※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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オイシイ、トモダチ
それ以前にも友と呼べる存在はあったのだろう。
しかし彼、彩華・水色 (ka3703)の記憶から、それはすっぽりと抜け落ちてしまった――あの出来事のせいで。
だから、その子は初めて出来たトモダチだった。
「どこの子?」
行くあてもなく彷徨っていた彼に、その子はそう声をかけてきた。
見慣れない顔に警戒心を抱くこともなく、当たり前のように笑顔で。
そこは都市部から遠く離れた田舎の村、余所者にはまず警戒しろと教えられているであろう土地で、その子はあまりにも無防備だった。
「おなか空いてるの?」
そう尋ねられたが、その時は特に飢えも乾きも感じていなかった。
そこに辿り着く前に「食事」をしたばかりだったから。
だから彼は素直に答えた。
「べつに、すいてない」
けれど、その子はくすくすと可笑しそうに笑った。
「意地っ張りだね。おなか、ぐーぐー鳴ってるよ?」
言われて初めて気が付いた。
胃袋がからっぽであることに、もうずっと人として本来あるべき食事をしていないことに。
それでも特に問題を感じていなかったことに。
「これ、半分あげる」
その子は自分が持っていたパンをふたつに割って、片方を差し出した。
水気がなくパサパサに乾いたそれは、捕らわれていた暗闇を思い起こさせる。
けれど、そこに乗せられた白くトロリとしたものは見たことがなかった。
「チーズだよ、羊のミルクから作ったんだ」
その子は目の前に広がる草原を指差した。
そこには点々と、白い雲のような固まりが見える。
言われるまで気付かなかったが、そこは牧草地らしい。
では、この子は牧童か。
「食べたことない?」
言われて、彼は素直に頷いた。
「美味しいよ? 特に今回のは上手く出来たって、お父さんが言ってた」
食べてみると、それは確かに美味かった。
パサパサで喉につかえるようなパンも、濃厚で甘いチーズを乗せると全く別の食べ物のように感じられた。
「ね、美味しいでしょ」
食べながら、その子はひとりで勝手に色々な事を話した。
自分が任されている仕事のこと、家族のこと、村のこと……それに、名前。
しかし、彼は思い出せなかった。
聞いたはずの名前も、顔も……その子が男だったのか、女だったのかも。
何度か会っているうちに、とても大切な存在になっていたのに。
いや、大切なトモダチだからこそ――
忘れずに覚えている。
ただひとつ、これだけは。
「美味しかったよ。とても、とても……我慢しきれないほどに」
その味を記憶の底から呼び覚まし、彼は満足げに……だが少し寂しげに、頬を緩めた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3703/彩華・水色/男性/外見年齢27歳/吸血症(ヴァンバリズム)、及び血液愛好(ヘマトフィリア)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
こちらはシングルノベルのおまけとなります。