の命運を背負っていくつもの死地を飛び回ってきたが、本来は神と共に世界存亡の戦いに挑むというのはいかにも理不尽だ。
現代では創作と言われるような奇跡を起こした者が何人もいたが、あんなものは本来一個人が背負うようなものではない。
終戦後、彼らは少なくともヒト並の生涯を終えたはず。
今更超常の出来事に巻き込み、世界の運命を変える権利が僕にあるのだろうか……。
「ぼくにはわかります。このせかいにはたくさんのIFがある。かこにかんしょうすれば、えいきょうはまぬがれないでしょう」
「そうだろうな。だから、やめておこう」
この判断を彼らは肯定するだろうか。あるいは否定するだろうか……。
「じつは、もうひとつごそうだんがあります」
「ん?」
「われわれへいこううちゅうのひとびとは、こちらのせかいとのこうりゅうをのぞんでいます」
再誕はさまざまな世界をつなぎ合わせて行われたが、既に取り返しがつかないほど思い出がバラバラになってしまったものでない限り、彼らにとっては「明日」として再誕が迎えられた。
それぞれの世界が滅ぶ終焉。その記憶が最も多かったのだから、そこから地続きになる「翌日」から再誕が始まるのも不自然ではないことだ。
そして彼らはあの邪神戦争で見たハンターの姿を記憶していた。
中には共に戦った者もいる。彼らは当然のように、異世界の友人たちとの繋がりを欲した。
「かんしゃをつたえたかったのです。かれらもときのながれのなかでいなくなりましたが、そのおもいはしそんにうけつがれています」
「時の流れ、あるんだね」
「はい。ぼくたちがゆいいつあきらめたことが、えいえんです。そのおろかしさを、みをもってまなびましたから」
「そっちの世界にしてみれば、こっちは創世神話の一部ってわけだ」
「どうでしょう。それぞれのうちゅーのちからをもちよれば、よりおおきなはってんがみこめるとおもうのですが」
腕を組み、考える。
だが、今度の回答は早かった。
「まだやめとくよ」
「なぜです?」
「こっちの世界は君らの宇宙とは違ってまだ自分たちのことで手一杯だ。もちろんヒトが生きる上で変化は避けられないから、いずれはそっちの宇宙と交わることにもなるだろう。だが、それがあまりにも性急ではいけない」
やはり、過去を変えてはいけない。
背伸びをして力を求めたり、何かを変えようとした結果がファナティックブラッドの暴走だ。
ヒトは、世界は、自分たちが思っている以上に無力で……異なる存在を許容できない。
「君たちと交わるためには、もう少し成長が必要だろう」
「そうですか……。いえ、そうかもしれませんね」
残念そうなのも無理はない。
こいつは僕よりも遥かに長い時をその願いのために生きてきたのだろう。
思い出を忘れずに、痛みを忘れずに。何もかもを受け継いで……。
「わかりました。きょうのところはかえります。じかいはいつごろおたずねしましょう?」
「もう100年はいらないかな。それぞれの世界が異世界……異なる存在を許容し、自然に受け入れられるようになるまで……」
鷹揚と頷き、少年は手を伸ばした。
「すべてのせかいにかわり、あなたがたにかんしゃを」
「ああ。すべての世界に代わり、確かに受け止めた」
がっちりと両手で握手を交わし、彼は一歩退いた。
「またおあいしましょう! あなたもどうか、おげんきで!」
その姿はすっと、景色に溶けるようにして消えていった。
●
そして僕は、世界に「神」という立場で接触することをやめた。
実際問題、もう殆ど僕を必要とする状況はなくなっていたし、元から100年を契機に活動を停止しようと決めていたからだ。
最期の活動は世界中の子供たちにクリスマスプレゼントを配りまくること。これも100年前から決めていた。
「未来も世界も、あとはそこに生きる命が決めるべきだよな」
漆黒の宇宙を飛びながら、長らく共にあったマスティマという相棒に語りかけてみる。
「人類はもしかしたら失敗するのかもしれない。何かに躓くのかもしれない。愚かにも戦争を繰り返したりするのかもしれない。でも、そんな傷さえも人を正しい方向に導くんだ」
彼らはもう十分成長した。
ジュデッカと対峙するにはまだ未熟かもしれないが、過保護な神は必要ない。
命は続く。世界は続く。その旅路がどんなものであれ、すべてが祝福の中にある。
今から何十年か経って、ジュデッカがもう一度この世界に現れた時、人類がどんな決断を見せるのか……。
それはその時の人類が決めることであって、僕が決めることじゃない。
「これが終わり――そして、ヒトの時代の始まりだ」
すべての物語に終りがあることを、彼らは矛盾と称した。
でも、今の僕は知っている。終わりとは、何かが途切れてしまうことではない。
その時何かが終わりを迎えても、紡がれた想いや過去、夢が消えてなくなってしまうわけじゃない。
すべての終わりは、必ず何かの始まりに続いている。
今日も世界のどこかで誰かの物語が終わり、誰かの物語が幕を開ける。
すべての事柄が美しく、すべての事柄が祝福される。
ただそこにあるという奇跡を、僕は「世界」と呼んだ。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)