※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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■Bacchanales
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こんな筈じゃあ、なかったのに――と。
男は心底、動揺していた。
いや、酔って頭が回らなくなっているのかもしれない。
ここまで深酔いする予定など、なかったのだ。
本来なら酩酊して潰れるのは、自分と飲んでいる相手で。
そもそも、飲む相手もカモの女の筈だった。
女狐のマスターが何か企んでいるのかと表情を窺っても、愛想笑いに変化はなく。
テーブルに置かれたショットグラスの数だけが、確実に増えていく。
そして……。
反対側に座る相手は人差し指と親指で小さなグラスを持ち上げ、軽く中身をあおった。
コトンと、澱みない仕草で飲み干したグラスを置き、脇へ滑らせる。
そこには空のグラスが溜まっていたが、数に意味はない。
先に相手が潰れれば、勝ちだ。
考えるうち自分の前に新たなグラスが置かれ、酒が注がれた。
それを、男はじっと凝視する。
対戦相手の男も同様に、マスターの仕草を眺めていた。
金髪をぴったりと撫でつけ、口元から顎にかけて手入れされた髭をたくわえ。
白い肌色は酔いによる赤みを少し帯びているが、緑の目は焦点を失わず、余裕すら窺える。
長身で鍛え上げられた体躯は、カモの女と比べれば雲泥の差がある『巨漢』だ。
何故、と答えのない問いを頭の中で繰り返しながら。
金貸しの男は与えられたグラスへ、のろのろ手を伸ばした。
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グラスを取る金貸しの指先は、かなり酔いが回っている。
次のショットグラスを用意するマスターは、冷静な目で勝負の成り行きを見守っていた。
この男、町でも酒が強い事で知られているが。
少女の代わりに対戦相手となったハンターの方が、予想以上だったらしい。
……事の発端は、ほんの1~2時間前。
当事者からすれば、もっと以前から面倒事は始まっていたが、今ここに至る事態だけをまとめれば少し前の事だった。
依頼に赴く途中か、依頼上がりか、それとも全くのフリーなのか。
たまたま彼女の店に入り、酒を楽しんでいたハンターに20代の女性が無謀にも酒の飲み比べを挑んだ。
誰が見ても、酒が強そうだと思えない女性は……実際マスターの彼女が知る限り、弱い。
戯れに応じたハンター相手に3杯目で潰れたが、それでも粘った方だ。
「何の余興かな」
面白がり、そして訝しむハンターにマスターは女性の事情を説明した。
『ちょっとした災難』で借りた金が、あっという間に巨額の負債になった事。
実は借りた先が悪辣な金貸しだったのだが、女性はそれと知らず口車に乗った事。
金の返済を迫られ、返す宛ても借りる伝手もない女性は、金貸しが提案した賭けにまんまとハメられた事。
「それは、自業自得だとしか言えないが……金貸しの賭け?」
「珍しい話じゃないわ。金がないようだから、飲み比べで挑戦する機会を三回やる。一度でも自分に勝ったら、借金はチャラ。負けたら身売り……そんなところかしら」
「ああ……それで、武者修行でもする気だったのか」
「もう二回も負けててね、次に負けたら好きにされるってワケ。さぁ起きて、ヴィー。あの男が来るわよ」
呼びかけて女性の肩を揺すっても、起きる気配はなく。
代わりにハンターが、手でそれを制した。
「……勝負に代役は、可能か?」
「どうかしら。同じ手口で何人も『食い物』にしてきた男だけど、代理勝負は見た覚えがないわ」
「じゃあ、マスターの采配でどうにかならないか。勝負の前に潰してしまったのは、俺だしな。それに……」
言葉を切り、探る瞳でハンターは店の女主人を見上げ。
「わざわざ彼女の置かれた状況を話したのも、腹案あっての事だろう?」
それは何もかも見透かしているような視線で、マスターは溜め息をつく。
「小さい頃からヴィーを知っていたのもあるけど……もう、止めさせたいのよ。私の店で、こんな人買いの真似事は」
思わず口をついて出た言葉にハンターは頷き、まずは女性を奥で寝かせるよう助言した。
そして――。
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何杯目かの酒を干した男はショットグラスを掲げた姿勢のまま固まり。
やがて横へ身体が傾いて、ひっくり返った。
――代理の彼は先に飲んでいたから、ハンデがある。
そんなマスターの説明にうっかり乗って、ナメた。
いや、飲んでいたのは確からしいが……自分を上回る酒豪だと、予想だにしなかった。
後悔も怨嗟も、頭の中を駆け巡ったのは一瞬。
すぐに何もかも、意識と一緒に闇へ落ちた。
「後始末は上手くやるわ。然るべきところへ、叩き出してね」
ウインクして、マスターは礼を言う。
「恩人の名は……聞かない方が、いいかしら」
「そうだな」
どうせ名乗っても、意味はないが……それは告げずにおく。
「だけど、どうして助ける気になったの?」
「知り合いと名前が似ていただけだよ。あの子にもよろしくな、マスター」
「ありがとう、ミスター」
見送られ、酒場のドアを閉めたヴァージル・チェンバレン(ka1989)は夜の闇に紛れて消えた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】
【ka1989/ヴァージル・チェンバレン/男/45/人間(クリムゾンウェスト)/闘狩人(エンフォーサー)】