※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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盛夏の夢
暑い。
何が暑いって気温も暑ければ風も暑い。地面からの反射熱も暑いし室内ならなおのこと暑い。
夏は暑い。当たり前だと言われようが暑いものは暑いんだからしょうがない。
もう夏滅べってレベルでクッッッッッソ暑い。
滅ぼした奴には報奨金でもやろうってくらいに暑い。
ここまで来たら暑いのゲシュタルト崩壊寸前だが暑いものは暑いんだから(以下略)
近年稀にみる暑さに、商売も上がったりだ。
ハンターとしての仕事と貴族としての嗜みを遂行したジャック・J・グリーヴは、家に着くや否や来ていた服を脱ぎ散らかしてベッドに倒れ込んだ。
「……暑さにまで好かれる俺様罪深い……」
脳味噌が沸騰してしまったのかもしれない。いや、冗談だが。
彼の帰宅を前もって確認していた使用人によって、部屋の窓は全て開け放たれており風が通り抜けている。
が、暑いものは暑い。
「サオリたんに会いてぇな……」
思わず悲壮な言葉が漏れた。
可愛い可愛いお気に入りの少女。黒髪ロングの大和ナデシコとかいうリアルブルーで大人気のおしとやか美人。
振り返れば控えめなシャボンの香りがふわりと漂い、はにかむような笑みは人々を救う。主に俺様を救う。
最後に彼女に会ったのはいつだったか。
大きな戦があったり、小競り合いに顔を出したり、貿易商として大きな商談に挑んだりで、めっきり愛しい彼女に会う時間が作れなかった。
「会いてぇなぁ……」
屋外に比べれば日陰であり風も吹きこむだけましだろうが、風が熱風なのであまり意味がない。
ナイトテーブルに置かれた水差しから品のいいグラスに水を注ぎ、豪快に飲み干す。
確か最後に会った時、彼女はまだ薄手の上着を羽織っていた。
つまりかれこれもう3か月以上、彼女に会っていない。
ベッドの上でぐったりしつつ、最後の逢瀬を脳内でリピートする。
思い出せば思い出すほど、彼女の可愛らしさに『胸きゅん』だ。
ちなみに、ジャックの『胸キュン』は胸がドキドキではなく大胸筋がピクピクとなるのだが、どちらも大して変わらないだろうと本人は思っている。
全ては夏の暑さのせいである。いつもがどうなのかは神のみぞ知るだ。
『ジャックくん、私の話聞いてくれてますか?』
そう、確か最後に彼女と出かけたのは、小さなカフェだった。
彼女はいつも蜂蜜を垂らしたミルクティーを頼むのだが、大和ナデシコの見た目とのギャップがまた良しだ。
ジャックは逡巡する。
(ここは『あぁ、聞いてるぜ』なのか、それとも『悪ぃ、お前に見とれてた』か……)
嫌われるわけにはいかない。やっとのことで一緒にお茶へと出かけられる仲にまでなったのだ。
(言葉一つの判断ミスが、死に繋がる……)
彼にしては恐ろしいほど慎重に、返答を選ぶ。
『悪ぃ、お前に見とれてた』
『もう。ジャックくんの馬鹿』
ジャックの返事に、少女は白磁の頬を薄紅に染めて頬を膨らませた。
一瞬返された言葉にひやりとしたが、その表情を見る限りは選択肢を間違ってはいないようだ。
「あー可愛い。サオリたん可愛すぎか……」
『だからね、もうすぐ桜も散っちゃうから、出来ればその前に一緒にお花見に行かないかな?って……』
「フラグ頂きました!!!」
これは好感触だ。いいルートに入った。メルヘンをゲットだぜ、である。
『いいな、次の休みになんてどうだ?』
迷うことなく選択した返答に、返って来る彼女の言葉は――。
『ジャックくん、その日は期末考査が……』
すっと細められた視線。困ったように傾げられた首に沿って、黒髪がさらりと零れる。
「キマツ=コウサって誰だよ!!!!!!」
叫びながら跳ね起きる。
どうやら思い出しつつ、いつの間にか眠っていたらしい。
寝苦しい暑さのせいか、本当に悪夢以外のなにものでもないオチだ。
キマツ=コウサって誰だ。男か。筋肉にものを言わせてぶちのめせばいい奴か。
悲しいかな、リアルブルーの学生にはつきものの「期末考査」など、クリムゾンレッドの貴族であるジャックは知る由もない。
「クッソ、最悪な夢見だぜ……」
寝汗がべたついて更に気分は最悪だ。
これは一度シャワーを浴びた方がいいだろう。
水でも浴びればべたつきもなくなるし、なにより少しは涼しくなるかもしれない。
重い腰を上げて、ジャックはシャワールームへと歩を進めた。
……のが、30分前のこと。
「結局少しすりゃ暑くなる……知ってたさチクショウが……」
彼がベッドから離れている間に、教育の行き届いた使用人がシーツを交換し水差しの水を入れ替えている。
そのベッドに再度倒れ込んだジャックは、暑さからなのか日中の激務からなのか、異常なほどの疲労感を覚えていた。
「っあー……確か次のイベントはプール……」
大和ナデシコ黒髪美少女のサオリたんは、一体どんな水着を着るのだろう。
王道清楚系ワンピース? ちょっと大胆なパレオ付きビキニ? まさかリアルブルーの「すくうるみずぎ」なんて可能性は……!!
「……ヤバい、鼻が」
想像してしまったせいか、鼻がむずむずする。このままでは出血間違いなしだ。
格好いい俺様としては頂けない。心頭滅却心頭めkky
『どう、かな? ジャックくん……似合ってる、かな?』
ボンっ!
音を立てて顔面を染め上げてベッドへと倒れ込んだのは、脳裏に浮かべたサオリではなく、ジャックの方だった。
ちなみに完全なる余談だが。
オーバーヒートして目を回したジャックに気付いた使用人たちは、慌てふためくどころか全員で大きく溜息を吐いたそうな。
何故なら。
――彼が言う「サオリ」という美少女は、リアルブルー産の携帯ゲーム。
いわゆる、ギャルゲーと呼ばれる恋愛シミュレーションゲームのヒロインの一人だからである。
暑い夜が更ける。
これから先は涼しくなるだろうが、攻略中のゲーム世界はまだまだ、夏真っ盛りだ。
END
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1305/ジャック・J・グリーヴ/男/22歳/闘狩人】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせ致しました。真夏からは少し涼しくなったリアルに反して、猛暑のクリムゾンレッドをお送りします。
サオリちゃんは一体どんな子だろうと想像しつつ、本当に自由に書かせて頂きました。
ご依頼誠に有難う御座いました!