※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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■ぼくらの手は
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万霊節の賑やかさの中で、ぼんやりと夜の空を仰ぐ。
この星空のどこかに、エバーグリーンはない。
彼らの故郷であるリアル・ブルーもまた、ない。
それでも「こっち側にない」だけで、別の世界では存在している。
しかし彼らが暮らしていたコロニーLH044は、失われた。
こっち側だろうとあっち側だろうと、どこを探しても存在しない。
なくても存在するのと、完全に存在しないのとでは大違いだ。
……まるで、亡くなってしまった人のように。
ぽん、と。
軽く肩を叩いた手が、ルドルフ・デネボラ(ka3749)の思考を現実へ引き戻した。
彼が座っていたベンチのある小広場は既に人影もまばらで、カボチャ飾りも少々寂しそうだ。
「帰らねぇのか?」
「う~ん……ちょっと何だか、疲れたっていうか」
振り返ると、微妙に難しい顔をしたトルステン=L=ユピテル(ka3946)が立っていた。
眼鏡越しの視線には、友人にしか分からない気遣いの色が浮かんでいる。
「あー。面倒事、多いからな……その分、心配事も比例して」
言葉に含まれたモノは、いろいろと。
それら全部をひっくるめ、小さく困ったような笑みでルドルフは答えた。
「そろそろ、俺達も帰らないと。余計な心配はかけたくないしね」
「心配、するか?」
「してるよ、きっと。口には出さないけど」
友達だし、天文部の仲間だから。
そう言うと、トルステンの表情が更に微妙になる。
「……ここだと、星はあんまり見えねーな」
「うん」
そしてどちらから言い出すでもなく、二人は『家路』を辿った。
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秋の夜風は冷たく、郊外の洋館へと続く暗い道では自然と少し急ぎ足になる。
「そういえばさ、ルディ」
「何?」
「たぶん帰ったら驚く事になってると思うけど、驚くなよ」
「……どういう意味?」
「帰ったら、すぐに分かる。というより、帰るまでに分かると思う」
我ながら下手な謎かけみたいだと思うものの、トルステンは口に出さない。
しばらくすると道の先、家のある方角が普段よりほのかに明るく照らされているのが見えてきた。
「……ステン?」
アレの事?
そんなニュアンスで名を呼ぶ友人に、眉根を寄せるトルステン。
更に進んで家が見えてくると、さすがにルドルフも口をぽかんと開けた。
そこにあったのは、一面のお化けカボチャ。
古びた門も庭も、窓から屋根の上まで、カボチャのランプがぴかぴかと光っている。
「なに、これ……いつの間に?」
まさか。という視線を送られて、トルステンは首を横に振った。
「俺じゃねーぞ。約一名が、一人で頑張った結果」
何となくソレで、ルドルフも思い当たったらしい。
「家中、飾ってあるんだ。凄いね、純粋に感心するよ」
「電力と労力と、カボチャの無駄遣いの間違いじゃね?」
「あはは」
呆れたような憎まれ口をたたくトルステンだが、口調自体には選んだ言葉ほどの棘はなかった。
実際、女子達の発想と行動力には彼自身も舌を巻く事が多い。
あんなに鈍くて、あんなにうるさいのが、なんでこうビックリ箱みたいな事をするんだろう……と。
オレンジに彩られた庭を抜け、玄関の扉を開ける。
そこでも二人はカボチャに出迎えられ、リビングルームへ足を踏み入れて。
……脱力した。
テーブルには『パーティの残骸』がそのままで、三人掛けのソファには二人の少女がもたれ合って眠りこけている。
入り口で数十秒立ち尽くした二人は、揃って嘆息し。
「なぁ、ルディ……」
「……何?」
「白雪姫って、あっただろ」
「……うん」
「アレに出てくる七人の小人って、こんな気持ちだったんだろうなぁ」
「ぷふっ」
思わずルドルフが小さく吹き出した。
「でも、ステン。こっちの白雪姫達は、晩御飯を残してくれたみたいだよ」
サイドテーブルに分けて置いてあったご馳走とお菓子を、眼鏡越しにじっと凝視するトルステン。
「……明日は嵐だな」
「かもしれないね」
「とりあえず、キッチンのテーブルで食べるか」
二人の白雪姫を起こさないよう気遣いながら、おもむろに小人達はテーブルの後片付けから始めた。
必要なら料理を温め直し、キッチンのテーブルで二人は静かな夕食を取る。
よほど疲れたのか、寝不足がたたったのか。
食べ終わっても眠り姫達が起きる気配はなく、仕方ないので風邪をひく前にそれぞれの部屋のベッドに――主にルドルフが背負う役目を担い、トルステンはドアマンとベッドの確保役を兼ねて――寝かせた。
むろん女子のプライベートエリアに足を踏み入れる事自体は、少なからず抵抗がある。
しかし、この屋敷で共同生活を始めてから年単位の時間が経過していた。
緊急時は、緊急時。
余計なものには触らないし、干渉もせず、基本見なかった事にする。
それが余計なトラブルを発生させない為に学んだ、『処世術』とも言えるものだった。
「カボチャは、どうするんだろうね。食べる訳にもいかないし」
洗い物をするルドルフが気にしてしまうのは、やはり苦労人気質のせいか。
綺麗になった黙々と皿を拭いていたトルステンは、手を休めずに少し首を傾ける。
「食べる……のは、そもそも食用じゃないから無理だろ。街で聞けば、飼料として引き取ってくれる家があるんじゃねーか」
「あ、そっか」
「片付けくらいは、手伝ってやらねぇとな。何日も、夜通し一人でカボチャ掘ってたみてぇだし」
「ホントに? 一人で?」
「気付いてなかったのかよ」
「多分、ぐっすり寝てたから……ステンは知ってたんだ」
「夜遅くまで、うるさかったからな。ガタゴトやってる音が」
さすが、耳がいいなぁとルドルフは純粋に感心し。
「それじゃあ、今日からは安心して熟睡できそう?」
「ああ……そうなるのか」
そこまでは考えていなかったっぽい友人の反応に、思わず小さく笑った。
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1日の雑事を終えて部屋へ戻ったトルステンは、既に何度も読み返した本の一冊を手に取る。
ぱらぱらとページをめくってみるものの、内容は頭に入らず。
かといって寝る気も起きず、部屋を出た。
既にカボチャランプのスイッチは切ってあるので、蹴り飛ばさないよう注意しながら階段を降りる。
キッチンに入ると残した種火をおこし、牛乳を入れた小鍋を火にかけた。
それから何気なく窓へ目を向けると、庭の一角がほのかに明るい。
少し考え、彼は整理された食器棚からマグカップを2つ取り出した。
庭の古びたベンチに座り、光を絞ったランプを傍らに置いて、虫の声にぼんやりと耳を傾ける。
夜も更けた時間、外はさすがに冷たく、肌寒さを感じて上着の襟元を合わせ直した。
そして、控え目なクシャミを一つ。
「まだ秋だって言っても、こんな時間に外に出てたら風邪ひくだろ」
声をかけられてルドルフが顔を上げると、むっすりとした顔でトルステンが左手に持っていた2つのマグカップを突き出す。
「ありがとう、ステン」
まだ湯気の立つカップの1つを受け取り、ゆっくりと口へ運ぶ。
牛乳とチョコの香りが広がり、丁寧に溶かされた甘みと苦みは冷えた身体にじんわりと染み込んでいった。
「……うん、美味しい」
「そりゃ、どーも」
投げやり気味に答えて、隣へ腰を下ろしたトルステンも自分のカップをすする。
「天体観測なら、ルディの部屋からでも出来るだろうに」
「うん。でもなんとなく、こうして星空を仰ぎたかったんだ」
空いた方の手を、まっすぐ空へと伸ばす。
指の間でまたたく、沢山の星の光。
それより明るいのは、月の光だ。
本来、クリムゾンウェストから見えていた月は1つだったが、この日を境にもう一つの月が増えた。
彼らと同じ、リアルブルーから転移してきた巨大な『箱舟』――地球の月。
改めて、トルステンもじっと空を見つめる。
空に月が2つある光景は、彼らが共有する『奇妙な夢』の中にもあった。
夢で見る2つ目の月は、禍々しいほどに赤く、強烈な圧迫感と絶望感を伴って彼らを見下ろす。
今、起きてみる2つの月はどちらも白く輝いているが……無性に胸騒ぎを覚えるのと同時に、どうしようもない危機感のようなものを伴う感覚は夢と似ていた。
「いつか……戻せる、のかな」
呟いて、ルドルフが広げていた手をぎゅっと握りしめる。
――俺達の手は、何のために?
じっと友人の仕草を見ていたトルステンはマグカップを置き、おもむろに立ち上がった。
それから持ってきていた楽器ケースからヴァイオリンを取り出すと、軽く音を整え。
ゆっくりと、穏やかな旋律を紡ぎ出す。
眠っている友人達への子守歌のような、あるいは鎮魂歌のような。
しばらくトルステンの演奏を眺めていたルドルフが、目を閉じて音色に耳を傾ける。
――神様。俺達の手は、彼女を、友人達を守れますか?
夢の中で、『誰か』が幾度も繰り返していた問い。
彼らの現実でも、その問いに答えはない。
それでも、待っているのが空虚な結末でも、手を伸ばさなければ何にも届きはしないから。
言葉の代わりに紡がれるヴァイオリンの音色は、二つの月が浮かぶ静かな夜空へ溶けていく。
……この星空のどこかに、彼らの故郷たる星はなくても。
それから数日間、カボチャランプは夜ごとに屋敷を彩り。
リゼリオの街の飾りにも負けない賑やかさと、穏やかなひと時を住人達に提供し続けた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】
【ka3749/ルドルフ・デネボラ/男/18/人間(リアルブルー)/機導師(アルケミスト)】
【ka3946/トルステン=L=ユピテル/男/18/人間(リアルブルー)/聖導士(クルセイダー)】
副発注者(最大10名)
- トルステン=L=ユピテル(ka3946)