※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
-
●かつて、過ごした日々
これはまだクリムゾンウェストに転移する前の話――……。
夢路 まよい(ka1328)は、リアルブルーのとある洋館の地下で暮らしていた。地下とは言っても、それなりの広さがあり、生活に不便のない施設が存在していた。
その頃は、まよいが『パパ』と呼ぶ人物が一緒に暮らしていた。
その人物がまよいの実の父親なのか、当の本人であるまよい自身にも分からずにいた。
ただ分かるのは、外の世界は危険がいっぱいだから、とまよいを地下から出そうとしなかったという事だけ。
「パパ、どうして外に出たらいけないの?」
毎日1度は繰り返す質問に、パパと呼ばれた男性は面倒そうな素振りを見せる事なく、にっこりと微笑み、まよいの頭を撫でながら口を開く。
「外の世界は危険がいっぱいだからだよ、まよいはここにいる方が幸せなんだよ。まよいが欲しい物はなんだって買ってあげる、だから外の事を気にするのはもうやめなさい」
「……はぁい」
男性の言葉を聞き、まよいは静かに頷く。
このやり取りはもう何度した事だろう、とまよいは心の中で思う。
(パパは『危険だ』って言うけど、何が危険なのかは教えてくれない……でも、パパは私を守ってくれているから、パパの言う事は聞かなきゃ…)
まよいは男性から渡された本をパラリと捲る。
反抗しようと思えばいつでも出来たけど、今のまよいには反抗する意味がなかった。
特に何がしたいわけでもない、欲しい物はこうやっていつも男性が買って来てくれる、玩具を壊してもすぐ新しい物を用意してくれる。
外に出る必要性を感じないまま、まよいと男性はゆったりとした日々を過ごしていた。
「……パパ、これは何?」
本に載っていた人物を指差しながら、まよいが男性を見上げた。その本に載っていたのは赤い服を着て、白いひげを携えた老人。
「あぁ、これはサンタクロースだよ」
「……サンタ、クロース?」
「トナカイの引くソリに乗って、世界中の子供達にプレゼントを届ける老人の事だよ」
「私の所にもサンタクロースは来てくれるの?」
かくりと首を傾げながら、まよいが問いかけると男性は酷く悲しそうな表情を見せた。
「まよいは何か欲しい物があるのかい? それなら私が買ってきてあげるよ、何が欲しい?」
サラサラと指通りの良い髪を撫でながら、男性がまよいに問いかける。
「……ううん、欲しい物はパパが買ってくれるから今はない」
それはまよいが吐いた小さな嘘。
まよいが望んでいるのは、本でも玩具でもなく、ただ1つお金では決して買えないもの。
(外に、出てみたい)
写真でもなく、本でもなく、自分の目で世界を見たいという願いがあった。
※※※
(どうすれば、サンタクロースは私の所に来てくれるんだろう)
ベッドに寝転がりながら、まよいは天井を見上げる。
(ここには煙突に繋がる暖炉もないし、外に繋がる窓もない……これじゃ、サンタクロースは来てくれない……ううん、来られない)
まよいは上半身を起こして、どうすれば自分の所にサンタクロースが来られるかを真剣に考え始める。
「そうだ、私がサンタクロースの所に行けばいいんだ……って、無理だよね。サンタクロースの所に行けるなら、とっくに私の願いは叶ってるんだし……」
名案を思い付いたと思ったけど、次の瞬間にはがくりとうな垂れる。
「そういえば、この前読んだ本にロープで捕まえたい相手をこうキュッと捕まえて……って、サンタクロースの所にまで届くロープなんてないよね」
やがて考えるのを諦めたまよいは、ぼふっとベッドに再び寝転がる。
「……外は危険でいっぱいだけど、もし……もしも、サンタクロースが私の所まで来てくれたなら、危ない中でも平気で生きられるような魔法の力ってもらえるかな……?」
ぼんやりと考えながら、まよいはうとうとと眠り始めた。
※※※
あれからどれくらいが過ぎたか分からない。
いつの間にか、まよいはクリムゾンウェストに転移していて、今ではハンターとして働き、生活の糧を得ていた。
きっと、まよいを保護していた『パパ』が見たら驚くだろうか、それとも怒るだろうか。
クリムゾンウェストに転移してからは毎日が慌ただしくて『パパ』の言う通り、確かに危険な事が沢山ある。
(でも、危険な場所の中にいるせいか……生きてるって実感が凄くあるんだよね)
青い空を見上げながら、まよいは心の中で呟く。
(あの時、私の所にサンタクロースは来てくれたのかな? だから、今こうして自分の足で大地を踏みしめて、自分の目で青い空を見る事が出来ているのかな……?)
今の生活に不満はない、むしろ毎日が楽しくて仕方ないくらいだ。
だから、多分あの時に戻ったとしても、きっと外に出る事を諦めるなんて出来ないと思う。
「でも、パパには伝えたいかな」
パパが危険がいっぱいだと言っていた外の世界は、確かに危険もいっぱいだけど、楽しい事も沢山あったんだよ――……と。
―― 登場人物 ――
ka1328/夢路 まよい/12歳/女性/人間(リアルブルー)魔術師(マギステル)
――――――――――
夢路 まよい様
こんにちは。
FNBの方でもお世話になっております。
今回はイベントノベルをご発注頂き、ありがとうございました!
内容の方はいかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていれば幸いです。
それでは、また機会がありましたら宜しくお願い致します。
2015/1/6