※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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真実は夜の帳のむこうに
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ネオンがまばゆい夜の裏町。
居並ぶ店の扉が開くたび、派手な音楽と共に酔漢の喚く声と女達の空笑いがこぼれ出す。
そんな賑わいに目もくれず、しろくまは足早に通りを過ぎる。
(あ、今の私、ちょっとハードボイルドな気がするくま)
トレンチコートの襟を立て、ソフト帽をかぶった顔を埋める。白くもふもふした顔は到底埋まり切らないが、その点は気にしない。
暫くして、しろくまは立ち止まった。
ポケットから取り出したシガレットチョコの箱を軽く振り、飛び出した一本を口にくわえて軽く辺りを見回す。
後をつけてくるモノがいないかを確かめているようだが、今のところ彼をつけてくるモノなどいない。
基本的にとりあえず形から入るタイプである。
だが彼が、所轄の警察署に所属する刑事なのは本当だった。
その証拠に、まっしろなもふもふ毛皮で知られたしろくま刑事(デカ)の周りを、酔漢も避けて通り過ぎていく。
しろくまはくわえたチョコの包み紙をはがして中身を頬張ると、そのまま地下へ向かう階段を下りて行った。
重い木の扉を開くと、小さなベルの音がちりん、と鳴った。
「おや、おや。いらっしゃいませ」
店主のシグ・ハンプティがカウンターの中から笑顔を見せる。
「おじゃまするくま」
しろくまは店内に誰も客がいないことを確かめると、カウンター席に座る。
「おや、おや、今宵はおひとりですか? お連れ様はご一緒では?」
「今日は仕事くま。ちょっと店主さんの話を伺いたいくま」
渋い表情で切りだすしろくま。シグは笑みを崩さないままおしぼりを差し出し、軽く自分の口元をつつく。
しろくまの口元に茶色い汚れがついていたのだ。
「さて、はて、さて、どのようなお話でしょう? おいしいチョコレートのお話という訳ではなさそうですね?」
しろくまは一息置いて、用件について語り始めた。
「初めは三日前の夜だったくま」
――その日の昼間、街のとある金持ちのご婦人の葬儀があり、彼女の亡骸は街外れの墓地に埋葬された。
参列者もそれなりに多く、立派な棺桶に分厚く土がかぶせられたのを全員が目撃していた。
だが次の朝、遺族が花を手向けに向かったところ、土はひっくり返り、棺桶の蓋は割れてばらばらに砕け、故人の亡骸はどこにも見当たらなかった――。
シグが相変わらず微笑みながら、指先で自分の頬を軽く叩く。
「この街にはよくあること、ではありますがね。夜に暗躍するのはヒトの犯罪者だけではありませんから」
どこか面白がるような口調。
そう、この街の夜には人ならざるモノが紛れ込む。
人はそれを『魔物』と呼んでいた。
「全てを疑う、それが刑事くま。この時点で魔物と断定するには早いくま」
しろくま刑事は二本目のシガレットチョコを取りだした。
――警察は墓荒らし事件として捜査を開始。
事件の翌日の夜、しろくま刑事は協力者であるヒヨス・アマミヤとともに現場を調査していた。その最中に第二の事件が発生したのだ。
『いつもすまないくま』
『しろくまさんのお願いですから、ヒヨが断るわけがありません!』
ヒヨスは屈みこんで、真っ暗な墓穴を覗き込む。
黒髪ツインテールの少女は、こう見えて仔犬型の『魔物』なのだ。
とはいえ事件を起こすわけでもなく、報酬のスイーツにつられ、こうしてしろくまに協力している。
不意にヒヨスが鼻に皺を寄せた。
『特徴のある臭いがしますね!』
鋭敏な嗅覚が、件の墓穴の付近に何かの気配を嗅ぎつけた。
『やっぱり魔物の仕業くま?』
『犯人とは限らないですが、この近くにいたのは間違いないと思います!』
『まだ近くにいるかもしれないくま。気をつけるくま』
心配顔のしろくま刑事に、ヒヨスは笑顔を向けた。
『調査はヒヨに任せてください!』
ヒヨスが宙をにらむ。まるで臭いの先を探るようだ。
『あっちのほうかな……』
墓石の隙間にヒヨスの姿が消えた直後だった。
『ああっ……!!』
ヒヨスの悲鳴、それをかき消すようなけたたましい笑い声。
『どうしたくま!!』
駆け寄るしろくま刑事の視界を、真っ黒な影が覆う。と思うや否や、しろくまの頭のてっぺんに鋭い痛みが走り、笑い声と共に黒い影は上空へと消え去って行ったのだ。
しろくま刑事はそこまで語ると、ゆっくりと帽子を取る。
頭のてっぺんには、血の染みた大きなガーゼが張り付いていた。
「という次第くま。私の傷は大したことはないくま、でもヒヨスさんは入院したくま」
しろくま刑事は懐から一本の瓶を取り出し、カウンターに置く。
黒いビール瓶のようなそれには、真っ赤なラベルが貼られていた。
『取扱注意!』『百倍希釈』『指についたときは目を触らないでください』
などと恐ろしい文字が並んでいるが、『The Hell Juice』というものらしい。
「情報屋さんには心当たりはないくま?」
シグは微笑を崩さないまま、瓶を手に取った。
「これは、これは。珍しい品ですね。これに見合うほどのものかどうかは分かりませんが……」
カウンター越しに身体を乗り出したシグが、しろくま刑事に何かを書きつけたメモを渡す。
「この辺りで、最近ペットが消えているという噂があります。一度調べてご覧になってはいかがでしょう」
それは墓地のすぐ近くの地区だった。
●
いつものたまり場で、ヒース・R・ウォーカーは馴染みの男から声をかけられた。
「よう。景気はどうだ」
「あんまりよくても困るんだけどねぇ」
ヒースは少し皮肉っぽく口角を上げ、気だるげに手を振る。
魔物狩りが専門のヒットマンとしては、仕事が多すぎるのも考えものなのだ。
「そりゃそうだ。それより聞いたか、しろくまの話」
「あぁ?」
平和そのものという顔の真っ白い毛皮のもふもふを思い浮かべ、ヒースは飲み物を口に運ぶ。
「なんだぁ? ついにパンダにでもなったかい?」
「それはそれでおもしれえが。厄介なヤマを追ってて、一緒にいた情報屋のヒヨスが怪我をして入院したそうだ」
そこでヒースの指が僅かに動く。
「あのヒヨコがぁ? ……フムン。また面倒な事になっているみたいだねぇ」
ヒースは顔なじみのヒヨスのことをヒヨコと呼んでいる。
しろくま刑事が一緒にいて入院沙汰とは、穏やかではない。
「そんで噂じゃ、やっこさんの上役の警部が、犯人を捕まえられなけりゃしろくまをクビにするって宣言したらしいぜ」
「トカゲのしっぽ切りだねぇ」
ヒースはさほど興味のなさそうな顔で、オーダーを追加した。
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「じゃあ……ちゃんと……治してね……」
ヒヨスの病室の扉を閉めながら、シェリル・マイヤーズは名残惜しそうに手を振った。
白い包帯を巻かれてベッドに横になっているヒヨスは『ドジしちゃいました!』と笑っていたが、さすがに顔は青白かった。
天ヶ瀬 焔騎はシェリルの頭をそっと撫でる。
「ヒヨスさんは強いから。医者の言うことをしっかり聞いていれば、すぐに元気になる」
「アマガセ……。ありがと……」
取るものもとりあえず駆けつけた病院に、焔騎はちゃんとお見舞いのプリンやゼリーを持参していた。
こういうとき、焔騎の存在は頼りになるのだ。
「ごめんなさいくま……ヒヨスさんの怪我は私のせいくま」
しろくま刑事は大きな身体を縮めて、しょんぼりと廊下に立っている。
『ケガしてしまったのはしろくまさんのせいではないと思いますよ?』
ヒヨスの言葉としろくまの姿が、シェリルの心に火をつけた。
ハリセンを取り出し、頭の傷を避けて喝を入れるように右肩を力いっぱい叩く。
「なげくな……。犯人……絶対……逮捕……!」
「わかったくまー!!」
勢いで何故か四足になったしろくま刑事の背に、シェリルがまたがる。
「犯人……覚悟……!!」
その後を追いながら、焔騎は思ったという。
(普通に走ったほうが早いのでは?)
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夜にはまばゆいばかりの明かりが灯る歓楽街は、日の光の下で妙に空虚でみすぼらしかった。
秘密めかした地下のバーへの入り口も、昼間に見れば、どこにでもあるただの薄暗い階段でしかない。
だが扉の向こうに日は差さず、淀んだ空気と闇がわだかまる中、シグと静玖の姿があった。
「全く、ウチのもん勝手に持っていった挙句、墓におさめるとかひどぉおすなぁ」
静玖は掌に乗せた櫛を大事そうに撫でる。紅白の蝶が並んだ意匠の飾り櫛だ。
「どうして手放されたのですか」
シグが尋ねると、静玖はぷいと顔をそむける。
「手放したわけやあらへんえ。前になくしたんよ」
「……確か、墓場で落とされたのでしたか。件のご婦人も随分と剛毅な方ですねえ」
この櫛こそ、しろくま刑事の追っている事件の発端となった、墓荒らしの理由だった。
静玖は婦人と共に埋葬された櫛を取り戻そうと、墓を暴いたのである。
「厚かましにもほどがあるわいなぁ」
そこで静玖はちらりとシグを見る。
「厚かましで思い出しましたえ。なんやウチの起こした騒ぎのついでに、悪巧みしはるお人がおるとか」
「これは、これは。お耳の早い」
「今回、ウチは『食事』もしてませんのや。せやのに墓の中はからっぽ。次の日にもなんやあったとかいいますやろ」
静玖は墓の中身を『食う』こともある。だが今回は違う。
くすくす笑いながら、シグが黒い瓶をカウンターの中で持ち上げた。
「ここはお互いに協力と参りましょう。報酬はこちらで如何ですか? ちょっと手に入りにくいジュースですよ」
静玖はちらりとラベルに目を走らせた。珍しい飲み物に目がない小さな魔物は、興味津津という風だ。
「よろしおす。詳しゅうきかせておくれやす」
シグの笑みが、凄惨な影を帯びた。
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ヒースはしろくま刑事が動き出したとの知らせを受け、後を追った。
「しろくま警部と愉快な仲間たちの冒険、といったところかなぁ? まぁ、捜査はアイツらに任せるかぁ」
ヒースはこっそりと見守り、周囲に気を配るつもりだ。
しろくま刑事たちは墓場に近い、半ば廃屋と化した古い建物に到着する。
「情報によるとこの建物くま。おじゃましますくまー」
崩れ落ちた門扉をまたぎ、蝶番の外れかけた玄関扉を慎重に開く。鍵はかかっていなかった。
人がいる気配も全くない。
「まずは現場をじっくり調べるくま」
破れた天井から光が差し込み、舞い踊る埃や行く手を遮るクモの巣が良く見える。
――絶対に犯人を捕まえる。
その一心で、しろくま刑事は心当たりのある場所を片っ端から当たる。
「床には足跡もないくま。魔物には足がないくまか……」
焔騎とシェリルもしろくまの後に続く。
「ただの廃屋にも見えるが……玄関以外の入り口はないだろうか。例えば地下とか」
焔騎はそう言うと、用意してきた墨汁入りのペイントボールをシェリルに渡す。
「俺は一応、外を見てくる。何かあったら使うんだ」
「ありがと……」
焔騎は頷き、建物を出た。
辺りは地面が見えないほど雑草に覆われている。
だが確かにこれだけの草むらがあるのに、ネズミ一匹みられない。
「奇妙だな。この季節なら草の実だってあるだろうし……もう少し詳しく誰かに話を聞いてみるか」
焔騎はそう考え、数歩歩きだす。
(聞きこみは俺ひとりで充分だ。過労の志士はShadow&Blackな労働を周りにバレずにやって置くものだ……)
その時、建物の中からシェリルの声が響き、焔騎はすぐに踵を返す。
「そっちに……犯人が、いる……気配!!」
「何!!」
焔騎も声の方へ駆けだす。
声が聞こえたのは建物の裏側だった。
焔騎が破れた窓から入りこむと、シェリル、そしてしろくま刑事が何かを追いかけている。
二人の少し前を、何か黒いモノが音もなく漂っていた。
「そこだ……!!」
シェリルが大きく振りかぶる。
が。
「あれ……?」
破れた床板に躓くシェリル。
「え……?」
「くまー!?」
崩れたフォームで投げられたボールは、不幸にも……
白塗りの刑事に激突してしまう。白い毛皮を黒く染める墨汁。
「すまない、全部俺の責任だ……」
シェリルをかばい全ての責任を負った焔騎に対し、毛皮の主、しろくま刑事が言い渡した条件とは……
「魔物を追うくまー!!!」
どう考えても示談とかそういう話じゃなかった。
というか墨汁でしろくまは黒く染まっても、黒い魔物はどうするつもりだったのか。
物陰に潜むヒースはその一部始終に、思わず頭を抱えてしまった。
「一体なにやってんだぁ、あいつらはぁ……」
だがすぐに立ち直り、魔物が逃げたほうへと急ぐ。
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魔物は羽の生えたイグアナという雰囲気だった。
ヒースはそいつを追いかけながら、ずっと何とも言いようのない違和感を抱いていた。
(なんだぁ? 何がおかしいんだぁ?)
ヒットマンとしての勘がそう告げていた。だが考えている暇もない。人の背の高さほどもある草むらの上を飛んで行く魔物は、一瞬でも目を離せば見失ってしまう。
身体を低くして廃屋の裏庭を横切ったヒースは、墓場との境目にあたる雑木林に駆け込む。
それから魔物が飛んでくる方へ回り込み、愛用の銃を手にする。
「飛ばれちゃあいつらには厳しいしねぇ。ハンデつけさせてもらうよぉ」
翼に狙いを定めた、次の瞬間。
「何ぃ!?」
魔物の手足が長く伸び、頭部を支える首が細くなる。それはまるで翼の生えたヒトのようで――
「チィッ!」
消音装置をつけたヒースの銃が、乾いた破裂音を響かせる。他の者には、少し太めの木の枝を踏んだ程度の音に聞こえただろう。
魔物が空中で仰け反ったかと思うと、姿勢を崩し、それでもじたばたと羽ばたきながら雑木林の木に張り付く。
ヒースはそれを確認すると、すぐに樹の陰に身を隠した。
しろくま刑事の頭が、草むらを進んでくる。肩車されたシェリルの頭が、その上に乗っている。
「ふふふ……逃がさない……こんどこそ……」
シェリルは小さな手に銃を握り締め、幹にぶつかるようにして爪を立てる魔物を撃った。
「仲間がいるかもしれないくま! 犯人には発砲も辞さないくま!!」
現場に到着したしろくま刑事は油断なく辺りを見回す。
だが自分達と地面に落ちた魔物以外、生き物の気配は全くなかった。
ヒースは、魔物を縛り上げて運んで行くしろくま刑事を黙って見送る。
「これでヒヨコへの手向けにはなったかなぁ」
近々見舞いにでも行ってみよう。
何処か晴れない気持ちも、きっとそれですっきりするだろう。
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「……元気そうだなぁ、ヒヨコ」
翌日、病室でヒースが会ったヒヨスは、生き生きつやつやしていた。
「そうですか? 足怪我していると動けなくて暇でしたよ! ですから、子供病棟で早食いの大会をしましたよ!」
その結果、怪我は思ったよりも早く治ったのだが、早食いのお陰でお腹をこわし、退院自体は延びてしまったのだ。
呆れるヒースに、ヒヨスはぐぐっと顔を近づける。
「あ、ヒースさん、なんか出そうで出ないような顔してますね? 大丈夫ですか?」
「はぁ?」
「ヒヨみたいに食べすぎでお腹壊しましたか? ここ病院ですし、お医者さん呼んであげましょうか?」
大真面目にナースコールを握り締めるヒヨスに、ヒースは苦笑いするしかなかった。
「もうあんまり無茶すんなよぉ」
そう言って、頭をくしゃくしゃと撫でまわす。
ヒースが帰ったすぐ後に、大きな花の塊が飛び込んできた。
「はやく元気に……なって……あそぼ……」
花の傍から顔をのぞかせたのはシェリルだ。
「シェリルさん! また来てくれましたね、ヒヨは元気ですよ! あっいいにおい、お花の匂いと、それから……」
「さすがの嗅覚だな。ほら、見舞いのスイートポテトのアップルパイだ」
焔騎が手に提げていた箱を、ヒヨスに手渡す。
「ありがとうございます! もう退院なのでみんなで一緒にいただきますよ!」
全く懲りていないヒヨスは、うきうきと包みを開く。
「そういえば事件も解決したのですね、ふたりともお疲れ様でした!」
「ヒヨスさんの怪我の分も、しろくま刑事が頑張ってたからな」
そう言って、焔騎はちらりとシェリルを見る。
「わ、わざとじゃない……わざとじゃない……」
「……何も言ってないが?」
そう、事件は解決したのだ。
翼をもつ、黒い魔物。追いかけている間に姿を変えたように思ったが、両の翼を撃ち抜かれて地面でバタバタともがいていた魔物は、しろくま刑事が捕まえたのだから――。
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ほの暗い階段を下りた先、重い木の扉の向こう側。
カウンターの席に腰かけて、足をぶらぶらさせる静玖は上機嫌だった。
「撹乱錯乱たのしおすなぁ~」
本来の魔物の姿に別の姿を重ね、木の陰に隠れた奴を混乱させてやったのは面白かった。
すぐに気付いたようだったが、どうせ使い捨ての魔物だ。
ところであのもふもふの白い奴は、自分の後頭部についた墨のてのひら型にいつ気付いただろうか?
――そんなことを楽しく思いだしていると、目の前に背の高いグラスが置かれた。
中身は真っ赤な液体である。
「さてさて、お陰さまで全てうまく行きましたよ。約束の報酬がこちらです」
シグが薄い笑いを浮かべていた。
「これが激辛ジュースいうもんどすな。なんや、見てるだけでも目が痛うなりますぇ」
そう言いつつ、ストローですする静玖。
「如何でしょうか?」
「味がどういうより前に、口から喉までものすごう熱うなるのは珍しおすなあ」
美味いはずがないが、静玖は空になったグラスを突き出し、おかわりを要求する。
それから、新しく飲み物を作るシグに話しかけた。
「シグはんもなんや、ご機嫌がよろしいようにみえますえ」
「ええ、ええ、それはもう。しろくま刑事がつまらないミスで消えてしまっては困りますから。静玖様のお陰ですよ」
――つまらないミス。
元はといえば、それは静玖が墓を暴いたのが発端で。
更にその墓の主を奪い去ったのは、ほかならぬシグなのだ。
あの廃屋の地下は彼の恐るべき実験場であり、いずれ新しい魔物を生み出す為の『素材』の保管庫でもあった。
(ええ、ええ。まさかあのご婦人が警察官とグルになって墓荒らしをしていらっしゃったとはね」
静玖の大事な櫛を奪った犯人は今、シグの『素材』として眠っている。
しろくま刑事の上司である、彼女の相方の警察官は、盗品売買の告発を受けて更迭された。
――全て上手く行きましたよ、静玖様のお陰でね。
シグは笑顔で、新しい飲み物をすすめる。先程のものに、更にタバスコなどを加えてアレンジしたものだ。
「そう、そうですね、また何かありましたら宜しくお願い致します。私の方でもご協力できることがありましたら仰ってください」
「おおきに、ありがとさんどす」
静玖はストローを暫く見つめる。
「お母はん、どこにいてはるのんやろかなぁ~」
ひたすら母の面影を追いかける幼い魔物は、目の前の男の真意を知らない。
もっとも、知っていたとしても静玖にとってはどうでもいいことなのだろう。
そして今夜も、街のはずれには妖しい笑い声が響き渡る。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0145 / ヒース・R・ウォーカー / 男性 / 23 / 人間(RB)/ 疾影士】
【ka5980 / 静玖 / 女性 / 11 / 鬼 / 符術師】
【ka1403 / ヒヨス・アマミヤ/ 女性 / 16 / 人間(RB)/ 魔術師】
【ka0509 / シェリル・マイヤーズ / 女性 / 14 / 人間(RB)/ 疾影士】
【ka4251 / 天ヶ瀬 焔騎 / 男性 / 29 / 人間(CW)/ 聖導士】
【ka1607 / しろくま / 男性 / 28 / 人間(CW)/ 聖導士】
【ka3900 / シグ・ハンプティ / 男性 / 22 / 人間(CW)/ 猟撃士】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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長らくお待たせいたしました。IF世界の人と魔物の物語をお届けします。
ストーリーは主発注者の方を基準にいたしました。お気に召しましたら幸いです。
この度のご依頼、ありがとうございました。