※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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日常の絵姿
一人でいるのは楽でいい。
他人が嫌い? って言われるとそうでもなくて、単に気疲れするという方が正しい表現のように思う。
それを察してくれた上で、彼らは葵に面倒見がいいんだねと言う。
気恥ずかしくて、何馬鹿な事を言ってるのって返すが、実際に、要領の悪い彼らを見ていると、どうしても世話を焼きたくなるのだ――。
…………。
充電の方法はいっぱいある。
可愛い品物、綺麗なお洋服、甘い御菓子。他人に悟られないように一人で楽しんで、十分に堪能して、溢れそうになるとこの楽しみを他人にも分けたくなる。
誰がいいかな、と葵は知人の顔を順に思い浮かべた。
誰を誘ってもそれなりに楽しめるだろうけど、お洒落を楽しみたいという意味で最初に浮かぶのは一人になる。
時間は合うかしら、と思いつつ、彼の店へと足を向けた。
「お洋服を見に行こうと思うんだけど」
店に着いて、ジュードにそう切り出せば彼は二つ返事で空いてる時間を決めてくれた。
買い物の後にお茶するつもりである事も伝え、行きたい場所があったら考えておいて、と言い残すとお店の邪魔をしないように今日は退散する。
部屋に戻って、手元にリゼリオの情報誌を引き寄せる。
リアルブルーからしてみれば絵も色も乏しく、どちらかと言えばチラシの集合体に近い。
店頭に行けば魔導カメラを利用した華やかなメニューもあるのだけど、大量生産のチラシには望むべくもなかった。
その分と言うべきか、表現力をフルに使っただろう宣伝が立ち並び、見に行く楽しみがあるとも考えられる。
ふと自分が所有してる魔導カメラに目を向ける、持つには持っているけれど、アルバムを作る柄でもなし、もっぱら依頼用だ。
たまにはいいかもしれない、そう考えてカメラを鞄の中に放り込む。
あとはチラシの中から宣伝と説明を吟味し、気になるものをいくつかメモに写して、手帳の中に挟んでおいた。
これで準備は万全、いいお店に巡り会えるといいのだけれど。
+
冬だから厚着はしないといけないけど、それでもお洒落は忘れない。
品のいい革コートの上から薄いベージュのマフラーを巻いて、もう少し何か欲しいわねと思いつつ、帽子を選ぶ。
服がこれだけ地味になってしまったのだから、鞄くらいは可愛めでも許されるだろう。服装と違って、持ち物は多少趣味に突っ切ってもあれこれ言われにくいのがいいところだ。
お洒落にはどうしても時間がかかる、早くから起きて準備し始めてたのに、いつの間にか程よい時間になっているのを見ながら、葵は鞄を携えて外に出た。
待ち合わせ場所でジュードと落ち合う、彼も葵に負けずガッツリとお洒落をしていて、短めのコートの裾からは清楚なレースが覗き、厚手のタイツにはアーガイル柄があしらわれてる。
若さっていいわね……と思わず思ってしまったが、化学繊維などないから間違いなく寒い。
確実に痩せ我慢であることを察して苦笑しながら、自分を迎えるジュードに会釈した。
「早いわね、待った?」
「ううん、葵さんならこれくらいかなって」
可愛らしい見た目でありながら、自然にエスコートする素振りを見せるところに、ジュードは育ちの良さを感じさせる。
「じゃあ、行きましょうか」
今日はオトモダチなんだから並んで歩くわよ、そう言って葵はジュードを付き添いの位置から引き剥がし、共に街を眺める位置に直して歩き出した。
…………。
お目当ての店は決めていたけれど、街を見渡す余裕はある程度にゆったりと歩く。
ショーウィンドウに並ぶのは店が自信を持つ主力商品で、それらを流し見ながら、センスやデザインを目の保養にしていく。
時折、目を引くような姿をした子とすれ違えば目を引く場所をチェックするのも忘れない。
お洒落は観察力と細心さ、そして情報蓄積力だった。
入った店は幅広くジャンルを取り揃えている、リゼリオの中では大型の服飾店だった。
ニッチな需要には欠けるけど、数があるから琴線に触れるものも探しやすい。
設備が揃っていて、気持ち程度の暖房もある。座る場所まであったから、冬場にゆったりと服を見るには悪くない場所だろう。
まずは各自一周して店の中に目を通す、気になるものを絞り込んで、後は予算やデザイン、組み合わせとの相談だ。
余り煮詰めすぎても良くない、気分転換に相方が見ているものを覗けば、なんとなしに意見交換会に展開していく。
ジュードはとても可愛らしいのだけれど、それを引き締めるかっこよさが似合うと葵は思っている。
見繕ったのはファー付のハーフ丈のライダースジャケット、中はシンプルなキャミソールにして、隙間からジュードの細い首筋、繊細な肩を覗かせる。
細い足を包むのは当然のようにニーハイソックス、デニムのショートパンツを合わせて、一緒に選んだショートブーツは内側がチェック柄になってるフェミニンなものだ。
選んだものを試着してもらい、試着室から出てきたジュードは。
「……寒い!」
「……ごめん、つい夏服仕様になっちゃってたわ」
店内に暖房があるからまだ我慢出来る方だけど、流石に冬場には着れないと二人で苦笑する。寒いからちょっとだけね、とジュードは試着室から出てきて、くるりとターンをした。
「うん、似合うわね、特に上着の方、かっこよくて可愛いわ」
ジャケットのもこもこがかっこよさの中に柔らかさを加え、ジュードの髪色も引き立てている。
ポイントはやはりちらりと見える首周りだ、あいつもイチコロね! と親指を立てれば、ジュードは途端に挙動不審になった。
「そ、そうかな……?」
「間違いないわ、あいつの好み、大体わかるもの」
ズボンとブーツは持っているというから、ジュードはジャケットとキャミソール、そして種類があっても困らないというニーソを購入する事にしたようだ。
もう一度試着室に入ろうとするジュードに、ちょっとだけ待ってと引き止め、葵は店員に向けて何やら確認をする。
「買うなら写真OKだって」
どうする? そう言って葵は魔導カメラを出して微笑んだ。
…………。
お店の邪魔にならないように、手早く数枚の写真を撮った。
ジャケットの襟元を緩め、少し肩を出して恥じらいの視線を向けたもの。
水色のチェックマフラーを探してきて、首に巻き付けてはにかんだもの。
休憩用の椅子に座ってデート風、などだ。
「誤解されないように後で細工する必要があるわね……」
ジュードは元の服にお着替え中、現像されたものを見て呟きながら、葵はすっかり自分の買い物など忘れてしまっていた。
だがそうは行かない、いつの間にか戻ってきたジュードが何やら抱えたものを葵の背中にぽふっと当てる。
「今度は葵さんの番!」
「……あら?」
ジュードで好き勝手した手前、自分は着替えないという訳にも行かず、葵もジュードのお見立てを試着した。
オフホワイトのスタンドカラーシャツに、ブラウンのスラックス、チェックのオッドベストをあわせて、柔らかなキャメルのチェスターコートでまとめる。
普段の葵に比べると凛々しさは一段と高い、中折れ帽を被って、完璧な紳士スタイルになった。
「……殺人事件が起こりそうね!」
「浮気調査でもいいと思うよ?」
二人だけがわかる意味に笑いながら、これつけてこれ、ってねだるジュードから伊達眼鏡を受け取ってかける。
柔らかな顔立ちが隠れ、切れ者という感じが色濃くなる。かっこいい、とはしゃぐジュードに微笑みかけつつ、自分も姿見の前で出来を確認していた。
スタイリッシュな紳士スタイルだけど、コートの線は細く、色合いもあってどことなく柔らかさを感じさせる。
服は男物だけど、葵は可愛いものが好きなのだ。
だから気づく人だけ気づく可愛らしさ、隠れたフェミニンさが葵が好むものになる。
そういう意味ではジュードの見立てはいい、特にこのコートがばっちりだ。
「このコートと帽子にするわ」
気に入ってくれた? と見上げるジュードにウィンクをしつつ、一度片付けると、二人して精算に向かった。
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自分も撮ったんだから、と言い張るジュードに根負けして、葵も数枚写真を撮った。
口元に手を当てて思案する知的なスタイル。
ふと気を抜いたような柔らかな一瞬、身を潜めての探偵ごっこも一枚だけ撮った。
存分にはしゃいだ後、荷物を抱えてカフェで休憩を取る。
テーブルには各々のケーキとお茶の他、先程撮った数枚の写真があった。
「エアハートのこの服ならネイルはピンクね、ラメとかあればいいんだけど」
「葵さんは……ワインレッドかなぁ、飾りを入れるなら縁に金色とか?」
他のパターンから街で見かけたものまで、話題はとりとめなくきゃっきゃと移る。
そうだ、と思い出したように葵がペンとインクを出して、机の写真と一緒にジュードに渡した。
「これ、後ろにあいつ宛って書いておいて、変な勘ぐりされたら堪らないもの」
頷きながらも思案したジュードは、恋人の名前と共に「夏にこの服着てデートしようね!」「このマフラーの色、誰だと思う?」と書き添える。
インクの色は黒ではなく、少し青みがかかってるあたりが葵らしい。
「この写真、私が預かるけどいい?」
あいつを釣る餌にするわ、と葵がにんまり笑うから、ジュードは苦笑しながらも頷いた。
後ろに宛名が書かれてるから、変なことにはならないだろう。
写真は全てなんでもない日常のもの、いつか彼の人と夢見られるかもしれない姿のもの。
そういう風に撮られたセンスをジュードはいいな、と思っていた。
だって、ジュードは彼の人にそれ以上を望んでいない。
ただ自分と一緒にいてくれて、共に生きてくれればそれでいい。なのに彼の人はまだ不安定で、いつか水に溶けてしまわないか、どうしても不安になる。
葵がこの写真を使って彼を釣る事を許可したのも、……そう、だってジュードだって彼を全力で誘惑して、引き止めたかったから。
「あら、このケーキ美味しいわね、レシピ変えたのかしら」
「本当? あ、葵さん、よければはんぶんこ!」
……それはそれとして、同好の士とのお喋りはとても楽しい。
可愛いが好きで、恋を大切にしている。生きづらい事もあるけど、乙女な心はきっと頑張れる。
絆を確かめて、笑い合う、その一瞬を、写真に収めて――。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3114/沢城 葵/男性/28/魔術師(マギステル)】
【ka0410/ジュード・エアハート/男性/18/猟撃士(イェーガー)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼有難うございました。
ジュード君を100%女子にするかどうか迷ったのですが、根底が男子で、それを失わないまま乙女でもあるジュード君が好きなので、そういう感じのバランスにしてみました。
副発注者(最大10名)
- ジュード・エアハート(ka0410)