※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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チョコの甘い日に
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甘い香りに包まれた一室。
リゼリオにある鳴月 牡丹(kz0180)が借りている部屋だ。散らかすのが得意な牡丹の部屋が小奇麗なのは、龍崎・カズマ(ka0178)のおかげである。
「…………」
怖いぐらいジッとした視線を牡丹はカズマに向ける。
彼女は茶色い長い髪を頭の上で結って簪で留め、前髪も顔に掛からないようにサイドで止めていた。
「……とりあえず、見ているだけな」
「分かってるって」
チョコレートを型に流し込みむ慣れた手付きのカズマは、さながら、パティシエのようだった。
その彼の言葉に牡丹は頬を膨らませて応える。エプロン姿はなかなか似合っている彼女なのだが、牡丹に料理の類はやっぱり、無理だった。
湯煎して溶かすだけなのにボールが貫通するという事はどういう事なのだろうか……。
「……まぁ、一通り済んだら、な」
流石に可哀想と思ったのか、カズマが言う。
料理が出来ないのは牡丹本人も自覚がある事だ。それでも、やりたいという意欲がある以上は、その気持ちを尊重したい。それにいくらなんでも、爆発したりはしないだろうから……たぶん。
「それにしても珍しいな。牡丹から手伝って欲しいって言われるのは」
『女将軍』との異名を持つこの女性は、とにかく、自分でやりたがりなのだ。
それは、彼女自身が持つ強さも関係している事なのかもしれない。
自信があるという事は良いことなのだろうが、全てを上手にできるとは限らないし、出来ない事を素直に認め、誰かに協力を求めるようになったのは、彼女なりには大きな進歩だろう。
「バレンタインデーだからね! カズマ君にあげたいし!」
「俺は自分に貰うのを作っているのか」
「気にしない気にしない!」
誤魔化すように満面の笑みを浮かべる牡丹。
表情を見る限り、彼女はとても楽しそうだ。
これはこれで良いかと思いながら、カズマは流し込まれた型が並べられたお盆を慎重に持ち上げる。
「……さてと、これを魔導冷蔵庫で冷やして、第一弾は完了だ」
「いよいよ、次だね!」
張り切りだす牡丹。
ここからは第二弾だ。つまり、牡丹がカズマの補佐を受けながらチョコレートを作る事になる。
作るといっても、溶かしたチョコを飾りとかなしで型に流し込むだけだが。ちなみに、型は牡丹が彫って作った特別なもの……らしい。
「始める前に散らかった分は片付けないとな」
そう言ってカズマはゴミを一纏めにすると、時計を確認した。
まだ集積所に出す時間には間に合うだろう。
「これを捨ててくるから、牡丹は次の用意だけしててくれ。いいか、用意だけだからな」
「用心深いな、カズマ君は。大丈夫だよ!」
胸を張って強調する牡丹に一抹の不安を感じながら、カズマはゴミを抱えたのであった。
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「これは、どういう事だ?」
状況が飲み込めず、カズマが苦笑を浮かべる。
牡丹が追い掛けっこしていた。その相手は拳一つぐらいの『チョコレートの塊のようなもの』だ。
そんなものが幾つか跳ねまわり、床や壁などにチョコレートの痕跡を残している。
「カズマ君! チョコレートって活きが良いんだね!」
「どう見ても、雑魔化してるな……確か、雑魔化したてって食べられるはず」
「そっか、道理で美味しかった訳かー」
なるほど納得というように頷く牡丹。
どうやら、すでに口にしていたようだ。
見れば、チョコレートが入っていたと思われる箱の蓋は全開で中身は入っていない。
「用意だけで持って来た箱をちょっと開けたら、中から飛び出してきてさ!」
「ちょっと開けたのか」
『用意だけ』とあれだけ念を押したのに、フラグを折らないあたり、流石である。
「だって、チョコレートの箱からガタガタと音がするんだよ! 気になるじゃん!」
「普通、チョコレートの箱から物音がするのなら、不気味がって開けないと思うが」
それでも開けてしまうのは牡丹ゆえという事か。
恐れを知らないというのは、時として困るものだなとカズマは心の中で呟いた。
「箱が空だが……入っていた分が全部逃げ出したのか」
空箱になったチョコレート箱。元々、幾つ入っていたが分からないが……。
ただ、これらのチョコレートは長江で鶏マッチョを討伐した際に手に入れたカカオ豆から作ったものだ。
その中に雑魔化していたカカオ豆があっても不思議ではない。唯一の救いは、牡丹もカズマも覚醒者であるので、雑魔化したチョコレートの塊は脅威ではないといいう事だ。
「冷静に分析している場合じゃないよ、カズマ君! ほら、そっちにも居る!」
指さされた足元にチョコレートの塊が素早い動きを見せていた。
捕まえようとして腕を伸ばすが、跳ねるように逃げていく。小さいからか思った以上に素早い動きを見せる。
「たぁぁぁ!」
追いかけるカズマの動きに別のチョコを追いかけた牡丹が重なった。
縺れるように倒れる二人。カズマの手がチョコの塊――ではなく、牡丹の胸を掴む。これはでかい。片手では足りない。
「冷静に掴んでいる場合じゃないよ」
「すまない」
牡丹はカズマの手を取ると、彼を指をパクリと咥えた。
くすぐったさを指先に感じる。舌の回し方がワザとらしい。
「次は手ごと全部食べちゃうからね」
「牡丹がいうと、冗談じゃ済まされない感じだな」
「手も食べるよ。ほら、豚の奴とか」
「そりゃ、豚足であって、手じゃねぇ……よぉっと!」
フェイントを掛けてからの素早い動作でチョコ塊の一つを捕まえるカズマ。
手がチョコレートでベタベタだ。
「……これは捕まえたらどうすればいいか」
流しの中で握り潰せばいいのだろうか。
他に解決策があるかと牡丹に尋ねる。牡丹は両手とチョコ塊を持っていた。
「食べちゃえばいいと思うよ。美味しいし」
その時だった。
大峡谷かと思うような牡丹の大きい胸の谷間に、偶然にも跳ねたチョコ塊が入ったのは。
「チョコレートの分際で! カズマ君、とって! 今、胸で確保しているから!」
「胸で確保って……というか、次は手ごと食べてしまうんだろ?」
「いいから早く!」
チョコ塊を持ちながら両腕で確りと胸を押さえているので、手が空かないのだろう。
カズマは先ほど捕獲したチョコ塊を圧力鍋の中に放り込むと覚悟を決める。
面と向き合って立つ――が、牡丹が背を向けた。
「おい、牡丹。それじゃ取れないだろう」
「だ、だって、なんだか、恥ずかしいんだもん!」
正面に回ろうとするカズマの動きに合わせ体の向きを変える牡丹。
しばらくグルグルと回った挙句、カズマが牡丹の体を後ろから抱き留めた。
「ひゃー。やられるー」
「ったく、遊んでる場合じゃないだろう」
棒読みで叫んだ牡丹を優しく抱き締める。
しおらしい表情を湛えながら、牡丹は振り返るように顔を横に向けた。
「……やっぱり、食べちゃうかもしれない」
「お手柔らかに頼むよ。まだ、片付けだって終わってないからな」
「分かってるって!」
絶対分かってないだろうという笑顔を見せる牡丹だった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0178/龍崎・カズマ/男性/20/疾影士】
【kz0180/鳴月 牡丹/女性/24/格闘士】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっています。赤山です。
遅くなりましたが、バレンタインデーとして書かせて頂きました。
コメディは苦手なのですが、カズマ君&牡丹の組み合わせならば、きっと普段からコメディ()だと思うので、二人ならどんなバレンタインかと考えた結果、このような形となりました。
お楽しみいただければ幸いです。
ノベルの中でお二人はその後、お楽しみだったのかなとか思いますのでぜひともばくはつ――ではなく、この度は、ご依頼の程、ありがとうございました。
お気になる点があれば、お気軽にリテイクをお申し付けください。