※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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目覚めよ! 大☆胸☆筋ブラザーズ! ―肉体美選手権前日譚―
「だああ! ダメだ! こんなんじゃ勝てっこねえ!!」
苛立ちを隠しもせず、壁に拳を打ち付ける男。
彼の名ジャック・J・グリーヴ。
栄えある貴族、グリーヴ家の次男で、いつも自信に溢れて堂々としているのだが――今日は、珍しく目に見えて焦っていた。
……何故ジャックが焦っているか、と言うのも、まあ……話せば長くなるのだが。
リゼリオで行われているハンター達による武闘大会。
その一環で開催されることとなった『肉体美選手権』に、ジャックも出場が決まっていた。
『肉体美選手権』はその名の通り己の肉体の美しさを競う大会で、老若男女問わずエントリーできるこの選手権に多くの選手が参加を表明している。
選手としてエントリーした者は壇上に上がり、審査員や観客の前で己の肉体の美しさを誇示するのだが……。
ジャックは、ハッキリいってイケメンだ。
他人に聞いても十中八九そう答えるだろうとは思うが、何より本人が絶対の自信でもってそれを自負している。
光を纏う金色の髪。澄んだ青い瞳。精悍で整った顔立ち……背も高くスラリとしていて、そして何より、鍛え上げた筋肉が全身に張り巡らされている。
「この俺様が脱げば美の女神も惚れるに違いないぜ。まあ、俺様の心はサオリたんだけのモノだけどな!」
鏡を見てフフフと笑うジャック。
ちなみに『サオリたん』というのはリアルブルー産の『ぎゃるげぇ』と呼ばれるゲームの登場人物である。
ジャックが心酔している彼女だが……架空のキャラクターだ。リアルには存在しない。
当然この『ぎゃるげぇ』は多数存在するので、彼が夢中になっているサオリたんは他の人にも笑顔を振りまいているはずなのだが。
全く気付いていないのか、それすらも受け入れる懐が深いカッコいい俺様、と思っているのか……。
前者だと可哀想だし、後者だと大分拗らせを進行させているのでそれはそれで問題なのだが。
交友のある某王国の騎士団長に「一生黙っていればいいのに」と思われるくらいにはアレな子なのだ。
何しろ残念なのである。
まあ、ジャックが残念なのは今に始まったことではないので横に置いておこう。
とにかく目前の問題は、肉体美選手権である。
件の肉体美選手権にエントリーしているのはハンター達だ。
ジャックに言わせるなれば、世界の筋肉たる俺様に敵うべくもないが……それでも素晴らしい肉体を持っている人物は多数いる。
その上、審査員を勤めるもの達もまたハンターであったり、ハンターに囲まれた生活を送っている。
当然目が肥えているはずだ。
そんな相手に、どうやったら勝ち抜くことが出来るか。
ただただ無暗に肉体を見せるだけではダメだ。
――肉体の美しさに男子も女子も関係ない。
それらを凌駕し、全ての審査員、観客を唸らせるほどの絶対的なアピール。
それがなければ勝ち目はない……!
肉体美選手権は明日に迫っているというのに、その策が一向に思いつかない。
これが、ジャックに宿る焦りの原因だった。
ジャックは残念な子ではあるが、勝負には手を抜かない。そこは美徳だと思う。
……まあ、悩む方向性からして残念な訳だったけれども。
――畜生。どうしたらいい? どうしたらあいつらに圧勝出来る?
美しくカッコいい俺様が敗北するなんて、他の人間が許しても俺様が許せねえ。
そんなことは絶対にあり得ねぇんだよ……!
「くそっ。俺様にもっと、絶対的なアピール力があれば……!」
『――フフフ……。ジャック、力が欲しいのですか?』
「だ、誰だ……!?」
『――何者にも負けない、強い力が欲しいのかい?』
「……欲しい。他を圧倒する力が……絶対的な筋肉が欲しい!」
『――アンケートにご協力ありがとうございました』
「ちょっと待てェ! そこは『力が欲しいならくれてやる』っていうとこだろうがァ!!!」
不意に聞こえてきた声に驚くのも忘れて全力でツッコむジャック。
周囲を伺うが、声の主は分からず……ふと目線を落とすと、ビクビクと意思を持ったように波打つ己の逞しい大胸筋が目に入る。
『おや。ようやっと私達に気づいたようですね……?』
『じゃあ、ジャック! はじめまして!』
「ジャックじゃねえ! ジャック様って呼べ!! ……お前達は、俺様の大胸筋なのか?」
『ええ。そうです。私は左大胸筋のロジャー。筋肉ですが頭脳派ですよ』
『ハァイ! 僕チャールズ! お茶目でカワイイ右大胸筋さ!』
「ロジャーにチャールズか……。それにしてもよ、お前達なんだって急に喋り出したんだ?」
『そりゃあ貴方が私達を求めていたからですよ』
『肉体美選手権に勝ちたい……その声が聞こえたから僕達は眠りから目を覚ましたんだよ!』
「そうか。そうだったのか……!! そいつぁありがてえ! お前達……! 俺様に力を貸してくれ! 俺は肉体美選手権に絶対優勝したい。いや、優勝しなきゃならねえんだ!!」
『いいでしょう。私達はそのために目覚めたのですからね』
『僕達がいるからには手加減はなしだよ、ジャック!』
「だからジャック様って呼べって言ってんだろうが!!」
ぎゃーぎゃーと盛り上がる3人。
ここで皆さんに二つ残念なお知らせがあります。
――何が残念かって?
まず一つは、この状況……ジャック様、パンツ一丁で鏡に向かってるんですよね。
二つ目は……これを1人で全て喋っているのに本人は全く気付いていないことですよ!!
いや、普段の行動を鑑みるにパンツ履いてるだけまだ良心的なのかもしれないですが!!
というか、筋肉は大胸筋以外にも色々あるわけで、上腕二頭筋とか三角筋とかも人格を得てしゃべりだしたらどうするつもりなのだろうか。
いや、どうもしないか。だってジャック様だもの。
流石はキング・オブ・残念!
どこに出しても恥ずかしい男!
残念さを競う選手権があれば間違いなくぶっちぎりで優勝できるよジャック様!!
ともあれ、こうしてジャックの大胸筋に『大☆胸☆筋ブラザーズ』が爆誕し、肉体美選手権当日を迎えることとなり――。
「おう! 言われなくても紹介してやるぜ! 右大胸筋のチャールズだ!」
『ハァイ! 僕チャールズ! お茶目で洒落乙な右大胸筋さ!』
「WAO! こいつぁイカすぜ! お次はこいつだ! 左大胸筋のロジャー!」
『フフッ、私の大胸筋運動会について来れる方大募集ですよ』
「YEAH! クールでワイルドな奴め! 二人併せて俺様の大切な大☆胸☆筋ブラザーズだぜ! 宜しくな!」
壇上でこんなアピールをして、『一人三役で寒い』などという至極冷静なツッコミを食らいつつも……結果として、三位入賞を果たした。
「くそっ。三位か……」
『残念でしたね……。私達がハイクオリティ過ぎて審査員がついてこられなかったのでしょう』
『でも、僕達は最強のトリオだよ! そうだろう、ジャック!』
「だからジャック様って呼べってーの! だが……そうだな。俺様とお前達は最高で最強だ。だか、それを理解されないのでは意味がねえ!」
『そうですね……。ではどうするのです?』
「当然だ! 更に体を鍛え、アピールを考え……次の肉体美選手権で優勝を目指すぜ!!」
『そっか……仕方ないね。付き合ってあげるよ!』
「俺様はようやく登り始めたばかりだからな。この果てしなく遠い筋肉坂をよ……」
大胸筋を震わせ、ジャックは拳を握りしめ――。
ジャック様と大☆胸☆筋ブラザーズの本当の戦いはこれからだ!
残念なジャック様の今後の活躍にご期待ください!
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka1305/ジャック・J・グリーヴ/男/21/キング・オブ・残念
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。
ジャック様の肉体美選手権前日譚、いかがでしたでしょうか。少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
残念な部分を沢山書きましたが……ちょっとやり過ぎたような気がしなくもないですが猫又は超楽しかったです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。
ご依頼戴きありがとうございました。