※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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琥珀の雫に秘めた想いと。
知らず逸る心を必死で抑えようと、努めながらヴォルテール=アルカナ(ka2937)は、それでもやや早くなってしまう足取りばかりは抑え切れないまま、廊下を急ぎ歩いていた。眼差しはただ行く手へと、その先にある目的の場所へと向けられている。
自分を育てた養父であり師である人が帰ってきたと聞いたのは、今日の仕事を終えて戻ってきた折のことだった。今は奥の部屋に居るという、そこまでを聞いてヴォルテールは、居ても立ってもいられず養父がいるという、その部屋に向かって歩いているのである。
養父、と言っても実のところ、ヴォルテールとはさほど歳が離れているわけではない。少なくとも外見だけ見れば、養父はどう高く見積もっても20代後半が良いところだ。
だいたい、ヴォルテールを拾った理由からして『子育てをしてみたかったから』だというのだから、気まぐれというかなんと言うか。おっとりとした、どこか世間知らずな風貌はまったくそのまま彼の内面を体現していて、自分自身の仕事の師匠だということも時には疑わしくなるほど。
それでも、彼が自分の師であり、養父であり、彼がいなければ確かにいまのヴォルテールが存在しなかったことは、まぎれもない事実で。何より、そんな彼こそがヴォルテールのすべて、あらゆる意味で『最愛』の人物だということこそが、ヴォルテールにとって何より揺るぎ難い、大切な真実だ。
養父のことを想うだけで甘くも苦しくも切なくもなる、この気持ちを言い表せる言葉が果たしてこの世に存在するものか、定かには知らない。ただあの人を想うだけで胸が様々な感情でいっぱいに満たされ、自身の心も身体も、この命すら全て彼に捧げても良いとさえ願う、この気持ち。
件の部屋に辿り着き、けれどもヴォルテールは一旦足を止めて重厚な扉の前で、大きく深呼吸をした。養父に、急ぎ足でやって来て息が上がった姿など見せられはしない。
吸って、吐いて。息が整った所でヴォルテールは静かに、目の前の扉をノックした。
応えの声に扉を開けば、そこには懐かしくも愛おしい人。金色の髪と瞳を持つ、見るからに穏やかな容貌の男性。
その姿に胸を震わせながら、ヴォルテールは部屋に入ると礼儀正しく頭を下げた。
「お久しぶりです。変わらず、元気そうで何よりです」
「久し振り。私は変わらずだよ」
そんなヴォルテールの言葉に、養父が返してくれたのは穏やかな笑みと言葉。それは記憶の中の彼と寸分違わず、だが幾度耳にしても目にしても新たな喜びをヴォルテールにもたらして止まないもの。
彼の表情を、声色を刻み込むように、ヴォルテールは太陽を見つめる人のような面持ちで、眩しそうに目を細めた。まして、お前も元気そうだね、と穏やかな微笑みで告げられれば、この上ない喜びに胸が震えるのは当たり前というものだ。
知らず口の端が嬉しそうにはにかみ、顔面が照れたような笑みを浮かべようとするのを、堪えるのはひどく困難な作業だった。――ただし、養父が次の言葉を紡ぐまでは。
「お前にも会えて良かったよ。今日はあの子に会いに来たのだけど」
「――……そう、ですか」
瞬間、息が止まったような錯覚を覚えながらヴォルテールは、辛うじてなんでも無い風を取り繕ってそう頷いた。――取り繕えた、そのはずだ。
養父が言う『あの子』の事を、もちろんヴォルテールは知っている。ヴォルテールの上司であり、それ以上にヴォルテールにとって兄代わりであり、――ヴォルテールよりもきっと遥かに、養父に近い場所にいる人。
少しだけ痛んだ心に見て見ぬ振りをして、ヴォルテールは取り繕った穏やかな笑顔のまま、養父を見つめて言葉を紡いだ。
「生憎、仕事で外に出ていますよ。あと数日は帰らないかと思います」
「おや――あの子は、いつも忙しそうだね」
ヴォルテールの告げた言葉に、養父は残念そうな顔を隠しもしない。それにまた胸の内で湧き上がる感情を宥めながら、やはり養父にとっては兄が1番なのかと、ほんの僅かに眼差しを伏せた。
それも無理のないことなのだと、理性で考えれば自分自身を無理矢理納得させる事が、絶対に出来ないわけではない。何しろ兄は養父の後継者なのだから、ヴォルテールよりも兄の方を気にかけるのは、道理にかなっていると言えよう。
これで、もし兄が養父の期待を受けるには相応しくない能力や資質の持ち主であれば、また話は変わっただろう。だが幸い兄はそうではなく、ヴォルテール自身もまた兄の能力を認め、尊敬だってしているのだ。
だから――そう、考えれば無理矢理に自分を納得させることは出来るけれども、それはやっぱり、無理矢理だ。尊敬する兄だからといって、彼にまったく嫉妬を覚えないことは、どうしたって難しい。
だって、最愛の人が自分ではなく兄を気にかけているのだ。それを妬むことは、最愛の人の中で自分が1番になりたいと羨望することは、決して間違った感情ではない。
それでも――胸の内の様々に乱れた感情を奥底へと押し込めて、ヴォルテールは伏せた眼差しをついと上げ、苦笑してみせた。
「あの人も、気まぐれなところは貴方にそっくりですよ」
そうして紡いだ言葉に、養父が不思議そうに目を瞬かせる。それはどこか、続く言葉を面白がっている様にも見えた。
ならばこの言葉は養父の期待通りなのだろうかと、頭の片隅でふわりと考えながら、苦笑と微笑の間で髪を揺らす。
「ふらりと姿を消したと思ったら、突然帰ってきたり……貴方は変わらない」
「そうかな?」
ヴォルテールがそう告げると、果たして養父は少し心外そうな素振りを見せたものの、どこか嬉しそうにも見える笑顔を見せた。それにまた胸が痛むのを感じながら、ええ、と軽く頷いてみせる。
切り替えようと、軽く瞳を閉じて、開いた。それよりも、と微笑む。
「紅茶をお淹れしましょう。お疲れでしょう?」
言いながら部屋の隅にある茶器へと足を向けると、肯定の応えが返った。そんな養父に微笑んで、お待ち下さい、と告げつつ茶器の用意をする。
養父が兄を気にかけるのはいつものことで、それに胸を痛めたまま時を過ごすのはいかにも勿体無い選択だった。それよりは、彼と過ごせるこの貴重なひと時を少しでも長く、大切に抱きしめた方がはるかに良いというもの。
だから今は、この胸の痛みには蓋をして。少しでも長く、少しでも優しいひと時を。
――そう、願いながらゆったりと茶葉にお湯を注ぎ始めた、それはとある平穏で特別な日。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職 業 】
ka2937 / ヴォルテール=アルカナ / 男 / 19 / 聖導士
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、または初めまして、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
大変お待たせしてしまい、本当に申し訳ございません。
息子さんの大切な方と過ごすひと時の物語、如何でしたでしょうか。
アドリブ歓迎との事でしたので、かなり自由につづらせて頂いてしまいましたが……
何とはなしに、お養父様との繊細なバランスを想像して、とても切なくなりました。
もしイメージと違うなどあられましたら、いつでもお気軽にリテイクをお申し付けくださいませ(土下座
息子さんのイメージ通りの、さやかな心の揺らぎを抱くノベルであれば良いのですけれども。
それでは、これにて失礼致します(深々と