※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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春を迎える祭り
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村から続く小道を進み雑木林を抜けると、淡い橙色に染まった野原がユリアンとフレデリクを出迎える。
「咲いたなぁ……」
小さな丸い花びらを精一杯に広げる花にユリアンは目を細めた。
アメノハナ……春を呼ぶその村の祖霊花。
「温かい花だ……」
いまだ冬の気配が残るこの地で淡い橙は雪を溶かす春の日差しを思わせる。
「アメノハナって満開になるとこうなるんですね……」
綺麗です、隣で感嘆の声をあげるフレデリク。
ユリアンの脳裏に浮かぶのは初めて村を訪れた日のこと。そして村を襲った歪虚との戦い。
「良かった……」
自然と零れ落ちる言葉にフレデリクが頷く。
風に乗って聞こえてくる祭りの準備で賑わう村の喧騒。
「村に平和が戻ってよかったです……。頑張った甲斐がありますね!」
暫し喧騒に耳を傾けていたフレデリクが笑顔とともに軽く拳を握り、ユリアンは返事の代わりに自分の拳をそれにコツンと合わせた。
「そうだ、ワインの差し入れを持ってきたんだけど運ぶの手伝って貰えるかな?」
「はい。お祭りが始まる前に持っていきましょう」
満開のアメノハナ、間もなく春を迎える祭りが始まる。
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広場の中央に薪の櫓が組まれ、楽器が運び込まれる。女達は料理を準備し、子供は飾りつけだなんだとはしゃぐ。久々に訪れたその村は活気に溢れていた。
村を救ったユリアンたちはちょっとした英雄だ。長老の家までの道すがらすれ違う人たちが笑顔で声を掛けてくる。
「……なんだか……」
照れるなぁ、と頬を引っかくユリアンの背を「堂々としてればいいの」とチアクが叩く。
「こーいう時はネ、コッチも笑顔で返せバ、イーんだヨ」
コンニチハーと満面の笑みで有言実行するアルヴィン。真似したユリアンの肩にのしっとジュードが腕を置いた。
「なーんか、リッチーと違うんだよね。少し硬いのかな?」
「わかってるんだけど……」
旅先で見知らぬ人に声をかけられてももっと気軽に返事はできる。でも今回は勝手が違う。
村人からの感謝と好意、そして賞賛、中には物語に出てくる英雄に憧れるような瞳を向けてくる子供もいる。正直なところ気恥ずかしい。
そんなことを考えている傍から、皿を抱えた女性が「楽しんでいって頂戴よ、英雄さん」と通り過ぎていく。
「お招きありがとうございまーす」
「お祭り楽しみにしてますね」
笑顔で返したジュードとフレデリクは顔を見合わせると、ユリアンへと向き直った。
「はい、ユリアンさんも」
「えぇ?!」
戸惑うユリアンにジュードが「1、2」と指を振って拍子を取る。
「たのし……」
「お祭り、楽しむヨー」
いつの間にか背後に回ったアルヴィンに手を取られ、操り人形よろしく腕を振りまわされた。
「アルヴィンさん?!」
「あれレ、パッティーは?」
ユリアンの驚きはどこ吹く風、アルヴィンは額に手を当て背伸びする。
「ダリオならあそこだな」
エアルドフリスの視線の先、獣避けの柵を一緒に修繕をした縁で顔馴染みとなった樵の家の前でダリオが犬と戯れていた。留守番の豊後守を思い出しているのかもしれない。
「パッティー、置いッテちゃうヨー」
「おう、今参る」
長老との挨拶を終え、祭りまでお寛ぎください、と出されたお茶と茶菓子。祭りの準備を手伝おうにも「恩人にそんなことはさせられません」と言われれば強くは出れない。
「そうだ、民族衣装借りれないかな?」
ジュードがチアクに尋ねると、何故か上がる黄色い声。長老の家で繕い物をしていた娘達だ。
「去年作ったあれは?」
「若草色も似合うんじゃないかしら?」
準備も一段落したし選びに行きましょう、とジュードは娘達に囲まれいずこかへ連れ去られていく。
「アメノハナでも見てきたら?」
手持ち無沙汰な様子のユリアンにチアクがそう提案してくれた。
僕も、と手を挙げるアルヴィン。だが……
「ふらふら出歩いて村の迷惑になったらどうするんだ?」
と襟首をがしっと掴んだエアルドフリスに引き戻される。
「やだナー、迷惑ナンテ掛けないヨ」
朗らかに笑うアルヴィンを横目にユリアンとフレデリクはアメノハナを見にそっと抜け出した。
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夕刻、ユリアンたちが見守る中、櫓に火が点され厳かに祭りが始まる。
村人が唱える祈りは聞きなれない言葉。
「アメノハナが咲き雪が融ける。融けた雪は空へ帰り雨となり春を呼ぶ……古から伝わる祈りだそうだ」
エアルドフリスが意味をこそりと教えてくれた。茶飲み話に長老から色々と聞いたらしい。
祈りが終わるとユリアンたちは民族衣装を纏った娘達に広場中央に招かれる。
「今年も春を迎えることができたことに、そして我々に春を齎してくれた勇気ある方々へ感謝を……」
長老の言葉に、沸きあがる歓声と拍手。「乾杯」を皮切りに村人が感謝の言葉を述べながらユリアンたちを囲む。
テーブルに並ぶご馳走。樽の蓋が割られ酒が皆に配られる。
軽快なリズムを刻む太鼓に陽気に爪弾かれる弦楽器。
男達が調子はずれの銅鑼声で歌えば、若い娘達が踊りだす。
襟の大きく開いた胴衣に長めのスカートとエプロン、そんな民族衣装も今日ばかりは祭り用の華やかなものに変わる。胴衣は胸元を強調し、コルセットのように胴を細く締め上げ、新品のエプロンと膝丈に詰められたスカートは踊ると華やかに広がる。光沢のある生地に広がるのはアメノハナを中心とした繊細な刺繍。
娘達は小鳥のように軽やかに笑い踊る。その輪の中にジュードもいた。レースを重ねた裾を翻し、踵を鳴らしてくるりくるりと回るたびに周囲から上がる歓声に笑顔で応える。
「貴方のことを女の子だと思っているわ」
衣装を貸してくれた少女が楽しそうに耳打ちしてくる。
「誰が一番踊りで目立つか競争する?」
誰かが言えば「負けないから」と誰かが応える。
「騒がしいでしょう?」
ごめんなさいね、と先ほどの少女が苦笑した。
「ぜーんぜん、騒いでこそのお祭りだし。それに俺の仲間はそれこそ騒がしいからね」
パチンと片目を瞑るジュード。
今日は一日笑顔でいようと決めていた。めでたい祭りだからというのもある。でも何より自分達のような外から来た人間との交流が彼らにとっての良い契機となって欲しいのだ。住む世界も文化も違う、でも一緒に祭りを楽しむことができる、そんな小さなことでも伝われば嬉しい。
「差し入れのワイン、美味しかったよ」
「羊肉は大丈夫?」
「チーズは?」
広場を歩いているだけでユリアンとフレデリクの皿は山盛りだ。どこの大人も少年達には沢山食べさせたいらしい。
鼻歌交じりにアルヴィンがダリオのもとへとやって来る。
「パッティーにプレゼントだヨー」
どこで入手したのか村の男達が被っているフェルトの帽子をダリオの頭に乗せる
「かっこイイネ」
「それがし無骨者なれば粋か否かは判らぬが、リッチーが言うのであればそうなのであろうな」
上機嫌に親指をぐっとあげるアルヴィンに真面目な顔で返すダリオ。
「旦那、此処にいたのか。なんだ帽子似合ってるじゃねぇか」
先程の樵が樽を抱えてやってくる。「ネー」とアルヴィンは得意気だ。
樵はダリオの正面に座ると樽の蓋を開けた。
強く香る酒精。これは、と目を瞠るダリオに樵がニヤリと笑う。とっておきの蒸留酒だ、と。
「旦那、いけるクチなんだろ。此処は一つ飲み比べといこうじゃないか」
「よかろう、受けて立とうぞ」
挨拶代わりと注がれた一杯を飲み干す。カっと胃の辺りが熱くなった。
「僕もソノ勝負、乗っタヨ」
杯を差し出すアルヴィン。
「おう、兄さんも飲め、飲め」
「いざ尋常に勝負」
三人同時に杯を空ける。
仁義なき無制限一本勝負が始まった。
皆の様子にエアルドフリスが笑みを零す。歪虚の襲撃からまだ二ヶ月も経っていないというのに。人とは逞しいものだな、と浮かぶ笑顔に思わずにはいられない。
(だからこそ……)
エアルドフリスは広場の片隅で輪を作る長老達へと歩み寄る。
「皆さん、祭りを楽しんでおいでかね」
「羽目を外さないか心配なくらいです」
長老達が空けてくれた場所に腰掛けた。
「折角の祭りだ。羽目を外すのも必要だろうて」
笑う長老が「ところで薬師殿」と口調を改める。
「歪虚の脅威は去ったと思われるか?」
チアクの祖母ではなく一族の長の顔だ。
それは今まさにエアルドフリスが言おうとしていたことである。「いいえ」と声に出して否定をするとゆっくりと首を振った。
予想通りの答えだったのだろう、長老達に動揺は見受けられない。
余所者が村の方針に口を出すのは不躾だと理解はしている。でも……。並ぶ面々の顔を見渡してから口を開いた。
「土地はいつか取り戻せます。だが全て喪ってからじゃあ遅い」
暗に土地を離れることを薦める言葉は歪虚の脅威を経験したためか強い拒絶を持って迎えられることはなかった。少なからず長老達も考えているのだろう。
「代々この土地で暮らしてきた我々に帝国の水が合うかねぇ……」
暫しの沈黙の後長老が口を開く。
彼らには彼らの誇りがあり文化がある。この地を捨て帝国に移り住むことは、誇りと文化を捨てることに等しい。その気持ちはエアルドフリスにも痛いほどにわかる。
脳裏に蘇る真っ青な空、連なる山々、緑を縫って流れる川……子供の頃に見た風景。
そして全て喪ったあの日……。何もかも擦りガラスの向こうのように実感することができない日々。ジュードに出会うまでこの世界にありながら死んでいた自分……。
「ユリアン、沢山食べないと大きくなれないのよ」
「もうお腹一杯だよ、チアク」
弟子に対しお姉さんぶる少女。
あの少女に同じ思いをさせたくはない。
「俺は生き延びる事を優先して欲しいと……願います」
言葉に込められた意味を汲み取ったのだろう長老は黙って広場を見つめた。
「無礼を承知で一つ提案をさせて下さい」
アメノハナの移植をエアルドフリスは静かに切り出す。
「彼らに救われあの花はある。薬師殿に任せよう」
ざわめく一同を長老が制した。
「時間はそう残されていないのだろうねぇ……」
祖母の顔に戻った長老の独白は祭りの喧騒に飲み込まれる。
揚げた衣は軽く中には熱々の羊の挽肉。
「美味しいです」
ちょっと熱いですけど、とフレデリクが口元を押さえる。
「こっちも中々」
野菜と羊肉を塩でじっくり蒸したものをジュードは頬張り、ヨーグルトのような酒を飲む。踊った後の体に程よい酸味だ。
二人を覗いている子供達に気付きフレデリクは「皆さんは何がお好きですか?」と手招く。それでも恥ずかしがる子供達にジュードは「ふふふ……」と不敵に笑いポケットから『極楽鳥』で扱う色とりどりのキャンディを取り出した。
機会があったら子供達に配ろうと持ってきたのだ。
珍しいお菓子の魅力は強力だった。
「お化け狼と戦ったときのお話をして」
あっという間に集まる子供達にせがまれる。その話をしていいものかと、周囲を見渡すと「皆さんにお話を聞くって楽しみにしてたんです」と母らしき人が子供の頭の上に手を置いた。
コホン、とジュードが勿体つけて咳払い。
「まずは先に村に行ったフレデリク君からね。格好良かったんだよ」
「ジュードさんの矢も凄かったんですよ。氷の柱をまとめて砕いて……」
かわるがわる二人が歪虚退治を話し始める。
「その時、狼が……」
クライマックス、ゴクリと子供達の喉が鳴る、その時――。
「ワぁっ!!」
突然背後からアルヴィンが飛び出してきた。
「ぅわあ!」
飛び上がる子供達。
「リッチー、子供を驚かさない」
「ゴメンネ。怖くナイ、怖くナイヨ、ほーらネ?」
子供達の目の前で踊る手にぱっと花が咲く。「どうやったの?」「魔法?」と子供達は大喜びだ。
「お兄ちゃん、海見たことある?」
フレデリクにしがみついたまま子供が尋ねる。
「ありますよ。とっても大きいんです」
両手を広げるフレデリクに子供は目を輝かす。
「じゃあお話しする鳥をみたことある?」
「近所の雑貨屋さんにいます。イラッシャイマセーって出迎えてくれますよ」
「……いいなあ、わたしも会ってみたいなぁ」
「もう少し大人になったら旅をしてみてはどうでしょう? 沢山の出会いがありますよ。こうやって私達も出会えたように」
村の将来、子供達の将来それはどちらに向かうかわからない。でも選択肢を広げるのは悪いことではない筈だ。外に出て初めてわかることだってある。
「わたしが大人になって街に遊びに行ったら案内してくれる?」
「勿論。お話する鳥にも会いに行きましょう」
フレデリクは笑顔で請負った。
エアルドフリスは「このたびの招待への礼と、先程差し出がましい口を利いてしまったことへの詫びに」と立ち上がる。
目を閉じ、耳を澄ます。風の流れ、人々のざわめき、爆ぜる焔の音。
この地に降る柔らかな春の雨の気配。
空は雨を降らせ大地を潤す。大地は雨を受け止め空へと還す。全ては巡る。世界は一つの環だ。
「――……」
彼の唇から流れる歌が大気を震わせる。雨と空の巡りへの感謝を謳った彼の部族の歌。
少し掠れたような、甘い深みのある声が、雨が大地に染み入るようにじんわりと広場に広がっていく。
喧騒に混ざり流れてくる歌声にジュードは顔を上げる。
耳に心地よい声を少したりとも逃すまいと耳に手を当てた。
緩やかな旋律に合わせ自然に体が揺れる。
体の内側に感じる温もり。自然と口元が綻ぶ。溢れる想いは歌を辿って彼に届くだろうか。
いつの間にかジュードだけではなく皆、彼の歌に聞き入っていた。
歌が終わり、静まり返る広場、少し間を置き拍手が響き渡る。
長老たちへ目礼をしたエアルドフリスは広場中央へと向き直る。
胸に手を当て少し気取った仕草で下げる頭。一際強くなる拍手。ジュードも負けず拍手を送る。
その拍手が届いたのか顔を上げたエアルドフリスと視線が交わった。
「素晴らしき歌へ感謝を込めて……」
進み出る長老はその小さな体からは想像できないほど朗々と歌いだす。楽士達が歌に合わせ曲を奏で、村人も踊り始めた。
「チアク、踊ろうか?」
ユリアンが手を差し伸べると、チアクは手を後ろに隠してしまう。
「俺だって収穫祭で毎年妹に付き合ってるからそれなりだよ。 ……夜会は苦手だけど」
大丈夫、踊れるよと少女の説得を試みるユリアンに、わかってないな、とジュードは内心苦笑を零した。
チアクも同じことを思ったのだろう、「仕方ないわね」とその手を取る。女の子の方が大人びているのはどこも一緒だ。尤も踊り始めれば「ユリアン、くるって回して!」などとはしゃぎ、まだまだ可愛らしいものだが。
「エアさん!」
長老達の輪から戻ってきたエアルドフリスに駆け寄るとジュードはその腕を取って問答無用に踊りの輪に加わった。
「音楽に合わせて好きに体を動かせばいいんだって」
先程一緒に踊った娘達から聞いたことを教え、繋いだ手を高く上げそのままターンを決める。
「ほら、皆も一緒に!」
まだ飲み比べをしていたダリオやアルヴィン達に向け手を差し伸べる。
「僕も踊るヨー」
「俺もー!」
ぴょんと飛び跳ねたアルヴィンの隣でフレデリクも両手を挙げる。いつもの丁寧な言葉遣いがお出かけ中ということは結構酔っ払っているのかもしれない。
「歌、教えてくれる?」
フレデリクは子供達と手を繋ぎ皆に合わせて歌いだした。
「違うよ、そこはこうだよ」
「ん~……もう一回」
子供が繰り返し、フレデリクが真似をする。
「宴もたけなわ……というところか」
ダリオは杯の酒を飲み干す。
「ではそれがしも一差し舞おうか」
思わぬダリオの言葉に顔を見合わせる仲間達。そんな様子に気付いていないのかダリオは背筋を伸ばし、皿を手に腕を水平に構えた。
「人間ごじゅうぅ~……」
抑揚はないが腹に響く堂々たるダリオの声と小気味良い太鼓の音は不思議と相性が良い。
スススと、すり足で進む。踊りというには静かな動き。
「夢まぼろしの~……」
体を回し同時に皿を掲げる。
「パッティーの踊り、面白いネ」
好奇心一杯といった様子でアルヴィンもダリオと並び皿を構えた。
「に~んじ~ん、ごじゅう……」
「リッティーも共に舞うか!」
力強い不思議な踊りは子供達も魅了したらしい。皿を片手に足を鳴らして踊り始める。
扇の代わりに皿を用いたということに気付いたのは誰もいなかった。
子供はもう寝る時間だと家に帰される。
「首尾よくいったようで何よりだ」
まだ寝たくないとぐずったチアクを寝かしつけに行っていたユリアンの足音にダリオ気付く。
「ただいま。これ、とっときのワイン」
差し入れのワインとは別に取っておいたワイン。少し奮発したこのワインは村を守るため力を貸してくれた皆への礼。祭りで飲もうと以前から用意していたのだ。
「はい、エアルドさんはこっち」
酒類は一切飲まない師匠のために長老の家で淹れた香草茶を渡す。先程歌っていたから喉に良い薬草も足してみた。
「ユーリ君は?」
「俺? ……一口だけ」
ユリアンの手から瓶を取り上げアルヴィンはその杯にトクリと注ぐ。
「じゃア、かんぱーい」
アルヴィンの音頭に皆が唱和する。
「あ、美味しいなぁ。エアさんの分は俺が飲んであげる」
「えー、ルールーの分は僕が頂くヨ」
「いやいや、それがしが」
「三人で分けるって発想はないのかねぇ?」
エアルドフリスがこれみよがしに溜息を吐く。
「ユリアン、どうかしたのかい?」
「お祭り、できて良かったなって……」
ユリアンは祭りの空気を感じるように大きく深呼吸をした。
「皆……本当にありがとう」
「ユリアン殿はリッチーの爪の垢でも煎じて飲むと良いかもしれぬぞ」
冗談か本気かわはらないダリオの隣で「どの爪がいーイ?」とアルヴィンが手を広げる。
「いやリッチーが二人に増えるのは……」
額を押さえたエアルドフリスが「冗談はおいといてだな」とユリアンを見た。
「ユリアンはもう少し……」
「俺はユリアンさんを助けたいから助けたの、そーいうこと」
割って入ったジュードが「わかった?」と念を押す。
「僕は心の赴くママに行くんダヨー」
仲間達の言葉にユリアンは笑顔で頷いた。
ワインで火照った頬に夜風が心地よい。
「……気持ち良いなぁ」
「お祭り、楽しいなー」
ユリアンの背に寄りかかりフレデリクがふにゃと笑う。
「お祭りにかんぱーい!」
真っ赤な頬でフレデリクが最後のワインを注ぎ杯を突き上げた。
「かんぱーい」
「アメノハナに!」
「村を救ってくれたハンターに」
あちこちから上がる声に、「あ、ワイン。リンリンにシてやられたネー」そんな笑い声が混じる。
夜更け、広場に残るのは男達ばかり。皆それぞれ小さな焚き火を囲み祭りの名残を楽しんでいる。
「少し口を出しすぎたか……」
エアルドフリスが小枝で置き火をつついた。火の粉がはじけて飛び散る。
「僕はルールーの歌が聞けテ良かったケドネ」
「……それは嬉しいね」
子供のように足をばたつかせるアルヴィンにエアルドフリスは口の端を上げてみせた。
「村の行く末には興味がアルヨ」
でもそれは彼らの選択した道がどう繋がっていくのか……観察者としての興味である。エアルドフリスが村の行く末を気にするのとはまったく別の話だ。
「どのような道を選んでも村に苦難はあるであろう。だが……どうにかなると、それがしは思っている」
ちびりと酒を舐めたダリオは二人の視線に気付いて「風習や文化に関して門外漢故にそれがしは言葉を持たぬが……」と言葉を続けた。
「国の礎は民だ。それは街だろうか村だろうが同じこと。民がいて初めてそれらは成り立つ……ならばそれがしは」
残りの酒を呷り、美味い酒だ、と。
「民を村の生活を守れた事に満足しておる」
「そうダネ。僕は彼らの意思にヨッテ選ばれた結果を見たいナ」
大きな力に蹂躙され、流されるのではなく自分達の意思で選んだ結果ならばそれで良いとアルヴィンは考えている。きっと自らの意思で選んだ結果に後悔は無いだろう。
「俺は俺にできることをするだけさ……」
後悔をしないために。
互いの考えにそれぞれ口は出さない。
何もかも一緒じゃなければ仲間になってはいけない、などという決まりはないのだ。
それぞれに考えがある、というのを知っていればいい。それを認めた上で自分達は此処にいるのだから。
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翌朝、早くに目が覚めたユリアンがアメノハナを見に行くと先客がいた。
「ユリアンか。早いな、おはよう」
薬師の師匠、エアルドフリスだ。
「長老が言うにはアメノハナは宿根の多年草で強い日光と高温に弱いらしい」
彼は皮袋に土を詰め、そこにアメノハナを植え替えている。そういえば昨夜、エアルドフリスと長老達が村の行く末について話していた。
村人の笑顔を思い出す。彼らはアメノハナが春を連れて来たことを心の底から喜んでいた。春を迎える花は彼らの心の中心にあり、そして誇りなのだ。
師匠と違い経験も知識も無い自分は余計な事は言えない。
(でも花を守る手伝いはしたい)
彼らが村を離れるなら自分が定期的に見に行き報告してもいいし、此処まで様子を見に来る村人の護衛についてもいい。
アメノハナがこれから先も村人とともに春をそして誇りを迎える花でいられるために自分も動きたいのだ。
「俺も世話を手伝ってもいいかな?」
「とっくに頭数に入っているがね」
頼りにしてるよ、とユリアンの肩をエアルドフリスが叩く。
「まずはこの辺りの水と土と植物の標本が欲しいところだな」
「じゃあ、手分けして集め……っ」
風が吹いた。風を追いかけ空を仰ぐ。
「また来る。良いだろう?」
冷たい冬の風ではない。湿気をはらんだ春の風が、ユリアンの呟きをさらっていく。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ka1664/ユリアン/男/外見年齢16歳/疾影士】
【ka0410/ジュード・エアハート/男/18歳/猟撃士】
【ka1856/エアルドフリス/男/外見年齢26歳/魔術師】
【ka2363/ダリオ・パステリ/男/外見年齢28歳/闘狩人】
【ka2378/アルヴィン = オールドリッチ/男/外見年齢26歳/聖導士】
【ka2490/フレデリク・リンドバーグ/男/外見年齢16歳/機導師】
【ゲストNPC/チアク/8歳/辺境部族の少女】
■ライターより
この度はご依頼頂きありがとうございます、桐崎です。
エピローグいかがだったでしょうか?
皆さんがお祭りでわいわいしている雰囲気が出ていれば何よりです。
イメージ、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。
それでは失礼させて頂きます(礼)。