ゲスト
(ka0000)
【空蒼】しゃれこうべと大砲
マスター:葉槻
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
- 1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/28 19:00
- 完成日
- 2019/01/21 10:44
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●Old tale
1人の少女の話をしよう。
彼女はシチリア島の片田舎で生まれ育った。
そして齢9つにして脳腫瘍が見つかった。
以来、彼女は白い壁の中での生活を余儀なくされた。
手術が必要だったが、腫瘍の発生部位が非常に高度な技術を要する位置だったため医療費も高額であり、また、そんな技術を持った医者もいなかった。
少女は日々頭痛に悩まされながら、ただただベッドに横になる日々を送った。
そんなある日、彼女の元に1人の軍人が現れた。
彼女の持つある細胞が、強化人間への適応を認めたという報告だった。
連合軍に入り、軍人として生涯を全うすると誓うならば、手術費も軍が負担するという申し出だった。
少女は笑って言った。
「受けます。だって、魔法少女になれるのよ? こんな素敵な事って無いわ!」
それが少女……ドロシーと呼ばれた彼女が強化人間になった経過だった。
「どうして名前がないの?」
無垢な少女は名前を持てなかった少年達にそう問うた。
「誰も付けてくれなかったからさ」
「捨てられたから、こっちも捨ててやったんだ」
「いつ死ぬかも分からないんだし、“ネームレス”で十分さ」
戦争孤児である彼らは半分諦めと半分怒りを込めてそう返した。
彼女は、彼らを“ナンバー”で呼ぶ事にはじめは酷く躊躇したが、彼らがたとえ番号であっても己の“初めて貰った名前”なのだと気付いてからは、親しみを込めて彼らの“名前”で呼ぶことにした。
ネームレスだった少年の1人は、彼女の戦闘センス、身体能力の高さを目の当たりにした時に自分達とは違うと感じたことがあると零したことがある。
だが、嫉妬することは無かった。
「私の班の人間は、誰ひとりだって死なせないんだから!!」
そう宣言した瞳は真剣そのもので。ひとたび戦場に出ればそんな事は不可能に近い事は誰もが知っていたのに。それでも信じたくなる意志を感じさせた。
だから、誰もが幼い彼女を信頼し、その指示に従った。
――最期の別れの瞬間まで。
●Cruel story
メッシーナ基地、シラクサ基地でハンター達の突入作戦が開始されると同時に、海上には一隻の空母が発見された。
カターニア基地から鹵獲された空母である事は直ぐ様判明し、連合軍はこれの奪還もハンターへの依頼として追加したが、空母はシラクサ基地へと接近、同時に鹵獲していたCAM67機を投入。
戦場はさらに激化した。
その戦場で、一際目を引いたのがピンクを基調としたR7エクスシアとその周囲を護る10機のR7エクスシアだった。
攻守支援のバランスに優れ、他の暴走強化人間達と違い連係攻撃を確実に打ってくるその戦い方はまるで大規模作戦などで見るハンター達の小規模小隊のようでもあった。
だが、所詮はハンターと強化人間であり、地力が違いすぎた。
一機沈み、二機が倒れ、残り6機となったその時。
「待ってくれ!!」
割り込むハンターの姿があった。
ハンター曰く、
「このR7の搭乗者は知り合いである」
「この勝負を預けて欲しい」
そう言って譲らなかった。
戦いはここだけでは無い。
シラクサ基地全体で戦火は上がり続けている。たった6機に執着し、もめている間にも被害は拡大していく現状がある。
戦っていたハンター達は6機をあなた達に預ける事を選び、その場から離れていった。
「だが、暴走した強化人間が正気に返ったという報告はないし、こいつらのお陰で空母にいた連合軍兵2253人は脱水と低栄養で生死の境を彷徨い、こいつらのお陰で仲間が何人か死んでいる事を忘れるな。一時の情に流されて変な気を起こすなよ」
そう、あなた達に告げて去って行った。
1人の少女の話をしよう。
彼女はシチリア島の片田舎で生まれ育った。
そして齢9つにして脳腫瘍が見つかった。
以来、彼女は白い壁の中での生活を余儀なくされた。
手術が必要だったが、腫瘍の発生部位が非常に高度な技術を要する位置だったため医療費も高額であり、また、そんな技術を持った医者もいなかった。
少女は日々頭痛に悩まされながら、ただただベッドに横になる日々を送った。
そんなある日、彼女の元に1人の軍人が現れた。
彼女の持つある細胞が、強化人間への適応を認めたという報告だった。
連合軍に入り、軍人として生涯を全うすると誓うならば、手術費も軍が負担するという申し出だった。
少女は笑って言った。
「受けます。だって、魔法少女になれるのよ? こんな素敵な事って無いわ!」
それが少女……ドロシーと呼ばれた彼女が強化人間になった経過だった。
「どうして名前がないの?」
無垢な少女は名前を持てなかった少年達にそう問うた。
「誰も付けてくれなかったからさ」
「捨てられたから、こっちも捨ててやったんだ」
「いつ死ぬかも分からないんだし、“ネームレス”で十分さ」
戦争孤児である彼らは半分諦めと半分怒りを込めてそう返した。
彼女は、彼らを“ナンバー”で呼ぶ事にはじめは酷く躊躇したが、彼らがたとえ番号であっても己の“初めて貰った名前”なのだと気付いてからは、親しみを込めて彼らの“名前”で呼ぶことにした。
ネームレスだった少年の1人は、彼女の戦闘センス、身体能力の高さを目の当たりにした時に自分達とは違うと感じたことがあると零したことがある。
だが、嫉妬することは無かった。
「私の班の人間は、誰ひとりだって死なせないんだから!!」
そう宣言した瞳は真剣そのもので。ひとたび戦場に出ればそんな事は不可能に近い事は誰もが知っていたのに。それでも信じたくなる意志を感じさせた。
だから、誰もが幼い彼女を信頼し、その指示に従った。
――最期の別れの瞬間まで。
●Cruel story
メッシーナ基地、シラクサ基地でハンター達の突入作戦が開始されると同時に、海上には一隻の空母が発見された。
カターニア基地から鹵獲された空母である事は直ぐ様判明し、連合軍はこれの奪還もハンターへの依頼として追加したが、空母はシラクサ基地へと接近、同時に鹵獲していたCAM67機を投入。
戦場はさらに激化した。
その戦場で、一際目を引いたのがピンクを基調としたR7エクスシアとその周囲を護る10機のR7エクスシアだった。
攻守支援のバランスに優れ、他の暴走強化人間達と違い連係攻撃を確実に打ってくるその戦い方はまるで大規模作戦などで見るハンター達の小規模小隊のようでもあった。
だが、所詮はハンターと強化人間であり、地力が違いすぎた。
一機沈み、二機が倒れ、残り6機となったその時。
「待ってくれ!!」
割り込むハンターの姿があった。
ハンター曰く、
「このR7の搭乗者は知り合いである」
「この勝負を預けて欲しい」
そう言って譲らなかった。
戦いはここだけでは無い。
シラクサ基地全体で戦火は上がり続けている。たった6機に執着し、もめている間にも被害は拡大していく現状がある。
戦っていたハンター達は6機をあなた達に預ける事を選び、その場から離れていった。
「だが、暴走した強化人間が正気に返ったという報告はないし、こいつらのお陰で空母にいた連合軍兵2253人は脱水と低栄養で生死の境を彷徨い、こいつらのお陰で仲間が何人か死んでいる事を忘れるな。一時の情に流されて変な気を起こすなよ」
そう、あなた達に告げて去って行った。
リプレイ本文
●鐘も聞かずに死んだ者達
銃声が鳴り響いた。
遠目で見ても分かる程の血飛沫が散る。
『どうして』
誰もの共通の思いだった。
こんな筈ではなかった。
またいつか笑いあえると、それが『今』ではなかったとしても。
こんな形での『さようなら』なんて誰も望んでいなかったのに。
衝撃に身体は空中へと飛ぶ。
それは、まるでスローモーションのように弧を描きながら。
実際には瞬くほどの間しかなかったけれど。
鮮やかに、視界を奪った。
「――――――!!!!!」
叫び、名を呼ぶ声に返る言葉は、ない。
●大砲の上にはうつろな目をしたしゃれこうべ
(……ありがとう……この場を任せてくれた仲間達……必ず良い結果に繋げる)
走り去るハンター達に背を向けたまま、クレール・ディンセルフ(ka0586)は心の中で礼を告げた。
モニターにはピンクの機体を含めた6機が映し出されている。クレール達が場を譲って貰っている間に彼らは彼らで何らか打ち合わせをしたのか、フォーメーションを整えようと各々武器を構え動いている。
「事情はよくわからねぇが」
上空で待機していたボルディア・コンフラムス(ka0796)の声がトランシーバーから疑問を投げかける。
「目の前の機体の搭乗者が『知り合い』かどうか、どうしてわかる?」
ボルディアはここに残った4人の中で恐らく最も冷静に状況を見ていた。
それは空から俯瞰して見る事が出来たという物理的な理由ももちろんだが、誰よりも戦場に身を置いた数が多く、そしてこの戦場に、強いては眼下の6機に余計な思い入れも持たない唯一の人物であった事もある。
「……おっしゃること、ごもっともですね」
マッシュ・アクラシス(ka0771)がため息交じりに頷いた。
自分としても意外ではある。
物見遊山のつもりで降りたった秋葉原の街でたまたま出会った少女。
次に会ったときは悪趣味な鬼ごっこへの強制参加。
二度会っただけだった。ただそれだけ。
今回だってたまたまシチリア島にある軍事施設での強化人間暴走事件の中に彼女がいたという報告書を読んだ後に緊急依頼が飛び込んで来ただけ。
労力のわりに報酬は少ない。正直、倍額貰ってもいいだろうとすら思う。
だが、二度あった縁で、三度目があったならそれはもう、関わるだけの十分な理由としていいだろう。
「……まあ、あの自己主張の激しい機体がそうだとは限りません、か?」
『彼女』の機体だけがどうしてあのような特殊な配色を赦されているのか、その理由は知りようも無い。
「知った顔、聞いた名前、よくある話……今この場の何が相手であろうとこの場ですることは変わらない、と。そうではありませんか?」
とはいえ、マッシュ自身人殺しは好きではないし生きていればそれが何よりと思いつつも敢えて言葉にはせず。
マッシュの返答にボルディアは呵々と笑った。
「確かにな」
「ふっふー、疑問は解消したかな? ではそろそろ作戦会議と行きたいところだけれど、構わないかな?」
リーリーのエールデに騎乗したイルム=ローレ・エーレ(ka5113)が人差し指で己の唇をノックしながら問う。
「まず、今回は遭遇戦。しかも彼らにとってはハンターがこれほど早く到着するとは思っていなかっただろう。ゆえに彼らが出る手段は大きく2つ。強硬手段にて少しでも爪痕を残して散るか、撤退するか。ボクの見立てとしては撤退を最優先しそうかな」
「どうしてそう思う?」
ボルディアの問いに答えたのはイルムではなく、今まで沈黙を守っていたカール・フォルシアン(ka3702)だった。
「ハンターを呼ぶためのマーカーが設置されていたのは元々この基地にあった物だけ。ということは『彼女』達が載ってきた空母はまだ無事なはずです。今回新たに暴走した仲間や彼らが鹵獲した物を詰め込めれば、被害を最小に抑え立て直すことも可能かも知れません」
「チェルト! つまり……」
「この場から逃がさないよう、速やかに全機を行動不能へ追い込む!」
クレールが単純明快な解を導き出す。
「ははっ、そいつはわかりやすくていい」
ボルディアが相棒であるワイバーンのシャルラッハの首を撫でた。
「そんじゃ、行くぜ、シャル!」
ボルディアの声と共に、シャルラッハは朝日を受けて輝く緋色の翼を羽ばたかせた。
「オーララ。作戦会議は終わってないって言うのに!」
そう嘆くイルムも既にエールデを駆けさせている。
「大丈夫! 敵は全機エクスシア……前にパーツ単位で集めた機体! 知っている、データもある!」
クレールが力強く頷く。
「『新型魔導エンジンを内蔵する特徴的な肩部も含む両腕』……つまり、肩部エンジンを止めれば機体は完全に止まる!」
クレールは断言し、機導の徒を繰る。その時、自分の発言と眼前の敵データに得も言われぬ違和感を感じたが、時に強い想いはその違和感を否定してしまう。
――その事実に気付くのはもう少し後のこと。
●私たちの人生はもう終わりました
「やっぱり仕掛けてきやがったか……!」
前方にいた機体を中心に光の翼の結界が展開された。
地上にいる4人からすれば、前衛として構えている2機以外は障壁の向こう側だ。
それは上空にいたボルディアですら横から回り込まなければ影響を間逃れない。
「彼らがスキルウェポンを持っていないという補償はありません。用心して下さい!」
カールが叫んだ次の瞬間、光の翼の向こうからマテリアルライフルによる光線が放たれ、カールとクレールはすんでの所でそれを躱した。そこを、サーベルを持った機体とハルバードを持った機体が襲いかかる。
「っく!」
狙われたクレールはウンヴェッターを盾代わりにカリスマリス・コロナへの直撃を避けんとするが、そこにさらに飛び込んで来た光線に頭部、そして両脚を撃ち抜かれた。
「クレールさん!!」
「大丈夫、まだ戦える……! 忘れてた。スキルトレース、ドロシーの得意は機導師系!」
「つまり、他5人も何らかのスキルを使ってくる可能性がありますね」
旗色が悪い。そうマッシュは密かに眉間にしわを寄せた。
「反撃、行くよ!」
素早く体勢を整えたクレールが号令を掛ける。
「『炎龍』!!」
クレールのマテリアル、そして出力を上げたコロナから吐き出されるファイアスローワーは正しく怒れる龍の咆吼の如く。
合わせカールもまたコロナの炎に巻きこまれないよう炎を噴射させる。
支援機を狙いたいマッシュだったが、光の翼に遮られては射線も定まらない。その為、クレールの策である『肩』を狙い引き金を絞った。
その光の翼すら意ともしなかったのがイルムだった。
「見えなくとも」
銀の刀身を持つレイピアの切っ先が日光を受けて鋭く光った。
「そこだね」
光の翼を纏う支援機はその中心にいるのだと知っていれば後は、その後ろにいる射撃型がどこにいるのかを把握出来ればいい。
ボルディアから届いた位置情報で脳内に地図を描いたイルムの行動は一見すれば、その場で剣を突いただけに見えた。
しかし、その瞬間、光の翼の向こうで斬撃の音が轟いた。
ボルディアは次元斬が支援機と射撃型の一体を切り刻む様を見て軽く口笛を鳴らす。
シャルを急加速させ、すれ違い様にフルグルで一撃を与えると再び空へと舞い上がる。
ピンクの機体と射撃型2体が自分達を見ている事に気付いたボルディアは唇の端を上げ獰猛な笑みを浮かべる。
「そうだそれでいい。前だけじゃない、上にもいるぞってな」
敵のR7はハルバードを手足のように操る。振り下ろされた斧刃をウンヴェッターの柄で逸らしたところを、別機のサーベルに襲われコロナは横に飛ぶようにその凶刃を躱す。
幾度か剣を交え、銃弾を掠め、その機体をぶつけ合うその度に、クレールの中で1つの思いが形作られていく。
「……この戦い方、貴方、セブンさんじゃ!?」
「ウー……ン。ボクもそんな気がしていたんだけど……連携の取れたこの動き、やはり、ドロシー君と同じ班にいた人達かな?」
「そんな……!」
カールもまた、火星から撤退する戦いの中で見た彼らの戦い方を思い出す。
ドロシーを中心に戦っていたあの時はカラフルなカラーリングだった彼ら。
「僕達と一緒に帰りましょう! ドロシーさん、セブンさん、ファイブさん、イレブンさん!」
思わずカールが手に取ったのはソニックフォンブラスター。
「11? 全員ナンバーで呼んでたのか?」
聞き慣れない呼び方にボルディアが首を傾げる。
「そうだね。ボクは勝手に『ナンバーズ』と呼ばせて貰うけど……宇宙で会った時の彼らは番号で呼び合っていたね」
イルムの返答にボルディアが片眉を大きく跳ね上げた。
「つーこたぁ、ドロシーの隊には自身も含めて"最低12人"いる筈だ。だが今ここにいるR7は11機……1人、足りねぇよな?」
「ノン。呼称とこの場にいる人数は比例しない筈だよ」
イルムが首を傾げ、あの戦場にもいたクレールは首を横に振る。
「私たちは彼らが何人の班だったのか知りませんが……火星偵察からの撤退戦の時、サーティーンと呼ばれていた人もいたんです」
あの戦い以来見かけていないのは、彼女は別の戦場へ行ってしまったのか、それとも……
そういえば、ドロシー自体もあの戦いではナンバーで呼ばれていた気がした。
「……っち。つまり、直接顔付き合わせて聞くしかねえのか」
シャルラッハの尾を絡める程のギリギリの距離で銃撃を回避しながら、ボルディアが苛立たしげに独りごちる。
『短期決戦』それを掲げていた5人だが、そも、殺意のない5人は攻防のバランスの良い連携のとれた6機に対し未だ決定打を出せないままでいた。
●誰も花一つ手向けてはくれないまま
「ダメだな、二体しか範囲内にいない」
「オーララ。なら仕方ないね、ボクもそちら側へ回るとしよう」
ボルディアからの報告にあと2回しかない次元斬を無駄撃ちするわけにはいかないイルムが、エールデの脚力を活かし、近接の機体の脇をすり抜け光の翼を飛び越えて敵陣の中へと着地した。
ピンクの機体が視界の左端に飛び込んでくる。
「ドロシー君……」
懐に飛び込んで来たイルムを警戒するように機械銃を装備した2体のR7が機体を僅かに向ける。
「俺も居るって忘れんなよ!!」
シャルラッハをギリギリまで近づけ、射撃型R7の左の肩口へとモレクを叩き込んだ。
金属と金属がぶつかり、その激しさに火花が散る。
直後、銃口が火を吹きシャルラッハの頬を掠める。
「っち。片方だけじゃ止まらねぇか!? それとも完全に切り落とす必要があるのか……?」
R7の左腕はダラリと力なく垂れ、制御を失っているように見えた。しかし、機体そのものは止まっていない。
さらにエールデとシャルラッハがその翼にデルタレイを受け、悲痛な鳴き声を上げる。
『隙あらば肩を狙う』。その戦い方に気付いたらしい前衛2機はお互いに付かず離れずの絶妙な距離感を保ったまま、一体を狙うという攻撃方法を取ってきた。
彼らの戦い方は柔にして剛。実戦を生き抜き、ハンターからの直接指導を受け、日々の訓練を真面目にこなしてきたその結果が見て取れる戦い方だった。
「これだから、知性のある敵は厄介ですね」
マッシュは最後のスペルシールドをコロナへと展開し、サーベルの一撃を受けた障壁は霧散し消滅する。
「マッシュさん、有り難うございます!」
ハルバードの一撃をギリギリのところでウンヴェッターの柄ではじき体勢を整えたクレールが、額の汗を乱暴に拭った。
「しかし、これでスペルシールドも使い果たしました。ここからが正念場ですよ」
「諦めません、必ず一緒に帰ります!」
カールはクレールと敵との距離を計算し直すと、グリップを握り直した。
逃げるかと思われていた6機はハンター達を相手取りその場に留まっている。
それはハンター達にとっては有り難い事だが、逆に何故逃げないのかという疑問を抱かせる。
今や基地の至る所で火の手は上がっている。
いくら強化人間達の方が数が多いとは言え、ハンターとの実力差を考えれば制圧はかなり難しい状況に追い込まれているはずだった。それでも、逃亡しないその理由が分からない。
2体に狙われているコロナはサーベル持ちのR7にハルバードを振るうと見せかけて、ポレモスSGSによる弾丸を撃ち込むが、敵は盾でその銃撃を弾いた。
「中々やりますね……!」
「ドロシーさん!!」
カールの呼びかけに応えは返らない。光の翼の向こうにいる彼女が何を思い、何を考えているのか分からないまま剣戟と銃声だけが響き渡る中、トランシーバーのチャンネルが変わってしまっていて彼女達と会話出来ない事実に唇を噛む。
後方で倒れているR7を見た時に、何か、彼らと会話出来る方法を思いついたような気がしたのに、戦闘が始まってからそれが何であったかを忘れてしまった。
ただ分かるのは、彼らの強い意思。『仲間を見捨てない、全員で目的を達成する』そんな想いが彼らの動き方から伝わってくる。
だからこそ、彼らを見捨てられない。もう何度目になるかわからない言葉を、ソニックフォンブラスター越しに叫んだ。
「一緒に帰りましょう! ドロシーさん!」
時を同じくして光の翼の奥では、ボルディアがシャルラッハの首を撫でた。
シャルラッハはそれだけでボルディアの意思を汲み取り空を駆る。愚直なまでに真っ直ぐに左腕の動かないR7に向かって。
ボルディアはシャルラッハの背に立ち、柄を強く握り込む。ただ直と敵を見据え、大きく息を吸い込む。そして斧刃を振るった。
それはまるで竜の上にもう一体の獣がいる様だった。上から下から炎を纏った牙の如き刃がR7を襲い、その衝撃にガードに徹する他無かったR7は両腕を失い片膝を折った。
「これで、どうだ!?」
ボルディアが喜色を漲らせた瞬間、R7の胸部にマテリアルが集中したのが分かった。
「っちぃ!」
「ボルディア君!」
イルムの叫び。シャルラッハに回避を取らせようとするが、遅い。一条の光線がシャルラッハを貫いた。
「んだよ! 腕を落とせば沈黙するんじゃなかったのかよ!? クレール!!」
「そんな……っぐぅっ!」
「行かせません!!」
サーベルによる強撃をまともに受け、コロナが転倒。そこへハルバードが襲いかかるが、それはマッシュのヘイムダルが割り込む形で阻止する。
敵の直撃を受けたことより、転倒させられたことより、クレールにとっては予測が外れたことの方がショックが大きかった。
どうしてクレールが頑なに肩にこだわったのか。それはR7エクスシアの4つのパーツ。それぞれの解説に答えがある。
エクスシアパーツA……リアルブルーの月面基地崑崙から送られた補給物資を集めたもの。新型CAM「R7エクスシア」の頭部に該当するパーツ。新型カメラパーツと魔導アンテナでVOIDの妨害に強い。
エクスシアパーツB……リアルブルーの月面基地崑崙から送られた補給物資を集めたもの。新型CAM「R7エクスシア」の胴体に該当するパーツ。背面に展開するマテリアルリフレクターも含む。
エクスシアパーツC……リアルブルーの月面基地崑崙から送られた補給物資を集めたもの。新型CAM「R7エクスシア」の脚部に該当するパーツ。ハイヒールとスカートのような両足パーツ。
エクスシアパーツD……リアルブルーの月面基地崑崙から送られた補給物資を集めたもの。新型CAM「R7エクスシア」の腕部に該当するパーツ。新型魔導エンジンを内蔵する特徴的な肩部も含む両腕。
クレールが惑わされたのはこの『新型魔導エンジンを内蔵する特徴的な肩部も含む両腕』この表記だ。
確かに腕部には新型魔導エンジンを内蔵しているが、それは『R7の動力源、その全て』とは書かれていない。
つまり、これは腕のパーツ説明であって、それ以上でも以下でもなかったのだ。
R7だけではない。他のユニットに関しても“ここを破壊すれば確実に止まる”ような一部分が全ての動力を担っているような部分は存在しない。
強いて言えば搭乗型ユニットはコックピットを破壊する事、それが唯一無二の急所であり弱点なのだが、クレールはこのパーツ説明を必要以上にしっかりと覚えていた。故の思い込みと勘違いだった。
「どうする?」
「……作戦は変わらないよ。全機・全員の無力化。逃走の絶対阻止」
マッシュの問いにイルムが笑みながら答える。
「そうですね。搭乗者を殺さずに確保するだけです」
「全く難易度爆上げじゃねぇか」
カールの声にボルディアは唸るが、クレールは前を睨み吼えた。
「だけど、やるしかない、やってみせる。紅世界の機導師を! なめるなぁっ!!」
その時。光の翼が失われた。視界が通る。奥にいるピンクの機体が全員の視界に止まる。
「ドロシーさん……」
魔法少女になりたいといった彼女。彼女は今も魔法少女なのか、それとも本当に『魔女』になってしまったのか。それを知るためにも、この戦いは止めるわけにはいかなかった。
●もしここで罪を償えないのなら
「オーララ。これは出し惜しみし過ぎたかな」
お互いにスキルをほぼほぼ使い切って混戦状態となった戦場をエールデに走らせながらイルムが嘆く。
あと2回使える次元斬は空間を無差別に切り裂く技だ。誰かがR7に張り付くような形になってしまっては、仲間を巻きこんでしまうゆえに使えない。
無論、ハンター達も次元斬の性質は分かっているため、敵を寄せよう、引き離そうと動くのだが、それを見透かしたように距離を詰めてくる。
「……しまっ!」
マッシュの操るヘイムダルの左足、その膝関節の部分を凶弾が貫き、ヘイムダルが傾ぐとその隙を見逃さずサーベルのR7がヘイムダルへと走り出す。
「マッシュさん!!」
「ただでは、転びませんよ……!!」
マッシュはまだ生きている右脚をバネに近付いて来るR7に低姿勢からのタックルをかますとサーベルのR7の脚部にしがみついた。
「今です! クレールさん!!」
「だぁああああ!!」
マッシュの叫びに応えるように、クレールはコロナの刃に金色のマテリアルを乗せ渾身の力を込めて振り下ろした。
激しい金属同士の衝突音と共にサーベルを持つ右腕が肘関節から切り落とされる。
一瞬の動揺。カールはその隙を見逃さなかった。白夜が放つアサルトライフルの弾丸は的確にR7肩関節を貫き、盾の重さで左腕は地面へと落ちた。
「やるじゃん!」
口笛を鳴らして口角を上げたボルディアはピンクのR7を見る。両腕を失った射撃型は流石にもう沈黙していたが、残る一体射撃型ともう一体の支援型が執拗にシャルラッハを狙う為うまく近づけないでいた。
いくらライフリンクでシャルラッハと生命力をリンクさせているとはいえ、相手がどういった能力を隠し持っているかその手の内が分からない中、2体を無視して特攻を仕掛けるなど相棒を危険に晒す事は出来なかった。
無論、イルムもボルディアをサポートしようとエールデを走らせる。撹乱と接近を兼ねたその動きに気付いたピンクのR7が機導砲を放ち、支援型が電気鞭の一撃を放つ。その美しい羽根が空に散り、翼が血の色に染まる。
「もう少しだけ頑張っておくれ」
ヒールでエールデを癒やし、イルムは機を待つ。
立ち上がれなくとも、銃を構えることは出来る。マッシュは地に伏せたままのヘイムダルからダウロキアを構え引き金を引いた。銃弾は近接型の左のカメラアイを貫通。白夜とコロナから噴出した炎のマテリアルに包まれたR7はハルバードの柄に縋るように両膝を付くと沈黙した。
「噛み砕けぇっ!!」
翼を貫かれながらもシャルラッハが射撃型へと肉薄すると、その背からボルディアの上下からの二振りが獰猛な牙と化す。
「そのまま離れてて!」
イルムが花弁の幻影を散らせながら優雅に右腕を掲げ、その鋭利かつ繊細な剣先はボルディアの攻撃により脆くなっていた射撃型の両肘と両膝の接続を切り離した。
「続けて行くぜぇ!」
ボルディアの咆吼に応え、シャルラッハは空を切る。ピンクのR7に肉薄し、その斧を振り上げようとした瞬間、シャルラッハがひと鳴きすると唐突に動きを止め、高度を下げた。
「ッ!? シャルッ!?」
シャルラッハの悲痛な声に視線を向ければ、電気鞭がシャルの左脚を絡め取り、その動きを封じていた。
「っこのッ!」
「ボルディアさん、動かないで!!」
前衛2機がいなくなったことで一気に前線を押し上げたコロナと白夜が鞭の柄を握る支援型へと向かう。
最初にヘイムダルによるダウロキアの弾丸が頭部を捉え、大きくたたらを踏んだところにカールのデルタレイが頭部、胴体、左肩を貫く。イルムの剣が背後から左肩の傷を広げ、コロナのポレモスSGSが火を吹き左肩を落とした。
支援型を救おうとするようにピンクのR7から3本の光線が放たれるが、それ如きで倒れる者はいない。
その時、鞭の柄をわざと手放したR7が小銃へと手を伸ばした。バランスを崩したシャルラッハの上でボルディアは転落を防ごうとその背に身を伏せる。シャルラッハは胴体に銃弾が撃ち込まれながらも何とか体勢を整え、決して主を落とず上空へと逃れた。
ボルディアと生命力をリンクさせているシャルラッハには微々たるダメージでしかないが、ボルディアの怒りを買うには十分だった。
シャルラッハは急加速するとその獣爪で支援型の頭部を抉る。その背後、駆けつけたコロナ、クレールの機導剣により小銃ごと右の手首から先が切り離された。
「残るは」
「あと一体」
「ドロシーさん!」
5人のハンターに狙われて、無事に逃げ果せる者がどれほどいるだろうか。
ピンクのR7はそれでも逃げなかった。ヘイムダルからの銃弾を棍で弾き、白夜のプラズマシューターに左肘を破壊されても、残る右腕1つで棍を操りイルムの攻撃を凌ぎ、機導砲で反撃を試みる。
しかし、そこまでだった。ここまでの戦闘での負傷が蓄積されていたのだろう。
「『炎竜』!!」
コロナを通して放たれたファイアスローワーはついにピンクのR7の脚を止め、白夜の最後のプラズマシューターにより右の肩を粉砕された。
ボルディアはピンクのR7へとシャルラッハを向かせる。
両腕を落とされてもなお、その闘争心を失っていないことは嫌と言うほど伝わってくる。故に、ボルディアは獰猛に微笑んでみせた。
「あぁ、とっ捕まえてやるぜ!」
祖霊をその身に宿したボルディアは炎狗の如く。やにわに振り上げられた前脚は振り下ろされると同時にR7を掴みその動きを封じた。
「イルム!!」
「ボクは君のナイトだ。でも今は北の魔女となって魔よけのキスを贈ろう」
ともすれば頼りなくも見える程の細さを持ちながら、その一撃は壁をも穿つ。そんなレイピアの切っ先から放たれた次元斬はピンクの機体を飲み込むように花開いた。
全身に傷を負ったR7は片膝をついた形で動きを止めた。
「よし」
ボルディアはシャルラッハをR7の前に留めるとその背を借りてコックピットへと手を伸ばした。
緊急脱出用のレバーを引くと、鈍く、重たい音を立ててコックピットが開かれ……止まる。どうやら変形した装甲が引っかかっているらしい。
ボルディアは僅かな隙間に両手を掛け、力尽くで引っ張りこじ開けた。
その、奥にいる人物を見ようとボルディアが目を眇めたその時。
――銃声が、鼓膜をつんざいた。
●また生まれ変わっても汚れた血を流すのでしょう
全員が、一瞬凍り付いたようにその場から動けなかった。
「……何故、来た?」
硝煙が銃口から上る。その奥から声は聞こえた。
「『もう“迷い子(ドロシー)”はいない』と言ったはずだ。何故来た? 何故私たちの邪魔をするか」
「……ドロシー、君」
その姿を初めて見る者は息を呑んだ。報告書にあった通り、黒い。鮮やかなピンクの髪が余計にそれ以外の黒さを際立たせる“魔女”のような姿。
「ドロシーさん! 悪い魔女なんかに負けない……もし負けても、再び立ち上がれる、笑顔になれる……それが魔法少女じゃないんですか!?」
「私が“悪い魔女”だからか? 私たちは家を捨てた。名を捨てた。中には最初からそれらが無かった者もいた。戦場で死ぬことこそ最大の誉れと言われ、宇宙に散った者、この惑星で散った者にすら墓もない。ただ戦う事でしか生きられなかった」
カールの叫びに少女は泣いているような、笑っているような、彼女には不釣り合いの大人びた表情で語る。
「そんな私たちに神は言った。世界を変えよと。得た力で奪われた物を取り返し、この惑星に再び祝福をと」
「……神……?」
唐突に現れた言葉に、カールは目を瞬かせる。
「……だが、その夢も潰えた。私を信じ戦ってくれた仲間の元へ行こう」
銃口は静かに少女のこめかみへと向けられた。
「ドロシーさんっ!!」「ドロシー!!」
口々にその名を呼び、駆けだそうとしたその時、コックピットに伸びた手は、一瞬にしてその身体を押し上げ、ドロシーへと肉薄する。
――再び、銃声が響き渡った。
誰もが呆気にとられる中、身を起こしたのはボルディア、その人だった。その腕には脱力した状態で抱えられているドロシーの姿。
「ぼ、ボルディアさんっ!?」
「大丈夫だ。このガキに銃弾は当たってない」
「いや、そうじゃなくて……怪我は!? 頭は……!?」
カールが慌てて白夜を駆って近寄る。
「あぁ、ちょっと擦った。俺としたことが油断したな……当たり所が悪かったんだか、派手に血は出てるけど別にどうってこたぁねぇ」
「ボルディア君! ドロシー君は!?」
「あぁ、ちょっと銃奪うついでに頭突きかましたら伸びちまったみたいだ」
「……凄いな」
呆気にとられたマッシュがぼそりと呟けば、隣に居たクレールは脱力してグリップに額を埋めた。
「ってなんだよ、俺に意識が向かないようにこのガキと会話してたんじゃないのかよ?」
ボルディアの呆れ声に、マッシュが小さく笑い、イルムとカールは視線を逸らして天を仰いで見せたのだった。
●どうせなら愛のために死にたかった
シラクサ基地の制圧はその後暫くして完遂された。
連合軍兵側の被害も甚大だったが、その被害は一日がかりで調査された挙げ句に非公開とされた。一方で囚われた強化人間は約50名。それ以外の強化人間達は戦死、もしくは自死だとされた。
「『君たちの意見を受けずとも、人道と軍規に則った対応をする』とのことだよ」
イルムが両肩を竦めた後、沖へと向かう船に視線を向けた。
「恭子さんに連絡をとりたかったけど、出来ないの一点張りでした」
両肩を落としたクレールに、カールが首を横に振って微笑む。
「いえ、クレールさんは粘り強く交渉して下さったと思ってます。有り難うございました」
恭子はフラットに覚醒者にも強化人間にも対応出来る稀有な軍人だが、あぁ見えて位は高い。現場に出てくるタイプの軍人であるし、素が“アレ”なので殆どの覚醒者はすっかり失念してしまっているが。
恭子自身が慰労会などで顔を出すゆえに、覚醒者の多くが逢ったことも話したこともあるだろうが、通常“知り合い”程度が面会を求めたところで逢える人物ではないのだ。
そのうえラズモネ・シャングリラは現在整備中であり、その場も秘匿されていることから、余計に連絡が取れなくなっているのだろう。
「……神、か」
カールは目を伏せる。ドロシーが語った言葉を反芻し、自問する。
「まるで泣いているようだったね」
イルムの言葉にカールは弾かれたように顔を上げた。
「界冥作戦で共に戦ったナンバーズの子たちもボクは覚えている。彼らがスペリオルになった経緯は分からない。けれど、想像することはできる。ドロシー君の言葉を借りるなら、家を捨て、名を捨て、もしくは最初から持たなかった者達」
軍人とは多くがそういう経緯を持つ者だと聞いた。特に、狂気のVOIDが現れるようになってからは孤児になった子らを積極的に徴兵するようになったとも。
「愛を知らないのなら、ボクが教えよう。……だから目を覚まして欲しいね」
徐々に姿を小さくしていく戦艦には、この戦いで昏睡状態に陥り保護された強化人間達が乗せられている。当然、その中には、ドロシーも含まれていた。
「……はい」
豆粒よりも小さくなって、視界から船影が消えるのとほぼ同時に5人もまたクリムゾンウェストへと戻ったのだった。
銃声が鳴り響いた。
遠目で見ても分かる程の血飛沫が散る。
『どうして』
誰もの共通の思いだった。
こんな筈ではなかった。
またいつか笑いあえると、それが『今』ではなかったとしても。
こんな形での『さようなら』なんて誰も望んでいなかったのに。
衝撃に身体は空中へと飛ぶ。
それは、まるでスローモーションのように弧を描きながら。
実際には瞬くほどの間しかなかったけれど。
鮮やかに、視界を奪った。
「――――――!!!!!」
叫び、名を呼ぶ声に返る言葉は、ない。
●大砲の上にはうつろな目をしたしゃれこうべ
(……ありがとう……この場を任せてくれた仲間達……必ず良い結果に繋げる)
走り去るハンター達に背を向けたまま、クレール・ディンセルフ(ka0586)は心の中で礼を告げた。
モニターにはピンクの機体を含めた6機が映し出されている。クレール達が場を譲って貰っている間に彼らは彼らで何らか打ち合わせをしたのか、フォーメーションを整えようと各々武器を構え動いている。
「事情はよくわからねぇが」
上空で待機していたボルディア・コンフラムス(ka0796)の声がトランシーバーから疑問を投げかける。
「目の前の機体の搭乗者が『知り合い』かどうか、どうしてわかる?」
ボルディアはここに残った4人の中で恐らく最も冷静に状況を見ていた。
それは空から俯瞰して見る事が出来たという物理的な理由ももちろんだが、誰よりも戦場に身を置いた数が多く、そしてこの戦場に、強いては眼下の6機に余計な思い入れも持たない唯一の人物であった事もある。
「……おっしゃること、ごもっともですね」
マッシュ・アクラシス(ka0771)がため息交じりに頷いた。
自分としても意外ではある。
物見遊山のつもりで降りたった秋葉原の街でたまたま出会った少女。
次に会ったときは悪趣味な鬼ごっこへの強制参加。
二度会っただけだった。ただそれだけ。
今回だってたまたまシチリア島にある軍事施設での強化人間暴走事件の中に彼女がいたという報告書を読んだ後に緊急依頼が飛び込んで来ただけ。
労力のわりに報酬は少ない。正直、倍額貰ってもいいだろうとすら思う。
だが、二度あった縁で、三度目があったならそれはもう、関わるだけの十分な理由としていいだろう。
「……まあ、あの自己主張の激しい機体がそうだとは限りません、か?」
『彼女』の機体だけがどうしてあのような特殊な配色を赦されているのか、その理由は知りようも無い。
「知った顔、聞いた名前、よくある話……今この場の何が相手であろうとこの場ですることは変わらない、と。そうではありませんか?」
とはいえ、マッシュ自身人殺しは好きではないし生きていればそれが何よりと思いつつも敢えて言葉にはせず。
マッシュの返答にボルディアは呵々と笑った。
「確かにな」
「ふっふー、疑問は解消したかな? ではそろそろ作戦会議と行きたいところだけれど、構わないかな?」
リーリーのエールデに騎乗したイルム=ローレ・エーレ(ka5113)が人差し指で己の唇をノックしながら問う。
「まず、今回は遭遇戦。しかも彼らにとってはハンターがこれほど早く到着するとは思っていなかっただろう。ゆえに彼らが出る手段は大きく2つ。強硬手段にて少しでも爪痕を残して散るか、撤退するか。ボクの見立てとしては撤退を最優先しそうかな」
「どうしてそう思う?」
ボルディアの問いに答えたのはイルムではなく、今まで沈黙を守っていたカール・フォルシアン(ka3702)だった。
「ハンターを呼ぶためのマーカーが設置されていたのは元々この基地にあった物だけ。ということは『彼女』達が載ってきた空母はまだ無事なはずです。今回新たに暴走した仲間や彼らが鹵獲した物を詰め込めれば、被害を最小に抑え立て直すことも可能かも知れません」
「チェルト! つまり……」
「この場から逃がさないよう、速やかに全機を行動不能へ追い込む!」
クレールが単純明快な解を導き出す。
「ははっ、そいつはわかりやすくていい」
ボルディアが相棒であるワイバーンのシャルラッハの首を撫でた。
「そんじゃ、行くぜ、シャル!」
ボルディアの声と共に、シャルラッハは朝日を受けて輝く緋色の翼を羽ばたかせた。
「オーララ。作戦会議は終わってないって言うのに!」
そう嘆くイルムも既にエールデを駆けさせている。
「大丈夫! 敵は全機エクスシア……前にパーツ単位で集めた機体! 知っている、データもある!」
クレールが力強く頷く。
「『新型魔導エンジンを内蔵する特徴的な肩部も含む両腕』……つまり、肩部エンジンを止めれば機体は完全に止まる!」
クレールは断言し、機導の徒を繰る。その時、自分の発言と眼前の敵データに得も言われぬ違和感を感じたが、時に強い想いはその違和感を否定してしまう。
――その事実に気付くのはもう少し後のこと。
●私たちの人生はもう終わりました
「やっぱり仕掛けてきやがったか……!」
前方にいた機体を中心に光の翼の結界が展開された。
地上にいる4人からすれば、前衛として構えている2機以外は障壁の向こう側だ。
それは上空にいたボルディアですら横から回り込まなければ影響を間逃れない。
「彼らがスキルウェポンを持っていないという補償はありません。用心して下さい!」
カールが叫んだ次の瞬間、光の翼の向こうからマテリアルライフルによる光線が放たれ、カールとクレールはすんでの所でそれを躱した。そこを、サーベルを持った機体とハルバードを持った機体が襲いかかる。
「っく!」
狙われたクレールはウンヴェッターを盾代わりにカリスマリス・コロナへの直撃を避けんとするが、そこにさらに飛び込んで来た光線に頭部、そして両脚を撃ち抜かれた。
「クレールさん!!」
「大丈夫、まだ戦える……! 忘れてた。スキルトレース、ドロシーの得意は機導師系!」
「つまり、他5人も何らかのスキルを使ってくる可能性がありますね」
旗色が悪い。そうマッシュは密かに眉間にしわを寄せた。
「反撃、行くよ!」
素早く体勢を整えたクレールが号令を掛ける。
「『炎龍』!!」
クレールのマテリアル、そして出力を上げたコロナから吐き出されるファイアスローワーは正しく怒れる龍の咆吼の如く。
合わせカールもまたコロナの炎に巻きこまれないよう炎を噴射させる。
支援機を狙いたいマッシュだったが、光の翼に遮られては射線も定まらない。その為、クレールの策である『肩』を狙い引き金を絞った。
その光の翼すら意ともしなかったのがイルムだった。
「見えなくとも」
銀の刀身を持つレイピアの切っ先が日光を受けて鋭く光った。
「そこだね」
光の翼を纏う支援機はその中心にいるのだと知っていれば後は、その後ろにいる射撃型がどこにいるのかを把握出来ればいい。
ボルディアから届いた位置情報で脳内に地図を描いたイルムの行動は一見すれば、その場で剣を突いただけに見えた。
しかし、その瞬間、光の翼の向こうで斬撃の音が轟いた。
ボルディアは次元斬が支援機と射撃型の一体を切り刻む様を見て軽く口笛を鳴らす。
シャルを急加速させ、すれ違い様にフルグルで一撃を与えると再び空へと舞い上がる。
ピンクの機体と射撃型2体が自分達を見ている事に気付いたボルディアは唇の端を上げ獰猛な笑みを浮かべる。
「そうだそれでいい。前だけじゃない、上にもいるぞってな」
敵のR7はハルバードを手足のように操る。振り下ろされた斧刃をウンヴェッターの柄で逸らしたところを、別機のサーベルに襲われコロナは横に飛ぶようにその凶刃を躱す。
幾度か剣を交え、銃弾を掠め、その機体をぶつけ合うその度に、クレールの中で1つの思いが形作られていく。
「……この戦い方、貴方、セブンさんじゃ!?」
「ウー……ン。ボクもそんな気がしていたんだけど……連携の取れたこの動き、やはり、ドロシー君と同じ班にいた人達かな?」
「そんな……!」
カールもまた、火星から撤退する戦いの中で見た彼らの戦い方を思い出す。
ドロシーを中心に戦っていたあの時はカラフルなカラーリングだった彼ら。
「僕達と一緒に帰りましょう! ドロシーさん、セブンさん、ファイブさん、イレブンさん!」
思わずカールが手に取ったのはソニックフォンブラスター。
「11? 全員ナンバーで呼んでたのか?」
聞き慣れない呼び方にボルディアが首を傾げる。
「そうだね。ボクは勝手に『ナンバーズ』と呼ばせて貰うけど……宇宙で会った時の彼らは番号で呼び合っていたね」
イルムの返答にボルディアが片眉を大きく跳ね上げた。
「つーこたぁ、ドロシーの隊には自身も含めて"最低12人"いる筈だ。だが今ここにいるR7は11機……1人、足りねぇよな?」
「ノン。呼称とこの場にいる人数は比例しない筈だよ」
イルムが首を傾げ、あの戦場にもいたクレールは首を横に振る。
「私たちは彼らが何人の班だったのか知りませんが……火星偵察からの撤退戦の時、サーティーンと呼ばれていた人もいたんです」
あの戦い以来見かけていないのは、彼女は別の戦場へ行ってしまったのか、それとも……
そういえば、ドロシー自体もあの戦いではナンバーで呼ばれていた気がした。
「……っち。つまり、直接顔付き合わせて聞くしかねえのか」
シャルラッハの尾を絡める程のギリギリの距離で銃撃を回避しながら、ボルディアが苛立たしげに独りごちる。
『短期決戦』それを掲げていた5人だが、そも、殺意のない5人は攻防のバランスの良い連携のとれた6機に対し未だ決定打を出せないままでいた。
●誰も花一つ手向けてはくれないまま
「ダメだな、二体しか範囲内にいない」
「オーララ。なら仕方ないね、ボクもそちら側へ回るとしよう」
ボルディアからの報告にあと2回しかない次元斬を無駄撃ちするわけにはいかないイルムが、エールデの脚力を活かし、近接の機体の脇をすり抜け光の翼を飛び越えて敵陣の中へと着地した。
ピンクの機体が視界の左端に飛び込んでくる。
「ドロシー君……」
懐に飛び込んで来たイルムを警戒するように機械銃を装備した2体のR7が機体を僅かに向ける。
「俺も居るって忘れんなよ!!」
シャルラッハをギリギリまで近づけ、射撃型R7の左の肩口へとモレクを叩き込んだ。
金属と金属がぶつかり、その激しさに火花が散る。
直後、銃口が火を吹きシャルラッハの頬を掠める。
「っち。片方だけじゃ止まらねぇか!? それとも完全に切り落とす必要があるのか……?」
R7の左腕はダラリと力なく垂れ、制御を失っているように見えた。しかし、機体そのものは止まっていない。
さらにエールデとシャルラッハがその翼にデルタレイを受け、悲痛な鳴き声を上げる。
『隙あらば肩を狙う』。その戦い方に気付いたらしい前衛2機はお互いに付かず離れずの絶妙な距離感を保ったまま、一体を狙うという攻撃方法を取ってきた。
彼らの戦い方は柔にして剛。実戦を生き抜き、ハンターからの直接指導を受け、日々の訓練を真面目にこなしてきたその結果が見て取れる戦い方だった。
「これだから、知性のある敵は厄介ですね」
マッシュは最後のスペルシールドをコロナへと展開し、サーベルの一撃を受けた障壁は霧散し消滅する。
「マッシュさん、有り難うございます!」
ハルバードの一撃をギリギリのところでウンヴェッターの柄ではじき体勢を整えたクレールが、額の汗を乱暴に拭った。
「しかし、これでスペルシールドも使い果たしました。ここからが正念場ですよ」
「諦めません、必ず一緒に帰ります!」
カールはクレールと敵との距離を計算し直すと、グリップを握り直した。
逃げるかと思われていた6機はハンター達を相手取りその場に留まっている。
それはハンター達にとっては有り難い事だが、逆に何故逃げないのかという疑問を抱かせる。
今や基地の至る所で火の手は上がっている。
いくら強化人間達の方が数が多いとは言え、ハンターとの実力差を考えれば制圧はかなり難しい状況に追い込まれているはずだった。それでも、逃亡しないその理由が分からない。
2体に狙われているコロナはサーベル持ちのR7にハルバードを振るうと見せかけて、ポレモスSGSによる弾丸を撃ち込むが、敵は盾でその銃撃を弾いた。
「中々やりますね……!」
「ドロシーさん!!」
カールの呼びかけに応えは返らない。光の翼の向こうにいる彼女が何を思い、何を考えているのか分からないまま剣戟と銃声だけが響き渡る中、トランシーバーのチャンネルが変わってしまっていて彼女達と会話出来ない事実に唇を噛む。
後方で倒れているR7を見た時に、何か、彼らと会話出来る方法を思いついたような気がしたのに、戦闘が始まってからそれが何であったかを忘れてしまった。
ただ分かるのは、彼らの強い意思。『仲間を見捨てない、全員で目的を達成する』そんな想いが彼らの動き方から伝わってくる。
だからこそ、彼らを見捨てられない。もう何度目になるかわからない言葉を、ソニックフォンブラスター越しに叫んだ。
「一緒に帰りましょう! ドロシーさん!」
時を同じくして光の翼の奥では、ボルディアがシャルラッハの首を撫でた。
シャルラッハはそれだけでボルディアの意思を汲み取り空を駆る。愚直なまでに真っ直ぐに左腕の動かないR7に向かって。
ボルディアはシャルラッハの背に立ち、柄を強く握り込む。ただ直と敵を見据え、大きく息を吸い込む。そして斧刃を振るった。
それはまるで竜の上にもう一体の獣がいる様だった。上から下から炎を纏った牙の如き刃がR7を襲い、その衝撃にガードに徹する他無かったR7は両腕を失い片膝を折った。
「これで、どうだ!?」
ボルディアが喜色を漲らせた瞬間、R7の胸部にマテリアルが集中したのが分かった。
「っちぃ!」
「ボルディア君!」
イルムの叫び。シャルラッハに回避を取らせようとするが、遅い。一条の光線がシャルラッハを貫いた。
「んだよ! 腕を落とせば沈黙するんじゃなかったのかよ!? クレール!!」
「そんな……っぐぅっ!」
「行かせません!!」
サーベルによる強撃をまともに受け、コロナが転倒。そこへハルバードが襲いかかるが、それはマッシュのヘイムダルが割り込む形で阻止する。
敵の直撃を受けたことより、転倒させられたことより、クレールにとっては予測が外れたことの方がショックが大きかった。
どうしてクレールが頑なに肩にこだわったのか。それはR7エクスシアの4つのパーツ。それぞれの解説に答えがある。
エクスシアパーツA……リアルブルーの月面基地崑崙から送られた補給物資を集めたもの。新型CAM「R7エクスシア」の頭部に該当するパーツ。新型カメラパーツと魔導アンテナでVOIDの妨害に強い。
エクスシアパーツB……リアルブルーの月面基地崑崙から送られた補給物資を集めたもの。新型CAM「R7エクスシア」の胴体に該当するパーツ。背面に展開するマテリアルリフレクターも含む。
エクスシアパーツC……リアルブルーの月面基地崑崙から送られた補給物資を集めたもの。新型CAM「R7エクスシア」の脚部に該当するパーツ。ハイヒールとスカートのような両足パーツ。
エクスシアパーツD……リアルブルーの月面基地崑崙から送られた補給物資を集めたもの。新型CAM「R7エクスシア」の腕部に該当するパーツ。新型魔導エンジンを内蔵する特徴的な肩部も含む両腕。
クレールが惑わされたのはこの『新型魔導エンジンを内蔵する特徴的な肩部も含む両腕』この表記だ。
確かに腕部には新型魔導エンジンを内蔵しているが、それは『R7の動力源、その全て』とは書かれていない。
つまり、これは腕のパーツ説明であって、それ以上でも以下でもなかったのだ。
R7だけではない。他のユニットに関しても“ここを破壊すれば確実に止まる”ような一部分が全ての動力を担っているような部分は存在しない。
強いて言えば搭乗型ユニットはコックピットを破壊する事、それが唯一無二の急所であり弱点なのだが、クレールはこのパーツ説明を必要以上にしっかりと覚えていた。故の思い込みと勘違いだった。
「どうする?」
「……作戦は変わらないよ。全機・全員の無力化。逃走の絶対阻止」
マッシュの問いにイルムが笑みながら答える。
「そうですね。搭乗者を殺さずに確保するだけです」
「全く難易度爆上げじゃねぇか」
カールの声にボルディアは唸るが、クレールは前を睨み吼えた。
「だけど、やるしかない、やってみせる。紅世界の機導師を! なめるなぁっ!!」
その時。光の翼が失われた。視界が通る。奥にいるピンクの機体が全員の視界に止まる。
「ドロシーさん……」
魔法少女になりたいといった彼女。彼女は今も魔法少女なのか、それとも本当に『魔女』になってしまったのか。それを知るためにも、この戦いは止めるわけにはいかなかった。
●もしここで罪を償えないのなら
「オーララ。これは出し惜しみし過ぎたかな」
お互いにスキルをほぼほぼ使い切って混戦状態となった戦場をエールデに走らせながらイルムが嘆く。
あと2回使える次元斬は空間を無差別に切り裂く技だ。誰かがR7に張り付くような形になってしまっては、仲間を巻きこんでしまうゆえに使えない。
無論、ハンター達も次元斬の性質は分かっているため、敵を寄せよう、引き離そうと動くのだが、それを見透かしたように距離を詰めてくる。
「……しまっ!」
マッシュの操るヘイムダルの左足、その膝関節の部分を凶弾が貫き、ヘイムダルが傾ぐとその隙を見逃さずサーベルのR7がヘイムダルへと走り出す。
「マッシュさん!!」
「ただでは、転びませんよ……!!」
マッシュはまだ生きている右脚をバネに近付いて来るR7に低姿勢からのタックルをかますとサーベルのR7の脚部にしがみついた。
「今です! クレールさん!!」
「だぁああああ!!」
マッシュの叫びに応えるように、クレールはコロナの刃に金色のマテリアルを乗せ渾身の力を込めて振り下ろした。
激しい金属同士の衝突音と共にサーベルを持つ右腕が肘関節から切り落とされる。
一瞬の動揺。カールはその隙を見逃さなかった。白夜が放つアサルトライフルの弾丸は的確にR7肩関節を貫き、盾の重さで左腕は地面へと落ちた。
「やるじゃん!」
口笛を鳴らして口角を上げたボルディアはピンクのR7を見る。両腕を失った射撃型は流石にもう沈黙していたが、残る一体射撃型ともう一体の支援型が執拗にシャルラッハを狙う為うまく近づけないでいた。
いくらライフリンクでシャルラッハと生命力をリンクさせているとはいえ、相手がどういった能力を隠し持っているかその手の内が分からない中、2体を無視して特攻を仕掛けるなど相棒を危険に晒す事は出来なかった。
無論、イルムもボルディアをサポートしようとエールデを走らせる。撹乱と接近を兼ねたその動きに気付いたピンクのR7が機導砲を放ち、支援型が電気鞭の一撃を放つ。その美しい羽根が空に散り、翼が血の色に染まる。
「もう少しだけ頑張っておくれ」
ヒールでエールデを癒やし、イルムは機を待つ。
立ち上がれなくとも、銃を構えることは出来る。マッシュは地に伏せたままのヘイムダルからダウロキアを構え引き金を引いた。銃弾は近接型の左のカメラアイを貫通。白夜とコロナから噴出した炎のマテリアルに包まれたR7はハルバードの柄に縋るように両膝を付くと沈黙した。
「噛み砕けぇっ!!」
翼を貫かれながらもシャルラッハが射撃型へと肉薄すると、その背からボルディアの上下からの二振りが獰猛な牙と化す。
「そのまま離れてて!」
イルムが花弁の幻影を散らせながら優雅に右腕を掲げ、その鋭利かつ繊細な剣先はボルディアの攻撃により脆くなっていた射撃型の両肘と両膝の接続を切り離した。
「続けて行くぜぇ!」
ボルディアの咆吼に応え、シャルラッハは空を切る。ピンクのR7に肉薄し、その斧を振り上げようとした瞬間、シャルラッハがひと鳴きすると唐突に動きを止め、高度を下げた。
「ッ!? シャルッ!?」
シャルラッハの悲痛な声に視線を向ければ、電気鞭がシャルの左脚を絡め取り、その動きを封じていた。
「っこのッ!」
「ボルディアさん、動かないで!!」
前衛2機がいなくなったことで一気に前線を押し上げたコロナと白夜が鞭の柄を握る支援型へと向かう。
最初にヘイムダルによるダウロキアの弾丸が頭部を捉え、大きくたたらを踏んだところにカールのデルタレイが頭部、胴体、左肩を貫く。イルムの剣が背後から左肩の傷を広げ、コロナのポレモスSGSが火を吹き左肩を落とした。
支援型を救おうとするようにピンクのR7から3本の光線が放たれるが、それ如きで倒れる者はいない。
その時、鞭の柄をわざと手放したR7が小銃へと手を伸ばした。バランスを崩したシャルラッハの上でボルディアは転落を防ごうとその背に身を伏せる。シャルラッハは胴体に銃弾が撃ち込まれながらも何とか体勢を整え、決して主を落とず上空へと逃れた。
ボルディアと生命力をリンクさせているシャルラッハには微々たるダメージでしかないが、ボルディアの怒りを買うには十分だった。
シャルラッハは急加速するとその獣爪で支援型の頭部を抉る。その背後、駆けつけたコロナ、クレールの機導剣により小銃ごと右の手首から先が切り離された。
「残るは」
「あと一体」
「ドロシーさん!」
5人のハンターに狙われて、無事に逃げ果せる者がどれほどいるだろうか。
ピンクのR7はそれでも逃げなかった。ヘイムダルからの銃弾を棍で弾き、白夜のプラズマシューターに左肘を破壊されても、残る右腕1つで棍を操りイルムの攻撃を凌ぎ、機導砲で反撃を試みる。
しかし、そこまでだった。ここまでの戦闘での負傷が蓄積されていたのだろう。
「『炎竜』!!」
コロナを通して放たれたファイアスローワーはついにピンクのR7の脚を止め、白夜の最後のプラズマシューターにより右の肩を粉砕された。
ボルディアはピンクのR7へとシャルラッハを向かせる。
両腕を落とされてもなお、その闘争心を失っていないことは嫌と言うほど伝わってくる。故に、ボルディアは獰猛に微笑んでみせた。
「あぁ、とっ捕まえてやるぜ!」
祖霊をその身に宿したボルディアは炎狗の如く。やにわに振り上げられた前脚は振り下ろされると同時にR7を掴みその動きを封じた。
「イルム!!」
「ボクは君のナイトだ。でも今は北の魔女となって魔よけのキスを贈ろう」
ともすれば頼りなくも見える程の細さを持ちながら、その一撃は壁をも穿つ。そんなレイピアの切っ先から放たれた次元斬はピンクの機体を飲み込むように花開いた。
全身に傷を負ったR7は片膝をついた形で動きを止めた。
「よし」
ボルディアはシャルラッハをR7の前に留めるとその背を借りてコックピットへと手を伸ばした。
緊急脱出用のレバーを引くと、鈍く、重たい音を立ててコックピットが開かれ……止まる。どうやら変形した装甲が引っかかっているらしい。
ボルディアは僅かな隙間に両手を掛け、力尽くで引っ張りこじ開けた。
その、奥にいる人物を見ようとボルディアが目を眇めたその時。
――銃声が、鼓膜をつんざいた。
●また生まれ変わっても汚れた血を流すのでしょう
全員が、一瞬凍り付いたようにその場から動けなかった。
「……何故、来た?」
硝煙が銃口から上る。その奥から声は聞こえた。
「『もう“迷い子(ドロシー)”はいない』と言ったはずだ。何故来た? 何故私たちの邪魔をするか」
「……ドロシー、君」
その姿を初めて見る者は息を呑んだ。報告書にあった通り、黒い。鮮やかなピンクの髪が余計にそれ以外の黒さを際立たせる“魔女”のような姿。
「ドロシーさん! 悪い魔女なんかに負けない……もし負けても、再び立ち上がれる、笑顔になれる……それが魔法少女じゃないんですか!?」
「私が“悪い魔女”だからか? 私たちは家を捨てた。名を捨てた。中には最初からそれらが無かった者もいた。戦場で死ぬことこそ最大の誉れと言われ、宇宙に散った者、この惑星で散った者にすら墓もない。ただ戦う事でしか生きられなかった」
カールの叫びに少女は泣いているような、笑っているような、彼女には不釣り合いの大人びた表情で語る。
「そんな私たちに神は言った。世界を変えよと。得た力で奪われた物を取り返し、この惑星に再び祝福をと」
「……神……?」
唐突に現れた言葉に、カールは目を瞬かせる。
「……だが、その夢も潰えた。私を信じ戦ってくれた仲間の元へ行こう」
銃口は静かに少女のこめかみへと向けられた。
「ドロシーさんっ!!」「ドロシー!!」
口々にその名を呼び、駆けだそうとしたその時、コックピットに伸びた手は、一瞬にしてその身体を押し上げ、ドロシーへと肉薄する。
――再び、銃声が響き渡った。
誰もが呆気にとられる中、身を起こしたのはボルディア、その人だった。その腕には脱力した状態で抱えられているドロシーの姿。
「ぼ、ボルディアさんっ!?」
「大丈夫だ。このガキに銃弾は当たってない」
「いや、そうじゃなくて……怪我は!? 頭は……!?」
カールが慌てて白夜を駆って近寄る。
「あぁ、ちょっと擦った。俺としたことが油断したな……当たり所が悪かったんだか、派手に血は出てるけど別にどうってこたぁねぇ」
「ボルディア君! ドロシー君は!?」
「あぁ、ちょっと銃奪うついでに頭突きかましたら伸びちまったみたいだ」
「……凄いな」
呆気にとられたマッシュがぼそりと呟けば、隣に居たクレールは脱力してグリップに額を埋めた。
「ってなんだよ、俺に意識が向かないようにこのガキと会話してたんじゃないのかよ?」
ボルディアの呆れ声に、マッシュが小さく笑い、イルムとカールは視線を逸らして天を仰いで見せたのだった。
●どうせなら愛のために死にたかった
シラクサ基地の制圧はその後暫くして完遂された。
連合軍兵側の被害も甚大だったが、その被害は一日がかりで調査された挙げ句に非公開とされた。一方で囚われた強化人間は約50名。それ以外の強化人間達は戦死、もしくは自死だとされた。
「『君たちの意見を受けずとも、人道と軍規に則った対応をする』とのことだよ」
イルムが両肩を竦めた後、沖へと向かう船に視線を向けた。
「恭子さんに連絡をとりたかったけど、出来ないの一点張りでした」
両肩を落としたクレールに、カールが首を横に振って微笑む。
「いえ、クレールさんは粘り強く交渉して下さったと思ってます。有り難うございました」
恭子はフラットに覚醒者にも強化人間にも対応出来る稀有な軍人だが、あぁ見えて位は高い。現場に出てくるタイプの軍人であるし、素が“アレ”なので殆どの覚醒者はすっかり失念してしまっているが。
恭子自身が慰労会などで顔を出すゆえに、覚醒者の多くが逢ったことも話したこともあるだろうが、通常“知り合い”程度が面会を求めたところで逢える人物ではないのだ。
そのうえラズモネ・シャングリラは現在整備中であり、その場も秘匿されていることから、余計に連絡が取れなくなっているのだろう。
「……神、か」
カールは目を伏せる。ドロシーが語った言葉を反芻し、自問する。
「まるで泣いているようだったね」
イルムの言葉にカールは弾かれたように顔を上げた。
「界冥作戦で共に戦ったナンバーズの子たちもボクは覚えている。彼らがスペリオルになった経緯は分からない。けれど、想像することはできる。ドロシー君の言葉を借りるなら、家を捨て、名を捨て、もしくは最初から持たなかった者達」
軍人とは多くがそういう経緯を持つ者だと聞いた。特に、狂気のVOIDが現れるようになってからは孤児になった子らを積極的に徴兵するようになったとも。
「愛を知らないのなら、ボクが教えよう。……だから目を覚まして欲しいね」
徐々に姿を小さくしていく戦艦には、この戦いで昏睡状態に陥り保護された強化人間達が乗せられている。当然、その中には、ドロシーも含まれていた。
「……はい」
豆粒よりも小さくなって、視界から船影が消えるのとほぼ同時に5人もまたクリムゾンウェストへと戻ったのだった。
依頼結果
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- ボルディアせんせー
ボルディア・コンフラムス(ka0796)
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 カール・フォルシアン(ka3702) 人間(リアルブルー)|13才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/08/27 23:43:07 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/24 08:10:26 |