※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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判断が早い人が上に立つというのですが本当でしょうか
薄い雲がかかる山の尾根を眺めながら、複数人のハンターが獣道を進んでいた。その中に、一人の少女がいた。少女はハンター用に防御力のあるドレスを纏い、腰近い銀髪を揺らしながら進む。
彼女の名は、エルバッハ・リオン(ka2434)という。尖った耳が彼女をエルフだと示し、ワンドと醸し出される雰囲気から魔術師だと察せられる。
鬱蒼と生い茂る木々の間を抜け、ワンドで草を払いのける。ふと隙間から横を見れば、切り立った崖になっていた。できるだけ崖から離れた位置を取り、エルは先を急ぐ。
目的地は少し進んだ先、エルたちはオフィスからの依頼を受け、奥の浅い洞穴に巣食う雑魔の群れを退治しに来た。獣から変化した雑魔と聞いており、話の限りではさほど問題にはならないはずだ。
「少々天気が気になりますが、今回はいつもどおりに仕事をするだけですね」
独りごちて、エルは前方を見やる。そこには、黒々とした毛皮を持つオオカミが数匹。ハンター同士で言葉をかわし、連携を確認する。
「では、初手は私からですね。こちらに気づくと思いますので、炎が弾けたら接近をお願いします」
そう告げて、エルは薔薇の紋様を体に浮かび上がらせる。一呼吸を置いて、炎弾がワンドの先から飛んでいった。炎弾は群れの中央に飛び込むと同時に、爆ぜた。雑魔が一斉に吠え、ハンターたちが一斉に地を駆ける。
いくつも斬線が閃き、矢弾が放たれる。
その合間にエルは適切な魔法を戦場へと注ぎ込んでいく。
「今日はすぐに終わりそうですね」
どうっと一匹倒れ、二匹が倒れ、次第に数が減っていく。逃亡を試みる雑魔の行く手を塞ぐように、後衛を担うエルも立ち回る。ジリッと間合いを詰めて、ワンドを振りかざす。接近戦は苦手だが、一撃みまえば仲間が詰める時間をかせぐには十分――のはずであった。
――暗転。
葉っぱの青臭さの中に、ほのかに鉄の匂いが交じる。目覚めには微妙な匂いが、鼻腔をくすぐる。小さなうめき声をあげ、エルは目を開いた。
遅れて鈍痛が全身を襲う。とりわけ両脚を動かそうとすれば、激痛が疾走った。
「これは……間違いなく折れていますね」
ため息が漏れそうになるのを飲み込み、改めて周囲を混渡す。どうやら崖の下に落ちたらしい。見上げれば、枝の折れた木が崖の所々に生えていた。クッションとして作用し、衝撃を緩和してくれたらしい。
それでも、両脚は庇いきれなかったようだ。
「手負いの獣の悪あがきを甘く見積もってしまいました。油断大敵とは常に思っているのですが、今回ばかりは……失敗でしたね」
落ちた原因を思い返す。
振り切ったワンドを雑魔は傷ついた体で受け止め、速度をゆるめずに突撃してきた。避けきれない、と思ったときには突き飛ばされ、崖に落とされていたのだ。
意識が途切れていたのはどのくらいか。
仲間にあまり心配はかけたくないが、両足が動かない以上、どうすることもできない。傍らに転がっていたワンドを手に、思案しようとして気づく。低く弱々しい唸り声が、耳に届いた。
声のした方を見れば、のそりと黒い体が起き上がろうとしていた。
あの雑魔だとはすぐに知れた。ファイアーボールを放とうとして、残数が僅か一つであることに気づく。彼奴を倒せたとして、その後に他の雑魔が現れる可能性は? 普通の獣ですら、動けない今は危ういのでは?
いくつもの考えが浮かんでは消え、時間だけが過ぎていく。逡巡の間に、雑魔はエルの気配に気づいた。胡乱な双眸がエルを穿ち、垂涎が口から落ちている。一歩踏み出し、二歩目は力強く、三歩目は跳躍へとつながった。
薄汚い犬歯が、口の合間に垣間見えた。だが、その牙が届くより先に雑魔は爆炎に飲み込まれて果てた。
迷いを棄てたことで、冷静な判断を打ち立てることが出来た。エルの炎弾は、雑魔の下部で弾けて雑魔のみを巻き込んだのだった。荒くなっていた息を整え、エルは改めて雑魔を見やる。
飛びかかる気力はあったのだろうが、エルと同じく落ちた体、体力は削られていたらしい。ファイアーボール一発でしずんだのは、僥倖であった。
「あなたも油断しましたね」
こちらが動けないと知った上で襲い掛かってきたのだろう。だが、最後の一発、判断が鈍ったままであったら、死んでいたのはエルだったのかもしれない。
「油断大敵、躊躇は判断を鈍らせる。過去の人々が作り上げてきた経験則は、きちんと生かされているんですね。身をもって知りました……」
独りごちて見上げる空は、分厚い雲に覆われている。山を登っていたときよりも、空は機嫌を悪くしているらしい。思わず嘆息を漏らし、ワンドの持ち手をすっすと弄る、
「雨が降り出す前に救助されるといいのですが」
満ちていくのは水気の匂い。希望的観測を頭に浮かべ、エルはワンドの先で土を弄くりながらじっと耐える。一人反省会をしながら、味方が見つけに来てくれるのを待つのだった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【エルバッハ・リオン(ka2434) / 女 / 12 / エルフ / 魔術師】