※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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アイがあふれてる
クリスマスを前に、街には多くの人があふれていた。
沢城 葵は、その人混みが妙な形に分かれるのに気づいた。
「なにかしらん? ……あ」
その正体はすぐに判明した。
あろうことか、その原因が葵の顔を見てそれはそれはいい顔で笑ったのだ。
「ヤア、アオちゃんもお買い物カナ?」
ニコニコ笑っているのはアルヴィン = オールドリッチである。
荒い息をつきながら頬を染め、目をキラキラさせていた。
彼が大きなもみの木を台車で引っ張っているため、人々は迷惑そうな顔で道を譲ったという訳だ。
「ちょっとぉ……ここで声をかけるの、やめてくれない?」
葵の心からの苦情は、アルヴィンには全く届かなかった。
「ちょうどイイところで会ったネ! 立派なモミの木ダヨね? コレでクリスマスツリーを作ったら、ミンナびっくりして喜ぶと思うんダヨ!」
一見すると上品な身なりの美青年なだけに、大きな木を引きずる姿は嫌でも人目を惹く。
「ちょっと待ってちょうだい。それ、どこまで運ぶ気なの?」
「アジトダヨ!」
葵は眩暈を覚えた。肉体労働なんてもんじゃない。
「……あらそう。頑張ってちょうだいな。じゃあ私はちょっと用事が……」
踵を返した葵だったが、お気に入りのコートのベルトを力強く引っ張られて、その場から動けない。
「……だから用事がね?」
「ミンナすっごく喜ぶと思うんダヨ!」
何の迷いも見られないキラキラの瞳が、葵を見つめていた。
ひとまずアルヴィンも喉が渇いているようなので、近くのカフェに落ち着くことになった。
モミの木は店の前に馬を繋ぐように置いてある。
「で? なんでこんなことになったワケ?」
「これでもチョット小さいほうナンダヨ! 大きなツリー、すごいヨネ、楽しいヨネ!!」
かみ合わない会話を整理した結果わかった事情は……。
偶々依頼で向かった先で、クリスマスツリーを飾りつけていた。
そこで用意された木が少し小さくて、別のものを用意したのだが、最初の小さいほうが余ってしまった。
処分するのももったいないし、返す費用ももったいない。
というわけで、良かったら持って帰らないかと言われ、本当に持ってきたのだそうだ。
「それで持って帰ろうと思うのが凄いわ……」
葵は顔を覆う。
「ふふっ、アリガトウ!」
――いや褒めてないし。
葵の内心のツッコミを知らず、アルヴィンは嬉しそうに笑っている。
「デモ折角キレイなクリスマスツリーになるハズだったのに、そのまま捨てられタラ、切られた木がカワイソウなんダヨネ」
葵が顔を覆っていた手を外し、まじまじとアルヴィンの笑顔を見つめた。
そうなのだ。この青年はいつも笑顔ですべてを愛し、全てを楽しむ。
人間の都合で勝手に切られて捨てられる立派なモミの木を、そのまま見捨てられるはずがない。
葵もその話を聞けば、納得してしまうのだ。
「もう、しょうがないわねぇ。それで何か飾る物にあてがあるのかしらん?」
「それも今から用意するんダヨ! だからアオちゃんも一緒に考えてもらえタラって」
「はいはい、わかったわ。でもモミの木は少しどこかに預かってもらわなきゃね」
カフェの主人が快く引き受けてくれたので、有難く甘えることにした。
そしてふたりはまた街へ出ていく。
なんだかんだ言って、葵にはアルヴィンを見捨てることができないらしい。
突然、アルヴィンが一軒の店の前で足を止める。
「すっごくキレイだよ! キラキラ、キラキラ、みんな喜ぶネ」
ショウウインドウでは繊細なガラス細工のオーナメントが、明かりに照らされて幻想的に輝いていた。
だが葵は、それが最高級の装飾ガラスを扱うブランドの店であることをすぐに悟る。
ガラスと言いながら、飾りひとつがちょっとした宝飾品ぐらいのお値段なのだ。
入って行こうとするアルヴィンを引き留めるために開きかけた口は、続く彼の言葉で閉じなくなった。
「ちょっとナツカシイよネ、僕の家にあるのと同じなんダヨ!」
「…………」
さすが貴族。
だが葵はきゅっと眉を寄せ、アルヴィンを説得する。
「クリスマスツリーを飾るのはね、皆であったかいクリスマスを過ごすためなのよ。自分の手で作るのが一番だと思わない?」
腹を括った時点で、葵は決めていた。
実際のところ、街中には綺麗なリボンや、心躍るハンドメイド素材があふれる時期だ。
だからどうせならこの機会を利用して、思いっきり自分好みのツリーを飾り付けてやろうと思い立ったのだ。
葵はよく立ち寄る手芸用品を売る店にアルヴィンを連れていき、リボンを何本も引っ張り出した。
「ほらこの色のリボンなんか、この時期にしか見られないわよねぇ! あら、こっちも素敵じゃなぁい?」
赤に緑、金糸に銀糸。滑らかな手触りと厚みのある素材。どれもこれも本当に素敵だ。
「キレイだネ。あっ、僕はこの色もスキだヨ」
深い青色と純白のストライプのリボンは、確かにアルヴィンのイメージに合っている。
「あらほんと、素敵! でもツリーのイメージが変わっちゃうわねぇ」
元の世界では、女性向けの服飾雑貨を扱う店を経営していたほどの経歴だ。
葵の美意識からいうと、全体の美しさを損なう飾りはアウトである。
「じゃあ全体のイメージをスタイリッシュにして……青と白をメインにするとなると、星の飾りは銀色で……」
ぶつぶつ呟きながら悩む葵をよそに、アルヴィンは素朴な木彫りの橇を嬉しそうに手に取った。
「コンナノも可愛いヨネ! プレゼントを運んでくるサンタさんも欲シイナ」
「待ってちょうだい! そういう素朴な飾りにはリボンの質が合わないわ!!」
葵の計画は、最初から練り直しとなる。
なんだかんだとその後もツリーのイメージは変化したが、最後には最もオーソドックスな色合いで落ち着いた。
「これから飾りつけなのよね……まだまだ先は長いわ」
葵は材料を入れた紙袋を抱えて、多少疲れも見える。
だがアルヴィンは相変わらず元気いっぱいだ。
ツリーを乗せた荷台を引く馬を借りたので、足もずいぶんと軽い。
「あったか色のツリー、トッテモ楽しみナンダヨ!」
アジトにつくと、葵はさっそく材料を広げる。
「こっちは蝶結びのリボンにしてベルをつけて、こっちは塗料を塗って……」
赤と緑のリボンを重ねて少しずらし、下げ紐とベルの飾りをつけて固定する。
しっかりとした質感のリボンは、広げた状態で綺麗にまとまった。
木製の丸いボールには、赤色と金色の塗料で色を塗った。
アルヴィンは赤く塗ったボールを満足そうに眺める。
「なんだか本当のリンゴみたいダヨ。キラキラガラスもキレイだけど、コッチモ好き」
「あらやだ、ネイルがはげちゃう!」
葵が小さく声を上げた。
綺麗に整えた自慢のネイルが、塗料の溶剤でよれてしまったのだ。
だが文句を言いながらも、葵は作業をやめようとしない。
頭の中に描いた、大きくて暖かなツリー。皆でそれを囲む日を想えば、自然と笑みが浮かんでくるのだ。
「いいわ、どうせなら次はクリスマスカラーに塗り直しちゃうから」
そして金色の細いリボンは、ハサミの背でしごいてくるんとカール。
「さ、オーナメントはできたわ。ツリーを立てましょ」
いざ部屋に入れてみると、ツリーは結構高かった。
「ギリギリだったわねぇ。お星様をつけたら、天井に届きそうよ」
「じゃあ飾っちゃうヨ!」
アルヴィンが待ちきれないように、お気に入りの橇とサンタさんを結びつける。
「あ、ちょっと待って! 順番に飾らなきゃね」
葵は全体を計算して、赤い飾り、金色の飾り、リボンに星にハートを、どこから見てもバランスよく見えるように配置する。
最後にカールした金色のリボンをたらし、アルヴィンが梯子を使っててっぺんに輝く金色のお星様を飾れば、部屋はまるで別世界のようになった。
「素敵ねぇ。生木のツリーなんて贅沢だわあ」
床に座って見上げながら、葵がさっきまでの苦労を忘れたようにため息をつく。
「アオちゃんのアイだね」
並んで座りながら、アルヴィンがニコニコ笑っている。
「え?」
「このツリーはトッテモアオちゃんらしいと思ウンダ。アイがあふれてるヨ」
「やあねぇ。私達ふたりの作品よ」
笑いながら、葵は改めてツリーを見上げる。
確かに葵らしい、葵の愛情がこもったツリーだった。何かを作るということは、自分を表現することなのかもしれない。
でもそこにはアルヴィンの皆を喜ばせたいという愛もこめられている。
だからふたりの作品なのだ。
「でもブルー系も素敵で捨てがたかったわねぇ」
アルヴィンがぱっと顔を輝かせて身を乗り出した。
「やっぱりそう思うヨネ? じゃあネ、ちょっと外でモミの木をもう一本切って……」
「やらないわよ!?」
疲れ知らずのアルヴィンなら、本当に切りに行きかねない。
そこで葵は小さく欠伸する。
「お菓子も作りたいから、材料は買ってきたんだけど。さすがに疲れちゃったわネ。ちょっと休憩してから……」
「デモココは少し寒いヨネ。毛布持ってくるんダヨ」
アルヴィンが毛布を持って戻って来た頃には、葵は壁にもたれてうとうとしていた。
「飾りつけ頑張ってたカラね。お疲れダヨね」
飾りつけの前段階で疲れたという発想はないらしい。
アルヴィンは並んで座り、一枚の毛布にふたりでくるまる。
「これナラ、ふたりともあったかダヨ」
そして暖かな色のツリーを囲む、暖かなひと時を想う。
「クリスマスには、何をしようカナ。ミンナのびっくりする顔、ソレカラ笑い声もイッパイ」
伝わるぬくもりは、アルヴィンの瞼にも魔法の粉をかける。
「うん、少しダケ……休んダラ、後片付けもしなくちゃネ……」
やがて穏やかな寝息が部屋を満たす。
クリスマスまであともう少し。
アルヴィンの寝顔はいつも通りに幸せそうだ。
きっと夢の中でも、皆をびっくりさせるアイデアを追いかけ続けているのだろう。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka2378 / アルヴィン = オールドリッチ / 男性 / 26 / エルフ / 聖導士 】
【 ka3114 / 沢城 葵 / 男性 / 28 / 人間(リアルブルー) / 魔術師 】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はノベルのご依頼をいただき、誠に有難うございます。
おふたりが一緒に何かをするとしたら何だろうと考え、この時期らしい内容にしてみました。
場所を勝手にお借りしましたので、そこはちょっと苦情が出ないか心配なのですが。
もしお気に召しましたら、幸いです。
おふたりとも素敵なクリスマスを過ごされますように!
副発注者(最大10名)
- 沢城 葵(ka3114)