※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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強くなっていく。
今日、ジュードに開店の予定はなかった。
新しいメニューでも考えようか、買い出しに行こうか、どっちかにしようと思うけど、考えがまとまっていない。
明かりを落とした店内には窓から日差しが差し込んでいる、8割ほどの日陰は程よく心地よくて、カウンターで頬杖をついてるとこのまま眠っちゃいそうになっていた。
なんとなしにぼーっとしていると、裏の方から呼び出し鈴が鳴る。
裏から来るなら知り合いの誰かだろう、ふぁい、と精神を奮い立たせて応じると、仲間の、優しげで人懐っこい顔立ちがあった。
立て込んでなかったかな、とアルヴィンは少しだけ気にする素振りを見せたけど、単刀直入に用件を口にする。
「アソビに行かないー?」
「いく!」
明確なやる事が出来ればジュードは覚醒するのも早い。
ちょっとだけ待ってね、と言いながらアルヴィンを室内に招き、少し座って貰った後、自分の出来る最速でお出かけルックを整えたのであった。
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日よけの帽子に薄手のボレロ、ノースリーブのブラウス。
肩に下げる鞄を合わせて、いずれも引っ掛けるだけでそれなりの見栄えになる。
待たせる時間を増やさない範囲でお洒落をした、そんな感じである。最も、待たせている事には変わらないので、身だしなみをチェックした後転がるように出て来た訳だが。
アルヴィンは待ち時間を気にした様子もなく、ジュードが出てくるのを見ると、早かったネ、とだけ微笑む。
気を遣わせてないかな、という心配は少しだけジュードの心によぎったが、この考え方が良くない事はもうわかっていたから、お待たせ、と元気いっぱいの笑顔で微笑んだ。
…………。
アルヴィンが訪れたのは単なる気分である、明確に何かしたいという目的がある訳ではない。
行きたいところがないなら食べ歩きでもしようと思うけど、というアルヴィンの提案にジュードは少し考え込む。
食べ歩き、勿論歓迎である。何も考えずに好きなものを食べ倒すのはとても魅力的だったが、今日棚上げしたお店の事が気になっていた。
メニューを考えようとしたが、これと言って明確な方向性がある訳でもない。
そういえば久しく他のお店の研究をしていない気がして、ジュードは考えた事をそのまま口にした。
「他のお店がどんな夏メニューを出してたのか見に行きたいな」
夏ももうじき終わる、今から見に行ったところで影響されすぎる心配もない。
それに、そもそもとしてジュード自身が客として他の店を純粋に楽しみたかった、学習にしたい気持ちが数割あれど、メインはそこである。
「ン」
じゃあ夏のお菓子堪能ツアーだね、とアルヴィンは微笑みを作った。
…………。
喧騒から一歩離れて、カフェ通りを歩いていく。
堂々と日焼けした手足を晒している人がいれば、ジュードみたいに白を纏い肌を守る人もいる。
日差しに照らされ、室外席の多くは空席気味だったが、大きなパラソルや屋根のある席なら稀に客が入っている事もあった。
店の外には看板代わりのチラシが置かれており、自らの目玉商品をこれでもかと主張している。
レモンのシャーベットにキウイを添え、蜂蜜をかけて甘酸っぱく仕上げた一品。
透き通ったオレンジの飲み物にアイスを載せたのはリアルブルーに伝え聞くフロートと言う奴だろうか。ヨーグルトに果物を沈めて凍らせた菓子は、最近の流行りだと書いてあった。
いずれも魅力的だったが、今日の二人の目当てはこれらではない。ジュードは少し心惹かれる様子を見せながらも、チラシだけ貰ってお店をすり抜けていく。
「アッチもオイシそうダヨネ」
アルヴィンの気軽な言葉は他意を感じさせない。単なる感想のようにも、ジュードが心変わりした場合に言いやすくするような布石にも思える。
きっとそういうどちらにも取れて、どちらにも気負わせない言葉なのだろう。
彼は優しくて気が回るから、余裕がなかった頃の自分なら、その気遣いに気づく事も出来ずに、勝手に気に病んでしまうこともあったかもしれない。
「うん、でも今日はあっちにしよ」
ジュードがはっきりと意思表示すると、彼は嬉しそうな顔をする。
アルヴィンの袖を一度だけ引っ張って、そっとカフェ街から離れた。
気遣いを受け取るかどうかは、ジュードが決めていい。理由は仲間だからで十分で、返すものも、きっと謙虚以外のものがいいのだろう。
目当ての場所はメインストリートから少し離れた場所。
軒先でちりんと鳴る風鈴、それが夏に置ける東方店舗の目印である。
+
出発する前、ジュードとアルヴィンはどのお店を回るかの作戦会議をしていた。
素敵な店が沢山あるからって全部見て回れるはずもない、盲目的にうろつけば夏バテの可能性もあるから、先にリゼリオガイドとにらめっこするのがいいように思えた。
どのお店が有力なのかは二人ともある程度心当たりがある、しかしこれ、とするにはイマイチ決め手不足だった。
「リッチーはどういうのが好き?」
ジュードの問いかけに、アルヴィンは暫し考え込む素振りを見せる。
任せる……というのはなしだろう、きっと相手は友人として、アルヴィンの好みを知りたがっている。
記憶の中から、心惹かれたものを探り出す。
「キレイな見た目のがスキだナ」
凝った見た目で、可愛らしいものだといい。冷菓の中ならゼリー系を好んでるのだというと、ジュードは何か心当たりがあるのか、声を上げた。
「和菓子は大丈夫?」
勿論、と答えるとジュードはホッとしたように地図のある場所を指差す。
「じゃあ、ここにしよ。リッチーなら気に入ってくれるかも」
…………。
そんなこんなで、和菓子屋である。
店内には座るための縁台があり、暖簾で日差しを絞られ、隙間から外を眺められるようになっている。
気づけばアルヴィンの希望で進められていたが、悪い感じはしない、ジュードが見せたがった菓子は錦玉羹という名だった。
見た目は透き通ったゼリーのようで、中には繊細な細工を施された練りきりが封じ込まれ、景色を切り取ったかのような美しさを見せている。
琥珀菓子とも言うんだよ、とジュードが嬉しそうに紹介すれば、アルヴィンの口からも思わず小さな感嘆が漏れた。
目一杯頼んじゃおうか、という提案。一瞬だけ思案がちらついたが、ジュードの笑顔には何の曇りもない、ならきっとこれでいいのだと、アルヴィンも微笑んで、提案に頷いた。
透明な寒天に、鮮やかな赤の尾びれを誇示する金魚。
紫陽花をモチーフにしたものは透き通った紫が美しく、葉っぱを模った敷物に乗せられている。
赤の寒天には小豆のような飾りが浮いている、下は薄い緑と白が敷かれていて、スイカかこれ、って気づいた時にはジュードが吹き出していた。
食べよ食べよ、とジュードが促すから、二人して皿の上で切り分けながら頂く。
行き先を決めたあたりからジュードに世話を焼かれてる気がしなくもない。
それは彼が元気に、強くなった事を意味するように思えて、少しばかり感慨深い気持ちになる。
菓子を摘みながら、二人は何も気負わずに話をした。
ジュードが思った事を口にして、アルヴィンがそれに相槌を打つ。
最近青年らしくなった少年の話や、相変わらず女性に弱い恋人に対するぼやきみたいなもの。思えば明確に誰、とは話した事がない。それはジュードが隠そうとした訳ではなくて、それが許される互いの空気感だろう。
アルヴィンはその辺を詮索しない、語りに隠された誰かは重要じゃない、アルヴィンが見ているのは、いつだってそれを語る当人がどういう気持ちなのかだから。
「あの人はねー……」
恋人の事を言いかけて、ジュードは口を噤んだ。
遠くを見てはいるが、下を向いてはいない。「まだ、時間が必要みたい」と、それだけ口にした。
悩んでいる事は気づいている、それがジュードとの間に関係する事なのも。
それはジュードが彼を変えたからであると、ジュードは明確に認め、それを受け止める気持ちでいた。
「だから、もうちょっと待とうって思っている」
昔だったらリッチーに泣きついてたかも、と冗談っぽく言うと、二人の間にくすぐるような笑みが溢れる。
「有難う、リッチーのお陰」
「ソウ?」
「うん、あのね……」
どんな気持ちでも、アルヴィンはそれを許すだけの空間をくれて、気持ちが定まるまで辛抱強く待って、前に進むのを見守ってくれる。
だから、リッチーのエスコートはとても綺麗だよ、というと、言い回しが可笑しかったのか、アルヴィンが思わず吹き出していた。
「……ウン、ドウ致しまして」
いつも楽しく微笑っている彼だけど、吹き出すのはレアかもしれない。
自分の気持ちが、彼にとっても良いものだといいとジュードは思っている、だから。
「今日はね、俺がリッチーを此処に連れて来たいって思ったんだ」
夏の御菓子を食べたかったのも、メニューを考える材料にしたかったのも本当。
ちゃんとアルヴィンとの会話中にヒントを貰っている。
でも、他の御菓子を断念してまで、此処に連れてきたかったのは、ジュードがそうしたかったから。
東方のルーツを持つジュードにとって、和菓子は少しだけ特別で、そんな自分が知る、彼好みかもしれない御菓子をアルヴィンに見せてあげたかった。
アルヴィンは自分たちに色々気を回してくれている、それに気づいたから、仲間であり友人である彼に、謙虚や遠慮ではなく、同じだけの喜びを渡したかった。
「……ウン」
穏やかな顔で、アルヴィンはジュードの言葉を噛み締めている。
「ソウダネ……キット、嬉しいッテ、思っている」
独特な言い回し、それがアルヴィンという人。そうやって受け止めて行こうと思って、ジュードは良かったと微笑む。
「ルールーが聞いたらオモシロイ顔をシソウ」
「えー?」
言ってくれないとわかんない、そうジュードはいたずらっぽく舌を出す。
ちりんと風鈴が鳴る。
これにて、夏は幕を閉じた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2378/アルヴィン = オールドリッチ/男性/26/聖導士(クルセイダー)】
【ka0410/ジュード・エアハート/男性/18/猟撃士(イェーガー)】
副発注者(最大10名)
- ジュード・エアハート(ka0410)