※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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贈り物をアナタに――
助手として仕事を手伝う薬局を後にするとユリアンは川沿いの道へと出た。
川風は冷たいが空が広くて気持ち良い。
途中橋で釣り糸を垂れている子供に薬局の常連さんから貰った菓子をお裾分けしたり、船着き場で煙草片手に休憩中の男と挨拶を交わしたり。のんびり散歩がてらの帰途だ。
「一杯どうだい?」
「飲み過ぎは体に悪いよ」
酔っぱらい相手も慣れたもの。
そうこうしているうちにT字路の角に立つ縦長の写真館を曲がり下宿へと到着。
男性ハンター向けの下宿は古い煉瓦造りの三階建て。一階は大家が経営する酒場兼食堂と共有スペース、二階、三階に個室。
広めの裏庭が装備品を虫干ししたり、幻獣を洗ってやったり何かと便利。
決まりは一つ、あとは自由。表通りに面した窓に洗濯物を干すのは禁止。「野郎の下着をひらひらさせるな」ということらしい。破ると下宿の掃除が待っている。
一階、集合ポスト上のお裾分け籠に菓子を入れるユリアンに一通の封書が差し出された。
「愛を込めて……」
「残念だけど間に合っているんだ」
軽口の応酬。封書の差出人は辺境で出会った少女。
好奇心満載の青年に「妹みたいな子だよ。10歳くらいの」と告げたらとても詰まらなさそうに唇を尖らされた。
中は聖輝節のカード。近くの街に行ったらとても綺麗だった、リゼリオはどうですか?とある。
大人びてきた字にしみじみと少女の成長を感じる中、はたと気づいた。
聖輝節の贈り物は何がいいのだろう、と。
相談しようにも妹は実家だ。
「師匠に聞いてみようかな……」
女性のこと詳しいだろうし、本人が聞けば微妙な表情で顎を撫でそうな事をユリアンは口にした。
ある日アルヴィンはとある公園と出会った。
初めて訪れた人は迷子になってしまいそうな入り組んだ道を右に左に前に後ろに気の向くままに散歩していた時だ。
小さい噴水の周りには昼寝中の猫。素朴な遊具に木陰のベンチ、四季折々の花の咲く花壇。そして東屋。
広さのわりに設備は充実していたが特筆すべき何かがあるわけではない。
一つ特徴をいうなれば建物が多く日当たりの悪い場所なのに、その公園だけ陽光が降り注いでいること。
まるで日常から切り取られたかのように。
一目で気に入った。どこか魔法じみた非日常を感じてワクワクしたからかもしれない。
そして気付けば管理人顔で居座るようになっていた。
「ン~……」
ペンキの禿げた遊具、積もった落ち葉、誰かが忘れたスコップ――いつもの東屋ではなく滑り台の上に立ちアルヴィンは見慣れた風景を指で作ったキャンバスで切り取っていく。
「ウン、公園に星を降らせヨウ」
理由は特にない。チョット楽しそうだシで十分。敢えて言うなら聖輝節だから。お祭りはより楽しいほうが良いに決まっている。
思い立ったが吉日。街に繰り出そうと滑り台を「ヤァ」と滑っていく。
大きな事でも小さな事でも何かを企むのは楽しい。そもアルヴィンにとって「楽しい」以外の感情を抱くことは難しいのだが。
足取り軽く向かったのは聖輝節マーケットがある劇場前広場。
普段多くの馬車が行き交うこの場所もこの時期ばかりは大小さまざまな屋台で埋め尽くされている。
大人も子供も、肩を寄せ合う恋人たちも皆等しくどこか浮かれた独特の空気はいつ見ても興味深い。
当初の目的を忘れてアルヴィンは人の流れに身を任せ周囲を観察しているとよく見知った青年をみつけた。
魔導カメラを手に何やら試案顔。
誰かに写真を頼まれたのかな、とレンズが向かう先に視線を向けるがそこにあるのはキャンドルを扱う屋台。
どうにも人の流れが途切れるタイミングを狙っているらしい。
「サテサテ、どうシヨウ」
ニマリと笑うアルヴィンは跳ねるように、でも足音は立てず接近を試みた。そして
「ユーリ君、コンニチハー」
レンズをユリアンとは逆側から覗き込む。
「うわぁ?!……ってカ、メラ!!」
驚いた拍子に手から滑り落ちたカメラに珍しく悲痛な声をあげるユリアン。
カメラが石畳にキスをする前にアルヴィンが掬い上げる。
「ありがとう」カメラを受け取るユリアンに原因は自分だというのに礼を言うあたり育ちの良さが伺えるななどとアルヴィンは思う。
「ナニをシテたのカナ?」
大家さんのカメラ壊さなくてよかったと安堵するユリアンが答えようとする前に「ははぁん」とアルヴィンはわざとらしく頷いた。
「屋台の女の子を撮ッテ……」
「聖輝節の街を撮ってチアクに送ってあげようと思って」
揶揄いの言葉を全部言い終える前に切り返される。
逞シくなって、と拗ねてみせるアルヴィンをよそにユリアンの撮影は続く。
本当に誰に似たのやら。逞しくなった。
「そういう事ナラ、商店街に光の動物がいたヨ」
切り替えの早いアルヴィンはユリアンに確認するまでもなく協力態勢に入る。何せその少女はアルヴィンも知らない仲ではない。
寧ろ拒否されてもついていく気満々だ。「サア、行くヨ」ユリアンの腕をとった。
「ついでにユーリ君と聖輝節デートと洒落こむヨー」
明るく宣言するアルヴィンにユリアンも慣れたもので「エスコート、よろしく」と笑う。
「勿論、お任せあれダヨ」
星がキラキラ舞いそうなウィンクをアルヴィンは返した。
言葉通りアルヴィンのエスコートは素晴らしかった。
普段は入れないようなところまで案内してもらい、写真はあっという間に溜まる。
改めて我らが小隊のリーダーの顔の広さを知ることとなった。
「ふふん、モット尊敬の眼差しをくれてイイんダヨ」
得意気に胸を張る姿もシルクハットにファーをあしらったケープといった貴族然とした恰好と相俟って似合っている。
「一つ相談があるんだけど……」
「ユーリ君からの相談? 何カナ?」
ユリアンはチアクへの贈り物を決めかねていることをアルヴィンに話す。
「師匠に相談したらさ、もっと適役がいるだろって」
でも妹は実家なんだよねぇ、と寄せる眉。
「アー……」
師匠の言葉に何かを察したようなアルヴィンにユリアンは「?」と首を傾げる。
だが答えの代わりに師匠曰く胡散臭い笑顔が返ってきた。
「近くに僕が贔屓にシている店がアルんダヨ」
オイデ、と先に歩き出したアルヴィンが手招く。
連れてこられたのはこじんまりとしたそれでいて由緒正しそうな文房具店であった。
飴色の重厚な扉はユリアン一人だったら入るのを躊躇ったことだろう。
しかしアルヴィンは「コンニチハー」いつもと変わらない様子で扉を押す。
落とした照明、磨かれた硝子ケースの向こうに白髪を綺麗に撫でつけたモノクルの紳士が二人を迎える。
チアクにはちょっと大人っぽいすぎるのではないかとユリアンは思ったがアルヴィンは気にすることなく進んでいく。
「長く使える物をあげるのもイイと思うヨ」
アルヴィンの言葉がユリアンの胸にチクりと刺さる。
躊躇いがあった。
未だどこかで自分は風のように誰かの中を通り抜けていく存在、という想いがある。
だから残るものは――……。
妹に言えば「変な気を遣わないの」と呆れられるなと人知れず苦笑を零す。少し臆病で卑怯者の自覚はある。
「子供の頃の玩具箱の中は一つ、一つが思い出が詰まった宝物。ソレと同じダヨ」
アルヴィンのポンと背を叩く手が気負うなと言っているような気がした。
あれこれ悩んで青い硝子に金の粉が星のように煌めいているペン、深い藍色のインク、アメノハナに似た透かしの入った便箋と封筒を選んだ。
夕暮れ、そろそろ足元が暗くなってきた頃。
「とっておきの場所に連れテ行ってあげヨウ」
アルヴィンはそう宣言するとユリアンの返事を待たずに歩き出した。
旧市街と呼ばれるリゼリオという街ができる前から人々が暮らしていた地区へと出る。
煉瓦ではなく四角く切り出した石を組み合わせ漆喰で塗り固めたような建物が多い。
建てやすい場所から家を建てていった結果、道は狭く迷路のように入り組んでいる。
その道を迷いなくアルヴィンは進んでいく。
壊れかけの石段が続くような坂を上って、角を曲がってまた坂を上って。何度か繰り返すと、円筒型の建物に辿り着く。
かつて物見小屋。今は使われていない。建物の壁面に沿った螺旋状の階段を登っていく。
そして屋上へと……
「わっ」
途端に開けた視界にユリアンは声をあげた。
眼下に広がるのは夜空の下、柔らかい光に包まれるリゼリオの街。
「ココは街が一望できるんダヨ。聖輝節の頃は街がいつもよりキラキラしてるネ」
アッチが薬局のあるほう、などとアルヴィンが指をさす。
「写るかな?」
ユリアンが構えたカメラをアルヴィンは取り上げる。
「あの子に君の言葉で伝えてあげるとイイんダヨ」
「そんな俺に文学的な才能なんて……」
頭を掻きながらもユリアンは街へと顔を向けた。
コレが僕からのプレゼントダヨ
アルヴィンは律儀に助けてくれた皆にカードを送ってきた少女に心の中で語り掛ける。
勿論抜かりなくすでにカードとお菓子は返しているのだけど。
時にちょっかいを出しつつ見守っている恋もある。でもそれとは別に憧れと仄かな恋心を抱く少女のことも応援したくなるのだ。
「星の洪水みたいだね……」
暫く街を見下ろしていたユリアンが呟く。
「ソウ星……? 星……アッ!」
当初の目的を思い出したアルヴィンは「ユーリ君、ユーリ君」と買い出しから公園の飾りつけまで手伝ってもらったことは言うまでもない。
後日、アルヴィンはユリアンの師匠とのお茶の際にこの日の出来事を話題に挙げた。
贈り物選びを手伝ったことに関して何か薬師は言いたげだったが気付かないふりをして涼しい顔でティーカップを口に運ぶ。
「会う理由ナンテ自分で作るものダヨ」
寧ろコレは僕からの贈り物ダヨ。片目を瞑った顔は誰がどう見ても面白がっている表情であった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka2378 / アルヴィン = オールドリッチ 】
【 ka1664 / ユリアン 】
【 NPC / チアク / 辺境出身の少女 】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございます。桐崎です。
お二人のデートノベルになりましたがいかがだったでしょうか?
アルヴィンさんは色々と秘密の場所や人の知らない場所を知っていそうだなぁ、というイメージです。
そしてユリアンさんは最初に書かせて頂いた頃より逞しくなった印象です。
気になる点がありましたら、お気軽にお問合せ下さいませ。
それでは失礼させて頂きます(礼)。
副発注者(最大10名)
- ユリアン・クレティエ(ka1664)