※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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……ねむれ ねむれ
夢の波にのって
想いの籠に揺られて
明日の朝まで休んでおいで
おやすみ おやすみ……
「おとぉーさん、おかぁーさん、おてて、おおきーねぇー♪」
繋がった手のそれぞれをぎゅっと握りしめて笑えば、必ず笑顔が返ってきていた。
歩く足でリズムをとるように、弾む声はうたうように。
力強く引いてくれる父の手は大きくて、家族を背負う大きな体躯は自慢だった。
優しく支えてくれる母の手は柔らかくいいにおいがして、笑顔には愛情が溢れていた。
「シェリーも、おとぉーさんみたいにつよくて、おかぁーさんみたいにきれいに、なりたいなぁー♪」
この両親の間に生まれた私は幸せで、それが当たり前だと思っていた。
「……ふ、ぅぐ……どう、して……」
黒くて、ぶかぶかで、フードを被れば顔を隠せて。
大きな大きな上着は、母が最後に自分へと着せ付けてくれた、父が少し前まで着ていた筈の一着。
少しでも怪我がないように、広い布が、シェリルを包んで。
父のにおいに包まれて、母のぬくもりに包まれて。
崩れる音。
励まし続けてくれる声は、次第に聞こえなくなっていった。
顔をあげたくとも、抑えつけられたままでは、小さな子供の身体では身動きが取れなくて。
ぬくもりが傍に在る筈なのに、身体は不思議と冷えていく。
聞こえる息遣いが自分のものだけだなんて信じたくなくて、力の限りに声をかけ続けて。
それが救助の切欠になった……なんて、皮肉。
フードで顔を隠して、熱い雫は全て、上着の袖に沈めて。
胸ポケットの中のものには、気付かないふりをした。
生きていけるなら、それでいい。
「……私の手は……とても、小さいから……」
助けられることしか出来なかった身体、けれど同時に、闘う力を手に入れた身体。
約束を守るだけなら、生き残る為なら、必要最低限を守っていればいい。
力は使うものだから。
「……この手でも、出来る、こと……」
大切なものを奪った歪虚は、みんな、みんな。
居なくなればいい。
「……その日には、きっと……笑えるから……」
うまく笑えなくなった分も、いつか。
「……命の緋を、見せて……聞かせて……?」
振るう烏枢沙摩も、多くの歪虚の血を吸って更にさらに朱く輝く。
漆黒の風を自らの身体に巡らせて。避ける隙を与えぬままに屠る。
「ね……戦って……最期まで、生きるために……」
血色の髪を靡かせて、歪虚の叫びに薄く微笑む。
眦を決するその瞳は、仮面越しでも、孤独な月を思わせる閃きが伺える。
また一体の終わりを見届けて、フードを目深に被る。
「私の緋は……まだ、燃えているから……負けないよ」
さあ。次の叫びを、聴きにいこう。
「小さい、まま……」
空に透かしていた手を、ぎゅっと握り込んで。
自分が生き残るだけの道ではなくなっていた。
護りたい、掴んでいたいものは、知らぬ間に増えている。
「……どれだけ、斃しても……消える時は、消えちゃうんだね……」
せめて、大切な人達の笑顔くらいは。
「……止めない、よ……何色か、知らなくちゃ……」
望んだ世界の先を。
かき抱いたものがこれから見せてくれる、未来を得るために。
出来るということは、向いているということ。
ならその逆の何かが必要なときは、どうすればいいのだろう。
「……向いてないなら、別の、何か……?」
似ている何かなら、代わりに出来るかもしれない……いいや、きっと意味がないのだろう。
だから、今出来ることを。
刃を振るうことしか出来ないなら、そのまま突き進んでしまえばいい。
振るい続けていられるなら、盾くらいにはなれるから。
かわりに傷を受けることなら出来るから。
戻せないなら、傷も罪も同じで。
「……戦うことで、償う……約束の、ためにも」
慟哭を思わせる澄んだ音は、互いの共鳴をしたように響いた。
だから、よく馴染み触れあった場所は、涙の代わりに置いてきた。
振るう時、風を切るような音で共に笑い。
浴びた血の色で互いの存在を示しあって。
歩み続けた相棒は、心の欠片を幻影に変えた。
「……また、一緒に……いこう……」
幸せも、絶望も。
笑顔も、嘆きも。
最期まで、同じ場所から、世界を見てくれる筈だから。
胸元のタグが主張するように、風もないのに揺れる。
「そう、だね……私、は……生きてる……」
罪も傷も増えたけれど、生き足掻いている。
手は小さいままだ。
力だって、上を見ればきりがない。
笑顔はまだ、苦手だと思う。
でも、大切にしたいものが、増えたから。
……ねむれ ねむれ
想いは力に
記憶は夢に
目覚める前には忘れておいき
おやすみ おやすみ……
「……ねえ、モイラ……今日は、なんだか……気分がいい、ね……?」
タグがあることを確かめて、上着を羽織って。
窓をあけて、外の空気を吸い込む。
早咲きのプリムラが、小さな庭を彩っていた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0509/シェリル・マイヤーズ/女/14歳/疾影刀士/抱えられるだけの、笑顔だけでも】