※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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小さな冒険に出る話
街を南北に流れる大きな川、そこに架かる橋の先に広がる空は秋晴れ。
様々な文化が混じるリゼリオにあっても橋を越えた辺りの風景は特徴的だ。
並ぶ建物は木造の平屋が多く、頭上を遮るものがない故に空が広い。
石畳ではなく土を踏み固めた道。かといって西方諸国の農村とは異なり都市として成立している。
リアルブルーのとある国の出身者ならば「時代劇でみた」と思うだろう。
橋から伸びる大きな通りに「さくら亭」という食堂がある。裏手は「さくら長屋」と呼ばれるハンター向けの借家。
食堂、長屋、その両方を切り盛りする女将が暮らす母屋に囲まれた中庭にはその名の由来となった大きな桜の木。
長屋は縦に長い。路地に面した入口、土間、囲炉裏のある板の間、畳の間、そして縁側から中庭に通じる。
「ん~、良い天気」
掃除を終えたアンネマリーは大きく伸びをした。
陽光に照る桜の色づいた葉。日当たりは良好。零れる欠伸。
一年の多くを雪に囲まれた森で暮らしていた彼女にとってこの陽射しはとても贅沢だ。
ハンターオフィスから遠いこの長屋を選んだのは日当たりのためと言っても良い。
と、触れた柱に不意に重なる故郷の実家。
もちろん優に三桁は越える実家とは造りも違う。
でも初めて訪れたときに木の感触に懐かしさを覚えたのも事実。
「うっ、前世の記憶が……」
自ら変化を求め外へと出たというのにまるでホームシックのようだと恥ずかしくなり、懐かしさは前世の記憶のせいとか冗談めかす。
「さてと図書館に行こう。お留守番お願いしますね」
縁側で気持ちよさそうに寝ているユグディラに声をかける。
パタンと揺れる尻尾が返事代わり。
どう見ても猫よね、といつも思う。
橋を渡って図書館へ。
遠くからでもわかる赤煉瓦の図書館は戯曲の台本や楽譜など蔵書が充実している。
「お姉ちゃん、今度はどんなお話?」
入口近くで子供たちに呼び止められた。
大家に頼まれアンネマリーは時折その図書館で吟遊詩人として活動をしている。歌も交え表情豊かに語られる物語は子供たちに好評だ。
「まだ決めてないですが、楽しいお話を探しておきますね」
楽しみにしてるねーと子供たちが元気に走っていく。
館内に漂う静けさ。少しひんやりとした空気に混じる古い本の匂い。高い天井付近のステンドグラスから注ぐ光が磨かれた石床に花を咲かせる。
足音は控えめに背の高い書架の間を通る。
児童書のコーナーを行ったり来たり。
読み聞かせようにこれだ、という本を見つけられず図書館を後にする。
帰りは来た道とは別の道。
建物の間に渡したロープに洗濯物が翻る脇道は馬車が通れず子供たちが遊び、女性が井戸端会議に興じている。
いくつか角を曲がり狭い路地を抜け古い噴水のある小さな広場へと出た。
「にゃぁん」
アンネマリーに気付いたハチワレ猫が一声鳴く。
そこは猫たちの昼寝場所だ。
「こんにちは。絶好のお昼寝日和ですね」
籠から取り出したブラシでマッサージをしてやれば気持ちよさそうにハチワレが伸びた。
我も我もと猫が寄ってくる。
一通りブラッシングを終えたところで、真っ白い猫が姿を見せた。
「お久しぶりです、クリームさん」
猫はアンネマリーの膝に一度頭を摺り寄せるとついて来ていうように歩き出す。
横歩きでようやく通れる細い路地、崩れた壁の上、白猫は時折アンネマリーを振り返ってくれるが追いかけるのは中々に大変。
白猫が潜っていったわさっと茂った植え込みの小さなトンネル。
どうしたものかと考えていると白猫の呼ぶ声が聞こえてきた。
「えぇい!」
覚悟を決め四つん這いでトンネルを潜る。
ガサガサ枝を鳴らして、ようやく茂みから抜け出した。
「一体どうし……」
可愛らしい鳴き声。
白猫の足元、白に三毛に茶トラ――三匹の子猫。
「わぁ」
コロコロ転がる毛玉に可愛いと声を上げる。
白猫が子猫たちをアンネマリーのもとへと咥えて連れてきた。
「初めまして、私はアンネマリーと言います」
掌に乗せた子猫たちはふわふわととても温かい。
これはお祝いです、とアンネマリーは持っていた籠に落ち葉を詰め上にハンカチを乗せて木陰に置いた。子猫たちのベッドにしてください、と。
「それにしても……」
改めて自分の姿を見る。服は汚れ、髪に枯れ葉、肌には擦り傷。
「ちょっとした冒険でしたよ、クリームさん」
スカートを叩く手を止める。
「あ。子猫の冒険とかどうかな?」
次のお話は自分で作ってみるのはどうかと思い付いたのだ。
子猫たちの小さな冒険の物語。
止まった手を白猫が舐める。
「えぇ、勿論クリームさんも出ますよ。大活躍です」
ザリっとした舌にアンネマリーが小さく笑う。
どんな物語になるかはわからない。
でも外の世界へ目指し里を出たように新しい事に一歩踏み出してみるのも悪くない……かもしれない。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0519 / アンネマリー・リースロッド 】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございます。桐崎です。
初めて描かせていただけるのがおまかせという……挑戦まことにありがとうございました。
いかがだったでしょうか?
過去の納品を拝見した印象からなんとなく和風にしてみました。
大掃除は住人総出でしているかもしれません。
文学のことなど入れたいネタもあったのですが字数の関係上……。
楽しんで頂ければとても嬉しく思います。
話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。
それでは失礼させて頂きます(礼)。