※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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『生きる』ということ
色とりどりの花が咲き乱れる小高い丘。小さな蝋燭の火が風に揺れる。
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は自分の膝くらいの高さの石の前に座ると、酒で満たした盃をその前に置いた。
「こうしておんしと、ここで酒を飲むのは何度目かのう」
呟く蜜鈴。
――ここは、友人の墓だ。
辺境で最も大きな規模を誇る一族の族長であり、辺境部族を取りまとめる部族会議の大首長だった男。
何かを守ろうと足掻き、己が一族の宿命をその背に背負ったまま、逝った。
――強い男であったが、悲しい程に自分を顧みない人で……短命であったのも、結局はそれが原因だったのかもしれない。
時には穏やかに、そして嵐のように。一族や周囲を風のように包んでいたその人は、蜜鈴の心の一部を、持って行ってしまった。
――もっとも、自分の胸に宿る想いが何であるのか気付いたのは、彼を喪ってからだったのだが。
――蜜鈴には、かつて共に生きた騎士がいた。
龍の伝承と共に生きた温かな故郷。
その大切な地を共に守り、手を取り合って歩んでいくと誓い合った仲だった。
――その誓いも、願いも、結局果たされることはなかったのだが。
それ以来、彼女の心の中にはずっとその騎士がいた。
彼女の友人であったその男は、寡黙で、不器用で……どことなく、喪った人に似ていた。
だからこの想いも、喪ったものへの憧憬だと思っていたのだ。
――深い意味など、ないと。そう、思っていた。
大切なものを守れず、慟哭する蜜鈴に、騎士は言った。
『生きろ』と。ただそれだけ。
騎士の遺言を破る訳にはいかぬと、彼女は大切な者達の想いを胸に生きて来たし、これからもそうしていくつもりだった。
――でも、あの時。
あの男が倒れたあの時に、『自分の命と引き換えにしても彼を生かしたい』と思ったのだ。
その時初めて、この想いが何であるのかを自覚した。
だから、生きて欲しくてその手を伸ばした。
でも、その手は取られることはなく。
辺境の戦士としての尊厳を守り抜いた彼は立派だったと思う。
どうしようもない大馬鹿者でもあったけれど。
「今日は妾の領地で作った酒を持って来てやったぞ。今年の酒はなかなかよう出来ておる。おんしも遠慮せず飲むが良い」
目の前の丸い石に語りかける蜜鈴。
ここは、オイマト族の墓地だ。
オイマト族の者達は、初代からずっと、この地に眠っていると聞いた。
部族会議の大首長だったあの男は、亡き後は大々的に祀られるものだと思っていたのだが……丁寧にも遺書を用意していた。
そこには、『盛大な見送りは不要。死した後は一族の墓で眠りたい』と記されていた。
流石に、大首長にまで登りつめ、辺境の代表として諸国と対等に渡り合っていた彼の葬儀は簡素に、という訳にはいかなかったけれど。
眠る場所については、彼の遺言が尊重される形となった。
「そういえば、おんしに話したかのう。妾は東方に領地を拝領したのじゃ。小さいが、緑が多く良い場所じゃぞ」
煙管に火を灯し、くつりと笑う彼女。
森を開き、縁在る民草が小さな集落を作った。
その場所には、集落を囲むように椿が植えられた。
冬の寒さが厳しい場所だが、その分春になると一斉に花が咲いて美しい。
田畑を耕し、家畜を育て、自給自足の生活を送る……。
その美しさと素朴さが、かつて蜜鈴が失った故郷を彷彿とさせた。
「それからな、妾はハンターを辞めた。今は集落の者達と力を合わせて、ヒトとして生きておるよ」
ぽつりぽつりと呟くように言う蜜鈴。
誰かを救う為にハンターとなった。
守る為に力を得た。
だが結局、蜜鈴が一番守りたかった人を、守ることは叶わなくて……。
あの男が聞いたら、それは違うと言うのだろうけれど。
過ぎた力ははもう要らぬ。
あとはただ、自分の領地で暮らす者達を支え、守れればそれで良い。
……こんな妾を、あの男はらしくないと笑うだろうか。
否。きっと、妾の意志を尊重し、応援してくれたであろう。
――あの男は、そういう男だ。
誰にも言ったことはないが。
今でも時々、あの男に会いたくなることがある。
そういう時は、飛竜に乗って風のように空を疾走する。
――風の中に、あの男がいるような気がして。
いつでも会える。だから寂しくはない。
……それでも、時々考える。
手を伸ばしても届かず、追い続けても追いつけなかった背中。
――蜜鈴が己の命を使い果たしたその時。
星の御許へ向かったその先で、捕まえることが出来るだろうか……?
「のう、妾が星の御許に旅立つ時は、迎えに来ておくれ。おんし、散々逃げ回ったんじゃから、そんな時くらい迎えに来てくれても良いであろ?」
ふふふと笑い、丸い墓標を見つめる蜜鈴。
その呟きに、答えるものはないけれど。
……いつか、星の御許で会った時に、恥じぬ自分で在ろう。
そしてあの男を思い切り扇でぶん殴ってやるのだ。
静かに決意を固める蜜鈴。
そんな彼女の髪を、一陣の風が撫でるように揺らした。
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お世話になっております。猫又です。
お届けまでお時間を頂戴し、申し訳ありませんでした。
蜜鈴さんののおまかせノベル、いかがでしたでしょうか。
某大首長とのお話にしてみました。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。
ご依頼戴きありがとうございました。