※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
-
SEISANせよ!
●彼らの名は
【Bee】
――血より濃く命の水より薄い絆に集いしもの――
それは7人の無法者の集まりである。
種族も性別も越えた、同じ言葉を胸に秘めた覚醒者達の集まり。
彼らに血の繋がりは存在しない。
一族としての絆がお互いを助け補い、守り守られ、共に競い合っていくその時間こそが誇り。
人々はこう噂した。
奴らを敵に回すな、持っていかれるぞ、と。
●平和な食卓~正餐~
「イェーイ、鍋やるジャーン!」
Gon=Bee(ka1587)族長が大きな土鍋を持ってきました。一族全員が余裕で囲めそうな大きさです。そんな大きいものどうやって手に入れてきたんですか?
「ワーイお鍋だー☆」
Ya=Bee(ka2049)破壊神がスキップしながら食材を持ってきました。ぷるっぷるのつるっつるしたそれはなんですか? 動物の肉みたいな匂い……スライムとかの仲間ですか? どこかの動物、溶けちゃったんですか? 身がすくんじゃいます。
赤い物体もありますね、ものすごくヤバい匂いがします。正直近づけてほしくないです。カプサイシン怖い。
「やっだーやんちゃん、それってもしかしてコラーゲン? 目の付け所が違うわぁー♪」
大きな瓶を持っているのはNon=Bee(ka1604)酒豪ですね、それ、おコメの匂いがするので……日本酒って言うんでしたっけ? 皆さんで飲むんですね、よくわかります。
「ノンちゃん流石☆ 大正解だよぅ。ヤンちゃん、こう見えても大人だから美容と健康にはうるさいのだわ!」
「わかるわぁ、女の子はいつでも綺麗で居たいものよね♪」
ノン酒豪はおと……めですね、今日も御奇麗です。
「でも、食べるだけじゃ効果は少ないって話もあるのよねぇ……難しいところだわ~」
そうなんですか? ってノン酒豪、そのお酒鍋に入れちゃらめえぇぇぇ!?
飲むんじゃないんですか? 違うんですか? それかなり強いお酒ですよ!
「もーっ、病は気からだよぅ!」
ヤン破壊神もコラーゲンじゃなくてお酒止めましょうよ、お酒!
さりげなく大魔王と呼ばれる唐辛子入れちゃってますけど本気ですか。
「信じる者は救われるのだ!」
そもそも誰も病気になってないじゃないですか、健康そのものですよね皆さん!? ねえ聞いてますか?
『どうした?』
よかった、我らが良心Sen=Bee(ka2042)鷹の目! 貴方を待っていたんですよ! ……あれ、その横にある大量の酒瓶は一体……?
「流石せんさんは男の子だねー、みんなのお酒を纏めて運んでくれるなんて感心だよ」
じゃあノン酒豪の入れているお酒は、皆さん鍋の具として認識しているという事ですか? Hachi=Bee(ka2450)秘書、そのたりもっと詳しく……ちょっと待ってえぇぇぇ!
「そうそう、私はお酒のツマミ持ってきたよー」
そのナッツどうして鍋にいれるんですか、ツマミなんだからポリポリ齧るんじゃないんですか?
「それとねえ、うどんじゃないけど素は手に入れたよー」
っちょ、その白い粉! たしかにうどんと同じ匂いが……って違うわあぁぁぁ!
ほらいっきにお鍋がでろっでろになったじゃないですか。
『大丈夫か?』
むしろ心配したいのはこちらですよ、皆さん何をやろうとしているのか覚えてますか、鍋ですよ鍋、今どうなってますか、汁? 具はどうしたんですが、具は。
誰か料理ができる人……ああ、いましたね、Don=Bee(ka1589)首領が。
「昔の偉い人は言ったそうで御座る『鍋は戦争』と」
細長い菜箸がどこを指しているのか気付きたくないところです。
「つまりは弓でZUDONしてもOKという事で御座るな」
ああ、やっぱり視線が集まっています。しかも二人分は確実です。
「そうじゃんSen殿、その柴犬こっちに寄越せじゃん!」
「鍋、それに戦争。保存食の出番で御座る」
『!?』
セン鷹の目が舌なめずりをする二人の前に立ちふさがっています。貴方はいつだって優しいです、本当に。
「Sen殿、鍋に肉はつきものじゃん」
「そこの『わかめ』だってこの日の為に生きてきたようなもの、本望で御座る」
『動物は心の友だ』
大急ぎでスケッチブックをゴン族長とドン首領に向けているようです。
アォーン!
皆、一時散開です!
ダダダダダーッシュ!
「「あぁっ!?」」
「逃げたで御座る!」「逃がすな、捕まえるじゃん!」
この日の為に号令を決めておいて正解でした。彼らに捕まったら我々は最期ですからね!
特に同胞『きつね』、同胞『山かけ』、君達は特に素早く逃げていてくれ!
ところで香ばしい香りが広まってきました、幼い頃時々嗅いだ香りのような気がします、こちらでお世話になるようになってからはなつかしい香りのひとつとして数えるようになってきました。
これがお腹のすく香りというんでしょうか? 走っているから余計にお腹が空いてきました。
しかし我々は止まったらごはんになってしまいます!
「意外と具が少ないのよねこれ」
Jyu=Bee(ka1681)守護神がリアルブルーの品を入れたみたいです、ちらりと茶色いカレーのパウチが見えました。
「でもやっぱこの香りが一番よね。で、肉はまだ?」
とにかく逃げなければ! ジュウ守護神にまで参戦されては我々は本当に危ないです。
セン鷹の目、貴方の行動を無駄にはしませんよ!
……万が一誰か犠牲になった時は、その、せめて美味しく食べてくださいね……?
●カオス鍋のススメ~凄惨~
Senの献身とペットたちの努力の甲斐あって、本日の鍋に犬肉も猫肉も使われないようだ。
「仕方ないからこれを使うじゃん」
Gonが取り出したのは帝国産の羊肉の塊、最初から出せば平和だったのに……
「仕留められなかったんでしょうがナッシン!」
いい運動になったじゃん、あっけらかんと笑うので多分何も考えてない。
「前に王国を襲ったあの羊とか、食い出がありそうっすけどねー」
歪虚肉は特殊条件が揃わないと食べられないとか気にしない。倒した傍から、むしろ戦闘行為が調理行動とか言いだしそうなので、もしかしたら本気で言っているのかもしれない。目もYARU気だ。
しゃっこ、とぷん
しゃーっこ、とぷん
Jyuがナイフで肉を削ぎながら鍋の中に入れていく。
「ともかく、羊入ってればジンギスカンじゃん!」
その横でSenが焼いた煎餅を入れているのだが、全員がきっと今Gonが言ったことと同じ認識でいるのだろう。
「Senちゃん、それなぁに?」
いつも七輪で焼いてぽりぽりと煎餅を齧るSenだが、今日の彼の煎餅はいつもとは違うようだ。Nonの指摘が嬉しかったのか、Senのスケッチブックに書きこまれる文字もどこか丸っこい。
表情は変わらないしじっと焼いている途中の煎餅を見ているというのに……意外と文字は感情を示すものである。
『最近手に入れた』
言葉は簡潔だったが。
「甘い匂いがするにゃ?」
カレーと酒気とカプサイシンの刺激臭立ち込める中でも甘味の匂いをかぎ分ける破壊神、おそるべし。
「にゅふふ、これとかモエモエだよぅ☆」
Yanが指さすのはクッキーと見まごう一品。ハート型煎餅にチョコソースがかかっている甘いのかしょっぱいのか不明な一枚だ。むしろ焼いていいのか。
「これもオトメ心擽られるわねぇ」
好みだわ、とNonがうっとり眺めるのは白地に花弁が押し花になって塗されている一枚。可憐で食べられる花というのもポイントが高い。だが今まさに花の部分が焦げそうになっている。
「せんちゃんこれ全部入れるの?」
「手が足りないようだし手伝うよー」
まだたくさん用意されている煎餅を見たJyuの言葉に頷くSen。ならばさっきのお礼だよと、Hachiがその焦げそうな一枚に手を伸ばした。
「Hachi殿、菜箸があるのでこれを使うで御座」
「うわぁっちぃー!?」
Donの気配りむなしく、煎餅の熱さに驚いたHachiが一度は手に取った煎餅を弾き飛ばす!
ぽーーーーーん……
「よく飛ぶわね、さすが猟撃士」
守護神は視力も鍛えてあるようで。
「じゃーんじゃーんなーべなーべじゃじゃじゃじゃーん♪」
ジュッ♪
七輪の方に集まってしまった乙女達に置いて行かれ鍋の番をしていたGonの眉間にクリーンヒット!
「じゃーん!? 怪しい毒薬づくりゴッコがぁー!?」
パニックで一人遊びを暴露するGon。
(((だから変な顔でぐるぐるとかき混ぜていたのか)))
あまりの阿呆らしさについぽかんと見てしまう乙女達。
「目があっつ! あっつぅぅぅ!?」
正しくは目頭なのだが、Gonは地面をごろごろ転がっている……
「聖導士ー! お客様の中に聖導士はいらっしゃいませんかー?」
すくっと立ち上がった犯人、これは好機とHachiが突如できる秘書アピールでフラグ回収にかかる! だがそれは秘書ではなく客室乗務員だ、確かにすごく似合っているけれど。
「ヤンちゃんは闘狩人だよぅ☆」
『闘狩人』
「拙者は猟撃士で御座るな」
「あたしは美しき機導師だものぉ」
「疾影士の自分はあっついじゃーーーん!?」
ごろごろごろ、ごろごろごろ
Gonは皆の目の前を転がっている。余裕が出てきたようだ。
「私も闘狩人よ。そもそも聖導士っていないわよね?」
なので皆余裕の構えで見守っている。一族の絆はそんなことでは揺るがないのだ、多分。
「おや、これはうっかりだね」
てへぺろこっつーん☆
『マテリアルヒーリング』
クールな一言が提示される。自分でやるしかないのであった。
七輪から離れられないSenは更にスケッチブックを一枚めくる。
『火の番』
「あら、そうだったわね」
「そろそろ煮えた頃かしらぁ? Gonちゃんそろそろはじめましょうよ」
「Sen殿の分は誰か取り分けるで御座る」
「じゃあヤンちゃんとハッちゃんで交代でやってあげるよぅ☆」
『自分で』
「遠慮はいらないよ、せんさん」
『自分で』
Gonの二の舞にはなりたくないSenの手は頑なである。
「ふぃー……ひとまず落ち着いた……」
幸い火傷にはなっていなかったGonも復活し、再び鍋を囲みなおす7人なのだった。
●七夜一夜物語~清算×生産~
カレーと酒気とでろでろぷるぷる時々激辛の羊煎餅鍋を本当にジンギスカンと呼んでいいのか。
香ばしく酔える湯気が彼らの中心にある鍋から拡散していく。
ペット達はまだ戻ってこないけれど、彼ら7人は和気あいあいと鍋をつついていた。
「そういえば」
おたまをかき回して目当ての肉を探していたGonが顔をあげた。
「鍋つついてると、皆と出会った時のこと思い出すじゃん」
この土鍋は今日初めて使ったという新品である。
ぐるぐる、ぐーるぐるー
「あっ肉発見だよぅ」
「隙あり! このJジュウベエちゃんがもらったぁ!」
『追加煎餅』
誰も聞いていないようだが、Gonはおたまに入っていた具なしの汁を自分の椀に注ぐと、勝手に回想モードに突入。
「あれは寒い雪の日、一つの鍋をDon殿と囲もうとしていた時だったじゃん……」
まだGonが族長ではなく、リアルブルーからきたというハンターに憧れ部落を飛び出したばかりの冬の事だった。
与えられることが当たり前として生きてきたGonは、早々に自活の道が辛く険しいものだという事を噛みしめていた。
ハンター達の身なりを思い出せるだけ真似て身なりを整え(けれど多分に自分の趣味の服装が自己主張していた)、荷物の中身は大半が意味のない雑貨(ハンターの必須道具の話は覚えていなかった)、保存食はなく(森に行けば食べ物はいくらでも手に入ると思った)、野宿もできない(部落からほとんど外に出たことがなかったので地理も危うかった)。
もう三日ほどまともな物を口にしていない。喉の渇きは冷たい雪で癒せたが、食べ物の入手は難しく、満足な寝床もない状態。体力の回復が見込めない現状、Gonは部落を出て一月でその命を終えそうになっていた。
ばたり
(もう立ち上がる力も残ってないじゃん)
空を雨雲が覆い、雪が自分の上に降り積もろうとしている……ああ、これが最期か。いっぺんくらいぼんきゅっぼんなお姉ちゃんと一夜を共にしてみたかったな……夢でもいいから降ってくればいいのに、自分今なら限界まで捧げるっす、魔術師卒業するじゃん……
「貴殿、何をしてるで御座るか」
たおやかな(素っ気なかったが限界脳による補正)声に最期の力を振り絞って顔をあげれば、やわらかそうな(スタイル抜群万歳)女性がGonを見つめていた。
「拙者のかまくらを塞ぐとはどういう了見で御座るかな」
それは正に蔑むような視線。
「女王様も好物じゃーん!?」
元気いっぱい(!)に服を脱ぎじゃーんぷ!
「雪じゃん、寒いじゃん、男と女が二人することと言ったら温め合うことじゃ」
ZUDON!
どぐしゃ!
「……あの時のDon殿はとても恥ずかしがり屋さんだったじゃん。朝になってから、二人でつついた一つの鍋は本当に命の味がしたじゃん」
自分の血の味ではないだろうか。
「やぁねGonちゃん、Donちゃんにも粉かけてたのお?」
「ということはNonさんもなんだねー?」
GonにしなだれかかるNonは艶めいた微笑みを浮かべている。危険な兆候だが、Hachiは気付かず彼女に酒のおかわりを注いだ。
「そうよ、あたしのときはねぇ……」
美貌のNonは辺境の集落で「ドワーフ一嫁にしたい選手権」を総なめにしていた。それだけ美しさが近隣に広まっていたという事である。
色気も兼ね備え酒もイケる美人という事で、同族の者達からは特に請われ、毎夜毎晩どこかの宴に呼ばれ、酌をし、話をするだけで金銭だけでなく宝飾品も欲しいままの暮らしができていた。
しかし美しさは罪と表裏一体。栄華の時はそう長く続かなかった。
羨望だけではなく嫉妬と情欲の対象として見られるのは時間の問題だった。はじめこそ美しさだけで満足していた男達の目の色が変わったことに気付かない程Nonも鈍くなかった。
だから一計を案じたのだ。
「誰かあたしを虜にしてくれるほどの素敵な殿方は居ないのかしら?」
そんな殿方にならあたしの全てを見せてあげてもいいわ♪
Chu♪
投げキッスで骨抜きになった男達は、一昼夜のうちにNonの暮らしていた集落へと集合し、一大イベントを開催した!
名付けて『ドワーフ一の嫁と一生全てを見せあえる立派な漢の証選手権』である!
素っ裸になった男達が、全員でくんずほぐれつ大乱闘。最後まで立っていた者が優勝賞品のNonを嫁にもらえるというNonと腐女子が喜ぶ単純明快なルールである!
「いい男がいっぱいねえ♪」
しかし、賞品席で見物していたNonに忍び寄る黒い影!
「……きゃっ?」
「しーっ!」
選手権の喧騒の影から手を引き走り出したのは、偶然集落に立ち寄っていたGonだった。
「あんな奴らに嫁に行く気、本当はないんじゃん?」
「! 貴方なんでそれを……」
「見てれば分かるじゃん」
きゅんっ
「だから自分が広い世界に連れだしてやるぜぇ!」
きゅんきゅんっ
「ついていくわ! あたしを本当のオンナノコにしてぇ!」
ぎゅー!
ごりっ
「あれ、なんか腰に堅いモノが……じゃん?」
「……そのあと、集まっていた男達にばれて追われる身になっちゃったんだけど、奴らをバッサバッサとなぎ倒して、かっこよかったわぁ♪」
「Non殿、本当は酔っぱらってついてきただ」
ほっぺにBUCHU♪
ゼロ距離攻撃にマテリアルを吸われた気がして、顔面蒼白で停止するGon。いくら女好きでも、心の性別が女ならOKと言う訳じゃないから。
「ね、Gonちゃん?」
色気たっぷりの流し目でトドメをさすNonを止める者は誰も居ない。
「ヘタレ萌えだねぇ、流石ゴンちゃん☆」
サラサラサラ……
(Gon殿の精神が崩れていく音がする……)
Senは自分の話を伝えようと、スケッチブックに勢いよく書き始めた。
『出会った頃か……そういえば……』
『山で弓の修行中』
己を鍛えるための修行に出たばかりの頃、Senはまだ今よりも表情豊かな男だった。
既に煎餅の魅力に取りつかれ、煎餅キットも常に持ち歩いている時期、しかしSen自身が求めるクールにはほど遠く、より早い筆談能力、より早い煎餅の焼き方、より強い顔の筋肉の鍛え方等を研究し、日々努力していた時期だった。
『未熟だった』
朝日と共に起き、煎餅を焼く。
滝の流れの中で文字を書き、煎餅を焼く。
水中で菜箸を捌く腕を鍛え、煎餅を焼く。
魚の塩焼きをおかずに、煎餅を食らう。
綿毛を集めた袋の中に入り笑いをこらえ、獣に喧嘩を吹っ掛け追われながら悲鳴をこらえ、滝壺にその日一番よく出来た煎餅タネを落とし魚の餌にすることで涙をこらえ、煎餅を齧りながら感動を胸の内だけで語る。
実った果実を猛禽類と取り合い肉体を鍛え、煎餅を投げる。
弓の修行と並行して様々な煎餅修行の日々を送っていた中で、その日はやってきたのだ。
『熊に襲われ』
バシャバシャバシャ!
「死んだふりがきかないとか詐欺じゃーん!?」
川の方から悲鳴を聞き取ったSenが駆けつけた時、猟銃一丁で熊に応戦しているGonを見つけた。
(あれでは熊を刺激するだけだ)
煎餅の修行はまだ未熟ながら、弓の腕には少なからず自信があったSenは、迷わず手元の煎餅を投げる。
ヒュン!
(うまくいった!)
それが、Senが初めて思った通りに煎餅投げを成功させた瞬間だった。
(この勢いに乗って……仕留める!)
その一撃は見事熊の眉間を貫いた。
『運命を感じた』
倒れた熊の横に座り込むGonは、Senの鮮やかな手際に目を輝かせていた。
「助かったじゃん、この恩はわすれないじゃんよ」
そしてSenにその手を差し出した。
「自分Gonっていうじゃん。お前、クールだったじゃん、かっこよかったじゃん、仲間になるじゃん!」
(……クール!)
その時、Senの脳裏には高らかな鐘の音が響いていた。
『Gon殿』
そしてGonとゆかいな仲間達の旅路、その一員としてSenも加わることになった。
『……それが、Gon殿の記憶だ』
ひそひそ
『どうした?』
常用しているページをめくりSenが訪ねると、Don以外の乙女達がGonとSenを、特にGonを見て囁き合っている。
「センちゃん、聞いてもいい? ……その熊、雌だった?」
『そうだ』
「「「そっかー」」」
「Gonさん、獣も守備範囲だったんだねー、こりゃびっくりだね」
Senは大半を脳内回想で済ませ、必要最低限よりも少ない単語しか見せていないのだ。
「ヤンちゃんも負けてないよぅ☆ だってぇ……」
依頼された仕事は何でもこなす闇の組織『チーパッソ・ウーン』に雇われていたYanは、その中でも五本指に入るほどの腕前で、日がな舞い込む仕事をスマートにこなす破壊の女神として、組織の中でも、依頼してくる高級階層の者達にも恐れられていた。
小柄な体躯は様々な場所に紛れやすい。だからこそできる仕事は多く、ただ欲望を満たすための手段として黙々と、単調な日々を過ごすだけ。いつしか欲望さえも日常の一部として闇に溶けて、どんな仕事にも心が動かず、ただ無機質なCAMのように生きているだけだった。
「まーた暗殺の仕事かぁ……そろそろ飽きて来ちゃったよねぇ☆」
だって誰も面白い反応してくれないんだもの。
「みーんなおんなじ、みーんなただのお肉だもんねぇ?」
ただ赤い液体が詰まってるだけの、すぐに冷めてしまう塊。
どれだけ色々試しても、結局ギャーとかヒィィィとか助けてくださいとか生きたいとか死にたくないとか、自分のことしか考えてないし。
「試してるこっちをチィッとも見てくれないもんね☆」
目のハイライトも消えてしまうと言うものだ。狂ってる? 褒め言葉だよぅ☆
「でー次って誰だっけ? Gon? きーたことないなぁ?」
大したことない奴だよね、面倒だしちゃっちゃとやっちゃおうか☆
シュッ……
「痛いのいやぁぁぁぁぁあ!?」
初っ端からドン引き決定。
「痛くないよぅ一瞬だよぅ☆」
心のこもらない笑顔をにこりと浮かべてGonの反応を見るYan。ほんの少し恐怖の台詞が違っただけ、けれどどこか感じ取れるものがあった。
「はっ! ……う、嘘つかないじゃん?」
なんだこれ面白いかも?
「そうそう、むしろ気持ちいいらしいにゃ」
「気持ちイイなら同じ死でも自分、腹じょ」
ぶぉん
「そのハンマーはいやぁぁぁぁぁあ!? それやべえって! やべぇに決まってるじゃんよ!」
あっこれなんか食指に響く。
(ヘタレ? ちょいオヤジヘタレってこんなにモエモエだったかにゃ?)
なんかドキドキしてきた。これって一目ぼれって奴?
「ねーGonちゃん☆」
ハンマーを構えるのをやめて、満面の笑顔を向けると、恐る恐るYanを見るGon。完全に引きこもり部屋をあけられた自宅警備員の顔だ。
ちょっとゾクゾクしてきた。
「ここから駆け落ちしちゃわないかにゃ?」
「……っていう設定はどーかにゃ!?」
「一本取られたよー」
お決まりのこつーん仕草で賞賛するHachiに気分を良くして、Yanが持っていた杯を掲げた。
「ノンちゃん、ヤンちゃんにも、もう一杯!」
「がははは! おう飲め飲め、たーくさん用意してっからよぉ!」
深く響くテノールが答える。既に酔っぱらっているNonは今はもう周りに酒を飲ませる絡み上戸状態だ。
「あれはもう自動酒注ぎマシンになってるわね、私でいい?」
「ありがとジューベちゃん☆」
コホン、と咳払いをしてHachiが立ち上がる。
「じゃあ次は私の番だねー、本当、懐かしいねぇ……」
里を飛び出したHachiはその日、どうやって生計を立てていくか悩んでいた。
立てば月光座ればこつん、歩く姿は綿の花。
一件完璧に見えるクール美女が笑顔で近寄ってくる、その時点で相手は態度を軟化させる。
「役立たずでも働ける職場ってないかな?」
けれどその一言が続くからこそ、皆落胆の表情でHachiの前から皆去って行った。
何度か繰り返すまではHachi自身理由に気付かず、何十回と繰り返したところで疑問を抱くに至った。
そして理由を突き止めたのが、なんと87人目を数える頃。勿論Hachi自身そんなものを数えちゃいなかったが。
「どうしようかねー?」
いっそ石にでも未来を委ねてみようか、そんな冗談が浮かぶ。
「石にもすがるわが身かなー……てぇい!」
ぽーぃ!
へろへろ……こんっ!
「いったぁぁぁぁぁ!?」
「おやー?」
どうして後ろから悲鳴が聞こえるのだろうと振り向くと、そこには男が一人転がっていた。
「どうしたんだーい? 私でよければ相談に乗るよー」
「いたいぃぃぃぃぃ!? 石が、石があぁぁぁぁぁ痛いのいやぁぁぁぁぁ!」
「おや、怪我かー。生憎私は聖導士ではないのでねー」
どうしよう、と腕を組む。
「なるほど、犯人を捜してあげればいいのかなー?」
やり取りを見ていた周囲の人間が皆揃ってずっこけた。
「そうだー、私はさっき石を投げて未来を探そうとしていたところでね、君の犯人もこれで見つけてあげよー」
せーの!
ぽーぃ!
へろへろへろ~ん、こんっ!
「いったぁぁぁぁぁ!?」
「おやー?」
ぽーぃ! こんっ!
「いったぁぁぁ!」
ぽいっ こんっ
「いてぇじゃん!?」
女性相手に強く出れなかったGonだが流石にキレ気味だ。
「……自作自演だったのかいー?」
「そんなわけねーじゃん!」
流石にGonも事の次第を理解した様子。
「それじゃあ……そうかー、君は私の未来!」
「どういうことじゃん!?」
「……というわけで、ごんさんについていくことになったんだよー」
『Gon殿ハーレム』
「え、これそういう流れ? 私結構真面目に考えてたんだけど」
「モエモエなら何でもいいと思うよぅ? ジューベちゃんもいっちゃえいっちゃえ☆」
テノールの歌声はまだ続いているが、いつものことなので誰も気にしない。話の中心になっているはずのGonがしっかり酔っぱらった挙句、思いっきり関節技きめられてダウンしそうになっている気もするが、やはりいつものことだ。
「それじゃぁ真打ジュウベエちゃんってことで……」
愛馬の向くまま風の向くまま、気ままに旅をしていたJyuはそもそも家出娘だった。
どんな世でも可愛い家出娘には艱難辛苦が待ち受けているもので、辺境の森を進んでいたJyuはついに食料も底をつき、空腹で行き倒れることとなった。
(やっぱり漫画がいけなかったかしら……)
愛馬の背に括り付けた荷物に視線を向ける、正直その動作さえもかなり辛い。
リアルブルー製の娯楽本、その牽引力は半端なかった。Jyuにとっては、白黒の薄っぺらい紙の束が何物にも代えがたい財宝に見えたのだ。だから欲望赴くままに買い漁った。
(後悔はしてないわ、してないってば)
流石に路銀用としてとっておいた分も使ったのはまずかった。
(でもそうじゃないと全巻揃わなかったんだもの!)
次の街で売っているとは限らない、なにせここは辺境、物流がよいとはお世辞にも言えないのだ。
自然は多く、野宿にも困らない、愛馬も居ればなおさら……そう思っての決断だったのだが。
「大丈夫じゃん?」
その時手を差し伸べてくれたのが今のBeeの皆だった。とりあえず代表でGonをその最初の一人にしておく。
せっかくなのでと同行し、同じように気ままに先へと向かう一族から食べ物を分けてもらう。その時煎餅や饂飩を知った。
代わりに自分が買い集めた漫画を見せ、同じ話題で盛り上がるなど徐々に親睦を深めていく。
「UDON泥棒で御座る! 総員配置に!」
「熊だー☆ やっちゃうよぅ」
Senの煎餅が落ちるのを合図にDonとYanが号令をかける。Gonは立場を奪われて隅で拗ね、Hachiが慰めようとして素転び頭突きをかまし、Nonが瓶を地面で割って凶器を作り構える。
最前線でその音を聞き取り6人の同行を感じ取りながら、Jyuは何か胸に来るものを感じていた。
(なんかいい感じじゃない? 心の故郷ってやつかしら)
「……あの時食べた熊鍋うどんは美味しかったわね」
うまく纏まったわよとしたり顔で笑えば、聞いていた皆も笑顔になった。
だが彼らはまだ気づいていない。先ほどから一人沈黙を守っていることに。
(やはり肉はいい出汁が出るで御座るな)
締めのUDONの味を楽しみにしながら、黙々と肉を食べ続けているDonである。
「……」
「UDONの前に言葉はいらないで御座る」
そういって自分が差し出したのは温かい一杯のきつねUDON。冷たい風が吹く夕暮れ、出汁の香りに誘われるように集まった者達ひとりひとりに自分が至高と考えるUDONを振る舞っていたDonは、ただ自らにUDON宣教師たれと心に信念を刻み、彷徨える者達に温かい光(UDON神への誘い)を与え続けていた。
「ただ、その舌で、その鼻で、その目で……感じ取るが良し」
何はなくともその出汁の香り。何種類かの食材を選びぬき、調べ抜いた最高の配合でとった一番だし。豆を発酵させた塩辛い調味料との相性は抜群。ほどよい香ばしさが御馳走の存在を教えてくれる。
次に温かさ。器を通して伝わってくる熱は凍えた手に優しく温もりを伝え、いつしか全身をほぐしていく。
純白のフォルムは目に神聖な驚きを与え、透き通った汁と絡んでえもいわれぬ高揚感を与えてくれる。
そして味。食材の旨みと、それらをまとめ上げる塩味が飢えた舌に贅沢と言うものを教えてくれる……
「うぅ……染みるじゃん……」
「こんなの憧れのあの人もしらないでしょうね……」
「知らなかったなんて、こりゃうっかりだね」
『美味』
「どれだけ飲んだあとでもこれならついつい手がのびちゃうわぁ」
「やべぇ美味さだよね☆」
DonのUDONを食べた者達は皆涙を流し、その奇跡の味に感謝した。
「皆わかってくれたようで何よりで御座る」
ところで、と6枚の紙を取り出すDon、そこには『UDON神入信の誓い』と書かれている。
「言葉ではなく、行動で示せば悩み事も迷いも晴れるで御座るよ」
究極の状況下において、救援の手を差し伸べた者には後光が差したように見えることがあるという。
6人は皆、その書類に名を書こうと次々に手を伸ばした。
「……」
自分の脳内だけで回想を終えたDonは、羊肉の最後の一切れを咀嚼し終えて立ち上がった。
「ではこれから鍋の締めに突入するで御座る、皆、UDONの準備は宜しいか!」
「「「おぉー!」」」
それまでの話の流れは全て、SUPONと消えた。
●真相をSHOSANせよ
【Bee】
――血(肉だろ肉)より濃く命の水(酒だろ酒)より薄い絆に集いしもの――
それは過去を捨てた7人の馬鹿と型破りの集まりである。
同じ言葉を冠したようで全く別の名を揃い持った戯言の集まり。
彼らの繋がりはその名前だけ。
忙しなく蜜を集め、時には毒を持って敵を制し、かしましく飛び回る蜂を冠した人の群れ。
人々はこう呼んだ。
「こんにちは!」でおなじみの集団と。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ka1587/Gon=Bee/男/35歳/疾影士/族長】
【ka1589/Don=Bee/女/26歳/猟撃士/首領】
【ka1604/Non=Bee/男/25歳/機導師/酒豪】
【ka1681/Jyu=Bee/女/15歳/闘狩人/守護神】
【ka2042/Sen=Bee/男/30歳/猟撃士/鷹の目】
【ka2049/Ya=Bee/女/20歳/闘狩人/破壊神】
【ka2450/Hachi=Bee/女/24歳/猟撃士/秘書】