※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
-
Campus Stellae~アルヴィン = オールドリッチ~
深夜。
森に抱かれた湖のおもては、さんざめく星明りを映し輝いていた。まるで星空の一部を切り取り敷き詰めたかのようだ。
「こんな素敵な湖に出るナンテ、無粋な亡霊も居たものダネ。ふふーふ、むしろ風流なのカモ?」
口遊むように言い、アルヴィン = オールドリッチは独り、湖の縁をゆったり歩く。夜の散歩を愉しんでいる風情だが、今はれっきとした依頼中。この湖に現れる2体の亡霊退治を請け負っている。亡霊達の風貌と、この湖に伝わる伝承に興味を惹かれ参加したのだった。
「マァ、僕は控えだから気楽なモノだケド」
独りごち、桟橋前へやって来ると、近くの茂みに身を潜めた。通信機へ小声で告げる。
「ヤァ、無事に着いたヨ」
『了解。作戦を開始する』
仲間の返答からややあって、対岸にランタンの明かりが灯った。囮役によるものだ。
件の2体の亡霊は、夜湖に近づく人があると、水底から現れ引きずり込もうとするのだという。なので囮役が水中から誘き寄せ、傍に潜む仲間が一気に叩く算段だ。
彼の役目は、逃走を図られた時のため対岸で待機すること。仲間が仕損じなければ出番はない。控えとはそういう意味だった。
アルヴィンは肩にかかる蔦草を払い、フムと唇に指を当てる。
聞き及んだ伝承が本当で、亡霊の目撃証言が確かだったなら――
「恐らく後者……伝承のふたりってコトになるのカナ」
『何の話?』
呟きを通信機が拾い、仲間が怪訝そうに尋ねてくる。
「この湖に伝わる悲恋話ヲ小耳に挟んだンダ」
その時湖の底深くに、青白い妖光が灯った。
けれどアルヴィンは動かない。モノクルの奥で藍晶石の瞳を眇め、水面へ浮かび上がってくる光をじっと見据え続ける。
『悲恋話って?』
仲間にせっつかれ、視線を外さぬまま口を開く。
「その昔さる大貴族の令嬢と騎士が、身分違いの恋にオチタそうでネ。結ばれぬ運命を嘆いたふたりは、手に手を取ってコノ湖へ身を投げたというノサ」
奏唱士でもある彼の語りは歌のように流れ、嘆息ともつかぬ仲間の吐息がスピーカーをかすかに震わせた。
『そのふたりが亡霊化したものじゃなければ良いけど』
「ソウ? 僕は是非、ふたりに会ってみたいんだケドネ」
何故? 仲間が尋ねるより早く、湖面に浮かび上がった光が2つの人影に変わる。――果たしてそれは、古風なドレスの女性と騎士の姿をとった。
亡霊たちが滑るように囮役へ接近すると、たちまち対岸は仲間が放つマテリアル光で眩く照った。
アルヴィンは身じろぎせぬまま観察し続ける。亡霊たちは激しい攻撃にさらされようと、決して互いの手を離そうとしない。
「繋いでいるノカ、縛られてるのノカ……愛ハ時に、他人ばかりか自分ヲモ殺してしまうモノなんダネ」
呟く横顔には哀愁も落胆もない。
『愛』という感情は、時に血の繋がりさえ断ち切り、その喉首をも断ち斬ってしまうものだと、アルヴィンは自身の経験から学んでいた。
以来『愛』とは何なのか、何がそこまで人を突き動かすのかと興味が尽きない。
『もしそのふたりなら、尚更被害者が出る前に止めてあげないと!』
「フム。きみのその思いもまた『愛』ダネ、きっと」
感心したように頷いた時、光の杭が騎士の足を縫い止めた。これでカタが付けられる――誰もがそう思った。けれど次の瞬間騎士は杭を打ち砕くと、令嬢の手を引き岸を離れた! そのまま湖を越え、アルヴィンが潜む岸辺へ向かって来る。
『しまった!』
「任セテ」
思わぬ出番到来。アルヴィンは瞬時に茂みを飛び出すと、桟橋の上でふたりを待ち受けた。湿った風が頬を打つ。その頬に、涙の雫とハートを象る紋様が現れた。
迫り来るふたりへ目を凝らす。彼らの虚ろな眼窩には探していたような感情はなく、ただ闇が凝っているばかり。
少し残念に思い肩を竦めると、桟橋の突端に進み出た。吹き付ける風の中、芝居がかった仕草で両腕を広げ、貴族の所作で一礼する。
「僕には計り知れナイ所もあるケド……今のきみ達の顔、お互い見せたくナイヨネ?」
動きに合わせ、袖口に仕込んだ金粉が舞うかの如く、千々の星が乱れ舞う。それを見たふたりの顔が一層醜く歪んだ。
互いだけが知る穏やかな表情に戻るよう――負のマテリアルによって生み出された偽りの憎悪を取り去るように――祈りながら、「Orakel」を高々と掲げる。
「――オヤスミ」
言葉に呼応した星々がアルヴィンの頭上へ集まったかと思うと、そこから溢れた清らな光が憐れな恋人たちを包んだ。
そうして光が潰えた時には、おぞましい気配は消え、湖は元のように静まり返っていた。
アルヴィンを取り巻く星の数も急速に減っていく。残った星々が寄り集まり、一瞬兎を形作ると、彼の肩に鼻先を擦り寄せて消えた。その温もりを探すよう肩口を指でなぞり、唇に笑みを灯す。
「……マア、気長に探すサ」
誰にともない囁きを、天上と足許の星影だけが聞いていた。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ka2378/アルヴィン = オールドリッチ/男性/26歳/嗤ウ観察者】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
アルヴィンさんのある依頼での一幕、といった風で書かせていただきました。
初めましてのアルヴィンさん。探り探り書かせていただきましたが、如何でしたでしょうか。
覚醒時のお姿やユニークアイテムに、星を散りばめられてらしたのがとても印象的でした。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。
この度はご用命下さりありがとうございました!