ゲスト
(ka0000)
ライブラリ
ここはライブラリ。キノコが集めてきた皆の姿や声、
音楽なんかを見たり聞いたりできるよ。
新しい姿を頼んだりもできるから、試してみてね!
竹村 早苗(kz0014)
※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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木漏れ日が降り注ぐ場所
木漏れ日が落ちる砂利道に怠惰な足音が響く。
神代 誠一(ka2086)は頭上を覆う葉の合間に覗く空を見上げた。
「今日は暑くなりそうだなあ……」
欠伸交じりに伸びをすると背中がボキボキ鳴る。
昨日、ずっと同じ姿勢で数独パズルに挑んでいたのがまずかったのだろう。
少し体を動かしておこうと買い物がてらの散歩。
馴染みの店で何か酒でも買い込んで……と思ったところで誠一は踏み出そうとした足を止めた。
「……っんん?」
手で庇を作って目を凝らす。眉間に皺を寄せながら。
前方、こちらに向かってやってくるのは見覚えのある先の折れた三角帽子。
サ……っと己の血の気が引く音を誠一は聞いた。
「うん、そうだな。暑くなる前に帰るか。それが良い、それが……」
ギクシャクした動きで回れ右したかと思えば全速力で自宅へ。
一刻も早く証拠を隠滅しないと……まるで何かの犯人のようなことを考えながらドアを開くのを待つのももどかしく文字通り部屋に飛び込んだ。
いやある意味、誠一は犯人だ。
床に転がる空き瓶、紙屑、ソファの脱ぎ捨てられた服……この部屋に広がる惨状の。
「とりあえずゴミだけでも。ぐま、そこから退いてくれ」
手あたり次第にゴミを袋に入れていく。瓶も紙屑も空き缶も一緒くたに。
重なった雑誌の上で昼寝をしていた白兎のぐまをソファに移動させる。とても迷惑そうな顔をされたが今はそれどころではない。
呼び鈴が来客を告げた。ゴクリ……誠一の喉が緊張で鳴る。
部屋を振り返った。うん、どうやっても誤魔化せそうもない。
無駄な抵抗はやめなさい、脳内に響く声。
誠一は諦めてドアを開けた。
「……私は嘆息する」
帽子のつけられたてるてる坊主が揺れる。
「危惧していた通りだと……」
部屋を一瞥した雨を告げる鳥(ka6258)――レインは軽く頭を振った。
「あーその……とりあえずお茶でもどうだ?」
共通の友人が良い茶葉を送ってくれた、と話題を他にずらそうと試みた。
最近昔馴染みが遊びに来たときについはしゃぎすぎて作ってしまった床の穴を隠すように足で雑誌を動かしながら。
しかしレインは誤魔化されてくれるはずもなく。
誠一が手にしたゴミ袋に向けられるモノクル。
「私は記憶している。ゴミは分別して出すように伝えたことを」
更に続く指摘。
「私は問う。その床の穴について。ソファにかけられたままの服について」
「……暑い日に掃除で必要以上に動いて熱中症で倒れてしまっては意味がないというか」
「私は決意する。共に部屋の掃除をする、と」
「決意……決定?! そこはまず提案からじゃ?!」
「私は否定する。提案ではない」
決定だ、と深く頷いたレインはしばらく此方に滞在する旨も付け加えた。
久々に友人と共に過ごせるのは素直に嬉しい。
折角ならば掃除よりももっとこう有意義な……ぶつかる両者の視線。無言の勝負は誠一の負け。
「……う、わかった。一緒に……掃除……をしよう。よろしく、レイン」
部屋は汚くても死にはしない、という言葉は飲み込んだ。
「私は約束する。共に掃除を終わらせることを」
レインが帽子を脱ぐ。そして改めて誠一を見上げる。
「ただいま。誠一」
「おかえり、レイン」
そう言って友人を迎えることができることを誠一はとても嬉しく思う。
今日は長期の遺跡調査からの帰還の挨拶だけの予定だったのだが、誠一に誘われソファに並んでお茶の時間だ。
甘いものに目がない妖精のルルフェはレインが持ってきた土産の菓子を両手に抱えて頬張っている。
カップから立ち上がる紅茶の香に鼻を鳴らすと「良い香りだろ」と誠一がまるで我が事のように喜ぶ。
ああ、誠一の笑顔だ、とレインは思う。
自分を仲間たちを繋いでくれた。
誰かに嬉しい事、喜ばしい事があったとき、本人以上に喜んでくれる。
そして仲間を心底誇ってくれる――当たり前のように自然に。
膝にぐまを乗せ足を投げ出し座っている様は行儀が良いとはいえないが、今更それを気にする仲でもない。
「あとで花壇を見に行かないか。花が増えたんだ」
旅先で手に入れた種を仲間が送ってくれた、とか指折り増えた種類を教えてくれる。
「レインはどうだった?」
レインは鞄から写真を取り出しテーブルに広げた。
沢山の写真は全て愛用のカメラで撮ったもの。
自分の誕生日に誠一が贈ってくれた魔導カメラ。今も鞄の中にあり、小隊とてるてる坊主のチャームが仲良く下がっている。
「清冽な水の湧く森の奥、苔むした場所だった」
一枚の写真を取り上げる。先日まで調査していた遺跡の写真。入口に刻まれた紋様、周囲の様子――など順繰りに並べていく。
「昼寝をしたら気持ちよさそうな場所だなあ」
身を乗り出した誠一の漏らした感想にレインは笑みを零した。
「此処は滅多に人は訪れない。動物たちがよく昼寝に来ていた」
そこでの出来事、見てきた風景――などを写真を一枚ずつ指しながら語っていく。
風の匂いや光の煌めきも伝われば良いと思いながら。
この遺跡だけではなく他にも訪れた地域にも話は広がる。
とても長い話で気付けば菓子で腹の膨れたルルフェはぐまの背で昼寝をしていた。
それでも飽きた様子もなく楽しそうに誠一は耳を傾けてくれる。時折、「お、この隅に映っているのはなんだ?」などと質問を挟みながら。
「レイン、写真を数枚貰ってもいいか?」
「私は許可する」
すると誠一が棚から一冊のアルバムを取り出してきた。
焼き芋、西瓜割り、大掃除――小隊の思い出が詰まったアルバムだ。
肩を寄せ合いアルバムを覗き込む。写真をしまうだけのはずがつい見入ってしまう。
突如誠一が突っ伏した。
「誰だ……バケツの集合写真を撮ったのは」
花火をの時、誠一が買ったことをうっかり忘れ沢山買い込んでしまったバケツが並んでいる写真。
アルバムの持ち主も気付かないうちに誰かがこそっと追加していたらしい。
「私は推測する。あのバケツたちはまたこの家のどこかで眠っているであろうことを」
「……いやいや庭の水撒きとかで活躍してるから」
そっぽを向いてそのうちの一つは……とぼそっと付け足された一言。
「ま、まあ、続きをみような、な!」
アルバムにはレインが撮った写真も多く収められていた。
忘れたことはない。
今はそれぞれの道を歩んでいる小隊の仲間達と過ごした日々を。
時に大いに笑い、時に苦労を支え合った――多分一生で考えればほんの少しの時間。
だが絆は大空に枝を広げ木漏れ日を注ぐ大樹の根っこのようにこの心にしっかりと根付いている。
共に過ごした時間は色褪せることのない、ずっと胸の内で輝き続ける宝物だ。
この宝物をくれたのは――レインが双眸が誠一の横顔を捉える。
視線に気付いた誠一がアルバムから顔を上げた。
「このテーブルの落書きはあとでちゃんと消すから……!」
多分パズルを解くときに手近にメモがなくテーブルに書いたのであろう数式を慌てて掌で隠す。
まったく、と呆れ交じりの苦笑に混じるくすぐったさに似た感覚は親愛だろうか。
「……誠一は謙遜するかもしれないが――」
だからこそ言葉にして伝えたい。
「私は告げる」
互いの視線が合う。
「誠一。射光に誘ってくれて、沢山の思い出を共に作ってくれて、ありがとう」
突然の言葉に驚いたのだろう。目を丸くした誠一が窓辺に揺れるてるてる坊主たちへと向く。
皆の似顔絵が描かれたてるてる坊主が笑っている。
少しの間の後、誠一が再びレインに向き直った。
「これから先だって俺はレイン達が笑顔でいられるように尽くすよ」
窓から射しこむ木漏れ日を受けて誠一が大きく笑う。
木漏れ日の下はとても心地が良く、だから自然と皆が集まってくる。
どんな時でも仲間を受け入れてくれる大樹にも似た誠一の強さ――。
でも……それだけではない。
誠一自身、止まり木を必要とすることがあることもレインは知っている。
だからこそ自分は彼が安心して休める場所になりたいと願っている。
誠一が皆にしてくれるように、その強さも弱さもあるがままに受け入れて。
レインからの思わぬ言葉に一瞬誠一は呆気にとられた。
実は視線に気付いた時、叱られるのではないかと思ってしまったのだ。
レインの言葉は優しい雨のように誠一に降り注ぎ染みわたっていく。
窓辺で仲良く揺れるてるてる坊主達を誠一は眺める。仲間達の顔が一人一人思い浮かぶ。
誠一の中で一気に溢れ出す此処までの道のり。
それは楽しいことばかりではなく、魂が擦り切れそうなほどの苦悩もあった。
その中でもがいて足掻いて、道を選んで此処まできたのだ。
それが最善だったのかなど、今になってもわからない。
普段は気にしないようにしているが、いまだにそれはふとした拍子に自分に問いかけてくる。
だけど――……。
ふっと、肩の力が抜けたような感覚が誠一を包む。
ありがとう――苦悩の中選んできた己の選択も全て包み込んでくれるかのような言葉。
ああ、報われたのだ――反射的にそう思った。
そうだ……
誠一は思い出す。泥沼の苦悩に落ちた時の事を。
レインはあの頃からいつもこんな風に伝えてくれた。飾ることなくまっすぐに。
それがどれほどの支えとなったか。
羽ばたく力を失った己にとって大切な止まり木であったか。
その言葉にどれほどの力があるかレインは知っているのだろうか。
レインにはいつも助けられてばかりだ、と思う。
きっと本人はそう思っていないのだろうけど。
誠一とレイン――いずれ互いの時は重ならなくなる。
それは種族差故、仕方のないこと。
それでも、思わずにはいられない。
何かあった時は遠慮せずに頼って欲しい、と。
そして自身が生きている限り気軽に帰ってきて欲しい、とも思う。
それがどんな時であっても、だ。
そして自分がいなくなった後も楽しかった、という思い出が沢山、沢山残るように――子供のような願いを心に浮かべる。
「これから先だって俺はレイン達が笑顔でいられるように尽くすよ」
これは誓いの言葉。友人への。
レインが目を細めた。
木漏れ日がその上で踊る。
雨上がりの深い緑の森のような香りがしたような気がした。
これから先――そう自分たちの絆はこれからも続いていく。
ならば……レインはカレンダーを指さした。
「私は提案する。次の思い出を共に作ることを」
皆の笑顔のために。
数十年ぶりの大きな流星群が間もなくやってくる。
だから久し振りに皆で集まって鑑賞会をしよう、と。
「良いな。久々に皆で騒ぐとするか」
「私は指摘する。皆で騒ぐのもやぶさかではない――が、羽目の外しすぎはよくない」
空に近いところでみよう、とか誰かが言い出して屋根を踏み抜く未来がレインの脳裏に浮かぶ。
「わかってるって。流石に屋根がない生活はきついからな……いやまてよ予めブルーシートを準備しておけば……」
何故屋根を破る前提で話をしているのか。
誠一、名を呼べば「冗談だって」と頭をかく。
「早速皆に連絡しないとな」
旅に出ている仲間にはギルド経由で、あとは……その誠一の浮かれた気配に寝ていたぐまが顔を上げて耳を揺らす。
ああ、楽しみだと誠一が笑う。
応えるようにふすふすとぐまの勇ましい鼻息。
これからも一つ、一つ、思い出を作っていこう、とレインはアルバムの真新しい頁を捲った。
その輪の中で、皆と共に誠一が笑い合えるために――。
……しかしながら楽しみの前には試練があるのだ。
「私は告げる。その前に掃除を終わらせる」
くる、くるとレインがカレンダーに持っていたペンで丸印をつけていく。
印が一つで終わらないところがこの家の現状を物語っていた。
「……善処シマス」
カレンダーに並ぶ青みがかった黒色の丸印。
そのインクはかつて誠一がレインに送ったものだ。
フィールドワークでも使えるように、と水に流れにくい特殊なインクで精製法ごと買い上げた。
それをレインがずっと使用してくれていることが嬉しい。
この先も――それは自分がいなくなったその先も――友の人生に長く寄り添ってくれますように、と誠一は願いを込める。
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃
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雨を告げる鳥(ka6258)
神代 誠一(ka2086)
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございます、桐崎です。
お二人は互いに安心できる木漏れ日のような存在のようだと思いながら書かせて頂きました。
こうして物語の終了後、数年経過したお話をかけるのは大変嬉しく思います。
皆さん元気にしているのだなあ、と。
この後皆さんで集まって流星鑑賞会まで想像は膨らみます。
気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。
それでは失礼させて頂きます(礼)。
副発注者(最大10名)
- 神代 誠一(ka2086)