※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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取らぬ狸も使いよう/心の処方箋
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「あ――――――――――――っ!」
部屋に帰り着くなり、少年――龍華 狼(ka4940)は、ありとあらゆる憤懣を吐き出した。幸い、同居人たちは不在らしい。装備を乱雑に床に投げ捨て、安っぽい寝台に身を投げ出すと頭を掻きむしる。
傷の痛みも、今は気にならなかった。いや、むしろそれこそが、彼の怒りを掻き立てる。
「ンだよ!! シケやがって!!!」
報奨金のチャンスだった――筈だ。控えめに言っても強敵だったし、依頼人の手違いか、未熟ゆえか、兎にも角も手を焼いた依頼だったのだ。なのに、だ!!
「通常料金とかありえね――――――――――!!!」
布団をぶん回しながら、怒りを吐き散らすしかない。
手を抜いた上で楽に稼げたら、良かった。それなら通常料金でも何の文句もない。そもそもが、そういう腹積もりで護衛についたことは否めないのだ。
そう。大事なのは労働に見合った報酬(楽して得た報酬は込み)だ。
……なのに、あの貴族のボンボンたちときたら、戦闘が始まるや否や火力至上主義に呑まれたかクソみたいな戦闘指揮ときた。結果として、指揮官の護衛についた狼の仕事は山積みになり、普通の労働者であれば裸足で逃げ出す程の過重業務。疲れた。いや、より詳細に言えば、死ぬかと思った。危険手当を要求したい。
「……や、もともと危険手当込みだったけどよォ……」
報酬は、安くはない。安くはなかったのだが、クソッ◯レな戦場に見合うだけの報酬だったかと言われると――いや、やはり安くはないのだが、倍寄越せ、というのが狼少年の本音である。
これで成果が出なかったのならば話は別だが、キッチリ、あの強敵を斃しきったのだ。
――殆どは、同行人たちが、だが。
けどまぁ、狼だって依頼人を護り抜いたという仕事を果たしている。
「……あー……」
同行人。仲間たち。
学生たちだけでなく――彼らも、異様だったことを、思い出す。猫を被ったうえでの付き合いとはいえ、顔なじみの面々ですら、異質な空気に呑まれていた。敵への因縁、それだけでは理屈が通らない、変貌であった。
あの状況そのものがおかしかったことは、たしかに気になってはいるところではある。自分を含めて、なんの影響も受けなかったものがいることも、含めて。
あの時影響を受けた人物たちを見る限り――想起されるものも、あった。かつてまみえた、憤怒に駆られた人間たちだ。
「……きな臭え、よな」
ぐ、と勢いをつけて、身を起こす。少しばかり、いらだちも収まってきた。
キナ臭さは、事件の香り。事件の香りは即ち、金の香りだ。
匂いのもとが貴族の子弟たち、というのが非常に、良い。金払いはともかくとして、ハンター達に依頼を出す姿勢は悪くない。
「……もう少し、猫被ってやるか」
金鉱にぶち当たるかどうかは、まだ分からない。だが、あの貴族たち――特に、あのリーダーの影は、大きそうだ。つつけば何がでるかは解らないが……便利に使われる間に、何かしらのおこぼれは期待できる。
いや、あわよくば、汚れ仕事なりなんなりが有れば、今回の危険手当なんて目ではないくらいの手当も……?
「ぬ、ふ、ふ」
思わず、含み笑いががこぼれた。こういう時間が、狼は何よりも好きだった。手元の金は何故かあれやこれやと溶けて消えていくので、将来の金を夢想することは、生きるためのモチベーションであり、精神安定剤にほかならないのだ。
「……ふー……」
そこで狼はひと心地、ついた。金はやはり、いい。特に、今回のこれは、道端に100万Gほど落ちている状況を想像するのとは訳が違う。
そうなると、金づるになりそうな学生たちから被った迷惑というものも、必要経費に思えてくるから、不可思議極まりない。
「……こうなりゃ、まぁ、誰も死なないでよかったな」
半分本気、半分冗談混じりに、呟きつつ、装備を解き、普段着に着替えることにする。怒りを撒き散らしたら、次のことへ向かう活力も湧いてきた。
「――さ、て」
腹も減ってきた。幸い、懐も暖かくなったばかりだ。
少しくらい、贅沢をしようか。何、未来は明るい。冒険都市リゼリオの夜は、狼の容姿で堪能するには些か猥雑ではあるが――まだ入れる食堂の一つや二つはある。
「……期待しておくか」
誰に告げるともなくそう言って、部屋を後にした。帰ったときとは随分と違う心持ちは、まことに彼らしい限りであるが。
狼は、同時に、予感も抱いているのだ。
彼らの件に関われば関わるほど、良からぬものに巻き込まれる可能性が、あること。金に見合わぬ事件が起こり得ることも。
利益に見合わぬ可能性も予感しながらも、付き合い続けるつもりでいるあたりは――さて、ある意味では彼らしい、とも言えるかもしれなかった。
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka4940 / 龍華 狼 / 男性 / 11 / 金持ちに、なりたい 】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。ムジカ・トラスです。
シナリオに引き続き、の発注文、ありがとうございます!
狼くんの、お金お金といいつつ貧乏くじを引いてしまうところ、とても可愛いですよね。スキルやアイテムにお金が消えていっているのかな、というところも、とても可愛らしく感じています……。
そんな彼の、素直なようで素直じゃないノベルを預けていただき、ありがとうございました。今回の内容とはおおよそ関係なく、ご家庭の事情をもう少し書きたかったところではあるのですが、大人の事情で諸々カットしてしまいました。ぐぬぬ。
さて、お喜びいただけたら、幸いです。
またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします!