※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
 DASHI、SANUKI、UDON


 冒険都市リゼリオにある、とある小料理屋をご存知だろうか。
 知る人ぞ知る名店、うどん割烹「赤舟」。サルヴァトーレ・ロッソから、その住民たちがこのクリムゾンウェストに降ろされた際に、同艦より暖簾分けされた食事処である。

 主人の興が乗った日にしか開かないこの店は、奥まった立地や一見ただの民家――つまり洋風の一軒家でしかない外見も相まって、足を運ぶ人間は殆ど居ない。
 そもそも、時折往来に漂う『それ』に気づくことができない者は、そもこの店を知りえないのだ。

 馨しき、《DASHI》――。
 魂を揺さぶる香りを求めて彷徨い、門戸を叩くような酔狂な人間でなければ、届き得ないのだ。

 その日、そこには二人の客が居た。

 一人は、深い懊悩が眉間に刻まれた、角刈りの東方人。
 そしてもう一人が、橙色の髪の毛を手ぬぐいでまとめた、妙齢のエルフの女性であった。
 


 手を合わせる女の表情は、真剣そのものである。
 その瞳は挑戦者のそれであり、同時に、待ち焦がれた逢瀬に臨む、乙女のそれのような、情の深い色をしていた。

 女の手が、僅かに震えた。
「……ぬっ、は……っ」
 すぐさま、心胆を取り戻す。
 熱く滾る食欲に呑み込まれ、失神しかけていたのだ。
 嗚呼。うら若き乙女とは思えぬ仕草に声音と言うことなかれ。
 彼女にとって、いまこの時は、凄惨極まる戦場に立っているに等しいのだ。

 ――“持っていかれる”所だったでござる……。

 眼前に、《それ》が置かれて、僅か十数秒のことだ。
 肌寒い季節にもかかわらず、女の額には、汗。彼女が此処までに消耗することは、その人生において数える程しかない。
 鼻腔を擽る湯気と、同時に届く香りは、どうだ。
 鰹と醤油の織りなすシンプルな深みに、忘我の境地に陥っていた。

 思わず、生唾を飲み下す。ごくごく僅かな、口舌から咽頭、喉頭にかけての動作に過ぎないが、それだけで揺蕩い口腔を擽るに至った匂いの粒子が、雷撃のごとく女の心を刺激する。

 透き通った黄金色の、この濁り無きDASHI汁は、どうだ。
 濁りの無いそれは、店主の情念が籠もった至高の逸品であることを確信させる。

 その汁に包まれてもなお艷やかで、太やかな、白々としたその麺は、どうだ……!
 嗚呼。女はついにその名を、言葉にした。

 ――THE SANUKI――。

 リアルブルーの現在を紡ぐ職人の、一品であった。
 麺と、汁と、昆布と。端的極まる、逸品であった。




 深く、頭を垂れたのち、女は厳かに告げた。
 その手には、本気で味わうための、緑色の箸。
 喉が鳴る。舌が、騒ぐ。

 その汁を寄越せ、と。その麺を食せ、と。信仰心が絶叫している。
「――いただきます」
 彼女は静謐さ漂う仕草で碗を両の手で包み持ち上げると、口元に運び、





「…………はっ」
 Don=Bee (ka1589)が我に返った時には、眼前の器は空になっていた。
 何が起こったのか、分からない。彼女は確かにその汁に口をつけた筈なのに、一切の記憶が、なくなっている。
 女は、澎湃と涙した。
「ああ……UDONの神よ……」
 拝礼し、手を合わせる。
 これぞ、彼女が今生を捧げるに至った一杯の、至高の形のひとつであると確信して、その一杯と出会えたことに、感謝を捧げないわけにはいかなかった。

「ごちそうさまでした……」


 To be continued!!


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka1589 / Don=Bee / 女性 / 26 / THE UDON GIRL】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております。ムジカ・トラスです。
 おまけですので、本編の事前譚を用意してみました。
 意外と露出の少ないDon=Beeさんですが、キャラ立ちは凄まじいので、おまけでは、ついつい遊んでしまいました。お許し下さい……いえ、本編も、なんだかアレなのですけれども……それは、それ。

 寒くなってきましたしね。お饂飩の美味しい季節でございます。

 続きます。
 この度はご発注ありがとうございました。
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
Don=Bee(ka1589)
副発注者(最大10名)
クリエイター:-
商品:おまけノベル

納品日:2017/01/13 10:34