※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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血の滴る道
真は手の甲で、汗を拭う。
真は愛剣を握って鍛錬をしていた。
それはおかしいことではない。ただ、真はそこかしこに包帯を巻いていた。服は病院着だ。寒さ対策にカーディガンを羽織っている。
そう、真は重傷を負った状態で鍛錬をしていた。
動いていないと、悪夢を見るから。自己嫌悪と後悔が手を繋いでやって来るから。その前では、体の痛みなんて、どうでもよかった。
ここは訓練場ではない。ある森の中だった。
真は病院を抜け出している身だ。訓練場などの人目の付くところへいたら、即座に連れ戻されてしまう。
だから、森の中にいるのだ。近くに教会があり、礼拝に来る人々もいたので、見つからないように、より深く森の中へ分け入った。
さすがに少し休もうとした時、悲鳴が聞こえた。
即座に真の顔が険しくなる。悲鳴の方向──この近くに人が居るとすれば……
「教会か……!」
答えを弾き出した真は、ひた走る。
小さな教会を見つけた。扉は半開きだが、中に人が居るにしては静か過ぎた。
真の瞳が覚醒により、一瞬、金色に染まる。
足音を立てずに近づいて、真は扉から中を覗いた。
信者は木製の長椅子に静かに座っている。
1人の信者が体勢を崩して、床に倒れた。その拍子に床に流れた夥しい血がばしゃりと跳ねる。
信者の顔には赤い釘のようなものがビッシリ刺さっていて、そこから流れた血が、床を濡らしていることがわかった。おそらく、どの信者も同じく赤い杭に刺されて、血を滴らせているのだろう。
そして──信者席に挟まれた中央の通路、説教壇の前には青黒い顔をした人型の歪虚が立っていた。
この惨劇の元凶であろう歪虚はナイフを持っている。
彼の瞳が、覗き込んでいた真を捉えた。
彼はナイフで自分の腕を一気に切り裂いた。傷口から血が迸る。
その行為に驚く暇もなく、真は教会内へ転がり込んだ。
同時に、背後で破砕音がした。赤い杭が扉に突き刺さっているのだ。
(自傷による流血……その血を投擲武器にしているのか……!)
飛び込んだ真へ、歪虚はさらに自分の体を傷つけて、血の杭を撒き散らした。
真が逃げようと前転すると、信者席を盾にする形になった。無数の杭が撃ち込まれて信者の死体ごと、椅子も破壊される。砕かれた肉体と椅子の破片が真に降り注いだ。
(敵は投擲武器を使う。私は防具を装備しておらず、武器は剣1本だけ……)
真は分析を開始する。
一旦引き返して完全武装してくる手もあるが、放っておけば歪虚は新しい惨劇を産むだろう。ここで倒すべきだ。そのためにはどうにかして敵に接近する必要がある。でも、どうやって?
信者席を盾にすれば、死体を損壊することになってしまう。
(……ああ、簡単な話じゃないか)
真は方法を思いつき、カーディガンを脱いだ。
歪虚は真がいるであろう所へ杭を放ち続けていた。
破壊された椅子や死体、床の破片が舞い上がったため、視界は妨げられた。だから歪虚は一旦射撃攻撃を中断した──その時だった。
長い黒髪をなびかせて、真が歪虚に向かってまっすぐ低い姿勢で突っ込んできたではないか。
歪虚への道は一本道だ。真は全速力で疾駆しているので、回避は不可能。
歪虚は腕を切りつけて、赤い杭を大量に射出する。
(そうするのはわかっている)
真は止まらない。
(避けられないなら──)
赤い杭が真を殺そうと殺到した。
(避けなければいい──!)
真は剣を持っていない方の腕を顔の前に翳した。腕にはカーディガンが巻きつけられている。
赤い杭は真の腕に突き刺さる。
そう──真は自分の腕を盾にして、歪虚へ一気に接近することにしたのだ。
自分が傷つこうと怯まず前進する真に、歪虚は次弾を準備するが、もう遅い。
振り抜かれた剣は歪虚を真っ二つにした。
歪虚は盛大に血を撒き散らして、塵になって消える。
敵を倒し、ようやく真は息をついた。
盾にした腕には深い傷がいくつも出来ている。カーディガンを巻くことで防御力を高めても、所詮は布だ。早期決着のためには最適解であったが、腕で頭を守っていたとはいえ、攻撃を受ければ、腕が欠損する可能性も、別の急所に当たる可能性も十分にあったのだ。
だが、そんなことよりも真は考えてしまう。
もし、自分が人に見つからないように、森の奥へ入っていなかったら……?
そうすれば、もっと早くこの教会に辿り着き、人々を助けられたかもしれない。或いは、誰より早く歪虚の接近に気がついたかもしれない。
(私は……、また……)
自分の傷などどうでもよかった。
真の腕から流れた血が、信者たちの血と床で混じり合っていた。
それでもまだ、真は生きていた。
真は、被害の全てを知るものとして然るべき機関に報告するため、歩き出す他、なかった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819 / 鞍馬 真 / 男性 / 22 / 闘狩人】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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おまかせノベルなので、どうしてこのような内容になったのか、あとがきとして書いておきます。
攻撃をわざと受けて敵を倒す、というアクションが似合うんじゃないかと思ったのがはじまりでした。
さらに、鞍馬 真さんだったら、自分が既に傷だらけのことや、また傷を負うことより、起きてしまった悲劇を思い、これから起こるであろう惨劇を抑止することを考えるだろうな、と精神面を想像しつつノベルを肉付けしました。
この度はおまかせノベルのご依頼ありがとうございました。