※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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道標を護る者
●変わらないもの
「ただいまー。スズメ、ツバメ、いい子にしてた?」
イェジドである相棒の鍛錬に付き合っていたネムリアは、留守番をしていた愛すべき家族達を探す。次は自分達の番だと、いつもならすぐに飛びついてくるのだけれど。
(あれ?)
二匹が揃って部屋の一点を見つめている。出る前にはそこには何もなかったはずだけれど。
「何かな……?」
ツバメが咥えあげようとするもなかなか出来なくて必死になっているのを、スズメが見守っている、そんな様子。
振り返ってネムリアを見るスズメが、待っていてくれと言っているように見えて。
「うん。じゃあここで、待っていようかな」
近過ぎない場所に椅子を動かして。すとん。
「上手にもってこれたねー、すごい、ツバメ!」
受け取った紙は一度テーブルに置いて。力いっぱい尻尾を振るツバメの頭をめいっぱい撫でる。
「スズメも、教えてくれてありがとうね?」
こちらは控えめに。あまりたくさん撫でると、照れて体を丸めてしまうから。
コンコンッ
家族の誰も警戒の声をあげないから、ネムリアはノックの主が誰なのかすぐにわかった。
「ネム、いるかい?」
「居るよー」
予想通りにバジルの声がして、入っていいよと、いつも通りのやりとりをするのだ。
「今日はどこに行きたいの?」
小さく首を傾げる友人の、その耳の曲線は相変わらず素晴らしい。毎日見ても飽きないと思っているし、いつ見ても描きたいと思う。胸を張って言ってもいい。
(実際には怒るだろうけどね)
むしろ呆れるかもしれない。何だかんだといいつつも描くのを止めないでいてくれる貴重な友人だ。
一時は他の種族の耳にも興味を向けてみたのだが、何だかんだとネムリアの耳を見ると安心するのだ。そこからは開き直りである。
自然を描くために共に歩いてくれる友人は、転移してから一番長い付き合い。
バジルを否定もしないし強い肯定もしない彼女は自分の感情を芯にして生きている。ネムリアが好む自然と、その自然と共にあろうとする姿勢。纏う空気はかつてのバジルの癒しとなったし、今は無くてはならないものだ。
絵を描くためにこうして尋ねているけれど、無意識に頼ってしまっているのだろう。それは純粋なものであって、それ以上でもそれ以下でもないから。
適切な距離の為にも、耳に見惚れ、描き……呆れた視線を受ける。その一連の繰り返しは、互いにこのままの関係を続けていくための儀式なのかもしれなかった。
「クイーンが遊びに来ていないかと思って」
アトリエに居なかったんだと告げれば、ネムリアも考えて。
「あの子も居なくなってない?」
バジルのユグディラの事だ。
「そう言えば。……じゃあ、揃って近所に遊びにでも行ったのかも」
ここだと思ったんだけどな。
「探しに行こうか?」
「いや、ネムに迷惑かける程ではないよ。食事時には戻ってくると思うしね」
でもありがとうと微笑んで、今度はバジルが首を傾げる。
「僕は予定が空いてしまったけど……ネムは? 何か予定はないのかな」
予定がないと答えを貰った場合、ネムリアを描く心づもりだ。いつものように耳を見ながら訪ねた。
「わたし? ……これを壁に戻してから」
テーブルの上にある紙を示すネムリア。
「わあ、懐かしいね!」
バジルがすぐにテーブルへと寄っていく。
「何をするか決めようか、って……」
遮られて目を瞬くネムリア。
「そっか、もう二年前、いや二年半かな? そんなに経つんだね!」
(ええと?)
ツバメを褒めることばかり考えていて、何の紙か見ていなかった。壁にピンだけ残っているから、劣化して落ちたのだろうとしか考えていなかったのだ。
(二年半、って言ったよね)
その時は何があっただろうか。バジルの視線に慣れてきたころで、確か……
「ネム、今日は地図めぐりに行こう!」
善は急げとばかりにドアへと向かうバジル。その言葉で思い出す。
「そっか、宝物の地図……」
スズメがネムリアの鞄を持ってくる。ツバメは髪を纏めるための飾り紐を咥えていて。
バジルはもう外に出て待っている。一緒に行くのは当たり前だと信じている目だ。ネムリアはこの目をよく知っている。だってスズメとツバメも今、同じ目をしているのだ。
(予定はなかったから、行くけど)
仕方ないな、なんて顔をしながらも、ネムリアの顔は笑っていた。
●変わっていくもの
あの時作った宝物の地図は、五枚。
最初の一枚は、二人が見つけた宝物の場所で描いたもの。
次の二枚は、最初の一枚を元にして、二人がそれぞれ一枚ずつ描き上げた写し。
最後の二枚は、先の三枚より大きい紙に、もう一度それぞれで最初の一枚を写し取って……三枚の地図を隠した場所を記した、宝物の地図の、地図。
それぞれで一枚ずつ持っていた地図の片割れが、今回、ネムリアの家の壁から剥がれたものの正体。
かつて通った道だからと先を進むバジルに、ネムリアはくすくす笑う。
「ねえバジル、大丈夫?」
「何がだい?」
ほら、そうやって不用意に後ろを向くところとか。
ばう!
「? スズメも何を……」
バチン!
「ッ!?」
頭をおさえてうずくまるバジル。掻き分けていた小枝が跳ね返ってきて、バジルの頭を小突いたのだ。しなる細枝の威力はそれなりにあったようで、癒しのマテリアルがバジルを包んでいる。
ツバメが仕方ないわねと言わんばかりにバジルの横をすり抜けて前に出て、ほら見た事かとため息のようなスズメの鳴き声が隣から聞こえる。皆の様子がおかしくて、ネムリアは笑い声が抑えられない。
「ふふ……っ! いくらなんでも、はしゃぎすぎじゃない?」
「仕方ないだろう」
ほら、いつもの顔だ。
「「だって僕は画家だしね!」」
声を揃えてみせれば、一瞬ぽかんとした顔を見せるバジル。
「「ふふふっ……あははははっ!」」
揃って笑いだして、二匹が不思議そうに二人を見上げた。ツバメなんて遠慮なくバジルの服の裾を引っ張っている。
「ごめんねツバメ、少し待って」
笑いながら宥めるネムリアに、バジルが少し膨れた様子で。
「間違いなく浪漫が待っているのが分かっているんだ。急ぎたいのは仕方ないじゃないか」
そうだろうとは思ったけど、でもね。
「久しぶりの場所なんだから、注意はしておくに越したこと、ないよ」
「……うん、身に染みた。ネム、それにスズメも。忠告ありがとう」
わふっ!
「どういたしまして!」
バジルとネムリア、それぞれがが描き上げた二枚の写しは、どちらも隠した場所に置かれていた。
春の花畑、夏に助かる湧き水の在処、秋に実る美味しい果実、冬に動物が眠る棲家……それぞれに描き足されたものを、ネムリアの地図へと描き加えていく。
「ねえバジル。こっちにお花畑は描かないの?」
みつけた二枚目を元の場所に戻すバジルに尋ねるネムリア。
最初に見つけた地図を元の場所に戻した時はまだ首を傾げていただけで、いつ聞いてくれるのだろうと思っていた。
「描かないよ。さっきだって、何も足さなかったよね?」
「あとでまた行くのかと思ったから」
なるほど、だから聞かなかったのか。もう一度行けば確かに描くことはできるけれど。
「もう一枚にも、僕は何も描き足すつもりはないよ?」
それは今日決めたわけではなくて、最初に地図を作った時から考えていたことだ。
「僕らの地図はそれぞれ持っているよね? 隠した三枚は、もう、僕らの手を離れているんだから」
増えた宝物の在処をこうして写すのはあくまでも、宝物のお裾分けを貰っているだけ。
「僕らは確かにこの地図を作ったけれど。地図はもう、この山のものだと思うからね」
「……そっか、わかった!」
「僕の地図を持っていくから、ネムの分、あとで写させて貰えるよね?」
ネムリアの地図にバジルが手を加えないのも、同じ理由。彼女が地図を描き写している間、バジルは周囲の景色を描いていた。
勿論、地図を描くネムリアもスケッチしてある。
「さっき描いたもの見せてくれたら、いいよ?」
見上げてくる目が少し細くなっている。やっぱりばれていたみたいだなと、バジルは誤魔化し笑いを返した。
最初の一枚は、隠したはずの場所に置かれていなかった。
残念だけれど、二枚が元の場所に戻されていただけ良しとしよう。
「折角来たんだから。最初の宝物の場所に行こう?」
ネムリアの誘いにのって、二人と二匹は滝の奥の洞窟を進んでいく。
もうすぐ夕暮れだ、やわらかな朱い陽差しが、きっと皆を出迎えてくれるだろう……
『やっときた、作り手さん達!』
思いがけない声と一緒だとは、思っていなかった。
山の精霊だと名乗った、男の子とも女の子とも取れるその子は、ずっと二人を待っていた。
『ぼくの住む山に素敵なものをくれたから、お礼がしたかったの』
そうして掲げてみせるのは、最初の一枚。二人の楽しい気持ちと、マテリアルが残っているそれは今、精霊の宝物なのだそうで。
「「充分もらっているから、お礼はいらないよ」」
声が揃ったのは偶然だけれど、でも気持ちはきっと同じで。
山の生き物たちとの出会い。描きたいと思う景色との出会い。それぞれ、冒険も浪漫も、好きなものにつながる素敵なたくさんを貰っているから。
『ぼくの気が済まないんだけど』
拗ねた表情の精霊にくすくす笑って、二人は顔を見合わせる。
「「それじゃあ……」」
うん、と頷いて。
「「やまがみさまに、なってくれる?」」
●いつかの未来
その山には、素敵な宝物の地図が隠されている。
ふもとに暮らす村で歌い継がれるわらべうたは、二番まで。
けれど、どこかに幻の三番があるらしい。
真実を求めた子供達は、山を登る冒険に出た。
やまがみさまに教わった彼らは……将来の子供達に、二番までを歌うのだ。
やまがみさまの うでのなか
やさしいきもち うけいれて
いのちはびこる ゆめのなか
いのりあふれて みらいへと
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4615/ネムリア・ガウラ/女/14歳/霊闘士/わらべうたの作り手】
【ka4977/バジル・フィルビー/男/26歳/聖導士/宝の地図の作り手】
副発注者(最大10名)
- バジル・フィルビー(ka4977)