※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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夏の日の終わりに
山の端に消えていく橙色の夕日を見送りながら、柊はたらいの水を庭へ撒いていた。今度こそ正しく打ち水を、というわけだ。ぬるんだ水も無駄にはしない。
陽が傾いたため、昼間のように急速に乾いていくこともなく、土はしっとりと水を吸い濃い色へ変わる。
「今日は夕立、来ませんねぇ」
独りごち、空を仰ぐ。昼間はもくもくと背を伸ばしていた入道雲も今は消え、蝉達も徐々に声を潜めつつある。青から群青に変わり始めた空には一番星が姿を見せていた。
夕立に伴う雷鳴もなく、久しぶりに静かな黄昏。柊の銀の髪も白い頬も、淡い柑子色に照っている。
すると、
カナカナカナ……
どこかでヒグラシの鳴く声がした。
「あら?」
耳をすませていると、別の方からもカナカナと物寂しい声が。
「ヒグラシ、今年初めて聞いたかもしれませんねぇ」
ヒグラシの声を物寂しいと感じるのは、この哀愁漂う鳴き方のせいだろうか。それとも、他の蝉と違って夕暮れ時に鳴くせいか。
(……どちらもあるでしょうけれど。きっと……)
柊は手を止めて、うんと深呼吸してみた。
昨日までのこの時間よりさらっとした空気の中に、ほんのりと、あるかなきかの秋の匂い。
「きっと……夏の終わりを告げる声だから、なんでしょうねぇ」
終わりの見えない猛暑は辛い。
けれど、海水浴に夕涼み、花火に夏祭りといった、夏ならではの楽しみがたくさんある。
周りを見渡せば、今を盛りとばかりに枝葉を伸ばす草木や、一夏の命を懸命に生きる虫達の力強い美しさで溢れている。夏はまた巡りくるけれど、同じ夏は二度と来ない。
だから終わってしまうのが惜しくて、切なくなってしまうのかもしれないと、柊はそんなことを思った。
カナカナカナ……
何とはなしに声のする方へ手を振って、柊は水撒きを再開した。
今日という日の終わりを少しでも涼しくし、健やかな眠りで締めくくるために。
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【ka6302/氷雨 柊/女性/20/縁を絆へ】