※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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君と藤花
――ある日のこと。
「今、山藤が綺麗なんよー。今度お花見に行かん?」
「花見?」
ミィナ・アレグトーリア(ka0317)はヴァレーリオ(kz0139)を誘った。
* これはそんな二人のデートとは気付いていないデートの御話 *
●二人と二匹の珍道中
場所は、自由都市同盟。
青々と樹々が生い茂る山に、山藤が綺麗に咲く頃。その眺めを愛でに行こうと彼と約束したミィナは、胸を弾ませていた。
髪をゆるくふんわりと結った三つ編みを両サイドに垂らしながら、お嬢さんらしい洋服を身に纏う。
(オシャレしてきたの、気付いてくれるかなぁ)
なんてドキドキ。
待ち合わせ場所が見えてくると彼の姿も見つけて――。
「あっ、ヴァレーリオさーんっ」
ミィナはぶんぶんと手を振った。
彼女に気付いたヴァレーリオは目を丸くした。
ミィナがその隙に正面から、えいっと抱き着きに来たからだ。
「な、何やってンだお前……っ」
覗き込むと、彼は頬を染めていた。照れているのだろうか。彼の表情は傍から見ればむっとしているようにも見えるけれど、不器用な人である事をミィナは知っている。
「えへへ、驚いた?」
「……」
そう訊ねると口を噤み始めたヴァレーリオを見て、ふふっと微笑んでいた。
一方ヴァレーリオは、
(くそ……、可愛いな……)
一見不機嫌にも見えるような面で、心の中では文句を言う様にときめいていた。
勿論、オシャレをしてくれた事にも気付いている。
ミィナは彼にとって気になる女の子。
天然なところや一挙一動が可愛すぎて堪らず、ぶっきらぼうな態度の割にぞっこんである。
――それなのに。
「今日も一緒にお出掛け出来るの、嬉しいんよ♪」
すりすり。
ミィナが甘えるように懐くものだから。
「・・・・・・・・」
骨抜きになる程、めろめろだ。
「・・・お前、女には構わねぇけど、男に抱き着きに行くんじゃねぇぞ」
「うん?」
「――だからっ。他の野郎にこういう事すんなよって、言ってんだ」
「なんの御話なのん……?」
「う……」
きょとんと覗かれると弱くなり、小さく溜息を吐く。
――そして。
「どういう意味なのか、本当に判んねぇのか?」
目元を赤くしながらむっとした視線を遣り、ぽつりと呟いた。
熱い眼差しを向けられたミィナは、
「え……?」
その意味を訊ねようとする。
――が。
「ぶるるるる……」
「ワンッ!!」
「うぉぁ!?」
「ヴァレーリオさん!?」
戦馬と幻獣の連携プレイが発動!
フォルトゥナがヴァレーリオの服を咥えて引っ張り、イェジドがミィナとヴァレーリオの間に割って入る!
「二人とも急にどうしたん?! いつもは良い子なんやけど……っ――ヴァレーリオさん大丈夫?」
「あ、あぁ……」
無理矢理引き剥がされたヴァレーオは強面な鋭い目を凝らすように細めた。戦馬とイェジド――二匹ともミィナの大事な相棒である。
「そうそう。この子達もお花見に行きたいってゆうてる気がしたから、連れてきたんよー」
「なるほど……そういう事か」
ヴァレーリオは調子を崩されているようだったが、フォルトゥナとイェジドを見ると少しだけ目を輝かせた。
彼は実は動物が大好きなのだ。
「フォルトゥナは久しぶり。イェジドと会うのは――初めてか。なあ、触ってもいいか?」
――そう言って手を伸ばす、のだが。
「……ウゥ」ギロッ
「!」ビクッ
イェジドに睨まれ、手がぴたっと止まった。
そして不思議な見つめ合いが暫く続いた後、イェジドは知らん顔をしてミィナの元へと歩み寄っていき、彼女に顔を擦りつける。
(な、何なんだ一体……!)
ヴァレーリオは思わず心の中で叫んでいた。
けれど段々と察していく。
――確信したのだ。
イェシドのような視線には覚えがあったから。
(なるほど……イェジド版ロザリーナか……ッ)
ミィナが大好きな同志でありライバルであるロザリーナ――彼女はヤキモチを妬いて、無自覚なのか何なのか、偶にミィナにもっと構ってとアピールしにいく。
その様子を彷彿したのだ。
「もうすぐお昼の時間になっちゃうし、そろそろ出発するんよー♪」
けれど、ミィナはそんな様子に気付くことなくのんびりと微笑んでいる。
斯くして二人と二匹の珍道中が、始まったのだった。
●山藤を目の前に
「にゃっ!」
こてん。
ミィナがイェジドに鼻でつつかれて倒れたのを見て、ヴァレーリオは手を差し伸べた。
「おい大丈夫か!?」
「えへへ、ありがとうなのん♪」
「ったく気ぃつけろよなぁ」
心配すると、ほわんと頬を緩めるミィナ。
そんな彼女に敵わねぇなぁなんて思いながらヴァレーリオも微笑みを浮かべていると、何やら視線を感じる……。
――そう言いながら、そんなミィナの危なっかしいところも好きなんでしょ。
という目でイェジドは冷ややかにヴァレーリオを見つめているのだ。
「……ッ、あのな」
ミィナと仲良く喋りすぎるとこうしてヤキモチを妬くイェジドに、ヴァレーリオはたじたじで。
「怒んなよ、ただ手を貸しただけだろっ」
「ウゥ゛……」
「い、威嚇するんじゃねえっ! やんのかっ。もふもふさせろ!(?)」
何やら言い争い(?)をしている様子の一人と一匹。眺めていたミィナは「はわわ」と慌てていた。
「喧嘩はよくないんよ……! ほら、仲直りして?」
「うぐぐ……」
「ぐるる……」
ミィナが仲裁に入れば、大人しくはなるようだが。
ライバル同士のにらみ合いはまだ続きそうで。
そんな時。
フォルトゥナが「ぶるる…」と鳴きながら、ミィナにある方向を鼻で指して知らせた。
「あ、山藤!」
緑に覗く淡い薄紫の花――山藤を見付けて、ミィナの眸がきらきらと輝く。
「もうすぐ目的地なんよっ。みんな早く――」
「ミィナ、足元!」
と、ヴァレーリオが警戒を促すも既に遅し。
こてん。
ミィナが転んでしまった。
「だから言わんこっちゃねえ……」
ヴァレーリオが心配しながら、再び手を差し伸べようと寄ろうとした。……が。
――彼の前にすっと立ち塞がる者がいた。
イェジドだ。
「ちょ、おい!」
「ワンッワンッワンッ!」
独り占めしないで!
と、言っているようだった。
――その間。
「いたたた……。あっ、また喧嘩しとる!」
ヴァレーリオとイェジドが何やら揉めているのを見て、もう、と零す。
すると、彼女の前にすっと立つ者が居た。
フォルトゥナだ。
「ん? もしかして乗せてくれるん?」
ミィナが訊ねると、フォルトゥナはこく、と頷いた。
「ありがとうなのん♪」
「――あっ」「――!」
ヴァレーリオとイェジドは、ハッとして喧嘩を中断した。
「これならもう転ばないのん」
フォルトゥナの背に跨りながら、ほわんと微笑むミィナ。
「……」「……」
ヴァレーリオとイェジドは、揃って口を噤む。
フォルトゥナに先越された……!
まさかの展開に呆然としている彼らの背中には、哀愁が漂っていたのだった。
●お花見
葉の緑に映える薄紫の花が見事な樹々の下で。静かな山の音と、川の音に耳を澄ませば、きっと心は癒されるだろう。
レジャーシートを敷いて、ミィナがお弁当を用意して――そんなひとときが、和やかに流れていく。
サンドイッチと、フィッシュ&チップス。
ティラミスやプチタルト。
それから焼き菓子と。
「張り切っていっぱい作ってきたんよ! だからいっぱい食べてね♪」
ミィナがほわほわと微笑むと、ヴァレーリオは照れながら「ん…」と、頷いた。
味はもちろん絶品だ。すっかり胃袋を掴まれているヴァレーリオ。
「ミィナって料理上手だよなぁ」
「えへへ。料理はおかーちゃんが教えてくれたんよ! 普段は喫茶店の経営もしとるしね」
「!? お前喫茶店経営してたのか」
「あれ? もしかしてまだ言ってへんかった?」
「初耳だ……」
――それならそうと言ってくれれば、こっそり覗きに行くのに。
恥ずかしくて口では言えないけれど。
そんな話をしたり。
「俺の仕事? 俺はなんだかんだで畑仕事とか動物の世話とか、やらされてんな……。いつの間にか」
「いつの間にかなん?」
「おう。本当は面倒くせぇからやりたくねぇんだけどな。でも親父の押しが強すぎてよ……」
(ヴァレーリオさん、こう見えて押しに弱いところあるしなぁ……)
「それに、一度やり始めちまうと……なぁ。病気してねぇかとか、調子はどうだとか、水とか飯とかも大丈夫なのか気になってくるに決まってるし、本当、いつの間にか親父の掌に踊らされちまってて自分が嫌になるぜ……」
「でも、なんかヴァレーリオさんらしいのん。恋しょこのマネージャーの時も、なんだかんだうちらのことサポートしてくれたよね?」
「ま、まぁ……。あれも最初はロザリーナに言われてなりゆきでなったようなもんだったが……お前らめちゃくちゃ頑張ってたし……そらぁ、応援したくなってくるだろ」
「ふふ」
こんな話をしたり。
山藤の花を愛でながら長閑にゆったりと過ごす時間はあっという間で。
「ヴァレーリオさんって好きな人おるん?」
「はっ……!?」
「あ、いや、なんとなぁく気になっただけなんよ。恥ずかしかったら無理に答えんでもええんやけどねっ」
「……っ」
――真っ赤になっている彼は、不愛嬌に答える。
「変な事聞くな。俺は誤魔化すの下手なんだからッ」
「?」
この時。
頭の上に疑問符を浮かべるミィナよりも、イェジドの方が察知した。
これはもしかしたら、このまま告白する流れになりかねないかも、と。
それは未ださせない!
イェジドはヤキモチを妬くと、ミィナに飛び掛かった。
――だが。
「にゃっ!!」
ヴァレーリオとの間に流れているムードを阻止しようと思ってのこの行動――少々勢いをつけすぎたようで。
ミィナは勢いよく倒れ込んでしまい、
「うあ!?」
ヴァレーリオが押し倒されて受け身をとるように仲良く巻き込まれた。ふわりと風に揺れる銀色のおさげ。けれどパタンと倒れ込んだ時、ミィナは真っ先に、髪を押さえつけた。
「おい大丈夫か――」
「み、見た!? 見ぃひんかった!?」
「見たって……!? な、何がだ?」
「う、うちの耳……」
「……?」
はらはらと動揺している表情を浮かべるミィナを、ヴァレーリオはじっと見つめていた。
――人間の耳の特徴とは異なる、長く尖った耳。
普段髪で隠れ続けているミィナのそれは、思えば、見た事が無いかもしれない。
「いいや。いきなりだったし、よく見えなかったが……」
「うぅ……」
良かった。と、安堵するミィナ。
そんな彼女に手を伸ばしたヴァレーリオは――優しく、よしよしと撫でる。
どうして彼女が耳を隠したかの事情は分からなくても、見られたくない理由がある事は解ったらしく、追求はしなかった。
けれど、不安でたまらなくなっている彼女を愛しく思い。
双眸を細めて優しい声で囁いた。
「可愛いな、おまえ」
『………』
さっきよりも良い雰囲気にさせてしまったイェジドは、なんとも言えない顔でミィナ達を見つめる。その横でフォルトゥナは、静かに山藤を、心を穏やかに眺めていた。
――平和だなぁ、と。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0317/ミィナ・アレグトーリア/女性/17/藤花の姫】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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たいへんたいへんたいへんお待たせしてしまいました……!
本当に申し訳御座いません……っ。
こんにちは、瑞木雫です。
会話のアドリブがとても多くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
イェジドがヴァレーリオにヤキモチを妬く――等も私が考えた設定でしたので、もしもイメージと違う点が御座いましたらご遠慮なく仰って頂けるととても嬉しいですっ。
そして普段文字数制限で悩まされていましたが、ミィナちゃんにめろめろなヴァレーリオの想いを描けて楽しかったです!
今回は甘々デートというより、のんびり爽やかなデートのイメージでしたので、ふわふわと。でも動かしてみると、なんだかラブラブな感じになりました。いや、ヴァレーリオがミィナちゃんにときめいているのを露呈しただけかもしれません(笑)
ミィナちゃんを困らせないようにとドキドキしつつ、いつまでも仲良しな二人で居られるといいなぁと暖かい思いで見守っております。ふふふ。
御発注ありがとうございましたー!