※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
-
●語られなかった物語
――とはいえ、何を注文するかはまだ、ここに至っても決まってはいなかった。どれもこれも美味しそうで、1つには到底決められそうにない。
そのまま散々迷った末に、結局ルシオはどれがお勧めかを聞いてみることにした。
「ご店主。こちらのお店では、どのケーキがお勧めなのかな」
「そうですね――」
聞かれることには慣れているのだろう、さして驚いた様子もなく執事はカウンターの方を振り返り、ガラス張りの魔導冷蔵庫の中や、その脇に置かれた焼き菓子をぐるりと一瞥した。それらと、ルシオの顔をしばしの間、見比べる。
何だろう、とほんの少しの居心地の悪さを感じ始めたころ、そうですね、と執事がもう1度言った。
「お客様のお好みの甘さは、いかほどになられますでしょうか?」
「……え?」
「果物はお好きでいらっしゃいますでしょうか? クリームは柔らかい方が、それとも固い方が? それから……」
「ええと……」
そうして突然尋ねられた、数々の質問にルシオは戸惑う。執事の表情はどこまでも真面目で、そうして眼差しは何を考えているのか知れない透明さを保ったままだ。
だが、突然聞かれても心の準備というものをしていなかったルシオは、果たして今何を聞かれているのかついていけない。その間にも質疑は、好みの焼き加減から粉の種類から今の季節ならどのフルーツが珍しいリアルブルーからのレシピが、と際限なく続き。
それらをしばし呆然と受け止めて、やがてルシオはかろうじて笑顔を浮かべてこう言った。
「ご店主。あなたのお勧めのケーキを頂けるだろうか。2つと、それから紅茶もお勧めのものを」
「わたくしのお勧め、でございますか」
ルシオの言葉を吟味するように呟いて、執事は「畏まりました」と頷きカウンターへと戻っていく、その背中を見送りながら、ほぅ、とルシオは安堵の息を吐いたのだった。
(※この物語はフィクションであり、実際のノベルやキャラクターとは一切関係ありません。ありませんったらありません。)