※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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いたずらは甘い
●めいside
リアルブルーにはハロウィンっていうお祭があるのです。1秒だけ時間をやる、いたずらかお菓子かどっちか選べーって、そんな感じ……です?
とにかくっ。
今日がハロウィンなのです。
でも、こちらにハロウィン、ないですよね。
でもでも、クリムゾンウェストのみなさんにもハロウィン布教したらいっしょに遊んでくれるんじゃないかなって思うんです。リアルブルーのお友だちも巻き込んで――あの人なら、すぐわかってくれて、きっと、その、うん。
2回めのとにかくっ。
わたし――羊谷 めいは決めたのですよ。
今日のわたしは聖導士じゃなくて、吸血鬼です!
●リクside
戦慄の機導師ことキヅカ・リクです。
早速だけど、今まさに僕は戦慄してるわけですよ。
「お菓子くれなきゃいたずらするぞい!?」
ケチャップまぶした甲冑姿の強盗(多分、死霊武者コスしてる友だち)にからまれたり。
「お菓子をいたずらだよお!」
包帯で覆面した変質者(多分、ミイラ男コスのつもりな友だち)に強襲されたり。
「お菓子くれてもイタズラするわよぉ!?」
なんか黒いオネェ(知らないオネェ)から選択も許されない宣言突きつけられたり。
でも、そういう人々に僕は訊きたいわけだ。
おい、この僕がハロウィン仕様に見えるか?
パーカーにジーンズだよ? 大規模戦闘に備えて、部屋の掃除と「ヴァルトブルク」の洗濯すませてきたばっかりだよ? で、疲れ果ててご飯買いに来たらこれだよ? 貴重な食料品、もりもり強奪されてさ。
「誰だよ、こっちの世界にハロウィン広めようとしてるの」
広めるならせめて正しい情報にして? これ以上、僕がなにも失わなくていいように……。
●めいside
「ハロウィンというものはですね、みんなでオバケの仮装して、お菓子くれなきゃいたずらするぞーってする、うーん、なんでしょう? 仁義なき戦い?」
道の途中で出逢ったクリムゾンウェストのみなさんに、わたしはいっしょうけんめい説明します。
ただ、リアルブルー出身の人も「そう言っちゃえばそうなるんだよな(異口同音)」って感じで、楽しそうに走っていくのはどうしてでしょうね?
――と、お友だち発見です。わたしはぴゅーっと走っていって両手をがぁーって挙げて決めポーズ。
「お菓子くれなきゃいたずらですよー?」
レースで飾ったゴスロリドレスはもちろん黒! つけ爪とつけ牙をチラ見せして、背中の小さなコウモリ羽をぱたつかせるわたし、誰がどう見ても吸血鬼です!
「よくわかんねぇけど、菓子持ってねぇから肉でいい?」
「え? あ、はい、ありがとうございます」
んー、焼いたお肉はお菓子に入るんでしょうか?
「むしろいたずらの内容を教えていただけますか? くわしく!」
んん、どうしてそんな、なにかを期待するまなざしですか!?
「こ、このお肉に免じていたずらはやめておいてあげるのですー!」
クリムゾンウェストのお友だちにハロウィン教えるの、危険な気がしてきました……。
●リクside
平和な街に強盗が溢れてる。
「肉取られたから肉よこせ」
「肉なんて持ってないけどね……」
「今日はいたずらって建前の暴行が赦される日なんだよなぁ?」
「お菓子あげるから帰ってお願い」
まったくもう、なんて日だ。
僕はやれやれ、ため息なんかついて歩き出す。
クリムゾンウェストの連中はまちがった知識でハロウィンを貪るし、リアルブルーの連中はそれわかっててノってくるし。あわてて用意した実弾(お菓子)も僕のお財布も、そりゃあ見事に空っぽですよ。おかしいね。僕はなんにも食べてないのにね。もう帰って水飲んで寝るしかないなんて。
せめて癒やしが欲しい。具体的に言ったら、かわいい子にいたずらされたい。それだけで僕は、今日っていう地獄を天国へすり替えられるのに。
あー、かわいい子、かわいい子、かわいい子……
「お菓子くれなきゃいたずらですよ?」
「あ、かわいい子」
「ふぇっ!?」
思わず声に出しちゃった僕の目の前で、黒めいちゃんがびっくりしたんだ。
●めいside
いきなりです!
リクさんがいきなり「かわいい子」って言いました!
念のためにきょろきょろ、周りを見てみましたけど……ごりごりのおじさんばっかりですよ。
「お髭とか、上腕二頭筋とかが、です?」
念のために訊いてみたんですけど、リクさんは仏様みたいな顔でかぶりを振って。
「めいちゃんは僕のこと誤解してるからすぐ改めて?」
「はい! 僧帽筋と、ヒラメ筋、ですよね!」
「マニアックだね特に後者!」
ツッコまれてしまいました。
いけません。ちょっと気持ちを落ち着けなくちゃ。深呼吸して、ひっひっふー、ひっひっふー。うん、これちがいます。
……わたし、動揺してますね?
原因って、リクさんですね?
あの人ならすぐ察してくれて、遊んでくれるかなって思ってたのに。そのあの人がまさかこんなことするなんて!
「こんなことってどんなことです!?」
「いや、それは僕が訊きたいやつ」
まったくです!
おかしいおかしい、わたし、おかしいです。でも。
「ここで逢ったのが、運の尽き、です」
出逢っちゃった以上は後には退けないのです。わたしはリクさんにわーっと突撃しました。
「お菓子? いたずら? それとも……お肉です?」
●リクside
めいちゃんがおかしい!
僕がヒゲとか筋肉とかしか愛せない男だよ問題はともかく――これ置いといたら後でまずいことになる気もするけど――挙動不審! だってひっひっふーって、ラマーズ法でしょ。めいちゃんから生まれちゃうのか、謎のモンスターとか。
モンスターっていえば、そうだ。めいちゃんは今、モンスターの仮装してる。普段は白くてかわいいイメージあるんだけど、今日は黒くてかわいい。このヴァンパイアになら、いたずらされても本望だなぁ。
「こんなことってどんなことです!?」
うん、その前に正気取り戻してほしいとこだけど。
「いや、それは僕が訊きたいやつ」
あー! って顔もかわいいなぁとか思ってたら、「ここで遭ったのが、運の尽き、です」って。遭遇は罪なのか。世知辛い!
「お菓子? いたずら? それとも……お肉です?」
また肉か。さっきは肉の代わりにお菓子で撃退したんだけど、困ったな。
「もうお肉どころかお菓子もないんだよね」
僕がパーカーのポケットをはたはたさせてみせると、めいちゃんは困った顔で考え込んで。
「――お肉がないなら、お肉をいただくのです」
「え? ちょ、めいちゃん待ってぇぇぇえいっ!」
僕の人差し指にかじりついた。
●めいside
わたし、リクさんのお肉をいただいてます。うーん、これがリクさん味……って、わかってるんです。わかってるけど、わけがわからないだけなんです。
「別に、リクさんの指とか、初めて食べるわけじゃ、ないですしっ」
「僕も知らなかった事実発覚!?」
「わたしも知りませんから、お相子ですね?」
「めいちゃんがおかしい!」
だから、わかってますってば。わたしがおかしいのなんて、わたしがいちばん。
ただ、わたしはわたしのなにがおかしいのかがわからなくて。
わからないから、リクさんの指を噛んで血とか吸うしかないんです。
「お菓子! 残ってたお菓子あったから! だから噛むのやめて!」
「残りもののお菓子でわたしを止められるとでも?」
「とっておきのだよ!? すごいよ!? 健康バランスとれちゃうよ!?」
なんですかその夢みたいなお菓子。
でも、お菓子を出されたらお肉をあきらめなくちゃいけない。それがハロウィンの掟ですから、渋々リクさんの指を離しました。
●リクside
あぶなかった。あのままガジガジされてたら、ハンドサイン出すとき工夫が必要になってたかも。
で、噛まれてる間にいろいろポケットの中探してたわけだけど、めぼしいのは強奪され尽くしてて……今はこれが精いっぱい。
「独身男子の強い味方、バランス栄養食クッキータイプだよお!」
僕は決め決めのポーズで差し出して。
「しかもチョコ味!」
くるっと回ってまたポーズを決めて。
「これはチョコクッキーってことで、なにとぞひとつ!」
華麗な土下座で締めた。
同じリアルブルー人。この究極謝罪の型が放つ“ごめんなさい”の圧は、きっとめいちゃんの心に届く。だから! いろいろあきらめてくれないだろうか!?
「実はフルーツ味もあるよ?」
こっそり添えてみた奥の手だったけど。
「……」
まずい。めいちゃん無言だよ?
そっか。まあ、そうだよね。よし、わかった。歳上男子の覚悟とか決意とか、15歳女子に見せつけてやるぜ!
「こうなったら力の限り、いたずら来いよー!」
がばっと立ち上がってちょっとかがんでめいちゃんと目線の高さ合わせる。それからぎゅっと目をつぶって、僕はどこへ噛みつかれても我慢できるよう、全身に力を込めた。
●めいside
いたずら、来いって言われちゃいました。
まあ、しかたないですよね? 栄養補助食品はお菓子じゃありませんから、たとえチョコ味でもフルーツ味でも、だーめ。です。
そうです。これはそう。いたずら……なんです。妹みたいだって思われてるわたしが、兄みたいだって思ってるリクさんのこと、ちょっとだけ驚かせられたらなっていう、それだけの。
「うそです」
わたしはわたしの言い訳を置き去りにして、目をつぶってるリクさんの頬に唇を押しつけました。
あ、誰かに見られちゃってるかも。
でも、いいです。
だってこれは、妹みたいだって思われてるのがイヤなわたしが、兄なんかじゃないって想ってるリクさんに言えない言葉を込めた――ハロウィンっていう日の力を借りた特別な“いたずら”なんですから。
●リクside
「うそです」
なにが? 今日のめいちゃんはほんと、おかしくない――
え?
やわらかくってあったかくって、めいちゃんの気配が近くって。
あ、これってつまり、そういう……!?
薄目開けて確認しなかった僕のこと、僕は褒めてあげたいと思うんだ。見ちゃったらもう、現実になっちゃうから。
正直、さっきまで兄様みたいなキヅカ君だったの、いきなり変えられないって。……言われなくてもわかってるよ。僕がヘタレなんだってことくらいさ。
でも。
「いたずら、終わった?」
そりゃ赤くなるよ。照れ笑うよ。今日の地獄なんか丸っと天国にすり替わったよ。
こんなにかわいい子のキス、もらっちゃったらさ。
●めいside
やっちゃいました。
やってやっちゃいましたよ。
リクさん赤くなってます。わたしの攻撃でてれてれです。ざまーみろですね。
まあ、わたしも顔が熱いんですけど! きゃーきゃー言っちゃいそうになるお口にぎゅっと力を込めて、はずかしさの勢いに任せて、とどめを刺しに行きますよ。
「まだです!」
わたしは振りかぶった手をぺちーっとリクさんの頬に押しつけました。
さすがです。しっかりわたしの手の軌道を見て、確かめてました。ハンターとしての経験値の差、こういうとこで感じます。
「……なにこれ?」
「血を吸われちゃったリクさんは今日、わたしの眷属ですから。その印ですっ」
頬に貼りつけた、ディフォルメなコウモリのシール。
リクさんはそれを指でなぞって、「そうかぁ」。そして。
「じゃあ、主様に貢ぎ物させてもらおうかな。あっちにツケが利く店あってさ」
●めい&リク
「ご注文の“精霊さんがお墓の隅っこからチラ見してるよ? 僕とわたしの心にほんわり灯った小さくってかわいらしい南瓜提灯さん”パフェ、お待たせしましたー。はい、ご唱和ください。――ツケの奴に人権はないのよ?」
僕は顔見知りの店員に脅されて、アホみたいなパンプキンパフェの名前をご唱和した。店中から注目されてるし、今日いちばんはずかしいわ。
「眷属のがんばりを褒めてつかわしますね」
わたしは思わず笑っちゃってました。だってリクさんがすっごく不満そうで、実はこんな顔もするんだなって。……結構しょっちゅう見てる気もしますけど、ね。
「僕のこと見てないで食べて食べて。溶けちゃうから」
僕はめいちゃんを急かす。そりゃ見られたくないでしょ。こんなかっこ悪いとこ。
「いただきます」
わたしはパフェを口に運びます。ドキドキしてて、味なんてぜんぜんわかりませんけど、でも。
「今まで食べたパフェの中でいちばんおいしいです」
わたしは今日からただの兄みたいな人じゃなくなったリクさんに、心を込めて報告しました。
「言い過ぎだよ。でも、そう言ってもらえたらなにより」
僕は今日からただの妹みたいな子じゃなくなっためいちゃんに、なるべくまっすぐ応えたんだ。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【羊谷 めい(ka0669) / 女性 / 15歳 / Sanctuary】
【キヅカ・リク(ka0038) / 男性 / 20歳 / 戦慄の機導師】
副発注者(最大10名)
- 鬼塚 陸(ka0038)