※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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休暇の過ごし方
鞍馬 真(ka5819)は自他共に認める仕事中毒者だ。
それも、かなり重度の。
とにかく、ちょっとした隙間にもつい仕事を入れてしまう。
何かしていないと落ち着かないのだ。
それでも人間、働き続ける訳にはいかない。いやそうできたらいいんだけれども。
仕事において最大のパフォーマンスを見せる為にも、休暇は大事だ。
うん。大事だよね。
頭では分かっている。
分かっているけど、それが出来たらそもそも重度の仕事中毒になんてなってない。
……休暇は苦手だ。
時間があると、考えても仕方のないことを考えてしまう。
だから、忙しくしていた方が余計なことを考えなくて済む分楽だった。
――真の心の奥底に、病巣のように巣食う空虚を、忙しさで埋めたいのかもしれない。
仕事をしていれば、こんなちっぽけな自分でも誰かの役に立てると、分かり易く実感できるから。
……なんて。こんなことを考えているからいつまでたっても改善されないんだろうなあ。
ため息をつく真。沈みかけた思考は、髪を引っ張られる感覚で中断された。
「……君達、さっきから何してるの?」
「お兄ちゃんの髪の毛キレイだから、お洒落にしたげようと思って」
「さっき摘んで来たお花を飾ってるのよ」
真の問いににこにこと笑う少女達。
――その日、真は『休暇』と称した時間を過ごす予定だった。
やることもないので、行きつけの酒場にフラりと寄ってみたのだが……そこで酒場のマスターに声をかけられたのだ。
何でも、孤児院で急遽、子供達の相手をしてくれる人間を探しているらしい。
子供達を世話する職員が酷い風邪で寝込んでしまい、急遽子供達の世話が出来る人が求められているそうで……。
真は、渡りに船とばかりに即座にその話を引き受けた。
正直、『休暇ととらなくてはいけない』という義務感で、機械的に余暇を取っただけだったから。
もう既に、その時間を持て余していたのだ。
子供達と遊ぶことだって休暇に繋がると自分に言い訳しつつ、大急ぎで孤児院に向かった。
真は孤児院にやって来ると、まず寝込んでいる職員の元を訪れた。
彼は医者ではないので、ハッキリとした原因特定は出来ないものの、長年ハンターとして従事しているだけに、応急処置には慣れている。
職員の状況を確認すると、消化に良い食事とはちみつとレモンを溶かしたお湯を差し入れ、今日はゆっくり休むように言い含めた。
そして、子供達のところに行き、先生は風邪で寝込んでいること、今日は自分が代理で先生を勤めることを伝えた。
最初は物珍しそうに真を見つめていた子供達だったが、物腰柔らかく、優しい彼に、あっという間に懐き……この状況がある。
少女達に手鏡を渡され、覗き込むと、綺麗に編み込まれた自身の髪が見えた。
編まれた髪のところどころに野の花が差し込まれていて……純粋に可愛いな、と思った。
……自分が男であることを除けば、だが。
こういう髪型も違和感なく似合う自分がちょっと悲しい。
いや、この容姿も依頼によっては武器になるからいいんだけど。
この間も女装して囮になってきたしね!!
「……上手に編み込めているね。花のあしらいもいい感じだ。随分髪の扱いに慣れてるんだね」
「そうでしょ!」
「わたし達ね、大きくなったら髪結いになりたいの!」
「そうか。これだけ上手なんだから、きっとなれるよ」
夢を語る少女達。目を細めて彼女達の頭を撫でる。
……真っ直ぐに未来への希望を語れる子供達が眩しい。
日陰に身を置いている自分には到底届かない光。
――いいのだ。それでも。
この眩い光が守れるのなら。闇に身を置くのも悪くはない。
そこに聞こえて来たドタドタと言う足音。
真と少女達が振り返ると、数人の男の子達が雪崩れ込んで来た。
「真兄ちゃん! もう終わったか!? 外で鬼ごっこしようぜ!」
「はーやーくー!」
「ああ、そうだったね。今行くよ」
ジャンケンで、女の子達と男の子達、どちらの遊びに先に付き合うか順番が決まっていた。
今度は男の子達の番だと、腰を上げた真。
少女達に手を引っ張られて振り返る。
「ん? どうかした?」
「お兄ちゃん! 折角わたし達が髪の毛キレイにしたんだから鬼ごっこでぐちゃぐちゃにしちゃダメよ?」
「そうよ! おしとやかにしてね!」
「えぇ……?」
困惑する真。この年頃の男の子達の相手は全力でないと厳しいと思うのだが。
女の子達の目線が痛い……!
「あー。分かったよ。努力はするけど……もし崩れてしまったら、また君達の手で直してくれるかな? 小さな髪結いさん達」
真の甘い笑顔と甘い声に少女達の頬が染まる。
無自覚にこれを繰り出すあたり、真は大分女泣かせだと思うのだが、残念ながら本人にその自覚はない。
「真兄ちゃん! 早く行こうぜ!」
「ああ、今行くよ」
「お前達も一緒にやろうぜ」
真と女の子達の手を引く男の子達。彼らに促され、太陽の下に飛び出して行く。
――そんなこんなで、結局休日も仕事に明け暮れた真。
日が暮れる頃には、髪型はゴージャスさを増し、化粧まで施されていた。
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お世話になっております。猫又です。
お届けまでお時間頂戴してしまい、申し訳ありませんでした。
真さんのノベル、いかがでしたでしょうか。真さんのワーカーホリックっぷりを掘り下げる感じで認めてみました。
真さんは、無自覚な女泣かせなんだろーなーとか思っております。ハイ。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。
ご依頼戴きありがとうございました。